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台湾専利法における誤訳対応

(1)特許の場合

(i)誤訳の補正(専利法第43条)

(a)請求時期

 出願後審査意見通知を受けるまで、いつでも請求可能である。最初の審査意見通知以降は、最初の審査意見通知への応答期間内(専利法第43条第3項)、最後の審査意見通知の応答期間内(専利法第43条第4項)、再審査請求時(専利法第49条第1項)に補正できる。

 

(b)補正可能な範囲

 新規事項の追加は認められない。出願時の明細書および図面の開示の範囲内であることが必要である(専利法第43条第2項)。外国語書面(外国語の明細書および図面)で出願した場合は、出願時の外国語書面の開示の範囲内でなければならない(専利法第44条第3項)。

 開示の範囲には、実際の記載事項に加え、発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が、外国語書面の記載事項から直接かつ一義的に知ることのできるものも含まれる(専利審査基準「第一篇程序審查及專利權管理、第十章修正」)。

 なお、外国語書面自体は補正できない(専利法第44条第1項)。

 

(c)補正の目的

 最後の審査意見通知を受けると、上記の新規事項追加の制限に加え、請求項の削除(専利法第43条第4項第1号)、特許請求の範囲の減縮(同第2号)、誤記の訂正(同第3号)、不明瞭な記載の釈明(同第4号)を目的とした補正しか認められなくなる。

 

(ii)誤訳の訂正

(a)請求時期

 特許権成立から消滅まで請求できる。無効審判係属中でも可能である(専利法第77条第1項)。利害関係人が特許権の取消しにより回復されるべき法律上の利益により、特許権消滅後に無効審判を請求した場合は(専利法第72条)、特許権消滅後でも訂正請求できる(専利審査基準「第一篇程序審查及專利權管理、第二十章更正」)。

 

(b)訂正可能な範囲

 原則、出願時の明細書または図面の開示範囲を超えないこと(専利法第67条第2項)、外国語書面出願の場合は出願時の外国語書面の開示範囲を超えないこと(専利法第67条第3項)が必要である。公告時の請求の範囲を実質的に拡大変更してはならない(専利法第67条第4項)。請求の範囲の記載を訂正し、または、明細書若しくは図面を訂正して、公告時の請求の範囲を実質的に拡大変更する場合が該当する(専利審査基準「第二編發明專利實體審查、第9章更正、4實質擴大或變更申請專利範圍」)。

 

(c)訂正の目的

 請求項の削除(専利法第67条第1項第1号)、請求の範囲の減縮(専利法第67条第1項第2号)、誤記または誤訳の訂正(専利法第67条第1項第3号)または不明瞭な記載の釈明(専利法第67条第1項第4号)に該当する訂正であることが要求され、誤訳の訂正が可能となっている。

 

(2)実用新案の場合

(i)誤訳の補正

 補正ができる時期に制限規定が存在しないのは特許と同じである。形式審査において自発補正が可能であり、また、職権で補正を命じられることもある(専利法第109条)。補正について、新規事項の追加は認められない点および新規事項追加の判断基準は、特許の場合と同じである(専利法第120条で準用する第43条第2項、同第110条第2項)。

 

(ii)誤訳の訂正

 訂正ができる時期は、

1.無効審判の応答期間(専利法第120条で準用する第74条第3項)、2.技術評価報告書請求の係属中(専利法第118条)、3.訴訟係属中である(専利法第118条)。なお、実用新案の訂正請求では実体審査が行われる。訂正可能な範囲および態様のいずれも、特許の場合と同じである(専利法第120条で準用する第67条)。

 

(3)意匠の場合

(i)誤訳の補正

 審定書送達前までできる(専利法第142条で準用する第43条第1項、審査基準第三編「設計專利實體審查」第六章「修正、更正及誤譯之訂正」1.2「修正之時機補充、補正の時期」)。

 補正は出願時の図面説明書の開示範囲を超えてはならない(専利法第142条で準用する第43条第2項、審査基準第三編「設計專利實體審查」第六章「修正、更正及誤譯之訂正」1.3「超出申請時說明書或圖式所揭露之範圍的判斷」)。

