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マレーシアにおける修正実体審査請求

1.修正実体審査請求

 マレーシア出願においてクレームされている発明と同一または実質的に同一の発明について、所定の国で、出願人に対して(ただし、権利の移転により当該所定国での出願人とマレーシア出願の出願人が異なる場合、その当該国の出願人に対して)特許またはその他の工業所有権保護の権利が付与されている場合、特許法第29条A(1)に基づき、修正実体審査を請求することができる。修正実体審査の請求は所定のFormの提出により行う。(Form 5A)

 

 修正実体審査の請求は、パリルートによる出願の場合にはマレーシア出願日から18か月以内(規則27(1))、PCTルートによる出願の場合には国際出願日から4年以内(規則27A(1A))に行わなければならない。

修正実体審査では以下の書類を添付しなければならない。(規則27A(3))

所定の国において、または所定の条約を基に出願人または前権利者に対して付与された特許またはその他の工業所有権保護の権利についての認証謄本。かかる特許またはその他の工業所有権保護の権利が英語でない場合には、英語による認証翻訳文。

所定の国による、または所定の条約に基づく特許またはその他の工業所有権保護の権利が付与された発明の明細書、クレームまたは図面が、形式的事項は別として、マレーシア出願でクレームされている発明の明細書、クレームまたは図面と実質的に同一でない場合には、それらを一致させるための補正。

ここで、「所定の国」とは、オーストラリア、日本、韓国、英国または米国を意味し、「所定の条約」とは欧州特許条約を意味する(規則27A(5))。

 

 つまり、修正実体審査においては、外国で(所定の国でまたは所定の条約に基づいて)付与された特許が英語による場合には、その特許を発行した特許庁が証明した特許を証明する書類と、もし必要なら補正を提出すればよい。外国で付与された特許が英語によらない場合には、その特許を発行した特許庁が証明した外国語の特許を証明する書類とは別に、特許を証明する書類の英訳を翻訳者の証明書(宣誓書)とともに提出することが必要である。

 

 日本国特許庁の審査結果に基づきマレーシアにおいて修正実体審査を請求する場合には、日本国特許庁が認証した特許公報とその英訳、翻訳者による宣言書、および出願人による宣言書を提出することが必要である(ただし、出願人による宣言書は提出を求められない場合もある。)。

 

 修正実体審査の請求はその猶予の申立をすることができる。申立は修正実体審査を請求すべき期間内に行わなければならない。(特許法第29条A(6))

 認められる猶予期間は出願日(PCTルートの場合には国際出願日)から最大5年である。(規則27B(2))

 修正実体審査請求の猶予の申立は、請求の基礎とする所定の国での出願が特許になっていない場合や、認証書類が入手できない場合に行うことができる。(Form 5B)

 猶予期間内に修正実体審査の請求ができない場合には、猶予期間満了後から3か月以内に通常の実体審査請求を行うことができる。(規則27B(3))

 

2.通常の実体審査請求と修正実体審査請求との比較

 

通常の実体審査請求

修正実体審査請求

(1)特許庁費用

RM1100(約USD275)

RM640(約USD160)

(2)請求時に提出すべき書類

a)マレーシア出願でクレームされた発明と同一または実質的に同一の発明について、オーストラリア、日本、韓国、英国および米国において出願された出願、並びにEPCおよびPCTの下に出願された出願の出願日と出願番号の情報

(規則27(3)(a))

マレーシア出願でクレームされた発明と同一または実質的に同一の発明について、オーストラリア、日本、韓国、英国、若しくは米国において、または欧州特許条約の下に付与された特許を証明する書類の認証謄本と、その特許を証明する書類が英語でない場合にはその証明付英語訳(規則27A(3)(a))

b) マレーシア出願でクレームされた発明と同一または実質的に同一の発明について、オーストラリア、日本、韓国、英国若しくは米国において、または欧州特許条約の下に付与された特許の番号

(規則27(3)(b))

c) マレーシア出願でクレームされた発明と同一または実質的に同一の発明について、オーストラリア、日本、韓国、英国、米国、または欧州の特許庁(特許協力条約に基づく国際調査機関または国際予備審査機関の場合も含む)による、調査または審査結果と、その調査または審査結果が英語でない場合にはその証明付英語訳

(規則27(3)(c))

(3) 補正要否

補正は必須ではないが、審査促進のためには上記(2)で述べた特許のクレームに、マレーシア出願のクレームを一致させる補正を自発的に行うのが望ましい。

マレーシア出願のクレームを上記(2)で述べた特許のクレームに一致させる補正が必要である。(規則27A(3)(b))

 

 外国(所定の国)の出願が特許されていることがその発明の主題に特許性があることの一応の証拠となるので、修正実体審査を請求することにより審査が促進される。修正実体審査においては、審査官は、原則、マレーシア出願と外国で特許された出願とが一致しているかどうかについての審査を行い、(特別な状況の例外を除いて)先行技術調査を行わず、また、進歩性、単一性、明細書の記載要件、クレームの明確性等について審査は行わない。

 

 ただし、注意すべき点として、発明の主題が対応国で特許性があったとしても、マレーシアで特許を受けることができない主題であってはならない。特許法第13条によれば、人間または動物の進退についての治療または診断方法、ビジネス方法、発見、科学理論、数学的方法、植物若しくは動物の品種、植物若しくは動物を生産するための本質的に生物学的な生産方法などは、特許を受けることができない。

 

3.特許審査ハイウェイ(PPH)

 マレーシアと日本との間のPPH試行プログラムは2014年10月1日より始まり、2017年9月30日まで実施された。その後3年間延長され2017年10月1日から2020年9月30日まで実施される。また、マレーシア知的財産公社(MyIPO)と日本特許庁(JPO)は同プログラムを必要に応じて延長していく予定である。

 

 PPHは、通常の実体審査請求と同時またはその後に申請する。MyIPOがその出願の実体審査に着手していないときに限ってPPHの対象候補となる。

マレーシア出願においてPPHを申請するための要件は以下のa~eである。

 a. PPHを申請するマレーシア出願およびPPHの基礎とする日本出願において、優先日あるいは出願日のうち、最先の日付が同一であること。

 b. 対応する日本出願があり、JPOにより特許可能とされたまたは特許されたクレームが一つ以上あること。

 c. PPHの下で審査される全てのクレーム(出願時のクレームあるいは補正されたクレーム)がJPOにより特許可能とされたクレームの一つ以上と十分に対応していること。

 d. PPHの申請時に、MyIPOがその出願の審査を始めていないこと。

 e. PPHの申請時またはそれ以前に、通常の実体審査請求が行われていること。

 

 PPHの申請時には、以下の(a)~(d)の書類を添付して提出する必要がある。

(a)対応する日本出願に対してJPOから発行された(JPOにおける特許性の実体審査に関連する)全てのオフィスアクションの写し、およびその翻訳

 マレー語または英語が翻訳言語として利用可能である。JPOのオフィスアクションとその翻訳がAIPN(JPOの「ドシエ・アクセス・システム」:各国特許庁が有する審査関連情報を照会するシステム)により提供されている場合には、MyIPOの審査官はAIPNによりオフィスアクションの写しとその機械翻訳を入手できるので、出願人はそれらを提出する必要はない。MyIPOの審査官がAIPNによりオフィスアクションおよびその翻訳を得ることができない場合には、出願人には必要書類を提出するよう要請される。

 

