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マレーシアにおける修正実体審査請求

1.修正実体審査請求

 マレーシア出願においてクレームされている発明と同一または実質的に同一の発明について、所定の国で、出願人に対して(ただし、権利の移転により当該所定国での出願人とマレーシア出願の出願人が異なる場合、その当該国の出願人に対して)特許またはその他の工業所有権保護の権利が付与されている場合、特許法第29条A(1)に基づき、修正実体審査を請求することができる。修正実体審査の請求は所定のFormの提出により行う。(Form 5A)

 

 修正実体審査の請求は、パリルートによる出願の場合にはマレーシア出願日から18か月以内(規則27(1))、PCTルートによる出願の場合には国際出願日から4年以内(規則27A(1A))に行わなければならない。

修正実体審査では以下の書類を添付しなければならない。(規則27A(3))

所定の国において、または所定の条約を基に出願人または前権利者に対して付与された特許またはその他の工業所有権保護の権利についての認証謄本。かかる特許またはその他の工業所有権保護の権利が英語でない場合には、英語による認証翻訳文。

所定の国による、または所定の条約に基づく特許またはその他の工業所有権保護の権利が付与された発明の明細書、クレームまたは図面が、形式的事項は別として、マレーシア出願でクレームされている発明の明細書、クレームまたは図面と実質的に同一でない場合には、それらを一致させるための補正。

ここで、「所定の国」とは、オーストラリア、日本、韓国、英国または米国を意味し、「所定の条約」とは欧州特許条約を意味する(規則27A(5))。

 

 つまり、修正実体審査においては、外国で(所定の国でまたは所定の条約に基づいて)付与された特許が英語による場合には、その特許を発行した特許庁が証明した特許を証明する書類と、もし必要なら補正を提出すればよい。外国で付与された特許が英語によらない場合には、その特許を発行した特許庁が証明した外国語の特許を証明する書類とは別に、特許を証明する書類の英訳を翻訳者の証明書(宣誓書)とともに提出することが必要である。

 

 日本国特許庁の審査結果に基づきマレーシアにおいて修正実体審査を請求する場合には、日本国特許庁が認証した特許公報とその英訳、翻訳者による宣言書、および出願人による宣言書を提出することが必要である(ただし、出願人による宣言書は提出を求められない場合もある。)。

 

 修正実体審査の請求はその猶予の申立をすることができる。申立は修正実体審査を請求すべき期間内に行わなければならない。(特許法第29条A(6))

 認められる猶予期間は出願日(PCTルートの場合には国際出願日)から最大5年である。(規則27B(2))

 修正実体審査請求の猶予の申立は、請求の基礎とする所定の国での出願が特許になっていない場合や、認証書類が入手できない場合に行うことができる。(Form 5B)

 猶予期間内に修正実体審査の請求ができない場合には、猶予期間満了後から3か月以内に通常の実体審査請求を行うことができる。(規則27B(3))

 

2.通常の実体審査請求と修正実体審査請求との比較

 

通常の実体審査請求

修正実体審査請求

(1)特許庁費用

RM1100(約USD275)

RM640(約USD160)

(2)請求時に提出すべき書類

a)マレーシア出願でクレームされた発明と同一または実質的に同一の発明について、オーストラリア、日本、韓国、英国および米国において出願された出願、並びにEPCおよびPCTの下に出願された出願の出願日と出願番号の情報

(規則27(3)(a))

マレーシア出願でクレームされた発明と同一または実質的に同一の発明について、オーストラリア、日本、韓国、英国、若しくは米国において、または欧州特許条約の下に付与された特許を証明する書類の認証謄本と、その特許を証明する書類が英語でない場合にはその証明付英語訳(規則27A(3)(a))

b) マレーシア出願でクレームされた発明と同一または実質的に同一の発明について、オーストラリア、日本、韓国、英国若しくは米国において、または欧州特許条約の下に付与された特許の番号

(規則27(3)(b))

c) マレーシア出願でクレームされた発明と同一または実質的に同一の発明について、オーストラリア、日本、韓国、英国、米国、または欧州の特許庁(特許協力条約に基づく国際調査機関または国際予備審査機関の場合も含む)による、調査または審査結果と、その調査または審査結果が英語でない場合にはその証明付英語訳

(規則27(3)(c))

(3) 補正要否

補正は必須ではないが、審査促進のためには上記(2)で述べた特許のクレームに、マレーシア出願のクレームを一致させる補正を自発的に行うのが望ましい。

マレーシア出願のクレームを上記(2)で述べた特許のクレームに一致させる補正が必要である。(規則27A(3)(b))

 

 外国(所定の国)の出願が特許されていることがその発明の主題に特許性があることの一応の証拠となるので、修正実体審査を請求することにより審査が促進される。修正実体審査においては、審査官は、原則、マレーシア出願と外国で特許された出願とが一致しているかどうかについての審査を行い、(特別な状況の例外を除いて)先行技術調査を行わず、また、進歩性、単一性、明細書の記載要件、クレームの明確性等について審査は行わない。

 

 ただし、注意すべき点として、発明の主題が対応国で特許性があったとしても、マレーシアで特許を受けることができない主題であってはならない。特許法第13条によれば、人間または動物の進退についての治療または診断方法、ビジネス方法、発見、科学理論、数学的方法、植物若しくは動物の品種、植物若しくは動物を生産するための本質的に生物学的な生産方法などは、特許を受けることができない。

 

3.特許審査ハイウェイ(PPH)

 マレーシアと日本との間のPPH試行プログラムは2014年10月1日より始まり、2017年9月30日まで実施された。その後3年間延長され2017年10月1日から2020年9月30日まで実施される。また、マレーシア知的財産公社(MyIPO)と日本特許庁(JPO)は同プログラムを必要に応じて延長していく予定である。

 

 PPHは、通常の実体審査請求と同時またはその後に申請する。MyIPOがその出願の実体審査に着手していないときに限ってPPHの対象候補となる。

マレーシア出願においてPPHを申請するための要件は以下のa~eである。

 a. PPHを申請するマレーシア出願およびPPHの基礎とする日本出願において、優先日あるいは出願日のうち、最先の日付が同一であること。

 b. 対応する日本出願があり、JPOにより特許可能とされたまたは特許されたクレームが一つ以上あること。

 c. PPHの下で審査される全てのクレーム(出願時のクレームあるいは補正されたクレーム)がJPOにより特許可能とされたクレームの一つ以上と十分に対応していること。

 d. PPHの申請時に、MyIPOがその出願の審査を始めていないこと。

 e. PPHの申請時またはそれ以前に、通常の実体審査請求が行われていること。

 

