中国における外国語証拠・参考資料の提出
1. 審査請求時に提出する参考資料
特許(中国語「发明专利」)の出願人は、実体審査(中国語「实质审查」)を請求する際、その発明に関係する出願日前の参考資料を提出しなければならない(中国専利法(以下「専利法」という。)第36条第1項)。また、特許が既に外国で出願されており、審査官から、その国が当該出願の審査のために行った検索または審査結果の参考資料の提出を求められた場合には、出願人は指定期間内にその審査結果の参考資料を提出しなければならない。正当な理由なく提出しない場合、当該出願は取下げられたものとみなされる(専利法第36条第2項)。なお、正当な理由がある場合には、その旨を国務院専利行政部門へ申し出、関係資料を入手した後に追加で提出する必要がある(専利法実施細則(以下「実施細則」という。)第55条)。
実務では、提出する参考資料等については、外国語資料も認められている。外国語資料の中国語訳の提出は出願人の自由裁量に委ねられているが、審査官に外国語資料の内容をより理解しやすいよう、英語以外の外国語(日本語、韓国語、ドイツ語など)資料については、関連部分または全文の中国語訳を提出した方がよい。
2. 情報提供(中国語「提公众意见」)時に提出する先行文献、参考資料
出願公開日から公告日までの間に、特許出願に対して情報提供する際(実施細則第54条)、外国語の公報や刊行物等を先行技術文献として提出することも可能であるが、この場合も、上記第1項と同様、審査官が提出された文献の内容をより理解しやすいよう、英語以外の外国語(日本語、韓国語、ドイツ語など)文献については、関連部分または全文の中国語訳を提出した方がよい。
3. 無効審判請求(中国語「无效宣告请求」)時に提出する証拠、参考資料
中国では、登録された特許、実用新案、意匠に対して無効審判請求を行う際、外国語証拠(特許公報、刊行物、雑誌、カタログなど)を提出することが認められているが、提出された外国語証拠について、立証期間内(無効請求人の場合:無効審判請求日より1か月以内、被請求人の場合:無効審判請求された旨の通知を受け取った日より1か月以内)にその外国語証拠の全文または部分的な中国語訳を提出しなければならない。立証期間内に中国語訳を提出しない場合には、当該外国語証拠は提出していないものとみなされる(実施細則第3条第2項、審査指南第4部第3章3.8(3)、4.3、第8章2.2.1)。
部分訳を提出する場合、当該外国語証拠における中国語に訳されていない部分は、証拠として採用されない。ただし、当事者が合議体の要求に応じて当該外国語の証拠のその他の部分の中国語訳文を後から提出する場合は除く(審査指南第4部第8章2.2.1)。
外国語証拠の中国語訳に異議がある場合、指定期間内(1か月)にその外国語証拠の中国語訳を提出する必要がある。当事者双方が互いに相手方の外国語証拠の中国語訳に異議がある場合、復審・無効審理部(中国語「复审和无效审理部」)は、翻訳機関を指定し、改めてその外国語証拠の中国語訳を依頼することができる。翻訳費用は当事者双方が折半して負担し、翻訳機構の指定や費用の納付を拒否する場合、相手側が提供した翻訳文に異議がないとみなされる(審査指南第4部第3章4.4.1、第8章2.2.1)。
外国語証拠(例えば、刊行物、雑誌、カタログ等)であって、その外国語証拠が中国以外の国、地域(香港、マカオ、台湾も含む)で形成されたものである場合には、従来は、証拠形成地の国の機関による公証とその国の中国領事館による認証が必要とされていたが、2023年の審査指南の改正によって、当該国の公証機関による証明または中国と当該所在国で締結した関連条約に規定された証明手続を履行したものでよいとされ、認証は不要となった(審査指南第4部第8章2.2.2)。
さらに、2023年の審査指南の改正によって、以下の場合には当該国の公証機関による証明または中国と当該所在国で締結した関連条約に規定された証明手続の履行も不要となった。
(1) 当該証拠は、香港・マカオ・台湾地区以外の中国国内における公式ルートから取得できる場合、例えば、国務院専利行政部門から取得できる外国の専利書類、または公共図書館から取得できる外国の文献資料など。
(2) 相手側当事者が当該証拠の真実性を認可する場合。
(3) 当該証拠がすでに効力発生しており、人民法院の裁判、行政機関の決定または仲裁機構の裁判によって判断される場合。
(4) 当該証拠の真実性を証明するに足るその他証拠がある場合。
4. 留意事項
審査請求時に提出する参考資料に関する専利法第36条の規定は、アメリカのIDS情報開示義務に類似する規定であるが、実務上、アメリカのように厳しく要求されていない。明細書に従来技術がすでに記載されているため、審査請求時に出願日前の明細書に記載されていない他の参考資料を改めて提出する必要はなく、対応外国出願の審査に関連する資料の提出については、審査官に資料の提出が求められた場合にのみ提出すれば足りる。
無効審判請求に用いる外国語証拠については、上記第3項で述べた立証期間内に中国語訳を提出しなければならないことに留意すべきである。また、無効審判の当事者双方は、互いに証拠調べ、翻訳文のチェックを行うため、外国語証拠の中国語訳は原文の意味通りに正しく翻訳されている必要がある。
無効審判請求に用いる外国語証拠の数が多い場合、翻訳費用を考慮して、全文翻訳に限らず、部分翻訳で対応することも可能である。ただしこの場合、翻訳されていない部分の内容は証拠能力がなくなるため、翻訳要否の判断は、慎重に検討するべきである。
中国における画像意匠の保護制度
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日本と中国における特許出願書類の比較
1. 日本における特許出願の出願書類(パリルート)
1-1. 出願書類
所定の様式により作成した以下の書面を提出する(特許法第36条第2項)。
・願書
・明細書
・特許請求の範囲
・必要な図面
・要約書
(1) 願書
願書には、特許出願人および発明者の氏名(出願人が法人の場合は名称)、住所または居所を記載する(特許法第36条第1項柱書)。
(2) 明細書
明細書には、発明の名称、図面の簡単な説明、発明の詳細な説明を記載する(特許法第36条第3項)。
発明の詳細な説明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しなければならない(特許法第36条第4項第1号)。
(3) 特許請求の範囲
特許請求の範囲には、請求項に区分して、各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない(特許法第36条第5項)。
(4) 要約書
要約書には、明細書、特許請求の範囲または図面に記載した発明の概要等を記載しなければならない(特許法第36条第7項)。
1-2. 手続言語
書面は、日本語で記載する(特許法施行規則第2条1項)。
1-3. 手続言語以外で記載された明細書での出願日確保の可否
書面は日本語で作成するのが原則であるが、英語その他の外国語(その他の外国語に制限は設けられていない)により作成した外国語書面を願書に添付して出願することができる(特許法第36条の2第1項、特許法施行規則第25条の4)。この場合は、その特許出願の日(最先の優先日)から1年4か月以内(分割出願等の場合は出願日から2か月以内)に、外国語書面および外国語要約書面の日本語による翻訳文を、特許庁長官に提出しなければならない(特許法第36条の2第2項)。ただし、特許法条約(PLT)に対応した救済規定がある(特許法第36条の2第6項)。
1-4. 優先権主張手続
外国で最初に出願した日から12か月以内に、パリ条約による優先権の主張を伴う日本特許出願をすることができる(パリ条約第4条C(1))。優先権主張の基礎となる出願の出願国と出願日を記載した書類を、最先の優先日から1年4か月または優先権の主張を伴う特許出願の日から4か月の期間が満了する日のいずれか遅い日までの間に、特許庁長官に提出しなければならない(特許法第43条第1項、特許法施行規則第27条の4の2第3項第1号)。優先権主張書の提出は、特許出願の願書に所定の事項を記載することで、省略することができる(特許庁「出願の手続」第二章第十二節「優先権主張に関する手続」)。また、最先の優先日から1年4か月以内に、特許庁長官に優先権証明書類を提出しなければならない(特許法第43条第2項)。
ただし、日本国特許庁と一部の外国特許庁、機関との間では、優先権書類の電子的交換を実施しており、出願人が所定の手続を行うことで、パリ条約による優先権主張をした者が行う必要がある書面による優先権書類の提出を省略することが可能となっている(特許法第43条第5項)。
<参考URL>
特許庁:優先権書類の提出省略について(優先権書類データの特許庁間における電子的交換について)
https://www.jpo.go.jp/system/process/shutugan/yusen/das/index.html
2. 中国における特許出願の出願書類(パリルート)
2-1. 出願書類
専利法および実施細則にて規定された以下の文書を提出する(専利法第26条、専利法実施細則第17条)。
・願書
・明細書およびその要約
・権利要求書
・図面(必要な場合)
・委任状
(1) 願書
願書には、発明の名称、発明者の氏名、出願人の氏名または名称、住所およびその他の事項を明記しなければならない(専利法第26条第2項)。
(2) 明細書
明細書では、発明に対し、その所属技術分野の技術者が実現できることを基準とした明確かつ完全な説明を行い、必要時には図面を添付しなければならない(専利法第26条第3項)。
(3) 要約
要約は、発明の技術要点を簡潔に説明しなければならない(専利法第26条第3項)。
(4) 権利要求書
権利要求書は、明細書を根拠とし、専利保護請求の範囲について明確かつ簡潔に要求を特定しなければならない(専利法第26条第4項)。
2-2. 手続言語
専利法および専利法実施細則に基づいて提出する各種の書類は、中国語(簡体字)を使用しなければならない(専利法実施細則第3条第1項)。
2-3. 手続言語以外で記載された明細書での出願日確保の可否
外国政府部門から発行された書類、あるいは外国で作成された証明、または証拠資料を除き、中国語以外の外国語によって作成された出願書類等を提出することはできない(専利審査指南第5部分第1章3.1)。
2-4. 優先権主張手続
外国に最初に出願をした日から12か月以内に、パリ条約による優先権の主張を伴う中国専利出願をすることができる(専利法第29条第1項)。
書面による優先権主張を、出願と同時に行う。優先権証明書は、最初の特許出願日(優先日)から16か月以内に提出しなければならない(専利法第30条第1項)。
ただし、日本での特許出願を基礎とする中国特許出願の場合、デジタルアクセスサービス(DAS)を利用して日本国特許庁から優先権書類の電子データを取得するよう国務院専利行政部門に対して請求することにより、優先権書類の紙による提出を省略することが可能となる(専利法実施細則第34条第1項)。
2023年の専利法実施細則の改正により、出願人が優先権を主張した場合、優先日から16か月以内または出願日から4か月以内に、優先権主張の追加または補正を請求することが可能となった(専利法実施細則第37条)。
