オーストラリアにおける商標異議申立制度
オーストラリア知的所有権保護局(IP Australia;IPA)への商標に関する直接出願またはオーストラリアを指定国とする国際出願に対する異議申立は、商標法および商標規則のいずれも第5部に規定されている。現在の異議申立手続は、2013年の商標法改正によって改正され、2013年4月15日以降の手続に適用されているものである。
商標出願に対する異議申立は、二段階の手続から成る。第一段階の手続は異議申立書(異議申立意図通知書)の提出であり、公告決定となった出願が商標公報に公告された日より2か月以内に異議申立書を提出しなければならない。異議申立書の提出時に、異議申立の手数料を納付する必要がある(商標法第52条、商標規則5.6および21.21A、知的財産局実務・手続便覧(以下「便覧」という。)47.1. 1.1.2)。
第二段階の手続は、異議申立人が異議申立の根拠となる理由を記載する異議理由書(理由および詳細陳述書)の提出であり、異議申立書の提出日より1か月以内に異議理由書を提出しなければならない。異議理由書は、全ての異議理由を適切に記載し、異議理由の根拠を詳細に提示しなければならない(商標規則5.7)。
異議申立書または異議理由書の提出に関する法定期限は、商標規則5.9(4)に定められている次の理由の一方または両方に基づいてのみ、延長することができる。
(1)異議申立人、異議申立人の代理人、登録官または職員による過誤または遺漏
(2)期限延長申請人の制御の及ばない状況
異議申立人が異議申立書および異議理由書を提出した場合、異議理由書の提出日より1か月以内に、出願人は異議申立に対抗するための答弁書(防御意図通知書)を提出することができる。出願人が答弁書を提出しなかった場合は、当該出願は失効する(商標法第52A条および第54A条、商標規則5.13)。
何人も、異議申立をすることができるので(商標法第52条(1))、異議申立人は、異議理由として第三者の先行権利または登録を援用することもできる。具体例としては、オーストラリアで名声を得ている登録または未登録の他人の商標と欺瞞または混同を生じる虞があることを異議理由とする場合などが挙げられ、この際、異議申立人に名声および虞の立証責任がある(商標法第60条、便覧46.4. 4.5)。
IPAでは、出願審査は審査官(Examiner)、異議手続の審査は登録官(Registrar)がそれぞれ行うことから、出願審査において審査官によって考慮されなかった理由の他に、出願に対する拒絶理由と同じ理由に基づき、異議申立を提起することができる(便覧46.4 第2段落)。また、異議理由としては、出願審査でも取り扱われる商標の絶対的拒絶理由(商標法第39条~第43条)および相対的拒絶理由(商標法第44条)に加え、異議申立人に先に使用されている類似商標、虚偽の地理的表示を含む商標、不正に出願された商標など、商標法第58条から第62A条に記載されている出願審査で取り上げられない理由が挙げられる。なお、商標法第40条に規定する、商標が視覚的に表示できないとの絶対的拒絶理由は、異議理由として認められない(商標法第57条)。
証拠は、原則、法定期限内に宣誓書の様式でIPAの電子通信手段(Objective Connect)を用いて提出しなければならない。両当事者は、当該手段を通じて証拠を受領する(商標法第213C条、商標規則21.6および21.7、便覧51.1)。
異議申立人は、異議理由の少なくとも1つについて立証責任を負っているために、答弁書の写しが異議申立人に送達されてから3か月以内に異議証拠を提出しなければならない(商標規則5.14(3))。
異議申立人が異議証拠を提出した場合、出願人は異議証拠が提出された旨の登録官からの通知から3か月以内に答弁証拠を提出することができる(商標規則5.14(4))。
出願人が答弁証拠を提出した場合、異議申立人は必要と判断した場合に弁駁証拠を提出することができる。この弁駁証拠は、答弁証拠に挙げられている争点に対する弁駁に限定されなければならない。弁駁証拠は、答弁証拠が提出された旨の登録官からの通知から2か月以内に提出されなければならない(商標規則5.14(6))。
異議申立人が弁駁証拠を提出した場合、または異議申立人が弁駁証拠を提出する意図を有していないことを登録官に通知した場合、異議申立手続における証拠手続は終了する。
両当事者は、証拠提出に関する法定期限の延長申請を行うことができる(商標規則5.15)。しかし、証拠提出期限の延長は、ほとんど認可されていないのが実情である。
両当事者は、和解交渉を行うために、異議手続を一時的に中断するためのクーリングオフ期間を申請することができる。クーリングオフ期間は、最初に6か月間認められるが、両当事者の合意に基づく延長申請があれば、登録官はさらに6か月間クーリングオフ期間を延長しなければならない。なお、両当事者は、いつでも一方的にクーリングオフ期間を解除することができる(商標規則5.16)。
証拠手続が終了した後、IPAは両当事者にヒアリング(口頭審理)の要否確認を行う。何れの当事者も口頭審理を請求しない場合、登録官は既に提出されている両当事者の証拠等に基づき、異議申立に対する裁定を行う(商標規則5.17および21.15、便覧51.5 後半部)。
口頭審理が請求された場合、通常、電話またはビデオ会議で実施される。対面での口頭審理は、証拠にビデオ接続では確認できない物理的な見本があるなどの例外的な場合に限られる(便覧52.2)。
登録官は、商標規則に規定された範囲内で、異議費用の裁定を行なう権限を有する。通常、異議に掛かる費用は、敗者側の負担として、異議申立に対する裁定後に勝者側に有利な裁定がなされる(商標法第221条、商標規則21.12、21.13)。
出願人または異議申立人は、登録官による異議決定に不服の場合、異議決定より21日以内に、連邦裁判所または連邦巡回控訴裁判所へ控訴することができる。控訴審において、両当事者は、異議手続においてIPAに提出していなかった新たな証拠を提出することができる(便覧52.5. 5.1)。
オーストラリアにおける特許を受けることができる発明とできない発明
1. 特許法に基づき特許を受けることができない発明
オーストラリア特許法第18条第2項において、「人間およびその産生のための生物学的方法」は特許性の適用対象から除外されている。この条項は、立法上の論争の結果として設けられたもので、特許保護の対象外とされる発明に関して、倫理的な根拠に基づく唯一の条文となっている。
この人間に関する特許性の適用除外は、機能的に人間と等価な存在にまで論理的に拡張され、ヒトの受精卵、接合体、胚盤胞、胎芽、胎児、全能性幹細胞等が特許性の適用除外の対象に含まれる。ただし、全能性を持たないヒトの多能性幹細胞は、それら細胞から完全な人間を再生することができないという理由で特許保護の対象となる。
体外受精の方法、核DNAの置換によるクローン作製方法、受精卵および接合体および胎芽の育成もしくは培養に関わる方法、導入遺伝子もしくはドナー遺伝物質もしくはドナー細胞質を受精卵および接合体および胎芽への導入に関わる方法など、特定の方法も特許保護の対象外とされている。
ヒトの胎芽の生成に関わる方法も特許性を阻却される。たとえば、胚性幹細胞を得るための方法に胎芽生成の工程が含まれている場合、胎芽の生成がいかにして行われるかに関わらず、そのような方法は特許性を阻却されることになる。
