台湾における特許および実用新案の分割出願
2019年に改正された台湾専利法第34条および第107条は、分割出願に関して以下の通り規定している。
台湾専利法第34条
特許を出願した発明が、実質上2以上の発明である場合、台湾智慧財産局の通知または出願人の請求により、出願を分割することができる。
分割出願は次の各号に掲げる期間内にこれを行わなければならない。
1.原出願の再審査の査定前
2.原出願の特許査定書または再審査の特許査定書の到達日から起算して3か月以内。
分割後の出願は、原出願の出願日を出願日とする。優先権がある場合は、優先権を主張することができる。
分割の明細書等は、原出願の出願時の明細書、特許請求の範囲または図面に開示された範囲を超えてはならない。
第2項第1号の規定により分割を行った後の出願は、原出願で既に完了した手続から審査を続行しなければならない。
第2項第2号の規定により分割出願する発明は、原出願の明細書または図面に開示されたものであって、特許査定された請求項に係る発明と異なるものでなければならない。分割を行った後の出願は、原出願が特許査定される前の審査手続を続行するものとする。
原出願は、特許査定された明細書、特許請求の範囲または図面を変更してはならず、特許査定時の特許請求の範囲および図面をもってこれを公告するものとする。
(1)台湾専利法第34条第1項に規定されている分割出願の要件
「1つの発明ごとに出願しなければならない」との台湾専利法第33条第1項の規定に従い、1つの発明ごとに出願すべきだが、例外の「2以上の発明が、1つの広義の発明概念に属する場合、1出願において出願することができる。」との台湾専利法第33条第2項の規定に合致する場合、1つの出願にまとめて出願することも可能である。
ここで、単一性を有していない2つ以上の発明、または単一性を有し、まとめて1つの出願で出願された2つ以上の発明に対して、出願人が「1つの発明ごとの出願」に戻すことができるよう、台湾専利法第34条第1項に、特許出願した発明が、実質上2以上の発明である場合、分割出願することができると規定された。
一般的に、分割出願には、主に次の場合がある。
(i)請求の範囲に単一性を有さない2つ以上の発明が含まれる場合
(ii)単一性を有する2つ以上の発明について、出願人が2つ以上の出願に分けるほうが有利であると認めた場合(例えば、そのうち1つの発明が、拒絶査定された場合)
(iii)請求の範囲のうち、1つまたは複数の発明が審査によって新規性または進歩性がないとされ、他の発明との単一性がなくなった場合
(iv)請求の範囲に記載されておらず、原明細書に開示されていた発明を補正で請求の範囲に追加しようとしたが単一性がない場合
(2)台湾専利法第34条第2項に規定されている分割出願の時期に関する要件
(i)台湾専利法第34条第2項第1号には、原出願の再審査の査定前に分割出願することができると規定されているが、分割する際に、原出願は台湾智慧財産局により審査中でなければならない。原出願が取下げられまたは受理されず、すなわち、審査中でない状態の場合は、分割しようとするもの(すなわち、原出願)がなくなるので分割することができない。
よって、初審査において拒絶査定され分割出願しようとする場合は、原出願は法定の期限までに再審査を請求し審査中の状態に戻して初めて分割出願することが可能となる。
なお、分割後の原出願が、取下げられ、または受理されなくとも、分割後の全ての分割出願に影響はない。
(ii)台湾専利法第34条第2項第2号には、原出願の初審査の特許査定書、再審査の特許査定書の到達日から起算して3か月以内に分割をすることができると規定されている。2011年改正台湾専利法には、初審査における特許査定から30日以内に分割出願することができるとの規定が追加された。
また、台湾の審査には初審査と再審査の2つの段階があるが、2019年改正台湾専利法では、初審査および再審査のいずれも、特許査定書の送達後3か月以内であれば、出願を分割することができる旨が規定され、分割可能期間が大幅に緩和された。
一方、再審査を経て拒絶査定された場合については、これまでどおり分割出願を行うことができない。
(3)台湾専利法第34条第3項には、分割出願の出願日の認定と優先権の主張について規定されている。分割出願は、原出願の出願日を出願日とする。原出願が優先権を主張を伴う場合は、分割出願もその優先日を有する。
(4)台湾専利法第34条第4項には、分割出願に新規事項を追加してはならないと規定されている。分割出願は、原出願の出願日を出願日とするので、その明細書、請求の範囲または図面の内容は、原出願の明細書、請求の範囲および図面に開示されている範囲を超えてはならず、すなわち、新規事項を追加してはならない。
(5)台湾専利法第34条第5項には、審査における、分割出願にかかる原出願と分割出願の審査段階について規定されている。原出願は、補正が提出された場合には、補正にかかる手続きにて審査を続けなければならない。分割出願については、分割出願毎に審査を行わなければならない。また、分割出願に対して審査を繰り返し行うことを避けるために、分割出願毎に、分割出願が行われた原出願の完了した手続きに合わせて審査を続行しなければならない。例えば、原出願が再審査の段階にある場合は、各分割出願とも再審査段階から審査を続行しなければならない。
(6)台湾専利法第34条第6項によれば、まず、分割出願するときは、原出願の明細書または図面で開示された発明、かつ特許査定された請求項に係る発明と同じではない発明から、出願を分割しなければならない。すなわち、その際の分割出願の請求の範囲は、特許査定された原出願の請求の範囲から分割をするものではなく、かつ、原出願の明細書に記載された技術の内容を超えてはならない。
専利法第34条第6項には、特許査定後に分割をした原出願と分割出願の審査段階についても規定されている。この場合、原出願の審査手続きが査定により終了したにもかかわらず、分割出願の審査が同一の処理手続きの繰り返しにより遅れるということがないように、分割出願は、特許査定前の審査を続行することが明記された。
(7)台湾専利法第34条第7項によれば、原出願の明細書、請求の範囲および図面は、分割により変更されることがないので、原出願は、依然として、その特許査定された時点の請求の範囲および図面で公告が行われる。
台湾専利法第107条
実用新案登録を出願した実用新案が、実質上2以上の実用新案である場合、特許主務官庁の通知または出願人の請求により、出願を分割することができる。
分割出願は次の各号に掲げる期間内にこれを行わなければならない。
1.原出願の処分前
2.原出願の登録処分書の到達日から起算して3か月以内。
(1)専利法第107条第1項に規定されている分割出願の要件
実用新案登録出願の分割出願の要件は、基本的に特許出願の分割出願と同様である。
(2)専利法第107条第2項に規定されている分割出願の時期に関する要件
(i)専利法第107条第2項第1号の規定により、分割出願は、原出願の処分(登録処分、または却下処分)の前に行わなければならない。実用新案登録出願について、台湾では、考案の内容に関する実体審査を行わずに、方式審査のみが行われて、要件の不備がないと認められた場合、登録処分書が発せられる。一方、補正指令が発せられて、要件の不備が解消されていない場合は、却下処分書が発せられる。
(ii)2019年改正専利法には、専利法第107条第2項第2号の規定が追加され、特許出願と同様に、実用新案登録出願の原出願の登録処分から3か月以内に分割をすることができると規定されている。
留意事項
(1)分割出願した際に、原出願の種類を変更することはできない。すなわち、特許出願は、分割後も依然として特許出願のままである。分割出願を実用新案登録出願として続行しようとする場合は、改めて出願変更しなければならない。
(2)分割出願は、原出願に開示されている範囲を超えてはならない。すなわち、各分割出願の内容は、原出願の明細書、請求の範囲または図面に開示されている事項でなければならないが、同時に、各分割出願の請求の範囲の内容が原出願の請求の範囲と完全に同一であってはならない。同一である場合、専利法第31条第2項に規定されている出願日、優先日が同日である場合の、出願人が同一人である同一の発明にかかる規定に違反することになる。