また、同改正によって、優先権を主張している場合には、優先権の範囲内で出願書類の誤りを補正する機会が設けられた。具体的には、専利保護請求の範囲、明細書もしくは専利保護請求の範囲、明細書の一部の内容に不足がある、または誤って提出されているものの、出願人がその提出日に優先権を主張していた場合、提出日から2か月以内または国務院専利行政部門が指定する期限内に、先願書類を援用する方式によって追加で提出することができる。追加で提出された書類が関連規定に合致する場合、最初に提出された書類の提出日が出願日と認定される(専利法実施細則第45条)。
2-5. その他の書類
出願人は、専利代理機構に委任して国務院専利行政部門に専利出願を行う場合、委任状の提出が求められる(専利法実施細則第17条第2項)。
また、出願人が専利代理機構に委任する場合、国務院専利行政部門に総委任状(包括委任状)を提出することができる。国務院専利行政部門は、規定に合致する総委任状を受け取った後に、総委任状に番号を付け、専利代理機構に通知する。総委任状を交付済みである場合、専利出願を提出する時に、出願人は総委任状番号を提示すればよい(審査指南第1部分第1章6.1.2)。
2-6. その他の留意点
2023年の専利法実施細則の改正により、優先期間(最先の優先日から12か月)を徒過した場合であっても、正当な理由があれば、国務院専利行政部門に同一の主題について出願を行う場合、優先期間の満了日から2か月以内に、優先権の回復を請求することが可能になった(専利法実施細則第36条)。
日本と中国の特許出願書類を比較すると、以下のようになる。
日本 | 中国 | |
---|---|---|
出願書類 | 所定の様式により作成した以下の書面を提出する。 ・願書 ・明細書 ・特許請求の範囲 ・必要な図面 ・要約書 | 専利法および実施細則にて規定された以下の文書を提出する。 ・願書 ・明細書およびその要約 ・権利要求書 ・図面(必要な場合) ・委任状 |
手続言語 | 日本語 | 中国語(簡体字) |
手続言語以外の明細書での出願日確保の可否 | 英語その他の外国語により作成した外国語書面を願書に添付して出願することができる。その特許出願の日から1年4か月以内に外国語書面および外国語要約書面の日本語による翻訳文を、特許庁長官に提出しなければならない。 | 不可 |
優先権主張手続 | 優先権主張の基礎となる出願の出願国と出願日を記載した書面を、最先の優先日から1年4か月、またはその優先権主張を伴う特許出願の日から4か月のいずれか遅い日までの間に、特許庁長官に提出しなければならない。 また、優先権証明書を、最先の優先権主張日から1年4か月以内に、特許庁長官に提出しなければならない。 ただし、日本国特許庁と一部の外国特許庁、機関との間では、優先権書類の電子的交換を実施しており、出願人が所定の手続を行うことで、パリ条約による優先権主張をした者が行う必要がある書面による優先権書類の提出を省略することが可能となっている。 | 優先権主張を出願と同時に行う。優先権証明書を最初の特許出願日から16か月以内に提出しなければならない。 (日本特許出願を基礎とする場合には、特許庁間DAS利用可) (留意点) 日本特許出願を優先権主張の基礎として中国出願する場合、優先期間内に中国語で出願書類作成し出願を行わなければならない。ただし、優先期間の満了日から2か月以内に、正当な理由があれば、優先権の回復を請求することができる。 |
中国における外国優先権を主張する権利の回復請求
1. パリ条約による優先権を主張した中国への直接出願
1-1. 優先権を主張していないものとみなされる場合
優先権主張の回復請求に先立って、手続の不備等により優先権を主張していないものとみなされる場合は、以下のとおりである。
(a) 優先権を主張する中国出願を、基礎出願の出願日から所定の期間(優先期間)内に行わなかった場合(専利審査指南(以下「審査指南」という。)第1部第1章6.2、6.2.1.1)
優先期間は、基礎出願の出願日から12か月以内である。ただし、基礎出願が2件以上ある場合、最も早い出願日から起算される。
(b) 願書において優先権主張の声明をしなかった場合(審査指南第1部第1章6.2.1.2)
優先権を主張する場合、出願人は願書の提出と同時にその願書において優先権主張の声明をしなければならない。願書で優先権主張の声明をしていない場合は、優先権を主張していないものとみなされる。
(c) 願書における優先権主張の声明において、基礎出願の出願日、出願番号、または受理機関の名称の記載に不備がある場合(審査指南第1部第1章6.2.1.2)
基礎出願の出願日、出願番号、または受理機関の名称のうち、1つまたは2つの内容が明記されていないかまたは正しく記載されており、所定の期限までに、基礎出願の出願書類の謄本(以下「優先権証明書」という。)が提出されている場合、審査官により、手続補正通知書(中国語「手续补正通知」)が発行され、出願人はこれを受けて補正することができる。補正しても規定事項に合致しない場合や、指定された期間内に手続補正通知書へ応答しない場合には、優先権を主張していないものとみなされる。
(d) 優先権証明書を提出期限までに提出しない場合(審査指南第1部第1章6.2.1.3)
提出期限は、基礎出願の出願日(複数の優先権を主張する場合はその中で一番早い出願日)から16か月である。なお、複数の優先権を主張する場合は、すべての優先権証明書を提出期限までに提出しなければならない。この期限までに優先権証明書類を提出しなければ、優先権を主張していないものとみなされる。
(e) 優先権を主張する中国出願の出願人と優先権証明書に記載されている出願人が一致しない場合(審査指南第1部第1章6.2.1.4)
優先権を主張する中国出願の出願人が、優先権証明書に記載されている出願人と完全に一致しなければ(優先権証書に記載されている出願人に中国出願のすべての出願人を含む場合を除く)、優先権譲渡証書類(中国語「优先权转让证明文件」)を提出する必要がある。所定の期限内(優先権証明書と同様)に優先権譲渡証明書類を提出しなければ、優先権を主張していないものとみなされる。
(f) 優先権主張費を期限までに納付しなかったか、または納付額が不足していた場合(実施細則第112条、審査指南第1部第1章6.2.5)。
納付期限は、優先権を主張した中国出願の出願日から2か月以内、または受理通知書を受取った日から15日以内(期限の遅いものを基準とする)である。納付期限までに納付しなかったか、または納付額が不足していた場合には、優先権を主張していないものとみなされる。
1-2. 実施細則第6条(一般規定)に基づく優先権主張の回復
(1) 優先権主張の回復を請求できる場合
以下のいずれかの理由により、優先権を主張していないものとみなされた場合、所定の期限までに優先権主張の回復を請求することができる(実施細則第6条、審査指南第1部第1章6.2.6.1)。
(a) 指定期間内に、審査官によって発行された手続補正通知書に応答していない。
(b) 優先権主張の声明に、基礎出願の出願日、出願番号、または受理機関の名称のうち少なくとも一つが正しく記載されているが、所定の期限までに優先権証明書または優先権譲渡証明書を提出していない。
(c) 優先権主張の声明に、基礎出願の出願日、出願番号、または受理機関の名称のうち少なくとも一つが正しく記載されているが、所定の期限までに優先権主張費を納付していないか、または納付額が不足している。
(a)から(c)の理由以外によって、優先権を主張していないものとみなされた場合は、優先権主張を回復することはできない。
(2) 優先権主張の回復請求の手続
国務院専利行政部門より、優先権を主張していないものとみなされる通知書を受領した日から2か月以内に請求の手続をしなければならない(実施細則第6条第2項)。
権利回復請求書(場合によっては、正当な理由の証明資料を添付する必要がある)を提出して理由を説明するとともに、権利回復請求費を納付しなければならない(実施細則第6条第3項)。権利回復請求費(中国語「恢复权利请求费」)は、CNY1,000である(専利および集積回路設計に関する支払手続ガイド 付録2)。同時に、優先権を主張する権利を失った原因を解消するために、関係手続を行う(例えば、期限までに提出していない優先権証明書や優先権譲渡証書を補充提出する)。
1-3. 実施細則第36条(特別規定)に基づく優先権主張の回復
(1) 優先権主張の回復を請求できる場合
2023年の実施細則の改正によって第36条が新設され、出願人が優先期間を徒過して出願した場合であっても、正当な理由があれば、優先権の回復を請求することが可能となった。
基礎出願の出願日から12か月の期間が満了した後に後続出願を提出した場合、出願人は期間の満了日から2か月以内であれば優先権の回復を請求することができるが、その請求の手続は国務院専利行政部門が公開準備を行う前でなければならない(審査指南第1部第1章6.2.6.2)。
(2) 優先権主張の回復請求の手続
優先権回復の請求書を提出し、理由を説明して、権利回復請求費、優先権主張費を納付しなければならない。同時に必要な手続(例えば、優先権証明書や優先権譲渡証明書類の提出)を行う。規定に合致する場合、優先権は回復し、審査官は権利回復請求審査および認可通知書を発行する。規定に合致しない場合、審査官は権利回復請求審査および認可通知書を発行し、かつ回復しない理由を説明する(審査指南第1部第1章6.2.6.2)。
2. PCTルートによる中国出願
2-1. 優先権を主張していないものとみなされる場合
PCTルートによる中国出願における手続の不備等により優先権を主張していないものとみなされる場合は、以下のとおりである。
(a) 出願人が国際段階において基礎出願の出願番号を明記しておらず、かつ、中国国内段階に移行する際の優先権主張の声明にも記載されていない場合、審査官は手続補正通知書を発行する。指定期間以内に手続補正通知書へ応答しない場合、または応答しても規定事項に合致しない場合、優先権を主張していないものとみなされる(審査指南第3部第1章5.2.1)。
(b) 国際出願の国際調査報告書において引用文献があれば、審査官はWIPO国際事務局に優先権証明書の転送を請求する。WIPO国際事務局より優先権証明書が提出されていないという通知を受取ると、出願人に優先権証明書の補充提出に係る手続補正通知書を発行する。出願人が、指定期間内に優先権証明書を提出していない場合、優先権を主張していないものとみなされる(実施細則第127条第3項、審査指南第3部第1章5.2.2)。
(c) 審査官は、優先権証明書の内容に基づいて、優先権主張の声明における各項目の内容を審査する。基礎出願の出願日、出願番号および受理機関の名称のうち、1つまたは2つの内容が一致しない場合、審査官は、手続補正通知書を発行する。期限内に応答がないか、あるいは補正後でも規定に合致しない場合、優先権を主張していないものとみなされる(審査指南第3部第1章5.2.3.1)。
(d) 国際出願の出願人が、優先権主張にかかる先行出願の出願人と一致しない場合、審査官は、国際公開文書の中で基礎出願の優先権を主張する権利を有する旨の声明がなされているか否かを確認する。声明があり、かつ声明が信用できる真実なものと判断される場合を除き、審査官は、出願人に証明書類の提出または補正を要求する。期限内に応答がないか、または補正後も規定に合致しない場合、審査官は優先権を主張していないものとみなす(審査指南第3部第1章5.2.3.2)。