 図面説明書を外国語で出願した場合(専利法第125条第3項)、出願時の外国語書面が開示範囲の判断基準となる(専利法第133条第2項)。

 

(ii)誤訳の訂正

 意匠権設定後に行うことできる(専利法第139条第1項)。訂正は図面説明書の誤記または誤訳の訂正並びに不明瞭な記載の釈明に限られる(専利法第139条第1項)。

 訂正は出願時の開示範囲を超えてはならず(専利法第139条第2項)、外国語書面で出願していた場合は、出願時の外国語書面の開示範囲内で可能である(専利法第139条第3項)。

 外国語書面出願であったか否かに関係なく、公告時の図面を実質的に拡大変更する訂正は許されない(専利法第139条第4項)。

 

【留意事項】

 台湾専利法では、外国語書面出願の場合は、「外国語明細書」に開示された範囲を超えなければ(中国語明細書の開示範囲を超えても)、補正や訂正が認められる。

インドネシアにおける特許出願の補正の制限

1.補正の制限に関するインドネシア特許法の条文

 インドネシアにおける補正の制限については、インドネシア特許法(特許に関する法律第13/2016号)第39条に下記のように定められている。

 

インドネシア特許法第39条

(1)出願は、以下の場合補正することができる:

(a)第25条(1)項(b)号、(e)号および/または(f)号に規定する出願データ;および/または

(b)第25条(2)項(a)号から(e)号に規定する出願データ

(2)第25条(2)項(b)号および(c)号における発明の明細書および/または特許請求の範囲の補正は、その補正が原出願で申請された発明の範囲を拡大しないという条件で行うことができる。

(3)最初の出願に請求の範囲を追加して10項を超える補正の場合、当該超過した請求項に手数料が課される。

(4)出願において(3)項に規定する手数料が納付されない場合、超過分の特許請求の範囲は取下げられたとみなされる。

 

ここで、

第25条(1)項(b)号は、願書における発明者の氏名、完全な住所および国籍を意味し、

第25条(1)項(e)号は、出願が代理人を通して行われる場合、代理人の氏名および完全な住所を意味し、

第25条(1)項(f)号は、出願が優先権を伴って出願される場合、最初の出願の国名と出願日を意味する。

また、第25条(2)項(a)号から(e)号は、それぞれ、以下のものを意味する。

(a)発明の名称

(b)発明の明細書

(c)特許請求の範囲

(d)発明の要約

(e)図面が出願と共に添付される場合、発明の説明に必要とされる明細書に記載される図面

 

2.発明の明細書および特許請求の範囲の補正

 インドネシア特許法第39条(2)項に規定されるように、発明の明細書および特許請求の範囲の補正に対する制限は、補正により、出願当初において請求された発明自体の範囲を拡大してはならないというものである。特許法第39条の説明において、「発明の範囲を拡大する」という場合、これは、明細書、図面またはクレームのいずれにおけるかを問わず、発明の範囲を拡大させるような、要旨や主題の追加、新規事項の追加、または発明の技術的特徴の削除を意味する。したがって、特許法第39条は、発明の明確化のみを認めている。

 原則として、インドネシア出願の内容が当初明細書の開示範囲として取り扱われることに注意が必要である。ただし、インドネシア出願が他国の特許出願を基礎としてなされたものであって、誤訳により基礎出願とインドネシア出願で記載内容が一致しない場合には、実務上、誤訳訂正が認められる。

 

 PCT出願の場合、国際出願の内容が当初明細書の範囲となり、国内移行段階で、インドネシア語明細書への誤訳があった場合は、誤訳訂正が認められる。

 

 補正は、出願人が自発的に行うことも、審査官からの指示により行うこともできる。実体審査に入る前に出願人によって補正が行われる場合を、一般的に自発補正と呼ぶ。

 

 一方、審査報告書の示唆に従い補正が行われる場合もある。審査官は実体審査において、審査報告書を発行するが、その中で出願人に出願書類の補正を要求する場合がある。審査官の要求する補正は、他国での対応特許出願での登録クレームと実質的に同様のクレームに補正することである場合が多い。

 

