ブラジルにおける進歩性の審査基準に関する一般的な留意点(前編)
1. 記載個所
発明の進歩性については、ブラジル産業財産法第8条および第13条に規定されている。
第8条 新規性、進歩性および産業上の利用可能性から成る要件を満たす発明は、特許を受けることができる。 第13条 発明は、技術水準を考慮したときに当該技術分野における熟練者にとって明白または自明でないときは、進歩性を有するとみなされる。 |
審査基準については、ブラジル特許出願の審査基準の第2部第5章に進歩性に関する規定があり、その概要(目次)は、以下のとおりである。なお、本稿では、「2013年12月04日決議124号」を「ブラジル特許出願の審査基準第1部」、「2016年7月15日決議169号」を「ブラジル特許出願の審査基準第2部」と表記した。
第5章 進歩性 概念 5.1~5.3 技術分野における専門家 5.4 進歩性の評価 総括 5.5~5.8 進歩性を確認するための判断ステップ 5.9 最近似な技術水準の判断 5.10~5.19 検討される技術的課題からみて、かつ、最近似な技術水準を始点として、発明が当該分野の熟練者にとって自明であるか否かを判断すること。 5.20~5.21 技術水準から複数の文献を組み合わせること(先行技術文献の組合せ) 5.22 進歩性を有する発明の評価において新分野を開拓する具体的な状況 5.23 組合せによる発明の総括 5.24~5.26 自明な組合せ 5.27~5.29 非自明な組合せ 5.30 選択による発明 総括 5.31~5.32 自明な選択 5.33 非自明な選択 5.34 類似技術分野による発明 5.35~5.39 周知の製品を用いた技術の新規な使用 5.40~5.45 構成要件の変更による発明 総括 5.46~5.47 構成要件間の関係の変更による発明 5.48~5.50 構成要件の置換えによる発明 5.51~5.53 構成要件の省略による発明 5.54~5.55 進歩性の審査において検討される二次的な要因 総括 5.56 解決されていない長年の技術的課題に対する解決策 5.57 偏見または技術的な障壁を解消すること 5.58 商業的な成功を取得すること 5.59 表彰を取得すること 5.60 発明が創造される仕様 5.61 |
2.基本的な考え方
日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「2. 進歩性の判断に係る基本的な考え方」第一段落に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章 5.5~5.8
(2) 異なる事項または留意点
ブラジル特許出願の審査基準では、審査官の進歩性評価に関して、次のように規定されている。
「審査官は、進歩性を評価するために、技術的解決策自体だけを検討するのではなく、発明が属する技術分野、解決される技術的課題および発明によってもたらされる技術的効果も検討しなければならない。」
「クレームされている発明は、前置き部分および特徴付け部分の要素を斟酌して、全体として検討されなければならない。クレームと技術水準との間の差異を判断するうえで、課題は、当該差異が個々別々に自明となるか否かということではなくて、クレームされている発明がその全体において自明となるか否かについてである。」
「一般的に、独立クレームが発明性を提示している場合は、その従属クレームは、それらが従属するクレームに存在するすべての限定を包含しているので、当該従属クレームの進歩性について審査する必要はない。」「これに反して、独立クレームが進歩性を有さない場合は、その従属クレームは、自体を新規なものとする特定の要素を含有し得るため、審査されなければならない。」
3. 用語の定義
3-1.当業者
日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「2. 進歩性の判断に係る基本的な考え方」でいう「当業者」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章 5.4
(2) 異なる事項または留意点
ブラジル特許出願の審査基準では、進歩性判断の主体となる「熟練者」について、次のように記載されている。
「当該技術分野の熟練者は、技術的-科学的知識でもって、出願の提出時点において、課題の属する技術分野における中央知識を有する者および/または主題の実用的な運用知識を有する者であり得る。その者たちは、課題の技術分野に特有の通常の作業および実験の手段および能力を自由に使えるとみなされている。製造または研究のチームの場合のような一群の人々の観点から思考することが、一段と適切である場合があり得る。それは、特に、コンピュータおよびナノテクノロジーのような一定の先進技術に当てはまる可能性がある。」
3-2.技術常識及び技術水準
日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「2. 進歩性の判断に係る基本的な考え方」でいう「技術常識」および「技術水準」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第2部第3章3.1
(2) 異なる事項または留意点
ブラジル産業財産法では、第11条において「発明および実用新案は、技術水準に含まれない場合は、新規であるとみなされる」、また第13条において「発明は、技術水準を考慮したときに当該技術分野における熟練者にとって明白または自明でないときは、進歩性を有するとみなされる」としたうえで、技術水準を「文書または口頭による説明、使用その他の方法により、特許出願日前にブラジルまたは外国において、公衆の利用に供されていたすべてのものを含む」と定義している(ブラジル産業財産法第11条(1))。
また、ブラジル特許出願の審査基準第2部第3章3.1でも同様に、「技術水準は、文書または口頭による説明、使用またはその他の手段により、特許出願の提出日前にブラジルまたは外国において、公衆の利用に供されていたすべてのものから構成される」としている。
これらより、ブラジルにおける技術水準は、新規性の判断の基準とされる先行技術をいうと解釈でき、したがって、日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節で定義される技術水準、すなわち「先行技術のほか、技術常識その他の技術的知識(技術的知見等)から構成される」、とは異なることに留意する必要がある。
