韓国における実用新案制度について
(1)実用新案の対象は、物品の形状、構造、組合せに関する技術的思想の創作である。電子回路は実用新案対象である物品に含まれるが、方法発明は特許では登録が認められるのに対し、実用新案では対象外となる(実用新案法第4条)(特許・実用新案審査基準第3部第1章4.3)。
(2)特許出願書には必要な場合にのみ、図面を添付するよう規定(特許法第42条第2項)されているが、実用新案出願書には図面の添付は必須である(実用新案法第8条第2項)(特許・実用新案審査基準第2部第2章5.図面)。
(3)審査請求期限は特許および実用新案ともに出願日から3年である(実用新案法第12条)(特許法59条)。
(4)特許は創作の高度性を要求しているが、実用新案は創作の高度性を要求しない。しかし、最近はその差を大きく置かない傾向がある。とはいえ、法的には差異があり、審査における進歩性の判断時、特許は「容易に発明ができるか否か」を判断する一方、実用新案は「極めて容易に考案することができるか否か」を判断する。よって、特許と比べると実用新案は登録を受け易い(実用新案法第2条、第4条)(特許法第2条、第29条)。例えば、飲料包装パック、車両用ハンドルカバー、人形の足部分、ハンガー、クリップ等が実用新案として登録されている。これらは、容易に発明ができるため特許としては登録を受けることが難しいが、極めて容易に発明することができるものではないと判断され、実用新案として登録を受けた例である。
以下、進歩性の判断に関する大法院判決を紹介する。
(ⅰ)特許法院2019.4.18宣告、2018허6771判決
実用新案制度は、革新の度合いにおいて特許の対象となる発明には及ばないものの、従来の技術に比べて改善された技術思想の創作を法的に保護することにより、いわゆる「小発明」を奨励するための制度である。したがって、制度の趣旨を考慮して考案の進歩性を判断するにあたり、特許と同等程度の物差しを適用してはならない。また、考案を創作することが通常の技術者に非常に容易であるとは言えない場合には、進歩性を否定してはならない。
(ii)大法院2019.7.25宣告、2018후12004判決
考案の進歩性が否定されるかを判断するためには、先行技術の範囲と内容、進歩性判断の対象となった考案と先行技術との差異および考案が属する技術分野における通常の知識を持った者(以下、「通常の技術者」とする。)の技術水準等に照らし、進歩性判断の対象となった考案が先行技術と差異があった場合であっても、そのような差異を克服することが、先行技術からの考案が極めて容易に導出することができるかを判断しなければならない。この場合、進歩性判断の対象となった考案の明細書に開示されている技術を知っていることを前提にして、事後的に通常の技術者が考案を極めて容易に考案することができるかを判断してはならない。
(iii)大法院2012.10.25宣告、2012후2067判決
実用新案法第4条第2項の「その考案が属する技術分野」とは、原則、当該登録考案が利用する産業分野を指す。当該登録考案が利用する産業分野が比較対象考案の産業分野と異なる場合、比較対象考案を当該登録考案の進歩性を否定する先行技術として引用することは難しいとしても、比較対象考案の技術的構成が特定の産業分野のみに適用可能な構成ではなく、当該登録考案の産業分野で通常の技術を有する者が登録考案の当面する技術的問題を解決するために格別に困難なく利用することができる構成であれば、これを当該登録考案の進歩性を否定する先行技術とすることができる。
(iv)大法院1995.12.12宣告、94후1787判決
実用新案における考案というのは自然法則を利用した技術的創作をいうが、これは特許発明とは違い、創作の高度性を要さないので、公知公用の技術を結合した考案であっても結合前に各技術がもっていた作用評価の単純な結合ではなく、結合前に比べてより増進された作用評価が認定され、当該技術分野で通常の知識を持った者が容易に実施することができないときには、これを進歩性がある考案であるとする。
(v)大法院2006.10.12宣告、2006후1490判決