(e) 優先権主張費を移行日から2か月以内に納付しなかったか、または納付額が不足した場合、優先権を主張していないものとみなされる(審査指南第3部第1章5.2.4)。
2-2. 実施細則第6条(一般規定)に基づく優先権主張の回復
(1) 優先権主張の回復を請求できる場合
以下のいずれかの理由により、優先権を主張していないものとみなされた場合、所定の期限までに優先権主張の回復を請求することができる(実施細則第6条、審査指南第3部第1章5.2.5.2)。
(a) 出願人が国際段階で基礎出願の出願番号を明記しておらず、中国国内段階に移行する際の移行声明にも基礎出願の出願番号を明記していない。
(b) 優先権主張の声明は規定事項に合致しているが、指定期間以内に優先権証明書、または優先権譲渡証書を提出していない。
(c) 優先権主張の声明において、基礎出願の出願日、出願番号、受理官庁の名称のうち、1つまたは2つが優先権証明書の記載と一致していない。
(d) 優先権主張の声明の記載は規定に合致しているが、所定の期限までに優先権主張費を納付していないか、または納付額が不足している。
(a)から(d)の理由以外によって、優先権を主張していないものとみなされた場合は、優先権主張を回復することはできない。
(2) 優先権主張の回復請求の手続
上記1-2.(2)のパリ条約による優先権主張の場合と同様である(実施細則第6条第2項)。
2-3. 実施細則第128条(特別規定)に基づく優先権主張の回復
(1) 優先権主張の回復を請求できる場合
2023年の実施細則の改正によって第128条が新設され、優先期間を徒過して国際出願した場合であっても、優先権主張の回復が可能となった。
国際出願日が、優先期間満了後の2か月以内であり、国際段階で受理官庁が優先権の回復を承認している場合は、優先権回復の請求を既に提出したものとみなされる。国際段階で出願人が優先権の回復を請求しなかったか、または優先権回復の請求を提出したが受理官庁によって承認されなかった場合、出願人に正当な理由があれば、移行日から2か月以内に優先権の回復を請求することができる(実施細則第128条)。
(2) 優先権主張の回復請求の手続
国際出願において優先権を主張し、国際出願日が優先権期間満了後の2か月以内であって、国際段階において既に受理官庁が優先権の回復を承認している場合、国務院専利行政部門は通常疑問を提示せず優先権の回復を認めるので、国内段階へ移行する時に、出願人は再度回復手続を行う必要はない(審査指南第3部第1章5.2.5.1)。
国際段階において出願人が優先権回復請求を行っていないか、または回復請求を提出したが受理官庁が承認していない場合、優先権回復請求書を提出し、理由を説明するとともに、権利回復請求費、優先権主張費を納付する。また、優先権証明書を国際事務局に提出していない場合は、同時に優先権証明書を添付しなければならない(審査指南第3部第1章5.2.5.1)。
【留意事項】
中国における外国優先権を主張する権利の回復請求は、指定期限の徒過の一般的な救済措置(実施細則第6条)に基づく回復と、優先権主張の回復に関する特別規定(実施細則第36条、第128条)との2つの規定を利用できる。
優先権主張の回復に関する特別規定(実施細則第36条、第128条)は、2024年1月20日から施行された実施細則および審査指南に新たに設けられた規定であり、優先日から12か月以内に優先権を主張して出願するのが原則ではあるが、正当な理由があれば、実質的には優先日から14か月以内に優先権主張することが可能となった。
中国における意匠の優先権主張について
1. 意匠の優先権主張(中国語「要求优先权」)の手続
1-1. 外国優先権
(1) 外国優先権について、出願人は、意匠を外国で最初に出願した日から6か月以内に、中国で同一の主題について意匠出願するときは、その外国と中国が締結した協定、共に加盟している国際条約、または優先権の相互承認原則に基づき、優先権を享受することができる(専利法第29条第1項)。外国特許出願および実用新案出願も、外国で初めて出願した日から6か月以内に、外国優先権を主張して中国に意匠出願をする際の基礎出願とすることができる(審査指南第1部第3章5.2.1.1)。
(2) 出願人が意匠の外国優先権を主張するときは、出願時にその旨の書面を提出し、後の出願から3か月以内に最初の出願時の出願書類の謄本を提出しなければならない。その旨の書面を提出しないか、または期間内に出願書類の謄本を提出しないときは、優先権を主張していないものとみなされる(専利法第30条第2項、第3項)。
(3) 外国優先権を主張する場合、出願人が提出する基礎出願の出願書類の謄本について、基礎出願の受理機関による証明を受けなければならない。国務院専利行政部門と受理機関とが締結した取り決めに従い、国務院専利行政部門が電子交換などの方法により基礎出願の出願書類の謄本を入手したときは、出願人は受理機関が証明した基礎出願の出願書類の謄本を提出したものとみなす(実施細則第34条第1項)。
なお、中国では、意匠出願について、デジタルアクセスサービス(DAS)の利用が認められる。
(4) 外国優先権を主張する出願人が基礎出願の出願人と一致しない場合、中国出願に係る出願人が基礎出願の優先権の承継人であることを証するための証明資料(優先権譲渡証明書(中国語「优先权转让证明」)を提出しなければならない(審査指南第1部第3章5.2.1.4)。
(5) 出願人は、1つの意匠出願において、複数の外国優先権を主張することができる。複数の優先権を主張する場合、当該意匠出願の期限は、最も早い優先日から起算する(実施細則第35条第1項、審査指南第4部第5章9.5)。
(6) 外国優先権を主張する中国出願の出願日から2か月以内、または受理通知書を受取った日から15日以内(期限の遅いものを基準とする)に、出願費の納付と同時に優先権主張の費用を納付しなければならない(実施細則第112条第2項、審査指南第1部第1章6.2.5、第1部第3章5.2.4)。
1-2. 国内優先権
(1) 中国国内出願からの優先権について、出願人は、中国で最初に意匠出願した日から6か月以内に国務院専利行政部門に同一の主題について意匠出願するときは、国内優先権を享受することができる(専利法第29条第2項)。なお、2023年の実施細則の改正で、基礎出願が意匠出願の場合だけでなく、特許または実用新案の出願である場合も、図面に示された意匠と同一の主題について、中国で最初に出願した日から6か月以内に、国内優先権を主張して意匠出願できることが規定された(実施細則第35条第2項)。
出願人が国内優先権を主張する場合、その先願は後願が提出された日から取り下げられたものとみなされる。ただし、意匠の出願人が特許または実用新案出願を基礎として優先権主張している場合は除く(実施細則第35条第3項)。
(2) 国内優先権を主張する場合、出願人が願書に基礎出願の出願日および出願番号を明記するときは、基礎出願の出願書類の謄本を提出したものとみなされる(実施細則第34条第1項)。
(3) 国内優先権を主張する出願人が基礎出願の出願人と一致しない場合、中国出願に係る出願人が基礎出願の優先権の承継人であることを立証するための証明資料(優先権譲渡証明書)を提出しなければならない(審査指南第1部第3章5.2.2.4)。
(4) 出願人は1つの意匠出願において、複数の国内優先権を主張することができる。複数の優先権を主張する場合、当該意匠出願の期限は、最も早い優先日から起算する(実施細則第35条第1項、審査指南第4部第5章9.5)。
(5) 国内優先権を主張する出願の出願日から2か月以内、または受理通知書を受取った日から15日以内(期限の遅いものを基準とする)に、出願費の納付と同時に優先権主張の費用を納付しなければならない(実施細則第112条第2項、審査指南第1部第3章5.2.4、第1部第1章6.2.5)。
2. 意匠の優先権主張成立の要件
(審査指南第4部第5章9.1)
2-1. 外国優先権
(1) 意匠の同一主題の認定は、後願意匠とその最初の外国出願に示した内容に基づいて判断する。同一主題に該当する意匠は以下の二つの条件を同時に満たさなければならない(審査指南第4部第5章9.2)。
(a) 同一製品における意匠に該当すること。
(b) 後願で保護を求める意匠が、その最初の出願に明確に示されていること。
例えば、最初の外国出願に斜視図、正面図、背面図、左側面図のみがあり、後願に平面図と右側面図を追加した場合、後願の正面図、背面図、左側面図および斜視図が最初の外国出願のものと同一であり、かつ平面図および右側面図の形態が最初の外国出願の斜視図に明瞭に表れているのであれば、優先権主張は成立する(審査指南第4部第5章9.2)。
また、最初の外国出願において、意匠の簡単な説明(中国語「简要说明」)を備えていない場合でも、実施細則第31条の規定に則して提出した意匠の簡単な説明*が、基礎出願書類における図面または写真に示される範囲を超えていなければ、優先権の主張には影響しない(実施細則第34条第4項)。
* 実施細則第31条
意匠の簡単な説明において、意匠物品の名称、用途および意匠の設計要点を明記し、かつ設計要点が最も明瞭に示されている図面または写真を一枚指定しなければならない。正投影図を省略するまたは色の保護を求める場合は、簡単な説明にその旨を明記しなければならない。
同一の物品における複数の類似意匠を一つの意匠専利として出願する場合、簡単な説明の中で、そのうちの一つを基本設計に指定しなければならない。
(2) 2021年6月1日以前は、外国基礎意匠出願が部分意匠であったとしても、中国出願時に当該部分意匠の点線を実線に変更して全体意匠として出願する場合には、優先権を主張できると認めていた。2021年6月1日より、中国では、部分意匠制度が導入されたが、全体意匠の出願に基づいて優先権を主張して部分意匠の出願をする場合、あるいは、部分意匠の出願に基づいて優先権を主張して全体意匠の出願をする場合、このような優先権を享有できるかどうかという点について、最新の実施細則および審査指南に明確な規定はない。しかし、実務では、全体意匠の出願に基づいた部分意匠の出願における優先権の主張、部分意匠の出願に基づいた全体意匠の出願における優先権の主張、同一の全体物品のうちの一部に係る部分意匠の出願に基づいた別の部分に係る部分意匠の出願における優先権の主張、が許されている。また、意匠の優先権主張成立の要件の同一主題の判断においても、先願と後願の保護範囲が完全に一致することは要求されておらず、後願で保護を求める意匠が、先願において明確に表示されていることが求められている。例えば、先願において破線で表示されていた部分が、後願で実線に変更された場合でも、実務上、意匠の内容に実質的な変更がなく、線の形式的な変更に過ぎないと捉えられ、後願と先願が同一主題に属すると通常見なされ、優先権主張は認められる。
(3) 実務上、中国出願と最初の外国出願の意匠の物品名は、完全に同一でなくてもよい。例えば、基礎出願が自動車用タイヤである場合、中国出願時に「タイヤ」としてもよい。また、最初の外国出願の意匠がタイヤトレッドの部分意匠である場合、中国出願時に点線を実線に変更してタイヤ全体の意匠として出願し、これに合わせて「タイヤトレッド」という物品の名称を、「タイヤ」という名称に変更することができる。
(4) また、実務上、中国出願と最初の外国出願との図面は、異なる製図方法により作成したものであってもよいが、表現する意匠は同一でなければならない。
