日本とインドにおける特許出願書類の比較
1. 日本における特許出願の出願書類(パリルート)
1-1. 出願書類
所定の様式により作成した以下の書面を提出する(特許法第36条第2項)。
・願書
・明細書
・特許請求の範囲
・必要な図面
・要約書
(1) 願書
願書には、特許出願人および発明者の氏名(出願人が法人の場合は名称)、住所または居所を記載する(特許法第36条第1項柱書)。
(2) 明細書
明細書には、発明の名称、図面の簡単な説明、発明の詳細な説明を記載する(特許法第36条第3項)
発明の詳細な説明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しなければならない(特許法第36条第4項第1号)。
(3) 特許請求の範囲
特許請求の範囲には、請求項に区分して、請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない(特許法第36条第5項)。
(4) 要約書
要約書には、明細書、特許請求の範囲または図面に記載した発明の概要等を記載しなければならない(特許法第36条第7項)。
1-2. 手続言語
書面は、日本語で記載する(特許法施行規則第2条第1項)
1-3. 手続言語以外で記載された明細書での出願日確保の可否
書面は日本語で作成するのが原則であるが、英語その他の外国語(その他の外国語に制限は設けられていない)により作成した外国語書面を願書に添付して出願することができる(特許法第36条の2第1項、特許法施行規則第25条の4)。この場合は、その特許出願の日(最先の優先日)から1年4か月以内(分割出願等の場合は出願日から2か月以内)に、外国語書面および外国語要約書面の日本語による翻訳文を、特許庁長官に提出しなければならない(特許法第36条の2第2項)。ただし、特許法条約(PLT)に対応した救済規定がある(特許法第36条の2第6項)。
1-4. 優先権主張手続
外国で最初に出願した日から12か月以内に、パリ条約による優先権の主張を伴う日本特許出願をすることができる(パリ条約第4条C(1))。優先権主張の基礎となる出願の出願国と出願日を記載した書類を、最先の優先日から1年4か月または優先権の主張を伴う特許出願の日から4か月の期間が満了する日のいずれか遅い日までの間に、特許庁長官に提出しなければならない(特許法第43条第1項、特許法施行規則第27条の4の2第3項第1号)。優先権主張書の提出は、特許出願の願書に所定の事項を記載することで、省略することができる(特許庁「出願の手続」第二章第十二節「優先権主張に関する手続」)。また、最先の優先日から1年4か月以内に、特許庁長官に、優先権証明書類を提出しなければならない(特許法第43条第2項)。
ただし、日本国特許庁と一部の外国特許庁、機関との間では、優先権書類の電子的交換を実施しており、出願人が所定の手続を行うことで、パリ条約による優先権主張をした者が行う必要がある書面による優先権書類の提出を省略することが可能となっている(特許法第43条第5項)。
<参考URL>
特許庁:優先権書類の提出省略について(優先権書類データの特許庁間における電子的交換について)
https://www.jpo.go.jp/system/process/shutugan/yusen/das/index.html
2. インドにおける特許出願の出願書類(パリルート)
2-1. 出願書類
特許法および特許規則にて規定された以下の書面を提出する(インド特許法第7条、インド特許庁実務及び手続マニュアル03.04.01)。
・願書(様式1)
・完全明細書(特許請求の範囲、要約および必要な図面含む)(様式2)
・外国出願に関する情報の陳述・宣誓(様式3)(インド出願日から6か月以内)
・発明者である旨の宣誓(様式5)
・出願人としての資格の証明(インド出願日から6か月以内)
・委任状(様式26)(特許代理人を通じて提出される場合)(インド出願日から3か月以内)
(1) 願書
願書は、様式1※1によって作成する(インド特許庁実務及び手続マニュアル03.04.01)。
※1 様式1は、インド特許規則の最後の「様式一覧」に掲載されている。以下の様式も同様である。
様式1(英語):https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/ev/forms/Form_1.pdf
(2) 完全明細書
完全明細書は、様式2※2によって作成する(インド特許規則13(1))。
※2 様式2(英語):https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/ev/forms/Form_2.pdf
完全明細書には、発明を記載して、発明に係る主題を十分に表示する名称を頭書しなければならない(インド特許法第10条(1))。
また、完全明細書は、発明に係る以下の内容を備えなければならない(インド特許法第10条(4))。
(a) 発明の作用または用途、およびその実施の方法を十分かつ詳細に記載する。
(b) 出願人が知り得ている、出願人が保護を請求する権利を有する発明を実施する、最善の方法を開示する。
(c) 保護を請求する発明の範囲を明確にする1または2以上の請求項をもって完結する。発明が図面による説明を必要とする場合、図面には明細書に記載される請求項中の構成要素の後に括弧で括った参照番号を記載しなければない(インド特許規則13(4))。
(d) 発明に関する技術情報を提供する要約を添付しなければならない。
要約書の冒頭に発明の名称を記載しなければならない(インド特許規則13(7)(a))。要約書中の、図面により明示される主要な特徴の各々に、括弧で括った参照番号を記載しなければならない(インド特許規則13(7)(d))。また、要約書は150語を超えてはならない(インド特許規則13(7)(c))。
なお、特許出願に仮明細書を添付したときは、完全明細書を出願日から12か月以内に提出しなければならない(インド特許法第9条(1))。自己の発明が論文で開示できる段階にはあるが、最終段階には達していないと認めた場合、出願人は、書面による説明の形式により発明の開示を準備し、発明を説明する仮明細書として文書をインド特許庁に提出することができる(インド特許庁実務及び手続マニュアル05.02)。
(3) 外国出願に関する情報の陳述・宣誓
外国出願に関する陳述書および宣誓書は、様式3※3により作成しなければならない(インド特許規則12(1))。
※3 様式3(英語):https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/ev/forms/Form_3.pdf
外国出願に関する情報の陳述書と宣誓書は、以下の内容による(インド特許法第8条(1))。
(a) 特許出願に係る発明と同一または実質的に同一の発明を外国に特許出願している場合の、外国出願の明細事項を記載した陳述書。
(b) 陳述書の提出後、所定の期間内に外国にした、同一または実質的に同一の発明に係る他の各出願(ある場合)について、インドにおける特許付与日まで、必要とされる明細を書面で随時長官に通知し続ける旨の宣誓書。
