ロシアにおける商標出願の拒絶理由通知に対する対応策
実体審査の結果、商標出願に拒絶理由があると審査官が判断したときは、直ちに拒絶査定をすることなく、拒絶理由を出願人に通知する。応答期間は拒絶理由の発送日から6か月である(ロシア民法第1499条第3項)。拒絶理由通知に対する対応策としては、以下のものがある。
(1)意見書の提出
(i)識別力を有しないとの拒絶理由の場合
出願商標が指定商品等の品質表示に過ぎないと認定されたが、当該認定は審査官の誤解によるものであって不適切なものである場合は、意見書にてその旨を主張する。
出願商標の一部に識別力がない部分が含まれている場合も拒絶理由が通知されるが、当該部分が当該出願商標の主要部分でなく、当該出願商標全体として識別力を有する場合は、当該部分について、権利不要求をするとともに、その旨を意見書にて主張することにより、拒絶理由の克服を狙うこともできる(ロシア民法第1483条第1項)。
また、識別力を有しないとの拒絶理由の場合、長年の使用により識別力を獲得したことの主張および立証を行うことにより、拒絶理由の克服を狙うこともできる(ロシア民法第1483条第1項)。
(ii)他人の先願登録商標と類似する、との拒絶理由の場合
他人の先願登録商標と類似する、と認定された場合は、称呼、観念および外観のいずれの点からも出願商標とは非類似である旨の反論を意見書で行うことにより、拒絶理由の克服を試みることができる。
また、後述する指定商品・役務(以下、「指定商品等」という)の補正や不使用取消訴訟等により拒絶理由が解消した場合には、意見書にてその旨を主張する。
(iii)先行する商号・取引上の表示と類似する場合
この理由は職権審査の対象ではなく、第三者より情報提供された場合に限り、先行する商号・取引上の表示と類似する、との拒絶理由が通知される。商号は、ロシアで登記されている場合に限り保護され、取引上の表示に関する権利は、識別力がありロシアの特定の地域で使用され知られるようになった場合に発生し、1年間全く当該地域で使用されない場合は消滅する。したがって、引用された先行する商号がロシアでは未登記の場合や引用された取引上の表示が1年以上不使用の場合は、意見書にてその旨を主張することにより争うことができる。また、引用された先行する商号や取引上の表示が使用される商品等が指定商品と非類似の場合も意見書にて争い、拒絶理由の克服を試みることができる。
(2)指定商品等の補正
指定商品等の補正により拒絶理由を克服することもできる。例えば、指定商品等の一部のみが先願登録商標の指定商品等や先行する商号等を使用する商品等と類似する場合に、当該類似する指定商品等を削除することにより、拒絶理由を克服できる。
(3)商標出願の分割
拒絶理由のない指定商品等については、分割出願を行うことにより、早期に登録を受けるとともに、拒絶理由を有する指定商品等については、別途争うという対応を取ることもできる。
(4)先願商標権者または登録周知商標の所有者(以下、「先願商標権者等」という)との交渉
拒絶理由が先願登録商標または登録周知商標と類似することを根拠とする場合、先願商標権者等と交渉を行うことにより、拒絶理由の克服を試みることができる。交渉の内容としては、以下のものがある。
(i)商標登録を受けることについて、先願商標権者等の同意を受けるための交渉
交渉により後願の出願商標の登録を受けることについて先願商標権者等より同意を受けることができれば、拒絶理由を克服できる可能性がある(ロシア民法第1483条第6項)。ただし、先願商標権者等の同意に審査官は拘束されず、同意を受けて拒絶理由を解消させるか否かは審査官の裁量に委ねられているので、前記同意を受けたとしても、拒絶理由を克服できない場合もある。
また、先願登録商標と後願の出願商標が同一であって、かつ、先願の指定商品等と後願の指定商品等も同一の場合には、先願商標権者の同意を受けたとしても、拒絶理由を克服することはできない。
(ii)先願商標権を譲り受けるための交渉
上記交渉により、先願商標権を譲り受けることできれば、先願商標権者と後願の出願人が同一人となるため、拒絶理由を克服することができる。
先願商標権者等の交渉の結果、同意書を得ることができたとしても、これだけでは拒絶理由は解消せず、当該同意書を上記意見書とともに提出しなければならない。
同様に、先願商標権の譲り受けの交渉に成功した場合も、これだけでは拒絶理由は解消しない。譲渡契約は書面により締結していなければならず、登録しなければならない(ロシア民法第1234条および第1490条)。譲渡契約が書面によらない場合や登録されていない場合は、いずれも商標権の譲渡は無効である(ロシア民法第1234条第6項)ため、前記譲り受けの交渉が成功した場合は、譲渡契約書を作成の上、移転登録申請を行って移転登録をしなければならない。
(5)不使用取消訴訟の提起、無効審判の請求
拒絶理由が先願商標と類似することを根拠とする場合、当該先願商標の登録に対して不使用取消訴訟の提起や無効審判の請求をし、当該商標登録を消滅させることにより拒絶理由の克服を試みることが可能である(ロシア民法第1483条第6項第2項、第1486条、第1512条)。
(6)留意事項
(i)上記のような先願商標権者等との交渉を行っている場合や不使用取消訴訟の提起や無効審判の請求を行っている場合であっても、応答期間経過後に審査手続が中止されないため、交渉成立や不使用取消訴訟の判決前に拒絶査定が出されてしまう可能性がある点に留意する必要がある。
(ii)先願商標権の放棄か譲渡を求める書簡を権利者に送付し、2か月以内に放棄申請の提出、譲渡契約の締結のいずれもされなかった場合に、前記2か月経過後30日以内に不使用取消訴訟が提起可能である点に留意が必要である。