2-2. 国内優先権
意匠の国内優先権主張の成立の要件については明確な規定はないが、基本的には外国優先権についてと同じであり、上記第2項の「2-1. 外国優先権」の内容が、国内優先権主張の成立の要件となる。
中国における商標の調べ方—中国商標網ウェブサイト
1. 詳細
1-1. 初めて、「国家知識産権局商標局 中国商标网」(日本語「国家知識産権局商標局 中国商標網」;以下、「中国商標網」という)において、商標検索を利用する場合は、中国商標網のウェブサイト(https://sbj.cnipa.gov.cn/sbj/index.html)(図1)にアクセスし、JETROが公開している「中国商標網のユーザー登録マニュアル」(JETROの「知的財産に関する情報」→「マニュアル」ページ参照)(https://www.jetro.go.jp/world/asia/cn/ip/)にしたがって、ユーザー登録をする必要がある(なお、ユーザー登録に際し、パスワードは、英字の大小文字、数字、特殊文字全てを含む必要がある点に注意が必要である。)。
ユーザー登録が完了したら、改めて中国商標網のウェブサイトにアクセスし、図1下方に赤枠で示している「商标网上查询」をクリックすると、図2に示す画面に遷移する。
1-2. 次に、画面(図2)下方の「我接受」をクリックすると、画面(図3)に遷移する。
1-3. 図3の画面は、ユーザー登録を行った際に入力した画面であるが、改めて、以下の番号順にしたがって必要事項を入力する。当該番号は図3右端の番号と一致する。
(1) 「非大陆地区用户(中国大陸以外のユーザー)」をクリック。
(2) ユーザー登録したメールアドレスを入力。
(3) ユーザー登録したパスワードを入力。
(4) 「获取验证码(確認コードを取得)」をクリック。
→「60s后重试」から60秒のタイマーがスタート。60秒程度で確認コードが送られてくる。つまり、60秒以内に入力することを意味している訳ではない。確認コードは、shangbiaoyanzheng@cnipa.gov.cnから、以下のようなメールが送られてくる。
「请输入验证码627204完成邮箱验证(5分钟内有效)。如非本人操作请忽略。」
上記のメールは、到着してから5分以内に、同じIPアドレスから、(4)の左空欄にメール中の6桁数字(確認コード)を入力することを意味する。制限時間については30分などに変更される場合もあるので留意されたい。
→月曜日朝などの混雑時や、何度も「获取验证码」をクリックすると、返信が遅れる場合がある。2分を超えて返信がなければ、日時を変えて、1)から4)の手順を最初から再度行うことをお勧めする。
(5) 右に表示された4桁の英数字を左空欄に入力する。
(6)「记住账号(アカウントを記憶する)」をチェック。
(7) (8)(「我已阅读并接受(読んで同意します)」)をチェックしてから(7)「登录(ログイン)」をクリック。
1-4. ログイン後、最初の画面として、図4の画面が表示される場合がある。その場合は、画面上部の赤枠で示す「head zhCN 」をクリックすると、図5が表示される。
なお、2回目以降のログインでは、図4が表示されることなく、図5が表示される。
1-5.図5の画面には、以下の5種類の検索用のアイコンが表示される。
(1) 「商标近似查询」(日本語「類似商標検索」)(以下、「中国語・簡体字(日本語)」で表記する。)
(2) 「商标综合查询(商標総合検索)」
(3) 「商标状态查询(商標経過情報検索)」
(4) 「商标公告查询(商標公告検索)」
(5) 「商品/服务项目(商品/役務表示)」
それぞれの検索方法の詳細は、以下のとおりである。
なお、左下の「错误信息反馈」をクリックすると、エラー情報をフィードバックする画面が表示される。
1-6. 類似商標検索
図5の画面の「商标近似查询(類似商標検索)」のアイコンをクリックすると、図6の画面が表示される。
(i) 「自动查询(自動検索)」と「选择查询(選択検索)」の2つの検索方法がある。「自動検索」がデフォルト設定され、「選択検索」は、「自動検索」と比べて「查询类型(検索類型)」の項目が設けられているところが相違する。以下、「自動検索」を例として説明する。
(ii) 「国际分类(国際分類)」:国際分類の1~45類の中から1つを入力する。また、右側の「拡大鏡アイコン」をクリックすると、類見出しを含むリストが現れ、国際分類を選択できる。国際分類を省略して検索することはできない。
(iii) 「类似群(類似群)」:国際分類入力の上、特定したい(中国の)類似群を入力して検索できる。図6「类似群(類似群)」右端の「拡大鏡アイコン」をクリックして表示されるリスト(図7)から4桁の類似群コードにレ点を入れて「加入检索」をクリックすると選択できる。なお、類似群は、入力必須項目ではない。
(iv) 「查询方式(検索方式)」:「汉字(漢字)」、「拼音(ピンイン)」、「英文(英語)」(3~20文字のアルファベットで検索)、「数字」、「字头(イニシャル)」(最初の1または2文字のアルファベットで検索)、「图形(図形)」から適切なものを選択しなければならない。次項の(v) 商標要素と矛盾すると検索できない。
(v) 「检索要素(商標要素の入力)」:調査対象である商標の漢字(簡体字に限る)、ピンイン、英語、数字、最初の文字(英語3文字まで)を入力する。図形の場合、右側の「拡大鏡アイコン」をクリックして、適切な図形コードを選択する。
(vi) 「查询(検索)」:クリックとすると、検索結果が画面に表示される。例えば、漢字商標「富士山」を第3類において調査する場合、図8のように関連情報を入力し、「查询(検索)」をクリックすると、結果が図9のように表示される。
図9の画面上部の「打印(印刷)」をクリックすると、検索結果を印刷できる。
検索結果の一覧表の項目は、左から「序号(番号)」、「申请/注册号(出願/登録番号)*1」、「申请日期(出願日)」、「商标(商標)」、「申请人名称(出願人の名称)」である。「申请/注册号(出願/登録番号)」列の青字または「商标(商標)」列の商標をクリックすると、具体的な商標情報を閲覧できる。
*1:1つの出願に付与される出願番号と登録番号は同一で、登録されるまでは「出願番号」、登録後は「登録番号」となる。
1-7. 商標総合検索
図5の画面の「商标综合查询(商標の総合的検索)」のアイコンをクリックすると、図10の画面が表示される。
検索項目は、(i)「国际分类(国際分類)」、(ii)「申请/注册号(出願/登録番号)」、(iii)「检索要素(商標要素の入力)」、(iv)「申请人名称(中文)」、(v)「申请人名称(英文)」の5つである。(i)「国際分類」は右側の「拡大鏡アイコン」をクリックして、表示されるリストから分類を選択することができる。(ii)~(v)のいずれか1か所入力すれば検索できる。
例えば、(iii)「检索要素(商標要素の入力)」に「富士山」を入力し、「查询(検索)」をクリックすると図11の画面が表示される。
図11の画面の「申请/注册号(出願/登録番号)」列の青字、または「商标(商標)」列の商標をクリックすると、具体的な商標情報を閲覧することができる。
1-8. 商標経過情報検索
図5の画面の「商标状态查询(商標経過情報検索)」のアイコンをクリックすると、図12の画面が表示される。
「申请/注册号(出願/登録番号)」に番号(例えば、「43096221」)を入力し、「查询(検索)」をクリックすると図13の画面が表示される。
一覧表の項目は、左から「序号(番号)」、「申请/注册号(出願/登録番号)」、「国际分类(国際分類)」、「申请日期(出願日)」、「商标(商標)」、「申请人名称(出願人名称)」である。「申请/注册号(出願/登録番号)」列の青字または「商标(商標)」列の商標をクリックすると、商標の審査経過(図14)を閲覧することができる。
図14の画面から、当該商標は2020年12月23日に商標登録証が発行されたことが確認できる。「打印(印刷)」をクリックすると、同画面を印刷できる。
また、画面上部の「商标详情(商標詳細)」のタブをクリックすると、商標の詳細(図15)を閲覧することができる。
1-9. 商標公告検索
図5の画面の「商标公告查询(商標公告検索)」のアイコンをクリックすると図16の画面が表示される。
図16の画面の上部は、直近12期の商標公告が表示される。その上には「公告期号(公告の発行番号)」による検索フィールドが設けられており、中国に直接出願した商標が「公告期号(公告の発行番号)」ごとに検索できるようになっている。
例えば1行目「第1909期 初步审定(初歩査定)公告日期:2024年10月27日、异议申请截止日期(異議申立期限日):2025年01月27日」をクリックすると、図17の画面が表示される。
図17の画面上部に「检索条件(検索条件)」フィールドが表示される。
1行目:左から「公告期号(公告の発行番号)」、「公告类型(公告の種類)」、「商标名称(商標名称」)、「类别(区分)」
2行目:左から、「注册号(登録番号)」、「申请人(出願人)」、「代理人」、「申请日期~到(検索対象とする期間の出願日の開始日~終了日)」
3行目:左から「商标形式(商標の形式)」、「商标类型(商標の種類)」、「共有人(共同出願人)」
公告の種類には、「商标初步审定公告:登録査定された公告」、「商标注册公告(一):異議なく登録となった公告」、「商标注册公告(二):(一)以外の登録公告」などが選択可能で、例えば、公告期号(公告の発行番号)を入力し、公告类型(公告の種類)で「商标初步审定公告(登録査定となった公告)」を選択すれば、当該公告期号における異議申立可能な案件をリスト化することができる。
さらに、公告内容を閲覧する場合、例えば、番号12040860の公告を調べる場合、図17の同案件画面右端の「查看(確認)」をクリックすると、図18の公告画面が表示される。
なお、図16左下「马德里国际注册公告」をクリックすると、図19のWIPOのマドリッド・モニター画面に遷移する。
(詳細は「Madrid Monitor の活用方法」を参照。)
1-10. 商品/役務表示検索
図5の画面の「商品/服务项目(商品/役務)」のアイコンをクリックすると、図20の画面が表示される。
検索項目の入力については、以下のとおり。
(i)「国际分类(国際分類)」:国際分類の1~45類のうち一つの分類を入力。
(ii)「类似群(類似群)」:特定したい類似群を入力。
なお、(i)と(ii)は、「拡大鏡アイコン」をクリックして、リストから選択することもできる。
(iii)「商品类型(商品類型)」:プルダウンリストから、「尼斯商品(ニース商品)」、「国内标C(中国国内特有のCで始まる商品)」を選択することができる。右側に「五方(TM5*1)」に該当するか否か、「是(該当する)」、「否(該当しない)」も選択することができる。なお、選択しないと、特定しないとみなされる。
(iv)「商品名称(商品名称)」:商品名称のキーワードまたは名称を簡体字で入力。
(v)「商品编码(商品番号)」:国際分類表に掲載されている商品の特定の固有番号。
*1:TM5:商標五庁(日本国特許庁(JPO)、米国特許商標庁(USPTO)、欧州連合知的財産庁(EUIPO)、韓国特許庁(KIPO)および中国国家知識産権局(CNIPA))で認容が確約された商品・役務リスト。
