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インドネシアにおける特許出願の補正の制限

1.補正の制限に関するインドネシア特許法の条文

 インドネシアにおける補正の制限については、インドネシア特許法(特許に関する法律第13/2016号)第39条に下記のように定められている。

 

インドネシア特許法第39条

(1)出願は、以下の場合補正することができる:

(a)第25条(1)項(b)号、(e)号および/または(f)号に規定する出願データ;および/または

(b)第25条(2)項(a)号から(e)号に規定する出願データ

(2)第25条(2)項(b)号および(c)号における発明の明細書および/または特許請求の範囲の補正は、その補正が原出願で申請された発明の範囲を拡大しないという条件で行うことができる。

(3)最初の出願に請求の範囲を追加して10項を超える補正の場合、当該超過した請求項に手数料が課される。

(4)出願において(3)項に規定する手数料が納付されない場合、超過分の特許請求の範囲は取下げられたとみなされる。

 

ここで、

第25条(1)項(b)号は、願書における発明者の氏名、完全な住所および国籍を意味し、

第25条(1)項(e)号は、出願が代理人を通して行われる場合、代理人の氏名および完全な住所を意味し、

第25条(1)項(f)号は、出願が優先権を伴って出願される場合、最初の出願の国名と出願日を意味する。

また、第25条(2)項(a)号から(e)号は、それぞれ、以下のものを意味する。

(a)発明の名称

(b)発明の明細書

(c)特許請求の範囲

(d)発明の要約

(e)図面が出願と共に添付される場合、発明の説明に必要とされる明細書に記載される図面

 

2.発明の明細書および特許請求の範囲の補正

 インドネシア特許法第39条(2)項に規定されるように、発明の明細書および特許請求の範囲の補正に対する制限は、補正により、出願当初において請求された発明自体の範囲を拡大してはならないというものである。特許法第39条の説明において、「発明の範囲を拡大する」という場合、これは、明細書、図面またはクレームのいずれにおけるかを問わず、発明の範囲を拡大させるような、要旨や主題の追加、新規事項の追加、または発明の技術的特徴の削除を意味する。したがって、特許法第39条は、発明の明確化のみを認めている。

 原則として、インドネシア出願の内容が当初明細書の開示範囲として取り扱われることに注意が必要である。ただし、インドネシア出願が他国の特許出願を基礎としてなされたものであって、誤訳により基礎出願とインドネシア出願で記載内容が一致しない場合には、実務上、誤訳訂正が認められる。

 

 PCT出願の場合、国際出願の内容が当初明細書の範囲となり、国内移行段階で、インドネシア語明細書への誤訳があった場合は、誤訳訂正が認められる。

 

 補正は、出願人が自発的に行うことも、審査官からの指示により行うこともできる。実体審査に入る前に出願人によって補正が行われる場合を、一般的に自発補正と呼ぶ。

 

 一方、審査報告書の示唆に従い補正が行われる場合もある。審査官は実体審査において、審査報告書を発行するが、その中で出願人に出願書類の補正を要求する場合がある。審査官の要求する補正は、他国での対応特許出願での登録クレームと実質的に同様のクレームに補正することである場合が多い。

 

3.請求の範囲の追加により10項を超える補正

 インドネシア特許法第39条(3)項に規定されるように、請求の範囲の追加により請求項数が10項を超える補正の場合、超過した請求項に手数料が課される。同条(4)項に規定されるように、(3)項に規定する手数料が納付されない場合、超過分の特許請求の範囲は取下げられたとみなされる。

インドネシアにおける特許の分割出願に関する留意点

2016年特許に関する法律第13号(以下、特許法)は、出願人の自発および/または大臣の提案により特許出願の分割をすることができると定めている(第38条第1項)。

 

1.分割出願の時期

 分割ができる時期については、特許付与の決定が行われる前であればいつでも行うことができる(第38条第2項)。特許付与の決定後になされる分割出願は拒絶される(第63条第1項a号)。

 

2.分割出願の要件

 特許法第41条第1項によれば、「発明の単一性を構成しない複数の発明からなる出願」は、分割することができる。ただし、第63条第1項c号には「分割出願の発明が原出願と単一性を有しない場合」拒絶されるという矛盾した規定がある。(下記、「原出願発明の単一性について」のコラム参照)

