ブラジルにおける特許制度のまとめ-実体編
1. 特許制度の特徴
(1) 同日出願の特許および実用新案
ブラジル産業財産庁(INPI)による、産業財産法第6条の現在の解釈によると、異なる特許(または実用新案)に同一の主題が含まれていてはならない。また実用新案も特許とみなされるため、INPIの産業財産法第6条の現在の解釈によれば、同じ出願人が同じ日に同一の主題について(複数の)特許出願または実用新案出願を行った場合、二重保護として拒絶される。
一方、産業財産法第7条に規定されているように、もし異なる出願人が同一の特許出願または実用新案出願を行った場合、特許を受ける権利は、発明または創出をした日に拘りなく、最先の出願日を証明した者に与えられる。
これに対して、異なる出願人が同じ日に同一の特許出願または実用新案出願をした場合については規定がないことから、訴訟が行われる可能性があることに留意されたい。
(2) 出願変更
ブラジルの規範指示第30/2013号第31条では、文書の管理処理中に、特許出願を実用新案出願へ、または、実用新案出願を特許出願へ、変更することが認められている。この変更の手順は「性質の変更(“change of nature”)」と呼ばれ、出願人が自発的に要求するか、審査中にINPIが提案する。
(3) 公開制度
産業財産法第30条に規定されるように、特許出願は、出願日からまたは優先日がある場合は最先の優先日から18月の間は秘密にしておくものとし、その後は、第75条に定める事情の場合を除き、公開される。
なお、産業財産法第6条(4)に規定されるように、発明または実用新案の創作者は、その名称を表示して特定するものとするが、ただし、創作者は、自身が創作者であることを表示しないよう請求することができる。
(4) コンピュータプログラムの特許性
産業財産法第10条(V)に規定されるように、コンピュータプログラムそれ自体は、発明又は実用新案とみなされないため特許されない。
コンピュータに実装されている産業的創作(処理または製品と関係した処理)であって、コンピュータプログラムの書き方だけに関係せず、先行技術に存在する課題を解決するものは、発明とみなされる可能性がある。
なお、コンピュータプログラムそれ自体は、ブラジルの1998年付け第9,609号ソフトウェア法で保護される。
(5) 遺伝資源の出所開示
産業財産法第24条に規定されるように、出願の対象の実施にとって不可欠である生物学的材料が、産業財産法第24条に規定する様式で記載をすることができず、かつ、公衆が入手することのできないものである場合、明細書は、INPIにより認可されまたは国際協定で指示された機関に、その材料を寄託することによって補充されなければならない。
関連記事:
「ブラジルにおける知的財産の保護方法に関する基本情報」(2020.02.06)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/18254/
「ブラジルの知的財産権の法令および審査基準へのアクセス方法-ブラジル産業財産庁(INPI)ウェブサイト」(2019.08.29)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17652/
「ブラジルの特許・実用新案関連の法律、規則、審査基準等」(2019.02.12)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16536/
「ブラジルにおけるコンピュータソフトウエア関連発明等の特許保護の現状」(2019.01.15)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16389/
2. 発明の保護対象
産業財産法は、特許される主題について定義していないものの、産業財産法第10条において特許されない主題について定義している(1. 特許制度の特徴 1-4. コンピュータプログラムの特許性、参照)。
関連記事:
「ブラジルにおけるコンピュータソフトウエア関連発明等の特許保護の現状」(2019.01.15)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16389/
3. 特許を受けるための要件
産業財産法第8条に規定されるように、新規性、進歩性および産業上の利用可能性の要件を満たす発明は、特許を受けることができる。
また、産業財産法第11条、第13条、第15条に規定されるように、新規性の要件を満たすためには、発明が、出願日前にどこかの国で公知にされたものである先行技術に含まれていない必要がある。進歩性の要件を満たすためには、発明が、当業者によって先行技術に基づいて明白な方法で導き出されない必要がある。産業上の利用可能性の要件を満たすためには、発明が、何らかの種類の産業で使用または製造される必要がある。
