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アルゼンチンにおける商標制度

1.法的枠組み
 アルゼンチンにおける商標制度は、アルゼンチン商標法および商標規則(Decreto 242/2019)に規定されている。
 アルゼンチンは、パリ条約、GATT-TRIPS協定といった知的財産および商標に関する規則および規定を含んでいる国際条約の加盟国でもある。ただし、マドリッドプロトコルには加盟していない。

2.商標権の主体
 国内または外国のいかなる個人または事業体も、アルゼンチンにおいて商標出願を行ない、その商標権者となることができる(商標法第10条)。複数の権利者が一つの商標を共有することもできる(商標法第9条)。

3.出願の方式要件
 商標出願を提出するために必要な出願人に関する情報は、以下のとおりである。

(1) 出願人の正式名(商標法第10条)
(2) 実際の住所および連絡先となるブエノスアイレス市内の法定住所(商標規則第10条)
 また、条文規定にはないが、個人である場合は、国籍および既婚・未婚の区別が必要とされる。個人による権利の譲受けの際に必要とされるためである。

 出願人情報以外の方式要件として、以下のものが要求される(「商標に関する説明(Instructivo de Marcas)」を参照)。
(1) 商標の種類(商標法第1条、第10条)
 文字標章、図形標章、混合標章等々。出願人はどの種類の標章を出願するのか提示しなければならない。
(2) 保護を求める区分(商標法第10条、商標規則第12条、決議288/2019)
 1出願に複数区分の出願は不可、また「クラス全体」と記載することは不可である。
(3) 優先権書類(商標規則第12条、パリ条約第4条)
 海外で行われた出願について、優先権を主張する場合に必要である。
(4) 所有権(商標法第4条、第10条)
 所有権は商標の登録によって取得される。自然人であるのか、法人であるのか、また複数人による所有となるのか、また連絡先としてアルゼンチン国内の住所が必要である。
(5) 代表者(商標規則第12条、決議P-62/2001)
 個人であるのか、代理人であるのか、代理人であればその代理人名、識別番号と委任状が必要、またINPIからの連絡先メールアドレスが必要である。
(6) コメント
 必要と思われる追加情報、非伝統的商標の場合、その種類の説明などを記入する。

 アルゼンチンは、商品および役務に関するニース分類の第11版を適用しているが、1出願に2分類以上の分類を指定する出願は認められていないため、出願人は区分ごとに出願をしなければならない。これは1980年に商標法が起草された時点で、複数区分1出願は想定外であり、多区分1出願を認めない規定が設けられなかったが、これが慣例として残っているためである。
 出願は、「クラス全体」と記載することは受け付けられないが、該当する区分における全ての商品または役務を個別に記載することで全体を指定することができる(決議288/2019)。

4.存続期間
 商標は登録日から10年の存続期間を有し、その後は、更新期日前の5年以内に商取引において使用されていることを条件として、10年ごとに更新することができる(商標法第5条)。

5.保護範囲
 以下のものが、商標として登録可能である(商標法第1条)。

(1) 意味の有無を問わないあらゆる言葉、および図案
(2) 紋章
(3) 印章
(4) 肖像
(5) 商品またはそのパッケージに用いられる色の組合せ
(6) パッケージ
(7) 文字と数字の組合せ
(8) 識別力のある書体による文字または数字
(9) キャッチフレーズ

