ホーム ID-dm-2440

インドネシアにおける非アルファベット文字を含む商標の取扱いについて

1.背景
 インドネシアは、AからZまでの26文字からなるアルファベットを使用し、言語はインドネシア語(バハサ語)である。漢字、ひらがな、カタカナ、アラビア語、タイ語などのアルファベット以外の外国語文字からなる商標も、インドネシアで保護することができる。外国語文字とアルファベットとの審査に相違はない。審査を容易にするために、外国語文字を含む標章の出願は、アルファベットを使用して読めるように、標章の翻訳および翻字(音訳)が必要である。翻訳と翻字は、その言語を話さない人が当該文字をどのように認識すべきかについての情報を提供することが、商標の登録可能性を決める。
 出願された商標がバハサ語ではなく外国語文字である場合、出願人は商標出願フォームの「商標の説明」欄に翻訳と翻字を記入しなければならない。その際に宣誓する必要はない。なお、出願人は、外国語文字の直訳ではなく「出願人の名前」または「意味なし」として翻訳することができる。方言によっては、標準的な称呼以外の場合があり、例えば、漢字は、標準的な中国語の称呼ではなく、特定の方言を使用した称呼を翻字することができる。
 標章の翻訳および翻字に宣誓を提供する必要がないため、審査官は、出願人が提供する情報だけに頼ることなく、積極的に検索エンジンを使って外国語文字の観念や称呼を調査する。翻訳および翻字を提出しないことはただちに悪意のある出願とはされないが、上記調査によって、類似とされる可能性はある。また、アルファベットを使用するインドネシアの取引の過程で使用されることを考慮すれば、強力な商標保護を得るために実際の翻訳および翻字を提出することが重要である。

2.標章の類似性を判断する方法に関する標章の審査の基本的な考え方
 インドネシアでは、商標登録は、2020年の雇用創出法第11号によって改正された2016年の商標及び地理的表示法第20号(以下、改正商標法)と大臣規則第12/2021号によって改正された商標登録に関する2016年の大臣規則第67号(以下、改正商法規則)によって規制されている。
 改正商標法第20条には、絶対的拒絶理由に該当する場合、例えば、商標が対象となる商品/役務の説明、または単なる言及に過ぎない、識別性が欠如している、誤解を招く可能性がある、一般名称、公有財産の象徴となっているものなどの商標を登録することはできないことが規定されている。さらに、改正商標法第21条には、他者が既に所有する商標又は周知商標と同類の商品・役務において、出願標章の要部または全体が類似する商標、および出願人が(有名な評判に便乗するためまたは有名な商標の登録を阻止するための)悪意を持って出願した商標は拒絶されることが規定されている。
 すなわち、類似性判断は、標章の形状、配置、書き方又はそれらの組み合わせのいずれかにおいて、類似した印象を与える支配的な要素の存在と、最も重要である称呼の類似性を考慮して判断される。さらに、商品・役務の類似性判断では、改正商標規則第17条に記載の以下を考慮して、商品と商品、商品と役務または役務と役務の類似性が考慮される。
1) 商品および/または役務の性質、
2) 商品の使用目的および使用方法、
3) 商品および/または役務の相補性、
4) 商品および/または役務の競合、
5) 流通経路、
6) 関連する消費者、または、
7) 商品および/または役務の製造の由来。

 類似性を判断する過程を以下の図に示した。

図1. 類似性判断の過程

 類似性を判断するための最初のステップは、標章を構成する要素を分解することである。その後、分解された要素の中で最も優位な要素を特定し、その要素が本質的に登録可能かどうかを分析する。登録可能な場合、その要素に類似する先行商標がないかどうかを調べる。支配的な要素が複数ある場合、各要素の類似性を調査する。先行商標が発見された場合、出願標章と先行商標を比較し、総合的に判断する。類似している場合は、商品と商品、商品と役務、役務と役務の競合の可能性をチェックする。すなわち、全体的に類似度が高く、悪意があると判断される場合には、分類を超えた審査が行われる。支配的要素の類似、全体的な印象の類似、商品・役務の先行商標がある場合、出願商標は拒絶される。

