ブラジルにおける特許ライセンスおよび技術移転における留意点
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香港における商標権に基づく権利行使の留意点
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中国における知的財産権事件における訴訟戦略-適切な賠償額の獲得に向けて
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マレーシアにおける商標権に基づく権利行使の留意点
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香港における「商標の使用」と使用証拠
【詳細及び留意点】
商標出願の時点では使用の要件はないが、出願書式において、香港における指定商品および指定役務に関して、商標が出願人によりまたは出願人の同意の下で使用されていること、または出願人は当該商標を使用するまたはその使用を認める誠実な意図を有していることを示す必要がある。登録前も商標登録の更新時のいずれにおいても、使用を立証する必要はない。
しかし、商標の使用を立証する使用証拠は、不使用取消、異議申立および侵害訴訟において提出を要求され、商標出願に対する絶対的拒絶理由通知または相対的拒絶理由通知の克服に際しても重要となる。
1.商標の使用
商標登録は、商標が、登録に係る商品または役務に関して,商標権者またはその同意を得た者により少なくとも継続して3年間香港で真正に使用されておらず、不使用の正当な理由がない場合には、第三者からの不使用取消請求があれば取り消される。(香港商標条例第52条(2)(a))。当該期間において商標が実際に使用されていたことを立証する責任は、商標権者が負う(香港商標条例第82条)。したがって、商標権者にとって、商標の登録日から3年以内に、登録されたすべての指定商品または指定役務に関して、その登録商標の真正な使用を開始し、3年以上の継続する期間にわたる商標の使用休止を避け、さらに使用証拠を保管することが重要である。この使用証拠は、不使用取消請求から商標登録を防御する上で必要となる。ライセンシーによる商標の使用は、商標権者による有効な商標の使用となる。
商標条例には、何が商標の「使用」と看做されるか明確な定義はないが、出願において指定されたまたは登録された商品または役務に関する使用でなければならない。
商標の使用は、商標が登録された態様における商標の識別性を変えない要素において異なる態様による使用が含まれる(香港商標条例第52条(3)(a))。例えば、ブロック体大文字で登録された文字商標が、異なるフォントまたは大文字と小文字で使用される場合や、白黒で登録された商標が別の色で使用される場合は、登録された商標の識別性を変えたものとは看做されない。香港における使用には、輸出のみを目的として香港において商品または商品の包装に商標を付すことが含まれるとともに、商標が役務に関して登録されている場合、香港外部に提供されるまたは提供が予定される役務に関する使用(例えば、ホテルまたはレストランサービスが香港外で提供される場合において、当該ホテルまたはレストランサービスについて、香港において商標を宣伝すること)が含まれる。
何人も、登録されている商品または役務と同一または類似する商品または役務に関して、登録商標と同一または類似する商標を業として使用する場合は、登録商標を侵害する(香港商標条例第18条(1)、(2)、(3)および(4))。これを適用する上で、特に次の場合は、何人も商標を使用することになる(香港商標条例第18条(5))。
(1)商標を商品または包装に適用する場合
(2)商標の下で販売のために商品を提供または展示する場合
(3)商標の下で商品を市場に出す場合
(4)販売のために商品を提供または展示する目的、または商品を市場に出す目的で、商標の下で商品を在庫する場合
(5)商標の下で役務を提供または供与する場合
(6)商標の下で商品を輸入または輸出する場合
(7)商標を商業文書または広告に使用する場合