3.請求の範囲の追加により10項を超える補正

 インドネシア特許法第39条(3)項に規定されるように、請求の範囲の追加により請求項数が10項を超える補正の場合、超過した請求項に手数料が課される。同条(4)項に規定されるように、(3)項に規定する手数料が納付されない場合、超過分の特許請求の範囲は取下げられたとみなされる。

ブラジルにおけるパリルート出願とPCTルート出願の手続きの相違点

【詳細】

1.パリルート出願

 パリ条約加盟国として、ブラジルは特許出願に関する優先権の原則を採用している。最初の出願の中で全体として開示されている主題については優先権を主張することができ、基礎となる最初の出願とブラジル出願とのクレームの同一性は求められない。つまり、クレームする主題が基礎出願の明細書や図面にサポートされていれば、ブラジル出願のクレームは基礎出願のクレームと必ずしも同じである必要はない。さらに、基礎出願の主題に含まれていない新たな主題をブラジル出願に加えることも可能である。その場合、基礎出願に開示されていた主題にのみ優先権が適用される。パリ条約は、種別の異なる出願に基づく優先権の主張を可能としている。ブラジルでは発明特許と実用新案の2つの制度があり、第1国でなされた発明特許出願をブラジルにおける実用新案出願の基礎とすることも可能であり、その逆も可能である。

 

1-1.パリルート出願の手続き

 パリルート出願としてブラジルで特許出願を行うために必要な書類は、出願時点では、原語で書かれた明細書と、ポルトガル語で作成されたクレームを提出すればよい。その他、出願人ならびに発明者に関する情報(氏名、住所、職業、国籍)と、優先権主張の基礎となる出願(以下、基礎出願)のクレームを提出する必要がある。

 

 その後、明細書のポルトガル語訳文ならびに優先権証明書を提出する必要がある。基礎出願の出願人とは異なる個人もしくは企業がブラジル出願を行う場合、基礎出願に関してブラジルにて出願を行う権利の譲渡に合意して当事者双方が署名した譲渡証書を提出しなければならない。

 

 出願人がブラジルに居住していない場合、ブラジル産業財産法(1996年5月14日施行 法令9279号、以下、ブラジルIP法)の第217条の規定により、行政手続のためにブラジル国内の代理人を指名する必要があり、ブラジル知財庁(国家産業財産庁INPI)に対する手続の代理人としての権限を指定の弁護士に与える旨の委任状を出願人が署名して提出しなければならない。委任状についての公証人による認証や領事認証は不要である。

 

 これらの書類の提出期限としては、明細書の翻訳文はブラジル出願日から60日以内に提出することが望ましい。提出されない場合、ブラジル知財庁が発行する補完指令により翻訳文の提出が求められる。その場合、補完指令が公告されてから30日以内に翻訳文を提出しなければならない。期限までに提出しなかった場合、出願はなかったものとみなされる。

 

 優先権証明書および譲渡証書(必要な場合)は、ブラジルでの出願日から180日以内に提出しなければならない。期限までに提出しなかった場合、優先権は失われる。

 

 委任状はブラジルでの出願日から60日以内に提出されなければならない。期限までに提出しなかった場合、出願は却下とされる(ブラジルIP法第216条(2))。

 

 パリルート出願としてブラジルで特許出願がなされると、まず、方式審査が行われる。出願書類に対する方式的要件がすべて満たされることが確認されれば、方式審査は終了する。実体審査は、実体審査の請求を待って行われる。実体審査の請求はブラジル出願日から3年以内に実施しなければならない。

 

2.PCTルート出願

 ブラジルは1978年4月9日付で特許協力条約(PCT)に加盟し、今日ではブラジル国内での特許出願の大半がPCTルートで行われている。

 

 ブラジルの国内段階への移行期限は、最先の基礎出願の出願日または国際出願日(優先権の主張がない場合)から30か月であり、この期限の延長は認められない。国内段階への移行の際には、特許出願として移行することも、実用新案出願として移行することも、出願人が選択できる。PCT出願についての優先権主張の基礎となる出願は、特許であっても実用新案であっても可能である。なお、パリルート出願とは異なり、ブラジル国内段階への移行手続書面には、国際出願当初の開示の範囲を超える新規事項を追加してはならない。

 