 また、同条第2項は、「分割された各出願で求められる保護の範囲が原出願で申請された保護の範囲を拡大するものではない」ことを条件としている。この要件を満たさない分割出願は拒絶される(第63条第1項b号)。この規定は、分割出願の発明が、原出願における出願当初の明細書または図面に記載されていたものでなければならないとする日本の規定に比べて厳しい。(下記、「分割出願の原出願における開示程度」のコラム参照)

 

<原出願発明の単一性について>

 特許法第41条第1項は、「発明の単一性を構成しない複数の発明からなる出願」の分割を認めており、これらの規定を見ると、日本では可能とされている単一性を有する複数の発明、例えば物の発明とその物を製造する方法の発明を分割することは、許されないと解される。

 その一方で第63条第1項c号は、「分割出願の発明が原出願と単一性を有する発明とはいえない場合」分割出願を拒絶すると規定しており、親出願の発明が単一性を有しないことを要件とする第41条第1項の規定と矛盾している。

 類似の規定は2001年特許法にも存在するが、実際の運用ではインドネシアでの審査は日本等他国の審査結果に追随することが多く、参照国で分割出願が登録されていれば、インドネシアでも同様に分割が認められており、その際原出願の発明単一性の有無はほとんど審査の対象になっていないように見受けられる。

 

<分割出願の原出願における開示程度>

 特許法第41条第2項によれば、分割出願は「分割された各出願で求められる保護の範囲が原出願で申請された保護の範囲を拡大するものではない」ことを条件に認められる。

 日本では、分割出願の発明が、原出願における出願当初の明細書または図面に記載されていたものであれば足りるのに対して、インドネシア特許法第41条第2項の規定では、分割出願の発明が原出願で申請された保護の範囲に留まることが求められており、より厳しい条件となっている。

 類似の規定は2001年特許法にも存在するが、実際の運用ではインドネシアでの審査は日本等他国の審査結果に追随することが多いため、参照国で分割出願が登録されていれば、インドネシアでも同様に分割が認められており、その際原出願の請求の範囲を拡大しているかどうかは、審査においてほとんど考慮されていないように見受けられる。

 

3.分割出願の効果

 これらの要件を満たす分割出願は、原出願と同じ日に出願されたものとみなされる。(特許法第41条第3項)

 

4.分割出願の審査請求

 特許法第51条は分割出願の審査請求が分割出願と同時に行われなければならないと規定している(第7項)。もし審査請求が分割出願と同時にされない場合、分割出願は取り下げられたのとみなされる(第8項)。

 

【留意点】

・分割出願の審査請求は分割出願と同時に行うこと。

・要件として、原出願が単一性を有していないことと、分割出願発明が原出願の請求の範囲に留まることが規定されているが、旧法の運用ではこれらは考慮されておらず、これらの要件を満たさずとも、他国で分割出願が登録されていれば、インドネシアでも分割が認められている。

インドネシアにおける特許の分割出願に関する留意点

【詳細】

1. 分割出願に関する特許法上の規定

2001年8月1日付で施行された特許法(2001年法律第14号)では、第36条において分割特許出願が以下のように規定されている。

 

「第36条

  1. 出願が第21条にいう発明の単一性を構成しない複数の発明を含んでいる場合、出願人は、出願の分割を請求することができる。
  2. (1)にいう出願の分割は、一以上の出願として別々に提出できるが、各出願において求められる保護範囲が原出願において求められる保護範囲を拡大していないことを条件とする。
  3. (1)にいう出願の分割は、原出願について第55条(1)または第56条(1)に示した決定が下されるまで請求することができる。
  4. (1)または(2)に定める出願の分割の請求が、第21条および第24条の要件を満たしている場合、当該請求は原出願日と同じ日に提出されたものとみなされる。
  5. 出願人が(3)に定める期間内に出願の分割を請求しない場合、原出願のクレームに記載された発明についてのみ実体審査が行われるものとする。」

 

2. 分割出願における留意点

出願人は、インドネシアでの分割出願にあたって以下の点に注意すべきである。

 

