ブラジルにおける商標出願の指定商品または役務についての取扱い
〔詳細〕
1.商標出願における商品および役務の記載要領
ブラジルにおいては多区分出願が認められず、区分毎に独立した出願を行わなければならない(*)。各出願には、INPIにより現在採用されているニース分類(第11版)に従った商品または役務の指定を記載しなければならない(INPIウェブサイト「商品およびサービスの分類」)。
一方、2019年10月2日にマドリッドプロトコルがブラジルにおいて発効した。マドリッドプロトコル経由で出願する場合は、複数区分(マルチクラス)の指定が可能である(INPIウェブサイト「マドリッドプロトコル」)。
(*) 2020年3月9日のINPI条例 第257号は、e-INPI商標出願システムにおける多区分制度(マルチクラスシステム)による商標出願の利用可能性を規定しているが、2023年1月時点では運用には至っていない。
https://www.gov.br/inpi/pt-br/servicos/marcas/arquivos/legislacao/copy_of_RES_2572020.pdf
INPIへの商標出願は、現在INPIウェブサイトで利用可能なe-INPI商標出願システムによってインターネットを介してのみ可能となっている(商標マニュアル「3.登録出願又は商標申請を行う方法」)。電子商標出願書式への記入に際して、出願人は、(a)INPIにより公表されたリスト(ニース分類の商品および役務リストと一致する)から商品または役務を選択する、または、(b)出願人が固有に作成した商品または役務の記載を提出する、という2つのオプションがある(商標マニュアル「3.5.2 電子フォームへの記入」)。オプション(a)の場合には、INPIによる商品または役務の審査が不要となることから約15%手数料が低く抑えられる(INPIウェブサイト「商標手数料(Code389、394)」)、当該リストがINPIにより事前承認されていることから商品または役務の記載についてオフィスアクションの発生を回避できるという利点がある。
INPIは、商品または役務の広範な記載を認めていない。類見出し(クラスヘディング)や広範な記載が出願に含まれている場合、拒絶理由が通知される可能性が高く、この対応のために意見書を送り再度審査を受けるために手続の遅延が生じるおそれがある。また、この手続のために新たな費用も生じる。
商品または役務の適切な分類について疑義が生じた場合、所定の手数料(5つの商品または役務まで170レアル)を納付することにより(INPIウェブサイト「商標料金表(Code357)」)、商品および役務分類委員会(Goods and Services Classification Commission : CCPS)に照会することが可能である。照会内容を検討後、CCPSは、ブラジル産業財産権公報(RPI)においてその回答を公示する(商標マニュアル「10.1.1 商品および役務分類委員会への照会」)。
出願がパリ条約の優先権を含む場合、商品または役務の記載は、海外の優先権基礎出願と同一または基礎出願の商品または役務記載に含まれる限定的記載でなければならないことにも注意を要する。
なお、2000年以前に認可または更新された登録については、商品および役務の広範な記載を認める古い国内分類のままとなっている。
2.審査における商品および役務の取扱い
INPIの審査官は、ニース分類を基準として、出願に示された商品または役務が、出願された区分にしたがっているか否かを確認する(商標マニュアル「5.4 商品及びサービス明細の分析」)。
出願後、新たな商品または役務を追加する補正は認められない。しかし、商品または役務を減縮する補正は認められる(商標マニュアル「9.2 商品及びサービスの分類及び明細に関する変更」)。
INPIの審査官は、審査の過程においてその職権により、出願された区分へ適合させるために指定商品または役務の記載にマイナーな変更を行うことができる(商標マニュアル「5.4.1 明細の変更」)。通常、これらの変更は何らかの表現を含めること(例えば「医療用」や「医療用を除く」など)、または、出願された区分に属さない一部商品または役務を除外することである。
INPIの審査官が、出願区分と指定商品または指定役務との間の不一致を確認した場合(例えば、指定商品が2以上の区分を包含するなどの場合)、拒絶理由通知を発行し、出願人に対して不一致を明らかにし、不適切な商品または役務を除外するよう求める(商標マニュアル「5.4.2 請求されている分類に適合しない明細」)。除外された商品または役務を保護するには、新規出願を行わなければならない。分割出願による対応は認められていない。
INPIの審査官は、職権により、ニース分類に適合させるために用語を十分に明確かつ正確になるまで変更することができるが(商標マニュアル「5.4.1 明細の変更」)、商品または役務に関してあいまいな記載がある場合に、拒絶理由通知を発行することもある(商標マニュアル「5.19.1 方式指令 a)商品またはサービスの不適切な明細」)。この場合、出願人は、拒絶理由通知に応じ、希望する商品または役務を明確に示さなければならない。