(3)分割出願において実体審査を請求しようとする場合、原出願の出願日から3年以内に行わなければならない。分割出願する時期が既に3年の期間を超えている場合は、分割出願した日から30日以内に実体審査を請求しなければならない。
(4)原出願(以下、親出願)から分割出願した後に、親出願が分割時期の要件を満たさなくなった場合、分割要件と分割時期の要件を満たす分割出願(以下、子出願)があれば、当該子出願からさらに分割出願(孫出願)をすることができる。
(5)2011年の専利法改正では最後の拒絶理由通知の制度が導入され、原出願と分割出願の審査について、次の事情があれば台湾智慧財産局はただちに最後の拒絶理由通知を行うことができる。
(i)原出願に対して行う通知が、分割出願において既に通知されている内容と同じである場合
(ii)分割出願に対して行う通知が、原出願において既に通知されている内容と同じである場合
(iii)分割出願に対して行う通知が、その他の分割出願において既に通知されている内容と同じである場合
なお、最後の拒絶理由通知がなされた場合、出願人は通知された期間内において、次の事項についてのみ、特許請求の範囲を補正することができる。
(a)請求項の削除
(b)特許請求の範囲の縮減
(c)誤記の訂正
(iv)不明瞭な記載の釈明
(6)実用新案登録出願の分割時期について
原出願の処分(登録処分、または却下処分)の前だけでなく、登録処分書の送達後3か月以内であれば、分割をすることができるよう規定が緩和された。
(7)2019年改正専利法の経過規定について
専利法第34条第2項第2号、第107条第2項第2号に規定される分割可能期間が法改正により特許査定書・登録処分書の送達から3か月間に拡大されるとともに、経過規定として、専利法第157条の3において「…施行前に、すでに査定または処分された専利出願が第34条第2項第2号および第107条第2項第2号に規定された期間を超えていない場合、改正施行後の規定を適用する」ことが定められた。
よって、上記条文が適用される専利出願には、改正専利法施行日の2019年11月1日以降に査定または処分されたものだけでなく、当該施行日前3か月以内に(2019年8月1日以降に)査定または処分されたものも含まれる。
ロシアにおける商標出願の拒絶理由通知に対する対応策
実体審査の結果、商標出願に拒絶理由があると審査官が判断したときは、直ちに拒絶査定をすることなく、拒絶理由を出願人に通知する。応答期間は拒絶理由の発送日から6か月である(ロシア民法第1499条第3項)。拒絶理由通知に対する対応策としては、以下のものがある。
(1)意見書の提出
(i)識別力を有しないとの拒絶理由の場合
出願商標が指定商品等の品質表示に過ぎないと認定されたが、当該認定は審査官の誤解によるものであって不適切なものである場合は、意見書にてその旨を主張する。
出願商標の一部に識別力がない部分が含まれている場合も拒絶理由が通知されるが、当該部分が当該出願商標の主要部分でなく、当該出願商標全体として識別力を有する場合は、当該部分について、権利不要求をするとともに、その旨を意見書にて主張することにより、拒絶理由の克服を狙うこともできる(ロシア民法第1483条第1項)。
また、識別力を有しないとの拒絶理由の場合、長年の使用により識別力を獲得したことの主張および立証を行うことにより、拒絶理由の克服を狙うこともできる(ロシア民法第1483条第1項)。
(ii)他人の先願登録商標と類似する、との拒絶理由の場合
他人の先願登録商標と類似する、と認定された場合は、称呼、観念および外観のいずれの点からも出願商標とは非類似である旨の反論を意見書で行うことにより、拒絶理由の克服を試みることができる。
また、後述する指定商品・役務(以下、「指定商品等」という)の補正や不使用取消訴訟等により拒絶理由が解消した場合には、意見書にてその旨を主張する。
(iii)先行する商号・取引上の表示と類似する場合
この理由は職権審査の対象ではなく、第三者より情報提供された場合に限り、先行する商号・取引上の表示と類似する、との拒絶理由が通知される。商号は、ロシアで登記されている場合に限り保護され、取引上の表示に関する権利は、識別力がありロシアの特定の地域で使用され知られるようになった場合に発生し、1年間全く当該地域で使用されない場合は消滅する。したがって、引用された先行する商号がロシアでは未登記の場合や引用された取引上の表示が1年以上不使用の場合は、意見書にてその旨を主張することにより争うことができる。また、引用された先行する商号や取引上の表示が使用される商品等が指定商品と非類似の場合も意見書にて争い、拒絶理由の克服を試みることができる。
(2)指定商品等の補正
指定商品等の補正により拒絶理由を克服することもできる。例えば、指定商品等の一部のみが先願登録商標の指定商品等や先行する商号等を使用する商品等と類似する場合に、当該類似する指定商品等を削除することにより、拒絶理由を克服できる。
(3)商標出願の分割
拒絶理由のない指定商品等については、分割出願を行うことにより、早期に登録を受けるとともに、拒絶理由を有する指定商品等については、別途争うという対応を取ることもできる。
(4)先願商標権者または登録周知商標の所有者(以下、「先願商標権者等」という)との交渉
拒絶理由が先願登録商標または登録周知商標と類似することを根拠とする場合、先願商標権者等と交渉を行うことにより、拒絶理由の克服を試みることができる。交渉の内容としては、以下のものがある。
(i)商標登録を受けることについて、先願商標権者等の同意を受けるための交渉
交渉により後願の出願商標の登録を受けることについて先願商標権者等より同意を受けることができれば、拒絶理由を克服できる可能性がある(ロシア民法第1483条第6項)。ただし、先願商標権者等の同意に審査官は拘束されず、同意を受けて拒絶理由を解消させるか否かは審査官の裁量に委ねられているので、前記同意を受けたとしても、拒絶理由を克服できない場合もある。
また、先願登録商標と後願の出願商標が同一であって、かつ、先願の指定商品等と後願の指定商品等も同一の場合には、先願商標権者の同意を受けたとしても、拒絶理由を克服することはできない。
(ii)先願商標権を譲り受けるための交渉
上記交渉により、先願商標権を譲り受けることできれば、先願商標権者と後願の出願人が同一人となるため、拒絶理由を克服することができる。
先願商標権者等の交渉の結果、同意書を得ることができたとしても、これだけでは拒絶理由は解消せず、当該同意書を上記意見書とともに提出しなければならない。
同様に、先願商標権の譲り受けの交渉に成功した場合も、これだけでは拒絶理由は解消しない。譲渡契約は書面により締結していなければならず、登録しなければならない(ロシア民法第1234条および第1490条)。譲渡契約が書面によらない場合や登録されていない場合は、いずれも商標権の譲渡は無効である(ロシア民法第1234条第6項)ため、前記譲り受けの交渉が成功した場合は、譲渡契約書を作成の上、移転登録申請を行って移転登録をしなければならない。
(5)不使用取消訴訟の提起、無効審判の請求
拒絶理由が先願商標と類似することを根拠とする場合、当該先願商標の登録に対して不使用取消訴訟の提起や無効審判の請求をし、当該商標登録を消滅させることにより拒絶理由の克服を試みることが可能である(ロシア民法第1483条第6項第2項、第1486条、第1512条)。
(6)留意事項
(i)上記のような先願商標権者等との交渉を行っている場合や不使用取消訴訟の提起や無効審判の請求を行っている場合であっても、応答期間経過後に審査手続が中止されないため、交渉成立や不使用取消訴訟の判決前に拒絶査定が出されてしまう可能性がある点に留意する必要がある。
(ii)先願商標権の放棄か譲渡を求める書簡を権利者に送付し、2か月以内に放棄申請の提出、譲渡契約の締結のいずれもされなかった場合に、前記2か月経過後30日以内に不使用取消訴訟が提起可能である点に留意が必要である。
(iii)無効審判の請求や不使用取消訴訟の提起をするためには、取消、無効にすることについて利害関係を有することを要するが、無効審判等の被請求登録商標を引例とした拒絶理由通知がされた、という事実のみでは「利害関係あり」とはいえない点に留意が必要である。例えば、ロシア以外の国で使用しており、ロシアで使用意図がある、といった事実があれば、利害関係を有すると認められる。
インドにおけるPCT出願国内移行時の補正
2012年7月2日、インド特許庁は、PCT出願の国内段階への移行手続きを簡素化する公示を行い、同日施行した。インドにおける国内段階移行期間は、優先日から31か月(多くの国では原則として30か月)以内である。
