ブラジルにおける商標ライセンス契約に関する留意点
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ブラジルにおける商標権に基づく権利行使の留意点
【詳細及び留意点】
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ブラジルにおける指定商品または役務に関わる留意事項
【詳細及び留意点】
ブラジルにおいては多区分出願が認められず、区分毎に独立した出願を行わなければならない。
さらに、各出願には、INPIにより現在採用されているニース国際分類の版(第10版)に従った商品または役務の指定を記載しなければならない。
電子商標出願書式への記入に際して、出願人は、(a)INPIにより公表されたリスト(ニース国際分類の商品および役務リストと一致する)から商品または役務を選択する、または、(b)出願人が固有に作成した商品または役務の記載を提出する、という2つのオプションがある。オプション(a)には、庁による商品または役務の審査が不要となる事から、約20%公費が低く抑えられることと、商品または役務の記載についてオフィスアクションの発生を回避できる(当該リストがINPIにより事前承認されているため)という利点がある。
INPIは、商品または役務の広範な記載を認めていない。類見出し(クラスヘディング)や広範な記載が出願に含まれている場合、拒絶理由通知がくる可能性が高く、この対応のために意見書を送り再度審査するために手続の遅延が生じるおそれがある。また、この手続きのために新たな費用の発生も生じる。
商品または役務の適切な分類について疑義が生じた場合、所定の公費を納付することにより、商品および役務分類委員会(Goods and Services Classification Commission : CCPS)に照会することが可能である。照会内容を検討後、CCPSは、ブラジル産業財産権公報(RPI)においてその回答を公示する。
出願がパリ条約の優先権を含む場合、商品または役務の記載は、海外の優先権基礎出願と同一または基礎出願の商品または役務記載に含まれる限定的記載でなければならないことにも注意を要する。
なお、2000年以前に認可または更新された登録については、商品および役務の広範な記載を認める古い国内分類のままとなっている。
採用されているニース国際分類の版
INPIは、ニース国際分類第10版を使用しており、第11版の採用は2017年と見込まれる。
審査基準
INPIの審査官は、ニース国際分類を基準として、出願に示された商品または役務が、出願された区分にしたがっているか否かを確認する。
出願後、新たな商品または役務を追加する補正は認められない。しかし、商品または役務を縮減する補正は認められる。
INPIの審査官は審査の過程において、その職権により、出願された区分へ適合させるために、指定商品または役務の記載にマイナーな変更を行うことができる。通常、これらの変更は何らかの表現を含めること(例えば「医療用」や「医療用を除く」など)、または、出願された区分に属さない一部商品または役務を除外することである。
INPIの審査官が、出願区分と指定商品または指定役務との間の不一致を確認した場合(例えば、指定商品が2以上の区分を包含する場合など)、拒絶理由通知を発行し、出願人に対して不一致を明らかにし、不適切な商品または役務を除外するよう求める。除外された商品または役務を保護するには新規出願を行わなければならない。分割出願による対応は認められていない。
拒絶理由通知は、商品または役務に関してあいまいな記載がある場合にも発行されることがある。この場合、出願人は、拒絶理由通知に応じ、希望する商品または役務を明確に示さなければならない。
さらに、ブラジルの商標出願では、出願時に事業内容を宣誓するが、INPIの審査官は、審査の過程において、指定商品または指定役務が、出願人が出願時に宣言した事業内容に沿うものであるか否かについても審理する。指定商品または役務と事業内容とが一致しない場合も拒絶理由通知が発行され、出願人に対して、自身の事業内容に関する証拠を提出するよう要求されることがある。
拒絶理由通知が発行された理由にかかわらず、期限内に応答がない、または期限内に指令内容に応じない場合、当該出願は失効したものとみなされ、拒絶査定が発行される。
指定商品または指定役務が公費に与える影響
商品または役務の数により、公費が変わることはない。つまり、例えば一つの指定商品の出願と15の指定商品の出願は同じ公費を納付することになる。
公費は、出願の提出方法により異なる。現在、INPIは、(INPIのウェブシステムを通じた)電子出願と紙媒体による出願を認めているが、電子出願は紙媒体による出願よりも安価である(約20%安い)。
電子出願では、INPIにより公表されたリスト(ニース国際分類の商品および役務リストと一致する)を使うか、または、出願人が固有に作成した商品または役務の表記を使うか、自由である。公費は、電子出願制度の中でも変わり、公費を比較すると、前者は、後者に比べて約20%安価となる。紙媒体による出願においては、このような公費の相違は発生しない。
CCPS(商品および役務分類委員会)に対する商品または役務記載に関する相談は有料であり、その相談に対する公費は、照会する商品または役務の数に応じて異なる。
留意事項
商品の補正に起因する公費や代理人検討料の新たな費用の発生や、拒絶理由対応などオフィスアクションによる余分な時間の経過を回避するため、希望する商品または役務を正確に記載することを推奨する。INPIにより公表されたリスト(ニース国際分類の商品および役務リストと一致する)に則ることが望ましい。これにより、オフィスアクションの回数が増えることを避け、手数料を必要最小限に抑えることができる。
ブラジルでは、商標登録出願、商標登録更新のいずれにおいても、商標の使用証拠の提出は要求されない。
ブラジルにおける「商標の使用」と使用証拠
【詳細及び留意点】