  1. 出願が発明の単一性を満たしていない複数の発明が含まれる場合、その出願からの分割出願を行うことができる。一方、発明の単一性の要件が満たされている場合には、製造物クレームと方法クレームの両方を一つの出願に含めることができるが、それらのクレームを分割出願によって分割することも可能である。
  2. 出願人は自発的に分割出願を行うこともできる(特許規則(1991年政府規則第34号)第7条(a))、審査官が実体審査報告書の中で挙げた発明の単一性欠如の拒絶理由に応じて分割出願を行うこともできる(特許規則第10条(1))。
  3. 分割出願は、原出願に対して特許付与の決定(第55条(1))または拒絶の決定(56条(1))が下される前であれば、いつでも行うことができる。
  4. 分割出願では、原出願の開示の範囲の拡大や、原出願に開示されない新規事項の追加は認められない。
  5.  分割出願では、以下の書類の提出が要求される。
    • 願書(特許規則第4条)
    • 委任状(特許規則第2条)。委任状について公証人認証は必要ない。署名済みの委任状であれば十分である。新たな(分割でない)出願の場合と同様、この委任状は、出願日から3か月以内であれば出願後に提出することができる。
    • 英語の明細書(クレーム及び要約を含む)および発明の説明に必要な図面があれば図面(特許規則第17条)。
    • インドネシア語の明細書(クレーム及び要約を含む)および発明の説明に必要な図面があれば図面(特許規則第2条、第4条)。新たな出願の場合と同様、インドネシア語の明細書及び図面は、出願日から1か月以内であれば出願後に提出することができる。
    • 実体審査請求書。インドネシア知的財産権総局(DGIPR)が2011年9月5日付で発行した通達HKI-77.OT.03.01号によれば、実体審査請求は分割出願の願書と同時に提出されなければならない。

 

3. 特許出願戦略としての分割出願

分割出願は、発明者や企業にとって、自らの発明を有利な権利として保護するための特許出願戦略としても利用することができる。

 

例えば、原出願でのクレームよりも広い範囲のクレームに基づき、分割出願を行うことができる。原出願の明細書には記載されているが、原出願のクレームに含まれていない別の発明を分割出願することで、さまざまな観点での権利化を図ることができる。

 

また、複数の関連する発明を含む明細書で1件の出願として出願し、出願後、特許付与までの期間をインドネシアでの対象製品の市場動向を見極め、権利化すべき発明を選択するための準備期間として利用することもできる。出願人はこの期間に、自発的に分割出願を行うことや、または実体審査における発明の単一性欠如の拒絶理由に対しする応答として分割出願を行うことが可能である。これにより、重要度が高い発明のみを権利化し、出願後に重要度の低下した発明に対しては別途権利化しないという判断を行うことができる。このような手続きの進め方であれば、同時に複数の出願を行う場合と比較して手続き費用の削減が期待できる。

インドネシアにおける特許出願の補正の制限

【詳細】

インドネシアにおける補正の制限については、インドネシア特許法(特許に関する法律第14/2001号)第35条に下記のように定められている。

 

インドネシア特許法第35条

出願は、明細書および/またはクレームを変更する補正ができるが、当該補正が原出願で請求された発明の範囲を拡大するものではないことを条件とする。

 

特許出願の補正に対する制限は、補正により、出願当初において請求された発明自体の範囲を拡大してはならないというものである。特許法第35条の説明において、「発明の範囲を拡大する」と言う場合、これは、明細書、図面またはクレームのいずれにおけるかを問わず、発明の範囲を拡大させるような、要旨や主題の追加、新規事項の追加、または発明の技術的特徴の削除を意味する。したがって、特許法第35条は、発明の明確化のみを認めている。

 

原則として、インドネシア出願の内容が当初明細書の開示範囲として取り扱われることに注意が必要である。ただし、インドネシア出願が他国の特許出願を基礎としてなされたものであって、誤訳により基礎出願とインドネシア出願で記載内容が一致しない場合には、実務上、誤訳訂正が認められる。

 

PCT出願の場合、国際出願の内容が当初明細書の範囲となり、国内移行段階で、インドネシア語明細書への誤訳があった場合は、誤訳訂正が認められる。

 

補正は、出願人が自発的に行うことも、審査官からの指示により行うこともできる。実体審査に入る前に出願人によって補正が行われる場合を、一般的に自発補正と呼ぶ。

 

一方、審査報告書の示唆に従い補正が行われる場合もある。審査官は実体審査において、審査報告書を発行するが、その中で出願人に出願書類の補正を要求する場合がある。審査官の要求する補正は、他国での対応特許出願での登録クレームと実質的に同様のクレームに補正することである場合が多い。

