中国改正商標法について留意すべき点
【詳細】
中国・改正商標法マニュアル(2015年3月、日本貿易振興機構 進出企業支援・知的財産部 知的財産課)四
(目次)
四 日本ユーザーが留意すべき点 P.81
1 商標出願、更新等の申請案件の変化 P.81
(1) 音声商標の導入 P.81
(2) 「一出願多区分」制度の導入 P.82
(3) 商標登録更新期間の変更 P.82
(4) 商標権譲渡手続きの変化 P.82
(5) 商標使用許諾届出の変化 P.83
2 商標権利保護に関する変化 P.83
(1) 審査・審理期限の明文化 P.83
(2) 異議申立プロセス及びその後続救済手段の変化 P.83
(3) 冒認出願対策の強化 P.84
(4) 未登録商標に対する保護の強化 P.84
(5) 登録商標の使用義務の強化 P.85
(6) 懲罰的賠償制度の導入 P.85
(7) 「馳名商標」表示の広告宣伝における使用の禁止 P.85
中国改正商標法及び実施条例の主な改正点
【詳細】
中国・改正商標法マニュアル(2015年3月、日本貿易振興機構 進出企業支援・知的財産部 知的財産課)一の1、2
(目次)
一 改正法及び関連規定の主な改正点
1 商標法 P.1
(1) 第一章 総則 P.2
① 第4条:商標登録出願条件の確立 P.2
② 第7条:誠実信用の原則の追加 P.2
③ 第8条:音声商標の導入 P.3
④ 第14条:馳名商標の認定と保護 P.3
⑤ 第15条:冒認出願対策の強化 P.5
⑥ 第19条:代理機構への管理強化 P.6
(2) 第二章 商標登録の出願 P.7
① 第22条第2項:「一出願多区分」制度を導入 P.7
② 第22条第3項:電子出願の導入 P.7
(3) 第三章 商標登録の審査及び認可 P.8
① 第28条:審査期限の規定 P.8
② 第29条:審査手続きの改善 P.9
③ 第33条:異議申立の主体資格の制限 P.10
④ 第35条:異議後の救済手続きの変化 P.11
(4) 第四章 登録商標の更新、変更、譲渡及び使用許諾 P.13
① 第40条:更新期間の延長 P.13
(5) 第五章 登録商標の無効宣告 P.13
① 第44条~第47条 P.13
(6) 第六章 商標使用の管理 P.15
① 第57条:新たな商標権侵害行為を定義 P.15
(7) 第七章 登録商標専用権の保護 P.16
① 第58条:新たな不正競争行為を追加 P.16
② 第59条:先使用主義への適当な配慮 P.16
③ 第60条第2項:商標権侵害行為の再犯への処罰の追加 P.17
④ 第63条:懲罰規定の新設及び権利者の挙証責任の軽減 P.17
⑤ 第64条:商標権者の賠償要求時における使用義務の規定の追加 P.19
(8) その他 削除された元の商標法の3つの条文 P.19
① 旧商標法第42条 P.19
② 旧商標法第45条 P.20
③ 旧商標法第50条 P.20
2 商標法実施条例 P.21
(1) 第一章 総則 P.21
① 第3条:馳名商標認定の立法趣旨の明確化 P.21
② 第5条:外国出願人が受取人を明記する規定の追加 P.22
③ 第8条:「電子データ」の形式で商標登録出願に関する規定の追加 P.22
④ 第9条、第10条:出願人が書類を提出する日付、要求及び送達に関する規定 P.23
⑤ 第11条:審査・審理期間に含まれない状況 P.24
⑥ 第12条:期間の計算方法について P.25
(2) 第二章 商標登録の出願 P.25
① 第13条:商標登録願書に関する要件 P.25
② 第14条:商標登録出願人の身分証明に関する規定 P.27
③ 第18条:商標出願の受理条件に関する規定 P.27
(3) 第三章 商標登録出願の審査 P.28
① 第22条:商標分割出願に関する規定 P.28
② 第23条:商標登録出願の内容に対する説明及び修正に関する規定 P.28
③ 第24~第28条:商標異議申立に関する規定 P.28
④ 第29条:出願又は登録書類の訂正に関する規定 P.30
(4) 第四章 登録商標の変更、譲渡、更新 P.30
① 第30条:商標権者の名義変更に関する規定 P.30
② 第31条:商標譲渡について P.31
③ 第32条:商標権の移転について P.32
(5) 第五章 商標国際登録 P.32
(6) 第六章 商標審判 P.33
① 第51条:商標審判の定義について P.34
② 第52条~第56条:商標審判案件の審理範囲の規定について P.34
③ 第59条:商標審判案件の請求又は答弁の補足証拠に関する規定について P.36
④ 第61条、第62条:請求人が審判請求を取り下げること及び取り下げた結果に関する規定について P.36
(7) 第七章 商標使用の管理 P.37
① 第65条:通用名称になった商標を取消す規定について P.37
