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ブラジルにおける特許制度のまとめ-手続編

1. 出願に必要な書類
 ブラジルで特許を出願するために必要な書類は、以下のとおり。

1-1. 必須書類

書類 説明
要約 発明の主な特徴を記載した簡潔なテキストである。
明細書 出願(発明)の詳細な説明を含む書類である。
特許請求の範囲 出願(発明)のクレームを含む書類である。

1-2. 場合によっては必須となる書類

書類 説明
図面 図面を含む書類であり、実用新案の場合は必須である。
生物学的資料の受領書 ブラジル産業財産庁(INPI)の認定機関に生物学的試料(微生物等)を提出したことを証明する文書であり、生物学的資料を含む場合は必須である。
優先権書類 加盟国からの優先権の場合、出願人は、出願日から180日以内に、以下の事項を含む書類を提出しなければならない。
・特許または実用新案出願の第一国名または機関名
・特許または実用新案の番号および出願日
・明瞭な翻訳文付きの特許または実用新案出願のコピー
譲渡により優先権を得た場合は、対応書類を添付し、優先権を証明する書類とともに提出しなければならない。
PCT出願の場合、翻訳文および譲渡証書の提出期限は、国内段階の開始日から60日である。
ブラジル国内もしくは国外の同一出願人による優先権主張出願またはPCT出願の場合は必須である。
グレースピリオドの宣言 出願日前12月以内に発明が公開されたことを証明する書類である。
出願前に発明が公開されたことを出願人が明示する場合は必須である。
発明者・著作者情報非開示宣言書 情報の非開示を希望する発明者および出願人・所有者またはその法定代理人が署名する必要がある。秘密保持を希望する発明者ごとの宣言が必要である。発明者が複数いる場合、必ずしも全員が非開示を希望しなければならないわけではなく、そのうち1名のみが希望できることに留意されたい。
発明者が自分の情報の非開示を希望する場合は必須である。
代理契約 申請者がブラジルに居住している自然人でない場合は、出願を行う代理人(または代理行為を行う委任状による代理人)が必要である。
譲渡書類 ブラジルでの権利者を明確にするための書類である。INPIに出願した者と権利者が異なる場合、優先権主張の譲渡書類を送付する際に使用する。
権利を譲渡した場合は必須である。
委任状 委任状はポルトガル語で作成し、他の言語で作成されている場合は、翻訳文を送付する必要があるが、領事による公証は要求されない。委任状は、ブラジルでの最初の手続から60日以内に提示しなければならない。
委任状による出願および/または代理人による出願の場合は必須である。

1-3. オプション

書類 説明
手数料納付領収書 出願手数料の支払証明書の提示は必須ではなく、電子出願様式では支払いに関して納付書番号(GRU)を提示する*。
労働契約 使用者と発明者の間の労働関係を明確にする契約である。

*:【ソース】「発明・実用新案・追加特許の特許保護に関する基本的マニュアル5.5.2 電子出願様式へのアクセス」参照

関連記事:
「ブラジルにおける特許・実用新案出願制度概要」(2019.10.21)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17820/
「ブラジルにおける特許出願制度」(2013.09.20)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/3987/
「ブラジルにおける知的財産の保護方法に関する基本情報」(2020.02.06)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/18254/
「日本とブラジルにおける特許出願書類・手続の比較」(2019.09.26)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17742/
「ブラジルにおける特許・実用新案登録出願の優先権主張の手続」(2020.07.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/19360/
「ブラジルにおけるパリルート出願とPCTルート出願の手続きの相違点」(2016.05.18)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/11204/
「ブラジルにおける特許制度の運用実態」(2015.12.01)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/10060/

2. 記載が認められる/認められないクレーム形式

2-1. 記載が認められるクレーム形式
 特許請求の範囲の文言については、「特許出願の明細書に関する産業財産法-1996年5月14日法律第9279号の規定の説明および遵守のための手続通則」(以下、手続通則という)に規定されている。