陳述書および宣誓書を提出する期間は、出願日から6か月である(インド特許規則12(1A))。宣誓書に基づいて提出する、出願時に入手できなかった外国出願の明細事項は、従来、外国出願の出願時から6か月以内に提出するとされていたが、2024年のインド特許規則の改正によって、最初の拒絶理由通知の発送の日から3か月以内とされた(インド特許規則12(2))。
(4) 発明者である旨の宣誓
出願人が、出願に係る発明を所有している旨を明示しかつ、真正かつ最初の発明者である旨主張する者の宣誓を提出しなければならない(インド特許法第7条(3))。発明者である旨の宣誓書は、様式5※4による(インド特許規則13(6))。
※4 様式5(英語):https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/ev/forms/Form_5.pdf
(5) 出願人としての資格の証明
出願が、発明についての特許出願権の譲渡によって行われるときは、出願とともにまたは出願後6か月以内に、出願権についての証拠を提出しなければならない(インド特許法第7条(2)、インド特許規則10)。この出願権の証拠は、様式1による出願書の末尾にされる裏書または別の譲渡証書とする(インド特許庁実務及び手続マニュアル03.04.01)。
(6) 委任状
代理人を通じて出願手続きを行う場合、出願人の署名による委任状(様式26※5)の提出が要求される。委任状は、出願日から3か月の期間内に提出しなければならない(インド特許規則135(1))。
※5 様式26(英語):https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/ev/forms/Form_26.pdf
2-2. 手続言語
書類の作成は、ヒンディー語または英語による(インド特許規則9(1))。
2-3. 手続言語以外の明細書での出願日確保の可否
ヒンディー語または英語以外で書類を作成することはできない(インド特許規則第9(1))。
2-4. 優先権主張手続
外国に最初に出願をした日から12か月以内に、パリ条約による優先権の主張を伴うインド特許出願をすることができる(インド特許法第135条(1))。優先権主張を行う場合は、特許出願に完全明細書を添付し、最初の出願の出願日および国名、その出願日よりも前に他国に出願していない旨を記載することが要求される(インド特許法第136条(1))。
出願人は、長官から要求されたときは、その通知の日から3か月以内に優先権証明書(またはDASコード)を提出しなければならない(インド特許法第138条(1)、インド特許規則121、長官通知2018/63)。優先権証明書が外国語で記載されている場合、優先権証明書の認証された英訳文を提出する必要がある(インド特許法第138条(2))。
日本とインドにおける特許出願書類・手続の比較
日本 | インド | |
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出願書類 | 所定の様式により作成した以下の書面を提出する。 ・願書 ・明細書 ・特許請求の範囲 ・必要な図面 ・要約書 | 所定の様式により作成した以下の書面を提出する。 ・願書 ・完全明細書 ・外国出願に関する情報の陳述・宣誓 ・発明者である旨の宣誓 ・出願⼈としての資格の証明 ・委任状 |
手続言語 | 日本語 | ヒンディー語または英語 |
手続言語以外の明細書での出願日確保の可否 | 英語その他の外国語により作成した外国語書面を願書に添付して出願することができる。その特許出願の日から1年4か月以内に外国語書面および外国語要約書面の日本語による翻訳文を、特許庁長官に提出しなければならない。 | 不可 |
優先権主張手続 | 優先権主張の基礎となる出願の出願国と出願日を記載した書面を、最先の優先権主張日から1年4か月、またはその優先権主張を伴う出願から4か月の何れか遅い日までの間に、特許庁長官に提出しなければならない。 優先権証明書を基礎出願の日から1年4か月以内に特許庁長官に提出しなければならない。 ただし、日本国特許庁と一部の外国特許庁、機関との間では、優先権書類の電子的交換を実施しており、出願人が所定の手続を行うことで、パリ条約による優先権主張をした者が行う必要がある書面による優先権書類の提出を省略することが可能となっている。 | 特許出願に完全明細書を添付し、最初の出願の出願日および国名、その出願日よりも前に他国に出願していない旨を記載しなければならない。 出願人は、長官から要求されたときは、その通知の日から3か月以内に優先権証明書(またはDASコード)を提出しなければならない)。また、優先権証明書が外国語で記載されている場合、優先権証明書の認証された英訳文を提出する必要がある。 |
インドにおける「商標の使用」と使用証拠
1. 「商標の使用」の定義および使用証拠について
インドでは、商標法第2条(2)(c)において、「商標の使用」が定義されている。
インド商標法第2条(2)(c)
標章の使用というときは、
(i)商品に関しては、物理的関係であるかまたはその他いかなる関係であるかを問わず、当該商品についての標章の使用をいうものと解釈する。
(ii)役務に関しては、当該役務の利用可能性、提供、または実施についての記述もしくはその一部としての当該標章の使用をいうものと解釈する。
商標は、商品または役務上で物理的に使用される必要があるが、商品や商品の包装に貼付するなどの物理的使用以外の関係でも使用することができる。例えば、請求書、カタログおよび商品資料の中での「商標の使用」も、実際に市場に商品が存在することを前提とする商品に関係した使用とみなされる。
なお、広告中で商標を使用することは、商品が市場において、少なくとも販売の申出が行われていることを条件として、「商標の使用」とみなされる。すなわち、商品が市場における販売の申出もなしに広告中において商標が使用されているだけの場合、商標法上の定義にいう「商標の使用」を構成しない。
使用証拠は、権限を有する者からの当該使用を確認、署名する宣誓供述書によって提出されるのが一般的である。宣誓供述書によって確認される主な事項は、商標が使用されている事業、当該商標の使用開始日、当該商標が使用される商品のリスト、当該商標に関する広告活動の性質とそれに関連して発生した経費、インド国内における当該商標が使用される商品の販売業者と配給業者の名称であり、当該商標が使用されてきた代表的な分野が記載されることもある。
売上高と広告に関する数値は、年単位で示す必要がある。顧客に発行した請求書、伝票、領収書および/またはそれらの写しは、裏付書類となる。新聞、雑誌、定期刊行物その他の広告媒体に表示された広告の見本はすべて、その商標の知名度を示す証拠となる。これらの書類は、すべて、宣誓供述書の添付書類となり、証拠として提出する。この宣誓供述書に加えて、商品と役務の販売業者、配給業者および消費者からの宣誓供述書を提出することも、具体的な顧客の存在を示し、登録官による確認をさらに強化することになるため望ましい。