登録商標の所有者は、登録された当該商標の態様を変更することなく、登録された指定商品または指定役務に関して当該商標を使用しなければならない。
商標の使用証拠の提出することは、商標登録や商標更新の要件にはなっていない。しかし、商標登録に対して不使用を理由とする取消請求が提起された場合、商標権者は当該商標の使用証拠の提出を要求される。この不使用取消請求は、登録日から起算して5年が経過した後、正当な利害関係を有する第三者が提起することができる(ブラジル産業財産法第143条)。
1.詳細および考察
ブラジル産業財産法第143条によれば、(i)商標の登録から5年が経過した後の不使用取消請求時点で、商標の使用が開始されなかった場合または(ii)商標の使用が5年以上連続して中断されていた場合、不使用取消の請求により登録が取り消される。
上記の規定は、商標がブラジル国内で使用されなければならないことを規定しているが、最高裁判所は既に次のような判決を示している。「ブラジル国内で設計され、製造された製品が専ら外国市場向けのものであるという事実は、それら製品に関わる商標の登録取り消しを意味するものではない。」(2015年11月6日付特別上訴1.236.218-RJ)。したがって、当該製品がブラジルで製造された後に他の国々に輸出されたことを示す証拠は、ブラジル国内での使用証拠と同様に扱われる。
商標の使用を立証する期間は、不使用取消請求の提出日に先立つ5年間(請求日前日をまでを含む過去5年間)であり、この期間中にブラジル国内で当該商標が散発的では無く、恒常的に使用されたことを証明する必要がある。商標の散発的な使用は、登録取り消しの宣告を回避するには不十分であり、最高裁判所は以下のような判決を示している。
立証対象期間となる5年間におけるブランドの価値および製品の売上量が不明瞭であれば、商標登録の取り消しを認めることが可能である(この判例で審理された状況では、タバコ70箱(収益にして614.75レアル相当)と商標権者が同じ期間に行っていた数十億レアル規模の事業(その生産高はタバコ4000億箱以上に相当する)とが比較された)(2015年11月6日付特別上訴1.236.218-RJ)。
商標の使用を立証するために十分な証拠の量に関しては、法律に規定がないが、当国の慣行によれば、商品もしくは役務の性質によって異なる。
商標が安価な製品(鉛筆など)に関して使用されている場合、当該商標の使用を立証するためには大量の証拠を提出しなければならない。これに対し、製品が非常に高価であり、その生産量が限られている場合(航空機など)、少ない量の証拠でも認められる。
もう一つの重要な問題は、商標が登録された態様を変更することなく使用されていることを証明しなければならないというものである。ただし、ブラジル産業財産庁 (Instituto Nacional da Propriedade Industrial: INPI)商標の使用に関するガイドラインによれば、商標が文字商標として登録されている場合、商標中の文字の構成を変えない限り、あらゆる種類のフォントで当該商標を使用することが可能であり、特定の図形とともに(文字と図形の組み合わせで)使用することもできる。
これに対し、商標が文字と図形の組み合わせもしくは図形のみで登録されている場合、その商標は登録された態様を変更することなく使用されるか、少なくとも識別性に影響するような変更なしに使用されなければならない。ブラジル産業財産法にもINPIの商標の使用に関するガイドラインにも、商標の識別性に影響する変更に関する詳細は定められていないため、その判断はケース・バイ・ケースで行われることになる。
さらに、ブラジル産業財産法第144条によれば、商標は当該商標の指定商品または指定役務に使用されなければならず、それらの指定商品または指定役務の一部についてしか使用されていなかったことが立証された場合、登録が部分的に取り消される。ただし、登録された指定商品が「鉛筆およびペン」である場合に、「鉛筆」と「ペン」は類似の商品であるため、商標権者が「鉛筆」のみについて当該商標の使用を立証すれば、「ペン」に関する取り消しを免れることができる。
最後に、ブラジル産業財産法第143条1項に規定されているように、商標権者は正当な理由があれば不使用取消への抗弁を行うことができる。ただし、この条文でも「正当な理由」の定義が示されていないため、ケース・バイ・ケースで判断される。
2.認容される使用の証拠
最も有効な使用証拠は、商標が表示され、当該商標により識別される商品または役務ならびに取引日が明記された国内向けの送り状である。国内の新聞または雑誌に掲載された広告の日付入りコピーやカタログのコピーも有効である。
商標により識別される商品がブラジルに輸入された製品であった場合、その輸入に対してブラジル財務省が発行した輸入許可通知書のコピーを提出する必要がある。
ブラジルの現地企業が商標ライセンスに基づいて商品の製造販売を行っている場合は、ライセンス契約書のコピーとともにライセンシー名義の使用証拠を提出すれば有効である。なお、当該ライセンス契約は国家産業財産権庁に登録されている必要はない(ブラジル産業財産法第140条2項)。
3.提言
不使用取消請求が提起された場合に備えて、商標権者は過去5年以内の日付の入った送り状もしくはカタログを保管しておくことが望ましい。送り状は、商標が表示されているとともに、当該商標と取引される商品または役務との関連づけを可能にする情報(製品説明、参照番号など)も記載されていなければならない。
商標が登録された態様を変更することなく使用されていることが極めて重要である。商標の識別性に影響する変更かどうかに関する判断は、法に基づくものではなく、慣行に基づくものであって、時代によって変化する可能性があるからである。
このため、商標を構成する二つの単語のスペースを狭くするというような些細な変更がなされただけであっても、新たな態様の商標が長期間もしくは無期限に使用されることが見込まれる場合には、念のため新規出願することが望ましい。