ブルネイにおける特許出願審査の概要
【詳細】
1. 基本的概要
特許出願を行うと、ブルネイ知的財産庁(Brunei Intellectual Property Office: BruIPO)を通じて2段階の審査、すなわち、予備審査(方式審査)および実体審査(先行技術調査および審査)が行われる。
このうち、実体審査に関して出願人は4つのオプションのいずれかを選択できる。
(1) BruIPOでの先行技術調査を請求し、その後、BruIPOでの審査を請求する。
(2) BruIPOでの先行技術調査および審査の両方を同時に請求する。
(3) 対応外国特許出願の先行技術調査結果を利用したBruIPOでの審査を請求する。
(4) 所定外国特許庁における対応外国特許出願の先行技術調査および審査結果を利用する。
2. 先行技術調査および審査のオプション
現在のところ、BruIPOの特許登録局(Patent Registry Office:PRO)には、自前の特許審査官がいない。したがって、出願人がBruIPOにて先行技術調査または審査を選択した場合、これらの先行技術調査および審査は、BruIPOが指定する3つの知的財産庁、すなわち、ハンガリー知的財産庁、オランダ知的財産庁およびオーストラリア知的財産庁のいずれかによって行われる。出願人は、この3つの知的財産庁のうちどの知的財産庁で先行技術調査および審査を行うかを指定することができる。
あるいは、所定外国特許庁(オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド、韓国、英国、米国および欧州)のいずれかに対応外国特許出願がある場合、または対応国際出願がある場合、出願人は、当該対応外国特許出願の先行技術調査および審査結果を提出し、ブルネイの実体審査に利用することができる。英語以外の言語による審査報告書は、出願人はその英語翻訳とともに提出する必要がある。
また、ブルネイはASEAN特許審査協力プログラム(「ASPECプログラム」)に参加しているため、対応特許出願がASEAN加盟国においてされている場合、対応特許出願の先行技術調査および審査結果の利用を選択することができる。なお、ASPECプログラムには、ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイおよびベトナムのASEAN9ヶ国の知的財産庁が参加している。このプログラムの目的は、審査期間の短縮、先行技術調査および審査の品質の向上であり、加盟国が、他のASEAN諸国の知的財産庁の先行技術調査および審査結果を利用できる。
特許協力条約(PCT)ルートを通じてされたブルネイ特許出願の場合、出願人は、国際調査報告書(International Search Report:ISR)の写しを提出し、審査については、BruIPOでの審査を請求するか、または特許性に関する国際予備報告書(International Preliminary Report on Patentability:IPRP)の利用を要求する。
3. 出願人に対する実務上のアドバイス
対応外国特許出願において、先行技術調査および審査結果を有しており、その結果が出願人に対して有利な場合、費用と時間がかかるBruIPOによる先行技術調査および審査を請求するのではなく、これら対応外国特許出願における先行技術調査および審査結果を提出することが推奨される。これにより、早期の特許付与が期待できる。
同様に、特許性に関する国際予備報告書(IPRP)の内容が出願に有利な場合にも、費用と時間削減の観点からは、BruIPOでの審査を請求するのではなく、特許性に関する国際予備報告書(IPRP)を利用することを推奨する。
ブルネイにおける特許法の概要および運用実態
【詳細】
1.ブルネイ特許法の基本的内容
1-1.特許要件
2011年特許令(以下、「ブルネイ特許令」、という)は、発明が特許性を持つための実体的要件を定めている。ブルネイ特許令第13条は、以下の条件を満たす発明は特許性を有すると規定している。
(a)新規であること。すなわち、技術水準の一部を構成するものであってはならない(ブルネイ特許令第14条(1))。
(b)進歩性を有すること。すなわち、当該技術の熟練者にとって自明でないこと(ブルネイ特許令第15条)。