例えば、「纸巾(紙製タオル)」(簡体字で入力)を(iv)「商品名称」に入力して、「查询(検索)」をクリックすると、図21の画面が表示される。
検索結果の一覧表の項目は、左から「国际分类(国際分類)」、「类似群(類似群)」、「商品/服务项目(商品/役務の名称)」、「五方(TM5)」、「商品编码(商品番号)」、「商品类型(商品類型)」。
国際分類表および商標局が審査において採用を認める商品として公表している商品は、全て検索できるが、採用を公表していない商品は検出されない。
例えば、図21の商品名称に「电子器具(電子器具)」を入力、検索してみると、検索結果である図22には「没有检索到结果!(結果が取得されません!)」と表示される。このことは、出願時に「电子器具(電子器具)」を指定した場合、審査において認められない可能性が高いことを示している。
日中韓類似群コード対応表には、既に認容した商品として公表されている商品名称が、中国語(簡体字)とともに日本語、英語、韓国語で表記されているので活用されたい。
2. 留意点
図23に示す、図5の画面上部の赤い楕円形の枠で囲ってある箇所をクリックしても各検索画面に直接アクセスできる。
また、中国商標網のウェブサイトは、中国語版および英語版がある。画面最上行の「English」をクリックすると英語版に切り替わり、図5の画面および各検索項目の表記が英語になる。もちろん、公告画面などの検索結果は中国語版しか表示されない。
なお、中国商標網のウェブサイトは、メンテナンス中の場合や、多くの人が同時にアクセスした場合、一時的にアクセスできないことがある。アクセスエラーとなる場合は、時間帯や利用端末を変えて接続を試みると接続できる場合がある。さらに、不正常な検索と認められた場合、検索者のIPアドレスとともに「Your current behavior is detected as abnormal. Please try again later.」のメッセージが送られ、一時的にアクセスできなくなる場合がある。不十分な検索条件や同一検索の繰り返しなどの不正常な検索は、避けることが必要である。
中国における実用新案権の権利行使
実用新案権者は、自己の権利が侵害されていることを発見した場合、警告状・交渉、行政取締および訴訟の3つの措置を取ることができる。
1. 警告状・交渉
実務上、実用新案権者は、行政摘発または訴訟を提起する前に被疑侵害者に警告状を発送することによって、侵害を停止し損害を賠償するよう請求することが多い。警告状を発送した後、実用新案権者は、被疑侵害者と協議および交渉を行い、被疑侵害者の対応等を把握した上で、その後の戦略を構築する。
2. 行政取締の請求
2-1. 地方知識産権局への請求
実用新案権侵害行為を発見した場合、実用新案権者または利害関係人は、実際の状況に応じて、侵害行為地の専利業務管理部門(以下「地方知識産権局」という。)に取締を請求することができる(専利行政法執行弁法第29条)。なお、地方知識産権局は、紛争を解決する過程において、両当事者の意思に基づいて調停を行うことができる(専利行政法執行弁法第15条)。
2-2. 行政取締の請求のメリットとデメリット
(1) メリット
・短期間で結果が得られる。専利権紛争については、受理してから3か月以内に処理完了しなければならない(専利行政法執行弁法第21条)。
・費用が訴訟ほどかからない。請求する地方によるが、事件受理費用は一定額を納付する場合がほとんどである。また、弁護士費用については、事務所や担当弁護士のタイムチャージ等によって異なるが、通常、訴訟と比べて行政取締の方が低額である。
・証拠に対する要求が、訴訟ほど厳しくない。
・実地検証により、有力な証拠を入手できる。
(2) デメリット
・被疑侵害者が現地で一定の影響力を有する企業等である場合は、地方知識産権局の判断が地方保護主義の影響を受ける可能性がある。
・地方知識産権局は、調停(専利行政法執行弁法第15条)で解決を図る場合が多いが、調停では長期間経っても解決しない場合もある。
3. 侵害訴訟の提起
3-1. 訴訟前の準備
人民法院(裁判所)に訴訟を提起することは、実用新案権侵害紛争を解決する主たる方法である。実用新案権者が侵害訴訟を提起する場合、事前に十分な準備をしなければならず、次に挙げることから着手すべきである。
(1) 侵害証拠の收集
実用新案権者は、被疑侵害者に対する事前調査を行うことにより、被疑侵害者が侵害製品を生産・販売していることを証明する証拠を収集することができる。例えば、侵害製品の生産・販売を発見した場合、侵害製品を公証付で購入することにより実物証拠を入手する。インターネットでの侵害製品の販売を発見した場合も、公証機関によるインターネット上のウェブサイトに対する公証、およびタイムスタンプにより、証拠保全を行うことができる。
(2) 実用新案権評価報告書の請求
実用新案権者は、訴訟を提起する前に、国務院専利行政部門に実用新案権評価報告書(中国語「专利权评价报告」)の発行を請求することができる(専利法第66条第2項)。この報告における分析と結論に基づき、行使しようとする実用新案権について評価を行い、実用新案権に無効理由がないかを客観的に確認することによって、侵害訴訟の戦略をより確実にすることができる。実用新案権評価報告書は、訴訟を提起するために必須ではないが、実務において、人民法院がこの評価報告書の提出を要求することもある(最高人民法院による専利紛争案件の審理における法律適用の問題に関する若干の規定 第4条)。実用新案権評価報告書において、実用新案権者に不利な意見が提示されていない場合、専利侵害紛争の被告が答弁期間内に当該専利権の無効審判を請求している場合であっても当該紛争を審理する人民法院は裁判を停止しなくてもよい(最高人民法院による専利紛争案件の審理における法律適用の問題に関する若干の規定 第5条)。
実用新案権者だけでなく、利害関係人※および被疑侵害者も、実用新案権を付与する旨の決定が公告された後、国務院専利行政部門に実用新案権評価報告書の発行を申請することができる。また、実用新案権登録手続を行う際にも、出願人は、国務院専利行政部門に実用新案権評価報告書の発行を申請することができる(専利法実施細則第62条第1項)。従来、実用新案権評価報告書の発行を請求することができる者は、権利者と利害関係人だけであったが、2023年の専利法実施細則の改正によって、被疑侵害者にまで拡張された。また、申請ができる時期は、従来、実用新案権を付与する旨の決定が公告された後のみであったが、この改正によって申請時期が追加され、出願人が登録手続を行う際にも申請可能となった。
※ 利害関係人とは、専利権侵害紛争について人民法院に対して起訴するか、または国務院専利行政部門に処理を請求する者をいう。例えば、専利実施独占許可契約の被許諾人、専利権者によって起訴権を授与された専利実施通常普通契約の被許諾人が該当する(専利審査指南第5部第10章2.1)。
(3) 人民法院の選択
実用新案権に基づき権利侵害訴訟を提起する場合、侵害行為地または被告住所の所在地の人民法院が管轄する。侵害行為地として、被疑侵害製品の製造、使用、販売の申出、販売、輸入等を行った場所が挙げられる。専利紛争に係る第一審事件については、各省、自治区、直轄市政府所在地の中級人民法院(北京、上海、広東(深セン以外)、海南は、それぞれ北京知識産権法院、上海知識産権法院、広州知識産権法院、海南省自由貿易港知識産権法院が管轄する)と、最高人民法院の指定した中級人民法院とが管轄する(最高人民法院による第一審知的財産権に係る民事および行政案件の管轄に関する若干規定 第1条)。すなわち、第一審専利事件の裁判管轄は中級人民法院に限られ、かつ特定の中級人民法院のみが専利事件に関する管轄権を有する。
(4) 訴訟の時効
実用新案権侵害の提訴時効は3年である。その期間は、実用新案権者または利害関係人が権利侵害行為および侵害者を知った日または知り得た日から起算する(専利法第74条)。したがって、訴訟時効の経過による敗訴を避けるために、専利権者は、侵害行為を知った日または知り得る日から3年以内に訴訟を提起しなければならない。
3-2. 訴訟のメリットとデメリット
(1) メリット
・訴訟を提起することにより、被疑侵害者に強いプレッシャーをかけることができる。被疑侵害者が自ら侵害の停止や和解を求める場合もある。相手方が侵害を認めない場合でも、人民法院に判決を求めることができる。
・人民法院が被疑侵害者の権利侵害行為を認めた場合、判決書は法的拘束力を有するので、侵害者が判決書に要求される義務を履行しなければ、強制執行を申請することもできる。
(2) デメリット
・結論が得られるまでに時間がかかる(民事訴訟法152条において、一審の審理期間は6か月と規定されているが、実務上、審理期間が1年以上になる場合がよく見受けられる。)。
・費用がかかる(訴訟費用は損害賠償の請求額によっており、請求額が高ければ訴訟費用も高額になる。例えば、請求額が100万元の場合、訴訟費用は13,800元で、請求額が1,000万元の場合、訴訟費用は81,800元となる。)。
4. 権利行使中にあり得る抗弁
権利行使において、通常、被疑侵害者は非侵害の抗弁を行うが、抗弁の理由としては、提訴時効の抗弁(専利法第74条)、権利消尽の抗弁(専利法第75条第1項第1号)、自有権利の抗弁(実施権を有する抗弁;専利法第11条反対解釈)、無効審判請求の抗弁(専利法第47条)、公知技術の抗弁(専利法第67条)、先使用権の抗弁(専利法第75条第1項第2号)が挙げられるが、実務においてよく利用されている抗弁は、主に無効審判請求の抗弁、公知技術の抗弁、先使用権の抗弁である。
4-1. 無効審判請求の抗弁
被疑侵害者が最もよく利用する抗弁が、無効審判請求の抗弁である。この抗弁は、特許と比較して審査・許可が簡易な実用新案権の場合によくみられる。しかし、無効審判の請求は、復審および無効審判部(中国語「复审和无效审理部」、以下「審判部」という。)にしか提起できず、人民法院またはその他の行政機関に請求することができない。これは、実用新案権の有効性についての審理を行うのは審判部の専権事項だからである。人民法院が受理した実用新案権侵害事件において、被告が答弁期間内に実用新案権の無効審判を請求した場合、通常、人民法院は訴訟を停止しなければならない(最高人民法院による専利紛争案件の審理における法律適用の問題に関する若干の規定 第5条)。ただし、実用新案権評価報告書において権利者に不利な意見が提示されていない場合、実用新案権侵害を審理する人民法院は裁判を停止しなくてもよい。
加えて、被告が審判部に係争実用新案権について無効審判を提出した場合、権利者は、係争実用新案権のクレームに対して一定の訂正を行うことにより(専利法実施細則第73条)、係争実用新案権の安定性を強化することができ、司法実務において、無効審判における権利者の訂正を経て、実用新案権の一部のみが無効にされたケースが多数存在する。
なお、行政取締においては、被疑侵害者が審判部に無効審判を請求したことにより行政取締が停止されるか否かについてはまだ明確な規定はないが、実務上、地方知識産権局により、実情に応じて取締手続を停止するか否かが決定されている。
4-2. 公知技術の抗弁
2008年改正専利法において「公知技術の抗弁制度」が導入され、被疑侵害者が、自己の実施した技術が公知技術であることを証明する証拠を有する場合は、実用新案権の侵害にはならない(専利法第67条)。近年、実用新案権侵害訴訟において、公知技術の抗弁は被告に広く利用されている。