2-1.PCTルート出願の手続き

 ブラジル国内段階に移行するために必要な書類としては、国内段階移行時点では、原語で書かれた国際出願明細書と、ポルトガル語による発明の目的を表明する書面を提出すればよい(発明の目的は発明の名称という形で表明してもよい)。その他、出願人ならびに発明者に関する情報(氏名、住所、職業、国籍)と、基礎出願のクレームを提出する必要がある。ブラジル国内段階移行日から60日以内に、明細書のポルトガル語訳文ならびに優先権証明書を提出する必要がある。基礎出願の出願人とは異なる個人もしくは企業がブラジルで出願する場合、基礎出願に関してブラジルにて出願を行う権利の譲渡に合意して当事者双方が署名した譲渡証書を提出しなければならない。

 

 出願人がブラジルに居住していない場合、ブラジルIP法第217条の規定により、行政手続のためにブラジル国内の代理人を指名する必要があり、ブラジル知財庁(国家産業財産庁)に対する手続の代理人としての権限を指定の弁護士に与える旨の委任状を出願人が署名して提出することが求められる。公証人による認証や領事認証は不要である。

 

 優先権証明書および譲渡証書(必要な場合)は、ブラジル国内段階移行日から60日以内に提出しなければならない。提出しなかった場合、優先権が失われる。

 

 委任状はブラジル国内段階移行日から60日以内に提出しなければならない。提出しなかった場合、出願は却下とされる。

 PCTルート出願としてブラジルで特許出願がなされると、まず、方式審査が行われる。出願書類に対する方式的要件がすべて満たされることが確認されれば、方式審査は終了する。実体審査の請求は国際出願日から3年以内に実施しなければならない。

 

【留意事項】

 ブラジルにおいて、パリルート出願およびPCTルート出願の国内段階移行のいずれにおいても、原語で書かれた明細書で手続き可能であるが、所定期間内にポルトガル語の翻訳文を提出することが求められる。

 PCTルート出願の国内段階移行では、国際出願当初の開示の範囲を超える新規事項を追加してはならない。

韓国における特許法改正(2015年1月/7月施行)が出願実務に与える影響【その2】

【詳細及び留意点】

記事本文はこちらをご覧ください。

韓国における特許法改正(2015年1月/7月施行)が出願実務に与える影響【その1】

【詳細及び留意点】

記事本文はこちらをご覧ください。

インドネシアにおける特許出願の補正の制限

【詳細】

インドネシアにおける補正の制限については、インドネシア特許法(特許に関する法律第14/2001号)第35条に下記のように定められている。

 

インドネシア特許法第35条

出願は、明細書および/またはクレームを変更する補正ができるが、当該補正が原出願で請求された発明の範囲を拡大するものではないことを条件とする。

 

特許出願の補正に対する制限は、補正により、出願当初において請求された発明自体の範囲を拡大してはならないというものである。特許法第35条の説明において、「発明の範囲を拡大する」と言う場合、これは、明細書、図面またはクレームのいずれにおけるかを問わず、発明の範囲を拡大させるような、要旨や主題の追加、新規事項の追加、または発明の技術的特徴の削除を意味する。したがって、特許法第35条は、発明の明確化のみを認めている。

 

原則として、インドネシア出願の内容が当初明細書の開示範囲として取り扱われることに注意が必要である。ただし、インドネシア出願が他国の特許出願を基礎としてなされたものであって、誤訳により基礎出願とインドネシア出願で記載内容が一致しない場合には、実務上、誤訳訂正が認められる。

 

PCT出願の場合、国際出願の内容が当初明細書の範囲となり、国内移行段階で、インドネシア語明細書への誤訳があった場合は、誤訳訂正が認められる。

 

補正は、出願人が自発的に行うことも、審査官からの指示により行うこともできる。実体審査に入る前に出願人によって補正が行われる場合を、一般的に自発補正と呼ぶ。

 

一方、審査報告書の示唆に従い補正が行われる場合もある。審査官は実体審査において、審査報告書を発行するが、その中で出願人に出願書類の補正を要求する場合がある。審査官の要求する補正は、他国での対応特許出願での登録クレームと実質的に同様のクレームに補正することである場合が多い。