(根拠条文等:Patent Manual of Practice and Procedure(以下「Manual」という。)5.6.8.14)
特許法により特許保護の対象外とされる別の例は、食品もしくは医薬品として利用しうる物質(人間と動物のいずれに用いられるかを問わず、また内用または外用の別を問わない。)であって、既知の成分の「単なる混合」に過ぎないものに関係している。そのような「単なる混合物」の作製方法も特許保護の対象外とされる。
「既知の成分の単なる混合」とは、各成分についての既知の特性を総和した以上のものではない、つまり新規の特性を発現するものではない混合物のことである。「混合物」に含まれるものとしては、固形状態(タブレットや錠剤)の粉末もしくは顆粒や、液体もしくは気体の混合物が挙げられ、懸濁液および溶液もこれに含まれうる。
特許法により特許保護の対象外とされる最後の例は、「法に反する」発明に関するものである。法に反する発明とは、その主な用途が紙幣の複製方法などのように明らかな犯罪行為にあたると思われる発明のことである。
(根拠条文等:Manual 5.6.8.18)
2. コモンローに基づき特許保護の対象外とされる発明
オーストラリアの特許保護の対象外となる発明は、特許法に明示されている発明の他に判例が判断基準となる。特許法条文に定義されていない「製造の態様」(manner of manufacture)の解釈と運用は判例に委ねられている。
1959年の最高裁判決、National Research Development Corporation v Commissioner of Patents (1959) 102 CLR 252; (1961) RPC 134; 1A IPR 63(NRDC判決)は、「製造の態様」の解釈において重要な判決である。NRDC判決では、「製造の態様」の要件を満たすためには、発明が「芸術(fine arts)」ではなく「有用な技術(useful arts)」であり「実質的な利点(material advantage)」をもたらすこと、加えて、経済活動の分野における「人為的に創出された状態(artificially created state in the field of economic endeavour)」をもたらす場合に限り、特許保護の対象とされることを示した(Manual 5.6.8.20「National Research Development Corporation v Commissioner of Patents [1959] HCA 67」、「オーストラリアにおける特許適格性判断」パテント2020 Vol.73 No.74)。
この判例は、特許権を主張された発明が単なる着想や発見の域を超えて商業的に有用な結果を生じさせるか否かを基準として、特許保護対象の判断に関し広範な法理を確立した。
方法に関する発明に有用性があるとされるためには、有用な商業的製品に結びついている必要はないが、特許権者が明細書の中に記載した用途が実現可能であることと、具体的、実質的にして信頼性のある用途が存在することが満たされればよい(オーストラリア特許法第7A条、第18条(1)、Manual 5.6.8.19)。
しかし、以下の主題は、「製造の態様」(manner of manufacture)に関する要件を満たさないため、特許保護の対象外とされる主題であるとされている。
・実施する手段のない発見
・単なる着想
・単なる構想もしくは計画
・科学理論
・数学的アルゴリズム
一般に、技術的または実用的な領域に属するものは特許保護の対象とされるが、知的または学術的な領域に属するものは特許保護の対象外とされる。
以下では、具体的なカテゴリーについて述べることにする。
2-1. 医学的治療方法
経済的な実用性を有する医学的治療方法および診断方法は、特許保護の対象となる可能性がある。同様に、人体の外見を改善もしくは変化させるための美容的処置についても、特許保護の対象となる可能性がある(Manual 5.6.8.13)。
2-2. ビジネスモデルおよびソフトウェア特許
オーストラリア特許法の下では、コンピュータソフトウェアまたはソフトウェア関連製品として実施される発明に関して、特許保護の対象であるか否かを明確に規定していない。ただし、その主題は、「製造の態様」に関する要件を満たしていなければならず、単なる構想、抽象的なアイデアもしくは情報の域を超えていなければならない。したがって、事業計画そのものは特許性を持たないが、ビジネスや金融に関係する手法がコンピュータ技術の新たな応用を必要とするものである場合、または別段の有用な物理的成果を生じさせるものである場合、そのような手法は、特許保護の対象とされる可能性がある(Manual 5.6.8.6)。
2-3. 生物学的素材
ある生命体が、人間の技術的介入の結果として生じた人工的な状態であって自然には発生しないものであるならば、特許性を認められる可能性がある(Manual 5.6.8.12)。
発明として提示した生物が、生き物であるという理由よって、その生物が特許保護の対象外とされることはない。ただし、その生物が特許保護の対象となるためには、改良もしくは改変された有用な特性を備えている必要がある(Manual 5.6.8.20 Ranks Hovis McDougall Ltd’s Application [1976] AOJP 3915)。例えば、有機的組織体の機能に影響しない変わった特徴を備えているというだけでは特許保護の対象外となる。
自然発生する微生物は、特許性を持たない。それらは発見されたものであって発明ではないからである。ただし、微生物を純粋培養するための方法に関する発明は、技術的発明の要件を満たす(Manual 5.6.8.12)。
D’Arcy v Myriad Genetics Inc. (2015) HCA 35 (Myriad)において、オーストラリア高等裁判所は、単離された核酸配列は特許性を持たないとの判断を示した。単離された核酸配列に組み込まれた情報は、人間に存在する関連するヌクレオチド配列を再現したものであり、したがって「作られた」情報ではない、というのが高裁の判断の根拠である。なお、単離された天然物またはその誘導体が特許性から除外される、という一般的な規則を定めたものではない。また、この判決では、一般的な「遺伝子特許」に関するものではないことを明確にし、プローブ、ベクター、製造方法、診断方法を対象とした特許の残りのクレームに関しては、いかなる判断も下されていない(Manual 5.6.8.11)。
2-4. 組合せ、コロケーション、キット、パッケージ、および単なる混合物
既知の要素の新規な組合せが、実際に機能する相互関係もしくは潜在的に機能する相互関係を備えている場合、その組合せは、特許保護の対象となる(Manual 5.6.8.16)。例えば、
混合物の完全体が新規かつ進歩性がある場合、製造の態様(manner of manufacture)および進歩性の要件は満たされる。しかしながら、請求項において、既知の完全体の混合物のみが定義され、キット(既知の要素の組み合わせ)が含まれていない場合、進歩性の要件を満たしていないとして、審査官は拒絶理由通知を発行することになる。
2-5. 美術
「美術」の領域に属する発明は、特許保護の対象外とされている。「美術」とは、通常、美的表現を模索する人間の知的活動の成果であるような「芸術」を含み、絵画や彫刻、音楽その他の美的創造物である。
