中国におけるロイヤルティ送金に関する法制度と実務運用の概要
1.ロイヤルティ送金に伴う契約届出義務
「中国外貨管理条例」の関連規定により、国際貿易におけるサービス、荷物などのよくある貿易項目に基づき海外へ送金する場合、「真実かつ合法な取引基礎」を有しなければならない(中国外貨管理条例第12条)。実際に銀行などの金融機関を通じて海外に送金する際に、関連金融機関は、当該取引の真実と合法性を審査し、取引の真実と合法性を証明できる資料(契約書、インボイス、当局による届け出証明、税務証憑など)の提出を要求する。
「中国商標法」、「専利法実施細則」、「技術輸出入管理条例」などの法律・規定によると、ライセンス契約書を締結した後、商標ライセンス、専利ライセンス、ノウハウライセンスなどの場合(対象となる技術が自由輸入技術に該当する場合)、当局への届出が要求されているが(中国商標法第43条、専利法実施細則第14条、技術輸出入管理条例第18条)、届出はライセンス契約の効力発生要件ではなく、また契約届出を怠ったことによる罰則もない。しかしながら、ロイヤルティを海外送金する際に「技術輸入契約登記証」などの関連当局が発行する届出証明書類等の提出が金融機関から要求されることから(技術輸出入管理条例第39条)、届出をしていない場合、海外送金に支障が出る恐れがある。そのため、関連法令の要求に従い、届出を行っておくことが無難である。ライセンス契約届出手続に関する詳細は、下記【ソース】に示す「専利ライセンス契約届出弁法」、「商標ライセンス契約届出弁法」、「著作権契約届出申請書及び証明書の規範化に関する通知」をご参照いただきたい。
2.ロイヤルティ送金の必要書類
ロイヤルティを送金する際、実務においては、通常、下記書類の提出が要求される。
2-1.商標ライセンス契約
(1) 送金申請書
(2) 契約書
(3) インボイスまたは支払通知
(4) 税務証憑
(5) 商標主管部門発行の届出証明
なお、一部の銀行は、金額が少ない場合、上記の資料を提出せずに送金できるようになった。
2-2.専利ライセンス契約
(1) 送金申請書
(2) 契約書
(3) インボイスまたは支払通知
(4)「技術輸入許可証」または「技術輸入契約登記証」
(5)「技術輸入契約データ表」
(6) 税務証憑
(7) 専利主管部門発行の届出書証明
(8) 会計事務所が発行する売上高の信憑性を証明する資料(支払金額が売上高に連動する場合)
2-3.ノウハウライセンス契約
(1) 送金申請書
(2) 契約書
(3) インボイスまたは支払通知
(4)「技術輸入許可証」または「技術輸入契約登記証」
(5)「技術輸入契約データ表」
(6) 税務証憑
(7) 会計事務所が発行する売上高の信憑性を証明する資料(支払金額が売上高に連動する場合)
2-4.海外授権の図書に関する著作権ライセンス契約
(1) 送金申請書
(2) 契約書
(3) インボイスまたは支払通知
(4)「著作権契約届出済み」という判が捺印されている著作権ライセンス契約または契約届出の許可書類
(5) 税務証憑
2-5.オーディオおよびビデオ製品著作権ライセンス契約
(1) 送金申請書
(2) 契約書
(3) インボイスまたは支払通知
(4)「著作権契約届出済み」という判が捺印されている著作権ライセンス契約または契約届出の許可書類
(5) オーディオおよびビデオ製品管理部門の発行した許可書類
(6) 税務証憑
2-6.電子出版物著作権ライセンス契約
(1) 送金申請書
(2) 契約書
(3) インボイスまたは支払通知
(4)「著作権契約届出済み」という判が捺印されている著作権ライセンス契約または契約届出の許可書類
(5) 税務証憑
2-7.ソフトウェア著作権ライセンス契約
(1) 送金申請書
(2) 契約書
(3) インボイスまたは支払通知
(4)「著作権契約届出済み」という判が捺印されている著作権ライセンス契約または契約届出の許可書類
(5)「技術輸入および設備輸入の契約届出発行証書」または「技術輸入許可証」または「技術輸入契約登記証」
(6)「技術輸入契約データ表」
(7) 税務証憑
実務において、中国各地の外貨管理機構や金融機関の詳細規定または実務操作規定などは、かならずしも一致していないため、送金する前に予め現地の対応する外貨管理機構や金融機関などに、必須書類や手続などを確認しておいた方が好ましい。
3.税務局での登録