侵害を構成する商標の「使用」には、商標を適用することが商標権者またはライセンシーにより許可されていないことを知っている者またはそう信じる理由を有する者が、商品のラベル表示または包装のために、商業文書として、または商品もしくは役務の公告のために、使用される予定の材料に当該商標を適用しまたは適用させることも含まれる(香港商標条例第18条(6))。
商標権者は、登録商標の右上にシンボルマーク「®」を使用することを推奨する。
2.使用証拠
商標の真正な商業的使用を立証するため、商標権者は、販売額や売上高の数値や広告支出、インボイスの原本または写し、カタログ、宣伝広告資料といった過去の情報や資料を保管し、そうした情報や資料に基づく適切な使用証拠の作成に備えることが重要である。
不使用取消請求に対する抗弁に際しては、当該不使用取消請求の申請がなされる前3年間の期間内に、当該登録商標の真正な商業的使用が実際に行われたことを立証する必要がある。真正な使用とは、必ずしも中断のない使用または長期の使用を意味するものではない。使用証拠が、登録された商品または役務のすべての使用を立証していない場合、その使用を立証することができない商品または役務に関して、商標登録が部分的に取り消されることとなる。
商標出願において、拒絶理由の克服の際に必要とされる「使用による識別力」または「善意の同時使用」を立証するための使用は、例えば出願日前2~5年といった、中断のない比較的長期にわたるものであることが多い。使用証拠が出願におけるすべての商品または役務の使用を立証できない場合、当該出願の指定商品または指定役務は、使用が立証された商品または役務に限定される。
使用証拠は、商標権者または出願人の代表者により署名された宣誓書の形式で提出されなければならない。香港外で作成される宣誓書は、当該国での認証が必要となる。
宣誓書に関する公証人の認証手続において、宣誓者の署名の証明を第三者に代理させるという日本において広く行われているプラクティスは、香港においては認められない。宣誓者は、公証人の面前で宣誓書に署名しなければならない。
宣誓書の形式による使用証拠は、案件に応じて英語または中国語によるものでなければならない。その他の外国語による場合は、当該文書または関連部分の適切な公証翻訳文が要求される。
商標登録局ワークマニュアルは、宣誓書に関するその他方式要件について、その詳細を定めている。
台湾における景品での使用が商標使用と認められる可能性
【詳細】
商標の使用は核心的な問題の1つである。商標が連続して3年使用されていない場合、当該商標の商標登録取消事由を構成する可能性がある。また、著名商標にかかる保護については、商標の使用状況が著名を構成するか否か考慮しなければならない。さらに、商標権侵害が成立するか否かは、商標の使用を前提としなければならない。
商標法第5条は以下の通り規定する。
台湾商標法第5条
商標の使用とは、販売を目的として、ならびに次に掲げる各号のいずれかに該当し、関連する消費者にそれが商標であると認識させることができることをいう。
(1)商標を商品またはその包装容器に用いる。
(2)前号の商品を所持、展示、販売、輸出または輸入する。
(3)提供する役務と関連する物品に商標を用いる。
(4)商標を商品または役務と関連する商業文書または広告に用いる。
前項各号の状況は、デジタルマルチメディア、電子メディア、インターネットまたはその他媒介物の方式で行う場合も同様である。
また同法第57条第3項には「前項の規定により提出する使用に関する証拠は、商標が真実、使用されていることを証明でき、ならびに商業取引の一般慣習に合致しなければならない」と規定されており、これは商標取消に関する第67条第2項に準用される。
商標法第5条の規定により、商標の使用は「販売の目的」に限られている。これまでの実務見解によれば、いわゆる「販売の目的」は有償の行為に限定され、無償行為は含まなかった。したがって、景品は通常、商標の使用と認定されない。しかし、台湾経済部智慧財産局(日本の特許庁に相当)が智慧財産裁判所(知的財産裁判所)(日本の知的財産高等裁判所に相当)およびその他各界の専門家および学者を集めて共同で議論し、ならびに外国の立法例および実務見解を参酌した後、智慧財産局または知的財産裁判所は特定の条件下での景品について、商標の使用と認定した。
