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中国における商標出願と他人の先行権利との抵触について(前編)

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中国における商標出願と他人の先行権利との抵触について(後編)

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中国における商品・役務の類否判断について

1.はじめに
 新興国データバンクでは既に、「中国での商標出願における商品/役務名称の記載に関する留意点」(2022.03.07)(https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/22839/)を紹介している。
 本記事では、日中両国の商品・役務の類否判断を審査基準で比較することにより、審査基準の考え方の相違を明らかにし、日本の実務者が中国の商品・役務の類否判断を理解するのに資するものとしたい。
 具体的には、「商品または役務の類否判断の基本的な考え方」、「商品間の類否について」、「役務間の類否について」、「商品・役務間の類否について」の4点に分けて解説する。

2.商品または役務の類否判断の基本的な考え方
 中国の商標出願の審査手法については、中国国内の直接出願(以下、「中国国内出願」という。)と、国際登録出願(以下、「マドプロ出願」という。)に分けて説明する。

2-1.中国国内出願の場合
 中国において国内出願をすると、まず、方式審査が行われる。方式審査の中で、出願商標の指定商品・役務を認容するか否かが判断され、認容すると判断された場合、印紙代納付通知書が発行される。期限内に印紙代が納付された場合、受理通知書が発行される。一方、指定商品・役務が認容できないと判断された場合、補正通知書(補正命令)が発行される。補正命令の内容について、補正書や意見書を提出することができる。補正書や意見書によって不備が解消された場合、印紙代納付通知書が発行され、印紙代が納付された場合、受理通知書が発行される。補正書や意見書を提出しても不備が解消できなかった場合、不受理通知書(手続却下)が発行される。
 ここで、出願人として注意すべき点は、中国では、指定商品・役務に関する補正の機会は方式審査中の1回限りである点である。出願時の指定商品・役務の削除または補正しか認められないという規定はないが、1回の提出機会で説明を尽くし、審査官の理解を得ることは容易ではない。よって、「类似商品和服务区分表——基于尼斯分类第十二版(2023文本)」(日本語:「ニース分類第12版(2023年版)に基づく類似商品・役務区分表」)(https://sbj.cnipa.gov.cn/sbj/sbsq/sphfwfl/200902/W020230831580552653183.pdf)に含まれず、また、中国当局に受け入れられる商品・役務以外の商品・役務、すなわち、規範名称ではない商品・役務の指定を日本の出願人が希望する場合、著者は出願前に以下の3つの提案を行う。

 ① 指定商品・役務を中国当局の認容可能性の高い商品・役務名で出願する。
 出願人は、代理人と十分にコミュニケーションを取ることによって、希望する商品・役務に代理人の知見を加味し、当局にとって認容可能性の高い商品・役務名を指定して出願する。
 ② 規範名称ではない商品・役務を指定して出願する場合、「中華人民共和国商標法実施条例」第15条第1項に説明義務が定められていることから、当該指定商品・役務についての説明書を作成し、願書とともに提出する。
 ③ 同時に、規範名称ではない指定商品・役務の上位概念と思われる規範名称の商品・役務を指定することを勧める。規範名称ではない場合、前述のとおり、説明書を提出しても認容は容易ではない。そのため、結果として出願の手続却下となることを避けるため、規範名称ではない商品・役務を削除しても、上位概念の指定商品・役務が受理されるような出願を提案する。

