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ベトナムにおける特許の早期権利化の方法

1.特許の審査期間に関する規定と運用実務
 ベトナムにおける特許出願は、出願日から1か月以内に方式について審査され(ベトナム知的財産法(以下、「知的財産法」という。)第119条第1項)、実体審査の期限は、出願の審査請求が公開日前に行われたときは出願の公開日から,または審査請求が公開日後に行われたときは,出願の審査請求の日から18か月以内とされている(知的財産法第119条第2項a)。しかし、実務的には法律で定められたとおりには進まず、2021年に登録された特許では、出願日から登録日までの平均期間が5.0年とされている※1
※1 「ASEAN 産業財産権データベースから得られる特許および実用新案の統計情報」JETRO 2022年3月 https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/asean/ip/pdf/report_202203_asean.pdf

(1) 特許審査ハイウェイ
 日本国特許庁(以下、「JPO」という。)とベトナム国家知的財産庁(以下、「IP VIET NAM」という。)は、特許審査ハイウェイ試行プログラム(以下、「PPH試行プログラム」という。)を2016年4月1日より実施し、2022年4月1日より、試行期間を3年間延長した。新しい試行期間は2025年3月31日で終了予定となるが、必要に応じて延長される予定である。
 出願人は、日本-ベトナム間のPPH試行プログラムにおける申請要件を満たす日本出願に基づくIP VIET NAMへの特許出願につき、関連する書類の提出を含む所定手続を行うことで早期審査を申請することができる。PPH 試行プログラムを申請する場合には、出願人は、IP VIET NAMに申請様式を提出する。
 なお、2022年4月1日から2023年3月31日までの期間にIP Viet NamとJPOとの間の協力協定に基づき、IP Viet Namで受理されたPPH申請の総数は132件である※2
※2 「【ベトナム】ベトナム、特許審査ハイウェイ(PPH)プログラムによる特許出願の早期審査申請受付に関する報告について」JETRO 2023年4月 https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/asia/2023/vn/20230411.pdf

(2) 早期公開の請求
 前述のとおり、実体審査の期限は、出願の審査請求が公開日前に行われたときは出願の公開日から,または審査請求が公開日後に行われたときは,出願の審査請求の日から18か月以内とされている(知的財産法第119条第2項a)。したがって、特許出願の公開時期を早めることは、早期権利化のための有効な手段の一つである。
 通常、特許出願は、出願日、もしくは優先権を主張している場合は優先日から19か月、または方式審査承認通知日から2か月以内のいずれかのより遅い期日に公開される(知的財産法第110条第2項、科学技術省・省令第01/2007/TT-BKHCN号(以下、「省令」という。)14.2a.i)。
 一方、出願人が所定の手数料を支払って、早期公開請求書を提出すれば、特許出願は、その請求の受領日から2か月以内に公開される(知的財産法第110条第2項、省令14.2.a.iii)。
 よって、出願と同時に早期公開請求と実体審査請求を行うことが、早期権利化に有効である。

 また、ベトナムを指定した国際出願の場合は、早期の国内段階への移行手続と早期公開請求を行うことが、早期権利化に有効である。
 ベトナムを指定した国際出願の処理の開始時点は、優先日から32か月であるが、出願人は、より早い時点での国内段階移行を文書で請求することができる(省令27.7b)。ベトナム国内段階に移行した国際出願は、通常の特許出願に係る手続に従い、方式審査および実体審査を受ける(省令27.7c)。国内段階への移行とともに出願人が所定の手数料を支払って、早期公開請求書を提出すれば、特許出願は、その請求の受領日から2か月以内に公開される(知的財産法第110条第2項、省令14.2.a.iii)。よって、出願人が、ベトナム国内段階への早期の移行手続と早期公開の請求を行うことで、ベトナムを指定した国際出願の早期権利化につながる。
 実務上、国際出願が国際公開される前のような極めて早い段階でベトナム国内段階に移行する場合がある。しかし、前述のとおり、通常はベトナム国内段階に移行した国際出願は優先日から32か月後に方式審査が開始される。国内段階への早期の移行手続と早期公開のための申請書を提出しIP VIET NAMがこれに同意したとしても、国際段階での国際公開がなされていないかぎりベトナムでの方式審査は始まらない。したがって出願人が、国際出願がベトナム国内段階に移行してすぐ方式審査を望む場合は、特許協力条約(以下、「PCT」という。)第21条(2)(b)およびPCTに基づく規則(以下、「PCT規則」という。)第48.4条に基づき、国際出願の早期公開請求を行う必要がある。