また、商品または役務がブラジルの法律に基づき違法と考えられる場合、活動の合法性を明確にするように、または請求している分類に一致し、違法性条件を満たさない項目/説明に差し替えるようにとの拒絶理由通知が出願人になされる(商標マニュアル「5.4.6 違法と考えられる商品またはサービスに相当する用語を含む明細」)。
さらに、ブラジルの商標出願では、出願時に事業内容を宣誓するが、INPIの審査官は、審査の過程において、指定商品または指定役務が、出願人が出願時に宣言した事業内容に沿うものであるか否かについても審査する(ブラジル産業財産法第128条(1)、商標マニュアル「5.5 出願人の合法性の分析」)。指定商品または役務と事業内容とが一致しない場合も拒絶理由通知が発行され、出願人に対して、自身の事業内容に関する証拠を提出するよう要求されることがある。
拒絶理由通知が発行された理由にかかわらず、期限内に応答がない、または期限内に指令内容に応じない場合、当該出願は失効したものとみなされ、拒絶査定が発行される(商標マニュアル「5.実体審査」)。
3.指定商品または指定役務が費用に与える影響
商品または役務の数により、出願手数料が変わることはない(INPIウェブサイト「商標料金表」)。つまり、例えば指定商品が1つの出願と指定商品が15個の出願はそれらが同一の区分内であれば、同じ出願手数料を納付することになる。
電子出願では、INPIにより公表されたリスト(ニース分類の商品および役務リストと一致する)を使うか、または、出願人が固有に作成した商品または役務の表記を使うか、自由である(商標マニュアル「3.5.2 電子フォームへの記入」)。費用を比較すると、前者は355レアルであるが、後者は415レアルなので、公表リストを使用する方が15%程度安価となる(INPIウェブサイト「商標料金表(Code389、394)」)。
CCPS(商品および役務分類委員会)に対する商品または役務記載に関する相談は有料であり、その相談に対する手数料は、照会する商品または役務の数に応じて異なる(INPIウェブサイト「商標料金表(Code357)」)。
〔留意事項〕
商品の補正に起因する手数料や代理人費用の新たな発生、拒絶理由対応などオフィスアクションによる余分な時間の経過を回避するため、希望する商品または役務を正確に記載することが推奨される。INPIにより公表されたリスト(ニース分類の商品および役務リストと一致する)に従うことが望ましい。これにより、オフィスアクションの回数が増えることを避け、手数料を必要最小限に抑えることができる。
なお、ブラジルでは、商標登録出願、商標登録更新のいずれにおいても、商標の使用証拠の提出は要求されない。
ブラジルにおける商標制度のまとめ-実体編
1. 標章制度の特徴
ブラジルの標章制度の特徴として、証明標章の保護制度が挙げられるため、以下に紹介する。
産業財産法第123条第2項に規定されるように、証明標章とは、ある製品またはサービスが、品質、特性、使用した原料および方法等に関し、一定の技術的基準または規格と合致していることを証明するために使用される標章である。
産業財産法第128条第3項に規定されるように、証明標章の登録出願は、証明の対象とする製品またはサービスに直接の商業的または工業的利害関係を有していない法人に限り行うことができる。また、産業財産法第148条に規定されるように、証明標章の登録出願には、証明の対象とする製品またはサービスの特徴、および標章登録者が採用する管理措置を記載しなければならない。
産業財産法第149条および第150条に規定されるように、証明標章の使用はライセンスを必要とせず、使用規約中に記載されている使用許可をもって足りる。使用規約の変更については、すべての変更条件を記載した適切な申請書を作成してブラジル産業財産庁に届け出なければならず、届け出がない場合はその変更は考慮されない。
産業財産法第151条に規定されるように、証明標章の登録は、使用規約に規定したものとは異なる条件の下で標章が使用された場合には消滅する。また、産業財産法第154条に規定されるように、過去に使用され、かつ、その登録が消滅した証明標章は、その登録の消滅から5年が経過するまでは、第三者の名義で登録を受けることができない。
なお、ブラジル産業財産庁のブランドマニュアルの2.2に記載されるように、認証マークを取得することは、製品またはサービスの品質を保証しなければならないサプライヤーの責任を免除するものではない。
関連記事:
「ブラジルにおける商標出願制度概要」(2019.11.14)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17915/
「ブラジルの商標関連の法律、規則、審査基準等」(2019.04.09)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16874/
「ブラジルにおける商標制度の運用実態」(2016.01.29)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/10228/