従来のインド特許実務では、PCT出願に関する明細書やクレーム等の書類がWIPO国際事務局のウェブサイトで公開されている場合であっても、国内段階に移行する際に、WIPO国際事務局ウェブサイトで公開された明細書やクレーム等を添付することが求められた。
国内段階への移行手続きを簡素化するため、インド特許庁はこの公示以降、明細書やクレーム等のコピー提出義務を廃止した。先に出願されたPCT出願(国内段階)に基づく優先権を主張するPCT出願を除き、インド特許庁はWIPO国際事務局のウェブサイトから関連書類を入手する。国内段階への移行時に出願人が提出を求められる書類は、最終ページに特許代理人または出願人が署名した所定様式、および「優先権書類送付の通知」(PCT/IB/304)および「変更記録の通知」(PCT/IB/306)の写し等の関連書類である。
ただし、英語以外の言語で公開された出願に関しては、これらの簡素化手続きは適用されない。つまり、国内段階に移行する際に、明細書やクレーム等の翻訳文、およびその翻訳内容が正確かつ完全であるという旨の出願人または出願代理人による証明書を提出することが求められる。
2012年7月の公示の重要な点の1つは、公示以降、PCT出願の国内段階への移行時(国内書面提出時)に補正が認められないという点である。インド特許庁は、補正された明細書やクレーム等が提出されても、国際事務局のウェブサイトで入手可能な文書のみを審査する。明細書やクレーム等の補正が認められるのは、国内段階移行後となる。
これまでは、法律上の明確な規定がなかったため、補正された明細書やクレーム等が国内段階への移行時に自発補正として提出されていたが、特許庁は、このような実務は適切ではなく、このような自発補正が受理されないことを明確にした。
ただし、2016年5月16日に改正された特許規則20(1)において、国内段階移行時にクレームを削除する補正が可能である旨の解説(Explanation)が追記された(【ソース】Patents (Amendment) Rules 2016参照、第9項にて特許規則20(1)に「解説」を追記する修正を実施)。
インド特許庁はWIPO国際事務局のウェブサイトから関連文書を直接入手することになるため、出願人の負荷が大幅に低減すると見込まれている。
マレーシアにおける特許出願の審査手続
(1)出願日の確定
マレーシアでは、特許出願後直ちに、出願日を確定するための要件について審査される。必要書類の提出や手数料の納付等の要件を充足していない場合には3か月以内に補正するように求められ、適正に補正された場合には補正した日が出願日であるとして取り扱われる。期間内に補正しなければ、当該出願は最初からなかったものとされる。
なお、出願書類で言及されている図面が出願書類に含まれていない場合は、出願人は3か月以内に欠落している図面を提出するよう求められる。出願人が期間内に該当の図面を提出した場合は当該図面の受領日が出願日となり、期間内に該当の図面が提出されなかった場合には、出願書類受領の日が出願日となる(この場合、登録官は当該図面に言及しないので、当該図面が出願書類に含まれないまま権利化される)(マレーシア特許法第28条、特許規則25)。
(2)方式審査(予備審査)
出願日が確定された特許出願は、方式審査(予備審査)において、規則に定められる事項(願書の記載事項、様式等)が審査される。方式要件を充足していない場合は3か月以内に補正するように求められ、適正な補正が行われなければ、出願は拒絶される(同法第29条、同規則26)。
(3)実体審査
(i)実体審査
方式要件を具備していると認められると、出願日から18か月以内に、所定のフォーマット(様式5)により実体審査請求が行われた特許出願に対して実体審査が行われ、新規性、進歩性、産業上の利用可能性等が審査される(同法第29条A(1)、同規則27)。期間内に実体審査請求を行わない場合、出願は取り下げたものとみなされる。
実体審査請求に係る手数料は、オンライン出願の場合は950リンギット、オンライン出願によらない場合は1,100リンギットである。
実体審査に要する時間は、事案にもよるが通常、審査請求からおよそ2年から4年である。
(ii)修正実体審査
出願人または前権利者において、同一の発明について米国、英国、日本、豪州、韓国で特許権、または、欧州特許を取得している場合、出願人は出願日から18か月以内に、所定のフォーマット(様式5A)により、実体審査に代えて修正実体審査を請求することもできる(同法第29A条(2)、同規則27A条)。
修正実体審査請求の際には、出願人または前権利者に付与された特許証の証明付き謄本や証明付き英語翻訳文(日本の場合等)を添付しなければならない。
なお、審査請求手数料は、オンライン出願の場合は600リンギット、そうでない場合は640リンギットである。
修正実体審査の場合は、進歩性の要件充足性は通常審査されず、修正実体審査に要する期間は、審査請求からおよそ1年から2年程度である。
(iii)審査請求の猶予
出願人は、所定のフォーマット(様式5B)を用いて、実体審査請求または修正実体審査請求の請求期間について、1回限りの猶予を求めることができる。猶予期間の上限は、マレーシアでの出願日または国際出願日から5年である(同規則27B)。
猶予が認められるためには実体審査請求または修正実体審査請求を行うべき期間内に猶予を求める申請を行う必要があり、以下のような事情がある場合に猶予が認められ得る(同法第29A条(6))。
実体審査請求の場合:(a)当該出願人またはその前権利者によりマレーシア以外の国において提出された特許若しくは工業所有権保護に関するその他の権利を求める出願に関する情報または関係書類、(b)当該出願においてクレームされている発明と同一または基本的に同一の発明に関する特許協力条約に基づく国際調査機関による調査または審査結果に係る情報が入手できていないこと
修正実体審査請求の場合:根拠となる外国特許出願がまだ登録になっていない場合や、要求される証明書類が入手できない場合
(4)登録官による不利益通知(adverse report)への対応
実体審査・修正実体審査において、実体要件を具備しないと審査官が判断した場合、その旨の報告書が出願人に送付され、当該発行日から2か月以内に意見書または補正書を提出する機会が与えられる。実体要件不備を解消できない場合、当該出願は拒絶され得る(同法第30条(3)、同規則27C(5)、27D(5))。
この規定による補正の機会は1度のみである(自発補正については、回数制限はない)。
なお、不利益通知への対応期間については、1度だけ延長が認められ得る(同法第30条(4))。延長が認められる期間は、事案により異なるが、およそ1か月から6か月程度である。
期間延長を求める場合は所定のフォーマット(様式21)により申請し、手数料(基本費用:260マレーシアリンギット、1か月あたり70マレーシアリンギットを加算)を納付する必要がある(Registrar’s Notice No. 2/2011 regarding Extension of Time on Patent matters)。
(5)留意事項
分割出願を行う場合、さらなる実体審査または修正実体審査の請求(分割出願の実体審査または修正実体審査の請求)は当該分割出願時に行う必要がある(同規則27(2)、27A(2))。
なお、分割出願は実体審査・修正実体審査の審査報告書の発行日から3か月以内に行わなければならない。マレーシアでは、出願された特許は一般的に出願日の早いものから審査され、審査請求が早いからといって必ずしも審査も早くなる訳ではないようである。
マレーシアにおける修正実体審査請求
1.修正実体審査請求
マレーシア出願においてクレームされている発明と同一または実質的に同一の発明について、所定の国で、出願人に対して(ただし、権利の移転により当該所定国での出願人とマレーシア出願の出願人が異なる場合、その当該国の出願人に対して)特許またはその他の工業所有権保護の権利が付与されている場合、特許法第29条A(1)に基づき、修正実体審査を請求することができる。修正実体審査の請求は所定のFormの提出により行う。(Form 5A)
修正実体審査の請求は、パリルートによる出願の場合にはマレーシア出願日から18か月以内(規則27(1))、PCTルートによる出願の場合には国際出願日から4年以内(規則27A(1A))に行わなければならない。