公知技術の判断基準としては、実用新案権の保護範囲に属すると訴えられた全ての技術的特徴が、ある既存技術における相応した技術的特徴と同一、あるいは実質的な相違がない場合、人民法院は、権利侵害で訴えられた者が実施した技術が、公知技術の抗弁が成立する既存技術であると認定する(最高人民法院による専利権侵害をめぐる紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈 第14条)。
4-3. 先使用権の抗弁
専利法では、実用新案出願日前にすでに同一製品を製造し、同一方法を使用し、またはすでに製造・使用の準備を完了し、かつ従来の範囲内でのみ引き続き製造・使用する場合には、実用新案権を侵害しない旨規定されている(専利法第75条第2号)。本規定に基づくいわゆる「先使用権の抗弁」によって、権利者と同一内容の実用新案を実施した場合であっても、その出願日前にすでに独立して同一内容の実用新案を完成させた者、または合法的に技術を知得した者は、引き続きその技術を使用することができる。
被疑侵害者は、侵害訴訟において先使用権の抗弁ができるものの、先使用権の成立の要件は比較的厳格であり、司法実務上、先使用権の抗弁を主張する事例は多いが、被告の先使用権の抗弁が人民法院によって認められた事例は多くない。その主な理由は、先使用を証明できる証拠が不十分であったため、その先使用を完全に立証することができなかったためである。したがって、先使用権の抗弁で重要なことは、証拠の収集およびその真実性の確保にある。
5. 留意事項
以上のとおり、実用新案権が侵害された場合にとり得る権利行使の手段としては、警告状・交渉、行政取締および訴訟があり、特許と大きな違いはない。また、中国の実用新案制度は、小発明、小創造を奨励し、特許と比較して審査・許可が簡単かつ迅速で、かかる費用も低額である。そのため、特に中小企業の技術的成果を保護する上で有効である。
実用新案権の侵害に対する有効な措置は様々あるものの、実用新案権者が実用新案権を行使する際、または被疑侵害者に対する対抗措置を取る前に、先ず国務院専利行政部門に実用新案権評価報告書の発行を請求することが望ましい。そうすることで、評価報告書の分析と結論から、行使しようとする実用新案権を見直し、その実用新案権に無効理由がないことを客観的に確認することにより、権利行使の方策をより確実に定めることができる。
実用新案権に基づく訴訟を提起した後に無効審決が確定し、権利者の悪意により他人に損害をもたらしたことが立証された場合、権利者は、その損害について賠償しなければならない。しかし、実務上、悪意に関する立証は難しく、かつ、人民法院も非常に慎重に判断を行うので、実用新案権に基づき訴訟を提起した後に権利が無効とされた場合でも、被疑侵害者に損害賠償金を支払うリスクは、さほど大きくない。
現在、権利者の悪意の証明に関する明確な法的根拠はないものの、北京市高級人民法院「専利権侵害判定指南(2017)」において、次の場合が悪意により専利権を取得した場合として規定されている(北京市高級人民法院「専利権侵害判定指南(2017)」六、専利権侵害抗弁(二)専利権抗弁の濫用 127)。
・出願日前に専利権者が明確に知っている国家標準、業界標準等の技術標準に記載された技術的解決手段で出願して、かつ、専利権を取得した場合
・国家標準、業界標準等の技術標準の制定参加者は、上記標準の起案、制定等の過程において明確に知った他人の技術的解決手段で出願して、かつ、専利権を取得した場合
・ある地域で広く製造または使用されている製品であると明確に知りながらも、その製品で出願して、かつ、専利権を取得した場合
・実験データを捏造し、技術的効果を偽る等の手段をもって、係争専利が専利法の権利付与条件を満たすように見せ、かつ、専利権を取得した場合
・域外で既に公開された専利出願書類に開示された技術的解決手段を中国に出願して、かつ、専利権を取得した場合
この専利権侵害判定指南は、全国の人民法院に適用される司法解釈ではないが、これまでの司法実務上の判断と一致しており参考に値する。
中国における優先権主張の手続(外国優先権)
外国での基礎出願と同じ主題の特許または実用新案について、外国での最初の出願日から起算される所定期間内に中国に出願する場合、その外国が中国と締結した協定または共同で加盟している国際条約に準拠し、もしくは優先権(中国語「优先权」)を相互に認める原則に準拠して、優先権(外国優先権)を享受することができる(中国専利法(以下「専利法」という。)第29条)。
1. パリ条約を利用した優先権主張(特許、実用新案)
1-1. 優先期間
出願人が、特許または実用新案を外国で初めて出願した日から12か月以内に、中国で再び同一の主題について出願する場合、優先権を享受できる(専利法第29条)。
優先期間の経過後、国務院専利行政部門に同一の主題について特許または実用新案の出願を行った場合に、正当な理由があれば、期限の満了日から起算して2か月以内に優先権の回復を請求することができる(中国専利法実施細則(以下「実施細則」という。)第36条、専利審査指南(以下「審査指南」という。)第1部第1章6.2.6.2)。
1-2. 優先権を主張する旨の声明
優先権を主張する出願人は、出願時に提出する願書に、優先権を主張する旨を声明しなければならない(専利法第30条、審査指南第1部第1章6.2.1.2)。願書において優先権を主張する旨を声明していない場合には、優先権を主張していないものとみなされる(審査指南第1部第1章6.2.1.2)。
特許または実用新案の出願人は、優先権を主張した場合、優先日から16か月以内または出願日から4か月以内に、優先権主張の追加または訂正をすることができる(実施細則第37条、審査指南第1部第1章6.2.3)。
1-3. 出願願書への基礎出願の出願日等の明記
優先権を主張する場合、出願人は、優先権の基礎出願の出願日、出願番号、受理機関の名称を願書に明記しなければならない(審査指南第1部第1章6.2.1.2)。
規定された期間内に優先権証明書(中国語「优先权证明」)が提出されていても、基礎出願の出願日、出願番号、受理機関の名称のうちの1項目もしくは2項目を願書に明記していないか、あるいは誤記がある場合、審査官は手続補正通知書(中国語「手续补正通知书」)を出さなければならない。期間内に応答しない場合、または補正しても規定に合致しない場合は、優先権を主張していないものとみなされる(実施細則第34条第2項、審査指南第1部第1章6.2.1.2)。
1-4. 優先権証明書の提出
(1) 優先権証明書の提出方式
(a) 紙媒体の提出
優先権証明書は、優先権の基礎となる基礎出願の受理機関の証明を受けたものでなければならない(実施細則第34条第1項、審査指南第1部第1章6.2.1.3)。優先権証明書の様式は、国際慣行に合致するものとし、少なくとも、受理機関の名称、出願人、出願日、出願番号が明記されていなければならない。複数の優先権を主張する場合、それぞれの優先権証明書を提出しなければならない(審査指南第1部第1章6.2.1.3)。
(b) デジタルアクセスサービス(DAS)による提出
国務院専利行政部門と基礎出願の受理機関とで締結した協定に従い、国務院専利行政部門が電子交換などの方法を通じて、受理機関から優先権証明書を取得できる場合、出願人は優先権証明書を提出したものとみなされる(実施細則第34条第1項、審査指南第1部第1章6.2.1.3)。日本および中国はともにWIPOのデジタルアクセスサービス(DAS)の参加国なので、DASを利用することができる※。
※ WIPOのデジタルアクセスサービス(DAS)については、下記の関連記事を参照されたい。
関連記事:「中国における優先権書類の提出方法―デジタルアクセスサービス(DAS)について」(2022.01.04)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/21331/
(c) 共有声明
同じ優先権を複数の出願で主張する場合(例えば、特許、実用新案の同日併願においてそれぞれ同じ優先権を主張する場合)、国務院専利行政部門に提出済の優先権証明書を再び提出する必要はなく、当該優先権証明書の書誌的事項の中国語翻訳文だけ提出すればよいが、優先権証明書の原本を保存してある出願の出願番号は明記しなければならない(審査指南第1部第1章6.2.1.3)。
(2) 優先権証明書の提出時期
優先権証明書は、優先日(複数の優先権を主張する場合、その一番早い優先日を指す)から16か月以内に提出しなければならない。期限内に提出しなかった場合には優先権主張をしていないものとみなされ、審査官は優先権を主張していないとみなす通知書を発行しなければならない(審査指南第1部第1章6.2.1.3)。
1-5. 出願人
優先権を主張する出願人は、優先権証明書に記載した出願人と一致している者か、または優先権証明書に記載された出願人のうちの一人でなければならない。出願人が一致していない場合、優先日(複数の優先権を主張する場合、その一番早い優先日を指す)から16か月以内に、基礎出願の出願人全員が署名または捺印した優先権譲渡証明書(中国語「优先权转让证明」)を提出しなければならない(審査指南第1部第1章6.2.1.4)。
1-6. 費用
優先権を主張する場合、出願日から2か月以内または受理通知書を受取った日から15日以内に、出願費用とあわせて優先権主張の費用も納付しなければならない(実施細則第112条)。期限内に納付しない場合または納付額が不足する場合、審査官は優先権を主張していないものとみなす通知書を発行する(審査指南第1部第1章6.2.5)。
2. PCTルートによる中国特許出願(特許・実用新案)
2-1. 優先権主張の声明
(1) 出願人が、国際段階において既に一つまたは複数の優先権を主張し、かつ国内段階移行時に当該優先権主張が継続して有効である場合、専利法第30条(優先権を主張する旨の声明)の規定に基づいて書面声明を提出したものとみなされる(実施細則第127条第1項、審査指南第3部第1章5.2.1)。
(2) 国際出願日が、優先期間の満了から2か月以内である国際出願について、国際段階において受理官庁が優先権の回復を認めた場合には、優先権の回復請求を行ったものとみなす。出願人が国際段階において優先権の回復を請求しなかったか、または回復請求が受理官庁に認められなかった場合、出願人は正当な理由があれば、移行日から2か月以内に国務院専利行政部門に優先権の回復を請求することができる(実施細則第128条)。
(3) 出願人は、国内段階移行手続の際に提出する移行声明に先の出願の出願日、出願番号および受理官庁の名称を明記しなければならない。また、下記※の場合を除き、明記される内容は国際公開公報のフロントページの記載と一致しなければならない(審査指南第3部第1章5.2.1)。
※ 国際事務局がかつて国務院専利行政部門に伝送した「優先権主張取り下げ通知書」(様式PCT/IB/317)または「優先権を主張していないとみなされる通知書」(様式PCT/IB/318)に関連している優先権主張は、既に効力を喪失したものであるため、移行時の声明に記載してはならない。
(4) 出願人が、国際段階において基礎出願の出願番号を提供していない場合、移行時の声明にこれを明記しなければならない(審査指南第3部第1章5.2.1)。