(iii)無効審判の請求や不使用取消訴訟の提起をするためには、取消、無効にすることについて利害関係を有することを要するが、無効審判等の被請求登録商標を引例とした拒絶理由通知がされた、という事実のみでは「利害関係あり」とはいえない点に留意が必要である。例えば、ロシア以外の国で使用しており、ロシアで使用意図がある、といった事実があれば、利害関係を有すると認められる。
韓国における特許・実用新案・商標・意匠の審決取消訴訟制度概要
特許法院での審決取消訴訟のフロー
(1) 訴状提出
・特許審判院の審決に不服の場合、審決または決定の謄本の送達を受けた日から30日以内(別途付加期間あり)に特許法院(高等法院級に該当する)に提訴することができる。
・査定系の場合、特許庁長官を被告とする(特許法第187条/実用新案法第33条/商標法第163条/デザイン保護法第167条)。
(2) 訴状審査
・訴訟の必須的記載事項に欠缺がある場合は、裁判長は補正命令をする。欠缺を補正しなければ、訴えは却下される(民事訴訟法第254条2項)。
・裁判長は原告が訴状に引用した書証の謄本等を添付しない場合、これを提出するように命じることができる(民事訴訟法第254条4項)。
(3) 訴状副本等送達
・法院は訴状の副本を被告に送達しなければならない。しかし、副本を送達できない場合には、住所補正等を命じることができ、補正をしなければ訴えは却下される(民事訴訟法第255条1項、2項)。
・被告は公示送達の場合を除き、訴状の副本の送達受領日から30日以内に答弁書を提出しなければならない(民事訴訟法第256条1項)。
(4) 弁論準備手続及び弁論
・裁判長は当事者の攻撃防御方法の要旨を把握するのが難しいと認定する時には、当事者に争点と証拠の整理結果を要約した準備書面を提出するようにすることができる(民事訴訟法第278条)。
・一般的に、特許と実用新案事件は弁論準備手続を踏み、商標と意匠は弁論準備手続なしで弁論に進む。
・弁論準備手続を終えた場合は、最初の弁論期日を経た後に弁論を終結することを原則としている。
・当事者の争点整理等は上記のとおり書面で行うが、裁判は口頭弁論を重視する。両当事者は裁判官の前で、事件の争点につき口頭で説明・主張する。特許の場合は、しばしば、当事者が証人申請を行い、技術内容を正確に把握するために技術者を参加させることもある。
・外国語で作成された文書には、翻訳文を提出しなければならない。
(5) 判決
・判決は弁論が終結された日から2週以内に宣告される。しかし、特別な事情がある場合には4週以内に出される。
・判決は当事者が出席しなくても宣告することができる(民事訴訟法第207条2項)。
トルコにおける模倣品被害実態調査
「トルコにおける模倣品被害実態調査」(2016 年5 月、日本貿易振興機構ドバイ事務所)
(目次)
1 はじめに p.1
2 トルコにおける知財権行使の現状 p.2
3 模倣品市場—自動車部品 p.6
4 製造地域—自動車部品 p.26
5 模倣品市場- 装飾品/時計 p.29
6 製造地域—装飾品および時計 p.34
7 模倣品市場- プリンターカートリッジやトナーなどの事務用品 p.36
8 製造地域—プリンターカートリッジやトナーなどの事務用品 p.43
9 模倣品市場- 衣料品/繊維製品 p.44
10 製造地域—衣料品/繊維製品 p.63
11 模倣品市場- 家電製品/電気部品 p.68
12 製造地域 —家電製品/電気部品 p.76
13 模倣品市場- スキンケア商品/化粧品 p.76
14 製造地域—スキンケア商品/化粧品 p.87
サウジアラビア王国における商標権取得・行使に関する制度概要
「サウジアラビア王国における商標権取得・行使に関する制度概要調査」(2016 年6 月、日本貿易振興機構ドバイ事務所)
(目次)
第1章 – 概要 p.3
第1節 – サウジアラビアにおいて施行される法と手続きの概要 p.3
第2節 – 統計 p.4
第3節 – 登録商標の必要条件 p.4
第4節 – 登録期間 p.6
第5節 – イスラム法(シャリーア) p.6
第6節 – 商標登録出願の手続き(フローチャート付) p.7
第2章 – 商標登録出願 p.9
第1節 – 商標登録出願の事前検索 p.9
第2節 -商標登録出願の提出 p.9
第3節 – 商標 登録の利点 p.10
第3章 – 商標登録後 p.11
第1節 – 登録の取消 p.11
第2節 – 合併または名前の変更 p.11
第3節 – エンフォースメント p.12
第4節 – 行政アクション p.12
第5節 – 訴訟 p.12
第6節 – 税関 p.13
第7節 – 商標登録の譲渡 p.13
第8節 – ライセンス p.14
第9節 – オンラインにおける問題 p.14
付録A – 特定委任状サンプルp.15
イランにおける模倣品被害実態調査
「イランにおける模倣品被害実態調査」(2016 年5 月、日本貿易振興機構ドバイ事務所)
(目次)
1 イランにおける知的財産権保護状況の概要 p.1
2 はじめに —市況報告 p.9
3 自動車部品 p.11
4 家電製品および電気部品 p.14
5 装飾品および腕時計 p.18
6 化粧品およびスキンケア商品 p.20
7 事務用品 p.23
8 服飾品および衣類 25
9 イランにおける模倣品対策の取組 p.27
タイにおける商標権に基づく権利行使の留意点【その2】
記事本文はこちらをご覧ください。
タイにおける商標権に基づく権利行使の留意点【その1】
記事本文はこちらをご覧ください。
ロシアにおける商標権に基づく権利行使の留意点
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中国における知的財産専門裁判所(北京、上海、広州)の現状
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マレーシアにおける商標権に基づく権利行使の留意点
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