 受理通知書が発行された後、出願は実体審査に進む。実体審査では、指定商品・役務が認容される否かを再度判断することは通常ない。実体審査の判断内容は以下の通り。
 まず、絶対的拒絶事由としての「中華人民共和国商標法(以下「法」という。)」第4条(使用意思欠如の出願)、第10条(商標登録を受けることができない商標)、第11条(商標登録の要件)、第12条(立体商標登録の要件)、第19条(代理機構の義務)について判断する。
 指定商品・役務と関連する絶対的拒絶事由の中に、法第10条第1項第7号(品質誤認、内容誤認)の拒絶理由がある。例えば、「自然」「natural」「nano」などの単語を使用する場合、商品の特徴、品質について需要者が誤認するおそれがあるため、法第10条第1項第7号で拒絶される可能性が高いとされる。近年では、このような拒絶理由が増えているように感じられる。また、法第10条第1項第7号に該当する理由で拒絶された商標を継続して使用した場合、行政処分(「商標の一般的な違法性判断基準」第15条)の対象となるため、注意が必要である。当該条文の審査は日本より随分厳しいと思われ、出願前に代理人に確認して、かかる拒絶査定を受けるおそれのある出願を避け、万一、拒絶査定が出た場合、速やかに使用を中止できる対応が取れるようにする。
 また、商標の標識(mark)が指定商品・役務名を表すなど、法第11条第1項に基づく識別力欠如を理由に拒絶査定が出るケースも存在する。識別力有無の判断は、日本より厳しい傾向があるので、事前に代理人に確認する必要がある。法第11条第1項に該当する場合、通常、使用に問題がなく、かつ、使用することによって識別力を獲得する可能性もある。その場合、改めて商標出願して権利化することになる。なお、出願人の中には識別力欠如と判断された場合、識別力を獲得するまで出願を繰り返す者も存在するが、推奨できない。なぜなら、出願の繰り返しは出願商標に識別力を獲得させることにはならないので、費用が掛かるだけで登録には至らないばかりか、拒絶査定または拒絶審決の数が増えることによって、識別力欠如の事実がより明らかな状況に陥り、識別力獲得の認定を妨げる可能性も生じると考えられるからである。また、出願人の中には、出願の繰り返しは第三者による出願の排除効果を期待できると考える者も存在するが、中国の商標出願の審査期間は拒絶査定まで3~4か月、拒絶査定不服審判を合わせても10~11か月という短い期間しかないので、後願の排除効果の費用対効果は極めて限られていることに留意する必要がある。
 次に、相対的拒絶事由として第30条(他人の登録商標と類似)、第31条(他人の出願商標と類似)が存在する。いわゆる、商標の類似性判断である。商標の類似性判断については、指定商品・役務が類似するか否かを判断した上で、標識(mark)が類似するか否かを判断する。その中で、指定商品・役務の類似性判断は、類似群の概念で判断する。類似群については後述する。

2-2.マドプロ出願の場合
 中国を指定国としてマドプロ出願し、保護認容を受ければ、中国国内で商標権を得ることができる。マドプロ出願の場合、中国当局は、中国国内出願の方式審査の一部である指定商品・役務の審査と実体審査を同時に行う。したがって、マドプロ出願では、指定商品・役務が中国において認められないとする暫定拒絶通報が出る。例えば、日本のパチンコ関連など一部の商品・役務は、中国においては公序良俗違反とされるので留意していただきたい。
 なお、公序良俗に違反しないが新製品や新サービスを指定するため規範名称でない商品名・役務名を試みる場合、中国国内出願ではなく、登録可能性が比較的高いマドプロ出願を選択することを勧める。
 もちろん、マドプロ出願でも規範名称ではない商品・役務であれば、指定商品・役務について暫定拒絶通報が出る場合があり、拒絶理由により下記2つの対応が考えられる。
 ① 公序良俗違反の商品・役務の場合:補正しても登録の見込みはないことから削除を勧める。
 ② その他の商品・役務に補正できる場合:例えば、小売・卸売役務の場合、第35類では、「他人のために売り込み」「他人のために買い入れ」という規範名称の役務が存在するので、当該役務に補正することで拒絶理由が解消される可能性がある。
 マドプロ出願における中国当局の暫定拒絶通報を受けた場合、拒絶査定不服審判を提起するとともに、WIPO国際事務局に対して商品・役務補正を行う。
 中国国内出願の拒絶査定と同じ法的効力を有することから、出願人が通報に不服があっても、補正書や、意見書を提出して対応することが出来ないため、拒絶査定不服審判を提起する。また、中国の場合、不服審判の中で、商品・役務の補正ができないので、WIPO国際事務局に対して商品・役務補正を行う。