2. 登録できる標章
産業財産法第122条に規定されるように、視覚的に認識することができる標識であって、識別性を有するものは、法的に禁止されていない限り、標章登録を受けることができる。例えば、ブラジル産業財産庁のブランドマニュアルの2.3に記載されているように、1または複数のローマ字や数字等で構成される文字標章、図面、画像、記号などで構成されるデザイン標章、文字標章とデザイン標章との混合標章、三次元的形状で構成される立体標章などが登録可能である。
また、登録可能な標章の種類としては、産業財産法第123条第1項に規定されるように、ある製品またはサービスを、出所は異なるが、同一、類似または同種である別の製品またはサービスから識別するために使用される標章である製品標章またはサービスマークがある。加えて、産業財産法第123条第2項、第3項に規定されるように、前述した証明標章や、一定の団体の構成員によって提供される製品またはサービスを識別するために使用される標章である団体標章がある。
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「ブラジルの商標関連の法律、規則、審査基準等」(2019.04.09)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16874/
「ブラジルにおける物品デザインの商標的保護」(2018.09.06)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/15733/
「ブラジルにおける外国語(日本語)商標の取り扱い」(2018.09.04)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/15726/
「ブラジルの商標法における『商標』の定義の観点からの識別性」(2017.12.14)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/14328/
「ブラジルにおける商標制度の運用実態」(2016.01.29)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/10228/
3. 標章を登録するための要件
産業財産法第124条には、標章として登録を受けることができない標識が列挙されている。本条で規定されている、標章として登録を受けることができない標識は、次の(I)~(XXIII)のいずれかに該当するものである。
(I)ブラジル、外国または国際的な盾、紋章、メダル、旗章、記章、公的な名声および記念碑、またはそれらの名称、図形もしくは模造。
(II)単独の文字、数字および日付。ただし、十分に識別的形状を具えているものを除く。
(III)語句、形象または図形その他の標識であって、道徳もしくは善良の風俗に反するか、または他人の名誉もしくは印象を害するか、または良心、信条、信仰の自由もしくは尊敬および崇拝に値する思想および感情を損なうもの。
(IV)公共の団体または機関の名称または頭字語(略語)であって、当該団体または機関それ自体によって登録申請がされていないもの。
(V)第三者に属する組織または企業の名称に係わる特徴的または識別的要素の複製または模造であって、その識別的標識との誤認または混同を生じさせるおそれがあるもの。
(VI)識別の対象とする製品またはサービスに関連する、一般的な、必然的な、共通の、通常の、もしくは単に説明的性格の標識、または製品もしくはサービスについて、その性質、原産国、重量、価格、品質および製品の生産もしくはサービス提供の時期に係わる特徴を示すために通常使用される標識。ただし、十分に識別的形状を具えているものを除く。
(VII)単に宣伝手段としてのみ用いられる標識または文言。
(VIII)色彩およびその名称。ただし、独特でかつ識別的方法により配置または結合されているものを除く。
(IX)地理的表示もしくは混同を生じさせるおそれがあるその模造、または地理的表示であると誤認させるおそれがある標識。
(X)標章の使用対象である製品またはサービスに関し、その原産地、出所、性質、品質または用途について、虚偽の表示となる標識。
(XI)何れかの種類または性質の基準を保証するために正規に使用される公の印章の複製または模造。
(XII)第154条の規定を損なうことなく、第三者が団体標章または証明標章として登録している標識の複製または模造。
(XIII)公のまたは公に認められた運動、芸術、文化、社会、政治、経済または技術に係る行事の名称、賞牌または表象、およびその模造であって、誤認を生じさせるおそれがあるもの。ただし、その行事を推進する管轄の機関または団体の許可を得ている場合を除く。
(XIV)連邦、州、連邦区、地方自治区、自治体または外国の権利書、債権、硬貨および紙幣の複製または模造。
(XV)第三者の個人名もしくはその署名、姓、父称の名および肖像。ただし、その所有者、相続人または承継人の同意を得ている場合を除く。
(XVI)著名な雅号または愛称、および個人または団体の芸術上の名称。ただし、その所有者、相続人または承継人の同意を得ている場合を除く。