知的財産裁判所の103年(2014年)度行商訴字第140号行政判決は、VALENTINO商標商品の景品に関する商標登録取消事件において、VALENTINOの各種商品を一定額購入した消費者にVALENTINOの「香水」を景品として提供する行為について、「VALENTINOの香水類商品を景品として提供する行為は、香水類における商標使用を構成する」と判示した。また、知的財産裁判所の103年(2014年)度行商訴字第128号行政判決も、VALENTINOの別のシリーズの商標に係る景品紛争について、同一の見解を採用している。
知的財産裁判所は、次のように指摘している。係争のVALENTINO商標を「香水」商品およびそのパッケージに用いて商品と結合することは、消費者に係争商標を認識させるに足るものであり、かつ、販売を促進するという商業取引プロセスを利用して、係争のVALENTINO商標を標示する香水商品を景品として提供し、マーケットにおける販売というメッセージを伝達し、商品出所表示という機能を果たしており、香水の景品を通じて係争商標を消費者に認識させ、商標法第5条にいう「商標の使用」に合致する。
智慧財産局または知的財産裁判所は商標使用に関する見解を変更し、一部の条件付きの景品について商標の使用と認定しており、今後の類似案件の審理について、かなりの影響を及ぼすと予想される。
ロシアにおける「商標の使用」と使用証拠
【詳細及び留意点】
ロシア連邦民法第IV部第1484条には、商標がその権利者により使用され得る態様を、次のように規定している:
(1)以下にあげる商品(ラベルおよび包装を含む)における使用:
・ロシア連邦領域内での生産、市場への投入、販売される商品
・ロシア連邦領域内での展示会および見本市において展示される商品
・その他の形態で市場に流通する、または当該目的における保管、輸送される商品
・ロシア連邦領域内への輸入がなされる商品
(2)役務の提供における使用
(3)販売する商品を紹介する書類における使用
(4)商品または役務の市場への投入、ならびに、通知、看板および広告における使用
(5)インターネット上(ドメイン名を含む)の使用
商標は、以下の場合に使用されているものとみなされる。
(a)商標が登録された指定商品または指定役務に対して、当該商標が使用されている場合
(b)当該商標が付された商品または当該商標と関連付けられた役務が、ロシアにおいて販売を目的として使用されている場合
1.使用証拠
原則として、商標の使用証拠は、以下の場合において要求される。
(a)商標登録に対して、第三者が不使用取消請求を提起した場合
(b)商標を登録するために、出願人が、本来的に識別力を有していない商標について使用による識別力(セカンダリ・ミーニング)を立証する必要がある場合
(c)出願人が、ロシア連邦において、自らの商標について著名商標の認定を求める場合
使用証拠の範囲および種類は、その状況または目的によって異なる。実際の使用に関する具体的証拠を伴わない宣誓書は、使用証拠とはみなされない。
2.不使用取消手続における抗弁
ロシアにおいて、使用の開始または使用の意図は、商標の出願時、登録時、ならびに更新時の必須要件ではない。ロシア連邦民法第IV部第1486条に従い、商標登録は、その登録日の後3年以内に商標権者、排他的ライセンシー、非排他的ライセンシー、のいずれかによって、指定商品または指定役務に関して当該商標が使用されなかった場合、指定商品または指定役務の全部または一部が取り消される場合がある。商標の不使用に基づく商標登録の取消は、第三者の請求によってのみ生じる恐れがあり、第三者の請求無くロシア特許商標庁もしくは裁判所の職権で不使用に基づく取消請求がなされることは無い。
ロシアでは、不使用取消請求は、裁判所に提訴しなければならない。原告は、登録商標取消に対する理由を述べなければならない。理由としては、以下の様なものがある。
- 冒認登録の取消
- 原告の商標出願に対して引例となった先行登録の取消(取消により引例(拒絶理由)を克服する為)
一方、使用にかかる立証責任は、商標権者(被告)が負う。その登録商標を完全に有効なもとして維持するために、商標権者は以下の使用証拠を提出しなければならない。
