ブラジルにおけるパリルート出願とPCTルート出願の手続きの相違点
【詳細】
1.パリルート出願
パリ条約加盟国として、ブラジルは特許出願に関する優先権の原則を採用している。最初の出願の中で全体として開示されている主題については優先権を主張することができ、基礎となる最初の出願とブラジル出願とのクレームの同一性は求められない。つまり、クレームする主題が基礎出願の明細書や図面にサポートされていれば、ブラジル出願のクレームは基礎出願のクレームと必ずしも同じである必要はない。さらに、基礎出願の主題に含まれていない新たな主題をブラジル出願に加えることも可能である。その場合、基礎出願に開示されていた主題にのみ優先権が適用される。パリ条約は、種別の異なる出願に基づく優先権の主張を可能としている。ブラジルでは発明特許と実用新案の2つの制度があり、第1国でなされた発明特許出願をブラジルにおける実用新案出願の基礎とすることも可能であり、その逆も可能である。
1-1.パリルート出願の手続き
パリルート出願としてブラジルで特許出願を行うために必要な書類は、出願時点では、原語で書かれた明細書と、ポルトガル語で作成されたクレームを提出すればよい。その他、出願人ならびに発明者に関する情報(氏名、住所、職業、国籍)と、優先権主張の基礎となる出願(以下、基礎出願)のクレームを提出する必要がある。
その後、明細書のポルトガル語訳文ならびに優先権証明書を提出する必要がある。基礎出願の出願人とは異なる個人もしくは企業がブラジル出願を行う場合、基礎出願に関してブラジルにて出願を行う権利の譲渡に合意して当事者双方が署名した譲渡証書を提出しなければならない。
出願人がブラジルに居住していない場合、ブラジル産業財産法(1996年5月14日施行 法令9279号、以下、ブラジルIP法)の第217条の規定により、行政手続のためにブラジル国内の代理人を指名する必要があり、ブラジル知財庁(国家産業財産庁INPI)に対する手続の代理人としての権限を指定の弁護士に与える旨の委任状を出願人が署名して提出しなければならない。委任状についての公証人による認証や領事認証は不要である。
これらの書類の提出期限としては、明細書の翻訳文はブラジル出願日から60日以内に提出することが望ましい。提出されない場合、ブラジル知財庁が発行する補完指令により翻訳文の提出が求められる。その場合、補完指令が公告されてから30日以内に翻訳文を提出しなければならない。期限までに提出しなかった場合、出願はなかったものとみなされる。
優先権証明書および譲渡証書(必要な場合)は、ブラジルでの出願日から180日以内に提出しなければならない。期限までに提出しなかった場合、優先権は失われる。
委任状はブラジルでの出願日から60日以内に提出されなければならない。期限までに提出しなかった場合、出願は却下とされる(ブラジルIP法第216条(2))。
パリルート出願としてブラジルで特許出願がなされると、まず、方式審査が行われる。出願書類に対する方式的要件がすべて満たされることが確認されれば、方式審査は終了する。実体審査は、実体審査の請求を待って行われる。実体審査の請求はブラジル出願日から3年以内に実施しなければならない。
2.PCTルート出願
ブラジルは1978年4月9日付で特許協力条約(PCT)に加盟し、今日ではブラジル国内での特許出願の大半がPCTルートで行われている。
ブラジルの国内段階への移行期限は、最先の基礎出願の出願日または国際出願日(優先権の主張がない場合)から30か月であり、この期限の延長は認められない。国内段階への移行の際には、特許出願として移行することも、実用新案出願として移行することも、出願人が選択できる。PCT出願についての優先権主張の基礎となる出願は、特許であっても実用新案であっても可能である。なお、パリルート出願とは異なり、ブラジル国内段階への移行手続書面には、国際出願当初の開示の範囲を超える新規事項を追加してはならない。
2-1.PCTルート出願の手続き
ブラジル国内段階に移行するために必要な書類としては、国内段階移行時点では、原語で書かれた国際出願明細書と、ポルトガル語による発明の目的を表明する書面を提出すればよい(発明の目的は発明の名称という形で表明してもよい)。その他、出願人ならびに発明者に関する情報(氏名、住所、職業、国籍)と、基礎出願のクレームを提出する必要がある。ブラジル国内段階移行日から60日以内に、明細書のポルトガル語訳文ならびに優先権証明書を提出する必要がある。基礎出願の出願人とは異なる個人もしくは企業がブラジルで出願する場合、基礎出願に関してブラジルにて出願を行う権利の譲渡に合意して当事者双方が署名した譲渡証書を提出しなければならない。
出願人がブラジルに居住していない場合、ブラジルIP法第217条の規定により、行政手続のためにブラジル国内の代理人を指名する必要があり、ブラジル知財庁(国家産業財産庁)に対する手続の代理人としての権限を指定の弁護士に与える旨の委任状を出願人が署名して提出することが求められる。公証人による認証や領事認証は不要である。
優先権証明書および譲渡証書(必要な場合)は、ブラジル国内段階移行日から60日以内に提出しなければならない。提出しなかった場合、優先権が失われる。
委任状はブラジル国内段階移行日から60日以内に提出しなければならない。提出しなかった場合、出願は却下とされる。
PCTルート出願としてブラジルで特許出願がなされると、まず、方式審査が行われる。出願書類に対する方式的要件がすべて満たされることが確認されれば、方式審査は終了する。実体審査の請求は国際出願日から3年以内に実施しなければならない。
【留意事項】
ブラジルにおいて、パリルート出願およびPCTルート出願の国内段階移行のいずれにおいても、原語で書かれた明細書で手続き可能であるが、所定期間内にポルトガル語の翻訳文を提出することが求められる。
PCTルート出願の国内段階移行では、国際出願当初の開示の範囲を超える新規事項を追加してはならない。