タイにおける特許出願の補正

【詳細】

○明細書、請求項、要約および図面の補正

 特許出願の提出後、審査官は方式要件について審査し、さらにクレームが特許可能であり、明確かどうかについて審査する(予備審査として知られている)。出願はその後、特許庁により発行される公報において公開される。出願人は、当該出願の公開後5年以内に、新規性、進歩性および産業上の利用可能性に関する審査(実体審査として知られている)を審査官に請求することができる。

 特許出願手続(予備審査および実体審査の双方)の過程で行われる補正は、出願当初の発明の範囲を拡大しないことを条件として出願人により自発的に行われる補正(自発補正)、またはオフィスアクションの応答時に行われる補正のいずれかである。後者の場合、オフィスアクションの受領日から90日以内に補正書を提出しなければならない。特許権付与の前のあらゆる時点で、補正は認められる。特許権付与後の自発補正は許されない。

 特許法(B.E.2522)に基づく省令第 21 号(B.E.2542)の規定に従い、出願人が発明の範囲を拡大せずに自己の特許出願の補正を望む場合、出願人は、長官により許可されない限り、出願の公開前に補正請求を提出しなければならない。

 タイ特許庁における特許出願の補正に関する実務は、審査ガイドラインに定められている。審査ガイドラインは、発明の範囲を拡大しないと見なされる補正の例を、以下のように示している。

・審査官により提案されたあらゆる補正。

・発明の理解、調査および審査にとって有益と見なされる詳細を「関連背景技術」の項目に追加し、関連文献を引用する補正。

・クレームを直接裏づけるための詳細な説明の補正、または詳細な説明に直接的な裏づけを見出せるようなクレームの補正。例えば、詳細な説明が50-100℃の範囲の温度を開示している一方で、クレームが70-100℃の範囲の温度を記載している場合、出願人は詳細な説明をクレーム部分に整合させるため70-100℃の範囲の温度に修正することができる。クレームで広い範囲を開示し、詳細な説明で狭い範囲を開示している場合もまた同様である。

・詳細な説明またはクレームをより明確かつ簡潔にするための補正。

・誤訳の訂正。

 また、審査ガイドラインは、発明の範囲を拡大すると見なされる補正の例を、以下のように示している。

・新規事項を詳細な説明に取り入れること、または出願当初の詳細な説明には開示されていない新規事項をクレームに記載すること。例えば、詳細な説明で、容器を製造するための構成要素からなる容器製造装置を開示しており、これがクレームに記載されている場合に、後で出願人が当該容器の製造方法を詳細な説明に追加する、または当該方法をクレームに記載することを望めば、そのような補正は、当該発明の範囲を超える新規事項を追加すると見なされる。

・その発明の開示から当業者が予期しないものをもたらすようなあらゆる補正。例えば、様々な成分からなるゴム組成物が、出願当初の明細書およびクレームにそれぞれ開示および記載されている場合に、後で出願人が開示していない特定の成分を追加し、その特定の成分をクレームに記載すると、その追加は当該発明の範囲を拡大すると見なされる。

 別の例として、弾性支持体に設置された装置が、その弾性支持体の特性を具体的に記載することなく出願当初のクレームおよび詳細な説明に開示されていた場合、後に出願人が詳細な説明およびクレームにおいて「弾性支持体」という用語を「巻きバネ」に差し替えると、この差し替えは、当該発明の範囲を拡大すると見なされる。

 クレームに記載された発明に対して、出願当初には開示されていなかった新規な技術的効果をもたらすような補正は許されない。

 逆に、詳細な説明またはクレームを明確にするためだけの補正であり、出願当初に開示された内容と本質的に同一であると当業者が明確に認識または理解することを、出願人が証明できるのであれば、上記に例示された補正であっても許される。例えば、「弾性支持体」から「巻きバネ」への用語の差し替えは、当業者が図面に照らして「弾性支持体」は「巻きバネ」であると見なすことができるのであれば、許される。

 出願人により行われた補正が省令を満たしていないと審査官が判断する場合、審査官は、その旨の拒絶理由を出願人に通知する。

 審査官は実体審査において、タイ特許出願のクレームがUS、AU、EP、JPまたはCNなどの審査国で発行された対応外国特許の特許可能と判断されたクレームと一致しているかどうか、さらに選択された対応外国特許の審査結果に照らして、当該出願のクレームがタイ特許実務に基づき新規性があるか、進歩性があるかを審査する。タイ特許出願のクレームは、実体審査の請求時に自発補正として、上記の国における特許可能と判断されたクレームと一致するように補正することができる。さらに実体審査請求が提出された後、オフィスアクションへの応答時に補正することもできる。