(1)商標登録された商標と同一態様での商標に関する使用証拠
(2)商標権者の使用証拠。または商標権者の管理下(例えば、登録ライセンシー)による使用証拠
(3)ロシア市場に出された商品または役務に対する使用証拠(単なる広告または販売申入れは、市場に出すことにはあたらず、実際の使用を示すには十分ではない)
(4)指定商品または指定役務に対する使用証拠
(5)取消請求の提訴日前3年以内における使用証拠
商標権者は、不使用取消請求事件に勝訴するためには、上記(1)~(5)のすべての証拠を提出しなければならず、または当該商標が天災や輸出入規制等の自らの制御を超える事由により使用されなかったことを立証しなければならない。
不使用取消請求に対する抗弁において、ロシア連邦民法第IV部は、登録された態様とは実質的に異なる態様での商標の使用を、商標の適切な使用とみなす場合を認めている。多くの場合、登録された商標が白黒であった場合でも、カラーでの商標の使用は、登録された商標の使用としてみなされる。しかし、登録された商標が平易なブロック体商標で、実際の使用はデザイン化された態様の文字の商標であった場合には、登録された商標の使用とみなされないこともある。すなわち、商標が登録された態様で使用されていない場合、これを適切な使用であるとみなすか否かは、裁判所の裁量に委ねられる。
実務上、不使用取消請求を克服するためには、以下の証拠が必要である。
(1)商標が付されていることを明確に示す製品またはその包装の見本
(2)上記(1)における製品が商標権者によって生産されたことを立証する文書(例えば、製品証明書またはその他証明文書)
(3)上記(1)における製品が第三者により生産された場合、商標権者と当該生産者との間で締結されたライセンス契約書、または当該製品の製造業者について商標権者が支配していることを証明するその他文書
(4)上記(1)における製品が、取消請求の提訴日前3年以内に、ロシアにおいて合法的に供給されたことを示す文書(ロシア税関により押印された税関申告書、供給契約書の写し、インボイス、船積証券など)
(5)製品が、ロシア国内において、エンドユーザーまたは小売業者に流通した(販売された)ことを示す文書(契約書の写し、領収書、請求書など)
(6)ロシアのマスメディアに掲載された広告の写し、および当該広告が商標権者によりまたはその承認を得て掲載されたことを立証する付属文書
(7)商標が使用されていたこを示すその他文書
商標登録全体を維持するためには、商標権者は、その指定商品または指定役務に記載された全ての指定商品または全ての指定役務に関して、商標の使用証拠を提出しなければならない。使用証拠を提出できなかった指定商品または指定役務に関しては、裁判所は、その商標登録の一部を取り消し、その指定商品または指定役務を、当該商標の使用が立証された指定商品または指定役務に限定することができる。
3.使用による識別力(セカンダリ・ミーニング)
ロシア連邦民法第IV部は、本来的に識別力を欠く商標が使用された結果として識別力を有するに至った場合(例えば長年にわたる使用など)は、登録できると規定している。この場合、出願人は、当該出願人の商標としてロシア消費者により認識されていることを証明するために、出願人により当該商標が使用されてきたことを示すあらゆる情報および証拠を提出することができる。例えば、以下が挙げられる。
(a)当該商標が付された商品の生産量と販売量
(b)当該商標の使用期間
(c)広告費用
(d)当該商標に言及する現地の定期刊行物の写し
(e)ロシア消費者が、当該商標が付された商品の生産者として出願人を認識していることに関する情報(例えば、世論調査の結果)
(f)当該商標が付された商品および役務の展示を伴う、ロシア内外における製品展示会や専門フォーラムへの参加に関する情報等
上記に列挙された各種の証拠を全て提出する必要はないが、より多くの裏付け文書が審査官に提示されれば、識別力を欠くという拒絶理由を克服できる可能性がより高くなる。
4.著名商標
