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中国の司法実務における均等論についての規定および適用

1.均等論の基本的な適用規則

1.1「3つの基本的に同一と易に想到」という基準

 2001年司法解釈の第17条においては、「基本的に同一の手段、機能および効果と当業者が容易に想到」という均等性の判断基準が明文化されている。

 例えば、参考事例1において、最高人民法院は、「被疑侵害品の技術的特徴と専利の技術的特徴が均等であるかどうかを判断する際には、被疑侵害品の技術的特徴が当業者にとって容易に想到できるものであるかだけでなく、被疑侵害品の技術的特徴が専利の技術的特徴と比べ基本的に同一の手段を採用し、基本的に同一の機能を実現し、かつ基本的に同一の効果を奏しているかをも考慮しなければならない」と論じている。そして、上記すべての条件が満たされた場合に限り、両者が均等な技術的特徴に該当すると認定される。

 

1.2均等性の判断の基準時は侵害発生時

 2001年司法解釈の第17条について、最高人民法院は、2015年に「均等に該当する特徴は、・・・当業者が被疑侵害行為の発生時に創造的な工夫をかけなくても想到できる特徴」という補正を加え、均等性の判断の基準時は侵害発生時であることを明確にした。

 

1.3オールエレメントルール

 中国の法院では、侵害性の判断においてはオールエレメントルールが採用されているので、均等論を適用する際にも、均等性の判断対象は技術全体ではなく、その技術を構成する技術的特徴となる。

 最高人民法院は、参考事例2において、「均等性とは、被疑侵害品における技術的特徴と請求項における対応する特徴との均等性を指し、被疑侵害品に係る技術と請求項に係る技術の全体的な均等性ではない」と強調している。

 

2.各種技術的特徴の均等論の適用

2.1数値または数値範囲に係る特徴の均等性判定

 2016年に、最高人民法院により公布された「専利権侵害をめぐる紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈(二)」(以下「2016年司法解釈の二」と略す)の第12条においては、「請求項が『少なくとも』、『超えない』などの用語により数値に係る特徴を限定し、且つ当業者が専利請求の範囲、明細書及び図面を閲読した後、当該用語が専利技術案の技術的特徴に対して限定作用があることを特に強調していると認めるとき、専利権者がそれと異なる数値につき均等の範囲内であると主張した場合、人民法院はそれを認めない」と規定されている。当該規定から、人民法院は、請求項における数値が数値範囲により限定されている特徴に関して均等性を判断する場合、非常に厳しい基準を採用することがわかる。さらに、前記司法解釈に対応し、北京市高級人民法院は、その策定した「専利侵害判定指南」の第54条において、「被疑侵害品における数値が請求項に記載されている対応の数値と異なる場合、専利権者は、被疑侵害品における数値が請求項に記載されている対応の数値と比べて技術的効果において実質的な相違がないことを証明できた場合を除き、その均等論に関する主張は認められない」と明確に規定されている。

 

2.2閉鎖形式の請求項の均等性判定

 化学や医薬分野でよく使われている閉鎖形式の請求項については、2016年司法解釈の二の第7条によると、被疑侵害品に係る技術が当該閉鎖形式の請求項を基に他の技術的特徴を追加したものである場合、その追加した特徴が回避できない通常量の不純物でない限り、当該請求項の保護範囲に入らないと規定されている。

 例えば、参考事例2において、最高人民法院は、閉鎖形式の請求項は、請求項に記載されていない組成成分や方法ステップを包含しないと一般的に解釈されていると論じている。また、組成物の閉鎖形式の請求項の場合、一般的には組成物には請求項に記載された成分のみが包含され、他の成分はすべて排除されるものと理解すべきであるが、通常量の不純物を含むことが許される。なお、補助原料は不純物に属さないとされる。

 

2.3機能的特徴の均等性判定

 請求項における機能的特徴について、2016年司法解釈の二の第8条によると、均等性の判定は、被疑侵害品の技術的特徴を、当該請求項の機能的特徴そのものと比較するのではなく、明細書および図面に記載された当該機能を実現するために不可欠な技術的特徴と比較することによって行われるものとする。

 

  1. 均等論の適用に対する制限

3.1包袋禁反言

 包袋禁反言は均等論の適用に対する制限であり、最高人民法院により2009年に頒布された「専利権侵害をめぐる紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈」(以下「2009年司法解釈」と略す)の第6条に明確に記載されている。具体的には、包袋禁反言の適用には以下の論点について注意すべきである。論点1)どのような限定または放棄に対して包袋禁反言が適用されるか、論点2)包袋禁反言が特定の技術的特徴について均等を排除する範囲、論点3)包袋禁反言を適用する主体。

 論点1)について、専利権者は権利付与と確定の過程において、実質的な欠陥を克服するために行われた補正や意見陳述は、すべて禁反言の対象となり得る。ここで、実質的な欠陥には新規性や進歩性の欠陥だけではなく、サポート要件違反、実施可能要件違反、必要な技術的特徴の欠如などの欠陥も含まれる。

 論点2)について、専利権者が確定の過程において「制限や放棄した範囲」とは、専利権者が明確に制限や放棄を示した範囲だけである。例えば、参考事例3において、最高人民法院は、「独立項が無効化され専利権が従属項で維持された場合、専利権者が自ら放棄したものではなければ、その従属項に対して包袋禁反言を適用して均等論の適用を制限すべきではない」と判断している。

 論点3)包袋禁反言を適用する主体について、最高人民法院は、参考事例4において、「被告側が包袋禁反言の適用を主張したかどうかにかかわらず、法院は専利権侵害判定において自発的に包袋禁反言を適用して合理的に専利権の保護範囲を確定することができる」と論じている。

 

3.2公衆への開放の原則

 公衆への開放の原則も均等論の適用に対する一つの制限で、2009年司法解釈に明確に規定されている。同解釈の第5条によると、明細書や図面だけに記載され請求項で限定されていない技術的範囲は、(専利権者が自ら公衆に開放したものとみなされるため)専利権侵害判定において専利保護範囲に取り戻すことはできない。ここで、公衆への開放の原則の適用の前提とは前記技術的範囲が明細書や図面に記載されていることであり、もし記載されていなければ公衆への開放の原則が適用されることはない。

 例えば、参考事例5において、最高人民法院は、明細書において発明方法のステップ10と11の順序を入れ替えることができると記載されているものの、請求項においては入れ替えた後のステップが反映されていないため、入れ替えた後のステップ11と10について均等の主張を受け入れないと判断している。

 

*注記1:中国法における「専利」とは、特許、実用新案、意匠の全てを包括したもので、「専利法」は、特許法、実用新案法、意匠法の全てに対応するものである。

*注記2:司法解釈とは、中国最高人民法院または最高検察院により公布され、現行の法律規定の適用方法につきより具体的に明確化するためのもので、実務においては法律と同様な位置づけを有するものである。