(b)対応する日本出願で特許可能と判断されたすべてのクレームの写し、およびその翻訳

 マレー語または英語が翻訳言語として利用可能である。JPOにおいて特許可能と判断されたクレームがAIPNにより提供されている場合に、MyIPOの審査官はAIPNによりクレームの写しとその機械翻訳を入手できるので、出願人はそれらを提出する必要はない。MyIPOの審査官がAIPNによりクレームを得ることができない場合には、出願人には必要書類を提出するよう要請される。

 

(c)JPOの審査官が引用した引用文献の写し

 引用文献が特許文献の場合、MyIPOが通常所有しているため、出願人はそれらを提出する必要はない。MyIPOが特許文献を所有していない場合には、出願人は審査官から要求に応じてその特許文献を提出する必要がある。非特許文献は必ず提出しなければならない。引用文献の翻訳は不要である。

 

(d)クレーム対応表

 PPHを申請する出願人は、マレーシア出願の全てのクレームが、対応する日本出願で特許可能とされたまたは特許となったクレームと十分に対応していることを示すクレーム対応表を提出しなければならない。クレームが直訳である場合、出願人は対応表において「それらは同一である」と記載することができる。クレームが直訳でない場合には、互いに十分に対応していることを説明する必要がある。

 

 上記(a)および(b)における翻訳は機械翻訳でも認められる。ただし、翻訳が不十分のため翻訳されたオフィスアクションやクレームを審査官が理解できない場合には、審査官は出願人に翻訳の再提出を求めることができる。

 最近の傾向では、PPH申請より3~4か月で審査報告書が発行される。

 

4.修正実体審査請求とPPH申請との比較

 

修正実体審査請求

PPH申請

請求または申請の基礎とする対応国(その条件)

オーストラリア、日本、韓国、英国、米国、または欧州特許条約の下(いずれかにおいて特許が付与された場合)

日本(対応する日本出願においてクレームが特許可能または特許となった場合)

提出書類の条件

外国で付与された特許を証明する書類は、その特許を発行した特許庁による認証謄本でなければならない。

対応する日本出願の特許可能または特許となったクレームは単なる写しでよい。

審査促進の効果

請求から9か月~1年で審査報告書

請求から3~4か月で審査報告書

マレーシアにおける修正実体審査

1. 修正実体審査(Modified Substantive Examination:MSE)

マレーシア出願においてクレームされている発明と同一または実質的に同一の発明について、所定の国で、出願人に対して(ただし、権利の移転により当該所定国での出願人とマレーシア出願の出願人が異なる場合、その当該国の出願人に対して)特許またはその他の工業所有権保護の権利が付与されている場合、特許法第29条A(1)に基づき、修正実体審査を請求することができる。修正実体審査の請求は所定のForm(Form5A)の提出により行う。

修正実体審査の請求は、パリルートによる出願の場合にはマレーシア出願日から18か月以内(規則27(1))、PCTルートによる出願の場合には国際出願日から4年以内(規則27A(1A))に行わなければならない。

修正実体審査では以下の書類を添付しなければならない(規則27A(3))。

a.所定の国において、または所定の条約を基に出願人または前権利者に対して付与され

た特許またはその他の工業所有権保護の権利についての認証謄本。かかる特許または

その他の工業所有権保護の権利が英語でない場合には、英語による認証翻訳文。

b.所定の国による、または所定の条約に基づく特許またはその他の工業所有権保護の

権利が付与された発明の明細書、クレームまたは図面が、形式的事項は別として、

マレーシア出願でクレームされている発明の明細書、クレームまたは図面と実質的に

同一でない場合には、それらを一致させるための補正。

ここで、「所定の国」とは、オーストラリア、日本、韓国、英国または米国を意味し、「所定の条約」とは欧州特許条約を意味する(規則27A(5))。

つまり、修正実体審査においては、外国で(所定の国でまたは所定の条約に基づいて)付与された特許が英語による場合には、その特許を発行した特許庁が証明した特許を証明する書類と、もし必要なら補正を提出すればよい。外国で付与された特許が英語によらない場合には、その特許を発行した特許庁が証明した外国語の特許を証明する書類とは別に、特許を証明する書類の英訳を翻訳者の証明書(宣誓書)とともに提出することが必要である。

日本国特許庁(JPO)の審査結果に基づきマレーシアにおいてMSEを請求する場合には、JPOが認証した特許公報とその英訳、翻訳者による宣言書、および出願人による宣言書を提出することが必要である(ただし、出願人による宣言書は提出を求められない場合もある。)。

 

修正実体審査の請求はその猶予の申立をすることができる。申立は修正実体審査を請求すべき期間内に行わなければならない(特許法第29条A(6))。認められる猶予期間は出願日(PCTルートの場合には国際出願日)から最大5年である(規則27B(2))。修正実体審査請求の猶予の申立は、請求の基礎とする所定の国での出願が特許になっていない場合や認証書類が入手できない場合に、所定のForm(Form5B)を提出することで行うことができる。

猶予期間内に修正実体審査の請求ができない場合には、猶予期間満了後から3か月以内に通常の実体審査請求を行うことができる(規則27B(3))。

 

2. 通常の実体審査請求と修正実体審査との比較

  通常の実体審査請求 修正実体審査
(1)特許庁費用

単位:RM(リンギット)

RM1100(約USD275) RM640(約USD160)
(2)請求時に提出すべき書類 マレーシア出願でクレームされた発明と同一または実質的に同一の発明について、

 

a)オーストラリア、日本、韓国、英国および米国において出願された出願、並びにEPCおよびPCTの下に出願された出願の出願日と出願番号の情報(規則27(3)(a))

 

b)オーストラリア、日本、韓国、英国若しくは米国において、または欧州特許条約の下に付与された特許の番号(規則27(3)(b))

 

c)オーストラリア、日本、韓国、英国、米国、または欧州の特許庁(特許協力条約に基づく国際調査機関または国際予備審査機関の場合も含む)による、調査または審査結果と、その調査または審査結果が英語でない場合にはその証明付英語訳(規則27(3)(c))

マレーシア出願でクレームされた発明と同一または実質的に同一の発明について、オーストラリア、日本、韓国、英国、若しくは米国において、または欧州特許条約の下に付与された特許を証明する書類の認証謄本と、その特許を証明する書類が英語でない場合にはその証明付英語訳(規則27A(3)(a))
(3)補正要否 補正は必須ではないが、審査促進のためには上記(2)で述べた特許のクレームに、マレーシア出願のクレームを一致させる補正を自発的に行うのが望ましい。 マレーシア出願のクレームを上記(2)で述べた特許のクレームに一致させる補正が必要である。(規則27A(3)(b))

 

外国(所定の国)の出願が特許されていることがその発明の主題に特許性があることの一応の証拠となるので、修正実体審査を請求することにより審査が促進される。修正実体審査においては、審査官は、原則、マレーシア出願と外国で特許された出願とが一致しているかどうかについての審査を行い、(特別な状況の例外を除いて)先行技術調査を行わず、また、進歩性、単一性、明細書の記載要件、クレームの明確性等について審査は行わない。

ただし、注意すべき点として、発明の主題が対応国で特許性があったとしても、マレーシアで特許を受けることができない主題であってはならない。特許法第13条によれば、人間または動物の身体についての治療または診断方法、ビジネス方法、発見、科学理論、数学的方法、植物若しくは動物の品種、植物若しくは動物を生産するための本質的に生物学的な生産方法などは、特許を受けることができない。

 

3. 特許審査ハイウェイ(PPH)