 マドプロ出願の場合、中国当局から保護通知書が発行されるが、中国当局に対して登録証明書の発行を要請する必要がある。なぜなら、マドプロ出願が中国で登録されても、中国当局から商標登録証は発行されないため、商標権を主張しようとする場合、中国当局が発行する商標登録証明書が必要になるからである。また、マドプロ出願が中国で権利化できた場合、保護通知書には指定商品・役務の記載がないことから、商標権の権利範囲を確認するためにも、商標登録証明書の発行手続を勧める。

2-3.類似群について
 中国では、商品・役務を判断する際に、日本と同様に類似群制度が採用されている。
 中国の類似商品・役務区分表は、以下を参照されたい。

・商标注册用商品和服务项目申报指南(商品・役務の商標登録事項の申告に関するガイドライン、https://sbj.cnipa.gov.cn/sbj/sbsq/sphfwfl/

 上記ガイドラインは中国語であるため、日本の出願人には、日中両国の特許庁が作成した類似群対応表を活用することも有用である。

・日中韓類似群コード対応表(https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/bunrui/kokusai/jpo_cnipa_kipo-ruiji2020.html

 日本語、英語および中国語において使用する商品・役務と一致するものを選んで中国に商標出願することが望まれる。なお、不明な場合には(日本語が堪能な中国の代理人であっても)、具体的な対象商品の写真、広告写真、類似群対応表を参考にした日本語および英語の指定商品・役務名の候補を示して中国代理人に相談することが望ましい。
 なお、中国の類似商品・役務区分表の改定について明確な基準はないが、基本的にはニース分類に従って変更され、5年毎に大改正が、また、毎年小改正が行われている。

3.商品間の類否について
3-1.商品の類否判断における考え方

 中国では、商品間の類否判断について、商標審査審理指南(2021)p.158(第五章 商標の同一または類似の審査および審理、2. 解釈)において、次のように規定されている。
 「類似商品とは、機能、用途、生産部門、販売ルート、消費対象などがほぼ同一または密接に関連する商品をいう。」
(商标审查审理指南(商標審査審理指南、https://sbj.cnipa.gov.cn/sbj/tzgg/202111/t20211123_5673.html
・同上、JETRO仮訳(https:/www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20220101_2.pdf))

 また、「ニース分類第12版(2023年版)に基づく類似商品・役務区分表」の第1ページ「編集者の説明」には、次の記載がある。

 「類似商品とは、機能、用途、使用原材料、販売ルート、消費者対象などの面において商品に一定の共通性を有し、同一または類似標識(mark)を使用する場合、消費者が特定の関連性を有すると容易に理解し、同一企業が生産する商品と誤認するものを指す。」
・类似商品和服务区分表——基于尼斯分类第十二版(2023文本)(前出)编者说明(ニース分類第12版(2023年版)に基づく類似商品・役務区分表 編集者の説明)

3-2.商品名の分類方法
 指定商品を各区分に分類する方法として、次の3つの分類方法が挙げられる。

 ① 類似商品・役務区分表に記載されている商品名称(通常、規範名称という)であれば、区分表に従って分類される。
 なお、商品名として、ニース分類における類見出し(Class heading)、注釈(Explanatory Note)を記載してはならない。
 ② TM5(商標5大特許庁:日中欧米韓)で中国当局が受け入れると声明した商品については、声明時に公表された区分に分類される。これは随時、追加される。中国で認容される商品名は、大きく3つに分類される。

 ①および②は、以下の中国商標網で検索できる(使用方法は下記関連記事参照)。ただし、検索用語は中国語のみである。
(国家知识产权局商标局中国商标网(中国国家知識産権局中国商標網、http://wcjs.sbj.cnipa.gov.cn/gs))

 ③ 上記以外の商品名の場合、区分のテーマ、類見出し、注釈に依拠し、規範名称に照らしながら指定する。これらに依拠しても商品名を特定できない場合、下記1~6の原則によって指定する。
 1 完成品の場合、機能または用途によって分類。
 2 多機能の完成品の場合、主な機能または用途によって分類。
 3 原料、未加工品または半製品の場合、原材料によって分類。
 4 前項の場合、複数の原材料が存在する場合、主な原材料によって分類。
 5 部品の場合、用途によって分類。
 6 専用容器の場合、載せる商品と同一分類。
・商标注册用商品和服务项目申报指南(商品・役務の商標登録事項の申告に関するガイドライン、https://sbj.cnipa.gov.cn/sbj/sbsq/sphfwfl/)の二、商品和服务项目分类申报原则(商品・役務の分類および申告の原則)(一)商品分类原则(商品分類原則)1~6参照