(XVII)文学、芸術または科学の著作物、並びにその題名であって、著作権によって保護されており、かつ、混同または関連のおそれがあるもの。ただし、それに係わる著作者または権利所有者の承諾を得ている場合を除く。
(XVIII)識別対象とする製品またはサービスに関連する産業、科学または技術において使用されている技術用語。
(XIX)同一、類似または同種の製品またはサービスを識別もしくは証明するために第三者が登録している標章の全部または一部、更に付加があればそれを含めて複製もしくは模造したものであって、第三者の標章と混同または関連を生じさせるおそれがあるもの。
(XX)同一所有者が同一の製品またはサービスに関して有する二重標章。ただし、同じ種類の標章の場合は、識別することができる形状を具えているときを除く。
(XXI)製品もしくはその包装に係わる必然的な、共通のもしくは通常の形状、または、さらに、技術的効果の観点から不可欠な形状。
(XXII)第三者の名称で登録された意匠によって保護されている対象。
(XXIII)出願人が事業活動上当然に知っている筈の標章であり、かつ、ブラジル国内またはブラジルが条約を締結しているかもしくは相互主義の待遇を保証している国に本拠または住所を有する者の所有に係わるものの全部または一部を模造しまたは複製した標識。ただし、その標章が、前記第三者の標章との間で混同または関連を生じさせるおそれがある同一、類似または同種の製品またはサービスを識別するためのものに限る。
関連記事:
「ブラジルにおける商標出願制度概要」(2019.11.14)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17915/
「ブラジルの商標関連の法律、規則、審査基準等」(2019.04.09)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16874/
「ブラジルにおける悪意(Bad-faith)の商標出願に関する法制度、運用および判例」(2019.02.05)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16487/
「ブラジルにおける商標の重要判例」(2018.09.25)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/15849/
「ブラジルにおける物品デザインの商標的保護」(2018.09.06)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/15733/
「ブラジルの商標法における『商標』の定義の観点からの識別性」(2017.12.14)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/14328/
「ブラジルにおける商標異議申立制度」(2017.04.25)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/13631/
「ブラジルにおける商標制度の運用実態」(2016.01.29)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/10228/
4. 標章権の存続期間
産業財産法第133条に規定されるように、標章登録は、登録の付与日から10年の期間効力を有するものとし、連続する同一の期間ずつ(10年単位で続けて)更新することができる。更新申請は、登録存続期間の最終年度中に、手数料の納付証明書を添付して行わなければならない。登録存続期間が満了するまでに更新申請をしなかった場合、標章所有者は、追加手数料を納付して、その後の6月内に当該申請をすることができる。
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https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17915/
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https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16874/
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https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/10228/
ブラジルにおける商標制度の運用実態
【詳細】
ブラジル・メキシコ・コロンビア・インド・ロシアの産業財産権制度及びその運用実態に関する調査研究報告書(平成27年3月、日本国際知的財産保護協会)第2部-Ⅰ-E
(目次)
第2部 各国の産業財産権制度・運用調査結果
Ⅰ ブラジル連邦共和国
E 商標 P.71
1 産業財産権制度の枠組 P.71
2 出願・登録の手続 P.81
3 審査業務 P.84
4 統計情報 P.88
参考資料 総括表
E 商標 P.418