修正実体審査では以下の書類を添付しなければならない。(規則27A(3))
所定の国において、または所定の条約を基に出願人または前権利者に対して付与された特許またはその他の工業所有権保護の権利についての認証謄本。かかる特許またはその他の工業所有権保護の権利が英語でない場合には、英語による認証翻訳文。
所定の国による、または所定の条約に基づく特許またはその他の工業所有権保護の権利が付与された発明の明細書、クレームまたは図面が、形式的事項は別として、マレーシア出願でクレームされている発明の明細書、クレームまたは図面と実質的に同一でない場合には、それらを一致させるための補正。
ここで、「所定の国」とは、オーストラリア、日本、韓国、英国または米国を意味し、「所定の条約」とは欧州特許条約を意味する(規則27A(5))。
つまり、修正実体審査においては、外国で(所定の国でまたは所定の条約に基づいて)付与された特許が英語による場合には、その特許を発行した特許庁が証明した特許を証明する書類と、もし必要なら補正を提出すればよい。外国で付与された特許が英語によらない場合には、その特許を発行した特許庁が証明した外国語の特許を証明する書類とは別に、特許を証明する書類の英訳を翻訳者の証明書(宣誓書)とともに提出することが必要である。
日本国特許庁の審査結果に基づきマレーシアにおいて修正実体審査を請求する場合には、日本国特許庁が認証した特許公報とその英訳、翻訳者による宣言書、および出願人による宣言書を提出することが必要である(ただし、出願人による宣言書は提出を求められない場合もある。)。
修正実体審査の請求はその猶予の申立をすることができる。申立は修正実体審査を請求すべき期間内に行わなければならない。(特許法第29条A(6))
認められる猶予期間は出願日(PCTルートの場合には国際出願日)から最大5年である。(規則27B(2))
修正実体審査請求の猶予の申立は、請求の基礎とする所定の国での出願が特許になっていない場合や、認証書類が入手できない場合に行うことができる。(Form 5B)
猶予期間内に修正実体審査の請求ができない場合には、猶予期間満了後から3か月以内に通常の実体審査請求を行うことができる。(規則27B(3))
2.通常の実体審査請求と修正実体審査請求との比較
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通常の実体審査請求 |
修正実体審査請求 |
(1)特許庁費用 |
RM1100(約USD275) |
RM640(約USD160) |
(2)請求時に提出すべき書類 |
a)マレーシア出願でクレームされた発明と同一または実質的に同一の発明について、オーストラリア、日本、韓国、英国および米国において出願された出願、並びにEPCおよびPCTの下に出願された出願の出願日と出願番号の情報 (規則27(3)(a)) |
マレーシア出願でクレームされた発明と同一または実質的に同一の発明について、オーストラリア、日本、韓国、英国、若しくは米国において、または欧州特許条約の下に付与された特許を証明する書類の認証謄本と、その特許を証明する書類が英語でない場合にはその証明付英語訳(規則27A(3)(a)) |
b) マレーシア出願でクレームされた発明と同一または実質的に同一の発明について、オーストラリア、日本、韓国、英国若しくは米国において、または欧州特許条約の下に付与された特許の番号 (規則27(3)(b)) |
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c) マレーシア出願でクレームされた発明と同一または実質的に同一の発明について、オーストラリア、日本、韓国、英国、米国、または欧州の特許庁(特許協力条約に基づく国際調査機関または国際予備審査機関の場合も含む)による、調査または審査結果と、その調査または審査結果が英語でない場合にはその証明付英語訳 (規則27(3)(c)) |
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(3) 補正要否 |
補正は必須ではないが、審査促進のためには上記(2)で述べた特許のクレームに、マレーシア出願のクレームを一致させる補正を自発的に行うのが望ましい。 |
マレーシア出願のクレームを上記(2)で述べた特許のクレームに一致させる補正が必要である。(規則27A(3)(b)) |
外国(所定の国)の出願が特許されていることがその発明の主題に特許性があることの一応の証拠となるので、修正実体審査を請求することにより審査が促進される。修正実体審査においては、審査官は、原則、マレーシア出願と外国で特許された出願とが一致しているかどうかについての審査を行い、(特別な状況の例外を除いて)先行技術調査を行わず、また、進歩性、単一性、明細書の記載要件、クレームの明確性等について審査は行わない。
ただし、注意すべき点として、発明の主題が対応国で特許性があったとしても、マレーシアで特許を受けることができない主題であってはならない。特許法第13条によれば、人間または動物の進退についての治療または診断方法、ビジネス方法、発見、科学理論、数学的方法、植物若しくは動物の品種、植物若しくは動物を生産するための本質的に生物学的な生産方法などは、特許を受けることができない。
3.特許審査ハイウェイ(PPH)
マレーシアと日本との間のPPH試行プログラムは2014年10月1日より始まり、2017年9月30日まで実施された。その後3年間延長され2017年10月1日から2020年9月30日まで実施される。また、マレーシア知的財産公社(MyIPO)と日本特許庁(JPO)は同プログラムを必要に応じて延長していく予定である。
PPHは、通常の実体審査請求と同時またはその後に申請する。MyIPOがその出願の実体審査に着手していないときに限ってPPHの対象候補となる。
マレーシア出願においてPPHを申請するための要件は以下のa~eである。
a. PPHを申請するマレーシア出願およびPPHの基礎とする日本出願において、優先日あるいは出願日のうち、最先の日付が同一であること。
b. 対応する日本出願があり、JPOにより特許可能とされたまたは特許されたクレームが一つ以上あること。
c. PPHの下で審査される全てのクレーム(出願時のクレームあるいは補正されたクレーム)がJPOにより特許可能とされたクレームの一つ以上と十分に対応していること。
d. PPHの申請時に、MyIPOがその出願の審査を始めていないこと。
e. PPHの申請時またはそれ以前に、通常の実体審査請求が行われていること。
PPHの申請時には、以下の(a)~(d)の書類を添付して提出する必要がある。
(a)対応する日本出願に対してJPOから発行された(JPOにおける特許性の実体審査に関連する)全てのオフィスアクションの写し、およびその翻訳
マレー語または英語が翻訳言語として利用可能である。JPOのオフィスアクションとその翻訳がAIPN(JPOの「ドシエ・アクセス・システム」:各国特許庁が有する審査関連情報を照会するシステム)により提供されている場合には、MyIPOの審査官はAIPNによりオフィスアクションの写しとその機械翻訳を入手できるので、出願人はそれらを提出する必要はない。MyIPOの審査官がAIPNによりオフィスアクションおよびその翻訳を得ることができない場合には、出願人には必要書類を提出するよう要請される。
(b)対応する日本出願で特許可能と判断されたすべてのクレームの写し、およびその翻訳
マレー語または英語が翻訳言語として利用可能である。JPOにおいて特許可能と判断されたクレームがAIPNにより提供されている場合に、MyIPOの審査官はAIPNによりクレームの写しとその機械翻訳を入手できるので、出願人はそれらを提出する必要はない。MyIPOの審査官がAIPNによりクレームを得ることができない場合には、出願人には必要書類を提出するよう要請される。
(c)JPOの審査官が引用した引用文献の写し
引用文献が特許文献の場合、MyIPOが通常所有しているため、出願人はそれらを提出する必要はない。MyIPOが特許文献を所有していない場合には、出願人は審査官から要求に応じてその特許文献を提出する必要がある。非特許文献は必ず提出しなければならない。引用文献の翻訳は不要である。
(d)クレーム対応表