② 第66条:正当理由なしで連続して三年不使用の登録商標を取消す規定について P.37
③ 第67条:3年連続不使用の登録商標の正当な理由について P.38
④ 第69 条:登録商標使用許諾届出の規定について P.38
⑤ 第70条:商標専用権の質権設定の規定について P.38
⑥ 第71条:被許諾者の名称と原産地を明記しない法律責任の規定について P.38
⑦ 第73条、第74条:商標抹消請求の規定について P.39
(8) 第八章 登録商標専用権の保護 P.40
① 第75条:他人の商標専用権を侵害する行為に、便宜を提供する行為の定義 P.40
② 第78条:違法経営額を計算する考慮要素の規定について P.40
③ 第79条:権利侵害製品が合法的に取得されたことを証明する情況の規定 P.41
④ 第80条:商標権侵害の製品であることを知らずに販売し、当該商品を合法的に取得したことを証明できる法的責任の規定 P.41
⑤ 第81条:商標権帰属に争議がある情況の定義について P.41
⑥ 第82条:商標権侵害案件における商標権侵害製品に対する鑑定手続きの規定 P.42
(9) 第九章 商標代理 P.42
(10) 第十章 附則 P.43
参考資料
1 改正法の条文・対照表
(1) 商標法全文 P.87
(2) 商標法対比表 P.104
(3) 商標法実施条例 P.130
中国商標法の第三回改正(2014年5月1日施行)の概要
【詳細】
本稿では、2014年月5月1日に施行される中国の改正商標法について、主要な改正内容を紹介する。
(1) 商標出願人の便宜を図るための改正
(i) 音声商標の導入(第8条):商標登録を受けることができる種類として音声が新たに追加された。
(ii) 一出願多区分制度の導入(第22条):一出願多区分制度が導入され、商標登録出願人は、一つの申請において多数の区分について同一の商標出願をすることができるようになった。
(iii) 審査・審理期限の規定(第28条、第34~35条、第44~45条、第49条、第54条):改正法では、初めて商標審査及び商標案件の審理期限について定められ、審査・審理期間の短縮が期待される。具体的には、審査期限は9ヵ月、審理期限は、取消審判・無効審判は12か月、無効宣告に対する覆審の審理は9ヵ月、さらに、特殊な状況があった場合は3ヵ月又は6ヵ月延長できるようになる。また、商標審判委員会による不服審判案件の審理において、関連する先行権利の確定について裁判所の審理中の案件又は行政機関の処理中の案件の結果を根拠とする状況も客観的に考慮した上で、案件審理を中止することができることも規定した。
(iv) 審査手続の改善(第29条):改正法では、「審査過程において、商標局が商標登録出願内容について説明又は補正する必要があると判断した場合、出願人に説明又は補正を要求することができる」と規定され、出願人の意見を聴取する制度が導入された。
(v) 異議申立制度の改正(第33条~34条):改正前商標法の規定によれば、異議申立の申立は「何人も」行うことができ、異議申立の理由についても限定がなかったが、今回の改正によって異議申立人の資格及び異議申立理由に一定の制限が課されることになった。具体的には、異議申立人は、第10~12条違反の場合は何人でも、第13条第2~3項、第15条、第16条第1項、第30~32条違反を理由とする場合はその先行権利者又は利害関係人が異議申立を行うことができるものと明記された。また、商標審判部の異議申立に係る決定に不服があるか十分な理由や証拠がある異議申立人は、当該商標の無効宣告を請求することができるとの規定も追加された。
(2) 公平競争による市場秩序を維持するための改正
(i) 馳名商標についての改正(第14条、第53条):馳名商標は栄誉称号ではなく法律概念であるのに、これまで、一部の企業によって、販売促進のための金看板として「馳名商標」商品に記載するために馳名商標が利用されたり、一部地方政府による馳名商標取得企業への奨励金のために偽造証拠を作って馳名商標を得る等の行為が行われていた。このような状況を是正するため、改正法では、「馳名商標は、当事者の請求により、商標案件において認定する必要がある事実として認定しなければならない」との明確な規定により「個別認定、受動認定」の原則が明らかにされ、馳名商標と認定された商標であっても、生産・経営者が商品・商品包装又は容器、広告宣伝・展覧及びその他の商業活動において、『馳名商標』の表示を使用することを禁止する規定も追加された。さらに、馳名商標を宣伝に使用した場合について、10万元(約160万円)の罰金が課される旨の罰則規定も追加されている。
