インドネシアにおける特許制度のまとめ-実体編
1. 特許制度の特徴
(1)特許および実用新案(簡易特許)の実体審査請求の提出時期
特許法第51条は、特許についての審査請求は出願日から36か月以内に提出しなければならないことを規定しており、実体審査は公開期間が終了した後に実施される。
特許法第122条は、実用新案についての審査請求は出願と同時に行わなければならないと規定している。
(2)実体審査
特許法第62条および特許規則第73条、第74条は、実体審査報告書(SER: Substantive Examination Report)において理由および先行技術文献を明確かつ詳細に通知することを規定している。出願人は、SERの発行日から3か月以内に回答しなければならないが、最大2か月、さらに手数料の支払いにより追加の1か月の延長が認められる。また、緊急事態の場合は上記期間徒過後、さらに6か月の猶予が認められる。
実体審査は、実体審査ガイドライン注1で言及されているが、発明の明確さ、発明の単一性、および発明の特許性について実施される。
(3)出願の変更
特許出願の変更に関する規定は、特許法第39条、第40条および特許規則第50条~第52条にある。
出願の変更は、出願データの変更、発明の明細書と請求項の変更、特許から実用新案への変更およびその逆の実用新案から特許への変更について行うことができるが、変更により発明の範囲が拡大することは許されない。
変更が可能な時期は、方式審査、実体審査の期間中で、権利の付与前である。
(4)守秘義務
特許法第45条に規定されるように、発明者および出願人を除き、すべての出願書類は機密情報として扱われる。
意図的に、その権利の無い者が機密の申請書類を漏洩した場合は、特許法第164条の規定により、最大2年の懲役刑が宣告される。
(5)コンピュータープログラムの特許性
特許法第4条(d)に規定されるように、コンピュータープログラムのみを内容とする規則および方法は特許性がないものとされる。
コンピュータープログラムのみを内容とする規則および方法とは、文字、技術的効果および問題解決を含まないプログラムのみによるものを示す。
同第4条(d)の逐条解説(法文末尾に添付されている)および実体審査ガイドラインでは、コンピュータープログラムに有形または無形の問題解決につながる技術的効果または機能を備えている場合は、特許を取得できるとしている。請求項は、プログラムが実行されるプロセスの特許性を保証するすべての機能を定義する必要がある。
(6)遺伝資源および伝統的知識の出所開示
特許法第26条は、発明が遺伝資源および伝統的知識に由来する場合、遺伝資源および伝統的知識が他国に勝手に取得され、アクセスと利益配分(ABS: Access Benefit Sharing)が阻害されないために、遺伝資源および伝統的知識の起源を明確かつ正確に明細書に記載することを求めている。また、遺伝資源および伝統的知識に関する情報は、政府が承認した公的機関により確定されるとしている。
注1:実体審査ガイドラインは代理人、出願人等の関係者に提供されているが、インドネシア知的財産権総局(DGIP)は一般には公開していない。
関連記事:
「日本とインドネシアにおける特許審査請求期限の比較」(2019.12.10)
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「インドネシアにおける特許出願の補正の制限」(2019.10.21)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17812/
「インドネシアにおける特許出願の実体審査と特許庁からの指令書に対する応答期間」(2019.09.03)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17669/
「インドネシアにおける特許出願制度概要」(2019.06.25)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17465/
「インドネシアにおける実用新案出願制度概要」(2019.06.25)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17467/
「インドネシアにおけるコンピュータソフトウエア関連発明等の特許保護の現状」(2019.01.15)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16393/
「インドネシアにおける微生物寄託に係る実務」(2018.04.05)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/14776/
2. 発明の保護対象
特許法第1条(2)は、「発明」とは、技術分野における特定の問題解決活動に製品(物理的実在物、物体)またはプロセス(製品を生産するまたは使用する活動)、あるいは製品またはプロセスの改良および開発の形で組み込まれる発明者の思想を指すと規定している。
特許法第4条は、特許性のない発明を次のように規定している。
(a) 審美的創作;
(b) 図式;
(c) 以下の活動を行うための規則及び方法:
i. 精神活動に関わるもの;
ii. 遊戯;及び
