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インドにおける特許の実施報告制度(2024年特許規則改正)

1. 特許発明の実施に適用される一般原則
 インド特許法第83条は、特許発明の実施に適用される一般原則について規定している。とりわけ、第83条(a)項において、特許は、発明を奨励し、インドで特許発明が確実に実施されることを保証するために付与されるものであることが規定されている。

第83条 特許発明の実施に適用される一般原則
本法の他の規定を害することなく、この章によって付与された権限を行使するに当たっては、次の一般原則を参酌しなければならない。
(a) 特許は、発明を奨励するため、および当該発明がインドにおいて商業規模で、かつ、不当な遅延なしに適切に実行可能な極限まで実施されることを保証するために、付与されるものであること。((b)以降省略)

 インド特許法第83条は、一般原則を規定しているにすぎず、本条文そのものが実施を強制するものではないものの、インドで特許発明を実施することの必要性(インドにおける特許発明の実施義務)を規定している。

 一方で、インド特許法第146条は、特許権者および実施権者に対して、特許発明のインドにおける商業的実施状況を報告することを求めている。特許権者および実施権者によって提出される特許発明の実施に関する情報は、インドにおいて(インド特許法が規定する)特許制度が機能しているか否かを示す有益な情報である。

第146条 特許権者からの情報を要求する長官権限
(1) 長官は、特許の存続期間中はいつでも、書面による告知をもって特許権者または排他的かもしくは非排他的かを問わずライセンシーに対して、当該告知の日から2か月以内または長官の許可する付加期間内に、インドにおける特許発明の商業的実施の程度について当該告知書に明示された情報または定期的陳述書を長官に提供すべき旨を要求することができる。
(2) (1)の規定を害することなく、各特許権者および(排他的かもしくは非排他的かを問わず)各ライセンシーは、所定の方法、様式および間隔(6か月以上)をもって、インドにおける当該特許発明の商業規模での実施の程度に関する陳述書を提出しなければならない。
(3) 長官は、(1)または(2)に基づいて受領した情報を所定の方法により公開することができる。

2. 国内実施報告制度
(1) 報告義務者
 現存する特許権の特許権者および実施権者は、特許発明の国内実施報告書を特許庁長官に提出しなければならない(インド特許法第146条(2))。特許審査中にある特許出願人、および消滅した特許の元特許権者には、国内実施報告書を提出する義務は無い。

(2) 報告対象
 すべての特許発明が国内実施報告義務の対象である(インド特許法第146条(2))。報告対象には、実施されていない特許発明も含まれる。ただし、消滅した特許発明および特許審査中の発明は報告対象ではない。国内実施報告の対象となる期間は、図1に示すように、特許が付与された会計年度の直後に始まる会計年度(4月1日~3月31日)から3年(3会計年度分)であり、1回の国内実施報告で特許権者および実施権者は当該期間(3年分)における特許発明の実施の有無および程度を報告しなければならない(特許規則131条(2))。以下、同様にして3会計年度ごとに1回の頻度で国内実施報告書を提出する。これは、2024年のインド特許規則の改正(2024年3月15日施行)により、実施報告書の提出頻度が、従来の「1会計年度ごとに1回」から「3会計年度ごとに1回」に変更されたものである。

図1:国内実施報告の対象となる期間

(3) 報告時期
 特許発明の国内実施報告書は、報告対象の期間である3会計年度の期間の終了後6か月以内(4月1日~9月30日)に提出しなければならない(特許規則131条(2))。ただし、規則131条(2)に基づく様式4による請求をすれば、3か月の期間までは、報告書の提出の遅滞または提出の延長が容認される。また、規則138に基づく様式4による請求により、さらに6か月の期間まで報告書の提出期限を延長することができる。

(4) 報告手続
 特許権者および実施権者は、様式27(FORM27)に従って特許発明の商業的実施の有無を記載し、管理官に提出しなければならない(インド特許法第146条(2)、特許規則131条(1)、様式27(2024年改正))。

 国内実施報告書に記載すべき事項は、次のとおりである。
(ⅰ) 特許番号毎に実施しているか否かを記載する。
(ⅱ) 実施していない場合、実施していない理由として該当するものにチェックする。
(ⅲ) ライセンス許諾が可能か否かを記載し、ライセンス可能な場合、連絡先を記載する。

様式27(改正特許規則2024年)の抜粋(仮訳)

3. 実施/不実施 この様式を提出している各特許が実施済みか不実施かを述べてください。特許番号実施[該当する場合はチェック(✔)]未実施[該当する場合はチェック(✔)]






4. 実施していない場合、該当する理由をチェックしてください。□特許発明は開発/商業試験中である。
□特許発明が規制当局の審査/承認中である。
□商業ライセンスの検討中
□その他:
5. 当該特許がライセンス可能かどうか□はい。
□いいえ。
「はい」の場合、ライセンス取得に興味のある者からの連絡を受けることに関心がありますか?関心がある場合、以下に連絡先をお知らせください。
Eメールアドレス:
連絡先番号:

 国内実施報告書には、特許権者、実施権者または代理人が署名する。権利者が同一で各特許発明から得られる収益/価値を区別できない場合、複数の関連する特許については一つの報告書にまとめて記載することができる。特許が共有に係る場合、共同で一つの実施報告書を提出することができる。
 なお、旧様式27で要求されていた記載、例えば、特許発明によって得られた収益または価値の概算、実施概要の記載は、2024年特許規則改正により不要になった。また、特許発明を実施していなかった場合の理由、実施に向けて行った措置の具体的な説明は不要となり、該当する項目をチェックするだけの簡素なものとなった。

3. 国内実施報告義務違反
(1) 国内実施報告書の提出を怠った場合
 国内実施報告書の提出を拒絶した者は、10万インドルピー以下の罰金に処され、拒否または不履行が継続した場合は、最初の拒否または不履行が継続した日以降、1日につき1,000ルピーの罰金に処される(インド特許法第122条(1))。

(2) 虚偽の国内実施報告を行った場合
 虚偽の国内実施状況を報告すると、監査済み会計帳簿に記載された事業売上高もしくは総収入の0.5%に相当する金額、または5000万ルピーのいずれか低い金額の罰金に処される(インド特許法第122条(2))。

4. 国内実施報告書の提出率および実施状況
 2021-2022年度について見てみると、有効に存在する特許権の約5割弱について国内実施報告書が提出されている。また、国内実施報告があった特許発明のうち、2割弱の特許発明(存続特許権全体の約1割弱)が実施されている(インド特許庁 年次報告 2021-2022)。

5. 国内実施報告書の公開
 国内実施報告書の内容は、インド特許庁のホームページに公開されている。図2のサイトのプルダウンメニュー「Complete available for Year」で報告年度を、「Location」のメニューで特許庁(デリー、チェンナイ、コルカタ、ムンバイ)を選択し、「Search」をクリックすると、当該報告年度に提出された国内実施報告の一覧が表示される。一覧にあるリンク「View Document」をクリックすると、国内実施報告書の内容を閲覧することができる。なお、システム上の問題でリンクをクリックしても国内実施報告書のファイルが開かないことがある。この場合、出願番号を入力、クリックして出願内容の詳細を表示させ、下方にある「E-Register」ボタンをクリックする。リーガルステータス情報が表示される。その下方に「Information u/s 146 (Working of Patents)」という項目があり、提出済みの国内実施報告書へのリンク「View Document」が表示される。このリンクをクリックすると国内実施報告書の内容を閲覧することができる。

図2:Dynamic Patent Utilities:Information u/s 146 (Working of Patents)

URL: https://iprsearch.ipindia.gov.in/DynamicUtility/WorkingOfPatents/Index
(最終アクセス日:2025年1月21日)

6. 改正規則の施行日前、またはその前後に登録になった特許の報告時期
 特許(改正)規則2024の施行日(2024年3月15日)前に登録になった特許、施行日直後の2024年3月15日~2024年3月31日に登録になった特許についての国内実施報告書の提出時期は、次のとおりである。

(1) 2022年3月31日以前に特許された場合
 2022年3月31日以前に特許された場合、2022年4月1日~2023年3月31日の特許実施状況については、2023年に提出されているため、次回の国内実施報告書の提出時期は2026年4月1日~9月30日である。

※赤色矢印は、特許(改正)規則2024の施行日を表している(以下、同じ)。

(2) 2022年4月1日~2023年3月31日に特許された場合
 2022年4月1日~2023年3月31日に特許された場合、国内実施報告書の提出時期は2026年4月1日~9月30日である。

(3) 2023年4月1日~2024年3月31日に特許された場合
 2023年4月1日~2024年3月31日に特許された場合、登録日が規則施行日の前か後にかかわらず、国内実施報告書の提出時期は2027年4月1日~9月30日である。

7. 留意事項
 国内実施報告を怠った特許権者に対して実際に罰金が科された事例はない。しかしながら、罰金の対象として条文に明記されていることから、特許権者は国内実施報告書を提出すべきと考えられている。なお、特許発明を実施していない旨の国内実施報告書を提出することについて、不実施に基づく強制実施権の設定を過度に懸念する必要はない。

インドにおける特許制度のまとめ-手続編

1. 出願に必要な書類
 特許権を受けようとする者は、以下の書類および手数料を提出しなければならない。

(1) 有効出願日を確保するために必要な書類
・願書
・明細書(直接出願の場合、完全明細書または仮明細書。条約出願や国内段階出願の場合、完全明細書)
・発明者である旨の宣言書
・手数料

(2) 必要に応じて提出する書類
・出願権の証拠(出願人が発明者ではない場合)
・委任状(現地代理人に代理権を与える場合)
・外国出願に関する陳述書および誓約書(インド特許出願と実質的に同じ内容の外国出願がある場合)
・優先権書類とその翻訳文(優先権を主張する場合)

関連記事:「インドにおける特許出願制度概要」(2019.6.13)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17416/