 PPHの申請時には、以下の(a)~(d)の書類を添付して提出する必要がある。

(a)対応する日本出願に対してJPOから発行された(JPOにおける特許性の実体審査に関連する)全てのオフィスアクションの写し、およびその翻訳

 マレー語または英語が翻訳言語として利用可能である。JPOのオフィスアクションとその翻訳がAIPN(JPOの「ドシエ・アクセス・システム」:各国特許庁が有する審査関連情報を照会するシステム)により提供されている場合には、MyIPOの審査官はAIPNによりオフィスアクションの写しとその機械翻訳を入手できるので、出願人はそれらを提出する必要はない。MyIPOの審査官がAIPNによりオフィスアクションおよびその翻訳を得ることができない場合には、出願人には必要書類を提出するよう要請される。

 

(b)対応する日本出願で特許可能と判断されたすべてのクレームの写し、およびその翻訳

 マレー語または英語が翻訳言語として利用可能である。JPOにおいて特許可能と判断されたクレームがAIPNにより提供されている場合に、MyIPOの審査官はAIPNによりクレームの写しとその機械翻訳を入手できるので、出願人はそれらを提出する必要はない。MyIPOの審査官がAIPNによりクレームを得ることができない場合には、出願人には必要書類を提出するよう要請される。

 

(c)JPOの審査官が引用した引用文献の写し

 引用文献が特許文献の場合、MyIPOが通常所有しているため、出願人はそれらを提出する必要はない。MyIPOが特許文献を所有していない場合には、出願人は審査官から要求に応じてその特許文献を提出する必要がある。非特許文献は必ず提出しなければならない。引用文献の翻訳は不要である。

 

(d)クレーム対応表

 PPHを申請する出願人は、マレーシア出願の全てのクレームが、対応する日本出願で特許可能とされたまたは特許となったクレームと十分に対応していることを示すクレーム対応表を提出しなければならない。クレームが直訳である場合、出願人は対応表において「それらは同一である」と記載することができる。クレームが直訳でない場合には、互いに十分に対応していることを説明する必要がある。

 

 上記(a)および(b)における翻訳は機械翻訳でも認められる。ただし、翻訳が不十分のため翻訳されたオフィスアクションやクレームを審査官が理解できない場合には、審査官は出願人に翻訳の再提出を求めることができる。

 最近の傾向では、PPH申請より3~4か月で審査報告書が発行される。

 

4.修正実体審査請求とPPH申請との比較

 

修正実体審査請求

PPH申請

請求または申請の基礎とする対応国(その条件)

オーストラリア、日本、韓国、英国、米国、または欧州特許条約の下(いずれかにおいて特許が付与された場合)

日本(対応する日本出願においてクレームが特許可能または特許となった場合)

提出書類の条件

外国で付与された特許を証明する書類は、その特許を発行した特許庁による認証謄本でなければならない。

対応する日本出願の特許可能または特許となったクレームは単なる写しでよい。

審査促進の効果

請求から9か月~1年で審査報告書

請求から3~4か月で審査報告書

マレーシアにおける修正実体審査

1. 修正実体審査(Modified Substantive Examination:MSE)

マレーシア出願においてクレームされている発明と同一または実質的に同一の発明について、所定の国で、出願人に対して(ただし、権利の移転により当該所定国での出願人とマレーシア出願の出願人が異なる場合、その当該国の出願人に対して)特許またはその他の工業所有権保護の権利が付与されている場合、特許法第29条A(1)に基づき、修正実体審査を請求することができる。修正実体審査の請求は所定のForm(Form5A)の提出により行う。

修正実体審査の請求は、パリルートによる出願の場合にはマレーシア出願日から18か月以内(規則27(1))、PCTルートによる出願の場合には国際出願日から4年以内(規則27A(1A))に行わなければならない。

修正実体審査では以下の書類を添付しなければならない(規則27A(3))。

a.所定の国において、または所定の条約を基に出願人または前権利者に対して付与され

た特許またはその他の工業所有権保護の権利についての認証謄本。かかる特許または

その他の工業所有権保護の権利が英語でない場合には、英語による認証翻訳文。

b.所定の国による、または所定の条約に基づく特許またはその他の工業所有権保護の

権利が付与された発明の明細書、クレームまたは図面が、形式的事項は別として、

マレーシア出願でクレームされている発明の明細書、クレームまたは図面と実質的に

同一でない場合には、それらを一致させるための補正。

ここで、「所定の国」とは、オーストラリア、日本、韓国、英国または米国を意味し、「所定の条約」とは欧州特許条約を意味する(規則27A(5))。

つまり、修正実体審査においては、外国で(所定の国でまたは所定の条約に基づいて)付与された特許が英語による場合には、その特許を発行した特許庁が証明した特許を証明する書類と、もし必要なら補正を提出すればよい。外国で付与された特許が英語によらない場合には、その特許を発行した特許庁が証明した外国語の特許を証明する書類とは別に、特許を証明する書類の英訳を翻訳者の証明書(宣誓書)とともに提出することが必要である。

日本国特許庁(JPO)の審査結果に基づきマレーシアにおいてMSEを請求する場合には、JPOが認証した特許公報とその英訳、翻訳者による宣言書、および出願人による宣言書を提出することが必要である(ただし、出願人による宣言書は提出を求められない場合もある。)。

 

修正実体審査の請求はその猶予の申立をすることができる。申立は修正実体審査を請求すべき期間内に行わなければならない(特許法第29条A(6))。認められる猶予期間は出願日(PCTルートの場合には国際出願日)から最大5年である(規則27B(2))。修正実体審査請求の猶予の申立は、請求の基礎とする所定の国での出願が特許になっていない場合や認証書類が入手できない場合に、所定のForm(Form5B)を提出することで行うことができる。

猶予期間内に修正実体審査の請求ができない場合には、猶予期間満了後から3か月以内に通常の実体審査請求を行うことができる(規則27B(3))。

 