関連記事「中国における商標の調べ方—中国商標網ウェブサイト」(2020.06.25)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/18789/

4.役務間の類否について
4-1.役務の類否判断における考え方

 中国では、役務間の類否判断について、商標審査審理指南(2021)(前出)p.159(第五章 商標の同一又は類似の審査及び審理、2. 解釈)において、次のように規定されている。
 「類似役務とは、役務の目的、内容、方法、対象などの面において、同一または緊密な関連性を有する役務をいう。」
 また、「ニース分類第12版(2023年版)に基づく類似商品・役務区分表」第.1ページ「編集者の説明」(前出)には、次の記載がある。

 「類似役務とは、役務の目的、内容、方法、対象などの面において一定の共通性を有し、同一または類似標識(mark)を使用する場合、消費者が特定の関連性を有すると容易に理解し、同一企業が提供する役務と誤認するものを指す。」

4-2.役務の分類方法
 指定役務を各区分に分類する方法として、次の3つの分類方法が挙げられる。

 ① 類似商品・役務区分表に記載されている役務名称(通常、規範名称という)であれば、区分表に従って分類される。
 なお、役務名として、ニース分類における区分のテーマ、類見出し(Class heading)、注釈(Explanatory Note)を記載してはならない。
 ② TM5(商標5大特許庁:日中欧米韓)で中国当局が受け入れると声明した役務については、声明時に公表された区分に分類される。これは随時、追加される。
 ①および②は、中国商標網(前出)で検索できる。ただし、検索用語は、中国語のみ。

 ③ 上記以外の役務は、区分のテーマ、類見出し、注釈に依拠し、規範名称に照らしながら分類する。これらに依拠しても役務を分類できない場合、下記1および2の原則(「商标注册用商品和服务项目申报指南」(前出)参照)によって指定する。

 1 役務の属する業界並びに役務の目的、内容、方法および対象等を組み合わせて総合的に判断する。
 2 レンタルサービス、コンサルティングサービスおよびフランチャイズサービスは、以下の原則に従って分類する。
 (1) レンタルサービスは、原則として、リース対象物によって実現される役務と同一の区分に分類される。
 例:「レンタル電話」は通信サービスを提供するため、区分38。
 リースサービスはレンタルサービスと同様に分類する。ただし、ファイナンスリースは金融サービスであり、区分36に分類される。
 (2) アドバイス、情報提供、相談等を行うコンサルティングサービスは、原則、提供される役務と同一の区分に分類される。電話、コンピュータネットワークなどの電子的手段によるアドバイス、情報、または相談の提供であっても、分類には影響しない。
 例:「交通情報」は運輸サービスと同じ区分39、「金融コンサルティング」は金融サービスと同じ区分36に分類される。
 (3) フランチャイズサービスは、原則、提供する役務と同一の区分に分類される。
 例:「商業管理のフランチャイズ」は、提供する経営管理サービスと同じ区分35に分類される。
(商标注册用商品和服务项目申报指南(前出)の二、商品和服务项目分类申报原则(二)服务分类原则1、2参照)

