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オーストラリアにおける商標制度概要

 オーストラリアにおける商標の登録は、1995年商標法(以下「商標法」という。)および商標規則(以下「規則」という。)に準拠している。その他の関連法として、2010年競争・消費者法があり、とりわけ当該法の附則2のオーストラリア消費者法(The Australian Consumer Law;以下「ACL」という。)において、取引者は誤認や欺瞞を招く行為に関与してはならず、他の取引者の後援または承認を受けて提供および販売促進される役務の不実または虚偽表示を行ってはならないと規定されている(ACL第18条(1)、第29条(1)(h))。また、コモンローの国であるため、商標の所有者は、コモンロー上の詐称通用を根拠として訴訟を提起することができる(例えば、ConAgra Inc v McCain Foods (Aust)Pty Ltd [1992] FCA 176, [69])。

 さらに、商標法第44条第4項には、先に継続的に業として使用する商標は、他の商標の存在を理由に拒絶されない旨が規定され、商標法第124条には、先に継続的に業として使用する、登録商標と実質的に同一または誤認させるほど類似している無登録商標については、登録商標の侵害とはみなさない旨が規定されている。

 このように、オーストラリアにおける商標の所有者は、オーストラリアにおいて最初に商標を使用する者または最初に商標出願する者のうち、いずれか早い方である。

 オーストラリアにおいて、商標を所有する者または会社等の法人は、商標出願することができる。出願人は、個人を含む法的主体でなければならないため、屋号、パートナーシップ(日本の「法人格のない組合」に相当)または法人格のない信託の名義で出願することはできない(商標法第27条第2項(c))。

 紙による商標出願には追加料金が課せられるため、電子的手段によりオーストラリア知的財産局に直接商標出願するのが一般的である。電子的手段による出願は、ほぼ即時にオーストラリア知的財産局のデータベースで公開される。商標検索サイト「オーストラリア商標検索」から一般閲覧が可能である。

 出願前に商標が使用されていなければならないという要件はない。一般的に出願行為が、当該商標の使用または使用意図を示しているとみなされる。

 外国の出願人が国内出願を行うためには、オーストラリアまたはニュージーランドに送達宛先を有していなければならない(商標法第215条第5項)。

 オーストラリアは、マドリッドプロトコルの加盟国である。それゆえ外国の法人または個人は、オーストラリアを指定国として国際出願することができる。国際出願は、通常の国内出願とほぼ同じ手続が適用される(規則17A.11から規則17A.74)。

 商標法第17条において、商標として登録可能な標識は、他人の商品または役務と識別するために使用する標識と広く定義されており、具体的には、下記またはそのあらゆる組合せが含まれることが明示されている(商標法第6条第1項「標識」)。
・文字、語、名称、署名、数字、図形、ブランド、標題、ラベル、チケット、包装の外観、形状、色彩、音または香り
 さらに、動き、ホログラム、味及び触感などの非伝統的商標も登録可能とされている(オーストラリア知的財産局実務・手続便覧(以下「便覧」という。)Part 21「非伝統的商標」参照)。

 なお、商標法は、連続商標(商標法第51条、第51A条)、団体商標(商標法第161条から第167条)および証明商標(商標法第168条から第183条)についても規定している。

 審査は、通常、出願日から4~5ヵ月以内に行われる。ただし、優先権主張を伴う出願の審査は、自動的に迅速に処理され、出願日から4週間以内に行われる。また、通常の出願でも審査を迅速化することはできるが、早期審査を正当化する理由がなければならず、出願人またはその代理人により早期審査を請求する宣言書を提出しなければならない(規則4.18、4.19)。早期審査を請求する理由として、便覧 Part 6:早期審査、1.1.2には、次のものが例示されている。
(1) 当該商標が第三者により侵害されている、もしくはそのおそれがある場合
(2) 当該出願人が当該商標を付した商品の広告もしくは製造に投資してきたため、投資のリスクを最小限に抑えるために、可能な限り早期の登録を要する場合

 オーストラリア商標出願(およびオーストラリアを指定国とする国際出願)は、絶対的および相対的拒絶理由に基づいて審査される(商標法第39条から第44条、規則17A.28(1))。

 審査段階で拒絶理由通知が送達された場合、出願人は拒絶理由通知の日付から15ヵ月以内に、自己の出願が認可される状態にしなければならない(商標法第37条第1項、規則4.12(1)(a))。登録官は、提出されたあらゆる応答を考慮する期間として4週間が必要とされており、実務上、出願人は拒絶理由通知から14ヵ月以内に応答する必要がある。

 出願が期限までに認可される状態にならない場合、延長料を支払えば、当該期限は6ヵ月まで延長することができる(規則4.12(4)(b))。3ヵ月を超える期限延長申請は、公告されなければならないため(商標法第224条第5項)、実務上は一度に3ヵ月を超えない範囲で延長が申請されることが多い。拒絶理由通知から21ヵ月を超える認可期限の延長は、料金の納付に加え、延長申請する理由の根拠となる事実を記載した宣言書を提出することにより可能となる(規則21.25、便覧 Part 16:認可期限の延長 1.3)。

 前段落の認可期限の延長申請が認められる事例としては、その出願が係属中の先願もしくは満了した登録を引用している、または引用商標に対して不使用取消請求が提起されている場合が挙げられる。そのような場合、出願の審査は、かかる引用された先願、満了した登録または不使用取消請求について決定が下されるまで中断される(規則4.13(1)(b))。

 また、引例による拒絶理由を克服するために、出願人が善意の同時使用もしくは継続的な先使用の証拠を準備していること、または引用商標の所有者と同意書の交渉を行っていることを根拠に、6ヵ月の認可期限の延長が可能である(商標法第44条第3項(a)、規則4.13(1)(c)(ii)、規則4.14(3)(b))。

 拒絶理由が一部の指定商品または役務のみに関係して拒絶理由を克服できない場合、国内出願(「親出願」)の出願人は、分割出願による対応が可能である。分割出願は、親出願と同じ出願日を与えられるが、指定商品を限定しなければならない(商標法第46条(1)(b))。例えば、親出願を拒絶理由の対象となっていない指定商品または役務のみからなる登録可能な状態にし、それ以外の指定商品または役務は分割出願を行う。分割出願は引き続き同じ拒絶理由に直面するが、出願人には、改めて下される拒絶理由通知に対処する15ヵ月間の認可期限が与えられる(規則4.12(1)(b)、便覧 Part 12:分割出願 8)。
 また、別の選択肢としては、出願人は、1つの指定商品を除くすべての指定商品または役務に関して、分割出願を行うことにより、上記と同様の拒絶理由通知に対処する時間を得ることができる。1つの指定商品のみをカバーする親出願は、後に失効させる。
 なお、国際出願はオーストラリアに保護を求める請求であり、分割出願することはできない(便覧 Part 12:分割出願 3.4)。

 出願が規定されている要件を満たしていると登録官が判断した場合、当該出願の登録が許可され、異議申立のために公告される(商標法第33条(1)、第34条(b))。第三者は、異議申立期間として、公告日から2ヵ月間を与えられる(規則5.6)。

 異議申立が提出されなかった場合、または異議申立の克服に成功した場合、その出願は登録料の納付をもって登録される(商標法第68条)。