2. 通常の実体審査請求と修正実体審査との比較

  通常の実体審査請求 修正実体審査
(1)特許庁費用

単位:RM(リンギット)

RM1100(約USD275) RM640(約USD160)
(2)請求時に提出すべき書類 マレーシア出願でクレームされた発明と同一または実質的に同一の発明について、

 

a)オーストラリア、日本、韓国、英国および米国において出願された出願、並びにEPCおよびPCTの下に出願された出願の出願日と出願番号の情報(規則27(3)(a))

 

b)オーストラリア、日本、韓国、英国若しくは米国において、または欧州特許条約の下に付与された特許の番号(規則27(3)(b))

 

c)オーストラリア、日本、韓国、英国、米国、または欧州の特許庁(特許協力条約に基づく国際調査機関または国際予備審査機関の場合も含む)による、調査または審査結果と、その調査または審査結果が英語でない場合にはその証明付英語訳(規則27(3)(c))

マレーシア出願でクレームされた発明と同一または実質的に同一の発明について、オーストラリア、日本、韓国、英国、若しくは米国において、または欧州特許条約の下に付与された特許を証明する書類の認証謄本と、その特許を証明する書類が英語でない場合にはその証明付英語訳(規則27A(3)(a))
(3)補正要否 補正は必須ではないが、審査促進のためには上記(2)で述べた特許のクレームに、マレーシア出願のクレームを一致させる補正を自発的に行うのが望ましい。 マレーシア出願のクレームを上記(2)で述べた特許のクレームに一致させる補正が必要である。(規則27A(3)(b))

 

外国(所定の国)の出願が特許されていることがその発明の主題に特許性があることの一応の証拠となるので、修正実体審査を請求することにより審査が促進される。修正実体審査においては、審査官は、原則、マレーシア出願と外国で特許された出願とが一致しているかどうかについての審査を行い、(特別な状況の例外を除いて)先行技術調査を行わず、また、進歩性、単一性、明細書の記載要件、クレームの明確性等について審査は行わない。

ただし、注意すべき点として、発明の主題が対応国で特許性があったとしても、マレーシアで特許を受けることができない主題であってはならない。特許法第13条によれば、人間または動物の身体についての治療または診断方法、ビジネス方法、発見、科学理論、数学的方法、植物若しくは動物の品種、植物若しくは動物を生産するための本質的に生物学的な生産方法などは、特許を受けることができない。

 

3. 特許審査ハイウェイ(PPH)

マレーシアと日本との間のPPH試行プログラムは2014年10月1日より始まり、2017年10月1日に試行期間が3年間延長されている。新しい試行期間は2020年9月30日で終了予定となるが、必要に応じて延長される予定である。

PPHは、通常の実体審査請求と同時またはその後に申請する。MyIPOがその出願の実体審査に着手していないときに限ってPPHの対象候補となる。

マレーシア出願においてPPHを申請するための要件は以下のa~eである。

a.PPHを申請するマレーシア出願およびPPHの基礎とする日本出願において、

優先日あるいは出願日のうち、最先の日付が同一であること。

  b.対応する日本出願があり、JPOにより特許可能とされたまたは特許されたクレームが

一つ以上あること。

c.PPHの下で審査される全てのクレーム(出願時のクレームあるいは補正された

クレーム)がJPOにより特許可能とされたクレームの一つ以上と十分に対応

していること。

d.PPHの申請時に、MyIPOがその出願の審査を始めていないこと。

e.PPHの申請時またはそれ以前に、通常の実体審査請求が行われていること。

 

PPHの申請時には、以下の(a)~(d)の書類を添付して提出する必要がある。

 

(a)対応する日本出願に対してJPOから発行された(JPOにおける特許性の実体審査に関連する)全てのオフィスアクションの写し、およびその翻訳

マレー語または英語が翻訳言語として使用できる。JPOのオフィスアクションとその翻訳がAIPN(JPOの「ドシエ・アクセス・システム」:各国特許庁が有する審査関連情報を照会するシステム)により提供されている場合には、MyIPOの審査官はAIPNによりオフィスアクションの写しとその機械翻訳を入手できるので、出願人はそれらを提出する必要はない。MyIPOの審査官がAIPNによりオフィスアクションおよびその翻訳を得ることができない場合には、出願人には必要書類を提出するよう要請される。

 

(b)対応する日本出願で特許可能と判断されたすべてのクレームの写し、およびその翻訳

マレー語または英語が翻訳言語として使用できる。JPOにおいて特許可能と判断されたクレームがAIPNにより提供されている場合に、MyIPOの審査官はAIPNによりクレームの写しとその機械翻訳を入手できるので、出願人はそれらを提出する必要はない。MyIPOの審査官がAIPNによりクレームを得ることができない場合には、出願人には必要書類を提出するよう要請される。

 

(c)JPOの審査官が引用した引用文献の写し

引用文献が特許文献の場合、MyIPOが通常所有しているため、出願人はそれらを提出する必要はない。MyIPOが特許文献を所有していない場合には、出願人は審査官から要求に応じてその特許文献を提出する必要がある。非特許文献は必ず提出しなければならない。引用文献の翻訳は不要である。

 

(d)クレーム対応表

PPHを申請する出願人は、マレーシア出願の全てのクレームが、対応する日本出願で特許可能とされたまたは特許となったクレームと十分に対応していることを示すクレーム対応表を提出しなければならない。クレームが直訳である場合、出願人は対応表において「それらは同一である」と記載することができる。クレームが直訳でない場合には、互いに十分に対応していることを説明する必要がある。

 

上記(a)および(b)における翻訳は機械翻訳でも認められる。ただし、翻訳が不十分のため翻訳されたオフィスアクションやクレームを審査官が理解できない場合には、審査官は出願人に翻訳の再提出を求めることができる。

最近の傾向では、PPH申請により、請求から3~4か月で審査報告書が発行される。

 

4. 修正実体審査とPPHとの比較

  修正実体審査 PPH
請求または申請の

基礎とする対応国

(その条件)