3-3.周知技術及び慣用技術
日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「2. 進歩性の判断に係る基本的な考え方」でいう「周知技術」および「慣用技術」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準には、対応する記載がない。
(2) 異なる事項または留意点
ブラジル特許出願の審査基準では、何が「周知技術」かについては触れられていない。ただし、実務は日本国特許庁と実質的に同じである。
進歩性の具体的な判断、数値限定、選択発明、その他の留意点については「ブラジルにおける進歩性の審査基準に関する一般的な留意点(後編)」をご覧ください。
ブラジルにおける進歩性の審査基準に関する一般的な留意点(後編)
(前編から続く)
4.進歩性の具体的な判断
4-1.具体的な判断基準
日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3. 進歩性の具体的な判断」の第3段落に記載された「(1)から(4)までの手順」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章5.9、5.20
(2) 異なる事項または留意点
ブラジル特許出願の審査基準によれば、クレームされている発明が進歩性を有するか否かを判断するためには、以下の3つの判断ステップが行使される。
(i) 最も近い先行技術を特定する、次に
(ii) 発明の特徴および発明が解決する技術的課題を特定する、最後に
(iii) 当該発明が当業者にとって自明であるか否かを判断する。
そして、(iii)のステップでの判断対象について、次のように規定されている。
「審査中に判断されるべきものは、実在する技術的課題を解決するために、最も近い技術水準と明確に区別される発明の特徴を適用することの動機付けが存在しているか否かについてである。そのような動機付けについては、先行技術文献に明示的に記述される必要はない。」
4-2.進歩性が否定される方向に働く要素
4-2-1.課題の共通性
日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.1.1 主引用発明に副引用発明を適用する動機付け」の「(2) 課題の共通性」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章5.22
(2) 異なる事項または留意点
ブラジル特許出願の審査基準には、主引用発明と副引用発明との間で課題が共通することが動機付けの根拠となるということが明確には記載されていない。しかし、複数の先行技術文献を組み合わせる際に、審査官は、複数の文献が発明に関連する特別な課題に該当するか否かについて評価しなければならないとされているので、課題の共通性は動機付けの根拠とされると考えられる。
4-2-2.作用、機能の共通性
日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.1.1 主引用発明に副引用発明を適用する動機付け」の「(3) 作用、機能の共通性」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準には、該当する記載がない。
(2) 異なる事項または留意点
ブラジル特許出願の審査基準には、これに該当する記載はないが、日本と同じ考え方がブラジルの審査にも適用される。
4-2-3.引用発明の内容中の示唆
日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.1.1 主引用発明に副引用発明を適用する動機付け」の「(4) 引用発明の内容中の示唆」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章5.26
(2) 異なる事項または留意点
ブラジル特許出願の審査基準には、引用発明を組み合わせることに関する示唆が動機付けの根拠となることは、直接的には記載されていない。むしろ、次に示すように、組わせることの示唆を見出す必要はないとされている。しかし、逆に、これは示唆があれば進歩性が否定される有力な理由になることを意味すると考えられる。
「技術水準において、複数の周知文献の組合せについての何らかの明示的な示唆、動機付けまたは教示を見出すことは必要ではない。動機付けは別の分野であってもよく、また、別の課題を参照する可能性もあり、または当該分野の専門家がこの組合せを実施することについて動機付けられ得る場合には、包含される複数の技術的な面の間に関連付けおよび関係を合理的に作成することが即座に可能となる。」
4-2-4.技術分野の関連性
日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.1.1 主引用発明に副引用発明を適用する動機付け」の「(1) 技術分野の関連性」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章5.22
(2) 異なる事項または留意点
ブラジル特許出願の審査基準には、主引用発明と副引用発明との技術分野の関連性が動機付けの根拠となるということが明確には記載されていない。しかし、複数の先行技術文献を組み合わせる際に、審査官は、複数の文献が同様な近似する複数の技術分野から派生しているか否かについて、評価しなければならないとされているので、技術分野の関連性は動機付けの根拠とされていると考えられる。
4-2-5.設計変更
日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.1.2 動機付け以外に進歩性が否定される方向に働く要素」の「(1) 設計変更等」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章・選択による発明(5.33)、構成要件間の関係の変更による発明(5.48~5.50)、構成要件の置換えによる発明(5.51、5.52)
(2) 異なる事項または留意点
ブラジル特許出願の審査基準では、設計変更の類型に関する進歩性の判断について、以下が規定されている。
・選択による発明
発明が単に多数の周知の可能性の中での選択からなり、当該技術分野の熟練者により、通常の設計手順によってなすことができ、かつ、予想外のいかなる技術的効果も生じない場合は、その発明は進歩性を有しないものとなる。
