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チリにおける商標制度の概要

1.保護可能な商標の種類
 写実的に表現可能であり、市場において商品、役務を識別できる下記の標識は、商標として登録可能である(産業財産法第19条)。
(1) 人名(その人物の同意、または亡くなっている場合はその人物の相続人の同意が必要)
(2) 文字(単一の文字だけの場合、文字と図案を組み合わせた出願が推奨される)
(3) 数字(単一の数字だけの場合、数字と図案を組み合わせた出願が推奨される)
(4) 絵、図柄、シンボル、色の組合せなどの図案的要素
(5) 音
(6) 匂い(匂い商標)
(7) 立体的形状
(8) 比喩的な要素を含む単語
(9) 上記の標識の任意の組合わせ
(10) 販売促進または広告スローガン(登録商標を伴い、当該登録商標と同一の権利範囲で出願することを条件とする)

 なお、法律では明示的に規定されていないがチリ産業財産庁(Instituto Nacional de Propiedad Industrial;INAPI)のホームページには、マルチメディア、ホログラム、動き、位置、触覚(テクスチャ)についても、商品または役務について十分に識別力のある範囲で、商標登録の対象となり得ることが言及されている(INAPIホームページ「商標 種類に応じて」)。

 また、2021年の改正によって団体商標と認証商標(証明商標)が明確化され、規定が制定された。団体商標は、第三者の商品または役務に関して、団体の構成員の商品または役務を市場で区別できる任意の記号または記号の組み合わせでなければならない(産業財産法第23条の2A)。また、認証商標は、市場で第三者の商品または役務を区別できる記号または記号の組み合わせが含まれており、それらが共通の要件および特性を満たしていることを保証するものでなければならない(産業財産法第23条の2B)。

2.商標出願の提出
 自然人か法人か、チリ人か外国人かを問わず、あらゆる者は、チリ産業財産庁(Instituto Nacional de Propiedad Industrial;INAPI)に商標出願を提出することができる(産業財産法第2条)。ただし、外国の自然人または法人は、チリにおける代理人を指名しなければならない。

 商標の登録出願は次の事項を含まなければならない(産業財産法第21条、産業財産規則第9条、第10条)。
(a) 出願人およびその代理人(いる場合)の識別情報(名前、住所、納税者番号、電子メール)
(b) 商標の詳細。図形商標または文字と図案の組み合わせ商標の場合は、当該商標のコピーを提出する必要がある
(c) 商品または役務の説明
(d) 公定出願料

 優先権を主張する場合は、上記要件に加えて、下記が必要となる(産業財産規則第60条)。
(a) 優先権の番号、日付および国の詳細
(b) 優先権証明書の原本(INAPIへの出願日から90日以内に提出されない場合、優先権は考慮されない)

 商標が外国で出願された場合、出願人はチリに出願を提出するための優先期間として、その外国出願日から6か月を与えられる(産業財産法第20条の2)。
 代理人委任状は,私署証書によって付与される(産業財産法第15条)。

 商標は特定の商品または役務に関して、かかる商品または役務が属する国際分類の1つまたはそれ以上の分類(区分)を指定して、出願および登録することができる(産業財産法第23条)。INAPIは現在、ニース分類第11版に対応する分類を使用している。個別出願またはマルチクラス(多区分指定)出願が認められているが、料金納付の目的上、マルチクラス出願または登録は、そこに含まれる商品または役務の数にかかわらず、分類(区分)ごとの個別出願または登録として扱われる(INAPIホームページ「商標 国内手数料」)。
 マルチクラス出願を2つまたはそれ以上の個別出願に分割することもでき、分割した場合のそれらの出願日は原出願と同じとなる(産業財産法第21条)。マルチクラス出願の分割は、料金の納付を条件とし、不服申立手続の期間中を含み、登録前のあらゆる時点において請求することができる。また、登録後の分割も認められている(産業財産法第21条)。

 また、本法およびそれに基づく規則に規定する日数による期間は、変更できない期間とし、就業日をいうものとする。これらの目的上、土曜日は就業日とはみなされない(産業財産法第11条)。