ある物の純粋な美的効果は、特許性を持たないが、その物が技術的な特徴を備えている場合、特許保護の対象とされる可能性がある。例えば、タイヤの接地面のパターンである。美的な感動を生じさせるための過程または手段の中に技術的な革新が含まれていて、そのために特許性が認められることもありうる。
(根拠条文等:Manual 5.6.8.3)
2-6. 情報の提示
情報の提示は、情報それ自体の性質に基づき、特許保護の対象外とされている。文書、書籍、映画等の知的もしくは視覚的なコンテンツは、実用技術ではなく美術もしくは知的技術に関係している。
情報の提示に物理的な器機が関係している可能性があるというだけでは、特許保護の対象となるわけではない。情報の提示の効果が純粋に知的もしくは視覚的な性質のものではなく、実質的な利益を提供するものである場合、その主題は特許保護の対象とされる可能性がある。
(根拠条文等:Manual 5.6.8.5)
2-7. 数学的アルゴリズム
数学的アルゴリズムは、それ自体としては特許性を持たないが、処理手順に数学的アルゴリズムが含まれているという事実のみによって特許保護の対象外となるわけでない。数学的手法に関する発明における特定の過程に数式もしくは数学的アルゴリズムを適用することで実質的な利益が生じる場合、それは有用であって特許保護の対象になると考えられる(Manual 5.6.8.8)。
2-8. 試験方法
試験、観察もしくは測定の方法に関する発明は、単なる計画や作業指示を超えるものであれば特許保護の対象となる場合がある。例えば、物理的特性の測定や観察の精度を向上させるなど、技術的な制限に対処する方法は、一般的に許可される(Manual 5.6.8.9)。
2-9. 作業指示
従来と同一の製品を製造するために行われる既存の装置または製法の作業構成の「単なる」変更は、特許保護の対象外とされている。この種の発明は、一般に「作業指示」(working directions)と呼ばれる。独創的な発明の創意を必要としない作業指示の変更は、「単なる」変更である。
「単なる」変更の結果が新規である場合、または「変更」に発明的な選択がなされる場合、変更された製法は、特許性を有する。ただし、単に従来製品をより効率的に生産するため、あるいは従来と同じ効果を生み出す既知の装置をより効率的に操作するために、試行錯誤や日常的な実験により既知の工程の最適化が行われただけでは、作業指示であり特許性を有しない。
(根拠条文等:Manual 5.6.8.10)
2-10. 農業および園芸の方法
農業および園芸の方法は、自然に発生するものではなく、人間の技術的介入を伴い経済活動の分野で有用である場合、製造方法とみなされ特許を受けることができる(Manual 5.6.8.15)。
2-11. 既知の物質の新規な用途
既知の物質の新規な用途は、特許性を有する。ただし、その用途は、以前知られていなかった特性を利用したものでなければならない。例えば、特定の疾病の治療にとって有用だと分かっている医薬用物質が別の病気の治療にとっても有用だと判明することがある。その場合、第二医薬用途に関する方法は、特許保護の対象とされる。
既知の物質を特定の用途に適したものにしている既知の特性を求めて、既知の製品の製造に既知の物質を使用することに関係する発明は、特許保護の対象とされる。
(根拠条文等:Manual 5.6.8.17)
2-12. 発見、アイデア、科学的理論、単なる計画や構想
法則、自然原理または科学の発見、単なるアイデア、科学的理論および数学的アルゴリズムそれ自体、単なる計画や構想は特許を受けることはできない。なお、発明が技術的または実用的な事項に属している場合は、特許を受けることができる。
「単なる計画や構想もしくは計画以上」として特許が認められた例としては、電気的振動の生成、種蒔き後の土地の完全除草区画、煙霧のない大気、消火後の地下層の形成等が挙げられる。
(根拠条文等:Manual 5.6.8.4)
2-13. ゲームおよびゲーム機器
ゲーム自体は、単なる精神的なプロセス、抽象的なアイデア、または計画であるため、特許を受けることはできない(Manual 5.6.8.7)。
3. 結論
以上のように、オーストラリアにおいては、ある発明が特許法に規定された比較的狭いカテゴリーのいずれにも該当せず、かつその発明が当該技術分野に利益を提供することができる場合に、特許保護の対象になる。
オーストラリアにおける商標制度概要
オーストラリアにおける商標の登録は、1995年商標法(以下「商標法」という。)および商標規則(以下「規則」という。)に準拠している。その他の関連法として、2010年競争・消費者法があり、とりわけ当該法の附則2のオーストラリア消費者法(The Australian Consumer Law;以下「ACL」という。)において、取引者は誤認や欺瞞を招く行為に関与してはならず、他の取引者の後援または承認を受けて提供および販売促進される役務の不実または虚偽表示を行ってはならないと規定されている(ACL第18条(1)、第29条(1)(h))。また、コモンローの国であるため、商標の所有者は、コモンロー上の詐称通用を根拠として訴訟を提起することができる(例えば、ConAgra Inc v McCain Foods (Aust)Pty Ltd [1992] FCA 176, [69])。
さらに、商標法第44条第4項には、先に継続的に業として使用する商標は、他の商標の存在を理由に拒絶されない旨が規定され、商標法第124条には、先に継続的に業として使用する、登録商標と実質的に同一または誤認させるほど類似している無登録商標については、登録商標の侵害とはみなさない旨が規定されている。
このように、オーストラリアにおける商標の所有者は、オーストラリアにおいて最初に商標を使用する者または最初に商標出願する者のうち、いずれか早い方である。
オーストラリアにおいて、商標を所有する者または会社等の法人は、商標出願することができる。出願人は、個人を含む法的主体でなければならないため、屋号、パートナーシップ(日本の「法人格のない組合」に相当)または法人格のない信託の名義で出願することはできない(商標法第27条第2項(c))。
紙による商標出願には追加料金が課せられるため、電子的手段によりオーストラリア知的財産局に直接商標出願するのが一般的である。電子的手段による出願は、ほぼ即時にオーストラリア知的財産局のデータベースで公開される。商標検索サイト「オーストラリア商標検索」から一般閲覧が可能である。
出願前に商標が使用されていなければならないという要件はない。一般的に出願行為が、当該商標の使用または使用意図を示しているとみなされる。
外国の出願人が国内出願を行うためには、オーストラリアまたはニュージーランドに送達宛先を有していなければならない(商標法第215条第5項)。
オーストラリアは、マドリッドプロトコルの加盟国である。それゆえ外国の法人または個人は、オーストラリアを指定国として国際出願することができる。国際出願は、通常の国内出願とほぼ同じ手続が適用される(規則17A.11から規則17A.74)。
商標法第17条において、商標として登録可能な標識は、他人の商品または役務と識別するために使用する標識と広く定義されており、具体的には、下記またはそのあらゆる組合せが含まれることが明示されている(商標法第6条第1項「標識」)。
・文字、語、名称、署名、数字、図形、ブランド、標題、ラベル、チケット、包装の外観、形状、色彩、音または香り
