中国における行政部門による専利紛争処理手続の概要
専利権侵害についての行政取締り手続き
専利権の侵害があったときは、専利権者は侵害訴訟を提起する方法以外に、専利行政部門に対して紛争処理および調停を申し立てることができる。紛争処理手続において、専利行政部門が侵害の成立を認める場合は、被申立人に対して侵害行為の停止を命じることができる(専利法第60条)。
以下、専利行政部門による紛争処理の流れを簡潔に説明する。
専利権紛争処理は、被申立人所在地または侵害行為地の省級行政区(または個別の区を有する市級行政区)の政府が所在する専利行政部門が管轄権を有しており、2以上の専利行政部門が管轄権を有しているときは、申立人はいずれか一つの専利行政部門に申立てることができる(専利法実施細則第81条)。
専利行政部門に紛争処理または調停を申し立てる場合、申立人は、申立書の原本および副本、主体証明書類、専利権が有効である証明、関連する証拠を提出しなければならない。また、実用新案権または意匠権に関わる紛争の場合は、評価報告の提出を求められる場合がある(専利行政法執行弁法第11条)。
専利行政部門は、紛争処理の申立があった時は、以下の申立要件を満たしているか否かを審査する(専利行政法執行弁法第10条、第13条)。
(1)申立人が専利権者または利害関係者であること
(2)明確な被申立人がいること
(3)明確な申立事項および具体的な事実と理由があること
(4)当該部門の受理範囲と管轄に属すること
(5)人民法院に提訴していないこと
申立条件を満たしていないと判断したときは、専利行政部門は申立書の受領日から5営業日以内に申立人に対して不受理の通知を行い、理由を説明する(専利行政法執行弁法第第13条)。
一方、申立要件を満たしていると判断したときは、専利行政部門は申立書の受領日から5営業日以内に受理して当事者に通知する。同時に、3名以上の奇数の専利権侵害紛争を処理する担当者を指定し、受理の日から5営業日以内に申立書およびその付属書類の副本を被申立人に送付する(専利行政法執行弁法第第13条)。
被申立人は、答弁を行う場合は、申請書およびその付属書類の副本の受領日から15日以内に答弁書の原本および副本を提出しなければならない。答弁書の原本および副本が提出された場合は、専利行政部門は答弁書の受領日から5営業日以内に答弁書の副本を申立人に送付する(専利行政法執行弁法第14条)。
専利行政部門は、事件の状況に基づいて、口頭審理を行うか否かを決定する。口頭審理を行う場合は、少なくともその3営業日前に、口頭審理の日時と場所を当事者に通知する(専利行政法執行弁法第16条)。
申立人が正当な理由なく口頭審理に出頭せずまたは許可なく退席した場合は、申立を取り下げたものとみなされる。一方、被申立人が正当な理由なく口頭審理に出頭せずまたは許可なく退席した場合は、欠席したものとして、手続は続行する(専利行政法執行弁法第16条)。
専利行政部門は、侵害行為が成立しないと判断した時は、申立人の申立を棄却する。また、侵害行為が成立し、侵害行為の停止を命じる必要があると判断した時は、処理決定に即時停止を命じる侵害行為の類型、対象および範囲を明確に記載する(専利行政法執行弁法第19条)。
当事者は、この処理決定に対して不服である場合は、処理通知の受領日から15日以内に行政訴訟を提起することができる。侵害者が上記期間内に行政訴訟を提起せず、かつ侵害行為を停止しなかった場合は、専利行政部門は人民法院に強制執行を申請することができる(専利行政法執行弁法第44条)。
専利行政部門は、原則受理の日から3ヵ月以内に処理決定を行わなければならないので、訴訟手続と比べて迅速的な解決を期待できる(専利行政法執行弁法第21条)。ただし、損害賠償については、紛争処理手続で対処することができないため、調停手続などで和解により解決しなければならず、和解が成立しない場合は民事訴訟を行うこととなる。