3.方式審査
 商標出願書が提出されると、INAPIは産業財産法により要求されるすべての方式要件が満たされているかを審査する(産業財産法第22条、産業財産規則第24条)。この方式審査は、出願の提出から2から3か月以内に行われる。

 INAPIが出願における誤記または記載漏れを見つけた場合、出願人は登録官の通知日から30日以内に当該出願について訂正または説明するよう求められる。訂正が行われない、または主張が却下された場合、その出願は取下げられたものとみなされる(産業財産法第22条)。

4.実体審査前の公告
 方式審査が済むと、官報において公告される(産業財産法第4条)。公告費用を公告決定日より20日の法定期限内に納付しなければならない(産業財産規則第14条)。未納の場合は、その出願は放棄されたものとみなされる。
 INAPIにより重大ではないとみなされる公告記載上の誤記は、その訂正を命じる決定により訂正することができる(産業財産法第4条)。重大な誤りがある場合、長官は,新たな公告を命じるものとし,これは新規公告を命じる決定の日から10日以内に新規に公告されなければならない。

5.異議申立および実体審査
5-1.異議申立

 あらゆる利害関係人は、官報における公告日から30日の期限内に、商標出願に対する異議申立書を提出することができる(産業財産法第5条)。異議申立期間が満了すると、INAPIは出願の実体審査を行い、拒絶理由を発行するかどうかを判断する(産業財産法第22条、産業財産規則第24条)。

5-2.出願人の応答書
 異議申立および/または拒絶理由が正式に出願人に通知された後、その異議申立および/または拒絶理由への応答書を提出する期間として、通知日から30日が与えられる(産業財産法第9条)。

5-3.証拠提出期間
 応答書が提出された後、証拠を提出するための期間として応答書提出期限の満了日より、さらに30日が与えられる(産業財産法第10条)。この期間は、INAPIが認める場合には(通常、いずれかの当事者が外国人である場合に認められる)、30日間の延長ができる。

6.INAPI長官の決定
 商標出願書が提出され、方式上の訂正をする必要がなく、または訂正が行われた、もしくは異議申立または拒絶理由がなかった場合、または応答書が提出され、要求された手続上の他の措置が完了した場合、INAPI長官は直ちに、出願を許可または拒絶する最終決定を下す(産業財産法第22条)。

6-1.公定登録料
 登録を許可する最終決定の日付から60日以内に、所定の料金を納付しなければならない(産業財産法第18条の2E)。納付されない場合、その出願は取下げられたものとみなされる。

6-2.不服申立手続
 INAPIにより下された決定を不服とする場合、産業財産権裁判所(the Industrial Property Court; IPC)に対して不服申立を提起できる(産業財産法第17条の2B)。不服申立は、決定が正式に送達された日から15日以内に提起しなければならない。

7.上訴
 IPCの判決に対しては、最高裁判所へ上訴することができる(産業財産法第17条の2B)。上訴は、判決が正式に送達された日から15日以内に提起しなければならない。ただし、この手続に関する15日の期限は、民事訴訟規則にしたがって計算されるため、産業財産法で就業日と規定されてない土曜日も含まれ、その他の休日も含まれる。

8.更新
 商標登録は、登録日から10年間有効である(産業財産法第24条)。更新費用の納付を前提として、商標登録の所有者は、その有効期間中に、または当該期間の満了後6か月以内に、同じく10年間にわたる登録権利の更新を申請することができる。所有者が法定期間内に更新の申請をしなかった場合は,当該商標は放棄されたものとみなされ,権利は失効したものとみなされる(産業財産規則第30条)。

9.登録取消の手続
 利害関係人は、産業財産権登録の無効による取消しを請求することができ(産業財産法第18条の2G)、産業財産法第20条にいう禁止事由の一に違反してなされたとき、商標の登録は無効とされる(産業財産法第26条)。商標の登録を取消すことについての請求は、登録日から起算して5年経過した後は禁止される(産業財産法第27条)。ただし、取消の請求は、不正に取得された登録に関しては、当該期間を経過した後でも禁止されない。