(3) 国際出願の審査の早期開始の請求
 国内段階に移行した特許出願の出願人は、PCT第23条(2)に基づいて、早期審査請求を書面で提出し、所定の費用を支払うことで、審査の早期開始を請求することがきる(省令27.7c)。よって、前述のベトナム国内段階への早期の移行手続と早期公開の請求と合わせて請求すれば、早期権利化の手段となる。
 この省令27.7cの規定は、出願人が書面で請求し所定の費用を払えば、所定の期限の前に手続を行うようにIP VIET NAMに請求できると規定する省令9.3によって裏付けられていると解釈できるが、同規定が定めるとおり、IP VIET NAMは具体的な理由を示した通知を行えば、この請求を拒絶できることに留意が必要である。

(4) 外国対応出願の審査結果の活用
 IP VIET NAMは、特許出願の審査をするとき、特許出願の内容について外国の特許庁の審査結果を参考にすることができる(知的財産法第114条(3))。また、科学技術大臣は、この規定が定める特許出願の審査結果の使用について、その詳細を定める(知的財産法第114条(4))※3。また、従前より、IP VIET NAMが実体審査を行う際、対応する外国出願の引例と審査結果から得られる情報を活用できるとされていた(省令15.2)。
※3 知的財産法第114条(3)は、2023年1月1日の施行であるが、科学技術大臣が定める詳細については、現時点で未公表である。

 実務的には、IP VIET NAMの審査官は、特許性を判断する際、カナダ、アメリカ、日本、ロシア、英国、スウェーデン、オーストリア、スペイン、韓国、中国、ドイツ、EPO(欧州特許庁)、EAPO(ユーラシア特許庁)といった国・地域、なかでもEPO、日本、米国、中国、韓国における対応する出願の審査結果をしばしば参考にしている。

 特許査定が下される多くのケースでは、ベトナムでの実体審査において対応する外国特許と同様となるようにクレームと発明の詳細な説明を補正するよう命じる指令書が発行されている。したがって、外国とりわけ日本、EPO、米国で対応する特許が付与されている場合、出願人は特許性を確保するために対応する外国出願にあわせて自発的にクレームを補正するほうがよい。通常、対応する外国特許に準拠するための基本条件は、補正された請求範囲が先の出願の保護請求の範囲を超えていないことである。

(5) ASEAN特許審査協力(ASPEC)プログラム※4
 ASPECは、参加国の特許庁間で特許審査および審査結果を共有して審査を早期化するとともに、審査の質を向上させる制度であり、2009年6月15日に運用が開始された。
 実務的に、ASPECは審査早期化の非常に有効なツールとして活用できる。これまでのところASPECを利用した特許出願の件数はあまり多くないが、ASPECがもたらす審査早期化というメリットは否定できない。通常の実体審査では、1回目のオフィスアクションが出されるまでには、少なくとも審査開始から18か月程度を要する。しかし、ASPECを利用した初の事案では、実体審査に要したのはわずか2か月程度だった。
※4 ASPECの概要や申請の要件については、下の関連記事に解説がなされているので参照されたい。
「ASEAN特許審査協力(ASPEC)プログラム」https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/24171/