 問題となるのは、商標が識別力を有しているかどうかであるため、匂い、音および立体商標もアルゼンチンにおいて登録可能である(商標法第1条、商標に関する説明2.1)。
 商標法第2条の規定に基づき、指定商品もしくは役務の必然的もしくは一般的な呼称とみなされる、または、指定商品もしくは役務の機能、品質、その他の特徴の説明とみなされる名称および言葉は、商標として認められない。商品の形状も、商標とはみなされない。また、商品本来の色または商品全体に用いられる単一の色も、商標とはみなされない。
 さらに、商標法第3条の規定に基づき、先行商標と同じ商品または役務を対象とする同一または類似の商標は、登録できない。同様に、原産地名称、または指定商品もしくは役務の性質、品質、製造技術、機能、出所、その他の特徴に関して誤認を招くおそれのあるいかなる商標も、登録できない。アルゼンチン国家、地方自治体または他の国家および承認された国際機関により使用されている名称、言葉または象徴も登録できない。営業活動の説明的な呼称も登録することはできない。
 最も一般的な拒絶理由は、同一または類似の商品または役務に用いられる先行商標との混同のおそれである。
 商標が先行商標と混同を生じるほど類似しているかどうかを判断するためには以下について検討しなければならない。
(1) 商標間における外観類似、称呼類似および観念類似があるかどうか。なお、観念上の相違が存在する場合には、外観上または称呼上の類似が存在するかどうかに関係なく、当該商標の登録は許可される(明示的な条文は無い。これまでの判例等により、経験的に培われたもの)。
(2) 商品または役務の抵触または類似点が存在するかどうか(商標法第3条)。
(3) 商品または役務の需要者、さらに販売ルートが同じかどうか(明示的な条文規定は無い。これまでの判例等により、経験的に培われたもの。商品が同じ取引チャネルで提供され、同じ消費者に向けられた場合、そうでない場合よりも混同の可能性が高くなる)。
(4) 双方の商標が図案を含んでいる場合は、商標の文字部分を比較することが最も重要である(明示的な条文規定は無い。これまでの判例等により、経験的に培われたもの)。

 著名商標は、指定商品または役務の需要者であるかどうかに関係なく、特別な保護が与えられる。したがって、著名商標は、後願と同じ区分に登録されていなくても、後願の登録を阻止することができる。産業財産庁は著名商標の認定を行わないが、裁判所は、判例を考慮しながら、該当事件で提出された証拠に基づいて、著名商標を認定することができる。ただし、世界的な知名度と評判がある場合、著名性を立証することなく著名商標の認定を受けることができる(法律等に明示的な条文規定は無いが、アルゼンチンではパリ条約やGATTは法律と同等に扱われ、これらの規定に従い、著名商標に特別な保護を与えている)。

6.登録手続
 商標出願が提出された後、方式審査が行われ、全ての方式要件が満たされていると判断されると、当該商標は商標公報において公告される(商標法第12条、商標規則第12条)。
 公告には、出願された商標、出願人の名前、出願時の指定商品または役務、該当する場合は優先権情報、および出願日が含まれている(商標規則第12条)。
 公告の日から30日以内に、第三者は異議申立を提起することができるが、異議申立を提起する正当な利害関係がなければならない(商標法第4条、第13条)。
 異議申立期間が終了すると、産業財産庁は当該出願の実体審査を行う。実体審査は、商標法第12条にしたがって異議申立期間の終了から30日以内に行われる。産業財産庁は、登録簿において同一区分に同一または類似の商標が登録されているかどうかについて調査する(なお、現在標準的な審査期間は6か月程度かかっている)。
 実体審査において、登録可能性が裁定され(商標法第12条)、問題となる先行商標が見つからなければ、産業財産庁は登録証(現在では電子形式による)を発行し、登録手続が完了する。
 一方、産業財産庁が登録簿において問題となる先行商標を見つけた場合、当該先行商標を引用例とする拒絶理由通知が出願人に送達される。出願人は、拒絶理由通知に対して30日の応答期間(最大45日*1)を与えられ、その期間内に先行商標の権利者と友好的に和解する努力を通して、または先行商標の取得により、または和解交渉をより効果的に行う事を目的とした訴訟提起を通して、先行商標の問題を解消する必要がある。この最後の選択肢である訴訟は、先行商標に対する不使用取消訴訟または無効訴訟をいう(商標規則第15条、決議123/2019第6条)。
 産業財産庁による最終拒絶としての拒絶査定に不服の場合、連邦裁判所に提訴することができる(商標法第21条)。
*1:商標規則第15条では30日とされ、決議123/2019第6条により、料金の支払いにより1回目の延長で10日、2回目の延長でさらに5日、計15日が加算可能であり、総計45日の応答期間となる。