ロシアにおいて、著名商標の法的保護を得るためには、著名商標出願を行い著名商標としての認定を受けなければならない。著名商標であると認定するに値する証拠の一部として、出願人は、自らの商標が、ロシアにおいて、出願人により生産され、かつロシア連邦において流通された商品に関して、著名商標の出願日以前の一定期間にわたり当該商標が使用されてきたことを立証することが要求される。
登録された商標の態様とは異なる態様も使用証拠とみなされるのは、不使用取消訴訟における抗弁のみに適用される。不使用取消訴訟を除き、使用による識別力の立証または著名商標出願を含むその他の手続に関しては、登録見本と完全同一でない態様の商標の使用は、登録を求めている商標の使用とはみなされない。現在、ロシア特許商標庁(ROSPATENT)は、商標出願または著名商標出願に記載された商標と完全同一の形態で使用されていることの立証を求める。
結論として、ロシア法に基づき認められる商標の使用は、商品または役務に関する実際の使用である。法は、一定の場合において、完全同一でない態様での商標の使用を認めているものの、登録された態様で商標を使用することを推奨する。商標がライセンシーにより使用される場合、あらかじめロシア特許商標庁(ROSPATENT)にライセンス契約を登録することを強く推奨する。これはライセンス契約が登録されていない場合には、問題が生じてから証拠としてライセンス契約書を提出してもその契約は無効とみなされるためである。
フィリピンにおける「商標の使用」と使用証拠
【詳細】
商標の使用の構成要件を直接かつ明瞭な形で定めた具体的な規定は、フィリピン知的財産法には存在しない。だが、知的財産庁長官が2013年に公布した商標規則では、宣言書による使用証拠提出と登録の更新に関連して、フィリピンにおける商標の使用を構成しうる要素を間接的な形で示している。通達13-056号の関連規定は以下のように定めている。
「規則205(c) 以下のものは、商標の実際の使用を示す証拠として認められるものとする。
(1)商標が付されたラベル。
(2)出願人もしくは登録人のウェブサイトからダウンロードされたページであって、フィリピン国内において商品の販売もしくはサービスの提供が行われていることを明らかに証明するもの。
(3)実際に使用されている商標が表示された商品、または商標が付された商品の梱包箱、あるいはサービスが提供されている施設の写真(普通紙に印刷されたデジタル写真を含む)。
(4)実際にフィリピンで販売されている商品もしくは提供されているサービスに商標が使用されていることを示すパンフレットもしくは宣伝資料。
(5)オンライン販売の場合、提供される商品もしくはサービスの売上受領票、またはそれに類似する証拠で、フィリピン国内における商品の出荷の用意もしくはサービスの提供の用意、またはフィリピン国内における取引の実行を証明するもの。
(6)商標の図面もしくは複製のプリントアウトのコピーは、商標使用の証拠としては認容されない。」
上記で引用した規則205(c)の(2)項によれば、フィリピン国内で商品の販売もしくはサービスの提供が行われている場合、商標が使用されているとみなされる。さらに(5)項の規定から、フィリピン国内において商品の出荷の用意もしくはサービスの提供の用意が行われるか、フィリピン国内において取引が実行された場合、当該商品はフィリピン国内で販売されたと考えることができる。
使用の問題が争点となった訴訟として、Pagasa Industrial Corporation vs. Court of Appeals, et .al (G.R. No. L 54158, November 19, 1982)が挙げられる。この訴訟では、販売のためではなく単に販促用のサンプルとして使用するためにフィリピンに輸入された商品に商標が表示されていた。裁判所は以下のような判断を示している。