iii. ビジネス
(d) コンピュータープログラムのみを内容とする規則及び方法;
(e) 特定の情報についての発表、及び;
(f) 以下の発見:
i. 既存の及び/又は既知の製品の新規用法;及び/又は
ii. 既存の化合物の新たな形態であって、有意な効能の改善が認められず、その化合
物の既知の関連する化学構造との差異がないもの
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「インドネシアにおけるコンピュータソフトウエア関連発明等の特許保護の現状」(2019.01.15)
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「インドネシアにおける医薬用途発明の保護制度」(2018.03.29)
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3. 特許を受けるための要件
特許および実用新案を取得するための要件は、特許法第3条、第24条(3)および第25条(3)、(4)ならびに特許規則第83A条および第84で規定されている。
特許の場合、発明は、特許性(新規性、進歩性および産業上の利用可能性)、発明の単一性および発明の明確性と一貫性の要件を満たさなければならない。
実用新案の場合、新規の発明であり、既存の物または方法の発展であり、産業上利用可能であることが要件である。
特許法第5条は、新規性について次のように規定している。
(1) 発明は、出願日において当該発明が前に公表された技術と同一でないとき、第3条(1)項における新規性を有するとみなされる。
(2) (1)項における前に公表された技術とは、以下に掲げる日より前に、インドネシア国内又はインドネシア国外において書面、口頭又は展示、使用又はその他の方法で専門家が当該発明を実施できるように公表されている技術である。
(a) 出願日;又は
(b) 優先権を伴う出願の場合は優先日
(3) (1)項における前に公表された技術には、インドネシアにおいて申請された他の出願であって、当該審査中の出願の出願日又はそれ以後に公開されるが、審査中であって、他の出願の出願日が当該審査中の出願日又は優先日よりも前の出願の書類を含む。
さらに、特許法第7条および第8条で規定されているように、発明がその分野の専門知識を有する者が事前に予測することができなかったものである場合、進歩性を有すると見なされ、また、発明は、出願に記載されているように産業に適用できる場合、産業上利用可能であると見なす。
また、特許法第9条には特許を受けることができない発明を次のように規定している。
(a) その公表、使用又は実施が、法規、宗教、公共の秩序又は道徳に反する方法又は物;
(b) 人及び/又は動物に対する検査、看護、治療及び/又は手術の方法;
(c) 科学及び数学の分野における理論及び方法;
(d) 微生物を除く生物;又は
(e) 植物又は動物の生産に必須の生物学的方法。ただし、非生物学的方法又は微生物学的方法を除く。
関連記事:
「インドネシアにおける特許審査基準関連資料」(2016.02.02)
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4. 職務発明の取り扱い
特許法第12条は、特段の合意がない限り、業務上の関係で生み出された発明の特許権者は、業務を提供する当事者(雇用者)であると規定している。上記発明者は、発明から得られる経済的利益を考慮し、雇用者と発明者との間の合意に基づいて補償を受ける権利を有する。
関連記事:
「インドネシアにおける営業秘密ならびに職務発明、職務著作および職務意匠の保護」(2017.03.15)
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「インドネシアにおける共同開発契約」(2017.03.10)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/13236/
5. 特許権の存続期間
特許件および実用新案権の存続期間は特許法第22条、第23条に規定されており、特許は出願から20年、実用新案は出願から10年であり、期間の延長は認められていない。
関連記事:
「インドネシアにおける失効した特許権の回復手続」(2021.01.07)
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「インドネシアにおける特許出願制度概要」(2019.06.25)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17465/
「インドネシアにおける実用新案出願制度概要」(2019.06.25)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17467/
補足:
インドネシア特許法2016年(雇用創出法2020年第11号により改正された特許法2016年第13号)は、Rouse International Limitedの情報(https://rouse.com/insights/news/2020/indonesia-the-new-omnibus-law-on-job-creation-and-amendments-to-ip-laws)によれば、旧特許法第20条に規定された特許実施要件を緩和し、「製品の製造または方法の使用」に加え、「製品の輸入またはライセンスの供与」を含むとされたほか、実用新案(簡易特許)の適用範囲を明確化し、公開期間を14日間とし、裁定までの期間を短縮化(12月を6月に短縮)したとしている。