オーストラリア、日本、韓国、英国、米国、または欧州特許条約の下(いずれかにおいて特許が付与された場合) 日本(対応する日本出願においてクレームが特許可能または特許となった場合)
提出書類の条件 外国で付与された特許を証明する書類は、その特許を発行した特許庁による認証謄本でなければならない。 対応する日本出願の特許可能または特許となったクレームは単なる写しでよい。
審査の体制 出願日の順に審査される(審査請求順ではない)ため審査までの待ち時間がPPHよりも長い。 PPH申請を専門に扱う審査官のグループがあるため修正実体審査よりも早期に権利化が可能。
審査促進の効果 請求から9か月~1年で審査報告書 請求から3~4か月で審査報告書

タイにおける「商標の使用」と使用証拠

 タイ商標法に基づき登録が可能な商標は、「識別性」のある商標であり、商標法に基づき禁止されていない商標、他人が登録した商標と同一または類似でない商標である。タイでは、近年、2つ以上の定義語を含む多くの独創的な商標が、商標登録を認められず、困難に直面している。これは、登録官が商標を個々の要素ごとに分解して、当該商標出願の指定商品もしくは指定役務の特徴や品質と関連づけて、識別性の欠如を理由に、商標登録を認めないためである。しかし、当該商標が使用を通じて識別性を獲得したことを出願人が証明できれば、商標登録が認められる可能性がある。

 本稿では、「使用」の判断基準および使用を通じて識別性を獲得したことを証明するために必要な証拠について論述する。また、商標の使用の認定に関する知的財産局とCIPITCの異なるアプローチについても述べる。

 現行のタイ商標法の正式名称は、「B.E.2559(2016年)法律(No.3)により改正されたB.E.2534(1991年)10月28日法律」であり、旧商標法「B.E.2534」が改正され、2016年7月28日に施行されたものである。タイ商標法の第7条によれば、識別性が欠如している商標を、通商大臣が定めた規定に従い、当該商標の指定商品および指定役務について、広く販売または宣伝されている商品に使用されており、かつその規定が正しく遵守されている場合、その商標は識別性を有するとみなされることがある。

 タイ商標法の第7条に加えて、2003年3月12日付商務大臣告示では、出願された商標を付した商品もしくは役務は、公衆が十分に商品および役務を認識できるようになるまで、継続して適切に販売もしくは宣伝をされなければならないと規定されていた。この2003年3月12日付商務大臣告示はその後2012年10月11日付商務大臣告示によって改正され、タイ商標法第7条における「公衆に広く知られるまでに商標,サービスマーク等が付された商品またはサービスが,販売,頒布または広告によって識別性を獲得したこと」の証明については下記のような内容となっている。

 

・商品または役務が,一般公衆または関連分野の公衆が当該商品または役務が他のものと異なることを認識し理解できる程度にまで,一定期間,継続的に販売されまたは頒布されなければならない。

・商品または役務の販売,頒布または広告によって標章がタイで広く知られるようになった場合,当該標章はその標章が付された商品または役務についてのみ識別性を有するものとみなす。

・この告示に基づいて識別性が証明された標章は,登録された商標と同一でなければならない。

 

 この識別性の証明について,出願人は,登録しようとする標章が使われた商品または役務の販売,頒布または広告に関する証拠を提出しなければならず、この証拠とは,商品や役務を購入した領収書の写し,商品やサービスの広告費用の領収書の写し,請求書の写し,商品または役務の注文書の写し,工場の認可証の写し,メディアを使った広告の証拠の写し,商品のサンプルまたは必要に応じて証人(もしあれば)を含むその他の証拠などをいう。

 

 使用証拠提出の時期は、前記2003年3月12日付商務大臣告示においては出願と同時にされなければならないとされており、その後の追加は認められていなかったが、2012年10月11日付商務大臣告示においては、商標出願に添付して期間延長請求を提出すれば出願後60日以内に使用証拠の追加提出が認められるようになり、柔軟な対応が認められるようになった。

 使用証拠を審査する機関は2つある。商標委員会とCIPITCである。商標の使用の判断基準に関しては、これら2つの機関は似たような見解を示している。だが、CIPITCは、通常、商標委員会に比べて寛大でビジネス寄りのアプローチを採用する。商標委員会の決定に不服がある場合には、CIPITCへ抗告することができる。また、この抗告によって、出願人が使用を通じて識別性を獲得したことの立証に成功する可能性は高くなると考えられる。

 商標委員会の近年の審決を踏まえていえば、タイにおいて商標を付した商品もしくは役務の使用、宣伝もしくは販売がなされてきた期間を出願人がはっきりと証明できない場合、商標委員会はそれを十分な使用とはみなさないと推測することができる。基本的に、継続した(3年以上)使用の証拠の量に着目する商標委員会とは異なり、CIPITCは、タイにおける商標の使用の量や期間だけに頼ることはしない。逆に、他の国での使用証拠も認容するだけでなく、掘り下げた理由付けを適用し、様々な要因(当該商標の外国での登録等)を考慮するのである。商標委員会の審決を不服としてCIPITCへ抗告を行い、そこでも主張が認められない場合には、最高裁判所へ上告するという選択肢がある。ただし、すべての申請が受理されるわけではなく、多額の費用と時間がかかることにも留意すべきである。

 2017年にタイはマドリッド協定議定書への加盟を行い、これに伴う国内法の改正を行った。しかし、識別力獲得に関する商標委員会やCIPITCの判断傾向は、現在のところ、これらの改正に伴う影響は受けていないようである。

 タイ商標法第7条に関する直近の判例として、商標権侵害が争われた最高裁判決2766/2559号(原告:TOA Paint (Thailand) Co., Ltd. 被告:Cera C-Cure Co., Ltd.)がある。本事件では、原告が建物用ペンキ等に「Supershield」という商標を保有していたところ、被告がこれに類似する「Super-shield」という商標を使用していたため原告が商標権侵害を主張した事案である。

 本事案において被告は、「Supershield」という名称は「高い保護機能を有する」程度の内容を需要者に想起させるに過ぎないと主張し、その語について原告は専用権を独占する権利を有しないと主張した。

 しかしながら最高裁判所は、2006年に出願された原告商標が出願時に1984年(B.E.2527)からの使用証拠を提出していること等を考慮し、このような長期間にわたる使用の結果、原告商標は識別力を獲得していると判断し、被告の主張を退けた上で原告の請求を認めた。

