ホーム CN-aq-2450

中国におけるコンピュータプログラムに関わる特許出願

1.発明の定義
1-1.解決方策(発明/考案)(専利法第2条2項、審査指南第2部分第1章2、第2部分第9章1~2)

・専利法第2条第2項によれば、発明とは、製品、方法、またはその改良について提案された新しい「解決方策(発明/考案)」(中国語「技术方案」)をいう。コンピュータプログラムに関わる発明について中国で特許を受けたい場合、その前提として、当該コンピュータプログラムに関わる発明そのものが、専利法にいう「解決方策(発明/考案)」に該当しなければならない。なお、コンピュータプログラムに関わる発明とは、発明で提示する課題を解決するためのものであって、コンピュータプログラムの処理フローが全部または一部の基礎となっており、コンピュータが前記フローに沿って作成されるプログラムを実行することにより、コンピュータ外部または内部の対象を制御、または処理する解決方策(発明/考案)をいう。

・「解決方策(発明/考案)」は、技術的手段、技術的課題、技術的効果をともに備えなければならない。したがって、明細書では、本発明が解決しようとする技術的課題、課題を解決するための技術的手段(技術的特徴)および得られる技術的効果を、できるだけ明確に記載すべきである。

・クレームに規定される発明は、専利法にいう「解決方策(発明/考案)」の要件を満たさなければならない。クレームに規定される発明は、技術的手段により技術的課題を解決し、技術的効果を奏するものでなければならない。

「解決方策(発明/考案)」に該当する例(審査指南第2部分第9章2):

(a)コンピュータプログラムに関わるクレームにおいて、プログラムを実行する目的が、技術的課題を解決すること(例えば、産業上の制御、測定や試験のプロセスを実現すること、または外部技術データを処理すること、またはコンピュータシステムの内部性能を改良すること)にあり、コンピュータでプログラムを実行することにより外部または内部の対象に対して行う制御または処理が、自然法則に従う技術的手段であり、かつこれにより自然法則に合う技術的効果(例えば、プロセス制御効果、技術データ処理効果、コンピュータ内部性能の改良効果など)を得られる場合。

(b)アルゴリズムの規定を含む発明(当該アルゴリズムに基づくクレーム)が、ある技術分野に適用され、技術的手段を利用してこの分野の技術的課題を解決し、それ相応の技術的効果を得られる場合。

1-2.知的活動の法則および方法(専利法第25条第1項第2号、審査指南第2部分第9章2)
発明そのものが知的活動の法則および方法に該当する場合、特許を受けることができない。

知的活動の法則および方法に該当する例:
(a)クレームの対象が実質上プログラムそのものである場合(例:「プログラム」、「プログラム製品」、「パッチ」、「コマンド」などをクレームする場合)。

(b)アルゴリズム、数学演算法則、ゲームのルール若しくは方法、記憶したプログラム自体のみにより特定される記録媒体等をクレームする場合。

 ただし、記録媒体自身に発明があり、単にプログラムが記録された記録媒体に該当しない場合、記録媒体は一般の物クレームとして扱う。
 また、コンピュータプログラムのフローにより特定される記録媒体は、知的活動の法則および方法に該当せず、特許を受けることができる。

2.コンピュータプログラムに関わるクレームの作成(審査指南第2部分第9章5.2)
 コンピュータプログラムに関わるクレームは、方法クレームとして作成してもよく、例えば当該方法を実現させる装置などの物クレームとして作成してもよい。以下の点に留意する必要がある。

2-1.方法クレームか、物クレームかを問わず、クレームは明細書によりサポートされるものでなければならない。具体的には、課題を解決するための手段を記載しなければならず、コンピュータプログラムが具備する機能およびその機能による効果のみの記載では足りない。

2-2.方法クレームとして作成する場合、方法の手順に従って、このプログラムにより実現する各機能、およびそれらの機能をどのように実現するかを詳細に記載すべきである。

2-3.装置クレームとして作成する場合、装置の各構成要素および構成要素同士の関係を具体的に記載しなければならず、ハードウェアだけでなく、プログラムを構成要素に含んでもよい。

2-4.コンピュータプログラムのフローのみに基づき、当該コンピュータプログラムのフローの各ステップもしくは当該コンピュータプログラムのフローを反映した方法クレームと完全に一致するように装置クレームを記載する場合、即ち、かかる装置クレームの各構成要素は、当該コンピュータプログラムのフローの各ステップまたはこの方法クレームの各ステップと完全に一致する場合、このような装置クレームの各構成要素は、プログラムのフローの各ステップまたはこの方法の各ステップを実現するために必要なプログラムモジュールであると解される。このような1組のプログラムモジュールにより特定される装置クレームは、主に明細書に記載のコンピュータプログラムによりこの解決方策を実現するプログラムモジュール構造として理解すべきであり、ハードウェア方式により解決方策を実現する実体的な装置と解してはならない。