その考案が属する技術分野で通常の知識を持った者が比較対象考案と周知慣用の技術によって、極めて容易に考案することができる構成であるというものは、その進歩性が認定されない。
(5) 審査によって実用新案登録決定された後、3年間の登録料を納めれば実用新案権が設定される。権利存続期間は出願日から10年であり、権利は設定登録日から発生する(実用新案法第22条)(特許法第88条)。
(6)審査官が実用新案登録決定後、明白な拒絶理由を発見した場合には職権で登録決定を取消し、再び審査することができる(実用新案法第15条、特許法第66条の3準用)。ただし、特許法第66条の3に記載されている以下の場合に該当する場合はこの限りではない。http://www.choipat.com/menu31.php?id=14
1.拒絶理由が第42条第3項第2号(その発明の背景となる技術を記載)、同条第8項(特許請求の範囲の記載方法)および第45条(特許出願の範囲)の規定による要件に関するものである場合
2.その特許決定により特許権が設定登録された場合
3.その特許出願が取り下げ、放棄された場合
(7)実用新案の設定登録日から登録公告日後6か月となる日まで、誰でも特許審判院長に実用新案登録取消申請をすることができる(実用新案法第30条の2)。
(8)実用新案権が設定されれば実用新案権登録公告されるし、これに異議があれば利害関係人は無効審判を請求することができる。(実用新案法第31条)
(9)実用新案出願が審査で拒絶査定された場合、再審査請求または拒絶決定不服審判を請求することができる。補正が必要な場合、補正書の提出と共に再審査請求ができる。再審査で拒絶査定になれば、拒絶決定不服審判請求をすることができるが、この時には補正はできない。(実用新案法第15条)
(10)再審査で拒絶決定後の補正が必要な場合は、拒絶決定謄本の送達を受けた日から30日(30日ずつ2回延長可能)以内に分割出願で対応することもできる(実用新案法第11条、特許法第52条準用)。
(11)特許出願が審査で拒絶査定になれば、拒絶決定不服審判請求期限以内に実用新案出願に変更することができる。(実用新案法第10条)
留意事項
(1)韓国での実用新案制度は日本と違い、審査を経た上で登録される。登録後の権利行使は特許と同一であるため、特許登録が難しい場合には実用新案で権利取得を試みることも必要である。
(2)実用新案権は特許権よりも容易に登録を受けられるが、権利が狭く解釈される傾向がある(大法院2006.5.25宣告、2005도4341判決等)。実用新案権は図面に記載された範囲に限定され、少し変更すれば侵害とは認められない場合が多々ある点に注意しなければならない。出願時から侵害が起こりそうな範囲を予めカバーするように、明細書を作成する必要がある。
(3)実用新案権は侵害を受けやすいため、随時、市場調査等の監視を徹底して行う必要がある。
参考
2019年11月18日に特許庁主催の「小発明・アイデア保護のための公開フォーラム」が開催された。本稿作成時点では、小発明またはアイデアは保護を受けられない。しかし、このような小発明等が市場需要に存在するため、初期段階ではあるがこれを保護するための制度が検討されている。
韓国におけるトレードドレスに基づく権利行使の留意点
韓国において、トレードドレスを保護する主な法律としては、商標法、デザイン保護法、不正競争防止および営業秘密保護に関する法律(以下、「不正競争防止法」)がある。「不正競争防止法」では2018年7月18日の改正により、トレードドレスが保護対象として明文化された。
(1)韓国商標法による保護
トレードドレスは、商標法に明文化されていないが、自他商品識別力と出所表示機能を持ちうるため、商標法では商標法第2条第1項第1号に「『標章』とは、記号、文字、図形、音、におい、立体的形状、ホログラム・動作または色彩等であって、その構成若しくは表現方式に関係なく商品の出所を現すために使用する全ての表示をいう」と定義されており、音やにおい、といった視覚的に認識することができないものも含まれており、表面的な標章だけではないトレードドレスを保護している。
(2)韓国デザイン保護法による保護