関連記事:「日本とインドにおける特許出願書類の比較」(2019.10.29)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17838/
(注:上記記事は、本稿作成後、2025年1月14日付で更新されています。
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/40433/

2. 出願の言語
 ヒンディー語または英語(インド特許規則(以下「特許規則」という。)9(1)(a))。外国語出願制度はない。

3. グレースピリオド
(1) 意に反する公開:出願人から取得され、その者の意に反して発明が公開された場合であって、その公開後、速やかに特許出願が行われた場合、当該発明は新規性を失わない(インド特許法(以下「特許法」という。)第29条(2)、(3))。

(2) 政府への伝達:特許出願に係る発明は、当該発明もしくはその価値を調査するため政府もしくは政府により委任された者に当該発明を伝達した場合であっても、新規性を失わない(特許法第30条)。

(3) 博覧会などにおける発表:特許出願に係る発明は、以下の行為が行われても、その最初の発表後12か月以内に特許出願を行った場合に限り、新規性を失わない(特許法第31条)。

(i) 中央政府によって官報で指定された博覧会において、真正かつ最初の発明者、または発明者から権原を取得した者の同意を得て行われた発明の展示、またはその開催場所において当該博覧会を目的としてその者の同意を得て行われた発明の実施
(ii) 博覧会における発明の展示または実施の結果としての当該発明の説明の公開
(iii) 発明が博覧会において展示もしくは実施された後、および博覧会の期間中、真正かつ最初の発明者などの同意を得ないで何人かが行った発明の実施
(iv) 真正かつ最初の発明者が学会において発表した論文に記載され、またはその者の同意を得て当該学会の会報に公表した発明の説明

(4) 試験目的の実施:特許出願に係る発明は、特許出願の優先日前1年以内に、出願人またはその同意を得た者が、特許出願に係る発明の適切な試験目的のためにインドにおいて公然と実施したとしても、新規性を失わない(特許法第32条)。ただし、発明の内容に鑑み、その試験を公然と実施する合理的必要性があった場合に限る。

(5) 仮出願の後の実施および公開による先発明:仮出願を行った場合、仮出願後、仮明細書に記載された事項がインドで実施され、またはインドまたは他の地域で公開されても新規性を喪失しない(特許法第33条)。

関連記事:「インドにおける特許新規性喪失の例外」(2017.6.1)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/13770/
(注:上記記事は、本稿作成後、2024年12月24日付で更新されています。
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/40392/

4. 審査
(1) 実体審査
 実体審査:あり

 審査請求制度:あり(特許法第11B条(1))
  審査請求期間:出願日(優先日)から31か月以内(特許法第11B条(1)、特許規則24B(1))
  請求人:出願人および利害関係人(特許法第11B条(1))

 2024年の特許規則の改正(2024年3月15日施行)により、審査請求期間について、従来の「出願日(優先日)から48か月以内」が、「出願日(優先日)から31か月以内」に短縮された。

(2) 早期審査(優先審査)
 以下の要件のうちのいずれかに該当する場合、早期審査請求を行うことができる(特許規則24C(1))。

(a) 出願人が、国際出願の国際調査機関または国際予備審査機関として、インド特許意匠商標総局(the Office of the Controller General of Patents, Designs & Trade Marks (CGPDTM)、以下「インド特許庁」という。)を選択している。

(b) 出願人が、インド国内外を問わず、スタートアップ企業である。(スタートアップ企業の定義:設立から5年以内で、年間売上高が2億5千万ルピー(約3億8千万円)未満の事業体、特許規則2(fb))

(c) 出願人が、小規模団体(small entity)である。
(d) 出願人が、全員が自然人であって、そのなかに女性が含まれている。
(e) 出願人が、政府系機関である。
(f) 出願人が、中央政府もしくは州政府によって設立された機関であって、中央政府が所有もしくは管理する機関である。
(g) 出願人が、2013年会社法の第45の2条に定義される「政府系企業」である。
(h) 出願人が、政府が実質的に資金を提供している機関である。
(i) 政府の要請に基づいて指定された産業に関連する出願である。
(j) 出願人が、インド特許庁と他国特許庁との合意に従って出願を処理するための資格を有する(いわゆるPPHを申請している)。

(3) 出願を維持するための料金
 特許権を維持するためには、所定の納付期間内に更新手数料を納付しなければならない(特許法第53条(2))。

関連記事:「インドの特許関連の法律、規則、審査マニュアル」(2019.2.14)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16518/
(注:上記記事は、本稿作成後、2024年12月10日付で更新されています。
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/40308/

関連記事:「インド特許庁の特許審査体制」(2018.7.19)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/etc/15442/

関連記事:「インドにおける特許審査および口頭審理」(2018.4.17)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/14828/

関連記事:「インドの特許出願審査における「アクセプタンス期間」」(2016.4.19)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/11118/

関連記事:「インドにおける迅速な特許審査着手のための出願実務の迅速化」(2015.9.1)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/8544/

5. 出願から登録までのフローチャート
(1) 出願から登録までの特許出願のフローチャート

(2) フローチャートに関する簡単な説明
ⅰ) 特許出願の種類は、直接出願(本出願および仮出願)、国際出願、国際出願の国内段階移行出願、パリ条約に基づく条約出願がある。
ⅱ) 特許出願の出願日(優先日)から18か月が経過すると、特許出願は公開される。特許出願は、公開される前に取下げることができる。
ⅲ) 審査請求がなされた出願は、(方式および実体)審査が行われる。審査請求を行わなかった場合、出願は取下げられたものとみなされる。
ⅳ) 審査の結果は、最初の審査報告(FER:First Examination Report)として出願人に通知される。FERの発送日は、拒絶理由解消期間(6か月)の起算日になる。出願人は、拒絶理由解消期間内に、特許出願を許可される状態にしなければならない(特許法第21条)。後続の審査報告(SER:Subsequent Examination Report)が発行されても、拒絶理由解消期間は延長されない。拒絶理由解消期間は、最長3か月延長できる。特許出願を許可される状態にするというのは、すべての拒絶理由を解消するような応答書(意見書、補正書)を提出することを意味する。
ⅴ) 応答書が提出されていれば、インド特許庁はもう一度審査を行う。拒絶理由があり、拒絶理由解消期間が経過していない場合は、SERが出願人に通知され、拒絶理由解消期間が経過している場合で出願人から聴聞申請があれば、聴聞通知が出願人に発送される。聴聞が行われた後に、出願人に応答書(意見書、補正書)を提出する機会が与えられる。
ⅵ) 拒絶理由がすべて解消すると、特許査定(Notice of Grant)が通知され、特許公報(Publication of Grant)が発行される、特許証が交付され、設定登録によって特許権が発生する。拒絶理由が残っている場合、拒絶査定(Notice of Refusal)が通知される。
ⅶ) 特許権の存続期間は出願日(優先日)から20年である。特許権を存続期間中維持するためには、特許権者は、更新手数料を納付しなければならない。
ⅷ) 何人も特許出願に対して、出願公開後、特許権付与前までに付与前異議申立て(特許法第25条(1))を請求することができる。付与後異議申立ては、利害関係人が、特許公報発行後、1年以内に請求することができる(特許法第25条(2))。
ⅸ) インド特許庁の決定、指示、指令に対して不服がある場合、決定、指示、指令の通知日から3か月または高等裁判所が制定した規則に従って許可する付加期間内に、高等裁判所に不服申立ての訴えを提起することができる(特許法第117A、Tribunals Reforms Act 2021第13条)。従来は、知的財産審判委員会(IPAB: Intellectual Property Appellate Board)に審判請求をおこなっていたが、2021年裁判所改革法(Tribunal Reforms Act)によって、IPABが廃止され、インド特許庁の決定等に対する不服申立ての管轄権は高等裁判所に移管された。
ⅹ) 利害関係人は、所定の無効理由の1つまたは複数に基づいて、特許の取消を求めて高等裁判所に無効訴訟を提起することができる(特許法第64条(1))。

関連記事:「インドにおける特許制度の運用実態」(2015.12.4)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/10062/

関連記事:「日本とインドの特許の実体審査における拒絶理由通知への応答期間と期間の延長に関する比較」(2023.10.26)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/37601/

[権利設定前の争いに関する手続]
6. 拒絶査定に対する不服
 出願人は、インド特許庁の(特許出願を拒絶する)決定に対して不服がある場合、決定の通知日から3か月または高等裁判所が制定した規則に従って許可する付加期間内に、高等裁判所に拒絶査定の取消を求める不服申立ての訴えを提起することができる(特許法第117A条(2)、Tribunals Reforms Act 2021第13条)。

関連記事:「インドにおける知的財産審判委員会(IPAB)の廃止 -その後-」(2022.1.11)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/judgment/21344/

関連記事:「インドにおける特許出願から特許査定までの期間の現状と実態に関する調査」(2018.1.18)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/14428/

7. 権利設定前の異議申立て
 何人も特許出願に対して付与前異議申立て(特許法第25条(1))を行うことができる。付与前異議申立ては、出願公開後、特許権付与前までに請求することができる。

[権利設定後の争いに関する手続]
8. 権利設定後の異議申立て
 利害関係人は、特許公報発行後、1年以内に付与後異議申立てを請求することができる(特許法第25条(2))。

関連記事:インドにおける特許無効手続に関する統計データ(前編:特許付与後の異議申立)」(2018.3.15)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/14664/

9. 設定された特許権に対して、権利の取消を申し立てる制度
 利害関係人は、所定の無効理由の1つまたは複数に基づいて、特許の取消を求めて高等裁判所に取消訴訟を提起することができる(特許法第64条(1))。

関連記事:「インドにおける特許無効手続に関する統計データ(後編:取消請求および訴訟)」(2018.3.15)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/statistics/14680/