・主要要素の類似性による拒絶例

 類似性を判断する場合、審査官は、標章をいくつかの要素に分解し、どの要素が支配的(特徴的)であるかを特定する。上記「MATAHARI POWER」の事例では標章を構成する要素は、「太陽の図形」、「MATAHARI」、「POWER」である。この標章は、第11類の商品、すなわち太陽集光装置、暖房、照明に使用される。第11類には、「PENTA POWER」、「POWER PUNCH」、「RAID POWER」など、「POWER」を組み合わせた登録が存在することから、「POWER」はそれほど支配的ではない。審査官は第11類で「matahari」という先行図形商標を見出したことから拒絶した。
 このように、全体から要部を切り離して判断する例が多い。なお、要部の認定については明記されていないが、分解された要素の中で最も支配的な要素、すなわち、特徴的な部分である。

3.外国語、外国語文字、カタカナで構成された標章の審査
 外国語文字を含む商標についても同様の方法が適用される。審査官はまず、翻訳と翻字が正しいか、または誤解を招くものではないかを確認する。翻訳と翻字が正しい場合、審査官は、その翻訳と翻字が絶対的拒絶理由等に該当するか否かの改正商標法第20条の不登録事由について判断する。第20条に合格した場合、審査官は、出願商標が相対的拒絶理由等を規定する第21条の不登録事由に該当するか否かを判断するために、先行商標の有無の調査を続行する。出願人が提供した翻訳と翻字とが正しくない場合、審査官は、機械翻訳と画像検索を使用して主にインターネットを調査し、取得した正しい観念と標章の称呼に基づいて、固有の登録可能性と利用可能性を評価する。

・出願人が提供した翻訳・音訳に基づく外国語文字商標の拒絶例

 上記の例は、称呼が類似することから拒絶された。これらの標章は、「RUNNING MAN」を除いて、概念と外観が異なるが、称呼類似が類似判断において支配的であることを示す。

・翻訳・翻字が同じであることを理由に拒絶された日本語の標章の拒絶例

 以上の例から、日本語を含む外国語文字からなる商標の実体審査は、アルファベットからなる商標の実体審査と同様の方法で行われると考えられる。出願人は、外国語文字商標の翻訳と翻字を提供する必要があるが、これらは情報としてのみ使用される。審査官は、自ら調査を行い、翻訳と翻字が正しいかどうかを確認し、調査結果に基づいて先行商標が見つかった場合は引用を示して、拒絶理由を通知する。

 出願人は宣誓を提供する必要はないが、外国語文字商標はアルファベットを使用する消費者によって取引の過程で使用されるため、強力な商標保護を得るためには、実際の標準的な翻訳を提供することが重要である。

インドネシアにおける商標制度・運用実態について

 「インドネシアにおける商標制度・運用に係る実態調査」(2022年3月、日本貿易振興機構 バンコク事務所(知的財産権部))