マレーシアと日本との間のPPH試行プログラムは2014年10月1日より始まり、2017年10月1日に試行期間が3年間延長されている。新しい試行期間は2020年9月30日で終了予定となるが、必要に応じて延長される予定である。

PPHは、通常の実体審査請求と同時またはその後に申請する。MyIPOがその出願の実体審査に着手していないときに限ってPPHの対象候補となる。

マレーシア出願においてPPHを申請するための要件は以下のa~eである。

a.PPHを申請するマレーシア出願およびPPHの基礎とする日本出願において、

優先日あるいは出願日のうち、最先の日付が同一であること。

  b.対応する日本出願があり、JPOにより特許可能とされたまたは特許されたクレームが

一つ以上あること。

c.PPHの下で審査される全てのクレーム(出願時のクレームあるいは補正された

クレーム)がJPOにより特許可能とされたクレームの一つ以上と十分に対応

していること。

d.PPHの申請時に、MyIPOがその出願の審査を始めていないこと。

e.PPHの申請時またはそれ以前に、通常の実体審査請求が行われていること。

 

PPHの申請時には、以下の(a)~(d)の書類を添付して提出する必要がある。

 

(a)対応する日本出願に対してJPOから発行された(JPOにおける特許性の実体審査に関連する)全てのオフィスアクションの写し、およびその翻訳

マレー語または英語が翻訳言語として使用できる。JPOのオフィスアクションとその翻訳がAIPN(JPOの「ドシエ・アクセス・システム」:各国特許庁が有する審査関連情報を照会するシステム)により提供されている場合には、MyIPOの審査官はAIPNによりオフィスアクションの写しとその機械翻訳を入手できるので、出願人はそれらを提出する必要はない。MyIPOの審査官がAIPNによりオフィスアクションおよびその翻訳を得ることができない場合には、出願人には必要書類を提出するよう要請される。

 

(b)対応する日本出願で特許可能と判断されたすべてのクレームの写し、およびその翻訳

マレー語または英語が翻訳言語として使用できる。JPOにおいて特許可能と判断されたクレームがAIPNにより提供されている場合に、MyIPOの審査官はAIPNによりクレームの写しとその機械翻訳を入手できるので、出願人はそれらを提出する必要はない。MyIPOの審査官がAIPNによりクレームを得ることができない場合には、出願人には必要書類を提出するよう要請される。

 

(c)JPOの審査官が引用した引用文献の写し

引用文献が特許文献の場合、MyIPOが通常所有しているため、出願人はそれらを提出する必要はない。MyIPOが特許文献を所有していない場合には、出願人は審査官から要求に応じてその特許文献を提出する必要がある。非特許文献は必ず提出しなければならない。引用文献の翻訳は不要である。

 

(d)クレーム対応表

PPHを申請する出願人は、マレーシア出願の全てのクレームが、対応する日本出願で特許可能とされたまたは特許となったクレームと十分に対応していることを示すクレーム対応表を提出しなければならない。クレームが直訳である場合、出願人は対応表において「それらは同一である」と記載することができる。クレームが直訳でない場合には、互いに十分に対応していることを説明する必要がある。

 

上記(a)および(b)における翻訳は機械翻訳でも認められる。ただし、翻訳が不十分のため翻訳されたオフィスアクションやクレームを審査官が理解できない場合には、審査官は出願人に翻訳の再提出を求めることができる。

最近の傾向では、PPH申請により、請求から3~4か月で審査報告書が発行される。

 

4. 修正実体審査とPPHとの比較

  修正実体審査 PPH
請求または申請の

基礎とする対応国

(その条件)

オーストラリア、日本、韓国、英国、米国、または欧州特許条約の下(いずれかにおいて特許が付与された場合) 日本(対応する日本出願においてクレームが特許可能または特許となった場合)
提出書類の条件 外国で付与された特許を証明する書類は、その特許を発行した特許庁による認証謄本でなければならない。 対応する日本出願の特許可能または特許となったクレームは単なる写しでよい。
審査の体制 出願日の順に審査される(審査請求順ではない)ため審査までの待ち時間がPPHよりも長い。 PPH申請を専門に扱う審査官のグループがあるため修正実体審査よりも早期に権利化が可能。
審査促進の効果 請求から9か月~1年で審査報告書 請求から3~4か月で審査報告書

シンガポールの庁指令に対する応答期間

特許出願の審査手続は、パリ条約に基づく出願、または特許協力条約(PCT)に基づく国際出願の国内移行出願のいずれの出願形式を選択するかにより異なる。特に調査および審査の段階において、その相違は大きい。また、発行される庁指令および通知は、出願形式や以下に説明する調査および審査の種類により異なる。

 

パリ条約に基づく出願では、出願人は、審査請求について以下の選択肢(オプション)を有する。(図1のフロー参照)

(1)基準日から13か月以内に調査を請求し(第29条(1)(a))、その後、基準日から36か月以内に審査を請求する(第29条(3))。

(2)基準日から36か月以内に調査と審査を同時に請求する(第29条(1)(b))。

(3)基準日から36か月以内に、対応する出願または対応する国際出願の調査報告書に基づく審査を請求する(第29条(1)(c)(i))。

(4)基準日から54か月以内に、対応する出願または対応する国際出願の肯定的な最終結果・審査結果に基づく補充審査を請求する(第29条(1)(d)(i)(A))*1

 

*1:補充審査は、2017年10月30日付けで改正された特許法により、2020年1月1日以降の出願では、利用できなくなる。(シンガポール特許法29条(11A)、およびシンガポール特許規則43(4))。

 

01SG07_1

(図1)パリ条約に基づく出願の場合

 PCTに基づく国内移行出願では、出願人は審査請求について以下の選択肢を有する。(図2のフロー参照)

(1)基準日から36か月以内に調査と審査を同時に請求する(第29条(1)(b))。

(2)基準日から36か月以内に、対応する出願、対応する国際出願、国内段階に移行した関連特許または国内段階に移行した関連特許出願の調査報告書に基づく審査を請求する(第29条(1)(c)(i))。

(3)基準日から36か月以内に、シンガポール国内移行出願の元となるPCT国際出願の国際調査報告書に基づく審査を請求する(第29条(1)(c)(ii))。

(4)基準日から54か月以内に、対応する出願、対応する国際出願、国内段階に移行した関連特許または国内段階に移行した関連特許出願の肯定的な最終結果または審査結果に基づく補充審査を請求する(第29条(1)(d)(i)(A);補充審査は、上記*1のとおり、2020年1月1日以降の出願では利用できない。補充審査については、以下同じ。)。

(5)基準日から54か月以内に、シンガポール国内移行出願の元となるPCT国際出願の特許性に関する国際予備報告(IPRP)に基づく補充審査を請求する(第29条(1)(d)(i)(B))。

01SG07_2

(図2)PCTに基づく国内移行出願の場合

1.不備を指摘する通知に対する応答期間

 

1-1.予備審査において指摘された不備

シンガポール特許規則33に基づいて規定された方式要件を満たしていない出願について登録官(Registrar)が、不備を指摘する場合、該不備に対応するための応答期限は、通知の日から2か月である。延長に関する手数料を納付することにより、この期限は最大18か月延長することができる。この延長手続きは、最初の期限の前または後のいずれにおいても行うことができる。

 

登録官が、図面または明細書の一部が欠落した出願について不備を指摘する場合、該不備に対応するための応答期限は、通知の日から3か月である。この期限は延長することができない。

 

1-2.その他審査関連事項に関する不備

提出された書類または様式に何らかの不備が見つかった場合や、書類の提出に漏れがあった場合には、審査手続の様々な段階において、登録官により該不備が指摘されることがある。また、登録官は、以上のような類型に該当しない不備に関しても、該不備を指摘する通知を発行することができる。