デザインとは、物品の形状、模様、色彩、またはこれらを結合したものであって、視覚を通じて美感を起こさせるものと定義されている(デザイン保護法第2条第1号)ため、トレードドレスもデザイン保護法上の登録要件を満たす場合、デザイン権で保護が可能である。ただし、デザイン保護法において、デザインは物品と離れることができない不可分の関係にあり、よってデザインのコンセプトをコピーされ、デザイン登録された物品とは異なる、他の物品に無断で使用された場合、これに対応することは難しい。
上記の様な状況は製品の総体的なイメージ、すなわちコンセプトが幅広く保護できなくなる結果を生じることになるため、実際のデザイン保護法によるトレードドレスの保護の水準は脆弱であるといえる。また、トレードドレスの属性上、デザイン保護法の登録要件である新規性を備えることは難しく、現実的にデザイン保護法によってトレードドレスを保護するのは難しい。
(3)韓国不正競争防止法による保護
(i)商品主体および営業主体の混同行為(不正競争防止および営業秘密保護に関する法律第2条第1号イおよびロ)、識別力、名声を損傷する行為(同法第1号ハ)
トレードドレスが不正競争防止法上の保護を受けるためには、商品標識または営業標識として、韓国国内に広く知られていなければならず、判例においても、商標法上の保護を受けることができなくても、長期間にわたり、独占的、排他的に使用され、需要者に特定の出所の商品であることを連想させるほど顕著に個別化されている場合には、不正競争防止法上の保護を受けることができると判示されている(大法院1994.12.2.宣告、94DO1947判決)。また、2018年7月18日の改正により同法第2条第1号ロおよびハに「標識(商品販売・サービス提供方法または看板・外観・室内装飾等、営業提供場所の全体的な外観を含む)」と規定され、トレードドレスが保護対象として明文化された。
(ii)商品形態の模倣行為(不正競争防止および営業秘密保護に関する法律第2条第1号リ)
2004年の改正不正競争防止法で新設されたもので、韓国国内で周知の商品形態であるか否かに関係なく、商品形態が整った日から3年が経過する前に、他人が製作した商品形態を模倣した商品を譲渡、貸与、またはこのための展示、輸入、輸出する行為は、本号の不正競争行為に該当し、不正競争防止法上の保護を受けることができる。
(4)権利行使および留意点
トレードドレスに対する保護は、競業秩序の維持を目的とする商標法、不正競争防止法に限定されず、デザイン保護法など複数の法律で重複的な保護が可能であり、各法律の保護法益、保護要件、保護範囲などの実益をよく考慮して、どのような法域の保護を受けようとするのか決定しなければならない。
ただし、商標法は、標章が自他商品識別力および出所表示機能を有することを求めているため、トレードドレスが商標法により保護を受けるためには、自他商品識別力と出所表示機能の要件を満たさなければならず、トレードドレスがデザイン保護法による保護を受けるためには、新規性、創作性などの要件を満たさなければならない。
また、不正競争防止法による保護を受けるためには、商品の形態が長期間に継続的、独占的、排他的に使用されたり、持続的な宣伝広告などに使用されたりすることによってその形態が持つ顕著な特徴を、取引者または需要者が、その商品について特定の品質を持ち、特定の出所の商品であることを連想させるほどに、識別されていなければならないという要件を満たさなければならない。
韓国における不正な目的をもって出願された模倣商標への対策
(1) 関連条文
模倣出願の防止と関連する条項は、商標法第34条第1項第13号と商標法第34条第1項第14号である。
商標法第34条第1項第13号「国内又は外国の需要者間に特定人の商品を表示するものであると認識されている商標(地理的表示を除く)と同一又は類似の商標であって不当な利益を得ようとするか、その特定人に損害を加えようとする等の不正な目的を持って使用する商標」は登録を受けることができないと規定している。