(6) 審査官との面接
 審査官とベトナムの弁理士の間で審査を円滑・迅速に進めるための面接が行われる場合がある。この面接は、電話、あるいは対面での面談で行うことができ、審査官と弁理士は、当該出願が特許性を獲得するための有効な手段(例えば、対応する特許にあわせて補正した場合に特許査定を得られる可能性など)を協議する。

2.特許の早期権利化を実現するベストプラクティス
 特許を早期権利化するために取り得る手段を紹介してきたが、最善の方法は、出願内容を対応する外国特許に沿ったものにするとともに、特許審査ハイウェイ、またはASPECの申請を組み合わせることである。経験上も、対応する外国特許に合わせることで特許性が満たされて特許付与の条件が整うと、ASPEC制度等の申請により、ASPEC等を申請していない出願よりも、当該出願の審査を早期化することができる。

インドネシアにおける政府による知的財産に関する各種優遇・支援制度

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ベトナムにおける特許の早期権利化の方法

【詳細】

(1)理論と実務

ベトナムにおける特許出願は、規則上は出願から約2年で審査段階における査定が下される。この2年との期間は、出願日から方式審査までの1ヶ月、方式審査承認通知日から公開までの2ヶ月、公開日もしくは審査請求日から最初の指令書の発行までの18ヶ月、そして特許付与手続きのための3ヶ月が含まれている。また早期審査を受ける場合は、出願日から査定日までの期間を短縮可能である。

 

しかし、実務的には理論上には進まず、通常、特許付与までに平均3~4年を要する。また、早期審査が科学技術省・省令第01/2007/TT-BHKCN号の第9.3条および第27.7.c条に規定されているが、ベトナム国家知的財産庁が抱える滞貨案件(バックログ)を理由として、早期審査の受け入れは一時的に停止されている。

 

(ⅰ)早期公開の請求

2009年に改正された知的財産法第15条によれば、実体審査の期限は、出願公開前に審査請求された場合は公開日から18ヶ月、出願公開後に審査請求された場合は審査請求の日から18ヶ月である。すなわち早期権利化の効果的手段は早期公開である。

 

省令第01/2007/TT-BHKCN号第14.2.a.i条が定める通り、特許出願は優先日から19ヶ月目、または優先主張していない場合は出願日から19ヶ月目、または方式審査承認通知日から2ヶ月以内のいずれか最先に到来する日に公開される。つまりパリ条約に基づく出願は、優先日から19ヶ月目まで公開されない。ただし出願人は所定の料金を支払い、早期公開請求書を提出することができる。

 

一方、ベトナム国内段階に移行した国際出願は方式審査アクセプタンス日から2ヶ月以内に公開される。この方式審査の手続きは優先日から32ヶ月目に始まる。ただし出願人は、省令第01/2007/TT-BKHCN号(ベトナム国内段階に移行した国際出願の早期審査に関する2010年7月30日付省令第13/2010/TT-BKHCN号および2011年7月22日付省令第18/2011/TT-BKHCN号により改正/追加)第27.7.b)条に基づき、早期処理に関する申請書を提出して、ベトナム国内段階に移行した国際出願の方式審査と公開を早期化することができる。

 

実務上、国際出願が国際公開される前であるような極めて早い段階でベトナム国内段階に移行する場合がある。しかし特許規則の下では、ベトナム国内段階に移行した国際出願は優先日から32ヶ月後に方式審査が開始される。方式審査についての早期審査と早期公開のための申請書を提出し、国家知的財産庁(NOIP)がこれに同意したとしても、国際段階での国際公開がなされていないかぎりベトナムでの方式審査は始まらない。したがって出願人が、国際出願がベトナム国内段階に移行してすぐの方式審査を望む場合は、特許協力条約(PCT)第21.2.b条およびPCTに基づく規則第48.4条に基づき、国際出願の早期公開請求を行う必要がある。さらに出願人は、特許協力条約第23.2条に基づき、ベトナム国家知的財産庁(NOIP)に国際出願の早期審査を請求することもできる。