このような不備に対応するための応答期間は、該通知に記載されている。応答期間は登録官の裁量であり、特許法または特許規則では規定されていない。

 

2.調査報告に対する応答期間

 

01SG07_3

(図3)パリ条約に基づく出願の場合

01SG07_4

(図4)PCTに基づく国内移行出願の場合

 第29条(1)(a)または(b)に基づいて請求された調査報告により(図3および図4のフロー参照)、当該特許出願において、単一の発明概念に関する単一性の欠如が判明した場合、登録官は出願人にその旨を通知する必要がある。

 

出願人は、単一性を有しないと判断されたために調査が行われなかった発明について補足調査(Supplementary Search)を請求することができる。この請求は、登録官の通知の日から2か月以内に行う必要がある。この期限は、延長に関する手数料を納付することにより、最大6か月延長することができる。

 

第29条(1)(a)に基づいて請求された調査報告が、審査請求期限の1か月前以降に出願人に送付された場合、審査請求期限は、調査報告が出願人に通知された日から1か月延長される。

 

3.調査見解書に対する応答期間

 

3-1.実体審査が請求される場合

 

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(図5)パリ条約に基づく出願の場合

01SG07_6

(図6)PCTに基づく国内移行出願の場合

 特許法第29条(1)(b)もしくは(c)または第29条(3)に基づいて、審査または調査および審査が請求され(図5および図6のフロー参照)、見解書が発行された場合、その見解書に対する応答期限は、見解書の通知の日から5か月であり、この期限は延長することができない。

 

3-2.補充審査が請求される場合*1

 

01SG07_7

(図7)パリ条約に基づく出願の場合

 

01SG07_8

(図8)PCTに基づく国内移行出願の場合

 

特許法第29条(1)(d)に基づいて補充審査が請求され(図7および図8のフロー参照)、見解書が発行された場合、その見解書に対する応答期限は、見解書の通知の日から3か月であり、この期限は延長することができない。

 

3-3.見解書に対する応答

出願人は、見解書に対して、反論または補正を提出して応答することができる。

出願人が見解書に対して応答を行わない場合には、見解書に基づいて審査報告書(3-1の場合)または補充審査報告書(3-2の場合)が作成される。審査報告書または補充審査報告書に未解決の拒絶理由が含まれる場合、登録官は出願人に拒絶をする旨の通知を発行する。

 

4.拒絶をする旨の通知に対する応答期間

出願人は、未解決の拒絶理由が含まれる審査報告書に対し、再審査を請求することができる。再審査は、拒絶をする旨の通知の日から2か月以内に請求することができる。

延長に関する手数料を納付することにより、この期限は最大6か月延長することができる。この延長手続きは、最初の期限の前または後のいずれにおいても行うことができる。最初の期限より後に期限延長を請求する場合、期限延長を請求するまでの間、当該出願は放棄された状態となる。

 

5.特許を付与する旨の通知に対する応答期間

登録官により特許を付与する旨の通知が発行される場合、出願人には、当該出願を整理し、登録料を納付するための期間として2か月が与えられる。

この期限は、延長に関する手数料を納付することにより、最大18か月延長することができる。

応答を行わない場合、当該出願は放棄されたものとみなされる。最初の期限より後に期限延長を請求する場合、期限延長を請求するまでの間、当該出願は放棄された状態となる。

 

6.特許付与後の応答期間

シンガポールにおいて最初に支払う年金は第5年次年金であり、第4年次までの年金を支払う必要は無い。第5年次年金の納付期限は特許出願日から4年目が満了する3か月前、すなわち、特許出願日から45か月である。

特許出願日から45か月が経過した後に特許が付与される場合、支払期限を迎えた年金(前年までに支払期限のある全ての費用を含む)は、特許付与の日から3か月以内であればいつでも納付することができる。

 

以降の各年の年金は毎年納付することとなり、期間満了前3か月以内に納付することができる。

 

【留意事項】

庁指令または通知に対する応答期間は、庁から発行される書面に記載されている。庁書面によっては、応答期間の延長が認められない場合もあり、そのような応答期間ついては、特に注意を払う必要がある。

 

シンガポールにおける特許法改正の概要(2014年2月14日施行、2017年10月30日一部改正)

 シンガポールでは改正特許法が2012年7月10日に成立し、シンガポール知的財産庁によって草案は公告され、2014年2月14日から施行された。以下にその概要を説明し、さらに2017年に改正があった点についても言及する。

 

(1)重要な改正点

 重要な改正点は、自己査定型の特許制度(self-assessment patent system)から肯定的結果に基づく付与制度(positive grant system)へシフトしたことである。

 

 改正前は、出願した発明が新規性等の特許要件を満たしているかの判断は審査官ではなく、出願人が自ら行って登録が認められる自己査定型の特許制度であったため、実際には新規性等の特許要件を具備しない発明にも特許が付与されていた。これは、シンガポール知的財産局が独自の調査および審査能力を有していなかったという事情からであった。

 

 改正特許法においては、出願人の請求に基づいてシンガポール知的財産局が発行する審査内容に関する報告書が肯定的な出願にのみ、特許を付与することになった。また、「スロー/ファストトラック」システム(“slow/fast-track”prosecution system)も改正され、「ファスト」または「スロー」の選択肢のない単一のトラックシステムに統合された。

同時に、シンガポール知的財産局は上記改正を考慮して、有効な調査および審査能力の構築を提案した。

 

(i)「肯定的結果に基づく付与制度」および新たなタイムライン

 改正特許法の下で出願人が利用可能な審査手続は、以下の4つである(シンガポール特許法第29条(1)、特許規則38(2)、43)。

 

 (a)調査とその後の審査

 この場合、出願日(優先日)から13か月以内に調査を請求し、調査報告書に基づいて出願日(優先日)から36か月以内に審査請求を行う。

 

 (b)調査および審査

 この場合、出願日(優先日)から36か月以内に調査および審査の請求を行う。

 

 (c)対応する出願(corresponding application)、対応する国際出願(corresponding international application)、関連する国内段階の出願(related national phase application)の調査報告書を基礎とした審査。この場合、出願日(優先日)から36か月以内に審査請求を行う。

 なお、「対応する出願」および「対応する国際出願」とは、オーストラリア、カナダ(英語による出願のみ)、日本、ニュージーランド、韓国、英国、米国の特許庁および欧州特許庁(英語による出願のみ)へなされた出願または特許協力条約に基づきなされた出願であり、(ア)出願人のシンガポールにおける出願の優先権の主張の基礎となる出願、(イ)出願人のシンガポールにおける出願に基づき優先権を主張する出願、(ウ)出願人のシンガポールにおける出願と同じ出願を基礎として優先権を主張する出願をいう。「関連する国内段階の出願」とは、「対応する出願」と同様の国の特許庁等へなされたPCT出願に基づく出願であり、シンガポール国内段階へ移行した出願をいう(同法第2条(1)、特許規則41)。

 

 (d)対応する出願、対応する国際出願、関連する国内段階の出願の最終審査結果を基礎とした補充審査(supplementary examination)

 2014年改正前は、対応する出願の最終審査結果に依拠することを選択することができたが、2014年の改正により、対応する出願の最終審査結果を利用する場合についても、シンガポール知的財産局における審査(補充審査)が行われることとなった。この場合、出願日(優先日)から54か月以内に補充審査の請求を行う。

 