インドネシアにおける特許審査基準関連資料

【詳細】

 ASEAN主要国及び台湾における特許及び商標の審査基準・審査マニュアルに関する調査研究報告書【特許編】(平成27年3月、日本国際知的財産保護協会)第Ⅲ部2

 

(目次)

第Ⅲ部 調査対象国・地域の審査基準関連資料の詳細

 2 インドネシア P.59

参考 調査対象国・地域の知的財産権担当官庁及び、ウェブサイト公開されている関連法規、審査基準関連資料の情報

 2 インドネシア P.210

インドネシアにおけるパリ条約ルート出願とPCTルート出願の手続きの相違点

【詳細】

  1. パリ(条約)ルート

 パリ条約の一般原則は、特許出願人は最初の特許出願後1年以内に他のパリ条約加盟国において同一発明の後続特許出願を行うことができる、というものである。これにより、特許出願人は最初の出願の出願日に基づく権利を主張することができる。パリ条約に基づく「優先権」を主張することにより、後続の出願の出願日が上述の1年以内であれば、新規性及び他の出願との先後願の判断について、後続の出願はあたかも最初の出願と同じ日付でインドネシアに出願したと同様の権利を受けることが認められる(インドネシア特許法第1条(12)、第3条、第27条)。

 

 インドネシアのパリ条約批准は1997年の「大統領令第15号」に基づいて行われ、2001年特許法(第14号)第27条(1)は、パリ条約もしくは世界貿易機関(WTO)加盟国に関する優先権について規定している。

 

 インドネシアの規則では、優先権を主張する特許出願人は、優先日から16ヶ月以内に優先権証明書を提出しなければならない。このほかに、インドネシア特許庁は以下のような文書の提出を要求することがある。

 ・他の国における実体的審査の結果に関する文書

 ・当該出願が他の国において特許権を付与されている場合にはその特許証

 ・当該出願が他の国において拒絶されている場合にはその拒絶理由通知

 ・当該出願が他の国において取り消されている場合には、その特許取消決定

 ・その他、当該出願の実体審査を円滑に行うために必要とされる文書

 

  1. PCT(特許協力条約)ルート

(1)PCTルートからのインドネシアへの国内移行

 1978年6月に発効した特許協力条約(PCT)は、複数の加盟国での簡素化された特許出願手続を可能としている。特許協力条約(PCT)に基づいてされる出願は、管轄の特許庁または国際機関(WIPO国際事務局)に1つの出願を行うことにより、国際出願日が与えられ、多数の国(指定国)への出願日を確保できる。

 

 インドネシアは1997年付の「PCTおよびPCTに基づく規則の批准に関する大統領令第16号」により特許協力条約を批准している。インドネシアの国内段階の特許出願は、当該出願が主張する最も早い優先日から31ヶ月以内に提出されることが要求される。

 

 インドネシアの規則では、国際特許出願を国内段階に移行する際には、発明者の国籍や条約で定められた詳細要件についての情報、委任状、ならびに優先権譲渡証明書の原本もしくは公証された優先権譲渡証明書の謄本等が併せて要求される。書面のインドネシア語訳は、国内段階の手続開始日から30日以内に提出されなければならない。

 

 

(2) 国際特許出願の優先権の回復に関するインドネシア特許庁の見解

 2011年2月10日、インドネシア特許庁は、受理官庁もしくは指定国官庁として、PCT規則で規定される優先権の回復について、インドネシア国内では認めない旨の当局の見解を発表した。

 

 PCT規則では、優先権期間中に国際出願の願書が提出されなかった国際出願につき、以下のような条件に従って優先権の回復を定めている。(特許協力条約に基づく規則第 26の2.3及び規則第49の3.2)      

  -優先権期間の満了日から2ヶ月以内(優先日から14ヶ月以内)に提出されること

  -相当の注意にも関わらず提出遅れが生じたこと

  -故意による遅延ではないこと

 

 しかしながら、インドネシア特許庁によれば、上記の権利回復はインドネシア特許法に基づく特許保護基準(パリ条約ルートの優先権の取り扱い)に合致しないことから、インドネシア特許庁はインドネシアに提出されたPCT出願及びインドネシアに国内移行されたPCT出願が事後に要求する優先権の回復を認めないとしている。