 本事件は法改正前から争われていた事案ではあるが、このように使用の期間が最も重視される識別性獲得判断の傾向は、法改正後もしばらく変わらないことが予想される。

 

シンガポールにおける特許を受けることができる発明と特許を受けることができない発明

【詳細】

1. ソフトウェア

 1995年に特許法が施行された際に、第13条(2)によって「コンピュータプログラム」は、「発明」ではないと宣言された。

 

シンガポール特許法第13条(1995年施行時)では以下のように発明を規定していた。

「第13条 特許性のある発明

(1) (2)および(3)に従うことを条件として、特許性のある発明とは、次の条件を満たすものである。

 (a)発明が新規であること

 (b)発明に進歩性があること

 (c)発明が産業上利用できること

(2) 次のものから成るものは、本法を目的として、発明ではないことをここに宣言する。

 (a) 発見、科学的理論、数学的方法

 (b) 言語、戯曲、音楽または芸術作品、もしくはその他あらゆる審美的創作物

 (c) 精神活動、ゲームまたはビジネスのためのスキーム、ルールまたは方法、もしくはコンピュータプログラム

 (d) 情報の提示

ただし、前述の規定は、特許または特許出願に関する範囲内において、あらゆるものが本法における発明として取り扱われることを禁止するものである。」

 1996年1月1日に施行された改正により、第13条(2)は削除された。

 

 ソフトウェアクレームが特許を受けることができるかどうかを考察するために、First Currency Choice v Main-Line Corporate Holdings Ltd事件([2007] SGCA 50)を説明する。この事件において、クレジットカード取引を処理するために使用される希望通貨を、(データ処理方法を通じて)自動的に特定する通貨換算方法およびシステムに対して特許を付与することが適切かどうかが争点となった。最高裁判所の高等法廷(High Court)は、この特許は新規性と進歩性を有さないと判示し、この判決は、最高裁判所の上訴法廷(Court of Appeal)によって支持された。

 

 第13条(2)の削除とFirst Currency Choice v Main-Line Corporate Holdings Ltd事件の判決に基づき、シンガポールにおいてソフトウェアクレームは特許を受けることができるとの見解を持つ者がいるが、シンガポール知的財産庁は、この見解を認めていない。シンガポール知的財産庁の特許出願審査ガイドライン(以下、「知財庁ガイドライン」という)の段落8.5および8.6は、以下の通りである。

 「8.5 しかし、特許法は特許規則と合わせて解釈されなければならず、特許規則第19条によれば、発明が関連する「技術分野」および「技術的課題」を明細書で特定し、クレームは、「技術的特徴」として発明を定義しなくてはならない。

 8.6 したがって、規則第19条に定められた要件に鑑みて、発明は「技術的特徴」を含むことが要件である。」

 

2. 治療方法

 第16条(2)は、人もしくは動物の体の外科術または治療術による治療方法、または人もしくは動物の体について行う診断方法の発明は、産業上利用可能であるとは認められないと規定している。したがって、そうした発明は、特許不適格である。

 しかし、この除外は、人または動物の体について行う外科術、治療術または診断の方法にのみ適用される。

 第14条(7)は、第16条(2)により除外された治療方法において使用される既知の物質または組成物の場合、当該物質または組成物が技術水準の一部を構成するという事実は、当該物質または組成物の当該方法における使用が技術水準の一部を構成しないときは、発明を新規なものと認めることを妨げるものではないと規定している。

 第16条(2)および第16条(3)と合わせた第14条(7)の解釈に基づき、知財庁ガイドラインは、段落8.38において、以下の通り説明している。

 「したがって、既知の化合物の『第一医療用途』はクレーム可能であり、または、医療用途として従前に知られている物質または化合物の場合は、異なる『第二医療用途』がクレーム可能である。」

 

 知財庁ガイドラインの段落8.39において、認められる「第一医療用途クレーム」について例が示されている。

 (1)治療において使用される化合物X

 (2)薬品として使用される化合物X

 (3)健康状態Yの治療において使用される化合物X

 (4)抗生物質として使用される化合物X

 

 知財庁ガイドラインの段落8.42において、以下の「第二医療用途」クレームの形式が認められると述べられている。

 (1)健康状態Yの治療のための薬品の製造における化合物Xの使用 ― スイスタイプクレームの一般的形式

 (2)健康状態Yの治療または予防措置用の薬品を製造するための化合物Xの使用

 (3)健康状態Yの治療における使用指示とともにパッケージされる抗Y剤の製造における化合物Xの使用

 (4)健康状態Yの治療または予防のための使用準備が整った医薬形態の抗Y剤の調整における化合物Xの使用

 

2-3 特許を受けることができないその他の主題

 第13条(2)は削除されたが、知財庁ガイドラインは(パラグラグ8.7~8.25において)、以下のものを、特許を受けることができない主題として列記している。

 (1)発見

 (2)科学的理論および数学的方法

 (3)審美的創作物(言語、戯曲、音楽または芸術作品)

 (4)精神活動の遂行、ゲームの実行または事業の実施のための計画、規則または方法

 (5)情報の提示

中国におけるインターネット製品の知財保護の状況

【詳細】

 中国におけるインターネットは模倣が多発していたが、現在、変化しつつある。インターネット製品には国境による制約がないので、国際的な競争相手がそれぞれの分野で特許出願をしているが、中国のインターネット企業も国際的な競争で受身にならないために特許出願を活発化させている。現在、中国国内のインターネット企業による特許出願は、主にインスタントメッセンジャー、電子商取引、オンライン決済、検索エンジン、情報セキュリティ、漢字入力およびネットワークゲームなどの方面に集中している。

 

 インターネット製品は、一般的にコンピュータプログラムに関係していて、、通常は特許として出願がされるものである。インターネット大手によって出願される特許には、例えば、微信やQQ(中国の代表的なコミュニケーション・アプリケーション)などのようなエンドユーザー向けの製品だけでなく、技術的な問題や課題を解決する方法またはシステムである。

 