個別案件において要求される使用証拠の水準は、商標法における「商標」の要件に照らして、一般則としての商標の識別性等が不適切である程、高くなる。例えば、記述的な語句は不適切であるため、その識別性を立証するには強力な使用証拠が要求される。これは、地理的表示を有する名称または語句やその原産地である商品の製造場所を記述する名称または語句にも当てはまる。姓の場合は、稀な姓であれば、それが識別性を有するに至ったことを示す強力な使用証拠を要求されることはない。
2. 使用中の商標に関する願書における「商標の使用」の陳述
商標規則25(1)において、商標登録願書は、当該商標を今後使用しようとするのでない限り、当該商標が願書に記載のすべての商品または役務に関して使用された期間および使用者についての陳述を含まなければならないことが明記されており、規則25(2)には、出願日前の「商標の使用」を主張する場合、出願人は、裏付けとなる書類とともに、当該使用について証言する宣誓供述書を提出することが求められている。
なお、同様に、出願人または商標権者が出願商標または登録商標の使用を裏付ける書類を提出し、当該使用の宣誓を陳述する場合としては、第三者から不使用取消審判請求を受け登録商標の使用証拠を提出する場合や、被異議申立人(出願人)が異議申立の反駁時に自己の出願を支持するために陳述する場合などが挙げられるが、更新時に「商標の使用」の陳述や使用証拠を要求する規定はない。
インドにおける特許新規性喪失の例外
1. 新規性喪失の例外の類型
インド特許法(以下「特許法」という。)第VI章の第29条から第33条において、先に開示または公表された発明が、後の発明の新規性を喪失させることはない様々な新規性喪失例外の類型が規定されている。
1-1. 先行開示による新規性喪失
(1) 意に反する開示
発明の特許権者または出願人(以下「特許権者/出願人」と表記する。)が、次の(i)から(iii)を証明する場合には、先行開示によりその発明の新規性は喪失しない(特許法29条(2)(a),(b))。
(i) 先行開示された内容が、特許権者/出願人またはこれらの者が真正かつ最初の発明者でない場合は、正当な権限を有する前権利者から入手されたものであること。
(ii) この内容が、特許権者/出願人またはその前権利者の同意を得ずに開示されていること。
(iii) 特許権者/出願人が、このような自己の発明の開示を知った後、可能な限り速やかに特許出願を提出したこと。
ただし、適切な試験目的以外の目的で、特許権者/出願人の発明が、その優先日より前に、特許権者/出願人もしくはその前権利者により、または特許権者/出願人もしくはその前権利者の同意を得た他の者により、インドにおいて商業的に実施された場合には、この規定に基づく恩恵は適用されない。
(2) 権利に違反して提出された出願
正当な出願人の同意を得ずに違反して提出された特許出願の出願人によって、あるいは違反して提出された特許出願の出願人による発明の開示の結果として第三者によって、開示または実施されたという事実によっては、後の正当な権限を有する者による特許出願の新規性が喪失することはない(特許法第29条(3))。
「(1) 意に反する開示(特許法29条(2)(a),(b))」が正当な出願人による特許出願よりも前の、他人の意に反する「開示」を対象としているのに対して、「(2) 権利に違反して提出された出願(特許法第29条(3))」は、不正な出願人による「特許出願」やそのような「特許出願」の結果による第三者の実施、開示を対象としている。
1-2. 政府への先行伝達による新規性喪失
発明の内容またはその価値に関する調査のために、政府または政府により委任された者に対して行われた発明の伝達は、その発明の新規性には影響を及ぼさない(特許法第30条)。
なお、政府または政府により委任された者に対して行われた発明の伝達から、その発明の特許出願の提出までの期限は特に定められていない。
1-3. 公共の展示などによる新規性喪失
一定の条件に基づき、博覧会または学会における真正かつ最初の発明者またはその者から権限を取得した者による発明の展示、実施または開示の日から12か月以内にその発明の特許出願をする場合には、このような展示、実施または開示によっては、その発明の新規性は喪失しない(特許法第31条)。詳しい説明を以下に示す。
(1) 真正かつ最初の発明者またはその者から権原を取得した者の同意を得て発明が、展覧会で展示される場合、中央政府が官報における告示により特許法第31条の恩恵を適用した展覧会に限り、このような展覧会のための発明の実施および開示に対して、この例外が適用される(特許法第31条(a))。また、博覧会における発明の展示または実施の結果としての発明の説明の公開によっても、新規性は喪失しない(特許法第31条(b))。
(2) (1)の博覧会において展示もしくは実施された後、あるいは博覧会の期間中に、真正かつ最初の発明者またはその者から権原を取得した者による同意を得ないで何人かが行う発明の実施によっても、その発明の新規性は喪失しない(特許法第31条(c))。
(3) 学会において発表された論文における、真正かつ最初の発明者による発明の記載、または真正かつ最初の発明者の同意を得て学会の会報においてなされた論文の公表は、たとえかかる行為の後に特許出願が提出されたとしても、その発明の新規性は喪失しない(特許法第31条(d))。
なお、学会における発表は、真正かつ最初の発明者による場合だけであって、真正かつ最初の発明者の同意を得た者による発表ではないことに注意すべきである。ただし、学会の会報における論文の公表は、真正かつ最初の発明者の同意を得た者による行為であってもよい。
1-4. 公然実施による新規性喪失
発明がその優先日前の12か月以内にインドにおいて公然実施されたが、そのような実施が適切な試験のためだけに行われ、その発明の内容に照らしてその試験が合理的に必要であった場合には、そのような実施は発明の新規性を喪失させない。ただし、かかる公然実施は、出願人/特許権者自身により、または出願人から必要な同意を得た第三者により行われなければならない(特許法第32条)。
1-5. 仮明細書の提出後における実施または開示による新規性喪失
仮明細書に従い提出された完全明細書は、仮明細書に開示された発明が仮明細書の提出日の後にインドその他の場所において開示または実施された場合には、新規性を喪失しない(特許法第33条(1))。同様の規定が、仮明細書の優先権を主張するPCT出願にも適用される(特許法第33条(2))。
2. 新規性喪失の例外の適用を受けるための手続
新規性喪失の例外規定の適用を受けるためには、審査報告書における拒絶や第三者からの無効化手続において引例による新規性の欠如が指摘された段階で、それに対する反論として新規性喪失の例外規定に該当することを主張することが可能である。なお、特許出願の審査において、特許法第29条から第33条までの規定により新規性を喪失させるものとはみなされない先行技術が、審査報告書において当該発明の新規性を喪失させるものとして引用されたときに、新規性を喪失しないという立証責任は出願人にある(インド特許庁実務及び手続マニュアル09.03.02 10.)。