7.不使用取消
 登録商標を維持するには、商標は登録後5年以内に商取引において使用されなければならない。商標の登録日から6年目の初日以降、当該商標の使用がまだ開始されていない場合には、正当な利害関係を有するいかなる第三者も、商品または役務の一部についてであっても、当該商標の不使用を理由に取消しまたは部分的取消を請求することができる。この不使用取消の要求は産業財産庁への請求により対応され、決定に不服のある場合は、決定の通知後30日以内に、産業財産庁を通して、連邦商事審判所への審判請求が可能である(商標法第26条)。
 不使用取消を避けるためには、上記の5年以内に少なくとも一つの商品または役務に、商標が使用されていなければならない。なお、使用している商品または役務は不使用取消対象とされている当該商標登録の指定商品または指定役務である必要は無いが、かかる使用は商取引において行われなければならない。
 使用が十分に証明されなかった場合、当該商標は取り消され、登録簿から削除されることになる。これは、不使用による取消しの宣言による権利が消滅したとみなされるためである(商標法第23条)。

8.無効
 第三者が登録簿から商標を削除するもう一つの手段は、当該商標の無効宣言を求めて無効訴訟を提起することである。第三者の請求に基づいて商標の無効を宣言できるのは、連邦裁判所のみである。
 アルゼンチンでは、既に与えられ、有効と推定されている先行の権利を無効とし、消滅させるには、両当事者が互いに自身を守る権利を有するため、裁判によって決定されなければならないというのが一般原則であり、条文規定はない。
 無効宣言の理由は、商標法第24条に明確に定められている。

商標は、次の各場合に該当するときは,無効とする。
(a) 本法の規定に違反するとき
(b) 当事者が登録出願の際に当該商標が第三者に属していることを知っていたとき又は知っているべき立場にあったとき
(c) 商業的利用を目的として商標の登録を主な業務とする者による,商業的使用
産業財産庁は、商標局を通じ、自発的に又は当事者の請求により(a)にいう商標の無効を行政手続で決定する。
商標の無効に関する決定は、決定の通知後30就業日以内に連邦民事商事審判所への直接の申請を通じてのみ審判請求することができ、当該請求は産業財産庁宛てにする。

 最も一般的な理由は、商標権者が自己の出願時において当該商標が第三者に帰属することを知っていた、または知っていたはずとの理由に基づく冒認出願である。特に、真正な権利者と何の関係もない者により当該商標が出願された場合が最も多い。
 無効宣言を獲得するには、当該商標権者がアルゼンチンに出願した時点より前に当該商標が存在していたこと、さらに当該商標権者が当該商標の存在について知っていたことを立証しなければならない。その場合、カタログ、パンフレット、広告、スポンサー契約および請求書などの証拠を用いることができる。
 この無効訴訟に関しては、提訴時効はない。無効理由が相対的な無効、すなわち、商標の登録に悪意が無く、その原因が純粋に混同である場合、商標法第25条の規定により、無効訴訟を提起する権利は10年で消滅するが、絶対的な無効、すなわち、商標の登録が明らかに悪意を持って取得された場合、または、登録が先の権利のコピーである場合、無効を請求する時期に期限はなく、時効は適用されない。アルゼンチンの民法の原則として、条文規定は無いが、悪意が関与する場合、時効は適用されない。

9.未登録商標
 アルゼンチンでは、商標の登録は義務づけられていないが、未登録商標が保護されるためには、権利者は継続的に商取引において当該商標を使用しなければならず、相当の期間にわたり当該商標に関する顧客を生み出していなければならない。未登録でも保護され得る商標は、事実上の商標(de facto trademark)と呼ばれており、第三者に対する権利行使が可能である(明示的な条文は無い。これまでの判例等により、経験的に培われたもの)。

アルゼンチンにおける商標異議申立制度

 アルゼンチンにおいて、異議申立手続は、商標法第12条から第16条に規定されている。アルゼンチンの異議申立制度は独特であり他の国の制度とは異なっているが、世界のほとんどの異議申立制度と同様に、商標出願に対して異議を申し立てる機会を第三者に与えている。

 

 全ての商標出願は、方式審査を通過した後、商標公報において公告される。この商標公報は毎週水曜日に発行されている。公告された全ての商標出願は異議申立手続の対象となる。

 

 上記の公告日から30日間にわたり、正当な利害関係を有する第三者は正当な理由に基づく異議申立を提起できる。この30日の期間内であればいつでも異議申立を提起できるが、注意すべき点として、いかなる手段によってもこの期間を延長することはできない。