さらに、動き、ホログラム、味及び触感などの非伝統的商標も登録可能とされている(オーストラリア知的財産局実務・手続便覧(以下「便覧」という。)Part 21「非伝統的商標」参照)。
なお、商標法は、連続商標(商標法第51条、第51A条)、団体商標(商標法第161条から第167条)および証明商標(商標法第168条から第183条)についても規定している。
審査は、通常、出願日から4~5ヵ月以内に行われる。ただし、優先権主張を伴う出願の審査は、自動的に迅速に処理され、出願日から4週間以内に行われる。また、通常の出願でも審査を迅速化することはできるが、早期審査を正当化する理由がなければならず、出願人またはその代理人により早期審査を請求する宣言書を提出しなければならない(規則4.18、4.19)。早期審査を請求する理由として、便覧 Part 6:早期審査、1.1.2には、次のものが例示されている。
(1) 当該商標が第三者により侵害されている、もしくはそのおそれがある場合
(2) 当該出願人が当該商標を付した商品の広告もしくは製造に投資してきたため、投資のリスクを最小限に抑えるために、可能な限り早期の登録を要する場合
オーストラリア商標出願(およびオーストラリアを指定国とする国際出願)は、絶対的および相対的拒絶理由に基づいて審査される(商標法第39条から第44条、規則17A.28(1))。
審査段階で拒絶理由通知が送達された場合、出願人は拒絶理由通知の日付から15ヵ月以内に、自己の出願が認可される状態にしなければならない(商標法第37条第1項、規則4.12(1)(a))。登録官は、提出されたあらゆる応答を考慮する期間として4週間が必要とされており、実務上、出願人は拒絶理由通知から14ヵ月以内に応答する必要がある。
出願が期限までに認可される状態にならない場合、延長料を支払えば、当該期限は6ヵ月まで延長することができる(規則4.12(4)(b))。3ヵ月を超える期限延長申請は、公告されなければならないため(商標法第224条第5項)、実務上は一度に3ヵ月を超えない範囲で延長が申請されることが多い。拒絶理由通知から21ヵ月を超える認可期限の延長は、料金の納付に加え、延長申請する理由の根拠となる事実を記載した宣言書を提出することにより可能となる(規則21.25、便覧 Part 16:認可期限の延長 1.3)。
前段落の認可期限の延長申請が認められる事例としては、その出願が係属中の先願もしくは満了した登録を引用している、または引用商標に対して不使用取消請求が提起されている場合が挙げられる。そのような場合、出願の審査は、かかる引用された先願、満了した登録または不使用取消請求について決定が下されるまで中断される(規則4.13(1)(b))。
また、引例による拒絶理由を克服するために、出願人が善意の同時使用もしくは継続的な先使用の証拠を準備していること、または引用商標の所有者と同意書の交渉を行っていることを根拠に、6ヵ月の認可期限の延長が可能である(商標法第44条第3項(a)、規則4.13(1)(c)(ii)、規則4.14(3)(b))。
拒絶理由が一部の指定商品または役務のみに関係して拒絶理由を克服できない場合、国内出願(「親出願」)の出願人は、分割出願による対応が可能である。分割出願は、親出願と同じ出願日を与えられるが、指定商品を限定しなければならない(商標法第46条(1)(b))。例えば、親出願を拒絶理由の対象となっていない指定商品または役務のみからなる登録可能な状態にし、それ以外の指定商品または役務は分割出願を行う。分割出願は引き続き同じ拒絶理由に直面するが、出願人には、改めて下される拒絶理由通知に対処する15ヵ月間の認可期限が与えられる(規則4.12(1)(b)、便覧 Part 12:分割出願 8)。
また、別の選択肢としては、出願人は、1つの指定商品を除くすべての指定商品または役務に関して、分割出願を行うことにより、上記と同様の拒絶理由通知に対処する時間を得ることができる。1つの指定商品のみをカバーする親出願は、後に失効させる。
なお、国際出願はオーストラリアに保護を求める請求であり、分割出願することはできない(便覧 Part 12:分割出願 3.4)。
出願が規定されている要件を満たしていると登録官が判断した場合、当該出願の登録が許可され、異議申立のために公告される(商標法第33条(1)、第34条(b))。第三者は、異議申立期間として、公告日から2ヵ月間を与えられる(規則5.6)。
異議申立が提出されなかった場合、または異議申立の克服に成功した場合、その出願は登録料の納付をもって登録される(商標法第68条)。
オーストラリアにおける分割出願に関する留意事項
1.はじめに
オーストラリアにおける標準特許出願とイノベーション特許出願を説明する。標準特許出願とは、実体審査を経て標準特許が付与される特許出願であり、標準特許の権利期間は特許の日(”date of the patent”、完全明細書の提出日、特許法第65条)から20年である(特許法第67条)。イノベーション特許出願とは、実体審査を経ずにイノベーション特許が付与される特許出願であり、イノベーション特許の権利期間は特許の日(完全明細書の提出日)から8年である(特許法第68条)。イノベーション特許は実体審査を経ずに付与されるが、権利行使をするには、審査請求を行い実体審査されたことの証明(certificate)(以下、「審査証明」)を得る必要がある(特許法第120条1A)。
なお、イノベーション特許出願制度は段階的な廃止が決定されており、2021年8月26日以降は、分割出願としてのみ出願することができ、すべてのイノベーション特許が期限切れとなる2029年8月26日までに段階的に廃止される(イノベーション特許の段階的廃止法)。
オーストラリアでは、下記の理由により分割出願が行われる。
・発明の単一性に係る拒絶理由への対応のため
・出願認可後に、より狭いクレームまたは代替のクレームでの権利化を目指すため
・侵害者への権利行使を行う目的で、速やかにイノベーション特許の付与とその審査証明を得るため
オーストラリアの分割出願は、標準特許出願、イノベーション特許出願、標準特許出願に基づく分割出願、およびPCT出願に基づき出願することができる。分割出願には、親出願の種類と出願日に応じて異なる法律や規則が適用される。これらの点について以下で詳しく解説する。
2.標準特許出願に基づく分割出願を行うことができる時期
標準特許出願に基づく分割出願の出願期限は、標準特許出願の許可通知が公表される日から3か月であり、この期限を延長することはできない。分割出願は、標準特許出願として出願することができる(特許法第79B条、特許規則6A.1)。また、親出願の標準特許が2021年8月26日より前に出願された場合、イノベーション特許として出願することもできる。
分割出願の出願期限は、特許付与に対する異議申立人からの異議申立期限と同じである。なお、異議申立人が異議申立を行った際に、出願人に代替のクレーム(例えば、より広範なクレーム)で分割出願を行うことができる機会を与えないために、実務上、異議申立は期限当日に行うのが一般的である。
3.イノベーション特許出願に基づく分割出願を行うことができる時期
イノベーション特許の審査の実行通知が、公表される日から1か月以内の期間、分割出願を行うことができる。
この期間はイノベーション特許出願としてのみ分割出願を行うことができる期間であり、親出願に開示されていた発明についてのみ(例えば、出願人が、親出願に対して発明の単一性に係る拒絶理由を受けた場合に)分割出願を行うことができる(特許法第79C条、特許規則6A.2)。