また産業財産法第9条、第14条に規定されるように、実用物品またはその一部は、産業上の利用可能性を有し、その使用または製造における機能的改良をもたらす新規の形態または構造を有し、かつ、進歩性を有している場合は、実用新案として特許を受けることができる。ここでいう「進歩性」は、「小さな進歩性」と実務上解釈される。
なお、産業財産法第12条に規定されるように、発明または実用新案の開示は、その特許出願の出願日または優先日前12月間に、次の者によってなされた場合は、技術水準の一部であるとみなされない。
(I)発明者によるもの
(II)産業財産庁(INPI)によるものであって、発明者から取得した情報に基づきまたは発明者が行った行為の結果として、発明者の同意を得ることなくなされた特許出願を公開したことによるもの、または
(III)第三者によるものであって、発明者から直接若しくは間接に取得した情報に基づきまたは発明者が行った行為の結果として生じたもの。
関連記事:
「ブラジルの知的財産権の法令および審査基準へのアクセス方法-ブラジル産業財産庁(INPI)ウェブサイト」(2019.08.29)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17652/
「ブラジルにおける特許制度の運用実態」(2015.12.01)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/10060/
4. 職務発明の取り扱い
職務発明の取り扱いは、産業財産法第88条~93条に規定されている。産業財産法第88条に規定されるように、発明または実用新案が、ブラジルにおいて履行される雇用契約であって、研究若しくは発明のための活動を目的としているものに起因している場合、または従業者の雇用目的である役務の性質に起因している場合は、その発明および実用新案は排他的に使用者に帰属する。一方、産業財産法第90条に規定されるように、従業者が開発した発明または実用新案が、雇用契約に関係なく、かつ、使用者の資源、資産、資料、原料、施設または器具を使用したことの成果でない場合は、当該発明または実用新案は専ら従業者に属する。
関連記事:
「ブラジルにおける職務発明制度」(2015.10.20)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/license/8614/
5. 特許権の存続期間
産業財産法第40条によると、出願日から起算して、発明特許は20年の期間、実用新案特許は15年の期間、存続する。
特許権の存続期間の延長を請求する規定は存在しないものの、審査遅延による存続期間の延長補償の規定が産業財産法第40条補項に存在する。産業財産法第40条補項によれば、特許存続期間は、特許付与日から起算して、発明特許の場合は10年未満、実用新案特許の場合は7年未満であってはならない。ただし、INPIが、係属中であることが確認されている訴訟または不可抗力のために、出願の実体審査をすることができなかったときは、この限りでない
しかしながら、ブラジル最高裁判所は、2021年5月12日に産業財産法第40条補項に規定されている、上述した特許付与日から10年の特許存続期間の最低期間の提供は違憲である旨の判決を下した。したがって、この判決の公表日以降、発明特許は、一般規則に基づいて出願日から20年期間存続する。換言すれば、現在、審査遅延による特許権の存続期間の延長補償はない。
なお、最高裁判所は、上記判決において、下記の2つの例外を除いて、追加の期間が既に付与されている全ての特許が保護され、価値が保たれ、かつ有効となることを決定した。
例外1. 2021年4月7日までに提起された訴訟により、既にその存続期間が争点となっている特許。
例外2. 医薬品、製薬プロセス、医療機器などの健康関連製品や健康関連材料について、出願から10年を超える期間で付与された特許。この例外に該当する特許の場合、有効期限は出願から20年に短縮される。例えば、2006年5月26日に出願され、2020年12月29日に付与された医薬品等に関する特許の場合、判決前には付与から10年後の2030年12月29日までとされた存続期間が、判決により2026年5月26日までと短縮される。
これらの2つの例外のいずれかに該当する特許の存続期間は、それぞれの出願日から20年に短縮される。
関連記事:
「ブラジルにおける特許出願から特許査定までの期間の現状と実態に関する調査」(2018.01.18)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/14432/
「ブラジルにおける特許・実用新案制度概要」(2019.10.21)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17820/
関連情報:
「医薬品などの特許の延長期間が失効、ブラジル最高裁が判断」(2021.05.14)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/05/8712377a965a3f88.html