10. 権利設定後の権利範囲の訂正
 特許出願の願書および明細書などの補正は、特許権付与前はもちろんのこと、特許権付与後においても行うことができる(特許法第57条(1))。しかし、拒絶査定がなされた後は補正を行うことができない。明細書の補正は、権利の部分放棄、訂正、または釈明による方法で行わなければならず、事実の挿入を目的とするものでなければならない(特許法第59条(1))。

 特許権付与後に補正申請が行われた場合、インド特許庁は、その補正の内容が本質的(実体的)なものか否かを審査し、補正内容が本質的なものである場合、補正申請の内容を公告する(特許法第57条(3)、特許規則81(3)(a))。補正内容が形式的なものである場合でも、管理官の裁量によって公告することもできる(特許法第57条(3))。利害関係人は、補正の内容に異議がある場合、補正申請の公告の日から3か月以内に異議申立てを行うことができる(特許法第57条(4)、特許規則81(3)(b))。

11. その他の制度
(1) 外国出願許可(特許法第39条)
 特許法は、外国へ特許出願を行おうとする「インドに居住する者」に対して、外国出願許可(FFL:Foreign Filing License)の取得を義務付けている。インドに居住する者は、原則として外国出願許可を取得しなければインド国外で特許出願を行い、またはさせてはならない(特許法第39条(1))。また、当該発明が国防目的または原子力に関連する判断した場合、インド特許庁は、中央政府の事前承認なしに外国出願許可を付与できない(特許法第39条(2))。発明者および出願人の一人でもインドに居住する者であれば本法は適用される。ただし、保護を求める出願が、インド国外居住者によりインド以外の国において最初に出願された発明に関しては、本法は適用されない(同第39条(3))。外国出願許可の規定に違反した場合、対応するインド特許出願は放棄されたものとみなされ、付与された特許権は無効理由を有する(特許法第64条(1)(n))。また、外国出願許可の規定に違反した者は、禁固もしくは罰金に処され、またはこれらが併科される(特許法第118条)。

(2) 国内実施報告制度(特許法第146条)
 インドには、特許発明の商業的実施状況を定期的に報告することを毎年、特許権者および実施権者に義務付ける独自の制度が存在する。排他的権利を有する特許権者に対して、インドにおける特許発明の適正な実施を促すための制度である。実施状況の報告を怠ると罰金の対象となり、実施状況の虚偽報告を行った者には罰金刑または禁固刑、またはこれらが併科される。インド特許庁は、実施の状況を公開することができる。インドにおいて適正に実施されていない特許に対して、利害関係人が強制実施権を申請できる。
 2024年の特許規則の改正(2024年3月15日施行)により、実施報告書の提出頻度が「1会計年度ごとに1回」から「3会計年度ごとに1回」に変更された(特許規則131(2))。

(3) 拒絶理由解消期間(特許法第21条)
 特許法においては、所定の期間内(拒絶理由解消期間)に特許出願を特許権付与可能な状態にしなければ、特許出願は放棄されたものとみなされる。拒絶理由解消期間は、最初の審査報告(FER:First Examination Report、日本の拒絶理由通知書に相当)の発送日(The date of issue (dispatch):FERに記載された日)から6か月である(特許法第21条、特許規則24B(5))。

(4) 聴聞(特許法第14条)
 インドにおいて聴聞(Hearing)は、特許審査手続を構成する重要な手続の1つである。出願人から聴聞の申請があれば、インド特許庁は出願人に不利な決定を行う前に出願人に聴聞を受ける機会を与えなければならない。インド特許庁は、職権で聴聞を設定することもできる。出願人は、拒絶理由解消期間内に応答書を提出し、聴聞の申請を行えば、拒絶査定が行われる前に聴聞を受ける機会が出願人に付与され(特許法第14条)、拒絶理由解消期間経過後も、特許出願をインド特許庁に係属させることができる。

関連記事:「日本とインドの特許の実体審査における拒絶理由通知への応答期間と期間の延長に関する比較」(2023.10.26)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/37601/

関連記事:「インド国内で生まれた発明の取扱い―インド国外への特許出願に対する制限」(2019.9.26)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17745/

関連記事:「インドにおける特許の実施報告制度(2020年特許規則改正)」(2022.7.12)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/license/24051/

インドにおける特許異議申立制度-付与前異議申立と付与後異議申立

1. 付与前異議申立
 付与前異議申立は、対象特許出願の公開の日から登録の日まで提出可能である。ただし、申立てられた異議について審査管理官(Controller)が検討するのは、当該出願について審査請求がなされた後である(特許規則55(2))。付与前異議申立の制度は、特許に対して異議を申立てる機会を公衆に与えることを意図しているため、「何人も」申立てることができる(特許法第25条(1))。異議申立人が付与前異議申立を提出する十分な時間を確保するため、特許出願の公開から6か月間は特許権が付与されない(特許規則55(1A))。

1-1. 付与前異議申立の理由
 付与前異議申立は、特許法第25条(1)に規定された11項目の異議理由に基づき、申立てが可能である。このうち代表的な異議理由として、以下の4つの理由が挙げられる。

・出願の請求項に開示された発明が、出願人によって不正に取得された。
・何れかの請求項で請求される発明が、当該請求項の優先日の前に公開されていた。
・発明が、進歩性を有さない。
・出願人が、インド特許法第8条の要求(たとえば、他国で出願された同一または実質的に同一発明に関する詳細情報のインド特許意匠商標総局への提出)を順守していない。

1-2. 付与前異議申立の手続
 付与前異議申立は、所定の書式(Form 7A)を用いて、インド特許意匠商標総局長官宛に提出する(特許法第25条、特許規則55(1))。審査管理官は、付与前異議申立において、一見して異議の根拠が立証されていないとの見解を持った場合、審査管理官は、異議申立人にその旨を通知し、異議申立人が意見聴取を要求しない限り、審査管理官は通知の日から1か月以内に異議申立を却下する。異議申立人が聴聞会を要求した場合、審査管理官は、異議申立人に聴聞の機会を与えた後、聴聞会の日から1か月以内に異議申立を却下するか審理するかを決定し、異議申立人に結果を通知する(特許規則55(3)(a))。2024年の特許規則の改正により、審査管理官の裁量によって付与前異議申立を却下するか否か決定することが可能になった。
 異議申立を検討した結果、異議理由があり、審査管理官が当該出願を拒絶すべきという見解を持った場合、異議申立人が作成した異議申立書の副本を添えて出願人へ通知される(特許規則55(3)(b))。出願人は、異議の通知に対して、通知の発行日から2か月以内に、応答書を(証拠と共に)提出しなければならない(特許規則55(4))。従来の応答期間は通知の日から3か月以内であったが、2024年の特許規則の改正により期間が短縮された。出願人は、審査管理官の付与前異議申立に対する決定が下されて手続が終了する前に、口頭手続の機会を求めることができる(特許法第25条(4))。
 出願人の意見を考慮した後、審査管理官は、出願の特許付与を拒絶するか、または、特許付与前に出願の補正を求めるか、あるいは異議申立を棄却するか、のいずれかを行う事ができ、通常、審査管理官は、付与前異議申立手続の終了から1か月以内に、決定を下さなければならない(特許規則55(5))。長官による決定に対して、高等裁判所への不服申立が可能である(特許法第117A条、Tribunals Reforms Act 2021第13条)。

図1. 付与前異議申立の手続フロー

2. 付与後異議申立
 付与後異議申立は、特許法第25条(2)に規定されている。付与後異議は、特許登録の公開の日から1年以内に申立てなければならない。付与前異議申立と異なり、付与後異議申立は、「利害関係人」のみが申立てることができる。特許法第2条(1)(t)によれば、「利害関係人」とは、当該発明が関係する同一分野の研究に従事している、または、これを促進する業務に従事する者を含む。Ajay Industrial Corporation v. Shiro Kanao of Ibaraki City事件(1983)において、デリー高等裁判所は、「利害関係人」とは、「登録された特許の存続によって損害その他の影響を受ける、直接的で現実の、かつ具体的な商業的利害を有する」者と解釈している。付与後異議申立の異議理由は、付与前異議申立の異議理由と同様である(特許法第25条(2))。

2-1. 付与後異議申立の手続
 付与後異議申立は、所定の書式(Form 7)を用いて、特許意匠商標総局長官宛に異議申立書を提出する(特許規則55A)。異議申立書の受領後、長官は、付与後異議申立の合議体として審査管理官3名からなる異議委員会(異議部)を設置する(特許法第25条(3)、特許規則56(1))。当該出願を審査した審査官は、委員会メンバーとしての適格性をもたない(特許規則56(3))。通常は、次席審査管理官(Deputy Controller of Patents)または審査管理官補(Assistant Controller of Patents)が異議委員会の委員長として任命され、2名の上級審査官が残りのメンバーとして任命される。付与後異議申立手続において、異議申立人は、自らの利害や基礎となる事実、求める救済措置について述べる異議申立陳述書を作成し、証拠(ある場合)とともに異議申立書に添付して、長官宛に提出し、その異議申立陳述書と証拠(ある場合)の写しを特許権者に送付しなければならない(特許規則57)。
 特許権者が異議申立に対して争う場合、異議申立人から異議申立書を受領した日から2か月以内に、所轄庁に、証拠(ある場合)とともに異議申立に対して反論する理由を記述した答弁書を提出し、その写しを異議申立人に送付しなければならない(特許規則58(1))。特許権者が答弁書を提出しない場合、特許は取り消されたものとみなされる(特許規則58(2))。特許権者の答弁書を受領した異議申立人は、受領の日から1か月以内に、弁駁書を提出できる(その写しを特許権者に送付しなければならない)が、そのような異議申立人の弁駁書は、特許権者が提出した証拠に関する内容に厳しく限定される(特許規則59)。両者(特許権者、異議申立人)からのさらなる答弁は、長官が許可した場合にのみ提出可能である(特許規則60)。答弁書の提出完了後2か月以内に、異議委員会は、異議委員会の勧告を含む報告書を長官に提出する(特許規則56(4))。従来、異議委員会による報告書の作成期間は3か月であったが、2024年の特許規則の改正により期間が短縮された。
 その後、長官は、口頭手続の期日を指定する(特許法第25条(4))。口頭手続の通知は、口頭手続期日の10日以上前に両者(特許権者、異議申立人)に送付されなければならず、また、異議委員会の勧告について、審査管理官が口頭手続の期日を設定する前に、異議申立人と特許権者に通知しなければならない(特許規則62(1))。この異議委員会に対する手続上の要件は、知的財産審判部(IPAB、現在は廃止)の過去の決定で示されたものである(M/s. Diamcad N.V. v. Asst. Controller of Patent and Ors. (2012))。また、知的財産審判部(IPAB)は、異議申立手続における異議委員会の勧告および審査管理官の決定には、充分な理由づけが必要、と示した決定もある(Sankalp Rehabilitation Trust v. F Hoffmann-LA Roche AG (2012))。長官は、異議委員会メンバーに口頭手続への同席を指示することができる(特許規則62(1))。口頭手続後、長官は決定を下す(特許規則62(5))。決定に対しては、高等裁判所への不服申立が可能である(特許法第117A条、Tribunals Reforms Act 2021第13条)