また、商標法第34条第1項第14号では「国内又は外国の需要者間に特定地域の商品を表示するものであると認識されている地理的表示と同一又は類似の商標であって、不当な利益を得ようとするか、その地理的表示の正当な使用者に損害を加えようとする等の不正な目的を持って使用する商標」は、登録を受けることができないと規定している。
以下、この条文の解釈を記載する。
(i) 「需要者」
必ずしも複数国家の需要者であることを要せず、1か国で認識されていれば足る。
(ii) 「特定人の商品を表示するもの」
その商標の使用者が具体的に誰であるかまで知らなくても、ある特定の出所があることを認識されていればよい(商標審査基準第5部第13章)。
(iii) 「不正な目的」
本号で規定する「不当な利益を得ようとするか、その特定人に損害を加えようとする等の不正な目的」は次のとおりである。
(a) 外国の正当な商標権者が韓国内市場に進入することを阻止しようとするか、または代理店契約締結を強制する目的で、商標権者がまだ登録していない商標と同一または類似の商標を出願した場合
(b) 著名商標と同一または類似の商標であって、他人の商品や営業と混同を起こすおそれはないとしても、著名商標の出所表示機能を希釈化させる目的で出願した場合
(c) 創作性が認められる他人の商標を同一または極めて類似に模倣して出願した場合
(d) その他、他人の先使用商標の営業上の信用は顧客吸引力等に便乗して不当な利益を得る目的で出願した場合
(iv)「不正な目的」判断時の留意事項
(a) 審査官は職権でインターネット検索等によって出願商標が本号に該当するのか否かを調査し、その結果を根拠として拒絶理由を通知することができる。
(b) 本号は、商品が非類似であるか、経済的牽連関係がない場合にも適用が可能であり、先使用商標の創作性が非常に高い場合、先使用商標と出願商標間の同一・類似性が非常に高い場合、先使用商標が周知・著名な場合、出願人と特定人間の事前交渉があって出願人が特定人の商標を事前に認知していたと思われる場合等においては、出願商標と先使用商標の指定商品間の牽連関係を広く見て、不正な目的の有無を判断することができる。
(c) 指定商品の一部について不正な目的があると判断して拒絶理由を通知した場合、出願人が先使用商標と経済的牽連関係がある商品を削除補正しても、不正な目的は治癒されないものとみなす。
(v) 判断時点
上本号を適用するにおいて、他人の商標が国内外の需要者らに特定人の商品を表示するものであると認識されている商標に該当するか否かは、商標登録出願をした時を基準として判断する。
なお、地理的名称に関しても正当な地理的表示使用権者ではない第三者が商標登録を受けて正当な地理的表示使用権者の地理的表示使用を排斥したり、高額の商標権移転料を要求する等の弊害を防止したりするために、これと関連した模倣出願は登録を受けることができないように実務上運用している。
(2) 模倣出願および登録に対する対策
(i) 出願段階
商標出願後15日程度でKIPRIS(http://eng.kipris.or.kr/enghome/main.jsp)に公開される。査定が下りるまでの間はいつでも、誰でも「情報提供」を行うことができる(商標法第49条参照)ので、積極的に情報提供を行い登録されるべきでない出願が登録されるのを防ぐ。また、出願公告日から2か月以内であれば誰でも「異議申立」をすることができる(商標法第60~66条、71条参照)。もし時間が不足であれば、まずは期間内に異議申立をし、異議申立の理由は異議申立期間経過後30日以内に補正をすれば良い。
(ii)登録段階
(a)無効審判
模倣出願が登録された後に発見されれば、登録無効事由(商標法第34条第1項第13号、同第14号、同第21号)を検討して、無効審判請求をすることができる。請求人は利害関係人でなければならない(商標法第117、118、122条参照)。無効審判は情報提供または異議申立に比べ手続きが複雑で相当な費用を要し、また当事者系に該当するため、お互いに攻防をするようになり口頭弁論(1回)をする可能性が高い。相手方の主張を明確に把握し、対応をしなければならない。
なお、韓国内外における周知・著名性については、例えば、周知性が高ければ不正な目的であると認められやすく、逆に、不正な目的であれば周知性がそれほど高くなくても認められることもある。どちらにしても、証拠資料はできる限り多数提出するのが望ましい。