PPHを申請する出願人は、マレーシア出願の全てのクレームが、対応する日本出願で特許可能とされたまたは特許となったクレームと十分に対応していることを示すクレーム対応表を提出しなければならない。クレームが直訳である場合、出願人は対応表において「それらは同一である」と記載することができる。クレームが直訳でない場合には、互いに十分に対応していることを説明する必要がある。
上記(a)および(b)における翻訳は機械翻訳でも認められる。ただし、翻訳が不十分のため翻訳されたオフィスアクションやクレームを審査官が理解できない場合には、審査官は出願人に翻訳の再提出を求めることができる。
最近の傾向では、PPH申請より3~4か月で審査報告書が発行される。
4.修正実体審査請求とPPH申請との比較
|
修正実体審査請求 |
PPH申請 |
請求または申請の基礎とする対応国(その条件) |
オーストラリア、日本、韓国、英国、米国、または欧州特許条約の下(いずれかにおいて特許が付与された場合) |
日本(対応する日本出願においてクレームが特許可能または特許となった場合) |
提出書類の条件 |
外国で付与された特許を証明する書類は、その特許を発行した特許庁による認証謄本でなければならない。 |
対応する日本出願の特許可能または特許となったクレームは単なる写しでよい。 |
審査促進の効果 |
請求から9か月~1年で審査報告書 |
請求から3~4か月で審査報告書 |
台湾専利法における誤訳対応
(1)特許の場合
(i)誤訳の補正(専利法第43条)
(a)請求時期
出願後審査意見通知を受けるまで、いつでも請求可能である。最初の審査意見通知以降は、最初の審査意見通知への応答期間内(専利法第43条第3項)、最後の審査意見通知の応答期間内(専利法第43条第4項)、再審査請求時(専利法第49条第1項)に補正できる。
(b)補正可能な範囲
新規事項の追加は認められない。出願時の明細書および図面の開示の範囲内であることが必要である(専利法第43条第2項)。外国語書面(外国語の明細書および図面)で出願した場合は、出願時の外国語書面の開示の範囲内でなければならない(専利法第44条第3項)。
開示の範囲には、実際の記載事項に加え、発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が、外国語書面の記載事項から直接かつ一義的に知ることのできるものも含まれる(専利審査基準「第一篇程序審查及專利權管理、第十章修正」)。
なお、外国語書面自体は補正できない(専利法第44条第1項)。
(c)補正の目的
最後の審査意見通知を受けると、上記の新規事項追加の制限に加え、請求項の削除(専利法第43条第4項第1号)、特許請求の範囲の減縮(同第2号)、誤記の訂正(同第3号)、不明瞭な記載の釈明(同第4号)を目的とした補正しか認められなくなる。
(ii)誤訳の訂正
(a)請求時期
特許権成立から消滅まで請求できる。無効審判係属中でも可能である(専利法第77条第1項)。利害関係人が特許権の取消しにより回復されるべき法律上の利益により、特許権消滅後に無効審判を請求した場合は(専利法第72条)、特許権消滅後でも訂正請求できる(専利審査基準「第一篇程序審查及專利權管理、第二十章更正」)。
(b)訂正可能な範囲
原則、出願時の明細書または図面の開示範囲を超えないこと(専利法第67条第2項)、外国語書面出願の場合は出願時の外国語書面の開示範囲を超えないこと(専利法第67条第3項)が必要である。公告時の請求の範囲を実質的に拡大変更してはならない(専利法第67条第4項)。請求の範囲の記載を訂正し、または、明細書若しくは図面を訂正して、公告時の請求の範囲を実質的に拡大変更する場合が該当する(専利審査基準「第二編發明專利實體審查、第9章更正、4實質擴大或變更申請專利範圍」)。
(c)訂正の目的
請求項の削除(専利法第67条第1項第1号)、請求の範囲の減縮(専利法第67条第1項第2号)、誤記または誤訳の訂正(専利法第67条第1項第3号)または不明瞭な記載の釈明(専利法第67条第1項第4号)に該当する訂正であることが要求され、誤訳の訂正が可能となっている。
(2)実用新案の場合
(i)誤訳の補正
補正ができる時期に制限規定が存在しないのは特許と同じである。形式審査において自発補正が可能であり、また、職権で補正を命じられることもある(専利法第109条)。補正について、新規事項の追加は認められない点および新規事項追加の判断基準は、特許の場合と同じである(専利法第120条で準用する第43条第2項、同第110条第2項)。
(ii)誤訳の訂正
訂正ができる時期は、
1.無効審判の応答期間(専利法第120条で準用する第74条第3項)、2.技術評価報告書請求の係属中(専利法第118条)、3.訴訟係属中である(専利法第118条)。なお、実用新案の訂正請求では実体審査が行われる。訂正可能な範囲および態様のいずれも、特許の場合と同じである(専利法第120条で準用する第67条)。
(3)意匠の場合
(i)誤訳の補正
審定書送達前までできる(専利法第142条で準用する第43条第1項、審査基準第三編「設計專利實體審查」第六章「修正、更正及誤譯之訂正」1.2「修正之時機補充、補正の時期」)。
補正は出願時の図面説明書の開示範囲を超えてはならない(専利法第142条で準用する第43条第2項、審査基準第三編「設計專利實體審查」第六章「修正、更正及誤譯之訂正」1.3「超出申請時說明書或圖式所揭露之範圍的判斷」)。
図面説明書を外国語で出願した場合(専利法第125条第3項)、出願時の外国語書面が開示範囲の判断基準となる(専利法第133条第2項)。
(ii)誤訳の訂正
意匠権設定後に行うことできる(専利法第139条第1項)。訂正は図面説明書の誤記または誤訳の訂正並びに不明瞭な記載の釈明に限られる(専利法第139条第1項)。
訂正は出願時の開示範囲を超えてはならず(専利法第139条第2項)、外国語書面で出願していた場合は、出願時の外国語書面の開示範囲内で可能である(専利法第139条第3項)。
外国語書面出願であったか否かに関係なく、公告時の図面を実質的に拡大変更する訂正は許されない(専利法第139条第4項)。
【留意事項】
台湾専利法では、外国語書面出願の場合は、「外国語明細書」に開示された範囲を超えなければ(中国語明細書の開示範囲を超えても)、補正や訂正が認められる。
インドネシアにおける特許出願の補正の制限
1.補正の制限に関するインドネシア特許法の条文
インドネシアにおける補正の制限については、インドネシア特許法(特許に関する法律第13/2016号)第39条に下記のように定められている。
インドネシア特許法第39条
(1)出願は、以下の場合補正することができる:
(a)第25条(1)項(b)号、(e)号および/または(f)号に規定する出願データ;および/または
(b)第25条(2)項(a)号から(e)号に規定する出願データ
(2)第25条(2)項(b)号および(c)号における発明の明細書および/または特許請求の範囲の補正は、その補正が原出願で申請された発明の範囲を拡大しないという条件で行うことができる。
(3)最初の出願に請求の範囲を追加して10項を超える補正の場合、当該超過した請求項に手数料が課される。
(4)出願において(3)項に規定する手数料が納付されない場合、超過分の特許請求の範囲は取下げられたとみなされる。
ここで、
第25条(1)項(b)号は、願書における発明者の氏名、完全な住所および国籍を意味し、
第25条(1)項(e)号は、出願が代理人を通して行われる場合、代理人の氏名および完全な住所を意味し、
第25条(1)項(f)号は、出願が優先権を伴って出願される場合、最初の出願の国名と出願日を意味する。
また、第25条(2)項(a)号から(e)号は、それぞれ、以下のものを意味する。
(a)発明の名称
(b)発明の明細書
(c)特許請求の範囲
(d)発明の要約
(e)図面が出願と共に添付される場合、発明の説明に必要とされる明細書に記載される図面
2.発明の明細書および特許請求の範囲の補正
インドネシア特許法第39条(2)項に規定されるように、発明の明細書および特許請求の範囲の補正に対する制限は、補正により、出願当初において請求された発明自体の範囲を拡大してはならないというものである。特許法第39条の説明において、「発明の範囲を拡大する」という場合、これは、明細書、図面またはクレームのいずれにおけるかを問わず、発明の範囲を拡大させるような、要旨や主題の追加、新規事項の追加、または発明の技術的特徴の削除を意味する。したがって、特許法第39条は、発明の明確化のみを認めている。