4.PCT出願に基づく分割出願を行うことができる時期
PCT出願は、標準特許の完全出願として扱われ、したがって、オーストラリアを指定国とするPCT出願は、分割出願の出願時に、PCT出願が失効、拒絶または取下げられていないことを条件として、分割出願の親出願とすることができる(特許法第29A条)。
また、PCT出願が2021年8月26日より前に出願されていた場合、PCT出願の分割出願をイノベーション特許として出願することもできる。
5.分割出願の出願要件
分割出願として認められるためには、分割出願の出願時点において親出願が有効に存続している(すなわち、親出願が、失効しておらず、拒絶または取り下げもされていない)必要がある。しかし、分割出願の出願日以降に親出願が失効、拒絶または取り下げられても、分割出願は無効とはならない(特許法第79B条、第79C条)。
また、分割出願は、親出願に含まれる開示によって裏付けられるクレームを少なくとも1つ含む必要がある(特許審査基準2.10.5a)。
6.分割出願における主題の追加(新規事項)
オーストラリアではクレームごとに優先日が決定される(特許法第43条)。
分割出願には新規事項を含めることを禁止する条項は無い。しかし、この新規事項に関するクレームは、親出願に含まれていないため、分割出願された日が当該クレームの優先日となる(特許規則2.3、3.12、3.13D、特許審査基準2.10.5a)。
7.その他―追加特許
特許出願の出願日以降に発明に軽微な改良または変更が行われた場合、出願人は、これらの改良または変更を保護するために、当該特許出願に基づき追加特許出願を行うことができる。追加特許出願のクレームは、親特許および親特許出願の開示に対して新規性がなければならないが、進歩性を有する必要はない(特許法第25条、特許規則2.4)。
追加特許出願については、下記の点に注意する必要がある。
(a)親出願でクレームされた発明の改良または変更に関するものでなくてはならない。
(b)標準特許または標準特許出願に基づき出願できる。
(c)親特許の付与後に権利が付与される。
(d)親特許が有効に存続している間のみ、効力を維持する。
(特許法80条、81条、82条、83条)
オーストラリアにおける特許出願書類
1.パリルート出願
オーストラリアにおいてパリルート出願として特許出願を行う際に必要な書類は、以下の2つである(特許法第29条、特許規則3.1)。
・特許願書(出願人の氏名および住所、発明者の氏名、優先権出願の情報を含む) 下記URLの「P00001_0316」を参照
https://www.ipaustralia.gov.au/tools-and-research/forms/Apply-for-a-standard-patent-patent-of-addition
・英語の明細書(クレームおよび要約書を含む)および図面(該当する場合)
なお、オーストラリア特許庁に要求されない限り、優先権証明書の提出は不要である*1。また、出願人または発明者が特許願書に署名をする必要はない。
第29条 特許出願 (1) 何人も、規則に従って特許願書および所定の他の書類を提出することにより、発明に係わる特許出願をすることができる。 (2) 出願は、仮出願または完全出願とすることができる。 (3) 仮出願に関する特許願書は、次のものでなければならない。 (a) 承認様式によるものとすること、 (b) 英語で記載されていること、および (c) 仮明細書が添付されていること (4) (3)(c)に言及されている仮明細書は、次のものでなければならない。 (a) 承認様式によるものとすること、および (b) 英語で記載されていること (4A) 完全出願に関する特許願書は、次のものでなければならない。 (a) 承認様式によるものとすること、 (b) 英語で記載されていること、 (c) 完全明細書が添付されていること、および (d) 第229条の方式要件を満たしていること (4B) (4A)(c)に言及されている完全明細書は、次のものでなければならない。 (a) 承認様式によるものとすること、 (b) 英語で記載されていること、および (c) 第229条の方式要件を満たしていること (5) 本条においては、「何人も」は、それが法人であるか否かを問わず、団体を含む。 |
規則3.1 所定の書類:特許出願 (1) 法律第29条(1)の適用上、完全出願に関して作成された特許願書と共に、要約を提出しなければならない。 (2) 法律第29条(1)の適用上、標準特許*2を求める完全出願をする場合は、受理前に、次の書類を提出しなければならない。 (c) 微生物が所定の寄託機関に寄託されている場合において、 (i) その寄託が、ブダペスト条約の規則7.3の意味での原寄託または同条約の規則7.4の意味での再寄託であるとき-同条約の規則7に基づいて所定の機関が交付した受託証の写し、 (ii) 微生物の試料が、同条約の規則5.1(a)(i)に基づいて所定の機関に移送されたとき-同条約の規則7に基づいて当該機関が交付した受託証の写し、および (iii) (i)または(ii)にいう受託証が英語によるものでないとき-受託証の英語翻訳文、 (d) 出願が法律第6条に依拠している場合-法律の適用上寄託に依拠することについての名義人の権原を記載した出願人による通知、 (e) 出願が法律第34条(2)の適用対象である出願である場合-出願人が明細書のクレームにおいてクレームされている範囲での発明に関する有資格者である旨を宣言する裁判所の命令の写し、 (f) 出願が法律第36条(4)の適用対象である出願である場合-出願人が明細書に開示された発明に関する有資格者である旨の局長の宣言書の写し、および (g) 願書が追加特許に対するものであり、出願人または特許権者によって権原を付与された者によって作成されている場合-出願人または特許権者からの陳述であって、前記の者に権原を付与する旨のもの。 |
*1: 特許法、特許規則のいずれにも優先権証明書の提出を求める記載がない。ただし、オーストラリア特許庁から要求があった場合はこの限りではない。
*2: オーストラリアの「特許」には、「標準特許」と「イノベーション特許」があり、日本の「特許」に対応するものは、「標準特許」である。
2.PCTルート出願
オーストラリアにおいてPCTルートを利用して特許出願を行う際に必要な書類は、以下の4つである(特許法第29A条、特許規則3.5AB、3.5AC)。
・PCT特許願書(国際出願番号または国際公開番号、国際予備審査請求の有無)
【ソース】PCT特許願書(PCT Request)参照
・国際予備審査報告書(報告書がある場合)および付随書類として添付された補正(国際予備審査が請求された場合)
・明細書の英語の翻訳文(PCT出願が英語以外の言語で公開された場合)。なお、翻訳が正しい旨の宣誓書は不要である*3。ただし、オーストラリア特許庁が翻訳の品質に懸念を持った場合は、後日翻訳を確認するよう求められる場合がある。
・国際予備審査請求の際の条約第34条における補正(国際予備審査報告書の附属書類として添付された補正)の英語の翻訳文(補正が英語以外の言語の場合)。
また、出願人または発明者が特許願書に署名をする必要はない。