(c)産業上の利用が可能であること。第16条(1)項では、農業を含む全ての種類の産業において発明を実施もしくは使用することが可能である場合、産業上の利用可能性があるとみなす旨を規定している。ただし、外科手術もしくは治療による人体もしくは動物の体の処置方法、または人体もしくは動物の体について実施される診断方法の発明は、産業上の利用が可能であるとはみなされない(ブルネイ特許令第16条(2)項)。
1-2.一般的な特許手続
1-2-1.国内特許の出願
ブルネイの特許制度は「先願主義」を採用している。特許出願に際して、優先権を主張することができる。優先権の主張は、パリ条約締約国もしくは世界貿易機関加盟国でなされた先の出願に基づいて行うことができるが、それら先の出願の出願日から12か月以内にブルネイに出願されなければならない。
1-2-2.イギリス、マレーシアもしくはシンガポールの特許に基づく再登録手続
ブルネイ特許令には、旧制度で認められていたイギリス、マレーシアもしくはシンガポールの特許の再登録に関する経過措置が、規定されている(ブルネイ特許令第115条)。
この経過措置では、2012年1月1日の時点でイギリス、マレーシアもしくはシンガポールで係属中の特許出願について、後にイギリス、マレーシアもしくはシンガポールで特許が登録されたときに、ブルネイに再登録の申請を行うことが認められている。この経過措置では、手続の対象となるイギリス、マレーシアもしくはシンガポールにおける特許の特許証発行日から12か月以内に、ブルネイ知的財産庁に再登録を申請する必要がある。
なお、イギリス、マレーシアもしくはシンガポールにおける特許に基づくブルネイでの再登録手続は、経過規定に基づいて再登録が引き続き認められる案件の数が減少し、最終的には自然消滅することになる。
1-3.特許期間
特許権が付与されると、出願日から20年間、権利が存続する(ブルネイ特許令35条)。ただし、年次更新料を支払うことが条件となる。
年次更新料の支払は、最初の3年間は無料で、出願日から4年目の年が満了した時点から開始され、その後は特許が失効するまで毎年連続して支払われる(特許規則54)。
1-4.特許の所有権
特許および特許出願は特許令に基づき特許権者または出願人の財産とみなされ、特許ならびに特許に関する権利は、譲渡または移転が可能である(ブルネイ特許令第42条)。特許の実施を許諾することもできる。特許の実施許諾は特許令に基づき登録が可能である(ブルネイ特許令第55条)。
特許権者は、特許権の侵害を発見した場合に、救済を求める訴訟を提起することができる(ブルネイ特許令第65条)。この救済には、差止命令、侵害による利益の返還要求および特許権者が被った損害に関する損害賠償請求等が含まれる。
1-5.侵害行為
特許権侵害には、特許権者の同意なしに以下の行為をなすことが含まれる(ブルネイ特許令第64条)。
(1)発明が製品である場合、当該製品の製造、販売、販売の申し出、使用もしくは輸入を行うか、販売その他の目的で当該製品を保管すること。
(2)発明が方法である場合、当該方法を使用することが特許権侵害に相当することを知りながら、または合理的な人間にとって前記使用が侵害に相当することが自明な状況において、ブルネイ国内で当該方法を使用し、または使用のために提供すること。
(3)発明が方法である場合、当該方法により直接に得られた製品の販売、販売の申し出、使用もしくは輸入を行うか、販売その他の目的で当該製品を保管すること。
2.ASPECプログラムへの参加
ブルネイ知的財産庁(BruIPO)は、ASEAN特許審査協力プログラム(「ASPECプログラム」)に参加している。ASPECプログラムは、参加したASEAN加盟国9か国のIP当局の間の特許業務分担プログラムであり、参加国のIP当局の間で審査の結果が共有される。
3.統計
ブルネイ知的財産庁(BruIPO)のウェブサイトでは、2009~2015年のブルネイ特許の出願件数が公開されている。
http://www.bruipo.com.bn/images/pdf/references/statistics/PStatisticJan2016.pdf
2012年には11件であった外国出願人による特許出願件の数が、2015年には101件に増加している。この大幅な数の増加は、PCT出願手続の利用によるものと考えられる。PCT出願により、外国の特許権者がブルネイで特許出願することが以前より容易になった。
一方、国内出願人による特許出願の件数は、2012年から2015年にかけて8~26件で推移している。