原則として、インドネシア出願の内容が当初明細書の開示範囲として取り扱われることに注意が必要である。ただし、インドネシア出願が他国の特許出願を基礎としてなされたものであって、誤訳により基礎出願とインドネシア出願で記載内容が一致しない場合には、実務上、誤訳訂正が認められる。
PCT出願の場合、国際出願の内容が当初明細書の範囲となり、国内移行段階で、インドネシア語明細書への誤訳があった場合は、誤訳訂正が認められる。
補正は、出願人が自発的に行うことも、審査官からの指示により行うこともできる。実体審査に入る前に出願人によって補正が行われる場合を、一般的に自発補正と呼ぶ。
一方、審査報告書の示唆に従い補正が行われる場合もある。審査官は実体審査において、審査報告書を発行するが、その中で出願人に出願書類の補正を要求する場合がある。審査官の要求する補正は、他国での対応特許出願での登録クレームと実質的に同様のクレームに補正することである場合が多い。
3.請求の範囲の追加により10項を超える補正
インドネシア特許法第39条(3)項に規定されるように、請求の範囲の追加により請求項数が10項を超える補正の場合、超過した請求項に手数料が課される。同条(4)項に規定されるように、(3)項に規定する手数料が納付されない場合、超過分の特許請求の範囲は取下げられたとみなされる。
マレーシアにおける修正実体審査
1. 修正実体審査(Modified Substantive Examination:MSE)
マレーシア出願においてクレームされている発明と同一または実質的に同一の発明について、所定の国で、出願人に対して(ただし、権利の移転により当該所定国での出願人とマレーシア出願の出願人が異なる場合、その当該国の出願人に対して)特許またはその他の工業所有権保護の権利が付与されている場合、特許法第29条A(1)に基づき、修正実体審査を請求することができる。修正実体審査の請求は所定のForm(Form5A)の提出により行う。
修正実体審査の請求は、パリルートによる出願の場合にはマレーシア出願日から18か月以内(規則27(1))、PCTルートによる出願の場合には国際出願日から4年以内(規則27A(1A))に行わなければならない。
修正実体審査では以下の書類を添付しなければならない(規則27A(3))。
a.所定の国において、または所定の条約を基に出願人または前権利者に対して付与され
た特許またはその他の工業所有権保護の権利についての認証謄本。かかる特許または
その他の工業所有権保護の権利が英語でない場合には、英語による認証翻訳文。
b.所定の国による、または所定の条約に基づく特許またはその他の工業所有権保護の
権利が付与された発明の明細書、クレームまたは図面が、形式的事項は別として、
マレーシア出願でクレームされている発明の明細書、クレームまたは図面と実質的に
同一でない場合には、それらを一致させるための補正。
ここで、「所定の国」とは、オーストラリア、日本、韓国、英国または米国を意味し、「所定の条約」とは欧州特許条約を意味する(規則27A(5))。
つまり、修正実体審査においては、外国で(所定の国でまたは所定の条約に基づいて)付与された特許が英語による場合には、その特許を発行した特許庁が証明した特許を証明する書類と、もし必要なら補正を提出すればよい。外国で付与された特許が英語によらない場合には、その特許を発行した特許庁が証明した外国語の特許を証明する書類とは別に、特許を証明する書類の英訳を翻訳者の証明書(宣誓書)とともに提出することが必要である。
日本国特許庁(JPO)の審査結果に基づきマレーシアにおいてMSEを請求する場合には、JPOが認証した特許公報とその英訳、翻訳者による宣言書、および出願人による宣言書を提出することが必要である(ただし、出願人による宣言書は提出を求められない場合もある。)。
修正実体審査の請求はその猶予の申立をすることができる。申立は修正実体審査を請求すべき期間内に行わなければならない(特許法第29条A(6))。認められる猶予期間は出願日(PCTルートの場合には国際出願日)から最大5年である(規則27B(2))。修正実体審査請求の猶予の申立は、請求の基礎とする所定の国での出願が特許になっていない場合や認証書類が入手できない場合に、所定のForm(Form5B)を提出することで行うことができる。
猶予期間内に修正実体審査の請求ができない場合には、猶予期間満了後から3か月以内に通常の実体審査請求を行うことができる(規則27B(3))。
2. 通常の実体審査請求と修正実体審査との比較
通常の実体審査請求 | 修正実体審査 | |
(1)特許庁費用
単位:RM(リンギット) |
RM1100(約USD275) | RM640(約USD160) |
(2)請求時に提出すべき書類 | マレーシア出願でクレームされた発明と同一または実質的に同一の発明について、
a)オーストラリア、日本、韓国、英国および米国において出願された出願、並びにEPCおよびPCTの下に出願された出願の出願日と出願番号の情報(規則27(3)(a))
b)オーストラリア、日本、韓国、英国若しくは米国において、または欧州特許条約の下に付与された特許の番号(規則27(3)(b))
c)オーストラリア、日本、韓国、英国、米国、または欧州の特許庁(特許協力条約に基づく国際調査機関または国際予備審査機関の場合も含む)による、調査または審査結果と、その調査または審査結果が英語でない場合にはその証明付英語訳(規則27(3)(c)) |
マレーシア出願でクレームされた発明と同一または実質的に同一の発明について、オーストラリア、日本、韓国、英国、若しくは米国において、または欧州特許条約の下に付与された特許を証明する書類の認証謄本と、その特許を証明する書類が英語でない場合にはその証明付英語訳(規則27A(3)(a)) |
(3)補正要否 | 補正は必須ではないが、審査促進のためには上記(2)で述べた特許のクレームに、マレーシア出願のクレームを一致させる補正を自発的に行うのが望ましい。 | マレーシア出願のクレームを上記(2)で述べた特許のクレームに一致させる補正が必要である。(規則27A(3)(b)) |
外国(所定の国)の出願が特許されていることがその発明の主題に特許性があることの一応の証拠となるので、修正実体審査を請求することにより審査が促進される。修正実体審査においては、審査官は、原則、マレーシア出願と外国で特許された出願とが一致しているかどうかについての審査を行い、(特別な状況の例外を除いて)先行技術調査を行わず、また、進歩性、単一性、明細書の記載要件、クレームの明確性等について審査は行わない。
ただし、注意すべき点として、発明の主題が対応国で特許性があったとしても、マレーシアで特許を受けることができない主題であってはならない。特許法第13条によれば、人間または動物の身体についての治療または診断方法、ビジネス方法、発見、科学理論、数学的方法、植物若しくは動物の品種、植物若しくは動物を生産するための本質的に生物学的な生産方法などは、特許を受けることができない。
3. 特許審査ハイウェイ(PPH)
マレーシアと日本との間のPPH試行プログラムは2014年10月1日より始まり、2017年10月1日に試行期間が3年間延長されている。新しい試行期間は2020年9月30日で終了予定となるが、必要に応じて延長される予定である。
PPHは、通常の実体審査請求と同時またはその後に申請する。MyIPOがその出願の実体審査に着手していないときに限ってPPHの対象候補となる。
マレーシア出願においてPPHを申請するための要件は以下のa~eである。
a.PPHを申請するマレーシア出願およびPPHの基礎とする日本出願において、
優先日あるいは出願日のうち、最先の日付が同一であること。
b.対応する日本出願があり、JPOにより特許可能とされたまたは特許されたクレームが
一つ以上あること。
c.PPHの下で審査される全てのクレーム(出願時のクレームあるいは補正された
クレーム)がJPOにより特許可能とされたクレームの一つ以上と十分に対応
していること。
d.PPHの申請時に、MyIPOがその出願の審査を始めていないこと。
e.PPHの申請時またはそれ以前に、通常の実体審査請求が行われていること。
PPHの申請時には、以下の(a)~(d)の書類を添付して提出する必要がある。