・構成要件間の関係の変更による発明
構成要件間の関係における変化、例えば、様式、サイズ、比率、位置、操作関係、方法における手順の順序変更などが、発明の効果、機能もしくは使用の変化につながらず、または発明の効果、機能もしくは使用の変化が予期できる場合には、その発明は、進歩性を有しないものとなる。
・構成要件の置換えによる発明
技術的課題の解決において、周知の要素を対応する機能を有する別の要素と置き換えることが、何らかの予想外の技術的効果が観察されずに行われるときには、その発明は進歩性を有しないものとなる。
4-2-6.先行技術の単なる寄せ集め
日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.1.2 動機付け以外に進歩性が否定される方向に働く要素」の「(2) 先行技術の単なる寄せ集め」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章5.27
(2) 異なる事項または留意点
ブラジル特許出願の審査基準では、先行技術の単なる寄せ集めによる発明に関して、次の規定があり、日本と同じ考え方が適用されると考えられる。
「クレームされている発明が、各々が日常形式で作動する一定の周知の要素の集合または
寄集めにすぎず、かつ、全体の技術的効果が、組み合わされた技術的特徴間の何らかの相乗作用または機能的相互作用を伴わない各部の技術的効果の総和のみである場合は、組合せによる発明は進歩性を包含しないものとなる。」
4-2-7.その他
日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.1.2 動機付け以外に進歩性が否定される方向に働く要素」と異なるブラジル特許出願の審査基準の該当する記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章5.54
(2) 異なる事項または留意点
ブラジル特許出願の審査基準では、進歩性が否定される他の類型として、構成要件の省略による発明が、次のように規定されている。
・構成要件の省略による発明
「構成要件の省略による発明は、周知の製品もしくは方法の1または複数の要素が省略されている発明に関するものである。1または複数の要素の省略後に、その結果として、対応する機能が消失する場合、またはそのような省略が当該技術分野における専門家にとって自明である場合は、その発明は進歩性を有しないものとなる。」
4-3.進歩性が肯定される方向に働く要素
4-3-1.引用発明と比較した有利な効果
日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.2.1 引用発明と比較した有利な効果」の「(1) 引用発明と比較した有利な効果の参酌」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章5.30、5.34
(2) 異なる事項または留意点
ブラジル特許出願の審査基準では、組み合わせ、あるいは選択発明において予想外の技術的効果が生じる場合は、そのような発明は進歩性を有すると規定されている。
「組み合わされた技術的特徴が機能的に相互作用して、予想外の技術的効果を生じる場合、または換言すれば,組合せ後の技術的効果が複数の個別な特徴の技術的効果の総和とは異なる場合は、そのような組合せは、進歩性を有することになる。」
「発明が予想外の技術的効果を生じる選択から得られるときは、その発明は、(中略)、進歩性を示すものとなる。」
4-3-2. 意見書等で主張された効果の参酌
日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.2.1 引用発明と比較した有利な効果」の「(2) 意見書等で主張された効果の参酌」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章5.15~5.17
(2) 異なる事項または留意点
ブラジル特許出願の審査基準には、意見書等で主張された効果の参酌については、次の規定がある。
「原則として、発明のいかなる技術的効果も、その効果が明細書に記載されているものから当該技術分野における熟練者によって認識できる限り、技術的課題の再定義のための基準として用いることができる。」 「発明の技術的効果を立証するために、審査請求の後であっても、技術的審査中に提示された結果/試験/試行などの場合には、出願人による意見書におけるそのようなデータの提示は、試験および試行によって明らかにされたものでなければならない。」
4-3-3.阻害要因
日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.2.2 阻害要因」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章5.58
(2) 異なる事項または留意点
ブラジル特許出願の審査基準には、先行技術を組み合わせることを阻害する事情が進歩性を肯定する要素となる、と明確には規定されていないが、偏見または技術的な障壁を解消することが進歩性を肯定する理由であることが、次のように規定されている。
「あらかじめ存在する偏見もしくは技術的障壁の解消、または発明が先行技術によって統合された知識に反する経路をたどったことの立証は、進歩性の存在についてクレームを補
強することとなる。」
4-3-4.その他
日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.2 進歩性が肯定される方向に働く要素」と異なるブラジル特許出願の審査基準の該当する記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章5.57、5.60
(2) 異なる事項または留意点
ブラジル特許出願の審査基準では、進歩性が肯定される他の類型として、構成要件の省略による発明が、次のように規定されている。
・解決されていない長年の技術的課題に対する解決策
「発明が長年のあいだ未解決の課題を解決する場合は、その発明は、進歩性を有するものとなる。」
・表彰を取得すること
「発明が技術的利点に関して何らかの表彰を受けるとき、それは、当該発明が進歩性を有することを意味する可能性がある。」