2-1-1. 手続通則第4条の概要
 クレームの文言に関して、手続通則第4条には、以下の事項が規定されている。
・書き出しは、カテゴリーに対応する名称またはその一部で始まることが好ましい。
・「…ことを特徴とする」という記載を、1回だけ必ず含まなければならない。
・保護される技術的特徴を、明確かつ正確に、積極的に定義しなければならない。
・発明の詳細な説明において完全にサポートされなければならない。
・明細書や図面への言及を含んではならない。
・理解に必要な場合は括弧書きで図面の参照符号を記載すべきだが、これに限定されない。
・ピリオドによる中断なしに(一文で)記載しなければならない。
・説明記載(対象物の利点・簡単な使用方法)を含めてはならない。

2-1-2. 手続通則第5条の概要
 独立請求項に関して、手続通則第5条には、以下の事項が規定されている。
・発明に特有かつ本質的な技術的特徴を発明の全体的概念において保護することを目的とする。
・各独立請求項は発明の実施形態に必須な特徴の一つの組み合わせに対応し、同一カテゴリーの複数の独立請求項は、同一の発明概念で関連する、発明の実施形態に必須な特徴の別の組み合わせを定義する場合にのみ認められる。
・カテゴリーが異なる関連する独立請求項の書き出しは、「請求項Xに規定の方法を実施するための装置」のような表現で関連を強調するように記載しなければならない。
・独立請求項は書き出しと「…ことを特徴とする」という記載との間に、発明の定義に不可欠な技術水準を表現する前文を必要に応じて含めるべきである。
・「…ことを特徴とする」という記載の後、請求項は、前文で述べられた側面との組合せにより保護される本質的かつ特定の技術的効果を明記すべきである。
・独立請求項は、1以上の従属請求項の基礎となり、カテゴリーで分けなければならない。

2-1-3. 手続通則第6条の概要
 従属請求項に関して、手続通則第6条には、以下の事項が規定されている。
・単一性を維持しつつ他の従前の請求項の特徴の詳細・追加の特徴を規定し、引用する請求項を明示し「…ことを特徴とする」という記載を含まなければならない。
・従属する請求項の特徴の範囲を越えてはならない。
・引用関係は正確かつ理解可能に規定すべきであり、「前の請求項のいずれかにおいて…」(択一的引用)は認められるが「前の請求項おいて…」(非択一的引用)は認められない。
・複数の請求項を引用する請求項(マルチクレーム)は、引用関係から生じるすべての組み合わせを直ちに理解できるような代替または追加形式により引用しなければならない。
・マルチクレームは、引用関係から生じるすべての組み合わせを直ちに理解できるような代替または追加形式により他のマルチクレームの基礎とすることができる。
・マルチクレームは、引用構造を簡潔にする方法でグループ化されなければならない。

2-2. 記載が認められないクレーム形式
 INPIは、発明とみなされない主題のクレームを認めない(産業財産法第10条)。
・発見、科学理論、数学的方法。
・純粋に抽象的な概念。
・商業、会計、金融、教育、出版、宝くじまたは財政力の仕組み、計画、原則または方法。
・文学、建築、美術、科学の著作物またはあらゆる審美的創作物。
・コンピュータ・プログラムそれ自体。
・情報の提供。
・ゲームのルール
・人体または動物に用いるための手術または外科技術および治療または診断方法。
・自然の生物の全部または一部、自然界において発見またはそこから分離された場合に、自然の生物のゲノムまたは染色体と遺伝子を含む胚細胞の原形質を含む生物学的材料ならびに自然の生物学的方法。

 コンピュータ・プログラムは、コンピュータ・プログラムが実装された産業上の創造物(方法または方法関連製品)で、既存技術の問題を解決しかつコンピュータ・プログラムの記述方法のみに関係するものでない場合は、発明と判断される可能性がある。
 審査基準で認められている医薬用途クレームは、スイス型クレームである(第II部1.29)。