(b)不使用取消審判(商標法第119条第1項第3号)
登録商標について最近3年間の使用事実があるかを調査し、使用事実がない場合には、不使用取消審判請求をする。(本データバンク内コンテンツ「韓国における商標の不使用取消審判制度」参照)
(c)不正使用取消審判(商標法第119条第1項第1号および第2号)
商標権者が故意で指定商品に登録商標と類似の商標を使用するか指定商品と類似の商品に登録商標又はこれと類似の商標を使用することにより、需要者をして商品の品質の誤認または他人の業務に関連した商品との混同を生じさせた場合等には、不正使用取消審判請求をする。
(d) その他
先使用権が主張できるかどうか(商標法第99条)を検討したり、登録者から商標権を譲り受けたり、使用権を設定してもらうかどうかについて検討する。
(3) 模倣出願として商標登録を受けることができない商標(商標法条文)
・商標法第34条第1項第9号:
他人の商品を表示するものであると需要者らに広く認識されている商標(地理的表示は除く)と同一・類似した商標として、その他人の商品と同一・類似した商品に使用する商標
・商標法第34条第1項第10号:
特定地域の商品を表示するものであると需要者らに広く認識されている他人の地理的表示と同一・類似した商標として、その地理的表示を使用する商品と同一であると認識されている商品に使用する商標
・商標法第34条第1項第11号:
需要者らに顕著に認識されている他人の商品若しくは営業と混同を起こさせるかその識別力または名声を損傷させるおそれがある商標
・商標法第34条第1項第13号:
国内又は外国の需要者らに特定人の商品を表示するものであると認識されている商標(地理的表示は除く)と同一・類似した商標として、不当な利益を得ようとするか、その特定人に損害を負わそうとする等、不正な目的で使用する商標
・商標法第34条第1項第14号:
国内または外国の需要者らに特定地域の商品を表示するものであると認識されている地理的表示と同一・類似した商標として、不当な利益を得ようとするか、その地理的表示の正当な使用者に損害を負わそうとする等、不正な目的で使用する商標
・商標法第34条第1項第20号:
同業・雇用等の契約関係若しくは業務上の取引関係またはその他の関係を通じて他人が使用するか使用を準備中の商標であることを知りながらその商標と同一・類似した商標を同一・類似した商品に登録出願した商標
・商標法第34条第1項第21号:
条約当事国に登録された商標と同一・類似した商標であって、その登録された商標に関する権利を有した者との同業・雇用等の契約関係若しくは業務上取引関係又はその他の関係にあるかあった者がその商標に関する権利を有した者の同意を受けずにその商標の指定商品と同一・類似した商品を指定商品として登録出願した商標
【留意事項】
商標出願は、出願後15日程度で、韓国特許情報検索サービス(www.kipris.or.kr)で出願情報が公開されて検索することができるので、これを活用する等して常に情報収集に努めることが望ましい。
台湾におけるインターネット上の著作権侵害とノーティス・アンド・テイクダウン
【詳細】
(1)ノーティス・アンド・テイクダウン
(ⅰ)必要性
一般的に利用者による著作権侵害について、プロバイダの責任の範囲が不明確であるが、インターネット上の著作権侵害の被害は急速に広がることから、プロバイダに適切な対応を行わせる必要がある。そこで、所定の行動を行うことを要件に、利用者による著作権侵害についてプロバイダの賠償責任を免責するノーティス・アンド・テイクダウンの規定が台湾の著作権法に設けられている。
(ii)概要
台湾の著作権法では、プロバイダを4つの類型に分けて定義し(著作権法第3条第1項第19号)、第90条の4第1項で定める行為を行うプロバイダがノーティス・アンド・テイクダウンの適用対象となる。賠償免責の要件はプロバイダの種類ごとに規定されている(同第90条の5から第90条の8)。なお、賠償免責の要件に従って侵害物を削除された利用者から削除された物の回復を求める規定があり(同第90条の9)、事実に反して権利侵害または回復請求を通知した場合の損害賠償責任も規定されている(同第90条の11)。