2024年3月15日施行のインド特許規則の改正によって第29Aが新設され、特許法第31条に規定された猶予期間(上記1-3項記載の展覧会での展示等)を利用するためには、申請様式31により所定の手数料と合わせて申請することが規定された。
《参考》申請様式31
申請様式31 1970年特許法および2003年特許規則 猶予期間(GRACE PERIOD) (法第31条および規則第29A) | ||
1. 氏名、住所、国籍、出願番号 | 私/私たち、出願人…………は、…………に提出された出願番号………に関して、第31条に規定された猶予期間の利益を主張する。 | |
2. 適用条文 | □ 第31条(a) □ 第31条(b) □ 第31条(c) □ 第31条(d) | |
3. 証拠として提出する書類 注: 証拠には宣誓供述書も含まれる場合がある | (i)第31条(a) | a) 最初に展示または実施された日付(枠内に日/月/年の形式で記入) b) 展示は、真正かつ最初の発明者またはその者から権利を得た者の同意を得て行われたか(YESまたはNOを選択) c) 当該展示は、中央政府が官報で告示することにより本条の規定を適用した産業展示会またはその他の展示会において行われたか 以下の証拠書類を提出する。 ………………………………………… |
(ii)第31条(b) | a) 最初に公表または実施された日付 b) 上記第31条(a)に関する文書証拠 c) 発明の説明の公表が、第31条(b)に規定する発明の展示または実施の結果として行われたことを示す証拠書類 以下の証拠書類を提出する。 ………………………………………… | |
(iii)第31条(c) | a) 最初に実施された日付 b) 上記の第31条(a)または第31条(b)に関する証拠書類 c) 第31条(c)に規定する発明の実施に関する証拠書類 d) 発明の実施が、真正かつ最初の発明者またはその者から権利を得た者の同意なしに行われたことを示す文書による証拠または宣誓供述書 以下の証拠書類を提出する。 ………………………………………… | |
(iv)第31条(d) | a) 最初に記述または公表された日付 b) 真正かつ最初の発明者が学会で発表した論文における発明の記述 c) 真正かつ最初の発明者またはその同意を得た者により学会の論文集に公表された発明の記述 以下の証拠書類を提出する。 ………………………………………… | |
4. 保証 | この発明は_年/_月/_日からパブリックドメインであり、この申請はその日(第31条(a)、第31条(b)、第31条(c)、または第31条(d)に関して上記で述べた最も早い日付である)から12か月以内に行われた。 | |
上記の事実および事項は、私/私たちの知る限りの情報および誠意に基づいて真実である。 日付:__年__月__日 | ||
5. 出願人/権限のある代理人による署名 注:宣誓供述書がある場合は、出願人による署名 | 署名 ________________ 特許庁特許管理官 宛 |
インドの特許関連の法律、規則、審査マニュアル
※1 「特許規則」の2024改正版は、本稿作成時点で日本語で公開されていないので、日本語で公開されている最新の2021年改正版を掲載した。2024改正版における主な改正点については下記の資料を参照されたい。
参考資料:「インド特許庁、特許規則を改正し、改正特許規則2024を公表」(JETRO)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/asia/2023/in/20240320r.pdf
※2 「インド特許庁の特許実務及び手続マニュアル」のVer.3.0は、本稿作成時点で日本語で公開されていないので、日本語で公開されている最新のVer.01.11を掲載した。Ver.3.0における、Ver.01.11からの主な改正点については下記の資料を参照されたい。
参考資料:「インド特許庁の特許実務及び手続手引(2019)の2011年版からの主要な改正点について」(JETRO)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/in/ip/pdf/tokkyo_201912.pdf
インドにおいて特許を受けることができない発明
インド特許法第3条および第4条は、特許を受けることができない発明として、以下を規定する。
1. 取るに足らない発明
取るに足らない発明、または確立された自然法則に明らかに反する事項を発明としてクレームしても特許を受けることができない(特許法第3条(a))。
例えば、次の発明がこれらに該当する(インド特許庁実務及び手続マニュアル(以下「マニュアル」という。)09.03.05.01)。
・永久運動を目的とした機械
・インプットなしにアウトプットするとされる機械
・100%の効率性を提供するとされる機械
2. 公序良俗違反
その主たる用途もしくはその意図された用途または商業的な実施が公序良俗に反し、または人、動物、植物の生命もしくは健康または環境に深刻な悪影響を及ぼす発明をクレームしても、特許を受けることができない(特許法第3条(b))。
例えば、次の発明がこれらに該当する(マニュアル09.03.05.02)。
・窃盗、強盗を行うための装置、器具、機械、または方法
・紙幣を偽造するための装置または方法
・賭博のための装置または方法
・その使用が、人間、動植物に重大な損害を与える可能性のある発明
・その主たる用途もしくはその意図された用途または商業的実施が、人、動物または植物の生命、または健康に害を及ぼすことが認められる発明(例えば、食品の品質低下の方法)
・その主たる用途もしくはその意図された用途または商業的実施が、十分に受け入れられ、定着している社会的、文化的および法的道徳規範に反するおそれがある発明(例えば、人間のクローン作成のための方法)
・その主たる用途もしくはその意図された用途が、公の秩序を乱すものである発明(例えば、家宅侵入のための装置)
しかし、クレームされた発明のその主たる目的もしくはその意図された目的、または商業的実施が、人間、動物もしくは植物の生命、健康、または環境に対して重大な損害を及ぼさない場合には、そのような主題は発明であるとみなされ、特許を受けられる可能性がある。例えば、農薬などがその一例である。
3. 単なる発見
科学的原理の単なる発見、抽象的理論の形成、または現存する生物もしくは非生物的な物質の発見をクレームしても特許を受けることができない。(特許法第3条(c))
ただし、次のように、特許を受けることができる発明とされる場合がある(マニュアル09.03.05.03)。
・科学的原理の発見に関するクレームは発明とみなされないが、このような原理を製造プロセスに利用して、何らかの物質または物品が生じた場合には、そのような原理は発明とみなされる。
・科学理論は自然界に関するものである。これらの理論はそれ自体では、いかに抜本的または革新的な見解を提供したとしても、製品または製造を生ずるものではないことから、発明とはみなされない。しかしながら、理論が、物質または物品の製造の過程において利用可能な実用性を導き出す場合には、特許を受けることができる。