4-3.小売・卸売役務について
 「○○小売または卸売役務の提供」が認容されないとの明文規定はないが、医薬品以外の分野において、小売・卸売役務は存在しないと判断されている。
(「北京市高级人民法院商标授权确权行政案件审理指南(中、英文版)(北京市高級人民法院の商標権利化、権利確認の行政案件の審理指南)」(2019.04.24、https://bjgy.bjcourt.gov.cn/article/detail/2019/04/id/3850624.shtml))
 上記指南には、小売・卸売との役務は明確ではないものの、商標権者がデパート、スーパーマーケットなど、場所を提供することによって商業的な取引があり、商品販売に提言、企画、宣伝、コンサルティングなどのサービスを提供する場合、「他人のための売り込み」という役務は、商標の使用と判断できる、と示されている。つまり、北京の裁判所は、医薬品以外の分野において、小売・卸売役務は存在しないと判断している。
 一方、旧商標局は、スーパーマーケットの役務は「他人のための売り込み」役務に含まれないという判断を示した。(「スーパーマーケットの役務と『販売促進(他人のため)』役務とが類似役務に属するか否かの問題に関する返答」(商標監字[2012]第43号、URLなし)
 なお、第35類においては、3503類似群「他人のための売り込み」「他人のための買い入れ」という役務を指定することが可能である。
 以上の状況から、現状では「小売または卸売役務の提供」および「○○小売または卸売役務の提供」は認められないが、万全を期したい場合には、現在でも認められる(「商品名」+「他人のための売り込み」)および(「商品名」+「他人のための買い入れ」)を指定することを勧める。
 また、「他人のための売り込み」と「他人のための買い入れ」は非類似とされているので、売買いずれもカバーしたい場合は、いずれの役務名でも権利取得する必要がある。

5.商品・役務間の類否について
5-1.商品-役務間の類否判断における考え方

 前記の商標審査審理指南(2021)P159(第五章 商標の同一または類似の審査および審理、2. 解釈)において、商品-役務間については特段の記載はないが、前記の商品および役務のそれぞれの記載に準じれば、商品と役務の間に比較的大きな関連性を具備すれば類似と考えられる。

 とはいえ、類似商品・役務区分表には、商品と役務とでクロスサーチを行うような記載がないことから、商品-役務間で類似とされる審査は、通常、行われていない、と考えられる。

中国の商標審査審理指南について(審査編)

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中国における非アルファベット文字を含む商標の取り扱いについて

1.記載個所
 標章の類否基準については、「商標審査審理指南2021」(2022年1月1日施行。以下同じ。)の下編「第五章 商標の同一、類似の審査・審理」に記載されている。その概要(目次)の抜粋は以下のとおり。

第五章 商標の同一、類似の審査・審理
1. 法的根拠
2. 解釈
3. 判断の原則と方法
3.1 分離観察、全体比較、要部比較の方法
3.2 関連する考慮事項
4. 具体例:商標同一審理
 4.1 文字商標の同一
 4.2 図形商標の同一
 4.3 組合せ商標の同一
5. 具体例:商標類似審理
 5.1 文字商標の類似
 5.2 図形商標の類似
 5.3 組合せ商標の類似
6. 具体例:一般商標と、団体商標、証明商標の同一、類似審理

2.標章の類否判断に関する基本的な考え方
 日本の商標審査基準(日本)の第3 十「第4条第1項第11号(先願に係る他人の登録商標」に対応する「商標審査審理指南2021」の記載は、以下のとおりである。

(1) 対応する事項が記載されたガイドラインの場所
 「商標審査審理指南2021」下編 第5章「3. 判断の原則と方法」には、以下の規定がある。
 「商標の同一または類似を認定するときは、まず指定商品または役務が同一または類似の商品または役務に該当するかどうかを判断し、そして商標自体の形、読み方、意味および全体表現などについて、関連公衆の一般注意力を基準とし、全体の観察と主要部分の対比という方法を通じて、商標の標識自体が同一または類似であるかどうかの判定を行うとともに、商標自体の顕著性、先行商標の知名度、および同一または類似する商品(役務)に使用した場合関連公衆に商品(役務)の出所を混同、誤認させる可能性などを考慮しなければならない。
 また、商標法第57条で登録商標専用権の侵害行為として、「(一)商標登録者の許諾を得ずに、同一の商品にその登録商標と同一の商標を使用すること。(二)商標登録者の許諾を得ずに、同一の商品にその登録商標と類似の商標を使用し若しくは類似の商品にその登録商標と同一または類似の商標を使用し、容易に混同を生じさせること。」