3.留意事項
・日本においてはコンピュータプログラムを物として保護するが、中国では、現時点ではコンピュータプログラム自体について特許を受けることはできない。

・コンピュータプログラム自体が記録された記録媒体は、特許を受けることはできないが、2017年4月1日より改正後の審査指南が施行され、コンピュータプログラムのフローが記録された記録媒体に特許権を付与できるようになった。「コンピュータプログラム自体」とは、例えばコード化された指令の組み合わせ(例えば、C言語プログラム)を指し、「コンピュータプログラムのフロー」とは自然言語で記述される方法ステップを指す(例えば、・・・のためのステップA、・・・ためのステップB等)。

・主題がコンピュータプログラムまたはコンピュータプログラム製品であるクレーム、またはコンピュータプログラム自体が記録された記録媒体クレームについては、実務上、技術的範囲が不明確であり、専利法第2条第2項に規定される「発明の定義」、または専利法第25条第1項第2号に規定される「知的活動の法則および方法」に該当しないとして拒絶されることが殆どである。従って、コンピュータプログラムに関わる発明については、方法クレーム、または物クレームで保護を図るのが望ましい。

・コンピュータプログラムに関する装置クレームの書き方として、次の例が挙げられる。
(1)記録媒体+コンピュータプログラムのフロー。例えば:コンピュータプログラムが記憶されたコンピュータ読み取り可能な記録媒体であって、当該プログラムがプロセッサによって実行されるときに、以下のステップ・・・を実行するコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

(2)方法のステップと完全に一致する1組のプログラムモジュールで特定される装置クレーム。例えば、・・・のための第1のプログラムモジュールと、・・・のための第2のプログラムモジュールと、・・・のための第3のプログラムモジュールとを備えるXXX装置。

(3)構成要素としてプログラムを含む装置クレーム。例えば、コンピュータプログラムが記憶されたメモリと、プロセッサとを備え、前記プログラムが前記プロセッサによって実行されるときに、以下のステップ・・・を実行するXXX装置。

・中間処理時において、コンピュータプログラムのクレームが拒絶された場合、当該出願に対応する物クレーム、方法クレーム、記録媒体クレームがあるかを確認し、存在しない場合は、それらを削除せずに、物クレーム、方法クレームまたは記録媒体クレームに変更する補正を行うことが望ましい。実務上、このような補正は多く認められている。

・2021年8月に発表された専利審査指南改訂案(意見募集稿)には、コンピュータプログラムに関する発明については、例えば、「プロセッサによって実行されると、請求項1に記載の方法のステップを実施するコンピュータプログラム命令を含むコンピュータプログラム製品。」というように、クレームの主題名を「コンピュータプログラム製品」とすることができるとの記載がある。採択された専利審査指南改訂案にもこの記載が残った場合、コンピュータプログラムに関する発明を「コンピュータプログラム製品」として権利化することができるようになることを、留意されたい。

4.2019年12月31日付け指南改訂で新規追加された規定
 2019年12月31日付け改訂審査指南第2部分第9章の6.には、「アルゴリズム要件またはビジネスルール・方法要件を含む発明専利出願」に関する特別な規定が追加されているる。

(1)中国専利法第25条第1項第(2)号(知的活動の法則および方法)の審査
 請求項が抽象的なアルゴリズムまたは単純なビジネスルール・方法に関するものであり、かつ、技術的要件を一切含まない場合、この請求項は、専利法第25条第1項第(2)号に規定する知的活動の法則および方法に該当するため、特許を受けることができない。
請求項がアルゴリズム要件またはビジネスルール・方法要件だけでなく、技術的要件も含む場合、当該請求項は全体としては知的活動の法則および方法ではないため、専利法第25条第1項第(2)号によりその特許可能性を否定することができない。

(2)中国専利法第2条第2項(技術的解決方策)の審査
 アルゴリズム要件またはビジネスルール・方法要件を含む請求項が技術的解決方策に該当するかどうかを審査する際に、請求項に記載のすべての要件を全体的に考慮する必要がある。当該請求項には、解決しようとする技術的課題に対して自然法則を利用した技術的手段を採用することが記載されており、かつこれにより自然法則に合う技術的効果が得られる場合、当該請求項に係る解決方策は、専利法第2条第2項に記載の技術的解決方策に該当する。
 例えば、請求項において、アルゴリズムに関係する各ステップが、解決しようとする技術的課題と緊密に関連しており、例えば、アルゴリズムで処理されるデータが、技術分野において確実な技術的意味を有するデータであり、アルゴリズムの実行が、自然法則を利用して特定の技術的課題を解決する過程を直接反映し、かつ技術的効果を奏した場合、通常、当該請求項に係る解決方策は、専利法第2条第2項に記載の技術的解決方策に該当する。

中国における医薬用途発明の保護制度

記事本文はこちらをご覧ください。