 上記(a)~(d)について、審査官による審査内容(判断結果)に関する報告書((a)(b)(c)の場合は審査報告書(examination report)、(d)の場合は補充審査報告書(supplementary examination report)と呼ばれる)が拒絶理由を含んでいない場合に、登録官により「特許付与適格通知(Notice of Eligibility to Proceed to Grant)」が発行される。その後、出願人は特許付与に関する費用の支払手続に入る。

 

 審査報告書または補充審査報告書が1またはそれ以上の拒絶理由を含んでいる場合は、登録官により「出願拒絶を意図する通知」が発行される。この場合、出願人は拒絶理由を克服する提案を記載した書面を含む所定の書式を提出し、可能な場合には同時に修正し、審査報告書または補充審査報告書の再審理を要求する。その後、再審理が完了し、登録官により拒絶理由がないと判断された場合は「適格性通知」が発行される。再審理を経ても拒絶理由があると判断された場合は、「拒絶通知」が発行される。

 

 その後、2017年特許法第29条および特許規則43の改正により2020年1月1日以降の出願には補充審査は利用できなくなることとなった。

 

シンガポール特許法

第29条 調査及び審査

(1)特許出願(本項において「当該出願」という)に係る出願人は,所定の期間内に,以下の項のうちの1つに従うこと。

(d)(11A)に関して,所定の様式で補充審査報告書を求める所定の文書と請求書を提出する。ただし

(i)出願人が以下の最終的な報告に依拠する場合,

(A)対応する出願,対応する国際出願又は関連国内段階出願の実体審査,若しくは

(B)国際段階における当該出願の実体審査(当該出願が第86条(3)に基づいて国内段階に移行した国際特許出願(シンガポール)である場合)

(ii)当該出願における各クレームが,少なくとも対応する出願,対応する国際出願又は関連する国内段階出願若しくは国際段階における当該出願におけるクレームの1つに関連する。及び

(iii)これらの結果により,当該出願における各クレームが新規性,進歩性(又は非自明性),産業上の利用可能性(又は有用性)の要件を満足する。

 

(10)(1)の規定に拘わらず,出願人が(1)(c)若しくは(3)に基づく審査報告書の請求又は(1)(b)に基づく調査及び審査報告書の請求を提出している場合は,出願人は次の対応をすることができる。

(b) (11A)に従うことを条件として,(1)(d)に基づく補充審査報告書の請求を,その請求のための所定の期間内に提出すること

 

(11A)(1)(d)及び(10)(b)は,次の場合を除いて適用されない。

(a)当該出願が第20条(3),第26条(11)又は第47条(4)にいう新規出願である場合-当該出願 の実際の出願日が所定の日より前である,又は

(b)その他の場合-当該出願の出願日が所定の日より前である。

 

シンガポール特許規則

規則43 調査及び審査報告の請求,審査報告の請求又は補充審査報告の請求の提出期間

(4) 第29条(11A)(a)及び(b)の所定の日は2020年1月1日

 

 (ii)2014年改正以前のシステムとの手続上の相違点

上記に記載した(a)から(d)の審査の選択肢は、これまでの自己査定型システムにおいても既に利用できたものである。このうち、選択肢(a)~(c)は、審査報告書に加えて「適格性通知」も発行されるようになったこと以外、大部分は同様のシステムが残っている。これに対し、選択肢(d)については、上記(1)(i)(d)で述べた通り、新しいシステムに移行したことで、「適格性通知」発行のために、補充審査の申請を新たに行うことが必要になった。

PCT出願に基づき所定の特許庁(上記(1)(i)(c)記載の特許庁)の国内段階に移行した出願/特許は、シンガポールに国内移行した出願/特許に対して「関連する国内段階の出願/特許」と定義されるに至った。これにより、改正前は共通する優先権主張によって関連づけられた「対応する出願」、「対応する国際出願」の調査報告書および審査報告書のみが上記の選択肢(c)および(d)において使用されていたが、当該「関連する国内段階の出願」から得られた調査報告書も、上記の選択肢(c)において利用可能となった。また、当該「関連する国内段階の出願」から得られた審査報告書も、上記の選択肢(d)において利用可能となった(同法第29条(1)(c)、(d)、規則41)。

 

(2)その他の留意すべき改正(2014年)

(i)付与後調査および審査の削除

 付与後調査および審査の規定(改正前第38A条)が削除された。

 

(ii)失効した特許の回復のための基準の引き下げ

 失効した特許について、更新料の支払いを失念したことにつき故意がないと登録官が認めた場合に、回復され得ることとされた(第39条)。2014年改正前は、登録官は権利者が更新料の支払いにつき「所定の期間内に納付されるよう適切な注意を払っていた」と認められることが必要であった。

 

【留意事項】

 2014年改正法は、2014年2月14日以降に出願される特許に適用されている。シンガポールでは、改正前は、自己査定型の特許制度であったため、実際は特許要件を満たさないものでも特許が付与されていたが、2014年改正によって、シンガポール知的財産局が発行する審査内容に関する報告書が肯定的な出願のみが特許を付与されることになった点に、留意が必要である。

また、対応する外国出願の最終審査結果を基礎とした出願の場合についても、補充審査の請求が必要になっている点にも留意すべきである。

ただし、補充審査は2017年10月30日の特許法および特許規則の一部改正により2020年1月1日以降の出願では利用できなくなる。

日本とインドにおける意匠の新規性喪失の例外に関する比較

<日本における意匠出願の新規性喪失の例外>

 

 日本においては、新規性を喪失した意匠の救済措置として、新規性喪失の例外規定が定められている。新規性喪失の例外規定の適用要件は以下のとおりである。

1 出願に係る意匠が、意匠登録を受ける権利を有する者(創作者または承継人)の意に反して公開されたこと(第4条第1項)または

2 出願に係る意匠が、意匠登録を受ける権利を有する者(創作者または承継人)の行為に基づいて公開されたこと(第4条第2項)

 上記いずれの場合についても、以下の要件を満たす必要がある*)

(1)権利者の行為に起因して公開された意匠の公開日から1年以内に意匠登録出願すること

(2)意匠登録出願時に意匠の新規性喪失の例外規定の適用を受けようとする旨を記載した

書面を提出すること(願書に【特記事項】の欄を加え、当該規定を受けようとする出願である旨を明記することで代用可能。)

(3)意匠登録出願の日から30日以内に、意匠の新規性喪失の例外規定の適用の要件を満たすことを証明する書面(証明書)を提出すること

*)意匠の新規性喪失の例外規定についてのQ&A集(https://www.jpo.go.jp/system/design/shutugan/tetuzuki/ishou-reigai-tetsuduki/document/index/ishou-reigai-qa.pdf

 「証明書」には、意匠が公開された事実(公開日、公開場所、公開者、公開意匠の内容等)とともに、その事実を証明する者の署名、捺印等を記載することが必要である。なお、第三者によらず、出願人自身が署名・捺印したものであっても一定の証明力があるものとして許容される**)

**)「意匠審査基準の改訂」、p115脚注(https://www.jpo.go.jp/news/shinchaku/event/seminer/text/document/isho_text_h29/shiryou_02.pdf

条文等根拠:意匠法第4条

 

日本意匠法 第4条(意匠の新規性の喪失の例外)

1 意匠登録を受ける権利を有する者の意に反して第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至った意匠は、その該当するに至った日から一年以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同項及び同条第二項の規定の適用については、同条第一項第一号又は第二号に該当するに至らなかったものとみなす。