4-4.その他の留意事項
4-4-1.後知恵
日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」の(1)でいう「後知恵」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準には、該当する記載がない。
(2) 異なる事項または留意点
ブラジル特許出願の審査基準には、「後知恵」に関する明確な規定はないが、審査官の判断は、出願時の主題に関する熟練者の知識およびスキルに基づかなければならないとして、この行動を避ける必要性を定めている。
4-4-2.主引用発明の選択
日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」の(2)でいう「主引用発明」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章5.9、5.10
(2) 異なる事項または留意点
日本の審査基準のように、主引用発明と副引用発明を選択するのではなく、ブラジル特許出願の審査基準では、審査官が判断の対象とする最も近い先行技術は、クレームされている発明に関する文献の1つ、もしくは2つの組合せ、または例外的に3つの文献からなるとされている。
4-4-3.周知技術と論理付け
日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」の(3)でいう「周知技術と論理付け」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準には、該当する記載がない。
(2) 異なる事項または留意点
ブラジル特許出願の審査基準には相当する記載はないが、実務上は、当業者にとって自明でなく、予想外の技術的効果を有する発明であれば、それが周知技術に基づくものであるか否かにかかわらず、審査官は進歩性があることを示さなければならないとされている。
4-4-4.従来技術
日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」の(4)でいう「従来技術」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準には、該当する記載がない。
(2) 異なる事項または留意点
ブラジル特許出願の審査基準にはこれに該当する記載はないが、日本と同じ考え方がブラジルの審査にも適用される。
4-4-5.物の発明と製造方法・用途の発明
日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」の「(5) 物自体の発明が進歩性を有している場合には、その物の製造方法およびその物の用途の発明は、原則として、進歩性を有している」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準には、該当する記載がない。
(2) 異なる事項または留意点
ブラジル特許出願の審査基準にはこれに該当する記載はないが、日本と同じ考え方がブラジルの審査にも適用される。
4-4-6.商業的成功などの考慮
日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節「3.3 進歩性の判断における留意事項」の(6)でいう「商業的成功」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章5.59
(2) 異なる事項または留意点
ブラジル特許出願の審査基準では、進歩性の審査において検討される二次的な要因の一つとして、商業的な成功を獲得することが次のように記載されている、
「発明が技術のライセンス許諾のような商業的な成功を達成するときに、その成功が発明の技術的特徴に直接的に関連している場合、それは、当該発明が進歩性を有していることを意味することができる。ただし、成功がセールスや広告などのその他の要因に依る場合は、この基準は、進歩性の評価のための根拠として使用されてはならない。」
5.数値限定
日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第4節「6. 数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章5.34
(2) 異なる事項または留意点
ブラジル特許出願の審査基準では、数値限定発の発明について、進歩性を有する場合について、次のように規定されている。
「発明が、方法における温度および圧力のような、既知の範囲内の操作条件の特別な選択を包含し、かつ、そのような選択が、当該方法の操作または結果として生じる生成物の特性に対して予想外の技術的効果を生じる場合は、進歩性を有する。」
ブラジル特許出願の審査基準では、例えば、次の事例が記載されている。
「物質AおよびBが、高温で、物質Cへ変換される方法。50℃~130℃の間での方法は周知であるが、先行技術では、110℃~125℃との間の温度が使用されている。以前には実施されていなかったクレームされている63℃~65℃との間の温度範囲において、物質Cは予期された値よりも相当に高い収量となり、かつ、一段と高い純度を有するものとなった。」
6.選択発明
日本の特許・実用新案審査基準第III部第2章第4節「7. 選択発明」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章5.31、5.32
(2) 異なる事項または留意点
ブラジル特許出願の審査基準では、クレームされた選択発明の効果が先行技術の効果に比べて優れているときに、その選択発明は進歩性を有することが規定されている。なお、このような効果を示すために、補足データを提出することができるとされている。
「選択特許における進歩性を判断するうえで、選択される要素または小帯域は、単に技術水準からの任意な選択ではなくて、技術水準に対する貢献を提示するものでなければならない。」
「発明の選択において進歩性を判断するために、先行技術には下位群の状態には予想外の技術的効果が存在していることが示されていないことを証明するのは、出願人の責務である。補足データが進歩性の立証のために受理できることに、留意すべきである。」
7.その他の留意点 特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第1節「新規性」に記載されている、請求項に記載された発明の認定、引用発明の認定、およびこれらの発明の対比については、以下のとおりである。
