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中国の意匠特許における機能性および視認性

1. 中国の意匠特許
 意匠特許は、発明特許や実用新案特許を含む現代的な特許制度の一環として1985年に初めて中国に導入された。また、国内優先権出願(最初の意匠出願から6月以内に出願)が可能である(専利法第29条)*1。中国における意匠特許保護は、専利法および同法施行規則に基づいて定められ、新規の意匠、形状、模様および色彩が意匠特許の対象として意図されている。意匠特許は、高い美的効果を有し、かつ産業利用に適したものでなければならない。
 専利法および同法施行規則によれば、意匠特許は実体審査を要求されず、形式的要件に関する審査が必要とされ、出願人情報、願書の完全性、図面の認容可能性などが審査の対象となる。中国における意匠特許の保護期間は出願日から15年である(専利法第42条)*1
*1:第四次改正専利法2021年6月1日施行予定

1-1. 機能性
1-1-1.専利法および同法施行規則における規定
 専利法および同法施行規則に基づき、中国における意匠特許の特許性判定基準は、その意匠が先行する意匠と同一もしくは類似のものであるか否かであり、特許される意匠は、既存の意匠もしくは既存の意匠の特徴の組合せと明瞭に異なっていなければならない。ただし、機能性が意匠特許の保護対象からどのように排除されるかについて、専利法および同法施行規則には明示する規定は存在しない。その結果、中国では現在、どの程度の機能性が存在すれば意匠特許保護の範囲から除外されるのかをめぐる論争が特許実務者の間で展開されており、その基準はまだ確立されていない。現状を言えば、中国の意匠特許制度は、専ら製品の機能性によって決定される意匠は保護の対象外とされるという点のみを強調しがちであるが、司法実務においては一定の弾力性が見受けられる。それゆえ、出願人が他のほとんどの法域で得られる保護範囲よりも広い範囲の意匠特許保護を獲得し、権利を行使しうるチャンスは十分にあると言えよう。
 具体的には、中国国家知識産権局が「専利審査指南」(以下「審査指南」と称する)の中でこの点に関する当局の基準を示している。「審査指南」の第IV部第5章6.1条(3)において、中国国家知識産権局は次のように規定している:「(3)製品の機能によってのみ限定された特定の形状は一般的に、全体の視覚効果に対して顕著な影響を与えない。例えば、カムの曲面形状が、必要となる特定の運動行程によってのみ限定されたもので、その相違は全体の視覚効果に対して通常は顕著な影響を与えない。また、自動車タイヤの円形形状は機能によってのみ限定されたものであるのに対して、タイヤ表面のパターンは、全体の視覚効果に対してより顕著な影響を与えることになる。」中国国家知識産権局の見方によれば「のみ限定された(唯一限定的)」という文言は非常に狭く解釈されるべきであり、機能性に関わる形状もしくは模様が択一的なものであってそれ以上の変更や修正が不可能であるという状況にのみ適用されるべき文言なのである。

1-1-2. 最高人民法院による解釈
 興味深いことに、この点に関して最高人民法院(日本の最高裁判所に相当する)は若干異なる見解をとっている。最高人民法院により2009年に頒布された「専利権侵害をめぐる紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈」(以下「解釈」と称する)の第11条には次のような記述がある:
「主に技術的な機能で決まるような設計特徴、および全体の視覚効果に影響を与えないような物品の材料や、内部構造などの特徴は考慮しない。」。
 この記述の中で最高人民法院が「主として(mainly)」技術的な機能で決まるような設計特徴を除外しているという点に注目されたい。最高人民法院によれば、ほとんどの製品は機能性と装飾性を兼ね備えているため、意匠は機能的な要件と装飾的な要請との妥協であり、両者の均衡であるのが普通である。したがって、意匠の機能性と装飾性は通常は相関的なものである。ゆえに、意匠の特徴が専ら特定の機能のみによって決定されるものでなくても、特定の機能を果たすための限られた数の意匠のいずれかに該当する場合、他の証拠を検討した上でそれを機能的な特徴と見なすことができる。その場合、そのような意匠は保護対象から除外されることになる。

1-2. 視認性
1-2-1.専利法および同法施行規則における規定
 特許性判断にあたって意匠の視認性をどの程度考慮すべきかについても、専利法および同法施行規則には明示規定が存在しない。「審査指南」の第I部第3章7.4条(5)によれば、「視覚によって認識できない製品もしくは裸眼によって視認できない製品、特別な機器に頼らなければ識別しえない形状、模様もしくは色彩(例えば、紫外線ライトで照射されなければ見えない模様を施された製品など)は特許保護の対象として適格でない」。それゆえ中国国家知識産権局は、目視可能でない形状や構造の保護を求める意匠特許を拒絶する傾向がある。中国の特許実務では、専ら製品の機能性によって決定される意匠か否かという機能性の判断に比較して、視覚によって認識できない意匠であるか否かという視認性の判断は、はるかに統一的である。

1-1-2. 最高人民法院による解釈
 上述したように、最高人民法院の「解釈」の第11条もまた「主に技術的な機能で決まるような設計特徴、および全体の視覚効果に影響を与えないような物品の材料や、内部構造などの特徴は考慮しない。」と明言している。したがって、最高人民法院はこの点では中国国家知識産権局と同様の立場をとり、裸眼では見えない形状、模様および色彩を保護対象とする意匠特許の執行を拒絶することになる。注目すべきは、エレベーターの内部や透明な製品の内部のように製品の内部が使用時に目視可能である場合である。それらの内部構造は使用時に目に見えるため、やはり意匠特許の保護範囲に該当することになる。

