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インドネシアにおける意匠の新規性の判断と新規性喪失の例外

【詳細】

(1)工業意匠法に基づく新規性

 インドネシアにおける工業意匠は現在、工業意匠に関する法律第31号(2000年12月20日制定、2001年6月14日施行;「工業意匠法」)により保護されている。それまでは工業意匠は法的に保護されていなかった。工業意匠法は第2条で、以下の通り、意匠出願は新規性要件を満たさなければならないと定められている。

 

インドネシア工業意匠法第2条

(1)意匠権は、新規な意匠に対して与えられる

(2)意匠は、出願日において事前に公表された意匠と同一でない場合は、新規であるものとみなされる

(3)(2)の規定における事前の公表とは、次の日以前、インドネシアの国内または国外で公開または使用されたことを意味する

 (a)出願日、または

 (b)出願が優先権を伴う場合は、優先日

 

 上記規定に基づき、意匠出願の新規性は、出願日または優先日(優先権を主張する出願の場合)前にインドネシア内外で開示された同一意匠の有無に基づき判断が下される。

 

(2)工業意匠法による新規性喪失の例外

 意匠出願が出願日または優先日前に既に開示されている場合について、工業意匠法第3条は以下の通り定めている。

 

インドネシア工業意匠法第3条

 意匠は、その出願日前6ヶ月以内に次の項目に該当する場合は、公開されたものとはみなされない。

 (a)インドネシア国内または国外における公のまたは公とみなされる国内または国際博覧会において展示される場合、または

 (b)教育、研究、開発の目的で創作者によって試験的に国内で使用された場合

 

 工業意匠法第3条の解説によると、「公の展示(an official exhibition)」とは、インドネシア政府が開催する展示会を意味し、「公とみなされる展示(an exhibition deemed to be official)」とは一般市民によって開催され、インドネシア政府が承認または認可した展示会をいう。

 

(3)職権審査

 工業意匠法の規定では、出願が要件を満たす場合、その出願は公開されることとなっている。公開から3ヶ月以内は、何人も当該出願に対して異議を申し立てることができる。異議が申し立てられた場合、出願人は異議答弁書を提出する機会が与えられる。この場合、意匠審査官は異議申立と異議答弁を考慮に入れた実体審査を行い、結論を下す。第三者からの異議申立がない場合、当該出願は新規性に関する審査を受けることなく自動的に登録される。

 

 新規性審査を行わない登録制度により、新規性を欠いた多くの意匠が登録され、その結果、権利濫用の弊害を伴う制度となった。2004年、インドネシア知的財産総局(DGIPR)は、公告期間(3ヶ月)後に意匠出願の新規性について職権審査を行うことで、この問題を最小限にする措置を取った。新規性審査は、意匠審査官が登録簿その他既存の引例について調査を行う。

 

 当該意匠出願は新規なものであると審査官が判断する場合、その出願は庁指令書が発行されることなく登録される。しかし、審査官が当該意匠出願について、新規性が欠如すると判断した場合、庁指令書(拒絶理由通知)が発行され、出願人はかかる庁指令書の受領日から30日以内に答弁書を提出しなければならない。審査官は出願人の主張を踏まえて決定を下す。DGIPRの拒絶決定に不服の場合は、拒絶査定の日から3ヶ月以内に商事裁判所(Pengadilan Niaga)に不服を申し立てることができる。

 

(4)新規性の判断

 この職権審査が開始されたことにより、実務家の間では類否判断について疑問が生じている。つまり、審査官はどのように2つの意匠の類似性を判断しているのか、という点である。新規性を審査するにあたり、意匠審査官はDGIPR内のガイドラインとして「実体審査の技術指針」を使用している。この指針は、意匠審査官が先行例に対する類似性と新規性欠如など、新規性を判断する際の基準を示している。

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 上図によれば、工業意匠法第2条(2)における「同一」とは、「似ているが、微細な部分すなわち一部の要素の寸法、色、位置が異なる」ことを意味する。したがって、DGIPRによる類似性判断の余地は非常に狭いと言える。先行意匠の形状や輪郭と相当な相違がある場合、DGIPRはその意匠を新規とみなす。

 

 このような基準にもかかわらず、実際の類似性の判断は非常に主観的な場合がある。類似性判断はDGIPR、法執行官(判事や警察など)、そして専門家証人によって異なる場合がある。以下に、類似性判断の例外的なケースをいくつか紹介する。

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○今後の動向

 上記の事例以外にも、インドネシアでは工業意匠権の権利行使について法的不透明性をもたらすことになるような事例が多い。この法的不透明性ゆえに、多くの企業は工業意匠権では自らの権益を守れないとして、工業意匠による保護に魅力を感じなくなっている。

 

 現行の工業意匠法を改善するとともに、この問題を解決するため、同法の見直しが進んでいる。現在の工業意匠改正法案には以下の点が含まれる。

 

(1)工業意匠の定義の見直し

 現行法では、工業意匠とは「形状、輪郭または立体もしくは平面形状における線または色彩からなる構図もしくは線および色彩またはそれらの組合せに関する創作……」である(第1条第1項)。現在この定義は、工業意匠は「形状、輪郭、線および/または色彩からなる構図」だけでなく、DGIPRに出願される意匠仕様および図面に表現される一切の要素を含むように見直されている。

 

(2)新規性の判断と審査手続き

 現行法は新規性判断やこれまで行われてきた新規性審査実務について定めていないが、見直しでは現在の実務に法的根拠を与えるためにこれらを含んでいる。

 

(3)ハーグ協定への加盟

 加盟国との調和を推進するため、ASEANは2015年までに政治・安全保障共同体、経済共同体、社会・文化共同体を通じて加盟国を統合するASEAN共同体の創設を計画している。地域経済統合の目標は、ASEAN経済共同体(ASEAN Economic Community : AEC)である。この目標を達成するため、ASEAN諸国はIP(知的財産)と2015年のASEAN経済共同体(AEC)を通じて、この地域を革新的で競争的な地域に変えることを目指す行動計画を採択してきた。ASEAN知的財産権行動計画2011~2015には、インドネシアを含む7加盟国によるハーグ協定への加盟が含まれる。したがって、インドネシアが2015年までにハーグ協定に加盟することは義務となり、現在検討されている工業意匠改正法案はハーグ協定加盟を想定したものとなることが見込まれている。