(iii)プロバイダの定義
台湾著作権法におけるプロバイダは以下の4つのタイプがあり、その種類と定義は下記のとおりである(同第3条第1項第19号)。
接続サービス・プロバイダ |
その管理または運営するシステムまたはネットワークを通し、有線または無線の方式を以て、情報の伝送、発送、受取、若しくは前記の過程における中間的で一時的なストレージの役務を提供する者。 |
快速アクセス・サービス・プロバイダ |
利用者の要求に応じて情報を伝送した後、その管理または運営するシステムまたはネットワークを通じ、その情報に対し中間的で一時的なストレージをし、その後、その情報の伝送を要求する利用者がその情報にクイックアクセスできる役務を提供する者。 |
情報ストレージ・サービス・プロバイダ |
その管理または運営するシステムまたはネットワークを通し、利用者の要求に応じて情報ストレージの役務を提供する者。 |
検索サービス・プロバイダ |
オンライン情報の索引、参考またはハイパーリンクに関する検索またはハイパーリンクの役務を提供する者。 |
(iv)プロバイダに免責規定が適用される要件
プロバイダは、上記の4類型のいずれかを問わず、下記①から④の全ての行動を行うことにより、ノーティス・アンド・テイクダウンに関する規定の適用対象となる(同第90条の4)。
① 契約、電子伝送、自動検出システムその他の方式を以てその著作権または製版権の保護措置を利用者に告知し、確実にその保護措置を実施する。 |
② 契約、電子伝送、自動検出システムその他の方式を以て、権利侵害に係ることが三回あった場合、全部または一部のサービスを終了しなければならないと利用者に告知する。 |
③ 通知書類を受け取る連絡窓口の情報を公告する。 |
④ 著作権法第90条の4第3項の汎用的な識別用または保護用の技術的措置を実行する。 |
(v)著作権者等に対するプロバイダの免責要件
利用者の著作権侵害について賠償責任を免れるための要件、またはプロバイダが行うべき措置は、下記が定められている(同第90条の5から第90条の8)。
(A)接続・サービス・プロバイダ(第90条の5第1号から第2号) |
① 送信された情報が利用者による発動または請求されたものであること。 ② 情報の送信、リンクまたは保存が自動化技術により実行され、かつ接続サービス・プロバイダにより如何なる選択または変更もなされないこと。 |
(B)快速アクセス・サービス・プロバイダ(第90条の6第1号から第3号) |
① アクセスされた情報を変更しないこと。 ② 情報提供者がその自動アクセスされた一次情報を修正・削除または遮断する際、自動化技術を通じて同一の処理を行うこと。 ③ 著作権者または製版権者がその利用者が権利侵害行為に係ることを通知した後、迅速にその権利侵害に係る内容若しくは関連情報を除去し、または他人がアクセスできないようにすること。 |
(C)情報ストレージ・サービス・プロバイダ(第90条の7第1号から第3号) |
① 利用者が権利侵害行為に係ることを知らないこと。 ② 利用者の権利侵害行為により直接財産上の利益を得ないこと。 ③ 著作権者または製版権者がその利用者が権利侵害行為に係ることを通知した後、迅速にその権利侵害に係る内容若しくは関連情報を除去し、または他人がアクセスできないようにすること。 |
(D)検索サービス・プロバイダ(第90条の8第1号から第3号) |
① サーチまたはリンクされた情報が権利侵害に係ると知らないこと。 ② 利用者の権利侵害行為により直接財産上の利益を得ないこと。 ③ 著作権者または製版権者がその利用者が権利侵害行為に係ることを通知した後、即時にその権利侵害に係る内容若しくは関連情報を除去し、または他人がアクセスできないようにすること。 |
(vi)利用者に対する免責要件
次に掲げる状況のいずれかがある場合、プロバイダは権利侵害に係る利用者に対し賠償責任を負わないものとする(同第90条の10)。