中国の意匠特許における機能性および視認性

1. 中国の意匠特許

意匠特許は、発明特許や実用新案特許を含む現代的な特許制度の一環として1985年に初めて中国に導入された。中国における意匠特許保護は、専利法および同法施行規則に基づいて定められ、新規の意匠、形状、模様および色彩が意匠特許の対象として意図されている。意匠特許は、高い美的効果を有し、かつ産業利用に適したものでなければならない。

専利法および同法施行規則によれば、意匠特許は実体審査を要求されず、形式的要件に関する審査が必要とされ、出願人情報、願書の完全性、図面の認容可能性などが審査の対象となる。中国における意匠特許の保護期間は出願日から10年である。

1-1. 機能性

1-1-1.専利法および同法施行規則における規定

専利法および同法施行規則に基づき、中国における意匠特許の特許性判定基準は、その意匠が先行する意匠と同一もしくは類似のものであるか否かであり、特許される意匠は、既存の意匠もしくは既存の意匠の特徴の組合せと明瞭に異なっていなければならない。ただし、機能性が意匠特許の保護対象からどのように排除されるかについて、専利法および同法施行規則には明示する規定は存在しない。その結果、中国では現在、どの程度の機能性が存在すれば意匠特許保護の範囲から除外されるのかをめぐる論争が特許実務者の間で展開されており、その基準はまだ確立されていない。現状を言えば、中国の意匠特許制度は、専ら製品の機能性によって決定される意匠は保護の対象外とされるという点のみを強調しがちであるが、司法実務においては一定の弾力性が見受けられる。それゆえ、出願人が他のほとんどの法域で得られる保護範囲よりも広い範囲の意匠特許保護を獲得し、権利を行使しうるチャンスは十分にあると言えよう。

具体的には、中国国家知識産権局(SIPO)が「特許審査ガイドライン」(以下「ガイドライン」と称する)の中でこの点に関する当局の基準を示している。「ガイドライン」の第IV部第5章6.1条(3)において、中国国家知識産権局は次のように規定している:「(3)もっぱら製品の機能によって限定された特定の形状は一般的に、全体の視覚効果に対して顕著な影響を与えない。例えば、カムの曲面形状が、もっぱら必要となる特定の運動行程によってのみ限定されたものである場合、その相違は全体の視覚効果に対して通常は顕著な影響を与えない。また、自動車タイヤの円形形状はもっぱら機能によってのみ限定されたものであるのに対して、タイヤ表面のパターンは、全体の視覚効果に対してより顕著な影響を与えることになる。」中国国家知識産権局の見方によれば「もっぱら・・・のみで限定される(exclusively determined)という文言は非常に狭く解釈されるべきであり、機能性に関わる形状もしくは模様が択一的なものであってそれ以上の変更や修正が不可能であるという状況にのみ適用されるべき文言なのである。

1-1-2. 最高人民法院による解釈

興味深いことに、この点に関して最高人民法院(日本の最高裁判所に相当する)は若干異なる見解をとっている。最高人民法院により2009年に頒布された「専利権侵害をめぐる紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈」(以下「解釈」と称する)の第11条には次のような記述がある:

「主に技術的な機能で決まるような設計特徴、および全体の視覚効果に影響を与えないような物品の材料や、内部構造などの特徴は考慮しない。」。

この記述の中で最高人民法院が「主として(mainly)」技術的な機能で決まるような設計特徴を除外しているという点に注目されたい。最高人民法院によれば、ほとんどの製品は機能性と装飾性を兼ね備えているため、意匠は機能的な要件と装飾的な要請との妥協であり、両者の均衡であるのが普通である。したがって、意匠の機能性と装飾性は通常は相関的なものである。ゆえに、意匠の特徴が専ら特定の機能のみによって決定されるものでなくても、特定の機能を果たすための限られた数の意匠のいずれかに該当する場合、他の証拠を検討した上でそれを機能的な特徴と見なすことができる。その場合、そのような意匠は保護対象から除外されることになる。

1-2. 視認性

1-2-1.専利法および同法施行規則における規定

特許性判断にあたって意匠の視認性をどの程度考慮すべきかについても、専利法および同法施行規則には明示規定が存在しない。「ガイドライン」の第I部第3章7.4条(5)によれば、「視覚によって認識できない製品もしくは裸眼によって視認できない製品、特別な機器に頼らなければ識別しえない形状、模様もしくは色彩(紫外線の下でなければ見えない模様を施された製品など)は特許保護の対象として適格でない」。それゆえ中国国家知識産権局は、目視可能でない形状や構造の保護を求める意匠特許を拒絶する傾向がある。中国の特許実務では、専ら製品の機能性によって決定される意匠か否かという機能性の判断に比較して、視覚によって認識できない意匠であるか否かという視認性の判断は、はるかに統一的である。

1-1-2. 最高人民法院による解釈

上述したように、最高人民法院の「解釈」の第11条もまた「主に技術的な機能で決まるような設計特徴、および全体の視覚効果に影響を与えないような物品の材料や、内部構造などの特徴は考慮しない。」と明言している。したがって、最高人民法院はこの点では中国国家知識産権局と同様の立場をとり、裸眼では見えない形状、模様および色彩を保護対象とする意匠特許の執行を拒絶することになる。注目すべきは、エレベーターの内部や透明な製品の内部のように製品の内部が使用時に目視可能である場合である。それらの内部構造は使用時に目に見えるため、やはり意匠特許の保護範囲に該当することになる。