「フィリピン知的財産法は極めて明瞭である。商標の登録に先立ち、知的財産法は当該商標が実際に商業的に使用されることを要求している。被告の法人が先に商標登録を行ったことに異論の余地はないが、登録された商標をフィリピン国内で取引もしくは事業に使用したという自らの主張を、被告人は十分立証していない。当該商標を排他的かつ継続的に採用するとともに当該商標に投資したことを示す証拠を、被告人は提出していない。その証拠は、同人が初めて当該商標を使用してから今日までの多大な売上実績から成るはずである。被告人が提出したインボイスの日付は1957年に遡るが、フィリピンに送られたジッパーが「サンプル」として使用するためのものであって「商品価値はない」ことを明らかに示している。被告人が提出する証拠は、矛盾のないものでなければならない。「サンプル」は非売品で、それらがフィリピンに輸出されたという事実が法により想定された「使用」に相当するとみなすことはできない。被告人はそれら「サンプル」から収益を得ることを期待していなかった。販売を立証する領収書は存在せず、後日に当該製品がフィリピン国内で販売されたことを示す証拠も提出されていない。」
この訴訟の事例で言えば、使用が認められる要件となる基準は、サンプル製品が輸入された際にフィリピン国内で発生した取引によって商業的価値が得られているかどうかであった。裁判所は、輸入されたサンプル製品の販売収益を輸入者が取得したことを示す証拠の提供を求めたのである。
商標の使用に関連して、第155条では以下の行為は商標侵害に相当すると規定している。
「第155条 救済;侵害
何人も,登録標章の権利者の承諾を得ないで次の行為をした場合は,次条以下に規定する救済のため,侵害についての権利者による民事訴訟において責任を負わなければならない。
155.1使用することによって混同を生じさせ、錯誤を生じさせもしくは欺瞞する虞がある商品またはサ-ビスの販売、販売の申出、頒布、宣伝その他販売を行うために必要な準備段階に関連して、登録標章の複製、模造、模倣もしくは紛らわしい模倣もしくは同一の容器またはそれらの主要な特徴を商業上使用すること
155.2登録標章またはその主要な特徴を複製し、模造し、模倣しまたは紛らわしく模倣し、かつ、使用することによって混同を生じさせ、錯誤を生じさせまたは欺瞞する虞がある商品またはサ-ビスの販売、販売の申出、頒布または宣伝に関連して、商業上使用するための貼紙、標識、印刷物、包装用容器、包装紙、貯蔵用容器または宣伝に、そのような複製、模造、模倣または紛らわしい模倣を適用すること。ただし、当該侵害する物を使用した商品またはサ-ビスの実際の販売があったか否かにかかわらず、本項または前項にいう行為がなされた時に侵害が生じたものとする。」
知的財産法のこの規定は、商品やサービスの販売を実行するために必要な「準備段階」も不正な使用に含まれると定義している。したがって、定義上、販売という語が意味するものはフィリピン領内で実際になされた販売に限定されない。知的財産法155.2条を厳格に解釈すれば、フィリピン国内で販売されていない商品に商標を表示する行為も、同条に基づき侵害として処罰される「準備行為」に相当する可能性があるという結論を導くことができる。商品がフィリピン国内で実際に販売される前段階の使用も商標の使用に該当する場合があるからである。
以上に述べたすべての事柄から、フィリピン法の下での商標の使用とは、商品もしくはサービスに関して実際に使用することだという結論が導かれる。販促サービス用のサンプルに商標を使用しただけで商業用価値が得られないと判断される場合は、商標の使用に相当しない。侵害責任に関して言えば、実際の販売だけでなく、商品の販売もしくはサービスの提供を実行するために必要な準備段階も不正な使用に含まれる。
マレーシアにおける「商標の使用」と使用証拠
【詳細及び留意点】
1.商標の使用
商標の使用は、商標法において重要な意味を持っている。マレーシアは「先使用主義」の原則を採用している。すなわち、ある商標を最初に使用することで最初の所有権が与えられる。商標の先使用者が、同じ商標を先に出願した者に打ち勝つこともある。出願人が特定の商標を登録するためには、当該商標を商標として使用する意図があることを証明しなければならない。
2.商標法に規定された使用の態様
1976年法律175号(商標法)の第3条(2)項は、以下のように規定している。
(a)本法において、ある標章の使用というときは、当該標章の印刷その他の視覚的表示による使用をいうものとする。