 以前は、電子製品に通電した状態で表示されるユーザーインターフェース(UI)が専利(日本の特許、実用新案および意匠に相当)の保護対象から明らかに除外されていたが、2014年5月1日から施行された改正後の「専利審査指南」で、グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)が意匠の保護対象に正式に含められた。それによれば、保護を受けるGUIは、(1)物理的な物品と結合していて(全体意匠-製品全体のみが意匠権保護の対象)、(2)ヒューマンコンピュータインタラクション(例えば、アップルのスワイプアンロック、マルチタッチ、twitterのプルダウン刷新機能)と関連があって、(3)機能の実現(ウェブサイト・ホームページへのリンク以外で、物品自体の機能やアプリケーションプログラムによって実装される機能を実現するもの)に関連するものという3つの要件をすべて満たさなければならないとされている。

 

1.インターネット企業による特許の主戦場

1-1.モバイル端末と組み合わされた製品

 インターネット製品に十分な保護を受けようとするのであれば、種別の異なる複数の知的財産権を組み合わせることにより実現することが考えられる。ヒューマンコンピュータインタラクション技術(アップル社のSiriやタッチコントロール)、通信技術(WCDMA)、バッテリー技術およびその他のハードウェア技術(CPU、GPU、RAM)などはいずれも発明特許によって保護を受けることができ、ハードウェア構造は実用新案特許によって保護を受けることができる。他方、工業上のデザインの範疇に属するグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)については、意匠特許と組み合わせて保護することができる。

 

1-2.ソフトウェア製品

 アプリケーションソフトウェア(APP)を例とすれば、通信技術系のAPP(微信、QQ-中国の代表的なコミュニケーション・アプリケーション)や、ロケーション技術系のAPP(高徳地図-中国の代表的なマップ・アプリケーション)があるが、最も多く関係しているのはやはりヒューマンコンピュータインタラクション技術(HCI)である。これは、ユーザーとAPPシステムのコミュニケーションをよりスムーズにさせるものであるが、中国の小機器人社やアップル社のSiriは、いずれもスムーズなヒューマンコンピュータインタラクションのモデルといえる。

 

1-3.データリンク系

 データリンクの効率、速度、セキュリティを保障する技術や、ネットワーク使用を低減して、安定性を向上し、ネットワーク切換をする技術や、クラウド アクセラレーション、オフラインダウンロード、P2Pのような技術や、コーデック系の技術、クライアントとサーバとの間の交互または同期のフロー手段などである。

 

1-4.サーババックグラウンド系

 データ格納、照会、応答処理、サーバの負荷管理などである。

 

1-5.グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)のデザイン

 (1)静的に現れるもの:例えば、IOSインタフェースに4列のAPPアイコンがあって、下のDOCK欄に1列の常用アイコンがあるアップルの意匠特許など。

 (2)交互のもの:アップルは、前後して累計で10数件の特許を出願している。

 

2.科学技術企業はどのような特許を出願しているか

2-1.百度(Baidu)社

 百度(Baidu)社の特許は、自然言語処理、深層学習、ビッグデータ、画像認識および音声認識の五大分野に集中していて、各分野ごとに次のような内容の特許を取得することで、いずれも「インテリジェント化」の方向へ向かって発展している。自然言語処理が解決しようとするものは、機械に人間の言語を理解させられることである。深層学習とは機械に常に自己学習をさせて知能水準を向上させられるもので、画像認識および音声認識は機械にものを見、聞き、話すことをさせられ、ビッグデータは新しいビジネスモデルを探求するものである。

 

2-2.騰訊(Tencent)社

 騰訊(Tencent)社が中国国内で特許出願をしている技術分野は、主に国際特許分類(IPC)におけるGセクション物理学とHセクション電気に集中している。そのうち、画像通信には、微信またはQQ(中国の代表的なコミュニケーション・アプリケーション)のビデオチャット機能が含まれ、電話通信には、友達に音声微信を発信する音声リアルタイムトークバックが含まれている。音声の分析または合成、音声認識、音声周波数の分析または処理もあるが、これらは微信(中国の代表的なコミュニケーション・アプリケーション)の音声をテキストに変換する機能をいうものではない。

 

3.不特許事由

以下の3つの分野は特許要件を満たさず、出願しても拒絶される。

3-1.知的活動の法則および方法

 例えば、ソフトウェア製品において用いられる純粋に数学的なアルゴリズムや公式、または個人所得税、住宅ローンの計算をアプリケーション・ソフトウェアで実現する方法などである。また、例えば、将棋・トランプのルール、2048などのパズルゲームの遊び方のようなゲームのルール、ゲーム中のストーリー、キャラクター、レベル、アイテムおよび関門の設置などである。

 

3-2.法律、公序良俗または公衆の利益に反する技術的解決手段

 プロテクト回避ソフト、コンピュータウィルス、賭博、詐欺、暴力、ポルノなどに関係する技術、鉄道乗車券ぶんどり、迷惑広告、ゲームのずる行為、コミュニティサイト等への自動投稿、荒らし行為(他人が不快に思うような書き込み・発言)などの公序良俗に反するものまたは公衆の利益を害するものは、当然、審査官により拒絶される。しかし、携帯電話の位置情報を利用して近くの人と連絡をとるような技術は便利な一方で、迷惑広告を発信したり詐欺に用いられる可能性もある。このような技術には肯定的・否定的いずれの面もあるので、特許出願書類にはその肯定的な用途のみを記載して特許出願をすれば認められる。

 

3-3.ビジネスモデル

 中国専利法には、ビジネスモデル特許が権利化されないことについて特に明示の規定はないが、実際の運用においては、多くのビジネスモデルが知的活動の規則に該当するとして拒絶されている。例えば、百度(Baidu)社の競争価格ランキング、アマゾン(Amazon)社のワンタッチショッピング、支付宝(Alipay)社の第三者プラットフォームなどである。

 このほか、例えば、タクシーを呼ぶソフトウェアで料金割増しで配車依頼をするもの、ネットワークゲーム中のアイテムを分割払いの方法でゲーマーに売るものなど、これらのビジネスモデルにおけるイノベーションが審査を通過することは困難であろう。しかし、インターネット製品のビジネスモデル特許について、米国における審査は相当に緩やかであるので、競争価格ランキング、ワンタッチショッピングのようなものでも米国ではみな特許権を取得している。

