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インド国内で生まれた発明の取扱い―インド国外への特許出願に対する制限

【詳細】

インド特許法(The Patents (Amendment) Act, 2005)第39条によれば、以下の条件が満たされた場合を除き、インド居住者によるインド国外への特許出願が制限される。

・同一発明についての特許出願が、インド国外における出願の6週間以上前にインドにおいてされており、かつ当該インド出願に対して第35条に基づく秘密保持の指示が発せられなかった場合。または、

・外国出願許可(foreign filing license: FFL)をインド特許庁長官から得た場合。

 

第39条の起源は、1907年英国特許法にさかのぼる。第39条の適用範囲は、当初は政府に譲渡される発明のみに限定されていたが、第二次世界大戦中、その範囲は公衆による発明にまで拡大された。

現在の第39条の運用を見ると、インドに居住する発明者が発明を行った場合(発明者の全員がインド居住者である場合であれ、1人以上のインド非居住発明者を含む場合であれ)、本条文は適用される。発明者の全員がインド居住者であり、出願人もインド居住者である場合にとりうる最も簡略な方法は、まずインド特許出願を行い、インド国外への特許出願を行うまで6週間の経過を待つことである(代替案は後述する)。他方、インド居住者とインド非居住者が共同で発明を行った場合で、インド非居住の発明者または出願人が他国においても同様の義務を有する場合、とりうる最も簡略な方法は、インド特許庁からFFLを得ることである。

FFLを得るためには、インド居住発明者の場合、所定の書式(Form 25)および発明の簡単な説明(通常は最低3ページの文書)を提出する必要がある。弁護士または弁理士がインド居住の発明者を代理してFFLを請求する場合、インド居住発明者の委任状が必要となる。手数料はインド居住発明者の場合、8,000ルピーである(*)。なお、インド特許規則71によれば、提出書類の不足や記載不備がない限り、FFLは請求の提出日から21日以内に認められる。

(*)オンライン出願を行った場合で、出願人が個人または小規模企業でない場合の手数料

 

第39条の規定を解釈するときに直面する問題を以下に掲げ、説明する。

 

1.第39条による規制の適用対象は誰か

特許法第39条は、「居住者」に適用される。また、第1項は以下のように規定している。

「インドに居住する何人も、所定の方法により申請し長官により又は長官の代理として交付された許可書での権限による以外は、発明につきインド国外で特許付与の出願をし、またはさせてはならない」

したがって、本条の適用において国籍や市民権は無関係である。

次に、「人」は自然人および法人を含むため、本条は、インド居住者である発明者およびインドに居所を有する企業を含む。

第3項に以下の例外規定がある。

「本条は,保護を求める出願がインド国外居住者により、インド以外の国において最初に出願された発明に関しては適用しない」

 

2.インド居住者を共同発明者に含む出願の場合、他の発明者がいずれも非インド居住者の場合でもFFLを請求する必要はあるのか

インド居住者を共同発明者に含む出願の場合、インド特許庁に対しFFLを請求し、これを得た後にインド国外に出願することが要求される。FFLは、インド居住発明者が請求することができる。出願人がインド企業である場合、インド居住発明者の代わりに、インド企業がFFLを請求することができるが、インド居住発明者からインド企業への当該発明に対する権利の移転を示す証拠文書も提出する必要がある。

 

3.特許法は「居住者」や「インドに居住する人」について定義しているか

特許法は、どのような場合に「居住者」や「インドに居住する人」に該当するのか、具体的に定義していない。改正前の1970年特許法や、2002年特許法(現行法第39条に相当する条項を含む)においても、これらの用語について定義されていない。

 

4.インドの他の法律で「居住者」や「インドに居住する人」を定義しているものはあるか。もしある場合には、インド特許庁やインドの裁判所が、それらの法律における「居住者」や「インドに居住する人」の定義を採用する可能性はあるか

「居住者」や「インドに居住する人」は、少なくとも他の二つの法律において定義されている。それは、所得税法(Income Tax Act, 2012)と外国為替管理法(Foreign Exchange Management Act (FEMA), 2000)である。

所得税法および外国為替管理法はそれぞれ、「居住者」と「インドに居住する人」を定義しているが、その定義はあくまで当該法律を解釈することを目的とする旨が、それぞれの法律に明記されている。さらに、この二つの法律における定義を比較してみると、その定義は一致しない。そもそも、これらの法律と特許法では目的を全く異にしており、インド特許庁やインドの裁判所が、所得税法や外国為替管理法における「居住者」や「インドに居住する人」の定義をそのまま採用する可能性は極めて低い。

以上に照らせば、係争などになった場合、インド特許庁やインドの裁判所は、複数の辞書に示されている一般的定義に基づき、かつ特許法の立法趣旨や、他国(英国,米国等)の特許法における同等の規定も参照しつつ、「居住者」や「インドに居住する人」について適切と判断する定義を採用するものと考えられる。

 

5.規定された21日の期間内に外国出願許可を確実に得るためにすべきことは

インド特許庁と請求人とのやり取りの過程で露呈する不備等により、手続きが遅れることがある。必要書類の提出漏れや記載不備などがこれに該当する。したがって、請求人は、FFL請求を提出する際、発明を明確かつ十分に開示し、また代理人を通して請求を提出する場合には委任状を付すことを怠ってはならない。これらの書類を遅滞なく提出することにより、規則で定められる21日の期間内にFFLが認められる確率が高くなる。

 

6.不注意によりインド国外に特許出願を行った後で、FFLを請求することは可能か

不注意によりインド国外に特許出願を行った後でFFLを請求する仕組みについて、特許法には規定がない。

 

7.不注意によりFFLを得ずインド国外に特許出願を行った場合、いかなる事態が起こるのか

第39条を順守しない場合、少なくとも以下の措置がとられることになる。

(a)当該インド特許出願は放棄扱いとされる、(b)特許登録されていた場合は取消処分とされる、(c)2年以内の禁固刑、罰金、もしくはこれらが併科される。

 

8.第39条に係る規定が改正される可能性はあるか

第39条が近い将来改正される予定はないが、規則71が改正される可能性はある。2015年10月26日付で、インド特許庁が公告した規則改正案(パブリックコメント募集中)によれば、規則71に新たに(3)項が追加されている。そこには「発明が国防または原子力の出願に関する場合、21日の期間は、中央政府の承認を受領した日から計算される」と記載されている。したがって、この規則改正が成立すれば、FFL請求がインド特許庁から中央政府に付託された場合、21日の期間は、中央政府の承認を受領した日から計算されることになる。

 

【留意事項】

第39条不順守の場合に起こりうる深刻な事態に照らせば、インド国外に特許出願する前にインドに居住する発明者によってFFLを得ること、あるいは最初にインドに特許出願し、その後6週間の間に秘密保持命令を受けなかった場合にインド国外に特許出願することが必須である。