目次
第1章 はじめに P.7

  1. 背景、目的 P.7
  2. 調査概要 P.8

第2章 インドネシアにおける商標制度 P.12

  1. 出願統計 P.12
    (2017年から2021年8月までの商標出願件数の統計および分析結果を解説している。)
    1.1. 2017年から2021年8月までの年別商標出願件数 P.12
    1.2. 2017年から2021年8月までの非伝統的商標の出願件数 P.13
    1.3. パンデミック期間中の出願件数 P.13
  2. 商標法等の改正動向 P.15
    (2016から2020年の商標法等の改正動向、審査基準等について解説している。)
    2.1. 商標法 P.15
    2.2. 雇用創出に関する2020年法律11号(オムニバス法) P.20
    2.3. 商標の審査基準 P.27
    2.4. 電子出願 P.32
  3. インドネシアの商標制度を理解する上での前提 P.34
    (インドネシア商標に関する法律および規則、法的枠組み、制度概要等について解説している。)
    3.1. インドネシアにおける商標を規制する法律および施行規則 P.34
    3.2. 法的枠組み-国際標準と比較 P.35
    3.3. インドネシアにおいて商標を担当する当局 P.36
    3.4. インドネシアにおける商標制度 P.36
    3.4.1. 先願主義 P.37
    3.4.2. 商標の使用およびその宣言書または陳述書の要件 P.37
    3.4.3. 優先権主張の可否 P.37
    3.4.4. 多区分出願の可否 P.38
    3.4.5. 分類/指定商品役務 P.38
    3.4.6. 権利不要求(disclaimer)制度の有無 P.39
    3.4.7. 団体商標制度の有無 P.39
    3.4.8. コンセント制度の有無 P.39
    3.4.9. 情報提供制度の有無 P.40
    3.4.10. 商標の保護期間 P.40
    3.4.11. 商標権者に認められる権利 P.40
  4. 商標の保護対象 P.41
    (保護対象、非伝統的商標に関する留意点について解説している。)
    4.1. 商標の定義・保護対象 P.41
    4.2. 非伝統的な商標に関する留意点 P.42
  5. 審査フロー P.44
    (出願から更新手続までの審査フロー(フローチャートあり)、拒絶理由通知に対する応答期限の延長等について解説している。)
    5.1. 商標出願手続のフローおよび手続期間 P.44
    5.2. 商標審査フロー P.45
    5.2.1. 方式審査段階 P.45
    5.2.2. 分類/指定商品役務審査段階 P.46
    5.2.3. 実体審査段階 P.46
    5.2.4. 不服申立て P.47
    5.2.5. 登録段階 P.48
    5.2.6. 更新手続 P.48
    5.3. 拒絶理由通知に対する応答期限の延長 P.49
    5.4. 早期審査制度の有無 P.50
    5.5. 記録 P.50
    5.5.1. 譲渡 P.50
    5.5.2. 住所・名称の変更 P.51
    5.5.3. ライセンス契約 P.52
  6. 方式要件 P.54
    (出願要件、オンライン手続等について解説している。)
    6.1. 商標出願の要件 P.54
    6.1.1. 直接出願 P.54
    6.1.2. マドプロ出願 P.56
    6.2. オンラインシステムによる手続が必要とされる各種手続(出願・中間・登録後) P.56
  7. 指定商品・役務の審査 P.58
    (指定商品・役務の審査方針、直接出願とマドプロ出願の相違点について解説している。)
    7.1. 採択可能な商品・役務について P.58
    7.2. 指定商品・役務の審査指針 P.59
    7.3. 直接出願とマドプロ出願との相違点 P.60
  8. 絶対的拒絶理由(識別性)の審査 P.61
    (識別性の審査方針、権利不要求制度等について解説している。)
    8.1. 商標法における識別性の定義 P.61
    8.2. 商標の識別性審査指針 P.61
    8.3. 登録例または拒絶例 P.61
    8.4. 使用による識別性の立証 P.63
    8.5. 権利不要求制度 P.64
  9. 相対的拒絶理由の審査 P.65
    (類似性の審査について拒絶事例を挙げて解説している。また、周知商標の保護、悪意の出願、コンセント制度についても解説している。)
    9.1. 商標類似性審査手続 P.65
    9.2. 登録例または拒絶例 P.66
    9.3. 周知商標の保護 P.67
    9.4. 悪意の商標出願 P.71
    9.5. コンセント制度 P.71
    9.6. 直接出願とマドプロ出願との相違点 P.72
  10. 異議申立て、無効取消、不使用取消制度について P.73
    (異議申立て、無効取消請求、不使用取消について解説している。)
    10.1. 商標出願に対する異議申立て P.73
    10.2. 登録商標の無効取消請求 P.75
    10.3. 登録商標の登録取消(不使用取消) P.77
  11. 登録後の注意事項 P.78
    (登録後の注意事項、ライセンスの登録、更新等について解説している。)
    11.1. 登録後の対応 P.78
    11.2. 登録された形態に準拠しない使用-登録取消のリスク P.78
    11.3. 住所または商標権者の変更の記録 P.79
    11.4. ライセンスの登録 P.79
    11.5. インドネシアにおける「®」および「TM」記号の使用 P.80
    11.6. 商標の更新(商標法35条2項、3項および4項) P.80
  12. エンフォースメント P.81
    (商標権侵害の対策として、民事、刑事訴訟について6件の判例を用いて解説している。また、税関による水際対策、電子商取引、未登録周知商標についても解説している。)
    12.1. 商標権のエンフォースメントの概要 P.81
    12.2. 民事上および刑事上の商標権侵害訴訟の実務 P.85
    12.3. エンフォースメント事例 P.86
  13. 知財庁が提供するオンラインツールの概要 P.111
    (知的財産総局のオンラインデータベース、電子出願システムについて解説している。)
    13.1. 商標局オンラインデータベース P.111
    13.2. 知財総局電子出願システム P.115
  14. 料金 P.120
    (商標手続に関連する料金の一覧表を紹介している。)