また、改正法では馳名商標認定の手続と機関を明確化する文言が追加され、当事者が馳名商標の権利を主張した場合、商標登録の審査及び工商行政管理部門の商標案件(第三者異議や行政の商標権侵害)においては商標局、再審請求等においては商標審判部、商標民事、行政案件の訴訟においては、最高裁判所によって指定された裁判所が馳名の状況について認定を行うことができることとされている。
(ii) 冒認出願対策の強化(第15条):ここ数年、業務提携の準備又は業務提携において、他人の商標が先に使用されたことを知った上で冒認出願する行為が頻発していたが、審理において明確に代理又は代表関係にない案件に適用できる明確な法律条文がなかった。このような状況に鑑み、今回の改正法によって「業務提携又は他の関係によって、他人の商標が先に使用されていることを明らかに知った上での冒認出願することを禁止する」という規定が追加されている。
(iii) 新たな不正競争行為の追加(第58条):商標と企業商号の衝突について、改正法では、「他人の登録商標、未登録の馳名商標を企業名称に商号として使用し、公衆を誤認させる」行為も不正競争に該当すると規定され、不正競争防止法により禁止されることが明確化された。
(iv) 先使用商標の保護(第59条):改正法において、善意による先使用商標の保護のため、「商標権者がその登録商標を出願する前に、他人が同一又は類似の商品について商標権者より先に登録商標と同一又は類似の商標を使用し、且つ一定の影響力を有するようになった場合に、登録商標の商標権者は、当該他人の元の使用範囲において当該先使用商標の使用を禁止する権利を有しない。ただし、区別要素の追加を適宜に要求することができる」との規定が追加された。
(3) 商標権を保護するための改正
(i) 新たな商標権侵害行為の規定(第57条):改正法においては、「他人の登録商標権を侵害する行為のために、故意に便宜を図り、商標権侵害の実施に協力する」行為が商標権侵害の行為の種類の一つとして加えられた。これによって、直接には他人の商標権を侵害する行為を実施していないものの、他人の商標権を侵害する行為に参与、協力している企業又は個人に相応の責任を負わせることになった。
(ii) 再犯への処罰の強化(第60条):商標権侵害の再犯について、厳罰に処する「5年以内に商標権侵害に当たる行為が2回以上あるか、又はその他の深刻な情状がある場合には、厳罰に処する」という規定を加えた。
(iii) 懲罰規定の改正(第63条):改正法においては、悪意により商標権を侵害し、その情状が深刻な場合には、権利者が侵害により受けた実際の損失、侵害者が侵害により得た利益、登録商標の使用許諾費用の1倍以上3倍以下の範囲で賠償額を確定することができることとなった。上記3つの根拠によって賠償額を確定することが困難な場合には、裁判所は適宜に法定賠償額を決定することができ、法定賠償額についても改正前の50万元から300万元まで引き上げられる。
さらに、権利者が挙証に尽力したが侵害行為に関わる帳簿、資料を主に侵害者が把握している場合に、裁判所が侵害者に関連帳簿、資料の提供を命じることができることとなり、侵害者がその提供を拒否するか偽造の帳簿、資料を提供した場合は、権利者の主張及び提出証拠を参考にして、損害賠償額を確定することができると規定されており、権利者の挙証負担が軽減されている。
(iv) 商標権者の賠償要求時における使用義務の規定の新設(第64条):改正法では、権利者が賠償を要求する時の使用義務に関して、「侵害を訴えられた当事者が、登録商標権者が登録商標を使用していないという抗弁を主張した場合、裁判所は、登録商標権者にその前3年間における登録商標の実際使用証拠の提出を要求することができる。登録商標権者は、その前3年間に当該登録商標を使用したこと、又は、侵害行為によりその他の損失を被ったことを証明できない場合には、侵害を訴えられた当事者は賠償の責任を負わない」と規定している。
上記で紹介した内容のほか、電子出願の導入(第22条)、商標代理機構の管理強化(第19条、第68条)等の改正も行われている。
【留意点】
今回の改正によって「他人の登録商標、未登録の馳名商標を企業名称に商号として使用し、公衆を誤認させる」行為が不正競争に該当すると規定されたが、他人の著名な商号を商標として登録することについては今回の改正案では言及されておらず、著名で独創的な企業商号については、企業が商標として登録することで保護することが必要である。なお、第32条に規定の「先行権利」に基づき先行商号権の保護を求めることもできる。
今回の改正によって使用義務の規定が新設されたことから、商標権者は商標の実際の使用において商標の使用証拠を大切に保存し、ビジネスの取引文書にも実際に使用した商標を記載しておくと良い。
本稿作成時において、商標行政管理局は商標法実施条例の改正に着手しており、同条例において、音声商標の出願要件、一出願多区分の費用標準と商標審査改正手続の具体的な方法が明確に規定されることが待たれる。