図2. 付与後異議申立の手続フロー

3. 異議申立と取消手続との違い
 「利害関係人」は、特許法第64条に基づき、特許の取消しを求めることができる。異議申立と取消手続との主な違いは、以下の通りである。

・異議申立の異議理由とは別に、取消手続には、取消理由が規定されており、異議理由には該当しないが、取消理由に該当する場合もある。たとえば、秘密保持指令(特許法35条)への違反は、異議理由とはならないが、取消理由となる。
・付与前異議申立は特許の登録前の申立てが必要であり、付与後異議申立は特許登録の公開の日から1年以内に申立てが必要となる。一方、取消手続は、特許の登録後、いつでも申請が可能である。
・インド政府は、異議を申立てることができない(長官の指示・指令に対して、インド政府が異議を申立てる理由がない)。一方、取消手続は、インド政府も申請することができる。例えば、原子力関連発明が誤って特許になった場合など、政府が自分で取り消すことができる(特許法第65条)。

インドの商標関連の法律、規則、審査マニュアル

インドの商標関連の法律、規則、審査マニュアル(英語・日本語)は、以下のとおりである。

No.法令名施行日等法律番号等情報元URL言語
1商標法
2021.09.17改正
TRADE MARKS ACT, 1999, [Updated 17th. September, 2021]INDIA CODE
(インド各省庁が提供する法令のデジタル 書庫)
https://www.indiacode.nic.in/handle/123456789/1993 
2013.07.08 施行TRADE MARKS ACT, 1999, [Act No.40, 2010]日本国特許庁https://www.jpo.go.jp/e/system/laws/gaikoku/document/index/india-e_marks_act.pdf
日本国特許庁https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/india-shouhyou.pdf
2商標規則2017.03.06版
Trade Marks Rules, 2017インド特許意匠商標総局https://ipindia.gov.in/TM-Rules-2017.htm
日本国特許庁https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/india-shouhyou_kisoku.pdf
3商標マニュアル(案)

実務と手引き
2015.03.10版A draft of Manual of Trade Marksインド特許意匠商標総局https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/IPOGuidelinesManuals/1_32_1_tmr-draft-manual.pdf
JETROhttps://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/in/ip/pdf/manual_of_trade_marks_201503_jp.pdf
4商標ガイドライン(マドリッドプロトコル)2018.01版THE MADRID PROTOCOL:
A ROUTE TO GLOBAL BRANDING
JANUARY 2018
インド特許意匠商標総局https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/IPOGuidelinesManuals/1_93_1_THE_MADRID_PROTOCOL.pdf

日本とインドにおける特許出願書類の比較

1. 日本における特許出願の出願書類(パリルート)
1-1. 出願書類
 所定の様式により作成した以下の書面を提出する(特許法第36条第2項)。
・願書
・明細書
・特許請求の範囲
・必要な図面
・要約書

(1) 願書
 願書には、特許出願人および発明者の氏名(出願人が法人の場合は名称)、住所または居所を記載する(特許法第36条第1項柱書)。

(2) 明細書
 明細書には、発明の名称、図面の簡単な説明、発明の詳細な説明を記載する(特許法第36条第3項)
 発明の詳細な説明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しなければならない(特許法第36条第4項第1号)。

(3) 特許請求の範囲
 特許請求の範囲には、請求項に区分して、請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない(特許法第36条第5項)。

(4) 要約書
 要約書には、明細書、特許請求の範囲または図面に記載した発明の概要等を記載しなければならない(特許法第36条第7項)。

1-2. 手続言語
 書面は、日本語で記載する(特許法施行規則第2条第1項)

1-3. 手続言語以外で記載された明細書での出願日確保の可否
 書面は日本語で作成するのが原則であるが、英語その他の外国語(その他の外国語に制限は設けられていない)により作成した外国語書面を願書に添付して出願することができる(特許法第36条の2第1項、特許法施行規則第25条の4)。この場合は、その特許出願の日(最先の優先日)から1年4か月以内(分割出願等の場合は出願日から2か月以内)に、外国語書面および外国語要約書面の日本語による翻訳文を、特許庁長官に提出しなければならない(特許法第36条の2第2項)。ただし、特許法条約(PLT)に対応した救済規定がある(特許法第36条の2第6項)。

1-4. 優先権主張手続
 外国で最初に出願した日から12か月以内に、パリ条約による優先権の主張を伴う日本特許出願をすることができる(パリ条約第4条C(1))。優先権主張の基礎となる出願の出願国と出願日を記載した書類を、最先の優先日から1年4か月または優先権の主張を伴う特許出願の日から4か月の期間が満了する日のいずれか遅い日までの間に、特許庁長官に提出しなければならない(特許法第43条第1項、特許法施行規則第27条の4の2第3項第1号)。優先権主張書の提出は、特許出願の願書に所定の事項を記載することで、省略することができる(特許庁「出願の手続」第二章第十二節「優先権主張に関する手続」)。また、最先の優先日から1年4か月以内に、特許庁長官に、優先権証明書類を提出しなければならない(特許法第43条第2項)。

 ただし、日本国特許庁と一部の外国特許庁、機関との間では、優先権書類の電子的交換を実施しており、出願人が所定の手続を行うことで、パリ条約による優先権主張をした者が行う必要がある書面による優先権書類の提出を省略することが可能となっている(特許法第43条第5項)。

<参考URL>
特許庁:優先権書類の提出省略について(優先権書類データの特許庁間における電子的交換について)
https://www.jpo.go.jp/system/process/shutugan/yusen/das/index.html

2. インドにおける特許出願の出願書類(パリルート)
2-1. 出願書類
 特許法および特許規則にて規定された以下の書面を提出する(インド特許法第7条、インド特許庁実務及び手続マニュアル03.04.01)。

・願書(様式1)
・完全明細書(特許請求の範囲、要約および必要な図面含む)(様式2)
・外国出願に関する情報の陳述・宣誓(様式3)(インド出願日から6か月以内)
・発明者である旨の宣誓(様式5)
・出願人としての資格の証明(インド出願日から6か月以内)
・委任状(様式26)(特許代理人を通じて提出される場合)(インド出願日から3か月以内)

(1) 願書
 願書は、様式1※1によって作成する(インド特許庁実務及び手続マニュアル03.04.01)。
※1 様式1は、インド特許規則の最後の「様式一覧」に掲載されている。以下の様式も同様である。
 様式1(英語):https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/ev/forms/Form_1.pdf

(2) 完全明細書
 完全明細書は、様式2※2によって作成する(インド特許規則13(1))。
※2 様式2(英語):https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/ev/forms/Form_2.pdf

 完全明細書には、発明を記載して、発明に係る主題を十分に表示する名称を頭書しなければならない(インド特許法第10条(1))。

 また、完全明細書は、発明に係る以下の内容を備えなければならない(インド特許法第10条(4))。
 (a) 発明の作用または用途、およびその実施の方法を十分かつ詳細に記載する。
 (b) 出願人が知り得ている、出願人が保護を請求する権利を有する発明を実施する、最善の方法を開示する。
 (c) 保護を請求する発明の範囲を明確にする1または2以上の請求項をもって完結する。発明が図面による説明を必要とする場合、図面には明細書に記載される請求項中の構成要素の後に括弧で括った参照番号を記載しなければない(インド特許規則13(4))。
 (d) 発明に関する技術情報を提供する要約を添付しなければならない。
 要約書の冒頭に発明の名称を記載しなければならない(インド特許規則13(7)(a))。要約書中の、図面により明示される主要な特徴の各々に、括弧で括った参照番号を記載しなければならない(インド特許規則13(7)(d))。また、要約書は150語を超えてはならない(インド特許規則13(7)(c))。

 なお、特許出願に仮明細書を添付したときは、完全明細書を出願日から12か月以内に提出しなければならない(インド特許法第9条(1))。自己の発明が論文で開示できる段階にはあるが、最終段階には達していないと認めた場合、出願人は、書面による説明の形式により発明の開示を準備し、発明を説明する仮明細書として文書をインド特許庁に提出することができる(インド特許庁実務及び手続マニュアル05.02)。

(3) 外国出願に関する情報の陳述・宣誓
 外国出願に関する陳述書および宣誓書は、様式3※3により作成しなければならない(インド特許規則12(1))。
※3 様式3(英語):https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/ev/forms/Form_3.pdf