 

早期公開に加えて、出願人は実体審査が速やかに行われるように、できるだけ早く(最も望ましいのは出願時)に実体審査請求を行うことが望ましい。

 

(ⅱ)早期審査の請求

省令第01/2007/TT-BKHCN号第27.7.c条(2010年7月30日付省令第13/2010/TT-BKHCN号と2011年7月22日付省令第18/2011/TT-BKHCN号により改正)、および特許協力条約第23(2)は、出願人が早期審査請求を書面で行い、所定の費用を支払った場合、国際出願の早期審査が行われると規定している。この規定は、出願人が書面で請求し所定の費用を払えば、所定の期限内に審査手続きを取るよう国家知的財産庁(NOIP)に請求できるとする、省令01/2007/TT-BKHCN号第9.3条によって強化されている。しかし同条が定めるとおり、国家知的財産庁(NOIP)は具体的な理由を示した通知を行えば、この請求を拒絶できる。

 

前述の通り、国家知的財産庁(NOIP)は現在、滞貨案件(バックログ)を理由として早期審査を一時的に認めていない。したがって、この手続きはあくまで参考までの理解とし、現時点ではこの運用は期待できない。

 

(ⅲ)外国対応出願の審査結果の活用

省令第01/2007/TT-BKHCN号第15.2条は、国家知的財産庁(NOIP)が実体審査を行う際、外国対応出願の引例と審査結果から得られる情報を活用できると明記している。実務的には、国家知的財産庁(NOIP)の審査官は特許性を判断する際、カナダ、アメリカ、日本、ロシア、英国、スウェーデン、オーストリア、スペイン、韓国、中国、ドイツ、EPO(欧州特許庁)、EAPO(ユーラシア特許庁)といった国・地域、なかでもEPO、日本、米国、中国、韓国における対応出願の審査結果をしばしば参考にしている。

 

特許査定が下される多くのケースでは、ベトナムでの実体審査において外国対応特許と同様となるようにクレームと発明の詳細な説明を補正するよう命じる指令書が発行されている。したがって、外国とりわけ日本、EPO、米国で対応特許が付与されている場合、出願人は特許性を確保するために外国対応出願にあわせて自発的にクレーム補正をするほうがよい。通常、外国対応特許に準拠するための基本条件は、補正された請求範囲が原出願の保護請求の範囲を超えていないことである。

 

(ⅳ)ASEAN特許審査協力(ASPEC)プログラム

ASPECは、参加国の特許庁間で特許審査および審査結果を共有して審査を早期化するとともに、審査の質を向上させる制度である。

 

実務的に、ASPECは審査早期化の非常に有効なツールとして活用できる。これまでのところASPECを運用した特許出願の件数はあまり多くないが、ASPECがもたらす審査早期化というメリットは否定できない。通常の実体審査では、1回目のオフィスアクションが出されるまでには、少なくとも18ヶ月程度を要する。しかしASPECを運用した初の事案では、実体審査に要したのはわずか2ヶ月程度だった。

 

(ⅴ)審査官との面接

審査官とベトナムの弁理士の間で面接が行われる場合がある。この面接は電話、あるいは直接の面談で行うことができ、審査官と弁理士は当該出願が特許性を獲得するための有効な手段(例えば対応特許にあわせて補正した場合に特許査定を得られる可能性など)を協議する。

 

(2)特許の早期権利化を実現するベストプラクティス

特許を早期権利化するために取り得る手段を紹介してきたが、最善の方法は、出願内容を外国対応特許に沿ったものにすることと、ASPECを申請することの2点を組み合わせることである。経験的にも、外国対応特許に合わせることで特許性が満たされて特許付与の条件が整うと、ASPEC制度の申請により、ASPECを申請していない出願よりも、当該出願の審査を早期化することができる。。