関連記事:
「ブラジルにおけるコンピュータソフトウエア関連発明等の特許保護の現状」(2019.01.15)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16389/
「ブラジルにおける医薬用途発明の保護制度」(2018.03.20)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/14724/

3. 出願の言語
 登録出願を構成する書類は、産業財産法第101条補項に規定のとおり、ポルトガル語で提出されなければならない。

4. グレースピリオド
 ブラジルでは、産業財産法第12条に規定のとおり、12月の猶予期間が設けられている。

5. 審査

5-1. 実体審査
 ブラジルでは、産業財産法第33条に規定のとおり、出願日から36月以内に審査請求をしなければならない。

5-2. 早期審査(優先審査)
 ブラジルでは、ファストトラック審査が可能であり、現在のファストトラック審査請求ルートは以下のとおりにまとめられる。

5-2-1. 係属中の特許出願の早期審査の主要な可能性
・特許審査ハイウェイ(PPH):連携する特許庁において特許が許可/付与されたと認められる主題を対象とする出願。特に米国、中国、欧州、日本、英国など。
・がん、エイズ、放置された希少疾病に対する治療法を対象とする出願。
・ブラジル市場で入手可能な技術を対象とする出願。
・第三者が無断で複製した主題を対象とする出願。
・代替エネルギー、輸送、省エネルギー、廃棄物管理、持続可能な農業など「グリーン技術」の保護を求める出願。

5-2-2. 係属中の特許出願の早期審査のその他の可能性
・COVID-19の診断、予防、治療のために医療で使用される医薬品、製薬方法ならびに機器および/または材料に関連する発明。
・政府が資金提供する活動に由来する発明、および政府が支援する団体による出願。
・ブラジルにおいて優先権を主張する出願。
・実施されている発明の出願。
・新興企業、中堅・中小企業による出願。
・申請者の年齢を満たす出願(60歳以上)、身体・精神障害に基づく基準を満たす出願。

5-3. 出願を維持するための手数料
 ブラジルでは、産業財産法第84条に規定のとおり、出願日から3年目の初めから年金を支払わなければならない。

関連記事:
「ブラジルにおける特許審査ハイウェイの実効性に関する調査研究」(2020.02.25)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/18317/
「ブラジルにおける特許の早期権利化の方法」(2017.07.20)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/13911/
「ブラジルでの特許審査迅速化および早期特許付与のための手段」(2016.06.30)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/12224/
「ブラジルにおける滞留特許解消の取り組み」(2020.7.23)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/19358/
「ブラジルにおける特許年金制度の概要」(2018.05.10)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/15047/

6. 出願から登録までのフローチャート

6-1. 出願から登録までの特許出願のフローチャート
 ブラジルの特許審査は、以下のとおりであり、実線の矢印は必須の経路、点線の矢印は必須でない経路を示す。

6-2. フローチャートの簡単な説明
 フローチャートの起点は、ブラジルにおける出願の最初の提出である。
 最初の提出の後、最初のステップの処理は出願の方式審査であり、INPIが提出された書類について特許出願を受理するための最低条件に適合するか確認する。
 処理の第2段階は、出願公開である。規則により、出願は、出願日または最も早い優先日から18月の間、非公開とされる(産業財産法第30条)。
 産業財産法第24条補講に規定される場合、生物試料は産業財産法第30条に基づく公表の時点で公開される。産業財産法第30条の規定のとおり、出願人が求めた場合は18月未満で公開されることは極めて重要である。
 産業財産法第33条の規定の通り出願日から36月以内に、特許出願の審査請求をしなければならない。審査請求は出願人または第三者により行われる。出願は、この時に初めて技術審査可能となる。

 審査の結果、審査官は以下の書類を発行する。
・特許査定:特許出願が特許性の要件をすべて満たしている場合。
・オフィスアクション:付与のために出願を再修正すべき場合。
・拒絶理由:出願が特許性要件(新規性、進歩性、産業上の利用可能性)を満たさない場合、または出願が特許適格性に適合しない場合(例えば、特許不適格な主題に関する場合)。