(5) 出願人は、国際段階において提出した優先権の書面声明のうち、ある事項に記載ミスがあると判断した場合、国内段階移行手続と同時に、あるいは移行日から2か月以内に訂正請求を提出することができる(審査指南第3部第1章5.2.1)。
2-2. 優先権証明書の提出
国際段階において特許協力条約の規定に基づき出願人が既に優先権証明書を提出していた場合、出願人は優先権証明書の提供は要求されない。優先権証明書は、国務院専利行政部門がWIPO国際事務局に対して請求する(実施細則第127条第3項、審査指南第3部第1章5.2.2)。
なお、例えば、国際調査報告書における関連書類の欄に、「PX」、「PY」書類などがあるか、国際調査機関の審査官が検索したが見つからず、国務院専利行政部門の実体審査の担当審査官が追加検索において「PX」、「PY」などの書類を見つけたか、もしくは国際段階において引用による追加の項目またはその一部分が存在する場合等、優先権証明書を精査する必要があると判断した場合には、国務院専利行政部門の審査官は、WIPO国際事務局に対して出願の優先権証明書の送付を請求する(審査指南第3部第1章5.2.2)。
WIPO国際事務局が、国務院専利行政部門に対して出願人が国際段階において規定に基づいて優先権証明書を提出していないことを通知した場合、他に規定されてあった場合を除き、審査官は手続補正通知書を発行し、出願人に指定期間内に提出するよう通知する(審査指南第3部第1章5.2.2)。
2-3. 優先権を享受する証明の提供
審査官は、国際出願の出願人が出願日の時点で先の出願の優先権を主張する権利を有するか否かをチェックするが、先の出願が中国以外の国で提出されたものである場合において、以下の何れか一つに該当すれば、出願人が優先権主張の権利を有することを認める(審査指南第3部第1章5.2.3.2)。
(a) 中国出願の出願人が、基礎出願の出願人と同一人である場合
(b) 中国出願の出願人が、基礎出願の出願人のうちの一人である場合
(c) 中国出願の出願人が、基礎出願の出願人から譲渡、贈与またはその他の方式によってなされた権利移転によって、優先権を享有する場合
上記(c)の場合、出願人が国際段階において要求に適合した優先権享受声明を行った場合を除き、出願人は適切な証明書類を提出しなければならない。譲渡人は、証明書類に署名または捺印をしなければならない。また、証明書類は原本、あるいは公証されたコピーでなければならない(審査指南第3部第1章5.2.3.2)。
基礎出願が中国で提出された場合、優先権を主張する出願の出願人は基礎出願の出願人と完全に一致するか、もしくは基礎出願の出願人全員が、優先権を主張する出願の出願人に優先権を譲渡していなければならない(審査指南第3部第1章5.2.3.2、第3部第1章5.2.6)。
2-4. 優先権主張費用
優先権を主張している場合、出願人は、移行日から2か月以内に優先権主張費用を納付しなければならない。期間内に納付しない場合または納付額が不足する場合、優先権を主張していないものとみなされる(実施細則第127条第2項、審査指南第3部第1章5.2.4)。
【留意事項】
中国出願の出願人と優先権を主張する基礎出願の出願人とが完全に一致していないケースは珍しくなく、中国出願の出願人が基礎出願の出願人とまったく別人である場合は、優先権譲渡証明書を必要とする。
また、実務上の慣行として、基礎出願の出願人に新たな出願人が追加されている場合は、追加された者に譲渡されているという優先権譲渡証明書が必要で、人数が削減されている場合には、証明は不要である。
日本と中国における特許分割出願に関する時期的要件の比較
1. 日本における特許出願の分割出願に係る時期的要件
日本国特許法第44条は、下記の(1)~(3)のいずれかの時または期間内であれば、2以上の発明を包含する特許出願の一部を1または2以上の新たな特許出願とすること(分割出願すること)ができることを規定している。
(1) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面について補正をすることができる時または期間内(第44条第1項第1号)
なお、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面について、補正をすることができる時または期間は、次の(i)~(iv)である。
(i) 出願から特許査定の謄本送達前(拒絶理由通知を最初に受けた後を除く)(第17条の2第1項本文)
(ii) 審査官(審判請求後は審判官も含む。)から拒絶理由通知を受けた場合の、指定応答期間内(第17条の2第1項第1号、第3号)
(iii) 拒絶理由通知を受けた後第48条の7の規定による通知を受けた場合の、指定応答期間内(第17条の2第1項第2号)
(iv) 拒絶査定不服審判請求と同時(第17条の2第1項第4号)
(2) 特許査定(次の(i)および(ii)の特許査定を除く)の謄本送達後30日以内(第44条第1項第2号)
(i) 前置審査における特許査定(第163条第3項において準用する第51条)
(ii) 審決により、さらに審査に付された場合(第160条第1項)における特許査定
なお、特許「審決」後は分割出願することはできない。また、上記特許査定の謄本送達後30日以内であっても、特許権の設定登録後は、分割出願することはできない。また、(2)に規定する30日の期間は、第4条または第108条第3項の規定により第108条第1項に規定する期間が延長されたときは、その延長された期間に限り、延長されたものとみなされる(第44条第5項)。
(3) 最初の拒絶査定の謄本送達後3月以内(第44条第1項第3号)
第44条第1項第3号に規定する3か月の期間は、第4条の規定により第121条第1項に規定する期間が延長されたときは、その延長された期間に限り、延長されたものとみなされる(第44条第6項)。
日本国特許法第44条(特許出願の分割) 特許出願人は、次に掲げる場合に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。 一 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる時又は期間内にするとき。 二 特許をすべき旨の査定(第百六十三条第三項において準用する第五十一条の規定による特許をすべき旨の査定及び第百六十条第一項に規定する審査に付された特許出願についての特許をすべき旨の査定を除く。)の謄本の送達があつた日から三十日以内にするとき。 三 拒絶をすべき旨の最初の査定の謄本の送達があつた日から三月以内にするとき。 (第2項以下省略) |
2. 中国における特許出願の分割出願の時期的要件
(1) 出願人が特許査定通知を受領した日から2か月(すなわち登録手続きの期限)を期限として、出願後この期限までいつでも分割出願をすることができる(専利法実施細則第48条第1項、専利法実施細則第60条第1項)。したがって、予備審査中または実体審査中でも分割出願は可能である。ただし、出願が既に拒絶され、取り下げされた、または取り下げられたものとみなされた場合は、分割出願をすることができない。
(2) 拒絶査定通知を受領した日から3か月以内であれば、復審(日本の拒絶査定不服審判に相当。)請求の有無にかかわらず分割出願を提出することができる(専利審査指南第1部第1章5.1.1.(3))。
(3) 復審請求の提出後の復審係属期間、復審決定の日から3か月以内、および復審決定に対して不服を申し立てる行政訴訟期間でも、出願人は分割出願を提出することができる(専利審査指南第1部第1章5.1.1.(3))。
(4) 既に出願された分割出願(一次分割出願)について、出願人が更に分割出願(二次分割出願)をする場合、二次分割出願は、原出願に基づいて分割出願ができる期間にしなければならない(専利審査指南第1部第1章5.1.1.(3))。
ただし、一次分割出願の単一性の欠陥を審査意見通知書(日本の拒絶理由通知に相当。)で指摘されて分割出願をする場合は(専利審査指南第2部第6章3.1(2))、二次分割出願は、一次分割出願に基づいて分割出願ができる期間にすることができる(専利審査指南第1部第1章5.1.1.(3))。よって、一次分割出願の単一性の欠陥を指摘した審査意見通知書を受領後、一次分割出願について専利権を付与する旨の通知書を受領した日から2か月の期限まで、二次分割出願をすることができる。
専利法実施細則第48条 一つの専利出願に二つ以上の発明、実用新案又は意匠が含まれる場合、出願人は本細則第六十条第一項に規定する期限が満了するまでに、国務院専利行政部門に分割出願を申し出ることができる。ただし、専利出願が既に拒絶され、取り下げられた又はみなし取下げとされた場合、分割出願を申し出ることはできない。 (第2項以下省略) |
専利法実施細則第60条 国務院専利行政部門が専利権を付与する旨の通知を出した後、出願人は通知を受領した日から起算して2か月以内に登録手続を取らなければならない。出願人が期限内に登録手続を取った場合、国務院専利行政部門は専利権を付与し、専利証を交付し、公告しなければならない。 (第2項省略) |
専利審査指南第1部第1章5.1.1.(3) 出願人は、専利局から原出願に対して専利権を付与する旨の通知書を受領した日から2か月の期限(即ち処理手続の期限)までに分割出願を提出しなければならない。前記期限が満了した場合、又は原出願が拒絶された場合、又は原出願が取り下げられた場合、又は原出願が取り下げられたものとみなされかつその権利が回復しなかった場合は、一般的に分割出願を再び提出することができない。 審査官により拒絶査定がなされた原出願に対して、出願人は拒絶査定を受領した日から3か月以内に、復審請求の有無に拘わらず分割出願を提出することができる。復審請求の提出後の復審期間、復審決定の日から3か月以内及び復審決定に対して不服を申し立てる行政訴訟期間でも、出願人は分割出願を提出することができる。 (中略) 提出済みの分割出願について、出願人が当該分割出願に対して更に分割出願を提出する場合、再度提出する分割出願の提出日は、原出願に基づいて確認しなければならない。再分割出願の提出日が上記の規定に合致しない場合、分割出願をすることができない。 ただし、審査官が分割出願に単一性の欠陥が存在することを指摘した分割出願通知書又は審査意見通知書を発行したことにより、出願人が審査官の審査意見に基づいて分割出願を再度提出した場合、分割出願を再度提出した提出日は単一性の欠陥が存在する当該分割出願を基礎として確認しなければならない。 (以下省略) |
日本と中国における特許分割出願に関する時期的要件の比較
日本 | 中国 | |
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分割出願の時期的要件 | 1. 補正ができる期間 2. 特許査定の謄本送達後30日以内 3. 最初の拒絶査定の謄本送達後3か月以内 | 1. 出願後、専利権を付与する旨の通知書を受領した日から2か月の期限まで 2. 拒絶査定を受領した日から3か月以内 3. 復審請求の提出後の復審係属期間、復審決定の日から3か月以内、および復審決定に対して不服を申し立てる行政訴訟期間 |
中国における特許・実用新案の分割出願
1. 分割出願(中国語「分案申请」)の時期についての要件
(条文等根拠:専利法実施細則(以下「実施細則」という。)第48条第1項、専利審査指南(以下「審査指南」という。)第1部第1章5.1.1(3)、第1部第2章10.)
