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インドネシアにおけるロイヤルティ送金に関する法制度と実務運用の概要

1. ロイヤルティに課される税と外国納税者
 ロイヤルティは、知的財産の実施権者から知的財産の所有者である実施許諾者に支払われる料金であって、インドネシアにおいてロイヤルティに課せられる税は、所得税と付加価値税である。

 外国納税者には、次の4つの類型がある(税の調和に関する法律No.7/2021,第2条(4))。

a. インドネシアに居住していない個人
b. 12か月間内の183日以上をインドネシアに居住する外国人
c. 12か月間内の183日以上をインドネシア国外に居住するインドネシア国民
d. インドネシアに居住していない法人格を有さない団体であって、インドネシアでの恒久的施設によって事業を行うか、あるいはインドネシアでの恒久的施設による事業や活動以外からインドネシアで収入を得ている者

2. 所得税および付加価値税
2-1. 非居住者の一般所得税についての税率
 インドネシアの非居住者が受け取るロイヤルティには、その総額の20%の一般所得税が課税される(雇用創出法No.6/2023,第111条)。

2-1-1. インドネシア-日本における所得税に関する租税条約
 インドネシアと日本は、二重課税を避けるために租税条約を結んでいる。ロイヤルティに関する租税条約の税率は、総額の10%である(所得税に関する二重課税の回避および脱税の防止に関するインドネシア共和国政府と日本政府との間の協定 第12条第2項)。このロイヤルティ税条約税率の適用を受けるには、次の基準を満たす必要がある。

a. ロイヤルティの受領者は、条約締結国または条約管轄内の国内納税者である自然人または法人であること。
b. 条約を不正に利用する者でないこと。
c. ロイヤルティ収入の受領者が、利益を得る主体(受益者)であること。
(二重課税を回避するための協定の実施手順に関する税務局長規則PER-25/PJ/2018,第1条)

 実施許諾者が外国納税者であって、実施許諾者とインドネシア国内の実施権者とが提携関係にある場合(例えば、実施権者が海外子会社等の関連する者である場合)、これらの事業体間の知的財産に関わる取引には、独立企業間原則(アームズレングス原則)*1を適用する必要がある。実施許諾者(受益者)と実施権者(提携者)についての税務執行の関係は、下表のように整理できる(Benny Oktis Yanurwenda「海外へのロイヤルティ支払い:税務上の扱いに対する商標登録メカニズムの影響の検討」)。


実施許諾者と実施権者との間に提携関係がある場合
(例:実施権者が実施許諾者の海外子会社である場合)
実施許諾と実施権者との間に提携関係がない場合
ロイヤルティ収入の受領者が受益者である場合・租税条約が適用される。
・独立企業間原則の判断が必要である。
・租税条約が適用される。
・独立企業間原則の判断は必要ない。
ロイヤルティ収入の受領者が受益者でない場合・取引相手はペーパーカンパニーである。
・租税条約は適用されない。
・取引はロイヤルティの支払いとしては認められない。
・租税条約は適用されない。
・取引はロイヤルティの支払いとして認められる。
・独立企業間原則の判断は必要ない。

※1 独立企業間原則とは、法人が国外関連者(海外子会社等)と国外関連取引を行った場合、その取引に係る対価の額は、独立した第三者との取引価格と同じ条件にするという原則である。

2-2. 付加価値税についての税率
 付加価値税の固定税率は、11%である(税の調和に関する法律No.7/2021,第7条)。
 なお、支払われるロイヤルティ料金に、付加価値税が含まれている場合は、支払うべき付加価値税の計算式は、ロイヤルティ料金×(11/111)の額となる。

3. ロイヤルティに課される税の支払いおよび報告
 2024年1月から、ロイヤルティに課される税の源泉徴収者は、定期税報告書(Form 1721-VI)を使用して源泉徴収書を作成し、実施許諾者に送付し、税務総局に報告しなければならない。
 外国納税者は、租税条約を適用する場合、源泉徴収者に納税者ID、または住民票を提供する必要がある(税務総局長規則No.PER-2/PJ/2024,第2条)。源泉徴収者は、税務総局のWebサイト、または税務総局が指定するその他のチャネルからアクセスできるアプリケーションe-bupot 21/26を使用する必要がある。

 実施権者または所得税の源泉徴収者は、ロイヤルティ料金から所得税を源泉徴収し、遅くとも取引後の翌月10日までに支払い、および遅くとも取引後の翌月20日までに報告しなければならない。

 実施権者または付加価値税の源泉徴収者は、ロイヤルティ料金から付加価値税を差し引いて実施許諾者から付加価値税を徴収し、税額請求書を発行しなければならない。実施権者または付加価値税の源泉徴収者は、取引後の遅くとも翌月15日までに付加価値税を支払わなければならない。