 外国出願に関する情報の陳述書と宣誓書は、以下の内容による(インド特許法第8条(1))。
(a) 特許出願に係る発明と同一または実質的に同一の発明を外国に特許出願している場合の、外国出願の明細事項を記載した陳述書。
(b) 陳述書の提出後、所定の期間内に外国にした、同一または実質的に同一の発明に係る他の各出願(ある場合)について、インドにおける特許付与日まで、必要とされる明細を書面で随時長官に通知し続ける旨の宣誓書。

 陳述書および宣誓書を提出する期間は、出願日から6か月である(インド特許規則12(1A))。宣誓書に基づいて提出する、出願時に入手できなかった外国出願の明細事項は、従来、外国出願の出願時から6か月以内に提出するとされていたが、2024年のインド特許規則の改正によって、最初の拒絶理由通知の発送の日から3か月以内とされた(インド特許規則12(2))。

(4) 発明者である旨の宣誓
 出願人が、出願に係る発明を所有している旨を明示しかつ、真正かつ最初の発明者である旨主張する者の宣誓を提出しなければならない(インド特許法第7条(3))。発明者である旨の宣誓書は、様式5※4による(インド特許規則13(6))。
※4 様式5(英語):https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/ev/forms/Form_5.pdf

(5) 出願人としての資格の証明
 出願が、発明についての特許出願権の譲渡によって行われるときは、出願とともにまたは出願後6か月以内に、出願権についての証拠を提出しなければならない(インド特許法第7条(2)、インド特許規則10)。この出願権の証拠は、様式1による出願書の末尾にされる裏書または別の譲渡証書とする(インド特許庁実務及び手続マニュアル03.04.01)。

(6) 委任状
 代理人を通じて出願手続きを行う場合、出願人の署名による委任状(様式26※5)の提出が要求される。委任状は、出願日から3か月の期間内に提出しなければならない(インド特許規則135(1))。
※5 様式26(英語):https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/ev/forms/Form_26.pdf

2-2. 手続言語
 書類の作成は、ヒンディー語または英語による(インド特許規則9(1))。

2-3. 手続言語以外の明細書での出願日確保の可否
 ヒンディー語または英語以外で書類を作成することはできない(インド特許規則第9(1))。

2-4. 優先権主張手続
 外国に最初に出願をした日から12か月以内に、パリ条約による優先権の主張を伴うインド特許出願をすることができる(インド特許法第135条(1))。優先権主張を行う場合は、特許出願に完全明細書を添付し、最初の出願の出願日および国名、その出願日よりも前に他国に出願していない旨を記載することが要求される(インド特許法第136条(1))。
 出願人は、長官から要求されたときは、その通知の日から3か月以内に優先権証明書(またはDASコード)を提出しなければならない(インド特許法第138条(1)、インド特許規則121、長官通知2018/63)。優先権証明書が外国語で記載されている場合、優先権証明書の認証された英訳文を提出する必要がある(インド特許法第138条(2))。

日本とインドにおける特許出願書類・手続の比較

日本インド
出願書類所定の様式により作成した以下の書面を提出する。
・願書
・明細書
・特許請求の範囲
・必要な図面
・要約書
所定の様式により作成した以下の書面を提出する。
・願書
・完全明細書
・外国出願に関する情報の陳述・宣誓
・発明者である旨の宣誓
・出願⼈としての資格の証明
・委任状
手続言語日本語ヒンディー語または英語
手続言語以外の明細書での出願日確保の可否英語その他の外国語により作成した外国語書面を願書に添付して出願することができる。その特許出願の日から1年4か月以内に外国語書面および外国語要約書面の日本語による翻訳文を、特許庁長官に提出しなければならない。不可
優先権主張手続優先権主張の基礎となる出願の出願国と出願日を記載した書面を、最先の優先権主張日から1年4か月、またはその優先権主張を伴う出願から4か月の何れか遅い日までの間に、特許庁長官に提出しなければならない。

優先権証明書を基礎出願の日から1年4か月以内に特許庁長官に提出しなければならない。

ただし、日本国特許庁と一部の外国特許庁、機関との間では、優先権書類の電子的交換を実施しており、出願人が所定の手続を行うことで、パリ条約による優先権主張をした者が行う必要がある書面による優先権書類の提出を省略することが可能となっている。
特許出願に完全明細書を添付し、最初の出願の出願日および国名、その出願日よりも前に他国に出願していない旨を記載しなければならない。


出願人は、長官から要求されたときは、その通知の日から3か月以内に優先権証明書(またはDASコード)を提出しなければならない)。また、優先権証明書が外国語で記載されている場合、優先権証明書の認証された英訳文を提出する必要がある。

インドにおける「商標の使用」と使用証拠

1. 「商標の使用」の定義および使用証拠について
 インドでは、商標法第2条(2)(c)において、「商標の使用」が定義されている。

インド商標法第2条(2)(c)
標章の使用というときは、
 (i)商品に関しては、物理的関係であるかまたはその他いかなる関係であるかを問わず、当該商品についての標章の使用をいうものと解釈する。
 (ii)役務に関しては、当該役務の利用可能性、提供、または実施についての記述もしくはその一部としての当該標章の使用をいうものと解釈する。

商標は、商品または役務上で物理的に使用される必要があるが、商品や商品の包装に貼付するなどの物理的使用以外の関係でも使用することができる。例えば、請求書、カタログおよび商品資料の中での「商標の使用」も、実際に市場に商品が存在することを前提とする商品に関係した使用とみなされる。
 なお、広告中で商標を使用することは、商品が市場において、少なくとも販売の申出が行われていることを条件として、「商標の使用」とみなされる。すなわち、商品が市場における販売の申出もなしに広告中において商標が使用されているだけの場合、商標法上の定義にいう「商標の使用」を構成しない。
 
 使用証拠は、権限を有する者からの当該使用を確認、署名する宣誓供述書によって提出されるのが一般的である。宣誓供述書によって確認される主な事項は、商標が使用されている事業、当該商標の使用開始日、当該商標が使用される商品のリスト、当該商標に関する広告活動の性質とそれに関連して発生した経費、インド国内における当該商標が使用される商品の販売業者と配給業者の名称であり、当該商標が使用されてきた代表的な分野が記載されることもある。

 売上高と広告に関する数値は、年単位で示す必要がある。顧客に発行した請求書、伝票、領収書および/またはそれらの写しは、裏付書類となる。新聞、雑誌、定期刊行物その他の広告媒体に表示された広告の見本はすべて、その商標の知名度を示す証拠となる。これらの書類は、すべて、宣誓供述書の添付書類となり、証拠として提出する。この宣誓供述書に加えて、商品と役務の販売業者、配給業者および消費者からの宣誓供述書を提出することも、具体的な顧客の存在を示し、登録官による確認をさらに強化することになるため望ましい。

 個別案件において要求される使用証拠の水準は、商標法における「商標」の要件に照らして、一般則としての商標の識別性等が不適切である程、高くなる。例えば、記述的な語句は不適切であるため、その識別性を立証するには強力な使用証拠が要求される。これは、地理的表示を有する名称または語句やその原産地である商品の製造場所を記述する名称または語句にも当てはまる。姓の場合は、稀な姓であれば、それが識別性を有するに至ったことを示す強力な使用証拠を要求されることはない。

2. 使用中の商標に関する願書における「商標の使用」の陳述
 商標規則25(1)において、商標登録願書は、当該商標を今後使用しようとするのでない限り、当該商標が願書に記載のすべての商品または役務に関して使用された期間および使用者についての陳述を含まなければならないことが明記されており、規則25(2)には、出願日前の「商標の使用」を主張する場合、出願人は、裏付けとなる書類とともに、当該使用について証言する宣誓供述書を提出することが求められている。

 なお、同様に、出願人または商標権者が出願商標または登録商標の使用を裏付ける書類を提出し、当該使用の宣誓を陳述する場合としては、第三者から不使用取消審判請求を受け登録商標の使用証拠を提出する場合や、被異議申立人(出願人)が異議申立の反駁時に自己の出願を支持するために陳述する場合などが挙げられるが、更新時に「商標の使用」の陳述や使用証拠を要求する規定はない。

インドにおける特許新規性喪失の例外

1. 新規性喪失の例外の類型
 インド特許法(以下「特許法」という。)第VI章の第29条から第33条において、先に開示または公表された発明が、後の発明の新規性を喪失させることはない様々な新規性喪失例外の類型が規定されている。

1-1. 先行開示による新規性喪失
(1) 意に反する開示
 発明の特許権者または出願人(以下「特許権者/出願人」と表記する。)が、次の(i)から(iii)を証明する場合には、先行開示によりその発明の新規性は喪失しない(特許法29条(2)(a),(b))。

(i) 先行開示された内容が、特許権者/出願人またはこれらの者が真正かつ最初の発明者でない場合は、正当な権限を有する前権利者から入手されたものであること。
(ii) この内容が、特許権者/出願人またはその前権利者の同意を得ずに開示されていること。
(iii) 特許権者/出願人が、このような自己の発明の開示を知った後、可能な限り速やかに特許出願を提出したこと。

 ただし、適切な試験目的以外の目的で、特許権者/出願人の発明が、その優先日より前に、特許権者/出願人もしくはその前権利者により、または特許権者/出願人もしくはその前権利者の同意を得た他の者により、インドにおいて商業的に実施された場合には、この規定に基づく恩恵は適用されない。

(2) 権利に違反して提出された出願
 正当な出願人の同意を得ずに違反して提出された特許出願の出願人によって、あるいは違反して提出された特許出願の出願人による発明の開示の結果として第三者によって、開示または実施されたという事実によっては、後の正当な権限を有する者による特許出願の新規性が喪失することはない(特許法第29条(3))。

 「(1) 意に反する開示(特許法29条(2)(a),(b))」が正当な出願人による特許出願よりも前の、他人の意に反する「開示」を対象としているのに対して、「(2) 権利に違反して提出された出願(特許法第29条(3))」は、不正な出願人による「特許出願」やそのような「特許出願」の結果による第三者の実施、開示を対象としている。