 オフィスアクションまたは拒絶理由の場合、その通知から90日以内に応答しなければならない。例外的ではあるが、特許審査官は、特許出願の付与決定または拒絶査定の前の審査の過程で、複数のオフィスアクションまたは拒絶理由を発する場合がある。
 拒絶査定が出された場合、査定が出されてから60日以内に審判を請求することができる。義務ではないが、INPIは、審判段階でオフィスアクションを発することができる。

関連記事:
「日本とブラジルの特許の実体審査における拒絶理由通知への応答期間と期間の延長に関する比較」(2015.06.05)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/9320/
「ブラジルの特許・実用新案のオフィスアクション対応に係る書類等の調べ方」(2014.01.31)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/etc/5174/
「ブラジルにおける特許出願から特許査定までの期間の現状と実態に関する調査」(2018.01.18)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/14432/
「ブラジルにおける特許審査での審査官面接」(2018.07.05)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/15386/
「ブラジル知財庁の特許審査体制」(2018.06.05)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/15321/

[権利設定前の争いに関する手続]
7. 拒絶査定不服審判
 ブラジルの審判段階の一般的な手続きは、以下のとおり。
・審判は、拒絶した審査官とは別の審判官によって審理される。審判の決定により行政段階(INPIのレベル)が終了し、以後の手続は裁判所でのみ可能となる。
・ブラジルでは「審判請求書」のような、正式な申立書だけを提出する規定はない。現在の規定では、すべての主張と可能な補正書/書類を審判請求書と一緒に提出しなければならない。
 審判請求に関する一般規定は、産業財産法第212条および第214条に記載されている。

関連記事:
「ブラジルにおける特許出願から特許査定までの期間の現状と実態に関する調査」(2018.01.18)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/14432/

8. 権利設定前の異議申立
 利害関係人は、「審査の終了」まで審査を補助することができる。すなわち、産業財産法第31条には、「審査補助のための書類および情報が、出願公開から審査終了までの間に利害関係人により提出される場合がある。」と規定されている。さらに、利害関係人は、出願人による審判請求(拒絶査定不服審判)に対して、反論を提出する機会が与えられる(産業財産法第213条)。

関連記事:
「ブラジルの特許・実用新案の登録証その他関連書類の入手方法」(2019.06.20)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/etc/17457/

9. 上記7.の判断に対する不服申立
 審判は、拒絶した審査官とは別の審判官によって審理される。
 審判の決定により行政段階(INPIのレベル)が終了し、以後の手続は裁判所でのみ可能となる。すなわち、産業財産法第215条には、「審判請求についての決定は、最終決定であり、これに対しては、行政手続きによる不服申し立てをすることはできない。」と規定されている。

[権利設定後の争いに関する手続]
10. 権利設定後の異議申立
 権利設定後の異議申立制度はない。

11. 特許を無効にする制度
 産業財産法第50条および第51条の規定のとおり、利害関係のある第三者は、特許付与から6月の間に、特許の無効審判を請求することができる。

 また、ブラジルでは無効訴訟を起こすこともできる。すなわち、産業財産法第56条および第57条の規定のとおり、正当な利害関係を有する者は、特許存続期間中はいつでも、無効訴訟を起こすことができる。

12. 権利設定後の権利範囲の訂正
 特許付与後の自発的な訂正に関する規定は存在しない。特許付与後の請求項は、無効審判または裁判所の判決により特許の一部が無効となった場合にのみ訂正でき、訂正は、通常、は請求項の結合による方法により行われる。

関連記事:
「ブラジルの特許・実用新案関連の法律、規則、審査基準等」(2019.02.12)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/16536/
「ブラジルにおける特許出願の補正の時期的・内容的制限について」(2014.6.27)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/6065/
「ブラジルの法令へのアクセス方法―法情報ポータルサイト」(2019.9.24)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17729/
「ブラジルの知的財産権の法令および審査基準へのアクセス方法」(2019.08.29)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/17652/

ブラジルにおける微生物関連発明の実務

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