(b)商品に関してある標章の使用というときは、商品そのものへのまたは商品との物理的その他の関係における当該標章の使用をいうものとする。
(c)役務に関してある標章の使用というときは、役務の利用可能性または実行に関する陳述もしくはその一部としての当該標章の使用をいうものとする。
商品または役務に「関して」という表現は、商標が使用される対象は必ずしも商品自体もしくは役務自体でなくてもよいということを意味しており、包装や容器、広告もしくは送り状(製品に添付されているか否かを問わない)に登録商標を表示することも商標の使用に含まれる。
3.不使用に伴う取消しのリスク
登録商標は、一定期間にわたる継続的な不使用を理由として登録を取り消されることがある。不使用取消請求は、高等裁判所に対して提訴しなければならない。商標法第46条(1)項の規定によれば、裁判所は、不服を有する者の申請により、下記(a)、(b)の何れかを理由として、ある登録商標をその登録に係る商品または役務の何れかに関して登録簿から抹消すべき旨の命令を発することができる。
(a)当該商標が、その登録出願人の側において、または第26条(1)に基づく登録の場合は、商標を使用するまたは使用予定の一般法人もしくは登録使用者の側において、それらの商品または役務に関して当該商標を使用する善意の意図がないにもかかわらず登録され、かつ、当該商標の登録所有者または登録使用者が、当該申請の日の1月前までに、それらの商品または役務に関して当該商標の善意の使用を実際に行っていないこと。
(b)申請の日の1月前に至るまで連続して3年以上、当該商標が登録されているにもかかわらず当該商標の登録所有者または登録使用者がそれらの商品または役務に関して当商標の善意の使用を行っていないこと。
登録商標に対する不使用取消訴訟を提起する場合、立証責任は申立人に課される。すなわち、登録の取消を求める者が、当該不使用に関する証拠を提出する責任を負う。その立証がなされた後、被申立人に商標の使用証拠を提出する責任が課される。実務上、申立人の提出する当該不使用に関する証拠としては、インターネットで登録商標について検索しても商品等がヒットしないことなど比較的簡単な書面などでも提訴は受理される。
4.商標の使用証拠
商標の使用を証明する為の使用証拠は、商品および役務に関係するものでなければならない。以下のようなものに商標が表示されていることで、商標の使用を証明することができる。
(a)ラベル、チケット、パンフレット、レターヘッドまたは印刷媒体もしくは容器、包装材。
(b)その他の視覚的表示(商品にエンボス加工や刺繍で表現された表示等)。
(c)電子画像の形態をとった表示(映画、テレビ画面、コンピュータ画面の画像等)。
商品広告における商標の使用も、広告される商品に関係する当該商標の「使用」と見なされる。広告の中には、チラシ、プラカード、看板、新聞等に印刷された広告だけでなく、テレビおよび映画による広告が含まれる。同様に、パンフレット、カタログ、業務上の書簡、送り状等、上記以外の文書に商標が使用された場合も、商品に関係する商標の使用となる。役務に関する商標の使用については、役務の提供もしくは遂行に関する陳述もしくは当該陳述の一部としての商標の使用が含まれる。
中国改正商標法及び実施条例の主な改正点
【詳細】
中国・改正商標法マニュアル(2015年3月、日本貿易振興機構 進出企業支援・知的財産部 知的財産課)一の1、2
(目次)
一 改正法及び関連規定の主な改正点
1 商標法 P.1
(1) 第一章 総則 P.2
① 第4条:商標登録出願条件の確立 P.2
② 第7条:誠実信用の原則の追加 P.2
③ 第8条:音声商標の導入 P.3
④ 第14条:馳名商標の認定と保護 P.3
⑤ 第15条:冒認出願対策の強化 P.5
⑥ 第19条:代理機構への管理強化 P.6
(2) 第二章 商標登録の出願 P.7
① 第22条第2項:「一出願多区分」制度を導入 P.7
② 第22条第3項:電子出願の導入 P.7
(3) 第三章 商標登録の審査及び認可 P.8
① 第28条:審査期限の規定 P.8
② 第29条:審査手続きの改善 P.9
③ 第33条:異議申立の主体資格の制限 P.10
④ 第35条:異議後の救済手続きの変化 P.11
