中国における「商標の使用」の定義とその証拠
【詳細】
1.「商標の使用」の定義
商標の使用とは、商品、商品の包装もしくは容器および商品取引書類上に商標を用いること、または、広告宣伝、展示およびその他の商業活動中に商標を用いることにより、商品の出所を識別するための行為を指す(中国商標法第48条)。
2.「商標の使用」立証のための証拠
裁判所および商標評審委員会(日本における審判部に相当。)の実務において、以下の証拠は商標を使用した証拠とみなすことができる。
(1)商標が付された商品そのもの、商品のパッケージ、容器、ラベル、説明書および価格表など
(2)商標が付された商品の取引文書。例えば、販売契約書、領収書、商品輸出入検疫証明書、通関書など
(3)ラジオ、テレビ、出版物、展覧会、広告パネル、ダイレクトメールまたはその他の広告手段により、商標を継続して宣伝したことを示すコマーシャルや写真など
(4)役務商標については当該商標を使用したサービスの紹介ハンドブック、提供場所の看板、店舗の内装、スタッフの服装、宣伝文句、メニュー、価格表、クーポン、事務用品、レターセットおよびその他指定のサービスに関する用品
また、裁判所の実務では、商標使用許諾契約、協議書、または商品の販売契約以外に商標の使用を証明できる証拠がない場合、証拠不十分とみなされる場合が多いことに注意する必要がある。
以上、商標の使用を示す証拠の具体的な例を挙げたが、裁判所の実務において商標の使用を認定する際には、以下の要件を総合的に踏まえた判断がなされるため、注意が必要である。
(1)事業活動において公に使用されていること。商標は日常生活の様々な場面で使用されているが、取引を目的とした使用のみが商標法でいう「使用」に該当する。商標権者が非公開の統計表や諸表などの文書に商標を使用する行為、または商標権者がその商標専用権についてなんらかの声明を行う行為、すなわち商標登録情報を公開するなどは、取引を目的とした使用ではないため、商標法でいう「使用」にはあたらない。
(2)商品の出所を識別する目的での使用。例えば、委託生産(OEM)の場合、外国の委託者が中国で受託者に委託して、製造した全商品を輸出して、中国以外の地域で販売するケースでは、中国の関連する公衆が、委託者の商標に触れることは不可能である。このように商標の本質的な機能である商品の出所識別機能を体現できないケースは、商標法第48条に規定する商標の使用行為には該当しない。関連する商標を表示した商品が市場で販売された証拠または当該商標が公開宣伝された証拠がなければ、委託生産の過程で発生した証拠は、商標法でいう「使用」を証明する証拠としては不十分である。
3.「商標の使用」を示す証拠を保存する意義と目的
(1)3年間の不使用を理由として不使用取消を申立てられることを防止する
商標法第49条2項は「登録商標が使用許可された商品の通用名となり、または正当な理由なく継続して3年間使用しなかったときは、いかなる法人または個人も、商標局に当該登録商標の取消を請求することができる。商標局は、請求を受領した日から9か月以内に決定を行わなければならない。特別な事情があり、延長することが必要な場合、国務院工商行政管理部門の許可を得て、3か月間延長することができる」と規定している。
したがって、他人が上記の規定に基づき、商標局に対して商標の取消を求めた場合、権利者は必ず当該期間において当該商標を使用したことを証明しなければならない。使用の証拠と記録を保存していない場合、登録商標の取消というリスクに直面する可能性が高い。
(2)馳名商標認定のための重要証拠
商標法第14条は「馳名商標は、当事者の請求により、商標に係る案件の処理において認定が必要な事実として認定を行わなければならない。馳名商標の認定には、以下の要素を考慮しなければならない。
(一)関連する公衆の当該商標に対する認知度
(二)当該商標の継続的な使用期間
(三)当該商標のあらゆる宣伝業務の使用期間、程度および地理的範囲
(四)当該商標の馳名商標としての保護記録
(五)当該商標が馳名であることのその他の要因」
と規定している。
馳名商標は商標異議申立、取消請求、権利侵害訴訟において、一般の登録商標より手厚く保護されている。例えば、指定商品・役務区分をまたいで保護されるうえ、商標の無効宣告を請求する申立をする場合に、冒認登録した者の悪意を証明することができれば、5年間の期間制限を受けることがない等の措置を受けられる。また、馳名商標の認定を受けている事実は商標の使用を示す証拠としてみなされるケースが多い。
(3)商標権侵害訴訟における損害賠償請求の重要な証拠
商標法第63条は「商標権侵害の損害賠償額は、権利者が侵害により受けた実際の損失により確定する。実際の損失を確定することが困難なときは、侵害者が侵害により得た利益により確定することができる。権利者の損失または侵害者が得た利益を確定することが困難なときは、当該商標の使用許諾料の倍数を参照して合理的に確定する。悪意により商標権を侵害し、情状が重大なときは、上述の方法により確定した金額の1倍以上3倍以下で賠償額を確定することができる。賠償額は、権利者が侵害行為を抑止するために支払った合理的な支出を含まなければならない」と規定している。
また、商標法第64条は「登録商標権者が損害賠償を請求し、権利侵害と訴えられた者により登録商標権者が登録商標を使用していないとの抗弁がなされたときは、人民法院(日本における裁判所に相当)は、登録商標権者に、これまで3年以内にその登録商標を実際に使用している証拠を提供するよう求めることができる。登録商標権者は、これまで3年以内に、当該登録商標を実際に使用していることを証明できない場合、または侵害行為によりその他の損失を受けたことを証明できない場合は、権利侵害として訴えられた者は、損害賠償の責を負わない」と規定している。
以上からわかるように、商標権侵害の証拠の中で、商標の使用を示す証拠は損害賠償請求の際に重要であり、損害賠償額が裁判所から支持されるか否かを握る鍵であるといえる。