 

 異議申立書が上記の期間内に提出されなかった場合、第三者は異議申立を提起する権利を失うが、期間外に非公式な異議申立書を提出することはできる。ただし、この非公式な異議申立書は、審査官に対する拘束力がなく、実体審査においてほとんど考慮されない。

 

 異議申立は、書面により特許庁に提出しなければならず、異議申立人の正式名および詳細を明記し、異議申立の理由を明確に述べなければならない。また、異議申立を裏づける補足文書を同時に提出することができる。

 

 正当な利害関係を有するいかなる第三者も、異議申立を提起できる。このような利害関係には、いかなる国内または外国の事柄や関係が含まれる。

 

 正当な利害関係の概念は、極めて適用範囲が広い。保護に値する既存の先行権利、登録または先使用を証明できる者は、異議申立を提起する正当な利害関係を有する。言い換えれば、異議申立人は、自己の事業がその新規の出願により影響を受ける可能性があることを証明しなければならない。

 

 異議申立は、一般的に商標法第3条に定められた不登録事由の一つを根拠とする。例えば、先行商標と同一商品もしくは役務に関して出願された同一もしくは類似の商標、登録不可能な原産地名称、または特定の商品もしくは役務の性質、品質、製造技術、機能、出所その他の特徴に関して公衆の誤認を招くおそれのある商標などが挙げられる。アルゼンチン国家、地方自治体または他の国家により使用されている名称、言葉または象徴も登録できない。

 

 第三者が異議申立を提起する最も一般的な理由は、同一または類似の商品または役務に用いられる先行商標との混同のおそれである。しかし、他にも異議申立を提起できる状況は数多く存在する。例えば、登録された先行商標を所有していなくても、異議申立人の業務上の信用や知名度を利用して利益を得ようとする出願人を阻止する場合;出願が先行する商号と類似している場合;または出願が著作権やキャラクター名などの他の権利を侵害するおそれがある、もしくは他の規定に反するおそれがある場合、などが挙げられる。

 

 異議申立を提起する上で、登録された商標を所有している必要はない。使用されている商標であれば未登録であっても商標の所有者は異議申立を提起できる。ただし、当該所有者が相当の期間にわたり商取引において当該商標を継続して使用しており、当該先行商標に関する顧客を獲得していることを最終的に証明できなければならない。

 

 異議申立期間が終了すると、特許庁は当該出願の実体審査を行い、相対的拒絶理由となり得る先行商標の有無について調査する。この実体審査が行われた後、異議申立および審査官の引用する先行商標が一緒に、商標公報において公示されることで出願人に通知される。

 

 上記の通知から1年以内に、出願人は異議申立の友好的な取下げについて異議申立人と交渉しなければならない。この1年間の期間は延長することはできない。

 

 上記の通知の日以降、特許庁は異議申立に対する管轄権を失う。つまり特許庁は、提出された異議申立に関するいかなる問題も解決する権利がない。商標法は、異議申立の理由が何であれ、提起された異議申立に関して、特許庁が何らかの決定を下すことを認めていない。

 

 上記の1年の期間内に、異議申立の友好的な取下げについて交渉するのは、両当事者のみに委ねられている。

 

 友好的な異議取下げに到達する手段として、異議申立人の商標の商品または役務と重複しないように出願の指定商品または役務を限定する、同じ理由により出願の指定商品または役務を削除する、異議申立人の商標を買い取る、または何らかの異議取下げ条件に関する合意書に署名することが挙げられる。

 

 上記のいずれかの合意に達した場合、上記の1年の期間内に合意書が特許庁に提出されなければならず、その後に特許庁は当該商標出願の登録を認可することができる。

 

 異議申立人が複数存在する場合は、全ての異議申立人に対してこの手続を取らなければならない。

 

 一方、上記の1年の期間内に当事者間で合意に達しない場合は、商標法第16条の規定に従い、出願人は当該1年の期間が満了する前に、異議申立に対する訴訟を連邦裁判所に提起しなければならない。

 

 注意すべき重要な点として、異議申立に対する訴訟を提起する前に、出願人は強制調停手続を遂行しなければならない。つまり上記の1年の期間内に、調停手続を遂行した上で、異議申立に対する訴訟を提起しなければならない。調停手続を遂行しない場合は、当該出願は自動的に放棄したものと看做される。