・既知である特定の部材が、機械的衝撃に耐えることができることを見出すことは発見であり、したがって、特許は受けることはできない。しかしながら、その部材から作られた鉄道枕木に関するクレームは、これの例外に反するものではなく、新規性および進歩性が認められた場合には特許が与えられる。同様に、自然界に存在する新しい物質や微生物の単なる発見も、発明ではない(マニュアル09.03.05.03)。
4. 既知の物質についての新たな形態
以下のカテゴリーは特許を受けることができない(特許法第3条(d))。
・既知の物質について何らかの新規な形態の単なる発見であって当該物質の既知の効能の増大にならないもの
・既知の物質の新規な特性または用途の単なる発見
・既知の方法、機械、または装置の単なる用途の単なる発見
また、既知物質の塩、エステル、エーテル、多形体、代謝物質、純形態、粒径、異性体、異性体混合物、錯体、配合物、および他の誘導体は、それらが効能に関する特性上実質的に異ならない限り、同一物質とみなされる(特許法第3条(d)「説明」)
ただし、このような既知の方法によって新規な製品を作り出すことになるか、または少なくとも一つの新規な反応物を使用することになる場合は、特許を受けることができる可能性がある(特許法第3条(d))。
5. 混合
物質成分の諸性質についての集合に過ぎない「単なる」混合によって得られる物質は、特許を受けることができる発明から除外される(特許法第3条(e))。
特徴の単なる集合体は、組み合わせ発明とは区別しなければならない。組み合わせ発明は、各特徴または各特徴の集合体が機能的に相互に高めあう関係にある、または、その個々の技術的効果の総和を上回ることを示すことが求められている。組み合わせ発明の特徴であるように、各特徴は機能的に相互に結合していなければならない。したがって、石鹸、洗剤、潤滑油およびポリマー製品等、相乗効果をもたらす混合は、単なる混合とはみなされず、特許を受けることができるとみなすことができる(マニュアル09.03.05.05)。
6. 再配置
既知の装置の「単なる」配置もしくは再配置または複製であり、これを構成する各装置が既知の方法によって相互に独立して機能するものを発明としてクレームしても特許を受けることができない(特許法第3条(f))。
特許を受けるには、既知のものに対する改良または既知である複数の異なる事項の結合は、単なる現場における改良以上のものでなければならず、個々に、発明または進歩性の要件を満たさなければならない。特許を受けるには、その改良または結合は、新しい結果もしくは新しい物質、または以前より優れているか、もしくは安価にできる物質を生み出さなければならない(マニュアル09.03.05.06)。
7. 農業についての方法
農業または園芸についての方法は、特許を受けることができない(特許法第3条(h))。
例えば、次の発明がこれらに該当する(マニュアル09.03.05.07)。
・例えばグリーンハウスなど、自然現象がその必然的な過程をたどる諸条件の変更を伴う場合を含む、植物の生産方法
・特別なリン酸化合物を含む調合剤を土壌に与えることにより、線虫を含む土壌から改良土を産出する方法
・キノコを生産する方法
・藻類の養殖方法
・雑草を除去する方法
8. 治療的または診断的な方法
人の内科的、外科的、治療的、予防的、診断的、療法的もしくはその他の処置方法、または動物の類似の処置方法であって、動物を疾病から解放し、またはそれらの経済的価値もしくはそれらの製品の経済的価値を増進させるものは、特許を受けることができない(特許法第3条(i))。
例えば、次の方法がこれらに該当する(マニュアル09.03.05.08)。
・内科的方法:薬剤の経口投与、注射投与、局所投与、または皮膚パッチによる投与の方法
・外科的方法:白内障手術における無縫合切開
・治療的方法:歯垢のクリーニング方法
・予防方法:予防接種の方法
・診断的方法:診断は、内科的疾患の種類を特定するもので、通常、病歴および症状の調査、ならびに検査をすることにより行われる。健康診断など、個人の身体的情報に関する判断は診断とされる。
・療法的方法:「療法」という語には、疾病の予防および、処置または治療という意味が含まれる。したがって、療法に関する方法は処置の方法であり、特許性がないとみなされる。
・動物を疾病から解放し、またはそれらの経済的価値もしくはそれらの製品の経済的価値を増進させる方法。例えば、羊の羊毛の生産増大を図る方法および家禽の体重増加を人工的に行う方法。
・本規定により特許される主題から除外されるその他のものには、次のものが挙げられる。外科医の技能および知識を必要とする人体への手術で、美容整形、妊娠中絶、精巣の摘出、避妊手術、人工授精、胚移植、生態ドナーの臓器、皮膚または骨髄に対する試験および研究目的の処置またはその除去、および、人体または動物に対して行われる治療または診断、ならびに、堕胎、分娩の誘導、発情期のコントロール、あるいは月経の調整等の方法を含むもの。
美容目的に過ぎない人体への物質の投与は、治療ではない。
外科的、療法的、または診断的器械または装置については、特許を受けることができる。また、人工器官および義肢の製造ならびにそれらの人体への適用に係る措置については、特許を受けることができる。
9. 植物および動物
植物、動物、種子、変種および種の全部または一部は、特許を受けることができない。これには、植物および動物の生産または繁殖のための純粋な生物学的プロセスが含まれる(特許法第3条(j))。
ただし、自然界から発見されたもの以外の微生物は、特許を受けることができる。例えば、遺伝子操作のされた微生物は、特許に関するその他の要件を満たすことを条件として、特許を受けることができる(マニュアル09.03.05.09)。
10. コンピュータプログラムおよびビジネス方法
数学的もしくは営業の方法、またはコンピュータプログラムそれ自体もしくはアルゴリズムは、特許を受けることができない(特許法第3条(k))。
例えば、次の発明がこれらに該当する(マニュアル09.03.05.10)。
・「数学的方法」とは、知的技能による行為であるとみなされている。計算方法、方程式の公式化、平方根および立方根の解明、ならびにその他の数学的方法を直接伴う方法は、特許されない。コンピュータテクノロジーの発展により、数学的方法は、アルゴリズムおよび多様なアプリケーション用のコンピュータプログラムを書き込むために使用されており、特許されたクレームは、数学的方法それ自体ではなく技術的発展に関連するものとして偽装される場合がある。これらの方法は、いかなる方法によってクレームされようとも、特許性がないとみなされている。
・「ビジネス・モデル」は、いかなる方法によってクレームされようとも、特許されない。「ビジネス・モデル」という語句には、商品または役務の取引に関連した営利事業または企業における活動全般が含まれる。クレームが、直接ビジネス・モデルとしてではなく、一見したところインターネット、ネットワーク、人工衛星および電気通信等の一部の技術的特徴により作成されている場合がある。しかし、本除外規定は、全てのビジネス・モデルに適用されるため、クレームが実質的にビジネス・モデルに関連する場合には、技術の活用がある場合にも、かかるクレームは特許を受けることができる主題とはみなされない。