2 意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至った意匠(発明、実用新案、意匠又は商標に関する公報に掲載されたことにより同項第一号又は第二号に該当するに至ったものを除く。)も、その該当するに至った日から一年以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同項及び同条第二項の規定の適用については、前項と同様とする。

3 前項の規定の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書面を意匠登録出願と同時に特許庁長官に提出し、かつ、第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至った意匠が前項の規定の適用を受けることができる意匠であることを証明する書面(次項において「証明書」という。)を意匠登録出願の日から三十日以内に特許庁長官に提出しなければならない。

4 証明書を提出する者がその責めに帰することができない理由により前項に規定する期間内に証明書を提出することができないときは、同項の規定にかかわらず、その理由がなくなった日から十四日(在外者にあっては、二月)以内でその期間の経過後六月以内にその証明書を特許庁長官に提出することができる。

 

 

<インドにおける意匠出願の新規性喪失の例外>

 

 インドにおける意匠の新規性喪失の例外規定については、以下の規定がある。中央政府に承認された博覧会での開示や意匠権者の意に反する開示について、新規性喪失の例外が認められている。博覧会での開示に関しては、開示日から6月以内に意匠出願する必要がある。インド意匠法第6条では、ある分類で既に登録された先行意匠登録と同一分類中であれば、(先登録意匠の物品とは)別の物品に関しても、一定条件のもと、意匠登録を取得できる特有の例外規定も存在する。

 

条文等根拠:意匠法第21条、第16条、第6条

 

注)インド意匠法原文(英語)ではdesign rightの代わりにcopyrightという用語が使用されているが、「登録された区分における物品に意匠を適用する排他的権利」と定義されている。

 

インド意匠法 第21条(博覧会に係る規定)

官報の告示により中央政府によって本条が適用される産業その他の博覧会における博覧会開催期間中若しくはその後の意匠若しくは意匠適用物品の展示又は意匠表示の公開,又は何人かによる他の場所における博覧会開催期間中若しくはその後の意匠若しくは物品の展示又は意匠表示の公開であって,意匠所有者の黙認若しくは同意を得ないものは,当該意匠が登録されることを妨げるものではなく,又は,その登録を無効にするものではない。

ただし,次に掲げる事項を前提とする。

(a) 当該意匠若しくは物品を展示し,又は意匠表示を公開する展示者が,長官に対し所定の様式で事前通知をすること,及び

(b) 登録出願が,意匠若しくは物品の最初の展示日又は意匠表示の最初の公開日から6月以内にされること

 

インド意匠法 第16条(開示の意匠権への影響)

意匠所有者による他人への意匠の開示であっても,当該他人が当該意匠を使用又は公開すれば誠意に反するような状況での開示,及び意匠所有者以外の者による誠意に反する意匠の開示,及び登録を意図する新規性又は創作性のある織物意匠を帯びる物品に対する最初のかつ非公開の受注については,当該意匠の登録が当該開示又は受注の後で得られるときは,当該意匠権を無効にする程の意匠の公開とはみなさない。

 

インド意匠法 第6条 第3項(特定物品に関する登録)

(3) 意匠が,1物品区分に含まれた物品に関して既に登録されている場合は,当該物品区分に含まれた1又は2以上の他の物品に関する意匠所有者の登録出願は,次に掲げる理由で拒絶されることはなく,またその登録が無効にされることもない。

 (a) 当該意匠がそのように先に登録された事実のみによって,当該意匠が新規性若しくは創作性を有する意匠でないとする理由,又は

 (b) 当該意匠がそのように先に登録された物品に適用されている事実のみによって,当該意匠がインド若しくは何れかの外国において先に公開されているとする理由

ただし,そのように後にする登録は,当該意匠権期間が先の登録から発生する意匠権期間を超えないことを条件とする。

 

 

日本とインドにおける意匠の新規性喪失の例外に関する比較

 

日本

インド

新規性喪失の例外の有無

例外期間

公開日から1年

公開日から6月

公知行為の限定

公知行為とは見做されない公開

1.出願に係る意匠が、意匠登録を受ける権利を有する者(創作者または承継人)の意に反して公開されたこと

2.出願に係る意匠が、意匠登録を受ける権利を有する者(創作者または承継人)の行為に基づいて公開されたこと

1.創作者・意匠権者の意に反する、第三者による公開、および登録を意図する織物意匠を帯びる物品に対する最初のかつ非公開の受注について、意匠の登録が当該開示又は受注の後で得られるとき

2.中央政府による博覧会での公開

証明する書面(証明書)

公開の事実等を記載した証明書を提出する必要がある

博覧会での公開については長官に対する事前通知が必要である

 

 

日本とロシアにおける意匠の新規性喪失の例外に関する比較

 

<日本における意匠出願の新規性喪失の例外>

 

 日本においては、新規性を喪失した意匠の救済措置として、新規性喪失の例外規定が定められている。新規性喪失の例外規定の適用要件は以下のとおりである。

1 出願に係る意匠が、意匠登録を受ける権利を有する者(創作者または承継人)の意に反して公開されたこと(第4条第1項)または

2 出願に係る意匠が、意匠登録を受ける権利を有する者(創作者または承継人)の行為に基づいて公開されたこと(第4条第2項)

 上記いずれの場合についても、以下の要件を満たす必要がある*)

(1)権利者の行為に起因して公開された意匠の公開日から1年以内に意匠登録出願すること

(2)意匠登録出願時に意匠の新規性喪失の例外規定の適用を受けようとする旨を記載した

書面を提出すること(願書に【特記事項】の欄を加え、当該規定を受けようとする出願である旨を明記することで代用可能。)

(3)意匠登録出願の日から30日以内に、意匠の新規性喪失の例外規定の適用の要件を満たすことを証明する書面(証明書)を提出すること

*)意匠の新規性喪失の例外規定についてのQ&A集(https://www.jpo.go.jp/system/design/shutugan/tetuzuki/ishou-reigai-tetsuduki/document/index/ishou-reigai-qa.pdf

 「証明書」には、意匠が公開された事実(公開日、公開場所、公開者、公開意匠の内容等)とともに、その事実を証明する者の署名、捺印等を記載することが必要である。なお、第三者によらず、出願人自身が署名・捺印したものであっても一定の証明力があるものとして許容される**)

**)「意匠審査基準の改訂」、p115脚注

https://www.jpo.go.jp/news/shinchaku/event/seminer/text/document/isho_text_h29/shiryou_02.pdf

条文等根拠:意匠法第4条

 

日本意匠法 第4条(意匠の新規性の喪失の例外)

1 意匠登録を受ける権利を有する者の意に反して第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至った意匠は、その該当するに至った日から一年以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同項及び同条第二項の規定の適用については、同条第一項第一号又は第二号に該当するに至らなかったものとみなす。

2 意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至った意匠(発明、実用新案、意匠又は商標に関する公報に掲載されたことにより同項第一号又は第二号に該当するに至ったものを除く。)も、その該当するに至った日から一年以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同項及び同条第二項の規定の適用については、前項と同様とする。

3 前項の規定の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書面を意匠登録出願と同時に特許庁長官に提出し、かつ、第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至った意匠が前項の規定の適用を受けることができる意匠であることを証明する書面(次項において「証明書」という。)を意匠登録出願の日から三十日以内に特許庁長官に提出しなければならない。

4 証明書を提出する者がその責めに帰することができない理由により前項に規定する期間内に証明書を提出することができないときは、同項の規定にかかわらず、その理由がなくなった日から十四日(在外者にあっては、二月)以内でその期間の経過後六月以内にその証明書を特許庁長官に提出することができる。