7-1.請求項に記載された発明の認定
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章5.5、5.6
(2) 異なる事項または留意点
ブラジル特許出願の審査基準では、審査官によるクレームされた発明の検討について、次のように規定されており、日本と同じ考え方がブラジルの審査にも適用されると考えられる。
「クレームされている発明は、前置き部分および特徴付け部分の要素を斟酌して、全体として検討されなければならない。」
「審査官は、進歩性を評価するために、技術的解決策自体だけを検討するのではなく、発
明が属する技術分野、解決される技術的課題および発明によってもたらされる技術的効果も検討しなければならない。」
7-2.引用発明の認定
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準には、該当する記載がない。
(2) 異なる事項または留意点
ブラジル特許出願の審査基準にはこれに該当する記載はないが、日本と同じ考え方がブラジルの審査にも適用される。
7-3. 請求項に記載された発明と引用発明の対比
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章5.13
(2) 異なる事項または留意点
ブラジル特許出願の審査基準では、審査官の、クレームされた発明と最も近い先行技術との比較に関する手順について、次のように規定されており、日本と同じ考え方がブラジルの審査にも適用されると考えられる。
「審査官は、発明の明確に区別される特徴を解析し、かつ、発明によって解決される技
術的課題を客観的に判断するものとする。したがって、審査官は、最初に、最近似な技術水準と比較してクレームされている発明の明確に区別される特徴を判断し、かつ、実際に発明によって解決される技術的課題を判断しなければならない。」
8.追加情報
これまでに記載した事項以外で、日本の実務者が理解することが好ましい事項、またはブラジルの審査基準に特有の事項ついては、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章5.61
(2) 異なる事項または留意点
ブラジル特許出願の審査基準では、発明が創造される仕様について次の規定がある。
「発明が創造される仕様は、それが困難であるか、または容易であるかの方法に拘らず、発明の進歩性の評価に影響を及ぼさない。偶然に創造される一部の発明が存在するが、大抵の発明は、発明者による創造的な作業の結果ならびに科学的研究および長期の作業経験の結果である。」
ブラジルにおける新規性の審査基準に関する一般的な留意点(前編)
1.記載個所
ブラジル特許出願の審査基準準第2部第4章、その概要(目次)は以下のとおり。
関連する条文:ブラジル産業財産法第11条
第4章 新規性 概念 4.1~2 新規性を評価するための諸段階 4.3 技術的詳細及び一般的所見 4.4~10 特定的及び一般的な用語 4.11~13 数値及び数値の範囲 4.14 性能、使用又は製造方法の特徴又はパラメータによって定義される物のクレーム 4.15 用途によって特徴づけられる物のクレーム 4.16 製造方法によって特徴づけられる物のクレーム 4.17 第2用途クレーム 4.18 選択特許 4.19~25 |
2.基本的な考え方
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第1節「2. 新規性の判断」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第2部第4章4.1~10、および
ブラジル特許出願の審査基準第1部第2章2.10
(2) 異なる事項または留意点
<審査基準第2部第4章4.1~10>
新規性の判断に関する、日本の審査基準(第III部第2章第1節2.)では、「審査官は、請求項に係る発明が新規性を有しているか否かを、請求項に係る発明と、新規性の判断のために引用する先行技術(引用発明)とを対比した結果、請求項に係る発明と引用発明との間に相違点があるか否かにより判断する。相違点がある場合は、審査官は、請求項に係る発明が新規性を有していると判断する。相違点がない場合は、審査官は、請求項に係る発明が新規性を有していないと判断する」としている。
新規性の評価に関して、ブラジル産業財産庁は、日本の審査基準に加え、各請求項の評価も考慮する。例えば、独立形式請求項に新規性がある場合、その従属請求項も全て新規性があるため、従属請求項を審査する必要はない。一方、独立形式請求項に新規性がない場合、従属請求項には、先行技術を考慮して当該事項を新規性があるとする特定の要素が含まれている可能性があるため、従属請求項を審査する必要がある。
新規性は、請求項全体の評価によって決定されなければならず、請求項の特徴的な部分だけでは決定できない。したがって、請求項の前置き部分で構成要件AとBを定義し、特徴付け部分で構成要件CとDを定義している場合、Cおよび/またはDが既知であるかどうかそれ自体は問題ではない。問題は、それらがAおよびBと関連して、つまりAだけでもBだけでもなく、両方と関連して既知であるかどうかが重要である。
ある請求項のすべての特徴(例えば、製品の要素またはプロセスのステップ)が、明示的または本質的に、単一の先行技術に開示されている場合、新規性は認められない。すなわち、新規性要件の評価において、異なる先行技術文献を組み合わせることはできない。
<審査基準第1部第2章2.10>
「固有の」という用語は、記載されていない事項が出願時の出願に必ず暗示されていること、およびそれが当業者によって認識されることを意味する。固有性は、確率や可能性によって確立することはできない。与えられた一連の状況から何かが生じる可能性があるという事実だけでは十分ではない。
3.請求項に記載された発明の認定
3-1.請求項に記載された発明の認定
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「2. 請求項に係る発明の認定」第一段落に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第1部第3章3.37
(2) 異なる事項または留意点