・次に掲げるすべての形態によるアルゴリズムは、これに限定されることなく特許されない。一連の規則、手続もしくは手順またはその他定式化された命令の制限的リストにより示されるその他の方法で、問題の解決に向けられたものであるかどうかを問わず、また、論理的、算術的または計算的方法を採用しているか、あるいは、反復して利用されるものであるか否かを問わず、特許されることはない。
・コンピュータプログラムそれ自体を対象とする以下の発明は、特許を受けることができない。
a) コンピュータプログラム、命令のセット、ルーチンおよび/またはサブルーチンを対象とするクレーム
b) コンピュータプログラム製品を対象とするクレーム、命令を含む記憶媒体、コンピュータ読み取り可能な媒体に格納された命令を含むデータベースコンピュータメモリ
11. 文学および芸術作品
文学、演劇、音楽もしくは芸術作品、または映画作品およびテレビ制作品を含む他の何らかの審美的創作物は、特許を受けることができない(特許法第3条(l))。
例えば、次の創作物がこれらに該当する(マニュアル09.03.05.11)。
文学作品、音楽、美術品、絵画、彫刻、コンピュータプログラム、電子データベース、書物、パンフレット、講義、演説、説教、演劇および音楽作品、舞踏、映画、図面、建築、版画、石版術、写真、応用美術、イラスト、地図、平面図、スケッチ、地形に係る立体作品、地勢図、翻訳物、翻案は、特許されない。このような創作物は、1957年著作権法によって保護される。
12. 精神的行為をなすための方法、またはゲームをする方法
精神的行為をなすための「単なる」計画もしくは規則もしくは方法、またはゲームをするための方法は、単なる精神的なプロセスの結果であり、特許を受けることができない(特許法第3条(m))。
例えば、次の方法がこれらに該当する(マニュアル09.03.05.12)。
・チェスの遊び方
・教育方法
・勉強方法
13. 情報の提示
情報の提示に関する発明は特許を受けることができない(特許法第3条(n))。
言語、信号、記号、図またはその他の表示方法による視覚、聴覚または理解が可能な情報の表示方法、手段または方式は、特許を受けることができない。例えば、スピーチの印刷原稿において下線で強調部分を示し、縦のラインでスピーチをリズミカルにするといった、スピーチを教示する手段は、特許を受けることができない。また、電車の時刻表や100年カレンダーなども特許されない(マニュアル09.03.05.13)。
14. 集積回路
集積回路の回路配置をクレームする発明は特許を受けることができない(特許法第3条(o))。
例えば、マイクロチップや半導体チップで使用される電子回路の3次元構成は特許を受けることができない。半導体の配置に関しては、2000年半導体集積回路配置法により保護される(マニュアル09.03.05.14)。
15. 伝統的知識
事実上、古来の知識である発明、または古来知られた物質の既知の特性の集合もしくは複製である発明は、すでに存在する知識であるため、特許を受けることができない(特許法第3条(p))。
例えば、創傷治癒のためのターメリックの殺菌性が挙げられる。また、インドゼンダンの農薬および殺虫剤作用も同様である(マニュアル09.03.05.15)。
16. 原子力に関する発明
1962年原子力法(Atomic Energy Act, 1962)第20条(1)に該当する原子力に関する発明には、特許が付与されない(特許法第4条)。1962年原子力法第20条(1)の規定では、「原子力の生産、制御、利用もしくは処分、または指定物質もしくは放射性物質の探査、採鉱、抽出、生産、物理的もしくは化学的処理、加工、濃縮、被覆もしくは利用、または原子力操業の安全性確保のために有用な、またはそれらに関係する発明」に対して、特許の付与を禁止している。発明がこのようなカテゴリーに属するかどうかを判断する権限は、中央政府(インド原子力省、Department of Atomic Energy, Government of India)に与えられている(「インド特許法第4条に関する調査報告書」JETRO 2015年7月)。
日本とインドにおける特許審査請求期限の比較
1. 日本における審査請求期限
1-1. 審査請求
日本において特許出願の審査を受けるためには、出願審査の請求を行う必要がある。出願審査の請求は、出願日から3年以内に行うことができ(日本特許法(以下「特許法」という。)第48条の3第1項)、この期限内に出願審査の請求がされない場合は、その特許出願は取下げられたものとみなされる(特許法 第48条の3第4項)。ただし、所定の期間内に出願審査の請求がなされなかったことにより特許出願が取り下げられたものとみなされた場合であっても、その期間を徒過したことについて「故意によるものでない」ときは、出願審査の請求をすることができるようになった日から2か月以内であって、期間経過後1年以内に限り、出願審査の請求を行うことができる(特許法 第48条の3第5項)。
出願が、国内優先権の主張を伴う場合や、パリ条約による優先権の主張を伴う場合においても、請求期間の起算日は、優先日(先の出願の出願日)ではなく、優先権主張を伴う出願(後の出願)の実際の出願日である(工業所有権法逐条解説 特許法 第48条の3趣旨)。
PCTルートの場合は、国内書面を提出し、手数料の納付を行った後(外国語特許出願である場合はさらに翻訳文を提出した後)でなければ、出願審査の請求をすることができない(特許法 第184条の17)。この場合、国際出願は国際出願日に出願された特許出願とみなされるので(特許法 第184条の3第1項)、審査請求期限は国際出願日から3年である。
また、特許出願の分割に係る新たな特許出願、意匠登録出願または実用新案登録出願の変更に係る特許出願、実用新案登録に基づく特許出願については、原出願から3年の期間経過後であっても、分割または変更による特許出願の日から30日以内に限り、出願審査の請求をすることができる(特許法第48条の3第2項)。
なお、出願審査の請求は、出願人だけでなく、第三者も行うことができる(特許法第48条の3第1項)。
日本特許法 第48条の2 特許出願の審査 特許出願の審査は、その特許出願についての出願審査の請求をまつて行なう。 |
日本特許法 第48条の3 出願審査の請求 特許出願があつたときは、何人も、その日から三年以内に、特許庁長官にその特許出願について出願審査の請求をすることができる。 (第2項から第3項省略) 4 第一項の規定により出願審査の請求をすることができる期間内に出願審査の請求がなかつたときは、この特許出願は、取り下げたものとみなす。 5 前項の規定により取り下げられたものとみなされた特許出願の出願人は、経済産業省令で定める期間内に限り、経済産業省令で定めるところにより、出願審査の請求をすることができる。ただし、故意に、第一項に規定する期間内にその特許出願について出願審査の請求をしなかつたと認められる場合は、この限りでない。 (第6項以降省略) |
1-2. 優先審査