(2) 留意点
 上記下線部の規定から理解されるとおり、類似商標については、下記の順序で審査される。

 (i) まず、指定商品・役務が類似するか否かを判断し、
 (ii) 次に、標章の「外観、称呼、観念」および全体の表現について、消費者の通常の注意力をもとに分離観察して、全体比較および要部比較を行うによって標章自体が類似するか否かを判断し、
 (iii) 商標の顕著性、知名度などを考慮して消費者に出所混同が生じるおそれを判断する。

 また、商標法第57条の規定においては、同一の登録商標を無許可で使用すると、消費者に出所混同が生じるおそれを考慮することなく、権利侵害行為としている。

3.標章の類否判断について
(1) 「商標審査審理指南2021」の下編 第5章「2. 解釈」には、以下の規定がある。
 「商標の同一とは、二つの標章に視覚的な差異がほとんどなく、同一または類似の商品または役務に使用した場合、関連公衆に商品または役務の出所を混同させるおそれがあることをいう。
 商標の類似とは、標章の文字の形、読み方、意味が類似し、標章の図形の構造、色彩、外観が類似し、または文字と図形の組み合わせの全体の構造方式・外観が類似し、立体商標における立体標識の形状・外観が類似し、色彩商標の色彩または色彩の組み合わせが類似し、音声商標の聴覚感知または全体的な音楽イメージが類似し、同一または類似の商品または役務に使用するとき、関連公衆に商品または役務の出所を混同させるおそれがあることをいう。」

(2) 留意点
 商標同一の定義は、標章の間に「視覚的」な差異がほとんどなく、かつ、商品・役務の出所混同を生ずることとされており、称呼や観念は、必ずしも考慮の前提とされていない。
 商標類似の定義は、まず、標章を、文字商標、図形商標、文字と図形の組み合わせ、立体商標、色彩商標、音声商標等に分類し、次に、文字商標については外観、称呼および観念が類似し、図形商標については構造・色彩等の外観が類似し、文字と図形の組み合わせについては全体の構造および外観が類似することなどとされている。

4.文字商標、図形商標、組合せ商標の同一および類似について
4-1.文字商標の同一および類似について

(1) 同一
 「商標審査審理指南2021」の下編 第5章「4. 文字商標の同一」には、以下の規定がある。
 「文字商標の同一とは、商標に使用する言語が同じであって、かつ文字の構成と配列の順序が完全同一で、関連公衆に商品または役務の出所を混同、誤認させるおそれがあることをいう。字体、アルファベットの大文字・小文字、または文字の配列に横と縦の違いがあることで二つの商標に微かな差異があるときも、同一の商標と判定される。」

(2) 文字商標の類似
(i) 中国語の商標であって同じ漢字で構成され、字体、デザイン、称呼、配列の順序だけが違い、関連公衆に商品または役務の出所を混同させやすい場合は、類似商標と判定される。
(ii) 中国語商標の顕著な識別性を有する部分の漢字構成が同じであるが、順序が異なるだけで、関連公衆に商品または役務の出所を混同させるおそれがある場合は、類似商標と判定される。
(iii) 商標文字または顕著な識別性を有する文字の読み方が同一または類似し、かつ字体または全体の外観が類似しており、関連公衆に商品または役務の出所を混同させるおそれがある場合は、類似商標と判定される。例えば、下記は、いずれも類似商標と判定される。

(iv) 文字の構成と発音が異なるが、字形が類似しており、関連公衆に商品または役務の出所を混同させるおそれがある場合は、類似商標と判定される。例えば、下記は、いずれも類似商標と判定される。

(v) 商標の文字構成または発音が異なるが、意味が同一または類似しており、関連公衆に商品または役務の出所を混同させるおそれがあるものは、類似商標と判定される。
(v-1) 外国語商標の意味が中国語および数字商標と主に意味が同じ(意味に対応関係がある)または基本的に同じ(意味に強い対応関係がある)であり、関連公衆に商品または役務の出所を混同させるおそれがある場合は、類似商標と判定される。例えば、下記は、いずれも類似商標と判定される。