 

 

<ロシアにおける意匠出願の新規性喪失の例外>

 

 ロシアでは民法第1352条4項に意匠に関する新規性喪失の例外規定がある。この中で、出願に係る意匠が出願前に公知になった場合であっても、新規性喪失の例外の適用を受けることにより、当該公知意匠を新規性および独創性の判断における公知意匠から除くことができると規定されている。

 

 また創作者による開示行為も、新規性喪失の例外規定の適用を受けることが可能である。この開示日から12月以内に出願をする必要があるが、公開の証明資料は提出不要である。

条文等根拠:民法第1352条第4項

 

ロシア民法 第1352条(意匠の特許性の条件)

  1. 意匠の新規性及び独創性を確認するときは,(先の優先権の条件で)その他の者によりロシア連邦でなされた発明,実用新案及び意匠に係るすべての出願並びに商標及びサービスマークの国による登録を求める出願,及び本法第1385条第2段落,第1394条第2段落及び第1431条第1段落に従い何人も閲覧する権利を有するこれらの出願に関係する書類も考慮に入れるものとする。

意匠についての情報のその創作者,出願人又はそれらから当該情報を直接又は間接に受領した者による開示(博覧会で意匠を展示した結果によるものを含む)で,当該意匠の本質に関する情報を公衆に利用可能にしたものは,当該意匠の特許性を妨げる事情とはならないが,ただし,当該情報開示の後12月以内に,当該意匠に係る特許出願が知的所有権を所管する連邦行政機関になされることを条件とする。意匠の本質に関する当該情報開示が当該意匠の特許性の認定を妨げない事情が存在することの立証責任は,出願人が負う。

 

日本とロシアにおける意匠の新規性喪失の例外に関する比較

 

日本

ロシア

新規性喪失の例外の有無

例外期間

公開日から1年

開示日から12月

公知行為の限定

公知行為とはみなされない公開

1.出願に係る意匠が、意匠登録を受ける権利を有する者(創作者または承継人)の意に反して公開されたこと

2.出願に係る意匠が、意匠登録を受ける権利を有する者(創作者または承継人)の行為に基づいて公開されたこと

意匠についての情報のその創作者,出願人またはそれらから当該情報を直接または間接に受領した者による開示(博覧会で意匠を展示した結果によるものを含む)で,当該意匠の本質に関する情報を公衆に利用可能にしたものは,当該意匠の特許性を妨げる事情とはならない

証明する書面(証明書)

公開の事実等を記載した証明書を提出する必要がある

証明書の提出は不要である

インドネシアにおける特許出願の実体審査と特許庁からの指令書に対する応答期間

2016年8月26日施行された2016年特許に関する法律第13号(以下、特許法)は、実体審査や方式の期間について、以下のように規定している。

 

1. 方式審査に対する応答期間

2016年特許に関する法律第13号(以下、特許法)第34条は、出願日を確保するために必要な最低要件を規定している。その最低要件とは以下のとおりである。

  • 出願年月日、発明者の氏名・住所・国籍、 出願人の名称・住所、代理人の氏名・住所(第25条第1項)
  • 発明の名称、明細書(外国語可)、特許請求の範囲、要約、存在する場合は図面(第25条第2項a~e号、第3項)
  • 出願手数料納付の証明

 

最低要件の明細書は外国語で記載されていてもよいが、インドネシア語に翻訳された明細書は出願日から30日以内に提出されなければならず(第25条第3項)、期間内に提出されない場合、出願は取下げられたものとみなされる(第4項)。

これ以外の方式要件は、委任状、発明者宣言書、譲渡書、微生物寄託証明書である。方式要件が満たされていない場合、大臣は出願人に対し書面をもって、通知発送の日から起算して3か月以内に方式要件を充たすように通知する(第35条第1項)。この応答期間は最大2か月間延長でき(第2項)、さらに手数料の支払いにより1か月間延長できる(第3項)。また、自然災害等特別な事情のある場合はさらに6か月間の延長が可能である(第5項、第6項)。延長期間内に要件が満たされない場合、出願が取下げられたとみなされる(第36条)。

 

2. 審査請求期間

特許出願の実体審査は実体審査請求を待って行われる。出願人は特許法第51条第1項に定めるとおり、手数料を納付し、実体審査を請求しなければならない。実体審査請求のできる期間は、出願日から36か月以内である(第2項)。実体審査は、出願公開後6か月の異議申立期間(第48条第1項、第49条第1項)が経過した後着手される(第51条第5項)。

 

3. 実体審査と応答期間

実体審査官は、出願された発明の産業上利用性、新規性、進歩性、記載不備等を審査する(第54条)。審査官が特許出願された発明が登録要件を満たさないと報告した場合、大臣は出願人に対して書面によりその要件を満たすよう通知する(第62条第1項)。通知には、a)充足されるべき要件、b)実体審査において用いられる理由と引用文献が記載される(第62条第2項)。

実体審査を受ける出願が優先権を伴う場合、大臣は出願人に対して、他国での審査結果に関する書類の提出を求めることができる(第55条)。その特許出願の発明が既に他国において特許が付与されている場合には、後述のとおり、審査官から出願人に対して、係属中の出願を対応国で登録された特許に一致させるような補正を提案することが多い。発明が単一性を満たさない場合、審査官は分割出願を行うよう提案することもできる。

 

出願人は、通知書の日から3か月以内に意見書および/または補正書を提出しなければならない(第62条第3項)。その期間は、2か月延長でき(第4項)、さらに手数料の納付を条件として1か月延長できる(第5項)。また、自然災害等特別な事情のある場合はさらに6か月間の延長が可能である(第7項、第8項)。

期間内に応答しない場合、大臣は書面で出願人に対し2か月以内に出願は取下げられたとみなされる旨通知する(第10項)。

なお実情では、2回目の拒絶理由への応答期間は2か月のみである。2回目の拒絶理由通知の応答期間は、審査官の裁量により認められる場合がある。

特許法第57条は、実体審査請求日または公開期間満了日のうち遅い方から30か月以内に登録または拒絶の査定をするように規定している。この期限が迫っている場合は、応答期間の延長が認められない。

応答期間の起算日は、通知の送達日ではなく、通知の日である。現状として通知が起案されてから代理人等に送達するまで1か月程度要しているため、出願人が応答を準備するために与えられる時間は十分でないことがある。

審査官が、2回目の通知への応答を審査しても、やはり特許出願は特許要件を満たさないと判断した場合、審査官は拒絶査定書を発行する。拒絶査定を不服とする場合、出願人は、拒絶査定書の日から3か月以内に、当該拒絶査定に対して審判請求をすることができる。一方、通知に対する応答により、拒絶理由が解消されたと認められる場合、特許査定書が送付され、その後の特許付与の段階へと移行する。

 

4. 優先権を主張する特許出願および国際特許出願(PCTルート)の実体審査

特許法第55条では、優先権を主張する特許出願について、他国の審査において先行技術調査または実体審査が行われている場合、または特許査定が下されている場合、審査官は、他国の審査結果を参照することができる旨が定められている。ただし大臣令により、以下の国の官庁の審査結果は参照できない。

  1. ASEAN加盟国(シンガポールを除く)
  2. アフリカ諸国
  3. 東ヨーロッパ諸国(ロシアとEPO加盟国を除く)
  4. 台湾

PCTルートの場合、審査官は、国際調査報告、見解書または国際予備審査報告を、発明の特許性を判断するための主たる参考資料として参照する。ただし、これらは審査官を拘束するものではなく、特許査定の可否は、あくまでインドネシア特許法に定められた不特許事由を考慮した審査官の判断に委ねられるのは言うまでもない。