4. ロイヤルティの海外送金
 外貨を使用したロイヤルティの送金は、「外貨取引および為替レート制度に関する法律No. 24/1999」を遵守する必要がある。この法律の第3条には、すべての国民は、中央銀行から求められた場合、自己が行っている外貨取引に関する情報とデータを提供しなければならないと規定されている。

 さらに、基準額を超えるインドネシアルピアからの外貨取引は、基礎となる取引で裏付けられなければならない(中央銀行規制No.18/18/PBI/2016 第4条)。基準額は、顧客1人あたり月額25,000米ドルまたはそれに相当する額である(中央銀行規制No.18/18/PBI/2016 第5条第1項)。基礎となる取引を裏付ける文書は、ライセンス契約のコピー、ロイヤルティの分配に関連する顧客からの明細書、支払った付加価値税を示す税金請求書などが通常、用いられている。

インドネシアにおける特許権の権利行使に関する手続

記事本文はこちらをご覧ください。

インドネシアにおける特許制度のまとめ-実体編

1. 特許制度の特徴

(1)特許および実用新案(簡易特許)の実体審査請求の提出時期
 特許法第51条は、特許についての審査請求は出願日から36か月以内に提出しなければならないことを規定しており、実体審査は公開期間が終了した後に実施される。

 特許法第122条は、実用新案についての審査請求は出願と同時に行わなければならないと規定している。

(2)実体審査
 特許法第62条および特許規則第73条、第74条は、実体審査報告書(SER: Substantive Examination Report)において理由および先行技術文献を明確かつ詳細に通知することを規定している。出願人は、SERの発行日から3か月以内に回答しなければならないが、最大2か月、さらに手数料の支払いにより追加の1か月の延長が認められる。また、緊急事態の場合は上記期間徒過後、さらに6か月の猶予が認められる。

 実体審査は、実体審査ガイドライン注1で言及されているが、発明の明確さ、発明の単一性、および発明の特許性について実施される。

(3)出願の変更
 特許出願の変更に関する規定は、特許法第39条、第40条および特許規則第50条~第52条にある。
 出願の変更は、出願データの変更、発明の明細書と請求項の変更、特許から実用新案への変更およびその逆の実用新案から特許への変更について行うことができるが、変更により発明の範囲が拡大することは許されない。
 変更が可能な時期は、方式審査、実体審査の期間中で、権利の付与前である。

(4)守秘義務
 特許法第45条に規定されるように、発明者および出願人を除き、すべての出願書類は機密情報として扱われる。
 意図的に、その権利の無い者が機密の申請書類を漏洩した場合は、特許法第164条の規定により、最大2年の懲役刑が宣告される。

(5)コンピュータープログラムの特許性
 特許法第4条(d)に規定されるように、コンピュータープログラムのみを内容とする規則および方法は特許性がないものとされる。
 コンピュータープログラムのみを内容とする規則および方法とは、文字、技術的効果および問題解決を含まないプログラムのみによるものを示す。
 同第4条(d)の逐条解説(法文末尾に添付されている)および実体審査ガイドラインでは、コンピュータープログラムに有形または無形の問題解決につながる技術的効果または機能を備えている場合は、特許を取得できるとしている。請求項は、プログラムが実行されるプロセスの特許性を保証するすべての機能を定義する必要がある。

(6)遺伝資源および伝統的知識の出所開示
 特許法第26条は、発明が遺伝資源および伝統的知識に由来する場合、遺伝資源および伝統的知識が他国に勝手に取得され、アクセスと利益配分(ABS: Access Benefit Sharing)が阻害されないために、遺伝資源および伝統的知識の起源を明確かつ正確に明細書に記載することを求めている。また、遺伝資源および伝統的知識に関する情報は、政府が承認した公的機関により確定されるとしている。

注1:実体審査ガイドラインは代理人、出願人等の関係者に提供されているが、インドネシア知的財産権総局(DGIP)は一般には公開していない。

関連記事:
「日本とインドネシアにおける特許審査請求期限の比較」(2019.12.10)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17983/
「インドネシアにおける特許出願の補正の制限」(2019.10.21)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17812/
「インドネシアにおける特許出願の実体審査と特許庁からの指令書に対する応答期間」(2019.09.03)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17669/
「インドネシアにおける特許出願制度概要」(2019.06.25)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17465/
「インドネシアにおける実用新案出願制度概要」(2019.06.25)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17467/
「インドネシアにおけるコンピュータソフトウエア関連発明等の特許保護の現状」(2019.01.15)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16393/
「インドネシアにおける微生物寄託に係る実務」(2018.04.05)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/14776/