1-2. 政府への先行伝達による新規性喪失
 発明の内容またはその価値に関する調査のために、政府または政府により委任された者に対して行われた発明の伝達は、その発明の新規性には影響を及ぼさない(特許法第30条)。
 なお、政府または政府により委任された者に対して行われた発明の伝達から、その発明の特許出願の提出までの期限は特に定められていない。

1-3. 公共の展示などによる新規性喪失
 一定の条件に基づき、博覧会または学会における真正かつ最初の発明者またはその者から権限を取得した者による発明の展示、実施または開示の日から12か月以内にその発明の特許出願をする場合には、このような展示、実施または開示によっては、その発明の新規性は喪失しない(特許法第31条)。詳しい説明を以下に示す。

(1) 真正かつ最初の発明者またはその者から権原を取得した者の同意を得て発明が、展覧会で展示される場合、中央政府が官報における告示により特許法第31条の恩恵を適用した展覧会に限り、このような展覧会のための発明の実施および開示に対して、この例外が適用される(特許法第31条(a))。また、博覧会における発明の展示または実施の結果としての発明の説明の公開によっても、新規性は喪失しない(特許法第31条(b))。

(2) (1)の博覧会において展示もしくは実施された後、あるいは博覧会の期間中に、真正かつ最初の発明者またはその者から権原を取得した者による同意を得ないで何人かが行う発明の実施によっても、その発明の新規性は喪失しない(特許法第31条(c))。

(3) 学会において発表された論文における、真正かつ最初の発明者による発明の記載、または真正かつ最初の発明者の同意を得て学会の会報においてなされた論文の公表は、たとえかかる行為の後に特許出願が提出されたとしても、その発明の新規性は喪失しない(特許法第31条(d))。
 なお、学会における発表は、真正かつ最初の発明者による場合だけであって、真正かつ最初の発明者の同意を得た者による発表ではないことに注意すべきである。ただし、学会の会報における論文の公表は、真正かつ最初の発明者の同意を得た者による行為であってもよい。

1-4. 公然実施による新規性喪失
 発明がその優先日前の12か月以内にインドにおいて公然実施されたが、そのような実施が適切な試験のためだけに行われ、その発明の内容に照らしてその試験が合理的に必要であった場合には、そのような実施は発明の新規性を喪失させない。ただし、かかる公然実施は、出願人/特許権者自身により、または出願人から必要な同意を得た第三者により行われなければならない(特許法第32条)。

1-5. 仮明細書の提出後における実施または開示による新規性喪失
 仮明細書に従い提出された完全明細書は、仮明細書に開示された発明が仮明細書の提出日の後にインドその他の場所において開示または実施された場合には、新規性を喪失しない(特許法第33条(1))。同様の規定が、仮明細書の優先権を主張するPCT出願にも適用される(特許法第33条(2))。

2. 新規性喪失の例外の適用を受けるための手続
 新規性喪失の例外規定の適用を受けるためには、審査報告書における拒絶や第三者からの無効化手続において引例による新規性の欠如が指摘された段階で、それに対する反論として新規性喪失の例外規定に該当することを主張することが可能である。なお、特許出願の審査において、特許法第29条から第33条までの規定により新規性を喪失させるものとはみなされない先行技術が、審査報告書において当該発明の新規性を喪失させるものとして引用されたときに、新規性を喪失しないという立証責任は出願人にある(インド特許庁実務及び手続マニュアル09.03.02 10.)。

 2024年3月15日施行のインド特許規則の改正によって第29Aが新設され、特許法第31条に規定された猶予期間(上記1-3項記載の展覧会での展示等)を利用するためには、申請様式31により所定の手数料と合わせて申請することが規定された。

《参考》申請様式31

申請様式31
1970年特許法および2003年特許規則
猶予期間(GRACE PERIOD)
(法第31条および規則第29A)
1. 氏名、住所、国籍、出願番号私/私たち、出願人…………は、…………に提出された出願番号………に関して、第31条に規定された猶予期間の利益を主張する。
2. 適用条文

□ 第31条(a)
□ 第31条(b)
□ 第31条(c) 
□ 第31条(d)
3. 証拠として提出する書類 注: 証拠には宣誓供述書も含まれる場合がある


(i)第31条(a)a) 最初に展示または実施された日付(枠内に日/月/年の形式で記入)
b) 展示は、真正かつ最初の発明者またはその者から権利を得た者の同意を得て行われたか(YESまたはNOを選択)
c) 当該展示は、中央政府が官報で告示することにより本条の規定を適用した産業展示会またはその他の展示会において行われたか

以下の証拠書類を提出する。
…………………………………………
(ii)第31条(b)




a) 最初に公表または実施された日付
b) 上記第31条(a)に関する文書証拠
c) 発明の説明の公表が、第31条(b)に規定する発明の展示または実施の結果として行われたことを示す証拠書類

以下の証拠書類を提出する。
…………………………………………
(iii)第31条(c)






a) 最初に実施された日付
b) 上記の第31条(a)または第31条(b)に関する証拠書類
c) 第31条(c)に規定する発明の実施に関する証拠書類
d) 発明の実施が、真正かつ最初の発明者またはその者から権利を得た者の同意なしに行われたことを示す文書による証拠または宣誓供述書

以下の証拠書類を提出する。
…………………………………………
(iv)第31条(d)






a) 最初に記述または公表された日付
b) 真正かつ最初の発明者が学会で発表した論文における発明の記述
c) 真正かつ最初の発明者またはその同意を得た者により学会の論文集に公表された発明の記述  

以下の証拠書類を提出する。
…………………………………………
4. 保証

この発明は_年/_月/_日からパブリックドメインであり、この申請はその日(第31条(a)、第31条(b)、第31条(c)、または第31条(d)に関して上記で述べた最も早い日付である)から12か月以内に行われた。

上記の事実および事項は、私/私たちの知る限りの情報および誠意に基づいて真実である。
日付:__年__月__日
5. 出願人/権限のある代理人による署名
注:宣誓供述書がある場合は、出願人による署名


署名 ________________

特許庁特許管理官 宛

インドの特許関連の法律、規則、審査マニュアル

No.法令名施行日等法律番号等情報源URL言語
1特許法2021.8.13施行The Patent Act,1970
(2021年改正)
インド特許意匠商標総局https://www.indiacode.nic.in/bitstream/123456789/1392/1/AA1970___39.pdf
日本国特許庁https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/india-tokkyo.pdf
2特許規則12024.3.15施行The Patent Rules, 2003
(2024年改正)
インド特許意匠商標総局https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/ev/rules-index.html
2021.9.21施行特許規則2003年
(2021年改正)
日本国特許庁https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/india-tokkyo_kisoku.pdf
3インド特許庁の特許実務及び手続マニュアル22019.11.26発行MANUAL OF PATENT OFFICE PRACTICE  AND PROCEDURE Ver.3.0インド特許意匠商標総局https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/Images/pdf/Manual_for_Patent_Office_Practice_and_Procedure_.pdf
2011.3.22発行Ver.01.11JETROhttps://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/in/ip/pdf/201103_tokkyo_01.pdf
4コンピュータ関連発明(CRI)審査ガイドライン2017.7版Guidelines for Examination of Computer-related Inventionsインド特許意匠商標総局https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/IPOGuidelinesManuals/1_86_1_Revised__Guidelines_for_Examination_of_Computer-related_Inventions_CRI__.pdf
JETROhttps://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/in/ip/pdf/guidelines_cri_20170630jp.pdf
5医薬品分野における特許出願審査ガイドライン2014.10版Guidelines for Examination of Patent Applications in the Field of Pharmaceuticalsインド特許意匠商標総局https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/IPOGuidelinesManuals/1_37_1_3-guidelines-for-examination-of-patent-applications-pharmaceutical.pdf
JETROhttps://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/in/ip/pdf/guidelines_for_Examination_of_Patent_applications_Pharmaceutical_29Oct2014_jp.pdf
6バイオテクノロジー関連特許出願に対する審査ガイドライン2013.3版GUIDELINES FOR EXAMINATION OF BIOTECHNOLOGY APPLICATIONS FOR PATENTインド特許意匠商標総局https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/IPOGuidelinesManuals/1_38_1_4-biotech-guidelines.pdf
JETROhttps://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/in/ip/pdf/biotech_guidelines_jp.pdf
7伝統的知識及び生物学的材料に関する特許出願処理についてのガイドライン2012.12版Guidelines for Processing of Patent Applications Relating to Traditional Knowledge and Biological Materialインド特許意匠商標総局https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/IPOGuidelinesManuals/1_39_1_5-tk-guidelines.pdf
JETROhttps://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/in/ip/pdf/tradknowledge_draft_jp.pdf

※1 「特許規則」の2024改正版は、本稿作成時点で日本語で公開されていないので、日本語で公開されている最新の2021年改正版を掲載した。2024改正版における主な改正点については下記の資料を参照されたい。
参考資料:「インド特許庁、特許規則を改正し、改正特許規則2024を公表」(JETRO)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/asia/2023/in/20240320r.pdf

※2 「インド特許庁の特許実務及び手続マニュアル」のVer.3.0は、本稿作成時点で日本語で公開されていないので、日本語で公開されている最新のVer.01.11を掲載した。Ver.3.0における、Ver.01.11からの主な改正点については下記の資料を参照されたい。
参考資料:「インド特許庁の特許実務及び手続手引(2019)の2011年版からの主要な改正点について」(JETRO)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/in/ip/pdf/tokkyo_201912.pdf

インドにおいて特許を受けることができない発明

 インド特許法第3条および第4条は、特許を受けることができない発明として、以下を規定する。

1. 取るに足らない発明
 取るに足らない発明、または確立された自然法則に明らかに反する事項を発明としてクレームしても特許を受けることができない(特許法第3条(a))。
 例えば、次の発明がこれらに該当する(インド特許庁実務及び手続マニュアル(以下「マニュアル」という。)09.03.05.01)。