(a)対応する日本出願に対してJPOから発行された(JPOにおける特許性の実体審査に関連する)全てのオフィスアクションの写し、およびその翻訳
マレー語または英語が翻訳言語として使用できる。JPOのオフィスアクションとその翻訳がAIPN(JPOの「ドシエ・アクセス・システム」:各国特許庁が有する審査関連情報を照会するシステム)により提供されている場合には、MyIPOの審査官はAIPNによりオフィスアクションの写しとその機械翻訳を入手できるので、出願人はそれらを提出する必要はない。MyIPOの審査官がAIPNによりオフィスアクションおよびその翻訳を得ることができない場合には、出願人には必要書類を提出するよう要請される。
(b)対応する日本出願で特許可能と判断されたすべてのクレームの写し、およびその翻訳
マレー語または英語が翻訳言語として使用できる。JPOにおいて特許可能と判断されたクレームがAIPNにより提供されている場合に、MyIPOの審査官はAIPNによりクレームの写しとその機械翻訳を入手できるので、出願人はそれらを提出する必要はない。MyIPOの審査官がAIPNによりクレームを得ることができない場合には、出願人には必要書類を提出するよう要請される。
(c)JPOの審査官が引用した引用文献の写し
引用文献が特許文献の場合、MyIPOが通常所有しているため、出願人はそれらを提出する必要はない。MyIPOが特許文献を所有していない場合には、出願人は審査官から要求に応じてその特許文献を提出する必要がある。非特許文献は必ず提出しなければならない。引用文献の翻訳は不要である。
(d)クレーム対応表
PPHを申請する出願人は、マレーシア出願の全てのクレームが、対応する日本出願で特許可能とされたまたは特許となったクレームと十分に対応していることを示すクレーム対応表を提出しなければならない。クレームが直訳である場合、出願人は対応表において「それらは同一である」と記載することができる。クレームが直訳でない場合には、互いに十分に対応していることを説明する必要がある。
上記(a)および(b)における翻訳は機械翻訳でも認められる。ただし、翻訳が不十分のため翻訳されたオフィスアクションやクレームを審査官が理解できない場合には、審査官は出願人に翻訳の再提出を求めることができる。
最近の傾向では、PPH申請により、請求から3~4か月で審査報告書が発行される。
4. 修正実体審査とPPHとの比較
修正実体審査 | PPH | |
請求または申請の
基礎とする対応国 (その条件) |
オーストラリア、日本、韓国、英国、米国、または欧州特許条約の下(いずれかにおいて特許が付与された場合) | 日本(対応する日本出願においてクレームが特許可能または特許となった場合) |
提出書類の条件 | 外国で付与された特許を証明する書類は、その特許を発行した特許庁による認証謄本でなければならない。 | 対応する日本出願の特許可能または特許となったクレームは単なる写しでよい。 |
審査の体制 | 出願日の順に審査される(審査請求順ではない)ため審査までの待ち時間がPPHよりも長い。 | PPH申請を専門に扱う審査官のグループがあるため修正実体審査よりも早期に権利化が可能。 |
審査促進の効果 | 請求から9か月~1年で審査報告書 | 請求から3~4か月で審査報告書 |
シンガポールの庁指令に対する応答期間
特許出願の審査手続は、パリ条約に基づく出願、または特許協力条約(PCT)に基づく国際出願の国内移行出願のいずれの出願形式を選択するかにより異なる。特に調査および審査の段階において、その相違は大きい。また、発行される庁指令および通知は、出願形式や以下に説明する調査および審査の種類により異なる。
パリ条約に基づく出願では、出願人は、審査請求について以下の選択肢(オプション)を有する。(図1のフロー参照)
(1)基準日から13か月以内に調査を請求し(第29条(1)(a))、その後、基準日から36か月以内に審査を請求する(第29条(3))。
(2)基準日から36か月以内に調査と審査を同時に請求する(第29条(1)(b))。
(3)基準日から36か月以内に、対応する出願または対応する国際出願の調査報告書に基づく審査を請求する(第29条(1)(c)(i))。
(4)基準日から54か月以内に、対応する出願または対応する国際出願の肯定的な最終結果・審査結果に基づく補充審査を請求する(第29条(1)(d)(i)(A))*1。
*1:補充審査は、2017年10月30日付けで改正された特許法により、2020年1月1日以降の出願では、利用できなくなる。(シンガポール特許法29条(11A)、およびシンガポール特許規則43(4))。
(図1)パリ条約に基づく出願の場合
PCTに基づく国内移行出願では、出願人は審査請求について以下の選択肢を有する。(図2のフロー参照)
(1)基準日から36か月以内に調査と審査を同時に請求する(第29条(1)(b))。
(2)基準日から36か月以内に、対応する出願、対応する国際出願、国内段階に移行した関連特許または国内段階に移行した関連特許出願の調査報告書に基づく審査を請求する(第29条(1)(c)(i))。
(3)基準日から36か月以内に、シンガポール国内移行出願の元となるPCT国際出願の国際調査報告書に基づく審査を請求する(第29条(1)(c)(ii))。
(4)基準日から54か月以内に、対応する出願、対応する国際出願、国内段階に移行した関連特許または国内段階に移行した関連特許出願の肯定的な最終結果または審査結果に基づく補充審査を請求する(第29条(1)(d)(i)(A);補充審査は、上記*1のとおり、2020年1月1日以降の出願では利用できない。補充審査については、以下同じ。)。
(5)基準日から54か月以内に、シンガポール国内移行出願の元となるPCT国際出願の特許性に関する国際予備報告(IPRP)に基づく補充審査を請求する(第29条(1)(d)(i)(B))。
(図2)PCTに基づく国内移行出願の場合
1.不備を指摘する通知に対する応答期間
1-1.予備審査において指摘された不備
シンガポール特許規則33に基づいて規定された方式要件を満たしていない出願について登録官(Registrar)が、不備を指摘する場合、該不備に対応するための応答期限は、通知の日から2か月である。延長に関する手数料を納付することにより、この期限は最大18か月延長することができる。この延長手続きは、最初の期限の前または後のいずれにおいても行うことができる。
登録官が、図面または明細書の一部が欠落した出願について不備を指摘する場合、該不備に対応するための応答期限は、通知の日から3か月である。この期限は延長することができない。
1-2.その他審査関連事項に関する不備
提出された書類または様式に何らかの不備が見つかった場合や、書類の提出に漏れがあった場合には、審査手続の様々な段階において、登録官により該不備が指摘されることがある。また、登録官は、以上のような類型に該当しない不備に関しても、該不備を指摘する通知を発行することができる。
このような不備に対応するための応答期間は、該通知に記載されている。応答期間は登録官の裁量であり、特許法または特許規則では規定されていない。
2.調査報告に対する応答期間
(図3)パリ条約に基づく出願の場合
(図4)PCTに基づく国内移行出願の場合
第29条(1)(a)または(b)に基づいて請求された調査報告により(図3および図4のフロー参照)、当該特許出願において、単一の発明概念に関する単一性の欠如が判明した場合、登録官は出願人にその旨を通知する必要がある。
出願人は、単一性を有しないと判断されたために調査が行われなかった発明について補足調査(Supplementary Search)を請求することができる。この請求は、登録官の通知の日から2か月以内に行う必要がある。この期限は、延長に関する手数料を納付することにより、最大6か月延長することができる。
第29条(1)(a)に基づいて請求された調査報告が、審査請求期限の1か月前以降に出願人に送付された場合、審査請求期限は、調査報告が出願人に通知された日から1か月延長される。
3.調査見解書に対する応答期間
3-1.実体審査が請求される場合
(図5)パリ条約に基づく出願の場合
(図6)PCTに基づく国内移行出願の場合
特許法第29条(1)(b)もしくは(c)または第29条(3)に基づいて、審査または調査および審査が請求され(図5および図6のフロー参照)、見解書が発行された場合、その見解書に対する応答期限は、見解書の通知の日から5か月であり、この期限は延長することができない。