 2021年の改正によって、商標の不使用と識別力の喪失が取消しの新たな理由として追加された。登録日から5年が経過しても、所有者または所有者の同意を得た第三者によって、商標が国内で現実的かつ効果的に使用されていない場合は、商標の不使用とされる(産業財産法第27条の2A(a))。商標の使用の立証責任は、当該商標の所有者が負う(産業財産法第27条の2B)また、商標が登録されている商品または役務の市場の取引において、普通名称に変化した場合は識別力が喪失したとされる(産業財産法第27条の2A(b))。

 取消請求の通知は、INAPIより該当する所有者に送達され、取消請求に応答するための期間として通知日より30日が与えられる(産業財産法第18条の2I)。上記応答期間の満了後、INAPIは、証拠を提出するための期間として30日を与え、長官が適正に認定する場合は更に30日間延長することができる。(産業財産法第18条の2L)。INAPIはその後で決定を下す。この決定に対して、IPCに対する不服申立手続、さらに最高裁判所への上告ができる(産業財産法第17条の2)。

 取消された登録は、その取消決定日(発効日)から無効とみなされる(産業財産法第18条の2N)。

チリにおける商標制度の概要

【詳細】

チリにおける商標に関する規定は、1991年1月25日に施行された産業財産に関する法律第19,039号(以下、「IP法」)に定められている。

 

1.保護可能な標章の種類

写実的に表現可能であり、市場において商品、役務または産業または商業施設を識別できる下記の標識は、商標として登録可能である。

(1)人名(その人物の同意、または亡くなっている場合はその人物の相続人の同意が必要)

(2)文字(単一の文字だけの場合、文字と図案を組み合わせた出願が推奨される)

(3)数字(単一の数字だけの場合、数字と図案を組み合わせた出願が推奨される)

(4)絵、図柄、シンボル、色の組合せなどの図案的要素

(5)音

(6)上記の標識のあらゆる組合せ

(7)匂い(匂い商標)

(8)広告スローガン(登録商標を伴い、当該登録商標と同一の権利範囲で出願することを条件とする)

 

ホログラム、動き、立体的形状、商品またはパッケージの形状または色彩、および色彩自体に関する出願は、認められていない。

 

2.商標出願の提出

自然人か法人か、チリ人か外国人かを問わず、あらゆる者は、チリ工業所有権庁(Instituto Nacional de Propiedad Industrial;INAPI)に商標出願を提出することができる。ただし、外国の自然人または法人は、チリにおける代理人を指名しなければならない。

 

出願要件:

(a)出願人およびその代理人(いる場合)の識別情報(名前、住所、納税者番号、電子メール)

(b)商標の詳細。図形商標または文字と図案の組み合わせ商標の場合は、当該商標のコピーを提出する必要がある

(c)商品または役務の説明

(d)公定出願料

 

優先権を主張する場合は、上記要件に加えて、下記が必要となる。

(a)優先権の番号、日付および国の詳細

(b)優先権証明書の原本(INAPIへの出願日から90日以内に提出されない場合、優先権は考慮されない)

 

商標が外国で出願された場合、出願人はチリに出願を提出するための優先期間として、その外国出願日から6か月を与えられる。

代理人への委任状の認証は必須ではない。

商標は特定の商品または役務に関して、かかる商品または役務が属する国際分類の1つまたはそれ以上の分類(区分)を指定して、出願および登録することができる。INAPIは現在、ニース国際分類の第10版に対応する分類を使用している。

個別出願またはマルチクラス(多区分指定)出願が認められているが、料金納付の目的上、マルチクラス出願または登録は、そこに含まれる商品またはサービスの数にかかわらず、分類(区分)ごとの個別出願または登録として扱われる。

また、マルチクラス出願を2つまたはそれ以上の個別出願に分割することもでき、分割した場合のそれらの出願日は原出願と同じとなる。マルチクラス出願の分割は、料金の納付を条件とし、不服申立手続の期間中を含み、登録前のあらゆる時点において請求することができる。