(v-2) 2つの外国語商標の主な意味が同一またはほぼ同一であり、字体に大きな違いがなく、関連公衆に商品または役務の出所を混同させるおそれがある場合は、類似商標と判定される。例えば、下記の中国語訳はいずれも「生活解決方案」なので、類似商標と判定される。

(vi) 商標が1つまたは2つの外国文字または数字で構成され、字体またはデザインのみが異なり、商標の全体的な外観が類似し、関連公衆に商品または役務の出所を混同させるおそれがある場合は、類似商標と判定される。例えば、下記は、いずれも類似商標と判定される。

 ただし、標章が一般的ではない字体から1または2の外国文字で構成され、字体が明らかに異なる場合、商標間の全体的な相違は明らかであり、関連公衆に商品または役務の出所を混同させることが容易でない場合、類似商標と判定されない。例えば、下記は、類似商標と判定されない。

(vii) 外国語の商標が3文字以上で構成されている場合、個々の文字のみが異なり、全体に意味がないかまたは意味に明らかな相違がなく、関連公衆に商品または役務の出所を混同させるおそれがあるものは、類似商標と判定される。
 ただし、商標のイニシャル(読み始めの部分)の発音と形が明らかに異なり、商標間の全体的な違いが明らかであり、関連公衆に商品または役務の出所を混同させることが容易でない場合は、類似商標と判定されない。例えば、下記は、類似商標と判定されない。
(例1)LOVE(意味:愛)とEOVE(意味無)
(例2)RELGAN(意味無)とSELGAN(意味無)

 また、商標の全体的な意味が異なり、商標間の全体的な相違が明らかであり、関連公衆に商品または役務の出所を混同させることが容易でない場合も、類似商標と判定されない。例えば、下記は、いずれも類似商標と判定されない。

(viii) 商標が3以上の外国文字で構成され、文字が異なる順序で配置され、商標間の全体的な相違が明らかであり、関連公衆に商品または役務の出所を混同させることが容易でない場合、類似商標と判定されない。例えば、下記は、類似商標と判定されない。

(ix) 商標が2つの外国語で構成され、語順のみが異なり、意味に明らかな相違がなく、関連公衆に商品または役務の出所を混同させる可能性がある場合、類似商標として判定される。例えば、下記は、いずれも類似商標と判定される。

(x) 外国語商標の単語が、単数形と複数形、動名詞、略語、比較級と最上級、品詞、冠詞の追加、接続詞の追加、前置詞の追加などの形でのみ変化する場合;例えば、「MORE」「THE」「LA」「LE」「AND」「BY」「FROM」など、表現が基本的に同じであり、関連公衆に商品または役務の出所を混同させる可能性がある場合、類似商標として判定される。

4-2.図形商標の同一および類似について
(1) 同一
 構成要素や表現に関して図形商標間に視覚的な相違が基本的にないことを意味し、関連公衆に商品または役務の出所を混同させる可能性がある場合、同一と判定される。例えば、下記は、いずれも同一と判定される。

(2) 類似
(i) 図形商標の構成と全体的な外観が類似しており、関連公衆に商品または役務の出所を混同させる可能性がある場合、類似商標として判定される。例えば、下記は、いずれも類似商標と判定される。

(ii) 他人の過去の著名な商標や特徴的な図形が商標に含まれており、関連公衆に商品または役務の出所を混同させる可能性がある場合、類似商標と判定される。例えば、下記は、いずれも類似商標と判定される。

4-3.組合せ商標の同一および類似について
(1) 同一
 標章の文字構成、図形の外観、配置および組合せが基本的に同一であり、同じであるため、標章の称呼と全体の視覚の点で基本的に区別できず、関連公衆に商品または役務の出所を混同させる可能性がある場合、同一と判定される。例えば、下記は、いずれも同一と判定される。

(2) 類似
(i) 標章の漢字部分が同一または類似であり、関連公衆に商品または役務の出所を混同させる可能性がある場合、(図形が非類似でも)類似商標と判定される。例えば、下記は、いずれも類似商標と判定される。

 ただし、漢字が標章の識別力のない部分または識別力を有する主要部分でなく、外観が明らかに相違しており、関連公衆に商品または役務の出所を混同させるおそれがない場合を除く。例えば、下記は、いずれも類似商標と判定されない。