請求項は、出願時の当業者の一般的な知識だけでなく、明細書と図面(および配列表がある場合は配列表)に基づいて解釈される。明細書が請求項の特定用語を定義する場合、その定義は請求項を解釈するために使用される。
3-2.請求項に記載された発明の認定における留意点
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「2. 請求項に係る発明の認定」第二段落に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第1部第3章3.40
(2) 異なる事項または留意点
明細書と請求項の間に矛盾がある場合、保護範囲に疑問を生じさせ、請求項が不明確になり、明細書ではサポートされないため、認められない場合があることがポイントである。このような矛盾に関し、以下のような例が挙げられる。
(i) 単純な言葉の矛盾
明細書が保護を求める主題を限定的に開示しているが、一連の請求項の対応する事項が広い場合、明細書を考慮して請求項の事項を限定することにより、矛盾を解決することができる。
(ii)明らかに本質的な特徴に関する矛盾
明細書に記載されたある技術的特徴が、当該技術分野における確立された知識または発明に開示されたものに基づいて、発明の達成に必須であると考えられるが、独立形式請求項に記載されていない場合、当該請求項は、ブラジル産業財産法第25条の規定に反して、明確性および正確性の欠如を理由にブラジル産業財産庁から異議を唱えられることになる。
4.引用発明の認定
4-1.先行技術
4-1-1.先行技術になるか
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1 先行技術」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第2部第3章3.1~5、3.60
関連する条文:ブラジル産業財産法第11条、第12条、第16条、第17条
(2) 異なる事項または留意点
ブラジル産業財産法第11条によれば、ブラジル産業財産法第12条(猶予期間)、第16条(優先権)、第17条(内部優先権)の規定を除き、先行技術とは、特許出願日前に、ブラジル国内外において書面または口頭による説明、使用、その他の手段により公衆に提供されたすべてのものを含むことがポイントである。
さらに、同第11条第2項によれば、新規性の有無を判断するために、ブラジルで出願されたがまだ公開されていない出願の内容全体は、後に公開されていれば、出願日または主張された優先日から技術水準とみなされる。また、同第11条第3項は、国内手続が行われることを条件に、ブラジルで有効な条約または協定に基づいて行われた国際特許出願に第2項の規定が適用されることを定めている。
さらに、ブラジルの特許出願の審査基準では、先行技術調査の際に使用する日付は、関連日、すなわち、出願日または優先日がある場合には、その日とみなすべきであると定めている。また、異なる請求項や請求項中の異なる選択肢は、異なる関連日を有する可能性がある。
先行技術の決定は、開示の時期(時分秒)を考慮することはなく、その日付のみが考慮される。
ブラジルでは、先行技術とみなされるものの例外を構成する猶予期間の恩恵を受けることができる(グレースピリオド)。特許出願の発明者の同意なしにブラジル産業財産庁が行った開示、発明者から直接または間接的に得た情報に基づく第三者による開示は、出願日または優先日に先立つ12か月間に行われた場合に限り、先行技術として考慮されない。
審査中の出願より前に、発明者自身の特許出願が何処かの国で公開されたことは、猶予期間の条件に該当する開示とはみなされない。
4-1-2.頒布された刊行物に記載された発明
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.1 頒布された刊行物に記載された発明(第29条第1項第3号)」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第2部第3章3.7および3.17~23
(2) 異なる事項または留意点
漫画に稚拙に記載された発明のような、一般に入手可能な事柄に基づく単なる抽象化またはその範囲内のものは先行技術として認められず、当業者がその発明を実施するのに十分な記述が必要である。
4-1-3.刊行物の頒布時期の推定
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節3.1.1「(2) 頒布された時期の取扱い」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第2部第3章3.22
(2) 異なる事項または留意点
公開日が開示日となる。公開日として特定の月または年のみが記載されている場合は、その月または年の最終日を公開日とみなす。ただし、公開日を特定できるような記載がない場合、出版物の編集者に対する調査をブラジル産業財産庁の図書館に依頼することができる。
4-1-4.電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.2 電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(第29条第1項第3号)」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第2部第3章3.31~35、3.39
(2) 異なる事項または留意点
インターネット上の資料は、公開日を証明できる場合に限り先行技術として認められる。原則として、利用されるサイトの機密度は問わず、利用可能であれば十分である。
特許出願日または優先権主張日前に、インターネット上に公開され、ネットアドレスを通じてアクセス可能な文書が、公共のインターネット検索ツールにより一つまたは複数のキーワードを通じて発見でき、誰もが文書を秘密にする義務がなく、文書に直接かつ明確にアクセスできるようにある程度の期間そのアドレスのアクセスが維持されている場合、文書が公開されているといえるから、その文書は先行技術とみなすことができる。
一方、電子メールで開示された事項は機密文書とみなされるため、公衆がアクセスできる文書とはみなされない。
インターネット上での開示は、ブラジル産業財産法第11条第1項に従い、先行技術に含まれる。インターネットやオンラインデータベース上で開示された情報は、その情報が公に開示された日から公開されたものとみなされる。