第29A条 特許出願-PCT出願の特別規則 (1) PCT出願は、標準特許についての本法に基づく完全出願として扱われる。 (2) PCT出願に含まれる発明の説明、図面、グラフィックス、写真およびクレームは、出願に関して提出された完全明細書として扱われる。 (3) PCT出願の明細書は、規則に定める日におよび規則に定める方法で、状況により補正されるものとする。 (4) PCT出願は、標準特許出願に関する本法の所定の要件を満たすものとみなされるが、(1)または(2)を理由とするのみでは、本法の他の要件を満たすものとはみなされない。 (5) PCT出願の出願人は、所定の期間内に次のことをしなければならない。 (a) 受理官庁に英語で提出されなかった場合は、出願の英語翻訳文を提出すること (b) 何れの場合にも、所定の書類を提出し、所定の手数料を納付すること (6) 出願人は、(5)の下記要件が満たされていない限り(要件の適用を受ける事情にある場合)、PCT出願に関し、手続が行われることまたは同人が手続することを許容されるよう要求する権利を有さない。 (a) 出願に関する英語翻訳文が提出されていること (b) 所定の書類が提出されていること (c) 所定の手数料が納付されていること |
規則3.5AB PCT出願:法律に基づく出願とみなされる国際出願 (1) 本規則は、次の場合は、PCT第4条(1)(ii)に基づいて、オーストラリア国を指定国として特定している国際出願に適用される: (a) 受理官庁が、国際出願が取下げられたものとみなす旨を宣言した場合、または (b) 国際事務局が、PCT第12条(3)に基づく認定をした場合。 (2) 国際出願は、宣言または認定がなされない場合のように、次の場合には、PCT出願とみなされる: (a) 出願人が、PCTの規則51.1に特定されている期限内に、PCT第25条(1)(a)において言及された請求を行った場合、 (b) 局長が、PCTの規則51.3に特定されている期限内に、次のものを受領した場合: (i) 法律第29A条(5)(b)に定める手数料、および (ii) 出願が英語で提出されておらず、かつ、PCT第2条に基づいて英語で公開されていない場合-(PCT規則91に基づく訂正の有無に拘らず)提出されたPCT出願の明細書の英語翻訳文が提出されている、 (c) 局長が、次の事項について、合理的な根拠で信じていること: (i) 宣言は、受理官庁の側における過誤または遺漏の結果であったこと、または (ii) 認定は、国際事務局の側における過誤または遺漏の結果であったこと。 |
規則3.5AC PCT出願:補正 (1) 法律第29A条(3)に関して、本規則は、PCT出願の明細書が補正されたものとみなされる状況、方法およびその日付について規定する。 出願の英語翻訳 (2) 法律第29A条(5)(a)が、PCT出願に適用される場合: (a) その出願に含まれる明細書、図面、グラフィックス、写真およびクレームは、翻訳文における明細書、図面、グラフィックス、写真およびクレームを差し替えることにより、補正されたものとみなされる、および (b) その補正は、翻訳文が提出された日に発生したものとみなされる。 PCT第19条に基づいて補正された出願 (3) (3A)に従うことを条件として、次の場合: (a) PCT出願がPCT第19条に基づいて補正された場合、および (b) 出願人が法律第29A条(5)の要件を満たす前に、出願が補正された場合は、その出願に含まれる明細書、図面、グラフィックス、写真およびクレームは、補正がなされた日に補正されたものとみなされる。 第19条補正の英語翻訳 (3A) 次の場合: (a) PCT出願がPCT第19条に基づいて補正された場合、 (b) 出願人が法律第29A条(5)の要件を満たす前に、出願が補正された場合、 (c) その補正が、PCT第21条に基づいて英語で公開されていない場合、および (d) 出願人が法律第29A条(5)の要件を満たす時以前に、補正の英語翻訳文が提出された場合は、その出願に含まれる明細書、図面およびクレームは、補正の英語翻訳文が提出された日に補正されたものとみなされる。 PCT規則91に基づく訂正 (4) 次の場合: (a) PCT出願が、PCT規則91に基づいて訂正された場合、および (b) 出願人が法律第29A条(5)の要件を満たす前に、訂正がなされた場合は、その出願に含まれる明細書、図面、グラフィック、写真およびクレームは、訂正が有効となった日に補正されたものとみなされる。ただし、局長が、PCT規則91.3(f)に基づく訂正を無視する場合は、この限りではない。 PCT第34条に基づく補正 (5) (5A)および(6)に従うことを条件に、次の場合、 (a) PCT第II章に基づいてオーストラリア国が選択されているPCT出願が、PCT第34条に基づいて補正された場合、および (b) 出願人が法律第29A条(5)の要件を満たす前に、国際予備審査報告書が作成された場合は、その出願に含まれる明細書、図面、グラフィック、写真およびクレームは、補正がなされた日に補正されたものとみなされる。 第34条補正の英語翻訳 (5A) 次の場合: (a) PCT第II章に基づいてオーストラリア国が選択されているPCT出願が、PCT第34条に基づいて補正された場合、 (b) 出願人が法律第29A条(5)の要件を満たす前に、国際予備審査報告書が作成された場合、 (c) その補正が、PCT第21条に基づいて英語で公開されていない場合、および (d) 出願人が法律第29A条(5)の要件を満たす時以前に、補正の英語翻訳文が提出された場合は、その出願に含まれる明細書、図面およびクレームは、補正の英語翻訳文が提出された日に補正されたものとみなされる。 (6) しかしながら、次の場合は、(5)は適用されない: (a) 局長が規則3.17Cまたは10.2(1)(d)に基づいて、出願人に対し通知した場合、および (b) 出願人が、次を行う場合: (i) 3.17B(2)(b)または10.2(3)(c)(ii)に記述された通知を提供すること、または (ii) 3.17B(2)(c)または10.2(3)(c)(iii)に基づいて、PCT第34条に基づいてなすことができた補正を放棄することを選択すること。 PCT規則13の2.4の表示 (7) 寄託された微生物に関する表示が、PCT出願にかかわるPCT規則13の2.4に従って提供される場合: (a) 出願に含まれる寄託は、当該表示を含むように訂正されたものとみなされる、および (b) その補正は、表示が国際事務局に提供された日に発生したものとみなされる。 不正確な翻訳文の訂正 (8) (3A)または(5A)に記述された補正の翻訳文における過誤または遺漏にPCT出願の出願人が気づく場合は、出願人は、補正の訂正翻訳文を提出することができる。 (9) 局長は、(3A)または(5A)に記述された補正の翻訳文が当該補正を正確に反映していないと合理的に信じる場合は、出願人宛の通知によって、出願人に対し、次の何れかを実行するよう要求することができる: (a) 補正の訂正翻訳文および当該訂正翻訳文の確認証明書を提出すること、 (b) 翻訳文の確認証明書を提出すること。 (10) 出願人に対して、(9)に基づく通知が出された場合は、出願人は、当該通知が出された日から2月以内に当該通知を遵守しなければならない。 (11) 法律第142条(2)(f)の適用上、PCT出願は、次の場合は失効する: (a) PCT出願の出願人に対して、(9)に基づく通知が出された場合、および (b) 出願人が、(10)によって要求される期間内に当該通知を遵守しない場合。 訂正の効果 (12) 本規則に従うPCT出願の補正の訂翻訳文の提出は、法律第29A条(3)の適用上の補正ではない。 |