2. 発明の保護対象

 特許法第1条(2)は、「発明」とは、技術分野における特定の問題解決活動に製品(物理的実在物、物体)またはプロセス(製品を生産するまたは使用する活動)、あるいは製品またはプロセスの改良および開発の形で組み込まれる発明者の思想を指すと規定している。

 特許法第4条は、特許性のない発明を次のように規定している。
(a) 審美的創作;
(b) 図式;
(c) 以下の活動を行うための規則及び方法:
 i. 精神活動に関わるもの;
 ii. 遊戯;及び
 iii. ビジネス
(d) コンピュータープログラムのみを内容とする規則及び方法;
(e) 特定の情報についての発表、及び;
(f) 以下の発見:
 i. 既存の及び/又は既知の製品の新規用法;及び/又は
 ii. 既存の化合物の新たな形態であって、有意な効能の改善が認められず、その化合
 物の既知の関連する化学構造との差異がないもの

関連記事:
「インドネシアにおけるコンピュータソフトウエア関連発明等の特許保護の現状」(2019.01.15)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16393/
「インドネシアにおける医薬用途発明の保護制度」(2018.03.29)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/14761/

3. 特許を受けるための要件

 特許および実用新案を取得するための要件は、特許法第3条、第24条(3)および第25条(3)、(4)ならびに特許規則第83A条および第84で規定されている。
 特許の場合、発明は、特許性(新規性、進歩性および産業上の利用可能性)、発明の単一性および発明の明確性と一貫性の要件を満たさなければならない。
 実用新案の場合、新規の発明であり、既存の物または方法の発展であり、産業上利用可能であることが要件である。

 特許法第5条は、新規性について次のように規定している。
(1) 発明は、出願日において当該発明が前に公表された技術と同一でないとき、第3条(1)項における新規性を有するとみなされる。
(2) (1)項における前に公表された技術とは、以下に掲げる日より前に、インドネシア国内又はインドネシア国外において書面、口頭又は展示、使用又はその他の方法で専門家が当該発明を実施できるように公表されている技術である。
 (a) 出願日;又は
 (b) 優先権を伴う出願の場合は優先日
(3) (1)項における前に公表された技術には、インドネシアにおいて申請された他の出願であって、当該審査中の出願の出願日又はそれ以後に公開されるが、審査中であって、他の出願の出願日が当該審査中の出願日又は優先日よりも前の出願の書類を含む。

 さらに、特許法第7条および第8条で規定されているように、発明がその分野の専門知識を有する者が事前に予測することができなかったものである場合、進歩性を有すると見なされ、また、発明は、出願に記載されているように産業に適用できる場合、産業上利用可能であると見なす。

また、特許法第9条には特許を受けることができない発明を次のように規定している。
(a) その公表、使用又は実施が、法規、宗教、公共の秩序又は道徳に反する方法又は物;
(b) 人及び/又は動物に対する検査、看護、治療及び/又は手術の方法;
(c) 科学及び数学の分野における理論及び方法;
(d) 微生物を除く生物;又は
(e) 植物又は動物の生産に必須の生物学的方法。ただし、非生物学的方法又は微生物学的方法を除く。

関連記事:
「インドネシアにおける特許審査基準関連資料」(2016.02.02)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/10255/

4. 職務発明の取り扱い

 特許法第12条は、特段の合意がない限り、業務上の関係で生み出された発明の特許権者は、業務を提供する当事者(雇用者)であると規定している。上記発明者は、発明から得られる経済的利益を考慮し、雇用者と発明者との間の合意に基づいて補償を受ける権利を有する。

関連記事:
「インドネシアにおける営業秘密ならびに職務発明、職務著作および職務意匠の保護」(2017.03.15)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/13242/
「インドネシアにおける共同開発契約」(2017.03.10)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/13236/

5. 特許権の存続期間

 特許件および実用新案権の存続期間は特許法第22条、第23条に規定されており、特許は出願から20年、実用新案は出願から10年であり、期間の延長は認められていない。

関連記事:
「インドネシアにおける失効した特許権の回復手続」(2021.01.07)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/19669/
「インドネシアにおける特許出願制度概要」(2019.06.25)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17465/
「インドネシアにおける実用新案出願制度概要」(2019.06.25)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17467/

補足:
 インドネシア特許法2016年(雇用創出法2020年第11号により改正された特許法2016年第13号)は、Rouse International Limitedの情報(https://rouse.com/insights/news/2020/indonesia-the-new-omnibus-law-on-job-creation-and-amendments-to-ip-laws)によれば、旧特許法第20条に規定された特許実施要件を緩和し、「製品の製造または方法の使用」に加え、「製品の輸入またはライセンスの供与」を含むとされたほか、実用新案(簡易特許)の適用範囲を明確化し、公開期間を14日間とし、裁定までの期間を短縮化(12月を6月に短縮)したとしている。