・永久運動を目的とした機械
・インプットなしにアウトプットするとされる機械
・100%の効率性を提供するとされる機械

2. 公序良俗違反
 その主たる用途もしくはその意図された用途または商業的な実施が公序良俗に反し、または人、動物、植物の生命もしくは健康または環境に深刻な悪影響を及ぼす発明をクレームしても、特許を受けることができない(特許法第3条(b))。
 例えば、次の発明がこれらに該当する(マニュアル09.03.05.02)。

・窃盗、強盗を行うための装置、器具、機械、または方法
・紙幣を偽造するための装置または方法
・賭博のための装置または方法
・その使用が、人間、動植物に重大な損害を与える可能性のある発明
・その主たる用途もしくはその意図された用途または商業的実施が、人、動物または植物の生命、または健康に害を及ぼすことが認められる発明(例えば、食品の品質低下の方法)
・その主たる用途もしくはその意図された用途または商業的実施が、十分に受け入れられ、定着している社会的、文化的および法的道徳規範に反するおそれがある発明(例えば、人間のクローン作成のための方法)
・その主たる用途もしくはその意図された用途が、公の秩序を乱すものである発明(例えば、家宅侵入のための装置)

 しかし、クレームされた発明のその主たる目的もしくはその意図された目的、または商業的実施が、人間、動物もしくは植物の生命、健康、または環境に対して重大な損害を及ぼさない場合には、そのような主題は発明であるとみなされ、特許を受けられる可能性がある。例えば、農薬などがその一例である。

3. 単なる発見
 科学的原理の単なる発見、抽象的理論の形成、または現存する生物もしくは非生物的な物質の発見をクレームしても特許を受けることができない。(特許法第3条(c))
ただし、次のように、特許を受けることができる発明とされる場合がある(マニュアル09.03.05.03)。

・科学的原理の発見に関するクレームは発明とみなされないが、このような原理を製造プロセスに利用して、何らかの物質または物品が生じた場合には、そのような原理は発明とみなされる。
・科学理論は自然界に関するものである。これらの理論はそれ自体では、いかに抜本的または革新的な見解を提供したとしても、製品または製造を生ずるものではないことから、発明とはみなされない。しかしながら、理論が、物質または物品の製造の過程において利用可能な実用性を導き出す場合には、特許を受けることができる。
・既知である特定の部材が、機械的衝撃に耐えることができることを見出すことは発見であり、したがって、特許は受けることはできない。しかしながら、その部材から作られた鉄道枕木に関するクレームは、これの例外に反するものではなく、新規性および進歩性が認められた場合には特許が与えられる。同様に、自然界に存在する新しい物質や微生物の単なる発見も、発明ではない(マニュアル09.03.05.03)。

4. 既知の物質についての新たな形態
 以下のカテゴリーは特許を受けることができない(特許法第3条(d))。

・既知の物質について何らかの新規な形態の単なる発見であって当該物質の既知の効能の増大にならないもの
・既知の物質の新規な特性または用途の単なる発見
・既知の方法、機械、または装置の単なる用途の単なる発見

 また、既知物質の塩、エステル、エーテル、多形体、代謝物質、純形態、粒径、異性体、異性体混合物、錯体、配合物、および他の誘導体は、それらが効能に関する特性上実質的に異ならない限り、同一物質とみなされる(特許法第3条(d)「説明」)

 ただし、このような既知の方法によって新規な製品を作り出すことになるか、または少なくとも一つの新規な反応物を使用することになる場合は、特許を受けることができる可能性がある(特許法第3条(d))。

5. 混合
 物質成分の諸性質についての集合に過ぎない「単なる」混合によって得られる物質は、特許を受けることができる発明から除外される(特許法第3条(e))。
 特徴の単なる集合体は、組み合わせ発明とは区別しなければならない。組み合わせ発明は、各特徴または各特徴の集合体が機能的に相互に高めあう関係にある、または、その個々の技術的効果の総和を上回ることを示すことが求められている。組み合わせ発明の特徴であるように、各特徴は機能的に相互に結合していなければならない。したがって、石鹸、洗剤、潤滑油およびポリマー製品等、相乗効果をもたらす混合は、単なる混合とはみなされず、特許を受けることができるとみなすことができる(マニュアル09.03.05.05)。

6. 再配置
 既知の装置の「単なる」配置もしくは再配置または複製であり、これを構成する各装置が既知の方法によって相互に独立して機能するものを発明としてクレームしても特許を受けることができない(特許法第3条(f))。

 特許を受けるには、既知のものに対する改良または既知である複数の異なる事項の結合は、単なる現場における改良以上のものでなければならず、個々に、発明または進歩性の要件を満たさなければならない。特許を受けるには、その改良または結合は、新しい結果もしくは新しい物質、または以前より優れているか、もしくは安価にできる物質を生み出さなければならない(マニュアル09.03.05.06)。

7. 農業についての方法
 農業または園芸についての方法は、特許を受けることができない(特許法第3条(h))。
 例えば、次の発明がこれらに該当する(マニュアル09.03.05.07)。

・例えばグリーンハウスなど、自然現象がその必然的な過程をたどる諸条件の変更を伴う場合を含む、植物の生産方法
・特別なリン酸化合物を含む調合剤を土壌に与えることにより、線虫を含む土壌から改良土を産出する方法
・キノコを生産する方法
・藻類の養殖方法
・雑草を除去する方法

8. 治療的または診断的な方法
 人の内科的、外科的、治療的、予防的、診断的、療法的もしくはその他の処置方法、または動物の類似の処置方法であって、動物を疾病から解放し、またはそれらの経済的価値もしくはそれらの製品の経済的価値を増進させるものは、特許を受けることができない(特許法第3条(i))。
 例えば、次の方法がこれらに該当する(マニュアル09.03.05.08)。

・内科的方法:薬剤の経口投与、注射投与、局所投与、または皮膚パッチによる投与の方法
・外科的方法:白内障手術における無縫合切開
・治療的方法:歯垢のクリーニング方法
・予防方法:予防接種の方法
・診断的方法:診断は、内科的疾患の種類を特定するもので、通常、病歴および症状の調査、ならびに検査をすることにより行われる。健康診断など、個人の身体的情報に関する判断は診断とされる。
・療法的方法:「療法」という語には、疾病の予防および、処置または治療という意味が含まれる。したがって、療法に関する方法は処置の方法であり、特許性がないとみなされる。
・動物を疾病から解放し、またはそれらの経済的価値もしくはそれらの製品の経済的価値を増進させる方法。例えば、羊の羊毛の生産増大を図る方法および家禽の体重増加を人工的に行う方法。

・本規定により特許される主題から除外されるその他のものには、次のものが挙げられる。外科医の技能および知識を必要とする人体への手術で、美容整形、妊娠中絶、精巣の摘出、避妊手術、人工授精、胚移植、生態ドナーの臓器、皮膚または骨髄に対する試験および研究目的の処置またはその除去、および、人体または動物に対して行われる治療または診断、ならびに、堕胎、分娩の誘導、発情期のコントロール、あるいは月経の調整等の方法を含むもの。

 美容目的に過ぎない人体への物質の投与は、治療ではない。
 外科的、療法的、または診断的器械または装置については、特許を受けることができる。また、人工器官および義肢の製造ならびにそれらの人体への適用に係る措置については、特許を受けることができる。

9. 植物および動物
 植物、動物、種子、変種および種の全部または一部は、特許を受けることができない。これには、植物および動物の生産または繁殖のための純粋な生物学的プロセスが含まれる(特許法第3条(j))。

 ただし、自然界から発見されたもの以外の微生物は、特許を受けることができる。例えば、遺伝子操作のされた微生物は、特許に関するその他の要件を満たすことを条件として、特許を受けることができる(マニュアル09.03.05.09)。

10. コンピュータプログラムおよびビジネス方法
 数学的もしくは営業の方法、またはコンピュータプログラムそれ自体もしくはアルゴリズムは、特許を受けることができない(特許法第3条(k))。
 例えば、次の発明がこれらに該当する(マニュアル09.03.05.10)。

・「数学的方法」とは、知的技能による行為であるとみなされている。計算方法、方程式の公式化、平方根および立方根の解明、ならびにその他の数学的方法を直接伴う方法は、特許されない。コンピュータテクノロジーの発展により、数学的方法は、アルゴリズムおよび多様なアプリケーション用のコンピュータプログラムを書き込むために使用されており、特許されたクレームは、数学的方法それ自体ではなく技術的発展に関連するものとして偽装される場合がある。これらの方法は、いかなる方法によってクレームされようとも、特許性がないとみなされている。
・「ビジネス・モデル」は、いかなる方法によってクレームされようとも、特許されない。「ビジネス・モデル」という語句には、商品または役務の取引に関連した営利事業または企業における活動全般が含まれる。クレームが、直接ビジネス・モデルとしてではなく、一見したところインターネット、ネットワーク、人工衛星および電気通信等の一部の技術的特徴により作成されている場合がある。しかし、本除外規定は、全てのビジネス・モデルに適用されるため、クレームが実質的にビジネス・モデルに関連する場合には、技術の活用がある場合にも、かかるクレームは特許を受けることができる主題とはみなされない。

・次に掲げるすべての形態によるアルゴリズムは、これに限定されることなく特許されない。一連の規則、手続もしくは手順またはその他定式化された命令の制限的リストにより示されるその他の方法で、問題の解決に向けられたものであるかどうかを問わず、また、論理的、算術的または計算的方法を採用しているか、あるいは、反復して利用されるものであるか否かを問わず、特許されることはない。

