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ブラジルにおけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈の実務

 ブラジル産業財産法(法律9279/96号)は、その第42条において、特許はその権利所有者に対して、特許の対象である物、または特許された方法もしくはその方法により直接得られた物を第三者が無許可で生産し、使用し、販売の申し出をし、販売し、またはそれらの目的で輸入することを阻止する権利を特許が与えると規定している。

 

 物のクレームの最も一般的な形式は、化合物をその化学的構造(一般式)によって定義したものである。化学的構造が判明していない場合、化合物はその物理的特性、物理化学的特性および/または生物学的特性によって定義することができる。ただし、使用されるパラメータは化合物を明瞭に定義するに十分なものでなければならず、かつ、それらパラメータが明確に規定されていなければならない。(バイオテクノロジーおよび薬学の分野における特許出願審査便覧(Guidelines for Examination of Patent Applications in the fields of Biotechnology and Pharmacy)2.21項)

 

 しかしながら、状況によっては、新規の物をその構造もしくは特性によって定義することが不可能または実現不可能であり、物を定義する唯一の方法がその物を得るために用いる方法による、という場合がある。

 

 このような場合、最終的に物それ自体を得ることを可能にする工程によって物を定義するようにクレームが作成される。いわゆる「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」である。

 

 ブラジル特許審査基準(決議124/2013号)では、3.60および3.61の中で、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの許容性について簡潔に述べ、この種のクレームをどのように作成できるかについてコメントしている。

 

 上記審査基準には、「製造方法の観点から定義された物のクレームは、その物が特許性の要件、すなわち新規性と進歩性の要件を満たしている場合に限り許容されうる」と詳述されている。

 

 したがって、その物が新規の方法によって得られたというだけでは十分でないという点は強調しておくべきだろう。物それ自体が新規性および進歩性の要件を満たしていることが要求されるのである。

 

 

 ブラジルにおいてプロダクト・バイ・プロセス・クレームが認められるのは非常に極端な場合だけである。つまり、他の手段によっては物を定義することが不可能であるような場合である(Castro, Barros, Sobral Vidigal Gomes Advogados, Product-by-process Claims : International Practice, 2014)。

 

 ブラジル特許審査基準は、発明がプロダクト・バイ・プロセス・クレームによって保護されうる状況の例として次のような場合を挙げている。

 

 例:ある物質が新規の焼結段階を経て製造される。その結果生じる生産物は、名目上は同一の組成を有する先行技術の物質と比較して強度が大きいという異なる特徴を備えている。しかし、出願人は当該物質それ自体を記述することができない。このような場合には、特定の方法によって得られる物としてその物を記述することができる。

 

 この種のクレーム文言は、化学/医薬の分野でよく見られる。

 

 2016年改正審査基準(決議169/2016号)の4.17項では、物を得るための方法によってその物を定義したクレームが許容されるのは、その物が新規性および進歩性の要件を満たしており、かつ、他の手段によってはそのものを定義し得ない場合のみであるという判断が示されている。この種のプロダクト・バイ・プロセス・クレームについて審査官は、製法の特徴によって物の特定の構造および/または組成が生じたのか否かを分析する。その製造方法の結果として先行技術とは異なる構造および/または組成が必然的に生じると当業者が結論した場合、そのクレームは新規と見なされることになろう。

 

 ブラジルにおいてプロダクト・バイ・プロセス・クレームが許容されるためには、そのクレームの中で工程の特徴が十分に記述され、その工程がその結果生じる物に先行技術とは異なる構造および/または組成を持たせることが明確でなければならない。

 

 最近のブラジル審査官の判断では、上述したようなプロダクト・バイ・プロセス・クレームに対する制限的アプローチが強化されてきている。

 

 プロダクト・バイ・プロセス・クレームの特許権を権利行使する際には、裁判所において困難に遭遇する可能性がある。具体的には、プロダクト・バイ・プロセス・クレームは物それ自体を権利範囲とすると解釈され、被疑侵害製品がクレームに記載された物と構造的または化学的に同一であるか否かが争点となることがしばしばあるが、プロダクト・バイ・プロセス・クレームは構造や化学的性質によって物を定義しておらず、その製造方法によって定義している。

 

 実際問題として、特許権者は、クレームに記載された製造方法の一ないし複数の工程に由来する物の構造的もしくは化学的な特徴および/または特性を明らかにし、かつ当該特徴および/または特性が被疑侵害製品に存在しており、先行技術製品から区別されることを明らかにするよう要求されることになるだろう。

 

 プロダクト・バイ・プロセス・クレームについて権利行使する際には、以上のような立証責任の履行が特許権者にとって困難であることが判明するかもしれない。しかし一方で、潜在的侵害者にとっても、侵害のおそれのある製品が特許において特定されているものとは別の方法で製造されている場合、その製品がプロダクト・バイ・プロセス・クレームの権利範囲に含まれるか否かを判断するのは同様に困難かもしれない。したがって、このようなクレームは、確かに有用な抑止効果を発揮する可能性がある。

 

 それゆえ、ブラジル特許庁によるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの審査および認容という問題が(ブラジル特許法では許容されているにも関わらず)激しい議論の的になり得るだけでなく、このタイプのクレームの権利行使もまた裁判所において集中的に議論される可能性がある。