オーストラリアにおける特許の補正の制限
【詳細】
1.2013年4月15日(改正特許法の施行日)より前に審査請求された出願あるいは特許に対する補正の制限
1-1.補正全般
特許出願後、特許または特許出願の明細書をいつでも補正することができる。
2013年4月15日より前に審査請求された出願に対しては、補正制限が比較的緩やかな旧オーストラリア特許法(以下、「旧特許法」と記す)が適用される。誤記や明らかな誤りを訂正する場合を除き、補正に対する主な要件は、「補正後の明細書が出願当初の明細書に実質的に開示されていない事項をクレームすることになるような補正は認められない」という点のみである。
そのため、追加の実施例や新たな実験結果といった、クレーム発明を支持する新たな記載を明細書に追加することができる。尚、補正は、クレームが明瞭かつ簡潔であることや、明細書に開示された事項により裏付けられていなければならない、といった明細書の要件も満足する必要がある。
1-2.許可(Acceptance)後の補正
旧特許法下では、出願の許可(Acceptance)後であっても(または特許付与後であっても)、明細書にクレームを支持する記載を追加する補正を行うことができる。しかし、誤記や明らかな誤りを訂正する場合を除き、許可されたクレームの範囲を拡大する補正は認められない。この場合も、クレームが明瞭かつ簡潔であること、および明細書に開示された事項により裏付けられていなければならない、といった明細書の要件を満たす必要がある(旧特許法第40条(2)および第40条(3))。
以上を踏まえて、実務上は、出願後直ちに許可される可能性を回避し許可前のより緩やかな規定に基づき明細書を補正する機会を確保するために、出願時に「許可の延期(postponement of acceptance)」を申請しておくことが推奨される。
2.2013年4月15日(改正特許法の施行日)以降に審査請求された出願あるいは特許に対する補正の制限
2-1.補正全般
2013年4月15日以降に審査請求された出願に対しては、補正をより厳しく制限する改正特許法が適用される。具体的には、出願当初の明細書に開示された内容を超えるような、新規事項を明細書に追加する補正は禁じられる。この改正特許法により、補正実務は他の主要国とほぼ同じになった。
より具体的には、誤記や明らかな誤りを訂正する場合を除き、明細書の補正は、補正後の明細書が以下の文書において開示された内容を超える事項をクレームし又は開示する場合、認められない(改正特許法第102条)。
(1)出願当初の明細書
(2)その他の所定書類(あれば)
上記「その他の所定書類」には、明細書とともに提出された要約書、および国際段階で許容される所定の補正内容および訂正内容(PCT出願のオーストラリア国内段階移行出願の場合)が含まれる。また、補正は、クレームが明瞭かつ簡潔であること、および明細書に開示された事項により裏付けられていなければならない、といった明細書の要件を満足する必要がある。
2-2.許可(Acceptance)後の補正
許可(Acceptance)後の補正については、より厳しく制限され、誤記や明らかな誤りを訂正する場合を除き、許可されたクレームの範囲を拡大する補正は認められない。この場合も、クレームが明瞭かつ簡潔であること、および明細書に開示された事項により裏付けられていなければならない、といった明細書の要件を満たす必要がある。
以上を踏まえて、実務上は、出願後直ちに許可される可能性を回避し許可前のより緩やかな規定に基づき明細書を補正する機会を確保するために、出願時に「許可の延期(postponement of acceptance)」を申請しておくことが推奨される。
3.追加の考察
特許の有効性の争点を含む訴訟が行われている場合、明細書の補正は裁判所に申し立てなければならない。訴訟の開始前に特許権者が有効性の懸念について認識していた場合、裁判所は補正を却下することができる。このため、対応外国出願の審査内容が、オーストラリア特許クレームの有効性について問題がある可能性がある場合、早期に補正を行うよう配慮すべきである。
4.補正の方法
補正は、自発的な補正として、もしくは審査報告書に対する応答として行うことができる。特許出願の種類によって、自発補正可能な時期が異なる。標準特許出願については、(出願が失効していないことを条件として)出願後、特許付与後であってもいつでも補正を行うことができる。イノベーション特許出願については、特許付与後いつでも補正を行うことができる。