出願公開後に特許出願人でない者が業として特許出願の発明を実施している場合には、出願人または特許出願の発明を実施している者は、優先審査を受けるために、優先審査の事情説明書を提出することができる(特許法 第48条の6)。特許庁長官が必要と認める場合には、その出願は、他の出願に優先して審査を受けることができる。
事情説明書には、特許出願の発明の実施状況等を記載し、根拠となる書類または物件を添付することができる(日本特許法施行規則 第31条の3)。
1-3.早期審査
出願人は、早期審査の申請により、一定の要件の下で通常に比べて早期に特許出願の審査を受けることができる(特許出願の早期審査・早期審理ガイドライン)。これは法定されている優先審査とは異なり特許庁における運用であり、以下の要件を満たす出願が対象とされる。
(1) 出願審査の請求がなされていること
(2) 以下のいずれか1つの条件を満たしていること
・中小企業、個人、大学、公的研究機関等の出願
・外国関連出願
・実施関連出願
・グリーン関連出願
・震災復興支援関連出願
・アジア拠点化推進法関連出願
(3) 特許法第42条第1項の規定により取下げとならないものであること
(4) 代理人が弁理士、弁護士または法定代理人のいずれかに該当すること
2. インドにおける審査請求
2-1. 審査請求
インドにおいて特許出願の実体審査を受けるためには、実体審査請求を行う必要がある(インド特許法 第11B条(1))。
実体審査請求は、出願日から、または優先権主張を伴う出願は原出願の優先日から31か月以内に行うことができる(インド特許規則 24B(1)(i))。従来、審査請求期間は、出願日または優先日から48か月以内とされていたが、2024年3月15日施行のインド特許規則の改正によって短縮された。
期限内に実体審査請求がされない場合は、その特許出願は取り下げられたものとみなされる(インド特許法 第11B条(4))。
なお、インドにおいて実体審査請求を行うことができるのは、出願人または利害関係人である(インド特許法 第11B条(1))。
インド特許法 第11B条 審査請求 (1) 如何なる特許出願についても、出願人または他の利害関係人が所定の期間内に所定の方法により審査請求をしない限り、審査しないものとする。 ((2) 以下省略) |
インド特許規則 24B(1)(i) 出願の審査 第11B条に基づく審査請求は、様式18により、出願の優先日又は出願日の何れか先の日から31月以内にしなければならない。 ((1)(ii)以下省略) |
2-2. 早期審査請求
インドにおいて出願人は、下記のいずれかの理由に基づき、所定の手数料を添えて早期審査の請求をすることができる。早期審査の請求は、電子送信によって行わなければならない(インド特許規則 24C(1)))。
(1) 出願に関する理由
・国際出願であって、インドが管轄国際調査機関として指定されているか、または国際予備審査機関として選択されている。
・中央政府の各省庁の長からの要請に基づいて、中央政府が通知した分野に関連する出願である。
(2) 出願人に関する理由
・スタートアップ企業である。
・小規模事業体である。
・自然人であり、かつ女性である。出願人が複数の場合は、全てが自然人であり、かつ少なくとも一人が女性である。
・政府の各省庁である。
・政府により所有または管理されている、国法、地域法または州法により設立された機関である。
・2013年会社法(18 of 2013)第2節の条項(45)に定義される国有会社である。
・政府によって全額または実質的に資金提供されている機関である。
・出願人がインド特許庁と外国特許庁との間の協定に従って特許出願を処理するための取決めに基づく資格を有する。
◆日本とインドの特許審査請求期限を比較すると、以下のようになる。
日本 | インド | |
---|---|---|
提出期間 | 3年 | 31か月 |
基準日 | ・優先権主張の有無に関わらず日本の出願日 | ・インドの出願日 ・優先権が主張されている場合は優先日 |
インドにおける特許・意匠年金制度の概要
1. 特許権
1-1. 存続期間
インドにおける特許権の権利期間は、出願日(PCT条約に基づく特許出願の場合は国際特許出願日)から20年である(インド特許法(以下「特許法」という。)第53条(1))。権利期間の延長制度は存在しない。
1-2. 年金の納付期限
年金は、出願日を起算日として3年度から発生するが※1、特許査定がなされた場合にのみ納付が求められる(特許法第45条(1)、インド特許規則(以下「特許規則」という。)80(1))。したがって、出願から2年以上経過した場合であっても、審査中は、年金納付手続は不要である。出願から特許査定までに2年以上を要した場合には、特許査定が下された後、特許が登録簿へ登録された日(登録日)から3か月以内に、3年度から査定された年までの年金を納付する必要がある(特許法第142条(4))。これを累積年金と言う※2。その後の年金は、各年度※3の前年度満了前に納付しなければならない。例えば、出願から3年半後に登録となった場合は、3年度および4年度の年金を登録日から3か月以内に納付しなければならず、次の5年度分の年金は、4年度満了前に納付しなければならない(特許法53条(2)、特許規則80(1))。
※1 特許規則80(1)にいう「特許証の日付」とは、納付期間を計算するための起算日であり、特許出願の日と定められている(特許法第45条(1))。
※2 累積年金とは、年金納付義務が特許査定前から存在し、かつ特許査定が下されてから納付が開始される国において、登録手続の際に納付すべき年金のことを指す。指定された年度(※3を参照)から査定された年度までをカバーする年金をまとめて納付し、それ以降は年払いに移行する。なお、査定された時期と年金納付日の関係によっては、指定された年度から査定された年度の次の年度の分までを納付することになる場合もある。
※3 ここでの「年度」とは「特許証の日付」を起算日とした年度をいうが、※1のとおり、特許法第45条(1)において「特許証の日付」とは特許出願の日と定められているので、出願日を起算日とした年度を表す。
特許権者が小規模団体あるいは個人である場合は、年金金額が減額される(特許規則7、第1附則)。年金納付は、インド特許庁に対して代理人を通じて行うことができる(特許法第127条)。
1-3. 納付期限を徒過した場合(追納制度)
特許権が登録になった後に、納付期限日までに年金の納付が行われなかった場合、期限日から6か月以内であれば追納が可能である(特許法第53条(2)、第142条(4)、特許規則80(1A)、第1附則)。追納期間中は、所定の年金金額に加えて、追徴金も同時に納付しなければならない。
1-4. 権利回復制度
6か月の追納期間を超えて年金納付がされない場合は、権利は納付期間の最終日をもって失効する(特許法第53条(2))。つまり、特許権は通常の納付期間満了時に遡及消滅する。ただし、権利失効から18か月以内であれば、インド特許庁に対して権利回復の請求を行うことが可能である(特許法第60条(1))。権利を回復するには、まず所定の書面を提出する必要がある(特許法第60条(3)、特許規則84(1))。その後、インド特許庁が権利の回復を認めた場合には、その旨が公報に掲載され一般に公告される(特許法第61条(1)、特許規則84(3))。公報掲載日から2か月の間は、権利回復に対する第三者からの異議を申し立てることが可能な期間であり(特許法第61条(1)、特許規則85(1))、この期間中に異議申立がなければ、当該特許権の特許権者はインド特許庁に未納付の更新手数料と追加手数料を納付することができる(特許法第61条(3)、特許規則86(1))。これらの金額の納付があった場合、インド特許庁は特許権の回復を公告する(特許規則86条(2))。