また、登録後の分割も認められている。

産業財産法の解釈上、法定期限は就業日のみである(土曜日、日曜日、祝祭日を除く)。

 

3.方式審査

出願書が提出されると、INAPIはIP法により要求されるすべての方式要件が満たされていることを審査する。この方式審査は、出願の提出から2‐3か月以内に行われる。

INAPIが出願における誤記または記載漏れを見つけた場合、出願人は登録官の通知日から30日以内に当該出願について訂正または説明するよう求められる。

訂正が行われない、または主張が却下された場合、その出願は放棄されたものとみなされる。

 

4.公報での公告

方式審査が済むと、官報において公告される。公告費用を公告決定日より20日の法定期限内に納付しなければならない。未納の場合は、その出願は放棄されたものとしてみなされる。

INAPIにより重大ではないとみなされる公告記載上の誤記は、その訂正を命じる決定により訂正することができる。重大な誤りがある場合、長官は,新たな公告を命じるものとし,これは新規公告を命じる決定の日から10日以内に新規に公告されなければならない。

公告後30日以内に、第三者は異議申立を提出することができる。

 

5.異議申立および拒絶

あらゆる利害関係者は、官報における公告日から30日の期限内に、商標出願に対する異議申立を提出することができる。

異議申立期間が満了すると、INAPIは出願の実体審査を行い、拒絶理由を発行するかどうかを判断する。

 

6.出願人の応答書

異議申立および、または拒絶理由が正式に出願人に通知された後、その異議申立および、または拒絶理由への応答書を提出する期間として、通知日から30日が与えられる。

 

7.証拠期間

応答書が提出された後、証拠を提出するための期間として応答書提出期限の満了日より、さらに30日が与えられる。この期間は、INAPIが認める場合には(通常、いずれかの当事者が外国人である場合に認められる)、30日間の延長ができる。

 

8.INAPI長官の決定

願書が提出され、方式上の訂正をする必要がなく、または訂正が行われた、もしくは異議申立または拒絶理由がなかった場合、または応答書が提出され、要求された手続上の他の措置が完了した場合、INAPI長官は直ちに、出願を許可または拒絶する最終決定を下す。

 

9.公定登録料

登録を許可する最終決定の日付から60日以内に、所定の料金を納付しなければならない。そうしない場合、その出願は放棄されたとみなされる。

 

10.不服申立手続

INAPIにより下された決定を不服とする場合、工業所有権裁判所(the Industrial Property Court; IPC)に対して不服申立を提起できる。不服申立は、決定が正式に送達された日から15日以内に提起しなければならない。

 

11.上訴

IPCの判決に対しては、最高裁判所への上告ができる。

上訴は、判決が正式に送達された日から15日以内に提起しなければならない。ただし、この手続に関する15日の期限は、民事訴訟規則にしたがって計算されるため、IP法で就業日と規定されてない土曜日も含まれ、その他の休日も含まれる。

 

12.更新

商標登録は、登録日から10年間有効である。

更新費用の納付を前提として、商標登録の所有者は、その有効期間中に、または当該期間の満了後30日以内に、同じく10年間にわたる登録権利の更新を申請することができる。

 

13.商標の使用

商標登録出願をする上で、さらに商標権を維持する上で、商標の使用は義務では無い。

このため、商標権者が商業において商標を実際に使用していなくても、商標登録を取得することができ、さらに登録者は適時に更新を申請するだけで、商標の使用を証明することなく商標を更新することができる。

 

14.取消

商標登録の取消は、あらゆる利害関係者が請求することができ、その理由は、識別性の欠如など、異議申立の理由と同じである。

取消請求の通知は、INAPIより該当する所有者に送達され、取消請求に応答するための期間として通知日より30日が与えられる。

上記応答期間の満了後、INAPIは今度は証拠を提出するための期間として30日を与え、通知日より証拠提出期間は60日ある。INAPIはその後で決定を下す。この決定に対して、IPCに対する不服申立手続、さらに最高裁判所への上告ができる。

取り消された登録は、その取り消し決定日から無効とみなされる。