ブラジルにおける特許を受けることができる発明とできない発明

【詳細】

 現行のブラジル産業財産法(法律第9279号/1996、以下「産業財産法」)は1997年5月14日に施行された。旧ブラジル産業財産法は軍事政権下で起草され、その結果として特許保護が極めて不十分なものであったが、現行の産業財産法の登場により大きな改善が見られた。具体的には、化学製品(化学製品の製法は旧産業財産法の下で既に特許性を認められていた)、食品および食品の製法、医薬品および医薬品の製法が特許を受けることができる発明となった。またバイオテクノロジー分野の発明も特許を受けることができる発明となった。

 

特許を受けることができない発明

 産業財産法第10条は、特許を受けることができない発明を以下のように定めている。

 

産業財産法第10条

次に掲げる事項は、発明又は実用新案とみなされない。

 (1)発見、科学理論および数学的方法

 (2)純粋に抽象的な概念

 (3)商業、会計、金融、教育、広告、くじおよび抽選の手段、計画、原理または方法

 (4)文学、建築、美術および学術の著作物、または審美的創作物

 (5)コンピュータプログラムそれ自体

 (6)情報の提供

 (7)遊戯の規則

 (8)人体または動物の治療に用いられる手術方法もしくは外科的技術および方法ならびに治療もしくは診断の方法

 (9)全ての自然の生物のゲノムまたは生殖質を含め、それらから分離されたものであるか否かに関わらず、自然の生物および生物材料の全体または一部ならびに自然の生物学的方法

 また同法第18条は、道徳、善良の風俗ならびに公共の安全、公共の秩序および公衆衛生に反する発明や、生物の全部ないし一部に関する発明の特許適格性がないことを規定している。

 

産業財産法第18条

次に掲げるものは,特許を受けることができない。

(1) 道徳,善良の風俗,並びに公共の安全,公の秩序及び公衆の衛生に反するもの

(2) 原子核変換から生じる全ての種類の物質,材料,混合物,元素又は製品,及びその物理化学的属性の変態,並びにそれらの取得又は変態のための方法

(3) 生物の全体又は一部分。ただし,第8 条に規定した特許を受けるための3 要件,すなわち,新規性,進歩性及び産業上の利用可能性の要件を満たし,かつ,単なる発見ではない遺伝子組み替え微生物を除く。

補項 本法の規定の適用上,遺伝子組み替え微生物とは,植物又は動物の全体又は一部を除いた有機体であって,その遺伝子構成への直接の人的介入により,通常自然の状態では到達し得ない特性を示しているものをいう。

 

 産業財産法第10条の(1)項から(9)項は、特許を受けることができる発明に含まれないものを示しているが、これらはほとんどの他国の法律と一致している。米国、日本、オーストラリアなどの一部の国は、特許性の要件に関してより柔軟なアプローチを採用する傾向があり、その結果これらの国々では、ブラジル産業財産法の下では特許性が否定される一定の主題に特許適格性を認めている。

 

1.生物の全部ないし一部

 産業財産法第10条および18条の規定の唯一の例外は、新規性、進歩性、産業上の利用可能性の要件を満たす遺伝子組み換え微生物である。産業財産法第18条の補項に示された定義によれば、遺伝子組み替え微生物とは、植物もしくは動物の全体または一部を除いた有機体であって、その遺伝子構成への直接の人的介入により、自然状態にある生物種が通常は実現し得ない特性を表現しているものをいう。つまり、ブラジルにおいては、遺伝子組み換え微生物は植物および動物の細胞を包含していてはならないことになる。そのため、第18条(3)項の規定に適合する限定条件を盛り込んだ特許請求項(クレーム)を作成することが推奨される。他方、微生物および動植物で特許を得るための方法は、当該方法が単一のステップのみからなるプロセスではなく、且つ、自然界に存在する生物学的プロセスでないことを条件として、特許性を認められることがある。

 自然発生する物質は第10条(9)項に基づき発明では無く発見とされている。同様の意味合いで、自然に存在する生体物質を単離(混合物質から要素単体を分離)するための自然の生物学的プロセスは特許適格とは見なされない。

 

  1. 診断方法および治療方法

 産業財産法第10条(8)項は、人体または動物に対して使用される手術方法もしくは外科的技術ならびに治療もしくは診断の方法を特許を受けることができる発明としない旨を定めている。

 生体の治療方法は、特許を受けることができる発明には該当しない。特定の診断方法が健康状態を決定づけるものであり、しかも人体に直接適用される場合、そのような診断方法にも同じ原則が適用される。生体内で生じるステップと生体外で生じるステップとの両方を含んでいる治療方法において、生体内で生じるステップを当該治療方法から切り離すことができないという状況もありうる。その場合、そのような治療方法は第10条(8)項の適用除外に該当する。他方、患者の身体から情報を得る方法の場合、その情報だけでは適切な治療法を特定することができないものであり、且つ、何らかの治療や施術が患者の身体に適用されないものであるならば、当該方法は特許を受けることができる発明となり得る。

 同様に、X線写真、磁気共鳴画像、心電図(ECG/EKG)の作成方法もしくは処理方法が患者情報を得るために実施される場合、それらの方法は、特許を受けることができる発明である。

なお、医薬品の特許出願について義務づけられる国家衛生監督局(ANVISA)の審査については、ブラジル知的財産庁(Instituto nacional da propriedade industrial: INPI)とANVISAとの間で特許性の問題に関する見解の食い違いが見られる。ANVISAは「スイス型」のクレームを認めていない。しかもANVISAは、化合物の結晶の多形体(polymorphs)および好ましい多形体を選択することを特徴とする発明を特許適格な主題と見なしていない。ANVISAの実体特許審査への介入は政治的な措置の意味合いが濃く、政府も特許出願の対象である医薬品の安全性と効能を保証するためにANVISAの審査が必要だと判断している。

 

  1. コンピュータプログラムおよびコンピュータ利用発明

 産業財産法第10条(5)項は、コンピュータプログラムそれ自体に特許適格性がないことを規定している。これは、当該カテゴリーの発明はソフトウェア法(法律9609号/1988)によって保護されるという事実による。ソフトウェア発明およびコンピュータ利用発明が方法と製造物の特徴を組み合わせたものであって、コンピュータプログラムによって実行されるステップを備えている場合、その発明は、特許を受けることができる発明となる。