 

 上記の訴訟が提起された場合、出願人の出願は、裁判所が最終決定を下すまで、特許庁により保留にされる。

アルゼンチンにおける商標制度

1.法的枠組み

 

アルゼンチンにおける商標制度は、アルゼンチン商標法および商標規則に規定されている。

 

アルゼンチンは、パリ条約、GATT-TRIPS協定といった知的財産および商標に関する規則および規定を含んでいる国際条約の加盟国でもある。ただし、マドリッドプロトコルには加盟していない。

 

2.商標権の主体

 

国内または外国のいかなる個人または事業体も、アルゼンチンにおいて商標出願を行ない、その商標権者となることができる。複数の権利者が一つの商標を共有することもできる。

 

3.出願の方式要件

 

商標出願を提出するために必要な出願人に関する情報は、次のとおりである。

(1)出願人の正式名

(2)実際の住所および連絡先となるブエノスアイレス市内の法定住所

(3)個人である場合は、国籍および既婚・未婚の区別

 

出願人情報以外の方式要件として、次のものが要求される

(1)商標見本

(2)指定商品または役務

(3)優先権を主張する場合は優先権情報

(4)代理人委任状(公証人およびアポスティーユにより認証されたもの)

 

アルゼンチンは、商品および役務に関するニース国際分類の第11版を適用しているが、1出願に2分類以上の分類を指定する出願は認められていないため、出願人は区分ごとに出願を提出しなければならない。出願は、該当する区分における全ての商品または役務を指定することができる。

 

4.存続期間

 

商標は登録日から10年の存続期間を有し、その後は、更新期日前の5年以内に商取引において使用されていることを条件として、10年ごとに更新することができる。

 

5.保護範囲

 

以下のものが、商標として登録可能である。

(1)意味の有無を問わないあらゆる言葉、および図案

(2)紋章

(3)印章

(4)肖像

(5)商品またはそのパッケージに用いられる色の組合せ

(6)パッケージ

(7)文字と数字の組合せ

(8)識別力のある書体による文字または数字

(9)キャッチフレーズ

 

問題となるのは、商標が識別力を有しているかどうかであるため、匂い、音および立体商標もアルゼンチンにおいて登録可能である。

 

商標法第2条の規定に基づき、指定商品もしくは役務の必然的もしくは一般的な呼称とみなされる、または、指定商品もしくは役務の機能、品質、その他の特徴の説明とみなされる名称および言葉は、商標として認められない。商品の形状も、商標とはみなされない。また、商品本来の色または商品全体に用いられる単一の色も、商標とはみなされない。一般的および日常的に使用されるようになった名称、言葉および語句も、商標として登録できない。

 

さらに、商標法第3条の規定に基づき、先行商標と同じ商品または役務を対象とする同一または類似の商標は、登録できない。同様に、原産地名称、または指定商品もしくは役務の性質、品質、製造技術、機能、出所、その他の特徴に関して誤認を招くおそれのあるいかなる商標も、登録できない。アルゼンチン国家、地方自治体または他の国家および承認された国家により使用されている名称、言葉または象徴も登録できない。営業活動の説明的な呼称も登録することはできない。

 

最も一般的な拒絶理由は、同一または類似の商品または役務に用いられる先行商標との混同のおそれである。

 

商標が先行商標と混同を生じるほど類似しているかどうかを判断するためには下記について検討しなければならない。

 

(1)商標間における外観類似、称呼類似および観念類似があるかどうか。なお、観念上の相違が存在する場合には、外観上または称呼上の類似が存在するかどうかに関係なく、当該商標の登録は許可される。

(2)商品または役務の抵触または類似点が存在するかどうか。

(3)商品または役務の需要者、さらに販売ルートが同じかどうか。

(4)双方の商標が図案を含んでいる場合は、商標の文字部分を比較することが最も重要であること。

 

著名商標は、指定商品または役務の需要者であるかどうかに関係なく、特別な保護を与えられる。したがって、著名商標は、後願と同じ区分に登録されていなくても、後願の登録を阻止することができる。

 