*3:知的財産法改正(PCT翻訳等)規則2019年版 規則3.5AF(2D)
3.標準特許明細書
特許(特許書類様式要件)決定2022(Patents (Formalities Requirements for Patent Documents) Determination 2022、以下「様式要件」という。)では、出願書類に記載すべき要件が列挙されている。願書及び明細書の要件は以下のとおりである(様式要件11(1))。
(1) 特許願書
(2) 配列表を除く、発明の詳細な説明
(3) クレーム
(4) 要約
(5) 図面
(6) 該当する場合、配列表
特許法第40条2項によると、標準特許の明細書は、当業者により実施されるのに十分明確で完全に発明を開示し、出願人の知る限り最良の発明の実施形態を開示しなければならない。
第40条 明細書 仮明細書に関する要件 (1) 仮明細書は、関連技術の熟練者が発明を実行するのに十分明瞭で、かつ、十分完全な方法で当該発明を開示しなければならない。 完全明細書に関する要件 (2) 完全明細書は次のとおりでなければならない。 (a) 関連技術の熟練者が発明を実行するのに十分明瞭で、かつ、十分完全な方法で当該発明を開示すること (aa) 出願人が知る、発明実行の最善の方法を開示すること (b) 標準特許出願に関係する場合は、発明を定義する1以上のクレームで終わること、および (c) 革新特許出願に関係する場合は、発明を定義する少なくとも1で、5以下のクレームで終わること (3) クレームは、明瞭、かつ、簡潔で、明細書に開示された事項により裏付けられていなければならない。 (3A) クレームは、発明を定義するために絶対的に必要な場合を除き、説明、図面、グラフィックスまたは写真を参照してはならない。 (4) クレームは、1の発明のみに係わるものでなければならない。 |
3-1.発明の詳細な説明
詳細な説明の各ページには、ページの上部中央にアラビア数字で1から始まる連続した番号(1,2,3,…)を振らなければならない(様式要件11(2))。
特許明細書の書き方(How to write a specification for your patent application)によれば、詳細な説明は、通常、以下の情報を(以下の順序で)含める。
・発明の題名
・分野(発明が関連する分野)
・発明の背景
・発明の要約
・図面の簡単な説明(図面がある場合)
・実施例の説明
・配列表(配列表がある場合)
・引用文献(引用文献がある場合)
詳細な説明は図面を含んではならないが、化学式、数式、および表は含んでも良い(様式要件13(2))。
3-2.クレーム
クレームは発明を規定する(特許法第40条2項(b))。クレームは詳細な説明とは別の用紙から始めなければならない(様式要件9(1))。各クレームは、1から連続して番号を振らなければならない(様式要件11(4))。クレームは図面を含んではならないが、必要に応じて化学式、数式、および表は含んでも良い(様式要件13(3))。
特許法第40条3項、3A項および4項によると、クレームは、(a)明瞭かつ簡潔であり、明細書に開示された事項によりサポートされていなければならない(3項)。(b)発明を規定するために絶対的に必要でないかぎり、詳細な説明または図面を参照してはならない(3A項)。(c)単一の発明のみに関連するものでなければならない(4項)。
なお、マルチクレームは、オーストラリアでは許可されている。
3-3.要約書
要約書は別の用紙から始めなければならず(様式要件9(1))、規則3.3(1)および(2)によれば、要約書は好ましくは50語ないし150語であり、詳細な説明、クレームおよび図面に含まれる技術的な開示の簡潔な要約でなければならない。図面により記載される各主要な技術的特徴は、括弧に入れた参照符号を付さなければならない(例えば、「部材(10)」)(規則3.3(4))。さらに、要約書は図面を含まなくても良いが、必要に応じて化学式、数式、および表は含んでも良い(様式要件13(2))。
規則3.3 要約 (1) 要約は、次のものをもって構成しなければならない。 (a) 発明の説明、クレームおよび図面(あれば)に記載されている開示の概要であって、次の内容を有するもの (i) その発明が属する技術分野を表示していること、および (ii) 技術的課題、当該発明による課題解決についての要旨および当該発明の主要用途が明瞭に理解することができるように作成されていること、ならびに (b) 該当する場合は、明細書に記載されている全ての化学式のうちで、発明の特徴を最も良く示しているもの (2) 要約は、開示内容に応じてできる限り簡潔にし、望ましくは50語から150語までとしなければならない。 (3) 要約には、クレームされた発明について主張される長所若しくは価値、または推測的な用途に関する陳述を含めてはならない。 (4) 要約に記載され、かつ、明細書の図面に図示されている主要な技術的特徴の各々には、括弧に入れた参照記号を付さなければならない。 (5) 要約は、特定の技術分野を調査するための探査手段として有効に役立つように、特に前記の目的で明細書自体を検討する必要があるか否かについての意見を形成する上での支援になるように、作成されていなければならない。 (6) 要約は、その要約が関係する明細書の主題である発明の内容を解釈するに際しては、考慮に入れられない。 (7) 完全出願と共に提出された要約における情報は、法律第102条(1)の適用上、ある事項が提出された明細書に実質的に開示されていたか否かの決定に際しては、考慮に入れることができる。 |
3-4.図面
図面は別の用紙から始めなければならない(様式要件9(1))。図面のページは、ページ番号と全体のページ数を示さなければならない(例えば1/5、2/5等)(様式要件11(3))。各図面は、詳細な説明とは別に1から番号を振らなければならない。(様式要件16(17))。
図面は、耐久性があり、濃く、均一な太さおよび鮮明な線で作成しなければならない(様式要件16(1))。オーストラリア特許庁がデータ取り込みのためにスキャンした際に情報が失われる可能性があるので、グレースケールの画像は通常使用すべきではない。図面の各要素は、他の要素と互いに同じ寸法比率にしなければならない(様式要件16(11))。
図面は、理解に必要な語以外の文言を含んではならない(様式要件14)。図面において参照符号が付される場合、その参照符号は発明の詳細な説明において言及されなければならない(様式要件16(18))。逆に図面に付されていない参照符号は発明の詳細な説明において言及されてはならない(様式要件16(19))。
4.イノベーション特許
オーストラリアには、イノベーション特許と呼ばれる、標準特許とは異なる権利保護の制度が存在する。イノベーション特許は、通常短い商品サイクルの発明を保護するもので、20年間保護する標準特許と比較して、8年間という短い保護期間となっている。イノベーション特許は、最大で5つのクレームまでしか含むことはできず、上述の標準特許の書類に関する全ての要件を満たさなければならない。
イノベーション特許には、特許査定前の審査制度がないため、通常は出願から1か月以内で特許査定される。イノベーション特許を権利行使するには、査定後に「認定」審査が必要となる。イノベーション特許は、進歩性に準ずる革新性を有するか評価はされるが、革新性のレベルは、標準特許で求められる進歩性よりも低い。イノベーション特許が「認定」されると、出願人は権利行使することができる。この認定審査のプロセスに通常およそ6か月かかる。