① プロバイダが、上記(v)(即ち第90条の5から第90条の8)によりその権利侵害に係る内容若しくは関連情報を除去し、または他人がアクセスできないようにする。 |
② プロバイダが、利用者の行為が権利侵害の事情に係ることを知った後、善意に基づき権利侵害に係る内容若しくは関連情報を除去し、または他人がアクセスできないようにする。 |
(vii)その他の規定
その他のノーティス・アンド・テイクダウンに関連する規定を下記にまとめる。
情報ストレージ・サービス・プロバイダに関する規定 (第90条の9) |
① 情報ストレージ・サービス・プロバイダは、利用者と約定した連絡方式または利用者が残した連絡先情報により、第90条の7第3号(即ち上記の(v)(C)③)の処理の状況を権利侵害に係る利用者に転送しなければならない。ただし、提供される役務の性質により通知できない場合は、この限りでない。 ② 利用者がその権利侵害の状況がないと考える場合、返答通知の書類を提出する上で、除去され若しくは他人がアクセスできないようにされた内容または関連情報を回復するよう情報ストレージ・サービス・プロバイダに要求することができる。 ③ 情報ストレージ・サービス・プロバイダが上記の返答通知を受け取った後、直ちに返答通知の書類を著作権者または製版権者に転送しなければならない。 ④ 著作権者または製版権者が情報ストレージ・サービス・プロバイダから上記の通知を受け取った翌日から10営業日以内に、既にその利用者に対し訴訟を起こした証明を情報ストレージ・サービス・プロバイダに提出する場合、情報ストレージ・サービス・プロバイダは回復する義務を負わないものとする。 ⑤ 著作権者または製版権者が前項の規定により訴訟を起こした証明を提出しない場合、情報ストレージ・サービス・プロバイダは遅くとも返答通知を転送した翌日の14営業日以内に除去されまたは他人がアクセスできないようにされた内容若しくは関連情報を回復しなければならない。ただし、回復できない場合、事前に利用者に告知し、または他の適宜な方式を提供した上で使用者に回復させなければならない。 |
利用者に関する規定 (第90条の11) |
利用者は、故意または過失により、プロバイダに対して不実な通知(例えば、著作権者の名を騙り、プロバイダに通知する場合)または回復請求(例えば、他人の著作物を自分の著作物と偽って回復を請求する場合)を提出し、他のインターネット利用者、プロバイダ、著作権または製版権者に損害を受けさせた場合、損害賠償責任を負う。 |
(2)ノーティス・アンド・テイクダウンの流れ
ノーティス・アンド・テイクダウンの流れ
インターネット上の著作権侵害行為を発見した場合、損害証拠を保存する上で、プロバイダに対し、著作権者または製版権者の氏名、連絡先、侵害された著作物のタイトルなどの情報を通知し(インターネット・プロバイダ民事免責に係る施行規則を参照願)、権利侵害物を削除することを要請できる。プロバイダは侵害物を削除すれば、著作権侵害の責任を追及されないが、削除しなければ著作権侵害の責任を免除されない。
また、接続サービス・プロバイダは接続サービスのみを提供し、権利侵害物の削除または遮断する立場にないので、権利者はプロバイダに情報を削除することを要請できない。
【留意事項】
・インターネット上の著作権侵害行為について、訴訟の準備を整えるため、公証人にウェブページの公証を依頼することが考えられる。
・著作権者はプロバイダにインターネット上の侵害物を削除させるために、ノーティス・アンド・テイクダウンに関する手続きを求められる他、民事訴訟法に基づいて仮処分を申立て、侵害行為の差止めを求めることもできる。
インドにおける商標権に基づく権利行使の留意点
記事本文はこちらをご覧ください。
タイにおける商標権に基づく権利行使の留意点【その2】
記事本文はこちらをご覧ください。
タイにおける商標権に基づく権利行使の留意点【その1】
記事本文はこちらをご覧ください。
ベトナムにおける商標権に基づく権利行使の留意点
記事本文はこちらをご覧ください。
ロシアにおける商標権に基づく権利行使の留意点
記事本文はこちらをご覧ください。
香港における商標権に基づく権利行使の留意点
記事本文はこちらをご覧ください。