特許庁は著名商標の認定を行わないが、裁判所は、判例を考慮しながら、該当事件で提出された証拠に基づいて、著名商標を認定することができる。ただし、世界的な知名度と評判がある場合、著名性を立証することなく著名商標の認定を受けることができる。

 

6.登録手続

 

商標出願が提出された後、方式審査が行われ、全ての方式要件が満たされていると判断されると、当該商標は商標公報において公告される。

 

公告には、出願された商標、出願人の名前、出願時の指定商品または役務、該当する場合は優先権情報、および出願日が含まれている。

 

公告の日から30日以内に、第三者は異議申立を提起することができるが、異議申立を提起する正当な利害関係がなければならない。

 

異議申立期間が終了すると、特許庁は当該出願の実体審査を行う。実体審査は、異議申立期間の終了から約6ヵ月後に行われる。特許庁は、登録簿において同一区分に同一または類似の商標が登録されているかどうかについて調査する。

 

実体審査において、問題となる先行商標が見つからなければ、特許庁は登録証(現在では電子形式による)を発行し、登録手続が完了する。

 

一方、特許庁が登録簿において問題となる先行商標を見つけた場合、当該先行商標を引例とする拒絶理由通知が出願人に送達される。出願人は、拒絶理由通知に対して150日の応答期間を与えられ、その期間内に先行商標の権利者と友好的に和解する努力を通して、または先行商標の取得により、または和解交渉をより効果的に行う事を目的とした訴訟提起を通して、先行商標の問題を解消する必要がある。この最後の選択肢である訴訟は、先行商標に対する不使用取消訴訟または無効訴訟をいう。

 

特許庁による最終拒絶としての拒絶査定通知に不服の場合、連邦裁判所に提訴することができる。

 

7.不使用取消

 

登録商標を維持するには、商標は登録後5年以内に商取引において使用されなければならない。商標の登録日から6年目の初日以降、当該商標の使用がまだ開始されていない場合には、正当な利害関係を有するいかなる第三者も、当該商標の不使用を理由に取消を請求することができる。この不使用取消請求については、特許庁は決定を下す権限がないため、連邦裁判所に提起しなければならない。

 

不使用取消を避けるためには、上記の5年以内に少なくとも一つの商品または役務に、商標が使用されていなければならない。なお、使用している商品または役務は不使用取消対象とされている当該商標登録の指定商品または指定役務である必要は無いが、かかる使用は商取引において行われなければならない。

 

使用が十分に証明されなかった場合、当該商標は取り消され、登録簿から削除されることになる。

 

8.無効

 

第三者が登録簿から商標を削除するもう一つの手段が、当該商標の無効宣言を求めて無効訴訟を提起することである。第三者の請求に基づいて商標の無効を宣言できるのは、連邦裁判所のみである。

 

無効宣言の理由は、商標法第24条に明確に定められている。

 

第24条

登録商標は次の各場合に該当するときは、無効とする。

(a) 本法の規定に違反するとき

(b) 当事者が登録出願の際に当該商標が第三者に属していることを知っていたとき又は知っているべき立場にあったとき

(c) 登録商標の売却目的で商標登録にかかわる常習者が当該商標の売却目的でこれを登録したとき

 

最も一般的な理由は、商標権者が自己の出願時において当該商標が第三者に帰属することを知っていた、または知っていたはずとの理由に基づく冒認出願である。特に、真正な権利者と何の関係もない者により当該商標が出願された場合が最も多い。

 

無効宣言を獲得するには、当該商標権者がアルゼンチンに出願した時点より前に当該商標が存在していたこと、さらに当該商標権者が当該商標の存在について知っていたことを立証しなければならない。その場合、カタログ、パンフレット、広告、スポンサー契約および請求書などの証拠を用いることができる。

 

この無効訴訟に関しては、提訴時効はない。

 

9.未登録商標

 

アルゼンチンでは、商標の登録は義務づけられていないが、未登録商標が保護されるためには、権利者は継続的に商取引において当該商標を使用しなければならず、相当の期間にわたり当該商標に関する顧客を生み出していなければならない。未登録でも保護され得る商標は、事実上の商標(de facto trademark)と呼ばれており、第三者に対する権利行使が可能である。