源泉所得税を確定するため、中国現地法人は、予め関連ライセンス契約書を中国の税務当局に提出する必要がある。「国家税務総局、国家外貨管理局によるサービス貿易等項目に対する対外送金の税務登録に関する公告(2013年第40号)」(国家税務総局公告2018年第31号により改正)(第1条)により、海外の機関または個人が国内から取得した運輸、旅行、通信、建築据付および労務請負、保険サービス、金融サービス、コンピュータと情報サービス、専有的権利の使用と許諾、スポーツ文化と娯楽サービス、その他の商業サービス、政府サービスなどのサービス貿易収入を含む収入について、国内組織または個人は、海外に1回5万ドルを超えて送金する場合、上記2013年第40号の第3条に規定された状況を除いて、いずれも所在地の税務機関に税務登録手続を行わなければならない。公告(2013年第40号)(第2条)により、税務登録手続を行う際、下記の書類が必要である。
(1) 捺印された契約書または取引関連証憑のコピー(外国語で作成された場合、その中文訳も提出する必要がある)
(2) サービス貿易などの項目に対する対外送金税務登録表
また、「国家税務総局、国家外貨管理局によるサービス貿易等項目に対する対外送金の税務登録関連問題に関する補充公告」(2021年第19号)(第1条)によると、国内機関と個人が同一の契約に対して何度も対外送金する必要がある場合、初めて送金する前に税務登録をすればよい。最近では、登録が、インターネットで申請できるようになってきている。
4.ライセンシーの源泉徴収義務
中国の税法では、日本企業へロイヤルティを送金する中国事業者に、源泉徴収が義務づけられている(税法第37条)。税法(第19条、第37条)、「国家税務総局による非居住者企業所得税源泉徴収関連問題に関する公告(国家税務総局公告2017年第37号)」(2018年第31号公告より修正)(第7条)および「国家税務総局による売上税から増値税への移行試行における非居住者企業の企業所得税納付の関連問題に関する公告」(2013年第9号)によると、非居住者企業が中国で取得したロイヤルティの付加価値税を含まない全額に対して、源泉徴収が実施され、ライセンシーが源泉徴収義務を負う。ライセンシーが、源泉徴収義務の発生日から7日以内に、所在地の税務当局に源泉徴収申告および納付手続を行わなければならない。「企業所得税法実施条例」(第91条)によると、ロイヤルティ送金に対する源泉所得税の税率は、10%である。
5.付加価値付加価値税
「中華人民共和国付加価値税暫定条例(2017改正)」(第1条)および「財政部、国家税務総局による売上税から付加価値税への移行試行を全面的に実施することに関する通知」(財税(2016)36号)(付属書類1の第1条)によると、中国国内でサービス、無形資産、不動産を販売する機関と個人は、付加価値税の納税者であり、付加価値税を納付しなければならない。「中華人民共和国増値税暫定条例」(第2条第3項)によると、ロイヤルティ送金に対する付加価値税の税率は、6%である。
6.留意事項
「国家税務総局による非居住者企業所得税源泉徴収関連問題に関する公告」(第6条)により、源泉徴収義務者が非居住者企業と企業所得税法第3条第3項に規定された所得に関する業務契約を締結する際、契約中に源泉徴収義務者が実際に税金を負担することを約束した場合、非居住者企業が取得した税抜所得を税込所得に換算して課税対象額を計算し、納付しなければならない。
例えば、ロイヤルティが100万元の場合、中国企業が税金を負担すると約定された場合、源泉徴収された付加価値税と企業所得税は、以下のように計算される。
付加価値税を含まなく企業所得税を含む所得額(税込所得)=税抜き所得/(1-所得税率)
税込所得=100/(1-10%)=111.11万元
源泉徴収付加価値税=111.11×6%=6.67万元
源泉徴収企業所得税=111.11×10%=11.11万元
換算済各種税金を含む契約の合計金額は、100万元+6.67万元+11.11万元=117.78万元となる。
契約書を作成する際、各種税金を考慮した上、税金の負担方を明確に約定したほうが好ましい。例えば、日本企業は100万元を受領したいが、ライセンス契約書に記載された送金の総額が100万元であった場合、税金控除のため、想定通りの金額を受領できない恐れがある。
また、前記財税(2016)36号通知の付属書類3「売上税から付加価値税への移行政策の規定」(第1条第26項)の定めにより、納税者は技術譲渡、技術開発とそれに関連する技術コンサルティング、技術サービスを提供する場合、付加価値税は免除される。付属書類1「売上税から付加価値税への移行試行実施弁法」に添付した「サービス、無形資産、不動産の販売への注釈」により、無形資産の販売とは、無形資産(技術(特許技術と非特許技術を含む)、商標、著作権、ビジネス信用、自然資源使用権とその他の権益的無形資産を含む)の所有権や使用権を譲渡するビジネス活動を指す。したがって、無形資産に関するライセンスの場合、付加価値税の免税を申請可能である。付加価値税の免税を申請する場合、書面契約をもって、所在地の省レベルの科技主管部門による許可を受ける必要がある。