3-2.補充審査が請求される場合*1
(図7)パリ条約に基づく出願の場合
(図8)PCTに基づく国内移行出願の場合
特許法第29条(1)(d)に基づいて補充審査が請求され(図7および図8のフロー参照)、見解書が発行された場合、その見解書に対する応答期限は、見解書の通知の日から3か月であり、この期限は延長することができない。
3-3.見解書に対する応答
出願人は、見解書に対して、反論または補正を提出して応答することができる。
出願人が見解書に対して応答を行わない場合には、見解書に基づいて審査報告書(3-1の場合)または補充審査報告書(3-2の場合)が作成される。審査報告書または補充審査報告書に未解決の拒絶理由が含まれる場合、登録官は出願人に拒絶をする旨の通知を発行する。
4.拒絶をする旨の通知に対する応答期間
出願人は、未解決の拒絶理由が含まれる審査報告書に対し、再審査を請求することができる。再審査は、拒絶をする旨の通知の日から2か月以内に請求することができる。
延長に関する手数料を納付することにより、この期限は最大6か月延長することができる。この延長手続きは、最初の期限の前または後のいずれにおいても行うことができる。最初の期限より後に期限延長を請求する場合、期限延長を請求するまでの間、当該出願は放棄された状態となる。
5.特許を付与する旨の通知に対する応答期間
登録官により特許を付与する旨の通知が発行される場合、出願人には、当該出願を整理し、登録料を納付するための期間として2か月が与えられる。
この期限は、延長に関する手数料を納付することにより、最大18か月延長することができる。
応答を行わない場合、当該出願は放棄されたものとみなされる。最初の期限より後に期限延長を請求する場合、期限延長を請求するまでの間、当該出願は放棄された状態となる。
6.特許付与後の応答期間
シンガポールにおいて最初に支払う年金は第5年次年金であり、第4年次までの年金を支払う必要は無い。第5年次年金の納付期限は特許出願日から4年目が満了する3か月前、すなわち、特許出願日から45か月である。
特許出願日から45か月が経過した後に特許が付与される場合、支払期限を迎えた年金(前年までに支払期限のある全ての費用を含む)は、特許付与の日から3か月以内であればいつでも納付することができる。
以降の各年の年金は毎年納付することとなり、期間満了前3か月以内に納付することができる。
【留意事項】
庁指令または通知に対する応答期間は、庁から発行される書面に記載されている。庁書面によっては、応答期間の延長が認められない場合もあり、そのような応答期間ついては、特に注意を払う必要がある。
シンガポールにおける特許出願の補正の制限
1.特許付与前の補正
シンガポール特許法(以下、「特許法」)の第31条は、特許付与前の出願の補正に関する一般的な権限を規定している。また、特許法第84条(2)には、補正に対する制限が定められている。
“特許法第84条(2)
特許出願の第31条に基づくいかなる補正も、その結果、当該出願が出願時での特許出願において開示された事項を超える事項を開示するに至る場合は、認められない。”
また、特許付与前の補正が認められない一定の期間があり、そのような期間は、シンガポール特許規則(以下、「規則」)の49(2)および49(3)に規定されている。
“規則49(2)
下記第(3)項に従い、出願人は、登録官から別段の要求がない限り、特許付与に係る手数料が支払われる前の任意の時期に、自らの意思により明細書、クレーム、図面および要約を補正することができる。”
“規則49(3)
特許法第29B条(2)に従い、以下の期間には本規則(2)項に基づく補正は行われないものとする。
(a)特許法第29条(1)(a)に基づく調査報告の請求が提出された後、出願人が当該報告を受領するまでの期間。
(b)特許法第29条(1)(b)に基づく調査兼審査報告の請求が提出された後の期間。ただし、当該報告に関して規則46(3)に基づき提出された答弁書の中に補正が含まれている場合はこの限りではない。
(c)特許法第29条(1)(c)もしくは(3)に基づく審査報告の請求が提出された後の期間。ただし、当該報告に関して規則46(3)に基づき提出された答弁書の中に補正が含まれている場合はこの限りではない。
(d)特許法第29条(1)(d)に基づく補充審査報告の請求が提出された後の期間。ただし、当該報告に関して規則46(3)に基づき提出された答弁書の中に補正が含まれている場合はこの限りではない。
(e)特許法第29B条(1)に基づくレビューの請求が提出された後の期間。”
なお、規則49(3)にいう「報告に対する答弁書」とは、調査兼審査報告、審査報告、または補充審査報告の請求に関連して審査官が発行した「意見書」に対する答弁書のことである。
2.特許付与後の補正
(1)特許法
特許法第38条は、特許付与後の明細書の補正(日本特許法の「訂正」に相当)に関する一般的な権限を規定している。また、特許法第83条は、侵害または取消手続における特許の補正について次のように定めており、特許法第84条(3)は、特許明細書の補正に関する2つの制限を定めている。
“特許法第83条(1)
特許の有効性を争点として裁判所または登録官の下で行われる手続において、裁判所または登録官は、本法第84条に従うことを条件として、かつ、補正案の公告および費用、経費その他について裁判所または登録官が適切と考える条件に従うことを前提として、裁判所または登録官が適当と考える方法で、当該特許明細書を補正することを特許の所有者に許可することができる。”
“特許法第84条(3)
特許明細書の特許法第38条(1)、第81条または第83条に基づく如何なる補正も、次の場合は、認められない。
その補正の結果、
(a)当該明細書において何らかの追加事項が開示されるに至る場合、または
(b)当該特許により与えられる保護が拡張される場合。”
(2)審査ガイドライン
2017年10月30日付で改正された審査ガイドラインの第7章E(特許付与後の訂正の許可性)7.36において、特許が明らかに無効である(obviously invalid)場合には、無効の可能性がある(potentially invalid)場合と異なり、新規事項の追加または権利範囲の拡張かどうかを考慮することなく、補正を認めないと規定されている。
3.新規事項の追加に関する判断基準
シンガポール控訴裁判所は、FE Global Electronics Pte Ltd and others v Trek Technology(Singapore)Pte Ltd [2006] 1 SLR 874の判決において、英国の判例Bonzel and Schneider(Europe)AG v Intervention Ltd [1991] PRC 553を引用して、特許明細書の補正が新規事項の追加にあたるか否かという問題の判断基準を示している。3段階からなるこの判断基準は以下のとおりである。
(1)当業者の目を通して、特許出願の出願時の開示内容を、明示的および黙示的の両面から確定する。
(2)補正の対象とされる特許について、補正後の開示内容を、同様の確定を行う。
(3)上の2つの開示内容を比較し、削除もしくは追加によって発明に関連する主題が新たに追加されているか否かを判断する。この比較により、補正に含まれる主題が当初の出願において明示的ないし黙示的に明瞭かつ明確に開示されていない限り当該主題が新規事項として追加されたと判断する。
4.登録官および裁判所の特許明細書の補正についての権限
登録官(Registrar)および裁判所が特許明細書を補正する権限は、裁量にしたがって行使される。
5.補正に対する異議申立
特許法第83条(2)に基づき、何人も、特許の所有者が申し入れた補正に対する異議の申立を裁判所もしくは登録官に対して提出することができる。訴訟が裁判所において係属中である場合、異議の陳述書は補正案が公告されてから所定の期間内に提出されなければならない(Rules of Court(裁判所規則), Order 87A r.11(1)(e))。登録官の下で手続が進行中である場合、異議申立は補正案が公告された日から2か月以内に提出されなければならない。
6.補正の効果
特許法第83条(3)によれば、特許法第83条に基づく特許明細書の補正は、常に、特許付与の時点で効果を発生したものとみなされる。