 選択された対応外国特許の特許可能と判断されたクレームと同等であるタイ特許出願のクレームが、タイ特許省令を満たしていない場合、審査官は、その拒絶理由を出願人に通知する。例えば、選択された対応外国特許のクレームと一致するように補正されたタイ特許出願のクレームが、タイでは許容されない多項従属クレーム形式である場合、審査官はオフィスアクションを発行し、多項従属クレームを他のクレーム形式に補正するよう要求する。

 選択された対応外国特許の審査結果には説得力がないと審査官が判断した場合、審査官は、別の新規性または進歩性に関する拒絶理由を示す。出願人は、先行技術と区別されるように発明の範囲を減縮することによりクレームを補正する、またはより限定されたクレーム範囲を有する別の対応外国特許と一致するようにクレームを補正することができる。ただし、補正されたクレームは、出願当初の開示された内容への直接的な裏づけがなければならない。

 

○出願人、発明者の氏名および住所、譲渡に関する訂正

 発明者の氏名および住所、出願人の名義変更を証明する書類、譲渡証書、当該発明に対する出願人の権利を正当化する陳述書、または委任状が、出願時に不正確であった場合、特許庁は出願人に通知し、当該通知の受領日から90日以内に補正書を提出し、補正のための所定の料金を支払うよう要求する。

 出願係属中または特許権付与後に出願が他者に譲渡された場合、他者への出願譲渡に関する手続を特許庁に対して速やかに行うことが推奨される。譲渡証書と一緒に、譲受人により署名された委任状を提出しなければならない。この手続の期限は存在しない。

 

○出願変更

 特許または小特許の出願人は、特許出願が特許庁に係属中(登録前)であれば特許出願を小特許出願へ変更することができる。この出願変更では、省令に定められた規則および手続に従い変更前の出願日が有効に存続する。

タイにおける特許明細書の翻訳作成における留意点

韓国における改正特許法の概要および特許法改正案の概要(2015年改正)

台湾における特許出願の補正・訂正

【詳細】

(1)補正

(i)補正時期

・出願してから1回目の審査意見通知(日本における拒絶理由通知に相当。)が発行されるまでの期間内における自発補正について(専利法第43条第1項)

専利法(日本における特許法、実用新案法、意匠法に相当。)第43条第1項

特許庁は、特許審査の際、本法に別段の規定がある場合を除き、請求または職権により、期限を指定して明細書、特許請求の範囲または図面を補正するよう出願人に通知することができる。

・審査意見通知または最後の通知を受けた後、通知に対する回答期限内について(専利法第43条第3項・第4項)

専利法第43条第3項・第4項

特許庁が第46条第2項の規定に従い通知した後、出願人は通知された期間内にのみ補正を行うことができる。

特許庁は、前項の規定に従い通知した後、必要があると認めたとき最後の通知を送付することができる。最後の通知が送付された場合、特許請求の範囲の補正につき、出願人は通知された期間内にのみ次の各号について補正を行うことができる。

1. 請求項の削除

2. 特許請求の範囲の減縮

3. 誤記の訂正

4. 明瞭でない事項の釈明

・再審査を請求した時点から審査意見通知を受けるまでの期間について(専利法第49条第1項)

専利法第49条第1項 出願につき、第46条第2項の規定により特許拒絶査定が下された場合、当該出願の再審査の際、依然として明細書、特許請求の範囲または図面を補正することできる。

(ii)補正の制限

・誤訳の補正を除き、原出願時の請求項、明細書、図面(優先権証明書類を含まない)の範囲内であること(専利法第43条第2項)

・誤訳の補正の場合は、出願の際の外国語書面の範囲内であること(専利法第44条)