・コンピュータプログラムそれ自体を対象とする以下の発明は、特許を受けることができない。
 a) コンピュータプログラム、命令のセット、ルーチンおよび/またはサブルーチンを対象とするクレーム
 b) コンピュータプログラム製品を対象とするクレーム、命令を含む記憶媒体、コンピュータ読み取り可能な媒体に格納された命令を含むデータベースコンピュータメモリ

11. 文学および芸術作品
 文学、演劇、音楽もしくは芸術作品、または映画作品およびテレビ制作品を含む他の何らかの審美的創作物は、特許を受けることができない(特許法第3条(l))。
 例えば、次の創作物がこれらに該当する(マニュアル09.03.05.11)。

 文学作品、音楽、美術品、絵画、彫刻、コンピュータプログラム、電子データベース、書物、パンフレット、講義、演説、説教、演劇および音楽作品、舞踏、映画、図面、建築、版画、石版術、写真、応用美術、イラスト、地図、平面図、スケッチ、地形に係る立体作品、地勢図、翻訳物、翻案は、特許されない。このような創作物は、1957年著作権法によって保護される。

12. 精神的行為をなすための方法、またはゲームをする方法
 精神的行為をなすための「単なる」計画もしくは規則もしくは方法、またはゲームをするための方法は、単なる精神的なプロセスの結果であり、特許を受けることができない(特許法第3条(m))。
 例えば、次の方法がこれらに該当する(マニュアル09.03.05.12)。

・チェスの遊び方
・教育方法
・勉強方法

13. 情報の提示
 情報の提示に関する発明は特許を受けることができない(特許法第3条(n))。
 言語、信号、記号、図またはその他の表示方法による視覚、聴覚または理解が可能な情報の表示方法、手段または方式は、特許を受けることができない。例えば、スピーチの印刷原稿において下線で強調部分を示し、縦のラインでスピーチをリズミカルにするといった、スピーチを教示する手段は、特許を受けることができない。また、電車の時刻表や100年カレンダーなども特許されない(マニュアル09.03.05.13)。

14. 集積回路
 集積回路の回路配置をクレームする発明は特許を受けることができない(特許法第3条(o))。
 例えば、マイクロチップや半導体チップで使用される電子回路の3次元構成は特許を受けることができない。半導体の配置に関しては、2000年半導体集積回路配置法により保護される(マニュアル09.03.05.14)。

15. 伝統的知識
 事実上、古来の知識である発明、または古来知られた物質の既知の特性の集合もしくは複製である発明は、すでに存在する知識であるため、特許を受けることができない(特許法第3条(p))。
 例えば、創傷治癒のためのターメリックの殺菌性が挙げられる。また、インドゼンダンの農薬および殺虫剤作用も同様である(マニュアル09.03.05.15)。

16. 原子力に関する発明
 1962年原子力法(Atomic Energy Act, 1962)第20条(1)に該当する原子力に関する発明には、特許が付与されない(特許法第4条)。1962年原子力法第20条(1)の規定では、「原子力の生産、制御、利用もしくは処分、または指定物質もしくは放射性物質の探査、採鉱、抽出、生産、物理的もしくは化学的処理、加工、濃縮、被覆もしくは利用、または原子力操業の安全性確保のために有用な、またはそれらに関係する発明」に対して、特許の付与を禁止している。発明がこのようなカテゴリーに属するかどうかを判断する権限は、中央政府(インド原子力省、Department of Atomic Energy, Government of India)に与えられている(「インド特許法第4条に関する調査報告書」JETRO 2015年7月)。

日本とインドにおける特許審査請求期限の比較

1. 日本における審査請求期限
1-1. 審査請求
 日本において特許出願の審査を受けるためには、出願審査の請求を行う必要がある。出願審査の請求は、出願日から3年以内に行うことができ(日本特許法(以下「特許法」という。)第48条の3第1項)、この期限内に出願審査の請求がされない場合は、その特許出願は取下げられたものとみなされる(特許法 第48条の3第4項)。ただし、所定の期間内に出願審査の請求がなされなかったことにより特許出願が取り下げられたものとみなされた場合であっても、その期間を徒過したことについて「故意によるものでない」ときは、出願審査の請求をすることができるようになった日から2か月以内であって、期間経過後1年以内に限り、出願審査の請求を行うことができる(特許法 第48条の3第5項)。

 出願が、国内優先権の主張を伴う場合や、パリ条約による優先権の主張を伴う場合においても、請求期間の起算日は、優先日(先の出願の出願日)ではなく、優先権主張を伴う出願(後の出願)の実際の出願日である(工業所有権法逐条解説 特許法 第48条の3趣旨)。

 PCTルートの場合は、国内書面を提出し、手数料の納付を行った後(外国語特許出願である場合はさらに翻訳文を提出した後)でなければ、出願審査の請求をすることができない(特許法 第184条の17)。この場合、国際出願は国際出願日に出願された特許出願とみなされるので(特許法 第184条の3第1項)、審査請求期限は国際出願日から3年である。
 また、特許出願の分割に係る新たな特許出願、意匠登録出願または実用新案登録出願の変更に係る特許出願、実用新案登録に基づく特許出願については、原出願から3年の期間経過後であっても、分割または変更による特許出願の日から30日以内に限り、出願審査の請求をすることができる(特許法第48条の3第2項)。

 なお、出願審査の請求は、出願人だけでなく、第三者も行うことができる(特許法第48条の3第1項)。

日本特許法 第48条の2 特許出願の審査
特許出願の審査は、その特許出願についての出願審査の請求をまつて行なう。
日本特許法 第48条の3 出願審査の請求
 特許出願があつたときは、何人も、その日から三年以内に、特許庁長官にその特許出願について出願審査の請求をすることができる。
(第2項から第3項省略)
4 第一項の規定により出願審査の請求をすることができる期間内に出願審査の請求がなかつたときは、この特許出願は、取り下げたものとみなす。
5 前項の規定により取り下げられたものとみなされた特許出願の出願人は、経済産業省令で定める期間内に限り、経済産業省令で定めるところにより、出願審査の請求をすることができる。ただし、故意に、第一項に規定する期間内にその特許出願について出願審査の請求をしなかつたと認められる場合は、この限りでない。
(第6項以降省略)

1-2. 優先審査
 出願公開後に特許出願人でない者が業として特許出願の発明を実施している場合には、出願人または特許出願の発明を実施している者は、優先審査を受けるために、優先審査の事情説明書を提出することができる(特許法 第48条の6)。特許庁長官が必要と認める場合には、その出願は、他の出願に優先して審査を受けることができる。
 事情説明書には、特許出願の発明の実施状況等を記載し、根拠となる書類または物件を添付することができる(日本特許法施行規則 第31条の3)。
 
1-3.早期審査
 出願人は、早期審査の申請により、一定の要件の下で通常に比べて早期に特許出願の審査を受けることができる(特許出願の早期審査・早期審理ガイドライン)。これは法定されている優先審査とは異なり特許庁における運用であり、以下の要件を満たす出願が対象とされる。

(1) 出願審査の請求がなされていること
(2) 以下のいずれか1つの条件を満たしていること
 ・中小企業、個人、大学、公的研究機関等の出願
 ・外国関連出願
 ・実施関連出願
 ・グリーン関連出願
 ・震災復興支援関連出願
 ・アジア拠点化推進法関連出願
(3) 特許法第42条第1項の規定により取下げとならないものであること
(4) 代理人が弁理士、弁護士または法定代理人のいずれかに該当すること

2. インドにおける審査請求
2-1. 審査請求
 インドにおいて特許出願の実体審査を受けるためには、実体審査請求を行う必要がある(インド特許法 第11B条(1))。

 実体審査請求は、出願日から、または優先権主張を伴う出願は原出願の優先日から31か月以内に行うことができる(インド特許規則 24B(1)(i))。従来、審査請求期間は、出願日または優先日から48か月以内とされていたが、2024年3月15日施行のインド特許規則の改正によって短縮された。

 期限内に実体審査請求がされない場合は、その特許出願は取り下げられたものとみなされる(インド特許法 第11B条(4))。
 
 なお、インドにおいて実体審査請求を行うことができるのは、出願人または利害関係人である(インド特許法 第11B条(1))。

インド特許法 第11B条 審査請求
(1) 如何なる特許出願についても、出願人または他の利害関係人が所定の期間内に所定の方法により審査請求をしない限り、審査しないものとする。
((2) 以下省略)
インド特許規則 24B(1)(i) 出願の審査
 第11B条に基づく審査請求は、様式18により、出願の優先日又は出願日の何れか先の日から31月以内にしなければならない。
((1)(ii)以下省略)

2-2. 早期審査請求
 インドにおいて出願人は、下記のいずれかの理由に基づき、所定の手数料を添えて早期審査の請求をすることができる。早期審査の請求は、電子送信によって行わなければならない(インド特許規則 24C(1)))。

(1) 出願に関する理由
・国際出願であって、インドが管轄国際調査機関として指定されているか、または国際予備審査機関として選択されている。
・中央政府の各省庁の長からの要請に基づいて、中央政府が通知した分野に関連する出願である。

(2) 出願人に関する理由
・スタートアップ企業である。
・小規模事業体である。
・自然人であり、かつ女性である。出願人が複数の場合は、全てが自然人であり、かつ少なくとも一人が女性である。
・政府の各省庁である。
・政府により所有または管理されている、国法、地域法または州法により設立された機関である。
・2013年会社法(18 of 2013)第2節の条項(45)に定義される国有会社である。
・政府によって全額または実質的に資金提供されている機関である。
・出願人がインド特許庁と外国特許庁との間の協定に従って特許出願を処理するための取決めに基づく資格を有する。

◆日本とインドの特許審査請求期限を比較すると、以下のようになる。

日本インド
提出期間3年31か月
基準日・優先権主張の有無に関わらず日本の出願日・インドの出願日 ・優先権が主張されている場合は優先日