(ii) 標章の外国語部分または数字部分が同一または類似し、関連公衆に商品または役務の出所を混同させる可能性がある場合、類似商標と判定される。例えば、下記は、いずれも類似商標と判定される。

 ただし、標章の全体的な称呼、観念および外観が明らかに相違し、関連公衆に商品または役務の出所を混同させる可能性がない場合、類似商標と判定されない。例えば、下記は、いずれも類似商標と判定されない。

5.外国語マーク、非アルファベット文字およびカタカナについて
(1) アルファベット文字
 中国の消費者の通常のレベルで認識できれば、称呼、観念が生じるが、認識できなければ、造語として認識し、称呼、観念が生じない。例えば、下記商標に含まれるアルファベット文字「MEN’S WEARHOUSE」は、通常良く見られる英単語であり、中国領域内の消費者の通常の認識によって「男のたんす」と容易に認識できるため、類似と判断された例である(案件番号:(2021)京行終3574号)。

 アルファベット文字を含む商標の類否については、前記の規定および例示を参照のこと。

(2) 非アルファベット文字
 通常、図形として認識し、称呼、観念が生じないが、その内容を中国の消費者が通常のレベルで認識できるものであれば、称呼、観念が生じる。例えば、下記の商標について、判決書では、「外国語の商標と中国語の商標との類似性判断について、消費者の認識レベルおよび外国語商標と中国語標章との間に対応関係を形成しているか否かなどの要素を考慮すべきである」と述べたうえ、「本件において、係争商標の図形は韓国語文字であり、かつ見慣れない単語ではなく、対応する中国語の観念は、『氷雪』である。係争商標の中国語意味と引用商標一の顕著な識別部分『雪冰元素』とは、文字の構成、称呼などにおいて類似し、類似商標を構成する」と判断された((2019)京行終5884号)。

(3) カタカナのみからなる商標
基本的には(2)と同じであるが、文字(漢字)と認識された事例があるので留意が必要である。例えば、「トモエ」(出願No.19652325)は、漢字の「卜乇工」として認識された(案件番号:商評字[2021]第291360号)。

(4) カタカナを含む商標
 カタカナ(またはひらがな)と漢字(簡体字、繁体字、和製漢字、異体字)またはアルファベットとの組み合わせの場合、漢字またはアルファベットが要部と認識されて判断された事例があるので留意が必要である。例えば、

について、判決書では、「係争商標は、漢字『薬局』、日本語『スギ』によって構成する。その内、漢字『局』には機関および団体などの意味を有し、『薬』には病を治る物品の意味を有し、『薬局』を『血圧計,哺乳瓶』などの商品に使用する場合、消費者が商品の出所、品質、機能、用途などの特徴に容易に誤認を生じ、欺瞞性を有し、商標法10条1項7号に該当する」と述べ、「スギ」の観念について言及せず、漢字の部分のみで商標の観念を判断した((2021)京行終8945号)。
 また、例えば、「シルウォーム\SILLWARM」(引用商標3)は、英語『SILLWARM』および日本語によって構成されており、中国の消費者の認識習慣からすると、引用商標3の要部は英語部分である」とした((2019)京行終4965号)。

中国におけるマドリッド協定議定書の基礎商標の同一性の認証と商品・役務に関する審査の在り方

 「マドリッド協定議定書の利用促進の観点からの調査研究報告書」(平成28年3月、日本国際知的財産保護協会)4.3.7、6.3.6(2)

 

(目次)

4 基礎商標の同一性の認証に関する文献調査結果

 4.2 調査結果概要

  4.2.3 各国別の調査結果一覧

   表2 各国知的財産権庁からの調査票回答及び文献調査結果一覧表(2) P.37

 4.3 各国の特徴

  4.3.7 中国 P.139

6 商品・役務の審査について

 6.1 調査方法 P.533

 6.2 調査結果概要 P.535

 6.3 主な指定国における商品・役務の表示に関する審査の傾向

  6.3.6 その他の指定国について

   (2) 中国 P.655