専利法第44条

第25条第3項規定により、外国語書面で明細書、特許請求の範囲および図面を提出した場合、その外国語書面は補正してはならない。

第25条第3項規定により補正した中国語による翻訳文は、出願の際の外国語書面が開示した範囲を超えてはならない。

前項に言う中国語による翻訳文について、その誤訳の補正は、出願の際の外国語書面が開示した範囲を超えてはならない。

・最後の通知を受けた後、「請求項の削除」、「特許請求の範囲の減縮」、「誤記の訂正」、「明瞭でない事項の釈明」のみにおいて補正が可能である(専利法第第43条第3項・第4項)

(iii)注意事項

・出願時に外国語による明細書、図面で先に出願し、指定期間内に外国語明細書の範囲を超えずに中国語版を補正したものについては、その後当該中国語版の補正があり、その補正がはたして出願時の明細書、図面で開示された範囲を逸脱しているか否かを判断する場合には、その中国語版を認定の根拠としなければならない。

・出願人は、補正書の提出とともにその補正内容についての理由を述べなければならない。

・優先権証明書類に記載された事項は、出願時の明細書、特許請求の範囲、または図面の一部に属さないので、補正が出願時の明細書、特許請求の範囲、または図面で開示された範囲を超えているかを比較する根拠にはできない。

・補正時に発明の新しい効果、新用途、新実験データ、新実施例を追加し、または明細書、特許請求の範囲、若しくは図面自体に対する補正でなく、技術内容と関係のある補充資料を提出する場合は、それらを出願時の明細書、特許請求の範囲、または図面に記載して特許請求の範囲の補正の根拠としてはならず、当該資料は特許要件の審査の参考としてのみ用いることができる。

(2)訂正

(i)訂正時期

・特許権取得時から消滅時まで請求できる(専利法第67条)。

専利法第67条

特許権者は、次の各号のいずれかの事項についてのみ、特許明細書、特許請求の範囲または図面の訂正を請求することができる。

1. 請求項の削除

2.特許請求の範囲の減縮

3.誤記または誤訳の訂正

4.明瞭でない記載の釈明

訂正は、誤訳の訂正を除き、出願時の明細書、特許請求の範囲または図面に開示されている範囲を超えてはならない。 第25条第3項の規定により、外国語書面で明細書、特許請求の範囲および図面を提出した場合、その誤訳の訂正は、出願時の外国語書面により開示されている範囲を超えてはならない。

訂正は、公告時の特許請求の範囲を実質的に拡大または変更してはならない。

・無効審判係属中でも可能である(専利法第77条第1項)。

専利法第77条第1項

無効審判請求事件の審査期間中に訂正請求がある場合、両方の審査および審決を併合して行わなければならない

・利害関係者が特許権の取消しにより回復されるべき法律上の利益のために、特許権消滅後に無効審判を請求した場合は、特許権消滅後でも訂正を請求できる(専利法第72条)。

(ii)訂正制限(専利法第67条)

・「請求項の削除」、「特許請求の範囲の減縮」、「誤記または誤訳の訂正」、「明瞭でない記載の釈明訂正」のみで訂正が可能。

・誤訳の訂正の他、原出願時の請求項、明細書、図面(優先権証明書類を含まない)の範囲内。

・誤訳の訂正の場合、出願の際の外国語書面の範囲内。

・訂正は、公告時の特許請求の範囲を実質的に拡大または変更してはならない。

【留意事項】

(1)特許権者は、実施権者または質権者の同意を得なければ、「請求項の削除」または「特許請求の範囲の減縮」につき訂正の請求をすることができない(専利法第69条1項)。特許権が共有である場合、共有者全員の同意を得なければ、「請求項の削除」または「特許請求の範囲の減縮」について訂正の請求をすることができない(専利法第69条2項)。

(2)従来技術と区別するための、権利放棄(disclaimer)による限定の訂正は例外に認められ、新規事項と見なさない。

(3)「二段式の記載形式の請求項について段を分けない記載形式に変更する」、「段を分けない記載形式の請求項を二段式の記載形式に変更する」、「二段式にて記載された請求項の前言部分の一部の技術的特徴を特徴部分に記載する」または「二段式にて記載された請求項の特徴部分の一部の技術的特徴を前言部分に記載する」等の訂正方法は、不明瞭な記載の釈明に属し、特許請求の範囲の実質的な拡大や変更とは見なされない。