(4) 第四章 登録商標の更新、変更、譲渡及び使用許諾 P.13
① 第40条:更新期間の延長 P.13
(5) 第五章 登録商標の無効宣告 P.13
① 第44条~第47条 P.13
(6) 第六章 商標使用の管理 P.15
① 第57条:新たな商標権侵害行為を定義 P.15
(7) 第七章 登録商標専用権の保護 P.16
① 第58条:新たな不正競争行為を追加 P.16
② 第59条:先使用主義への適当な配慮 P.16
③ 第60条第2項:商標権侵害行為の再犯への処罰の追加 P.17
④ 第63条:懲罰規定の新設及び権利者の挙証責任の軽減 P.17
⑤ 第64条:商標権者の賠償要求時における使用義務の規定の追加 P.19
(8) その他 削除された元の商標法の3つの条文 P.19
① 旧商標法第42条 P.19
② 旧商標法第45条 P.20
③ 旧商標法第50条 P.20
2 商標法実施条例 P.21
(1) 第一章 総則 P.21
① 第3条:馳名商標認定の立法趣旨の明確化 P.21
② 第5条:外国出願人が受取人を明記する規定の追加 P.22
③ 第8条:「電子データ」の形式で商標登録出願に関する規定の追加 P.22
④ 第9条、第10条:出願人が書類を提出する日付、要求及び送達に関する規定 P.23
⑤ 第11条:審査・審理期間に含まれない状況 P.24
⑥ 第12条:期間の計算方法について P.25
(2) 第二章 商標登録の出願 P.25
① 第13条:商標登録願書に関する要件 P.25
② 第14条:商標登録出願人の身分証明に関する規定 P.27
③ 第18条:商標出願の受理条件に関する規定 P.27
(3) 第三章 商標登録出願の審査 P.28
① 第22条:商標分割出願に関する規定 P.28
② 第23条:商標登録出願の内容に対する説明及び修正に関する規定 P.28
③ 第24~第28条:商標異議申立に関する規定 P.28
④ 第29条:出願又は登録書類の訂正に関する規定 P.30
(4) 第四章 登録商標の変更、譲渡、更新 P.30
① 第30条:商標権者の名義変更に関する規定 P.30
② 第31条:商標譲渡について P.31
③ 第32条:商標権の移転について P.32
(5) 第五章 商標国際登録 P.32
(6) 第六章 商標審判 P.33
① 第51条:商標審判の定義について P.34
② 第52条~第56条:商標審判案件の審理範囲の規定について P.34
③ 第59条:商標審判案件の請求又は答弁の補足証拠に関する規定について P.36
④ 第61条、第62条:請求人が審判請求を取り下げること及び取り下げた結果に関する規定について P.36
(7) 第七章 商標使用の管理 P.37
① 第65条:通用名称になった商標を取消す規定について P.37
② 第66条:正当理由なしで連続して三年不使用の登録商標を取消す規定について P.37
③ 第67条:3年連続不使用の登録商標の正当な理由について P.38
④ 第69 条:登録商標使用許諾届出の規定について P.38
⑤ 第70条:商標専用権の質権設定の規定について P.38
⑥ 第71条:被許諾者の名称と原産地を明記しない法律責任の規定について P.38
⑦ 第73条、第74条:商標抹消請求の規定について P.39
(8) 第八章 登録商標専用権の保護 P.40
① 第75条:他人の商標専用権を侵害する行為に、便宜を提供する行為の定義 P.40
② 第78条:違法経営額を計算する考慮要素の規定について P.40
③ 第79条:権利侵害製品が合法的に取得されたことを証明する情況の規定 P.41
④ 第80条:商標権侵害の製品であることを知らずに販売し、当該商品を合法的に取得したことを証明できる法的責任の規定 P.41
⑤ 第81条:商標権帰属に争議がある情況の定義について P.41
⑥ 第82条:商標権侵害案件における商標権侵害製品に対する鑑定手続きの規定 P.42
(9) 第九章 商標代理 P.42
(10) 第十章 附則 P.43
参考資料
1 改正法の条文・対照表
(1) 商標法全文 P.87
(2) 商標法対比表 P.104
(3) 商標法実施条例 P.130