ソフトウェア発明およびコンピュータ利用発明において特許請求されるカテゴリーは、方法、システム、および装置に関連しているが、システムおよび装置クレームに関しては、機能的なクレーム文言(「ミーンズ・プラス・ファンクション形式」)を使用することが望ましい。機能的クレームに関しては、明細書に開示された実施例の内容に基づく特別な権利範囲の制限は存在しない。ブラジルにおいては、特許請求される主題が先行技術に抵触せず、しかもクレームに記載された要素が当業者にとって明瞭である場合、機能的な文言の使用が認められる。

 なお、INPIは2012年から、コンピュータプログラムにより実施される発明に関わる特許出願の審査手続について、国民の意見聴取を行っている。「審査便覧」の草案には出願の基準及び判断に関する手続が明記されており、この重要な技術分野における疑義を解消することを目指している。

インドにおける遺伝資源の利用と特許制度

「各国における遺伝資源の利用と特許制度に関する調査研究報告書」(平成28年2月、日本国際知的財産保護協会)第Ⅰ部11.

(目次)

第Ⅰ部 各国・地域の名古屋議定書の実施状況

 11. インド P.123

第Ⅲ部 概括表

 概括表 各国における名古屋議定書の実施状況 P.201, 203, 205

 

ベトナムにおける遺伝資源の利用と特許制度

「各国における遺伝資源の利用と特許制度に関する調査研究報告書」(平成28年2月、日本国際知的財産保護協会)第Ⅰ部12.

(目次)

第Ⅰ部 各国・地域の名古屋議定書の実施状況

 12. ベトナム P.138

第Ⅲ部 概括表

 概括表 各国における名古屋議定書の実施状況 P.201, 203, 205

インドネシアにおける遺伝資源の利用と特許制度

「各国における遺伝資源の利用と特許制度に関する調査研究報告書」(平成28年2月、日本国際知的財産保護協会)第Ⅰ部13.

(目次)

第Ⅰ部 各国・地域の名古屋議定書の実施状況

 13. インドネシア P.150

第Ⅲ部 概括表

 概括表 各国における名古屋議定書の実施状況 P.201, 203, 205

タイにおける「商標の使用」と使用証拠

【詳細】

タイ商標法に基づき登録が可能な商標は、「識別性」のある商標であり、商標法に基づき禁止されていない商標、他人が登録した商標と同一または類似でない商標である。タイでは、近年、2つ以上の定義語を含む多くの独創的な商標が、商標登録を認められず、困難に直面している。これは、登録官が商標を個々の要素ごとに分解して、当該商標出願の指定商品もしくは指定役務の特徴や品質と関連づけて、識別性の欠如を理由に、商標登録を認めないためである。しかし、当該商標が使用を通じて識別性を獲得したことを出願人が証明できれば、商標登録が認められる可能性がある。

 

本稿では、「使用」の判断基準および使用を通じて識別性を獲得したことを証明するために必要な証拠について論述する。また、商標の使用の認定に関する知的財産局とCIPITCの異なるアプローチについても述べる。

 

現行のタイ商標法の正式名称は、「B.E.2543(2000 年)法律(第 2 号)により改正された B.E.2534(1991 年)10 月 28 日法律」であり、旧商標法「B.E.2534」が改正され、2000年6月30日に施行されたものである。タイ商標法の第7条によれば、識別性が欠如している商標を、通商大臣が定めた規定に従い、当該商標の指定商品および指定役務について、大々的に広告したり、使用したりした場合、その商標は識別性を獲得したとみなされることがある。

 

タイ商標法の第7条に加えて、2003年3月12日付商務省告示では、出願された商標を付した商品もしくは役務は、公衆が十分に商品および役務を認識できるようになるまで、継続して適切に販売もしくは宣伝をされなければならないと規定している。

タイ商標法によれば、商標は、知的財産局に出願された態様と同一の態様で、登録出願の指定商品もしくは指定役務に使用されなければならない。提出が要求される使用証拠の種類や形式は定められていない。ある商標が、指定商品もしくは指定役務に対して実際に使用されたと証明できる限り、それは使用証拠とみなされる。一般的に、使用証拠には、商標が付された製品サンプルの写真や、商標が付された出願対象商標の指定商品もしくは指定役務の宣伝広告等が含まれる。宣伝広告には、印刷媒体(新聞、雑誌)等の各種媒体を通じた宣伝ならびに放送メディア(テレビ、ラジオ、インターネット)による宣伝が含まれる。宣伝広告が公衆に広く提供されていない場合、出願人は、年間のマーケティング予算および支出に関する情報や、その他の詳細情報(売上情報の細目、利用者のレビュー、対象となるマーケットでの認知度調査等)を宣伝広告の代わりに提出することができる。

 

使用証拠を審査する機関は2つある。商標委員会とCIPITCである。商標の使用の判断基準に関しては、これら2つの機関は似たような見解を示している。だが、CIPITCは、通常、商標委員会に比べて寛大でビジネス寄りのアプローチを採用する。商標委員会の決定に不服がある場合には、CIPITCへ抗告することができる。また、この抗告によって、出願人が使用を通じて識別性を獲得したことの立証に成功する可能性は高くなると考えられる。

 

商標委員会の最近の審決を踏まえて言えば、タイにおいて商標を付した商品もしくは役務の使用、宣伝もしくは販売がなされてきた期間を出願人がはっきりと証明できない場合、商標委員会はそれを十分な使用とはみなさないと推測することができる。基本的に、継続した(3年以上)使用の証拠の量に着目する商標委員会とは異なり、CIPITCは、タイにおける商標の使用の量や期間だけに頼ることはしない。逆に、他の国での使用証拠も認容するだけでなく、掘り下げた理由付けを適用し、様々な要因(当該商標の外国での登録等)を考慮するのである。商標委員会の審決を不服としてCIPITCへ抗告を行い、そこでも主張が認められない場合には、最高裁判所へ上告するという選択肢がある。ただし、すべての申請が受理されるわけではなく、多額の費用と時間がかかることにも留意されるべきである。

 

現在、タイではマドリッドプロトコルに加盟するための手続きが進められており、商標の国際登録制度に期待が寄せられている。これを契機として、商標委員会には、CIPITCのように、商標の使用を判断する際に、より寛大なアプローチを採用することが期待される。