インドネシアにおけるコンピュータソフトウエア関連発明等の特許保護の現状
「各国における近年の判例等を踏まえたコンピュータソフトウエア関連発明等の特許保護の現状に関する調査研究報告書」(平成29年11月、日本国際知的財産保護協会)第2部O
(目次)
第2部 各国におけるコンピュータソフトウエア関連発明等の特許保護の現状
A. 総括
1 各国・地域の制度・運用の概要一覧表 P.11
O. インドネシア P.301
1 法律、審査基準 P.301
1.1 発明の定義及び/又は特許可能な発明の定義 P.301
1.2 発明が特許されるための要件 P.301
1.3 CS関連発明等の定義 P.302
1.3.1 CS関連発明の定義 P.302
1.3.2 BM関連発明の定義 P.303
1.4 CS関連発明等が特許可能な発明として認められるか P.303
1.4.1 CS関連発明 P.303
1.4.2 BM関連発明 P.303
1.5 CS関連発明等の特許性の審査基準 P.303
1.5.1 保護適格性の審査基準 P.303
1.5.2 進歩性の審査基準 P.304
1.6 CS関連発明等の審査基準における特記事項 P.304
1.7 保護対象として認められる可能性のあるCS関連発明等のクレーム形式 P.304
2 歴史的変遷 P.305
インドネシアにおけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈の実務
実体審査における解釈
「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」は、製造方法の観点で定義された製品をクレームする。
「方法により特徴づけられる製品クレーム(プロダクト・バイ・プロセス)」に関する特許庁の審査ガイドラインのセクション5.2.6において、以下の通り述べられている:
「特定の方法により製品が製造され、かつ当該方法が新規であっても、当該製品が新規であることを必ずしも意味しない。すなわち、当該方法によって製造されることで、必ずしも当該製品が新規な特徴を有するわけではない。」
「例:ペンの製造方法は、より速く、より効率的な新規製造方法へと改良することができる。しかし、当該新規製造方法で製造されたペンは、従来のものと同じペンである。つまり、製品が新規である場合、その製造方法も新規である。しかし、製造方法が新規であっても、当該製造方法によって製造された製品は必ずしも新規ではない。」
権利行使における解釈
1.2016年特許法(第13号)第19条が、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに関連すると考えられる。その文章の解釈は曖昧であるが、特許方法から得られる製品の保護に適用される可能性がある。その理由は、第19条(1)aに言及する第19条(1)bの最終部分である(以下に示す下線部を参照)。
インドネシア特許法第19条
(1)特許権者は、自己の特許を実施する排他的権利を有し、かつ、その許諾なしに次に掲げる行為をすることを他の者に禁止する。
(a)製品特許の場合:特許製品を製造し、使用し、販売し、輸入し、賃貸し、配送し、または販売、賃貸または配送を提示すること;
(b)方法特許の場合:製品を製造するため、または上記(a)にいう製造以外の行為をするために特許が付与された製造方法を使用すること
(2)上記(1)(b)にいう特許が付与された製造方法の使用の禁止は、特許により保護された方法のみを利用して製造された輸入製品にのみ適用されるものとする。
(3)教育、研究、試験、または分析を目的とする場合、特許権者が当然受ける利益を損なわず、かつ非営利である場合、上記(1)および(2)にいう禁止の適用から除外される。
また、上記特許法第19条(2)は、特許が付与された製造方法により得られた製品が保護可能であることを示唆するが、この規定を解釈した裁判所判決は見当たらない。
2.特許法第145条(1)もまた、特許が付与された製造方法の使用の立証に際して関連があると考えられる。この条文は製品が新規である場合、または、原告が十分な努力にもかかわらず特許が付与された製造方法の使用を立証することができない場合に関連する。
インドネシア特許法第145条(1)
特許が付与された製造方法に関する訴訟の審理において、以下の場合、立証責任は被告にあるものとする:
(a)特許が付与された製造方法により製造された製品が新規製品である場合、または、
(b)その製品が、特許が付与された製造方法により製造されたと主張され、これを立証するために十分な努力が既になされたにもかかわらず、依然として特許権者が前述の製品を製造するために使用された方法を決定できない場合。
本条を解釈した判例法は見当たらない。
インドネシアにおける医薬用途発明の保護制度
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