インドネシアにおけるマドリッド協定議定書に基づく国際商標出願に関する手続

 「マドリッド協定議定書に基づく国際商標出願に関する手続の情報収集作業報告書」(2020年2月、発明推進協会)II.インドネシア

(目次)
II.インドネシア
(インドネシアにおける商標手続(方式要件、実体審査の流れ(フローチャートおよび暫定的拒絶通報、保護認容声明の見本と翻訳あり)、異議申立、審判請求、取消訴訟、抹消申請)について、関連する法律に基づき紹介している。また、国際登録による国内登録の代替、国内出願への変更、マドリッド協定議定書に関する宣言、インドネシアの特徴的な制度(標準文字指定、標章(立体、音声)の説明に関する要件、商標所有権宣言書)、インドネシア知的財産総局(DGIPR)ウェブサイトでの商標検索および有効な指定商品・役務名の確認手順について紹介している。)

1.商標法の動向等 p.45
2.標章の定義 p.45
3.出願時の留意点(方式要件等) p.46
4.審査 p.49
5.暫定的拒絶通報を受領した場合の国際登録出願名義人の応答手続 p.57
6.拒絶理由解消後または拒絶理由が存在しない場合の登録までの概略 p.58
7.登録 p.61
8.登録後の注意事項 p.62
9.異議 p.63
10.審判請求・取消等 p.65
11.権利行使 p.67
12.マドリッド協定議定書に基づく国際登録に特有な制度の取扱い p.68
13.マドリッド協定議定書に関する宣言 p.69
14.インドネシアの特徴的な制度 p.70
15.インドネシア知的財産総局(DGIPR)のウェブサイト等から入手可能な情報 p.72

インドネシアにおける冒認商標出願の実態調査

 「ASEAN主要国における冒認商標出願の実態調査」(2020年3月、日本貿易振興機構(JETRO)バンコク事務所知的財産部)

(目次)
第2章 各国の冒認出願に対する制度
VI. インドネシア P.45
(所管庁の概要、商標出願手続(フローチャートあり)について関連する法律に基づいて紹介している。審査段階では冒認出願に関する審査は行っていないが、商標法では悪意による出願は拒絶する等の規定はある。また、無効審判制度は存在しないが、冒認出願により登録された商標を取消すには商務裁判所に訴訟を起こすことができる。)

第3章 各国における冒認出願事例
VI. インドネシア P.136
(日本企業と関係する5件の商務裁判所の判例と、拒絶された審査例の概要を紹介している。)

第4章 各国における冒認出願を防止するための事前的手段
VI. インドネシア P.154
(具体的な対策(適時の商標出願・登録、冒認出願の監視)について紹介している。)

第5章 各国における冒認出願に対する事後的手段
VI. インドネシア P.169
(法的手段(商務裁判所への訴えの概要、統計)、実務上の留意点(証拠収集の方法、譲渡交渉)について紹介している。)

インドネシアにおける商標の識別性に関する調査

 「ASEAN主要国における商標の識別性に関する調査」(2020年3月、日本貿易振興機構(JETRO)バンコク事務所知的財産部)

(目次)
第2章 各国の商標審査制度
Ⅵ.インドネシア p.57
(所管庁の概要、出願から登録までの審査手続について説明(フローチャートあり)、商標の識別性に関する関連法規、商標の識別性に関するガイドライン、制度・運用に関する留意点(他国であれば拒絶される可能性がある商標のインドネシアで登録された例の紹介)、識別性に係る審査判断に対する反論手段、ディスクレーム制度(制度の採択なし)、商標権の効力が及ばない範囲について紹介している。)

第3章 事例紹介及び考察
Ⅵ.インドネシア p.118
(3件の商務裁判所の判決概要とメニューやサービス形態を商標登録した事例を紹介している。)

インドネシアにおける商標出願への拒絶理由通知に対する応答

記事本文はこちらをご覧ください。