なお、イノベーション特許出願制度は段階的な廃止が決定されており、2021年8月26日以降は新規の出願ができなくなっているが、存続している登録されたイノベーション特許については、引き続き審査請求可能である。
オーストラリアにおける庁指令に対する応答期間
オーストラリアにおける実体審査においては、実体審査の結果、拒絶理由が見出された場合、拒絶理由を指摘する第一回庁指令の日付から起算する所定期間内(以下、「受理期限」)に、全ての拒絶理由を解消し、出願が受理されなければならない。この受理期限までに、全ての拒絶理由が解消されない場合、受理期限の経過後、出願は失効する。庁指令毎に応答期間は定められていない。庁指令の発行とそれに対する応答を受理期限までに複数回行う場合にも、受理期限までに全ての拒絶理由を解消し、出願が受理されなければならない。従って、受理期限までに出願が受理されるように、全ての拒絶理由に対する応答を受理期限より前に十分余裕をもって出願人は提出する必要がある。
(特許法第49条、第49A条)
実体審査は、審査請求により開始される。審査請求は、標準特許出願(存続期間:20年間)においては出願人が、登録されたイノベーション特許(存続期間:8年間、無審査登録主義)においては特許権者および第三者が行い得る。なお、イノベーション特許出願制度は段階的な廃止が決定されており、2021年8月26日以降は新規の出願ができなくなっているが、存続している登録されたイノベーション特許については、引き続き審査請求可能であり、関係条文が残っている。実体審査において、標準特許出願については出願の受理を、イノベーション特許についてはイノベーション特許が特許要件を満たしていることを決定する審査証明書を、下記期限までに受けなければならない。
(1)標準特許出願:2013年4月15日より前に審査請求された場合は第一回庁指令の日から21か月、2013年4月15日以降に審査請求された場合は第一回庁指令の日から12か月(2013年4月15日、2012年法律第35号で改正された1990年特許法が施行)。
(2)イノベーション特許:第一回庁指令の日から6か月。
(特許法第44条、第49条、第67条、第68条、第101B条、第101E条、特許規則9A.4、規則13.4)
標準特許の付与を受けるためには、付与前の審査請求が必要である。イノベーション特許は、実体審査を経ずに登録されるが、登録後に実体審査を受け、特許要件を満たしていることを決定する審査証明書を受けた後でなければ権利行使をすることができない。イノベーション特許の登録後の審査の請求は、特許権者だけでなく第三者も請求することができる。
(特許法第44条、第101A条)
標準特許出願では、当該受理期限までに、審査官が提起する全ての拒絶理由を解消し、審査官がその出願を受理できる状態にしないと標準特許出願は失効する。また、イノベーション特許は、所定期間内に特許要件を満たしている旨の「認証(審査証明書)」を取得できないと失効する。
(特許法第101E条、第142条、特許規則9A.4、規則13.4)
いずれの場合も、特許庁による拒絶に対して裁判所に不服申立をすると、受理期限は延長される。なお、受理期限は、後述する場合を除き、期間延長の請求や料金の支払いをしても延長することはできない。
(特許法第51条、第142条、第223条、特許規則13.4)
なお受理期限が第一回庁指令の日から21か月の場合(すなわち、2013年4月15日より前に審査請求した場合)、第一回庁指令の日付から12か月以降に庁指令への応答書を提出する際には、応答の遅延による手数料が必要となるが、延長申請は必要ではない。
(特許規則13.4)
受理期限の延長に関する規定は、受理期限までに全ての拒絶理由を解消し、出願の受理を受けることができなかったことが、故意によるものではないと立証できる場合にのみ適用される。「故意によるものではない」事情としては、例えば、「自然災害のように出願人が制御することができない状況」または「過誤または遺漏」が挙げられる。延長のためには、証拠の提出を伴った詳細な理由を提示しなければならず、証拠の準備および詳細な理由の作成のために費用と労力を要する。
(特許法第223条、特許規則22.11))
また受理期限までに全ての拒絶理由を解消し、出願の受理を受けることが困難であることが事前に判断できる場合には、受理期限までに分割出願を行い、分割出願において審査を継続することが、出願の権利化を進めるための安全な方法である(イノベーション特許出願についても、分割出願は可能である)。一方、上述の「故意によるものではない」事情がある場合には、受理期限の経過後に延長に関する規定を適用することもできる。この際に申請する延長期間の長さは制限されていない。ただし、受理期限の経過を知った後、延長申請までに不当な遅延がある場合、これは延長申請の却下理由となる。
(特許法第79B条、第79C条、特許規則2.3、規則6A.1、規則6A.2)
オーストラリアにおける特許出願から特許査定までの期間の現状と実態に関する調査
「五大特許庁及びその他主要知財庁における特許出願から特許査定までの期間の現状と実態に関する調査報告書」(平成29年3月、日本国際知的財産保護協会)第II部11
(目次)
第II部 国内外公開情報調査
11 オーストラリア P.175
概括表
オーストラリアの商標法における「商標」の定義の観点からの識別性
「商標の識別性に関する課題(「認証・証明マークの保護」及び「商標の定義」の観点から)についての調査研究報告書」(平成29年3月、知的財産研究教育財団知的財産研究所)資料編II-1-6
(目次)
資料編
資料II 「商標」の定義の観点からの識別性に関する課題
資料II-1 海外質問票調査結果の詳細(10か国・地域)
6 オーストラリア P.369
オーストラリアの商標法における「認証・証明マーク」についての識別性の要件・考え方および地理的表示(GI)の保護制度との関係
「商標の識別性に関する課題(「認証・証明マークの保護」及び「商標の定義」の観点から)についての調査研究報告書」(平成29年3月、知的財産研究教育財団知的財産研究所)資料編I-1-6、I-2-6
(目次)
資料編
資料I 「認証・証明マークの保護」の観点からの識別性に関する課題
資料I-1 海外質問票調査結果の詳細(10か国・地域)
6 オーストラリア P.217
資料I-2 海外質問票調査の各国回答(10か国・地域)
6 オーストラリア P.277
オーストラリアにおけるマドリッド協定議定書の基礎商標の同一性の認証と商品・役務に関する審査の在り方
「マドリッド協定議定書の利用促進の観点からの調査研究報告書」(平成28年3月、日本国際知的財産保護協会)4.3.10、6.3.6(6)
(目次)
4 基礎商標の同一性の認証に関する文献調査結果
4.2 調査結果概要
4.2.3 各国別の調査結果一覧
表2 各国知的財産権庁からの調査票回答及び文献調査結果一覧表(3) P.38
4.3 各国の特徴
4.3.10 オーストラリア P.166
6 商品・役務の審査について
6.1 調査方法 P.533
6.2 調査結果概要 P.535
6.3 主な指定国における商品・役務の表示に関する審査の傾向
6.3.6 その他の指定国について
(6) オーストラリア P.675