また、特許出願や特許に対してインターネット上の文書が引用されている場合、公開日を証明する必要がある。多くの場合、インターネット文書は明示的な公開日を提供し、それがまず受入れられる。そうでない場合は、立証責任は出願人にあり、公開日を立証または確認するために状況証拠が必要となる。
4-1-5.公然知られた発明
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.3 公然知られた発明(第29条第1項第1号)」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
対応する記載が無い。
4-1-6.公然実施をされた発明
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.1.4 公然実施された発明(第29条第1項第2号)」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第2部第3章3.26~30
(2) 異なる事項または留意点
実施(使用)による開示とは、技術的解決策の使用が公衆によって評価される状態に置かれることを意味する。実施(使用)による開示の手段には、技術情報を一般に公開する可能性のある生産、使用、販売、輸入、交換、提示、実演、展示が含まれる。製品またはプロセスが公衆に利用可能となった日を、実施(使用)による開示の日と考えるべきである。
(後編に続く)
ブラジルにおける新規性の審査基準に関する一般的な留意点(後編)
(前編から続く)
5.請求項に係る発明と引用発明との対比
5-1.対比の一般手法
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「4.1 対比の一般手法」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第1部第3章3.85
関連する条文:ブラジル産業財産法第25条
(2) 異なる事項または留意点
ブラジル産業財産法第25条は、請求項は明細書に基づいて、出願の特徴付け、明確かつ正確な方法で保護の対象となる事項を定義しなければならないと規定している。これは、各請求項の主題について明細書に根拠がなければならず、請求項の範囲は、明細書および図面がある場合にはその内容よりも広くてはならず、また先行技術への寄与に基づくものでなければならないことを意味している。
5-2.上位概念または下位概念の引用発明
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「3.2 先行技術を示す証拠が上位概念または下位概念で発明を表現している場合の取扱い」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第2部第4章4.11~12
(2) 異なる事項または留意点
内容が一般的かつ広範に請求されている場合において、当該内容が審査中の特許出願で請求されたパラメータ内で具体的に開示されている先行技術文献があるときは、新規性の欠如を指摘しなければならない。一方、一般的な用語での開示は、具体的な用語で定義された発明の新規性に影響を与えない。
5-3.請求項に係る発明の下位概念と引用発明とを対比する手法
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「4.2 請求項に係る発明の下位概念と引用発明とを対比する手法」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第2部第4章4.11~16
(2) 異なる事項または留意点
異なる事項、留意すべき事項は特にない。
5-4.対比の際に本願の出願時の技術常識を参酌する手法
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第3節「4.3 対比の際に本願の出願時の技術常識を参酌する手法」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第1部第3章3.37
ブラジル特許出願の審査基準第2部第5章5.10~21
(2) 異なる事項または留意点
異なる事項、留意すべき事項は特にない。
6.特定の表現を有する請求項についての取扱い
6-1.作用、機能、性質または特性を用いて物を特定しようとする記載がある場合
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「2. 作用、機能、性質または特性を用いて物を特定しようとする記載がある場合」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第2部第4章4.15
(2) 異なる事項または留意点
特徴や性能パラメータによって定義される請求項は、そのような用語でしか発明を定義できない場合や、請求項の範囲を不当に制限することなくより正確に定義できない場合に、認められる場合がある。
このタイプの請求項では、審査官は、請求項中の特徴または性能パラメータが、請求対象製品がある特定の構造および/または組成を有することを示唆しているかどうかを検討しなければならない。特徴または性能パラメータが、請求された製品が先行技術文献に記載された製品とは異なる構造および/または組成を有することを示唆している場合、その請求項は新規であるといえる。
一方、当業者が特徴や性能パラメータから、請求項に係る製品を先行技術文献に記載されたものと区別できない場合、請求項に係る製品は先行技術文献の製品と同一であると考えられ、したがって、請求項は新規性がないと判断される。
6-2.物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がある場合
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「3. 物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がある場合」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第2部第4章4.16
(2) 異なる事項または留意点