上記の通り、追納期間を超えて年金納付がされなかった場合に特許権は失効するが、権利を放棄したい旨を記した書面と所定の金額をインド特許庁に提出することにより自発的に放棄する手続もある(特許法第63条(1))。
1-5. 年金の誤納
意図しない特許権に対して誤って年金を納付した場合、または所定の納付金額を超えて納付した場合などは、通常、返金されない(特許規則7(4))。
1-6. その他
インドにおいて特許権を維持するには、上記の年金納付とは別に、インド特許庁に対して国内実施報告書を提出しなければならない(特許法第146条)。実施に関する書面の提出が行われなかった場合、最大で百万ルピーの罰金もしくは6か月以下の拘禁刑、またはこれらを併科される可能性がある(特許法第122条)。
なお、2024年の特許規則の改正(2024年3月15日施行)により、国内実施報告書の提出頻度が、従来の「1会計年度ごとに1回」から、「3会計年度ごとに1回」に変更された(特許規則131(2))。
2. 意匠権
2-1. 存続期間
意匠権の権利期間は、出願日もしくは優先権主張をしている場合は、優先権主張日から15年であり、年金は、意匠が登録査定を受けてから発生する。まず、意匠権が登録になると最初に、出願日もしくは優先権主張をしている場合は、優先権主張日を起算日として10年の権利期間が与えられる(インド意匠法(以下「意匠法」という。)第5条(6)、第11条(1)、インド意匠規則(以下「意匠規則」という。)30(3))。
その後、5年分の年金納付を1回のみ行うことで、計15年の権利期間を得ることができる(意匠法第11条(2))。更なる権利期間の延長制度は存在しない。
2-2. 年金の納付期限
10年間の満了前に意匠権期間の延長申請をした場合の5年分の年金は、最初の10年の権利期間が満了する前に納付しなければならない(意匠法第11条(2))。
年金の納付は、インド特許庁に対して代理人を通じて行うことができる(意匠法第43条(1))。意匠権者が小規模団体あるいは個人である場合は、年金金額が減額される(意匠規則5、第1附則)。
2-3. 納付期限を徒過した場合(追納制度)
意匠権の場合、特許権と異なり追納制度が存在しない点に注意しなければならない。そのため、納付期限日までに年金の納付が行われなかった場合、権利は失効する(意匠法第12条(1))。
2-4. 権利回復制度
権利失効から12か月以内であれば、権利回復の請求を行うことができる(意匠法第12条(1))。権利を回復するには、所定の書面を提出する必要がある(意匠法第12条(2)、意匠規則24(1))。その後、インド特許庁が権利の回復を認めた場合には、意匠権者による未納付の延長手数料と追加手数料の納付を条件に、その旨が公報に公告される(意匠規則25)。
2-5. 年金の誤納
意図しない意匠権に対して誤って11年度の年金を納付した場合や、所定の納付金額を超えて納付した場合などは、通常は返金されない(意匠規則5(2)(c))。
インドにおいてOIモデル契約書ver2.0秘密保持契約書(新素材編、AI編)を活用するに際しての留意点
記事本文はこちらをご覧ください。
インドにおけるジョイント・ベンチャーと知的財産保護
「ジョイント・ベンチャーと知的財産保護」(2023年9月、日本貿易振興機構 ニューデリー事務所(知的財産権部))
目次
第1章 ジョイント・ベンチャーと知的財産の関係 P.1
(事業拡大の戦略の方法、ジョイント・ベンチャーの概要、ジョイント・ベンチャーに関連する一般的な法律(インドではジョイント・ベンチャーを規定する具体的な法律は存在せず)、知的財産との関連性および契約に関する確認事項などについて説明している。)
- 事業拡大戦略 P.1
1.1. 共同研究 P.1
1.2. 共同開発 P.1
1.3. 生産委託 P.2
1.4ジョイント・ベンチャー P.2 - ジョイント・ベンチャー概要 P.4
2.1. ジョイント・ベンチャーの有用性 P.4
2.2. ジョイント・ベンチャーの種類 P.4
2.3. インドでジョイント・ベンチャーを設立できる者 P.6
2.4. インドでのジョイント・ベンチャーを規制する法規定 P.7 - ジョイント・ベンチャーと知的財産 P.10
3.1. バックグラウンド知的財産とフォアグラウンド知的財産 P.10
3.2. ジョイント・ベンチャーのライフサイクルと知的財産 P.10
3.3. ジョイント・ベンチャー契約の知的財産に関する要確認事項 P.12
第2章 ジョイント・ベンチャーのライフサイクルと知的財産 P.13
(ジョイント・ベンチャーのライフサイクルの段階ごとの知的財産の取り扱いについて、留意すべき事項を具体的に解説している。また、ジョイント・ベンチャーの観点から、知的財産に関連する法律および権利種別ごとの留意点(特許については参考判例の紹介あり)を説明している。)
- 契約前および契約段階での留意点 P.13
1.1. 知的財産デュー・デリジェンス P.13
1.2. 知的財産の商業的価値の評価 P.16
1.3. バックグラウンド知的財産とそのライセンシング P.18
1.4. 第三者の知的財産の侵害に対する免責条項の検討 P.26
1.5. 職務発明(雇用契約) P.26
1.6. パートナーの撤退 P.26 - 事業を実施している期間の留意点 P.27
2.1. フォアグラウンド知的財産の扱い P.27
2.1.1. 著作権 P.27
2.1.2. 商標権 P.28
2.1.3. ドメイン名 P.29
2.1.4. 会社名 P.29
2.1.5. 特許権 P.30
2.1.6. 意匠権 P.35
2.2. ライセンシング P.36 - ジョイント・ベンチャー終了に際した留意点 P.38
- ライフサイクルを通して必要な機密保持契約の重要性 P.41
4.1. 営業秘密保護に関する問題 P.41
4.2. 情報漏洩 P.42
4.3. 機密保持契約の重要性と留意点 P.42
第3章 紛争解決 P.45
(ジョイント・ベンチャー契約において適切な紛争解決規定を策定する上で参考にできる、インドで対応可能な紛争解決手段(仲裁については参考判例の紹介あり)の概要や留意事項を紹介している。)
- 裁判外紛争解決手続 (ADR) P.45
1.1. 仲裁 P.46
1.2. 調停(コンシリエーション) P.50
1.3. 調停(メディエーション) P.50
1.4. 人民裁判(Lok Adalat) P.52
1.5. 調停および仲裁における企業秘密の機密保持と保護に関する留意点 P.52 - 裁判 P.55
2.1. 民事訴訟(商事裁判) P.55
2.2. 刑事訴訟 P.56 - 紛争解決手段の比較 P.58