(1) 特許権、実用新案権を付与する旨の通知書を受領した日から2か月(登録手続期間)を期限として、出願後この期限まで、出願人はいつでも分割出願をすることができる。したがって、審査中でも分割出願は可能である。ただし、出願が既に拒絶され、取り下げされた、または取り下げられたものとみなされた場合は、分割出願をすることができない。
(2) 拒絶査定を受けた出願については、不服審判請求の有無を問わず、拒絶査定の通知書を受領してから3か月以内であれば、分割出願を行うことができる。また、不服審判の係属中、審決日から3か月以内、および不服審判の審決に対する審決取消訴訟係属中においても、分割出願を行うことができる。
(3) 既に出願された分割出願(一次分割出願)について、出願人が更に分割出願(二次分割出願)する場合、二次分割出願は、原出願に基づいて分割出願ができる期間にしなければならない(審査指南第1部分第1章5.1.1.(3))。
ただし、一次分割出願の単一性の欠陥を審査意見通知書(日本の拒絶理由通知に相当。)で指摘されて分割出願をする場合は(審査指南第2部第6章3.1(2))、二次分割出願は、一次分割出願に基づいて分割出願ができる期間にすることができる(審査指南第1部分第1章5.1.1.(3))。よって、一次分割出願の単一性の欠陥を指摘した審査意見通知書を受領後、一次分割出願について専利権を付与する旨の通知書を受領した日から2か月の期限まで、二次分割出願をすることができる。
2. 分割出願の内容についての要件
(条文等根拠:実施細則第48条、第49条、審査指南第1部第1章5.1.1)
2-1. 必要な書類
(1) 分割出願の願書、特許請求の範囲、明細書、図面、要約など。分割出願は、「専利法および実施細則の規定に基づいて関係手続を取らなければならない」とされているので、通常の特許・実用新案出願に必要な書類を提出しなければならない。
(2) 従前は、分割出願の際に、原出願書類の謄本、原出願の優先権書類の謄本等を提出しなければならないとされていたが、2023年の実施細則の改正によりこれらの要件が削除された(実施細則第49条第3項)。
したがって、優先権出願書類の謄本、生物材料寄託証明書および生存証明書など、原出願で既に提出された分割出願に関連する各種の証明書類は、既に提出されたものとみなされる。
2-2. 記載事項
分割出願は原出願に基づき行わなければならない。すなわち、原出願に記載された範囲を超えてはならない。
(1) 分割出願は、原出願の種別(特許/実用新案)を変更してはならない。
(2) 分割出願の願書には、原出願の出願番号と出願日を記載しなければならない。
(3) 二次分割出願を提出する場合は、一次分割出願の出願番号も記載しなければならない。
(4) 分割出願の出願人は、原出願を提出した際の原出願の出願人と同一でなければならない。また、一次分割出願に対して二次分割出願を提出する出願人は、一次分割出願の出願人と同一でなければならない。
(5) 分割出願の発明者は、原出願の発明者、またはそのメンバーの一部でなければならない。また、一次分割出願に対して提出する二次分割出願の発明者は、一次分割出願の発明者、またはそのメンバーの一部でなければならない。
3. 分割出願の効果
(条文等根拠:実施細則第49条)
分割出願は、原出願の出願日を維持し、優先権を有するものについては、優先日を維持することができる。
4. 分割出願の審査
(条文等根拠:実施細則第48条、第49条、審査指南第1部第1章5.1.1、第2部第6章3.)
4-1. 初歩審査
審査官は、分割出願について、主に上記「2. 分割出願の内容についての要件」に記載した事項に関し、法令に従って出願書類およびその他の書類を審査する他にも、特に、原出願に基づいて下記の内容を確認する。
(1) 願書に記載された原出願の出願日
原出願の出願日の記載に誤りがあった場合、審査官は補正通知書を発行し、出願人に補正するよう通知する。期間内に補正しなかった場合、審査官は分割出願を取り下げられたものとみなす通知書を発行する。補正が規定に適合する場合、審査官は出願日再確定通知書を発行する。
(2) 願書に記載された原出願の出願番号
原出願の出願番号が正確に記載されていない場合、審査官は補正通知書を発行し、出願人に補正するよう通知する。期間内に補正しなかった場合、審査官は分割出願が取り下げられたものとみなす通知書を発行する。
(3) 分割出願の提出日
初歩審査において、分割出願の提出日が上記「1. 分割出願(中国語「分案申请」)の時期についての要件」を満たさない場合、審査官は分割出願が行われていないものとみなす通知書を発行し、終了処理をする。
(4) 分割出願の出願人と発明者
分割出願の出願人が、上記「2-2. 記載事項(4)」の要件を満たしていない場合、審査官は分割出願が行われていないものとみなす通知書を発行する。
分割出願の発明者が、上記「2-2. 記載事項(5)」の要件を満たしていない場合、審査官は補正通知書を発行し、出願人に補正するよう通知する。期限内に補正が行われない場合、審査官は分割出願を取下げたものとみなす通知書を発行する。
4-2. 実体審査
特許(発明専利)に関する分割出願については、実体審査が行われる(専利法第39条)。
分割の適否に関する審査は、実施細則第48条および第49条に規定される下記(1)、(2)について行わなければならない。また、それ以外の審査は、一般の出願審査と同じである。
(1) 分割出願の内容が、原出願の記載範囲を超えているときは、審査官は出願人に補正するよう要求する。出願人が補正を行わない場合、または補正した内容が原出願の明細書と請求の範囲の記載範囲を超えている場合は、審査官はその分割出願を拒絶することができる。
(2) 1つの特許出願が、単一性の要件を満たしていない場合、審査官は、出願人に出願書類を補正(分割出願を含む)することで、単一性の要件に適合させるように要求する。
例えば、当初に提出した請求の範囲に、一体的な発明の概念に属さない2つ以上の発明が含まれている場合、出願人に当該請求の範囲をその中の1つの発明、または一体的な発明の概念に属する2つ以上の発明に制限するよう要求しなければならず、残りの発明について、出願人は分割出願を行うことができる※。
※ 出願の単一性違反に関する審査およびその対応についてではあるが、分割出願について規定する実施細則第48条第2項、および審査指南第2部第6章3.1(2)にこの記述があるので「実体審査」の項目で解説した。
5. 分割出願の期限と費用
(条文等根拠:審査指南第1部第1章5.1.2)
(1) 分割出願に適用する各種の法定期限、例えば、実体審査請求を提出する期限は、原出願日から起算しなければならない。既に満了した期限については、出願人は、分割出願の提出日から2か月以内、または受理通知書の受領日から15日以内に、各種の手続を補足することができる。
(2) 分割出願に対しては、新規出願とみなして、各種の費用を納付しなければならない。既に納付期限が満了した各種費用について、出願人は分割出願の提出日から2か月以内、または受理通知書の受取日から15日以内に、納付することができる。
6. 留意事項
「分割出願は原出願に記載された範囲を超えてはならない(実施細則第49条第1項)」との基準は、日本と同じく、新規事項の判断と同様に行なわれている。しかし、中国の審査実務において、新規事項に該当するかどうかの判断は、日本と比較して厳しい。たとえば、原出願の明細書に記載された実施例を概念化するようなクレーム(具体例+自明事項)を新たに分割出願として出願することは難しい。中国の実務上、原出願で削除されたクレームを分割出願として出願することが多く、その意味では、原出願の出願時に必要と思われる概念をできるだけクレームしておくべきであろう。