製品が先行技術から既に知られている場合、その用途を特徴とする請求項は、新規性の欠如を理由に受理されない。製品が技術的特徴において定義されなければならないため、製品が技術水準から知られていない場合、そのような請求項の表現は明確さに欠けるため、産業財産法第25条に従って明確性の欠如を理由として認められない。その一例として、抗ウイルス剤として使用することを特徴とする化合物Xの請求項は、技術水準の文献に記載された染料として使用される同じ化合物Xとの関係では、新規性があるとはみなされないことになった。化合物Xの用途は新しくても、その特性を決定する化学式は変わっていないためである。したがって、抗ウイルス剤である化合物Xの発明は新規ではない。
6-3.サブコンビネーションの発明
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「4. サブコンビネーションの発明を「他のサブコンビネーション」に関する事項を用いて特定しようとする記載がある場合」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
対応する記載がない。
6-4.製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「5. 製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第2部第4章4.17
(2) 異なる事項または留意点
製造方法で定義された請求項は、製品が特許性の要件、すなわち、新規事項かつ非自明であり、また、他の方法で説明できないことを満たす場合にのみに認められる。このタイプの請求項について、審査官は、製造プロセスの特徴が製品の特定の構造および/または組成をもたらすかどうかを考慮しなければならない。当業者が、当該製造プロセスが、先行技術文献に開示された製品とは異なる構造および/または組成を有する製品を必然的にもたらすと結論付けることができる場合、当該請求項は新規性があるといえる。一方、概製造プロセスで製造された製品を先行技術文献の製品と比較した場合、製造プロセスが異なるにもかかわらず、同じ構造および組成を有する場合、その請求項に新規性はない。
6-5.数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合
特許・実用新案審査基準(日本)の第III部第2章第4節「6. 数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合」に対応するブラジル特許出願の審査基準の記載は、以下のとおりである。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第2部第4章4.14
(2) 異なる事項または留意点
請求された発明が、部品の寸法、温度、圧力、組成物中の成分の含有量などの数値または連続した数値範囲によって定義される技術的特徴を含む場合、もしくは、他のすべての技術的特徴が先行技術文献のものと同一であるかどうかは、以下の規則に従って新規性の判定を行う必要がある。
(i) 先行技術文献に記載された数値または数値範囲が技術的特徴の請求範囲に完全に含まれる場合、先行技術文献は請求事項の新規性に影響を与える。
(ii)先行技術文献に記載された数値範囲と技術的特徴の数値範囲が部分的に重なるか、少なくとも一つの終点が共通する場合、先行技術文献が発明の新規性に影響を与える。
(iii)先行技術文献に記載された数値範囲の2つの極点は、当該技術的特徴が当該極点の1つを含む離散的な数値を示す場合に発明の新規性に影響を与えるが、当該技術的特徴が当該2つの極点の間の任意の点における数値である場合に発明の新規性に影響を与えない。
(iv)当該技術的特徴の数値または数値範囲が先行技術文献に記載された範囲に含まれ、それと共通する極点を有しない場合、先行技術文献は請求項に係る発明の新規性に影響を与えない。
7.その他
7-1.特殊パラメータ発明
特許・実用新案審査基準(日本)には特殊パラメータ発明に関する記載はないが、ブラジル特許出願の審査基準には以下のとおり、特殊パラメータ発明に関する記載がある。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第1部第3章3.56
(2) 説明
たとえ十分に説明されていても一般的でないパラメータが採用されているケースは、従来の技術との有意義な比較ができず明確さに欠けるため、一般に認められない。また、このようなケースでは、出願人は、一般的でないパラメータは技術水準において使用されているパラメータと同等であること、またはそれは主題に対する追加を構成しないことを証明しなければならない。
7-2.留意点
ブラジル特許出願の審査基準のうち新規性に関する事項について、その他留意すべき点として以下の事項がある。
(1) 対応する事項が記載された審査基準の場所
ブラジル特許出願の審査基準第2部第4章4.10
(2) 説明
新規性要件の評価のために、2つの異なる技術水準文献を組み合わせることはできない。そのような組み合わせが必要な場合は、進歩性のみが論じられるべきである。しかし、2以上の技術水準文献は、以下の場合において、請求項を裏付けるために先行技術が必要とされないことを条件として、関連主題の新規性に反する意見のために引用することができる。
(i) 異なる請求項の事項の新規性を議論するために、異なる文献を使用してもよい。
(ii)マーカッシュ構造のような同一の独立形式請求項における異なる選択肢について、各技術水準文献が、請求項が提供する可能性の範囲内で異なる選択肢に言及している場合、同一の請求項の事項の新規性に着目して、異なる先行技術文献を使用することができる。なお、代替案を有する請求項の評価では、代替案の一つを開示する先行技術文献があれば、請求項全体としての新規性を解消するのに充分であると判断されることがある。しかし、先行技術に見出された事項を除外するために、請求項の再形成を認めることができる。
(iii)請求項に係る事項の新規性の議論において、特定の用語の意味を解釈するために、辞書または同様の参照文献などの第2の文献を引用し、最初に言及した先行技術文献のみで請求項に係る事項の新規性が否定されることを強調することができる。
(iv)先行技術文献が第二公開文献を参照している場合、この第二公開文献は第一公開文献に参照により組み込まれたものとみなされる。