ブラジルにおけるライセンスに関する法制度と実務運用の概要
【詳細】
準拠法の指定を制限する法規制はないが、特許、意匠および商標のライセンスについてはブラジル産業財産庁(INPI)に登録する必要がある。また、裁判地を日本とすることについて制約はないが、判決を執行するためには連邦高等裁判所の一定の手続を経て、ブラジルの公共秩序に反していないか等確認する必要がある。その他仲裁条項の扱いについては、ブラジルはニューヨーク条約の加盟国であるため、仲裁地の指定を制限されることはない。
ライセンスについて、INPIにライセンス登録の申請をする契約はいずれも当事者によって締結されなければならず、2人の証人が必要である。これは当事者による契約の存在を証明するために、ブラジル民法の第212条、民事訴訟法第784条に規定されている。添付文書を含む契約の各ページに当事者と証人のイニシャルを書かなければならない。また、外国の当事者のサインはブラジルでその法的拘束力を持たせるために、日本の公証役場において公証人の認証、その公証人の所属する法務局長による公証人押印証明を受け、日本の外務省の証明(アポスティーユ、認証不要条約に基づく付箋)を取得しなければならない。さらに、契約書には、署名の場所と日付だけでなく、当事者の代表者のフルネームと肩書きを記載しなければならない。当該代表が弁護士である場合、日本の外務省の証明を取得した委任状の写しも提示する必要がある。
特許ライセンス契約は産業財産法第62条、意匠ライセンス契約は同第121条、商標ライセンス契約は同第140条に、「ライセンス契約は第三者に対して効力を生じるために登録が必要である」旨の記載がある。一方で、INPIに登録されていることが、ロイヤルティ送金要件(外資法)およびロイヤルティの損金算入要件(所得税法、財務省令)となっている。すなわち、ライセンス登録しなくても契約は有効だが、ロイヤルティを海外送金できず、税控除も受けられないことになる。
産業財産権法は、特許を受けていない技術を有効なものとして取り上げていないため、INPIはノウハウを所有権の対象とはみなさない。そして、INPIは、契約終了後にライセンシーがその技術を使用できなくなるような営業秘密ライセンス契約は認めていない。つまり、契約満了後のノウハウの返還を規定したり、現地の当事者に対して技術の使用を禁じる条項を含む契約は、登録申請しても登録されない。ノウハウライセンス契約は、技術移転契約として扱われる(INPIが技術移転契約の登録期間として認めているのは最長10年間)。さらに、INPIはノウハウに関しては恒久的な守秘義務を認めておらず、守秘義務を維持する期間は特許保護期間より長期に継続させることはできないと考えている(INPIが認めている守秘義務維持の最長期間は情報の開示から19年未満)。
特許および意匠のライセンス登録については、出願されていれば申請が可能だが、商標ライセンスに関しては、商標が登録されていなければ、登録が認められない点が、制度上大きな違いである。また、INPIは現在、商標、特許、特許を受けていないノウハウ・営業秘密とサービスを一つに組み合わせた契約を受け入れているが、対価の支払いは、当該対象のうちの1つに関してのみ許される。意匠の組み合わせも可能ではあるが、意匠では実体審査が行われないことから、組み合わせずにライセンスする方が望ましい。
ライセンスの登録申請から登録までは2~3か月かかる。INPIは、ライセンス登録の申請を受理した日から30日以内に回答/判断する法律上の義務があるため、申請から30日~40日でINPIから回答(登録または追加情報提出の要請)がある。要請に応じて追加情報を提出すれば、その後はほとんど遅延しない。申請に不備があれば、INPIから追加資料を要求されるので、最終的に登録されないものは少ない。
ライセンス登録申請のための必要な書類についてはINPIのウェブサイトhttps://www.gov.br/inpi/pt-br/servicos/contratos-de-tecnologia-e-de-franquia/documentacao-necessariaに記載されている。申請書類に記載する内容はライセンスの目的、対象、対価等であり、外国語で発行された文書が含まれる場合、ポルトガル語翻訳を添付する必要がある。また、登録申請は、弁護士に依頼して行うのが一般的である。INPIへの登録申請は、期限は特になく当事者は契約締結後であればいつでも申請できる。ただし、契約の効果は申請日以降に発生するため、例えば、契約の効果を2年後の生産開始日からとすることも可能である。
【留意事項】
ライセンス登録しなくても契約は有効だが、ロイヤルティを海外送金できず、税控除も受けられないということがあり、実務上ライセンス契約のINPIへの登録が必須であることに留意する必要がある。また権利の種類によってINPIにおける契約の扱いが変わってくることにも注意が必要であり、例えば、INPIは契約終了後にライセンシーがその技術を使用できなくなるような営業秘密ライセンス契約を認めていないことなどに特に注意する必要がある。
サウジアラビア王国における商標権取得・行使に関する制度概要
「サウジアラビア王国における商標権取得・行使に関する制度概要調査」(2016 年6 月、日本貿易振興機構ドバイ事務所)
(目次)
第1章 – 概要 p.3
第1節 – サウジアラビアにおいて施行される法と手続きの概要 p.3
第2節 – 統計 p.4
第3節 – 登録商標の必要条件 p.4
第4節 – 登録期間 p.6
第5節 – イスラム法(シャリーア) p.6
第6節 – 商標登録出願の手続き(フローチャート付) p.7
第2章 – 商標登録出願 p.9
第1節 – 商標登録出願の事前検索 p.9
第2節 -商標登録出願の提出 p.9
第3節 – 商標 登録の利点 p.10
第3章 – 商標登録後 p.11
第1節 – 登録の取消 p.11
第2節 – 合併または名前の変更 p.11
第3節 – エンフォースメント p.12
第4節 – 行政アクション p.12
第5節 – 訴訟 p.12
第6節 – 税関 p.13
第7節 – 商標登録の譲渡 p.13
第8節 – ライセンス p.14
第9節 – オンラインにおける問題 p.14
付録A – 特定委任状サンプルp.15
中国における商標ライセンス契約の留意点
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ベトナムにおける技術移転に関する留意事項
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ベトナムにおける特許ライセンス契約の基礎および留意事項
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韓国における商標ライセンス契約に関する留意点【その2】
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韓国における商標ライセンス契約に関する留意点【その1】
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中国における知的財産権濫用に対する独禁法適用
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ブラジルにおける特許ライセンスおよび技術移転における留意点
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タイにおける商標ライセンス契約の留意点
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