 

【留意点】

拒絶理由通知の発送に遅延が生じているため、出願人の応答準備期間が不十分になってしまうことがあるが、審査官は期間延長に柔軟に対応している。

 

シンガポールの庁指令に対する応答期間

【詳細】

特許出願の審査手続は、パリ条約に基づく出願、または特許協力条約(PCT)に基づく国際出願の国内移行出願のいずれの出願形式を選択するかにより異なる。特に調査および審査の段階において、その相違は大きい。また、発行される庁指令および通知は、出願形式および/または以下に説明する調査および審査の種類により異なる。

 

パリ条約に基づく出願では、出願人は、審査請求について以下の選択肢を有する。(図1のフロー参照)

(1)基準日から13ヶ月以内に調査を請求し(第29条(1)(a))、その後、基準日から36ヶ月以内に審査を請求する(第29条(3))。

(2)基準日から36ヶ月以内に調査と審査を同時に請求する(第29条(1)(b))。

(3)基準日から36ヶ月以内に、対応する出願または対応する国際出願の調査報告書に基づく審査を請求する(第29条(1)(c)(i))。

(4)基準日から54ヶ月以内に、対応する出願または対応する国際出願の肯定的な最終結果・審査結果に基づく補充審査を請求する(第29条(1)(d)(i)(A))。

(図1)パリ条約に基づく出願の場合

(図1)パリ条約に基づく出願の場合

 

PCTに基づく国内移行出願では、出願人は審査請求について以下の選択肢を有する。(図2のフロー参照)

(1)基準日から36ヶ月以内に調査と審査を同時に請求する(第29条(1)(b))。

(2)基準日から36ヶ月以内に、対応する出願、対応する国際出願、国内段階に移行した関連特許または国内段階に移行した関連特許出願の調査報告書に基づく審査を請求する(第29条(1)(c)(i))。

(3)基準日から36ヶ月以内に、シンガポール国内移行出願の元となるPCT国際出願の国際調査報告書に基づく審査を請求する(第29条(1)(c)(ii))。

(4)基準日から54ヶ月以内に、対応する出願、対応する国際出願、国内段階に移行した関連特許または国内段階に移行した関連特許出願の肯定的な最終結果または審査結果に基づく補充審査を請求する(第29条(1)(d)(i)(A))。

(5)基準日から54ヶ月以内に、シンガポール国内移行出願の元となるPCT国際出願の特許性に関する国際予備報告(IPRP)に基づく補充審査を請求する(第29条(1)(d)(i)(B))。

(図2)PCTに基づく国内移行出願の場合

(図2)PCTに基づく国内移行出願の場合

 

1.不備を指摘する通知に対する応答期間

1-1.予備審査において指摘された不備

シンガポール特許規則第33条に基づいて規定された方式要件を満たしていない出願について登録官(Registrar)が、不備を指摘する場合、該不備に対応するための応答期限は、通知の日から2ヶ月である。延長に関する手数料を納付することにより、この期限は最大18ヶ月延長することができる。この延長手続きは、最初の期限の前または後のいずれにおいても行うことができる。

登録官が、図面または明細書の一部が欠落した出願について不備を指摘する場合、該不備に対応するための応答期限は、通知の日から3ヶ月である。この期限は延長することができない。

 

1-2.その他審査関連事項に関する不備

提出された書類または様式に何らかの不備が見つかった場合や、書類の提出に漏れがあった場合には、審査手続の様々な段階において、登録官により該不備が指摘されることがある。また、登録官は、以上のような類型に該当しない不備に関しても、該不備を指摘する通知を発行することができる。

このような不備に対応するための応答期間は、該通知に記載されている。応答期間は登録官の裁量であり、特許法または特許規則では規定されていない。

 

2.調査報告に対する応答期間

(図3)パリ条約に基づく出願の場合

(図3)パリ条約に基づく出願の場合

(図4)PCTに基づく国内移行出願の場合

(図4)PCTに基づく国内移行出願の場合

 

第29条(1)(a)または(b)に基づいて請求された調査報告により(図3および図4のフロー参照)、当該特許出願において、単一の発明概念に関する単一性の欠如が判明した場合、登録官は出願人にその旨を通知する必要がある。 出願人は、単一性を有しないと判断されたために調査が行われなかった発明について補足調査(Supplementary Search)を請求することができる。この請求は、登録官の通知の日から2ヶ月以内に行う必要がある。この期限は、延長に関する手数料を納付することにより、最大6ヶ月延長することができる。

第29条(1)(a)に基づいて請求された調査報告が、審査請求期限の1ヶ月前以降に出願人に送付された場合、審査請求期限は、調査報告が出願人に通知された日から1ヶ月延長される。

 

3.調査見解書に対する応答期間

3-1.実体審査が請求される場合

(図5)パリ条約に基づく出願の場合

(図5)パリ条約に基づく出願の場合

(図6)PCTに基づく国内移行出願の場合

(図6)PCTに基づく国内移行出願の場合

 

特許法第29条(1)(b)もしくは(c)または第29条(3)に基づいて、審査または調査および審査が請求され(図5および図6のフロー参照)、見解書が発行された場合、その見解書に対する応答期限は、見解書の通知の日から5ヶ月であり、この期限は延長することができない。

 

3-2.補充審査が請求される場合

(図7)パリ条約に基づく出願の場合

(図7)パリ条約に基づく出願の場合

(図8)PCTに基づく国内移行出願の場合

(図8)PCTに基づく国内移行出願の場合

 

特許法第29条(1)(d)に基づいて補充審査が請求され(図7および図8のフロー参照)、見解書が発行された場合、その見解書に対する応答期限は、見解書の通知の日から3ヶ月であり、この期限は延長することができない。

 

3-3.見解書に対する応答

出願人は、見解書に対して、反論または補正を提出して応答することができる。

出願人が見解書に対して応答を行わない場合には、見解書に基づいて審査報告書(3-1の場合)または補充審査報告書(3-2の場合)が作成される。審査報告書または補充審査報告書に未解決の拒絶理由が含まれる場合、登録官は出願人に拒絶をする旨の通知を発行する。

 

4.拒絶をする旨の通知に対する応答期間

出願人は、未解決の拒絶理由が含まれる審査報告書に対し、再審査を請求することができる。再審査は、拒絶をする旨の通知の日から2ヶ月以内に請求することができる。

延長に関する手数料を納付することにより、この期限は最大6ヶ月延長することができる。この延長手続きは、最初の期限の前または後のいずれにおいても行うことができる。最初の期限より後に期限延長を請求する場合、期限延長を請求するまでの間、当該出願は放棄された状態となる。

 

5.特許を付与する旨の通知に対する応答期間

登録官により特許を付与する旨の通知が発行される場合、出願人には、当該出願を整理し、登録料を納付するための期間として2ヶ月が与えられる。

この期限は、延長に関する手数料を納付することにより、最大18ヶ月延長することができる。

応答を行わない場合、当該出願は放棄されたものとみなされる。最初の期限より後に期限延長を請求する場合、期限延長を請求するまでの間、当該出願は放棄された状態となる。

 

6.特許付与後の応答期間

シンガポールにおいて最初に支払う年金は第5年次年金であり、第4年次までの年金を支払う必要は無い。第5年次年金の納付期限は特許出願日から4年目が満了する3ヶ月前、すなわち、特許出願日から45ヶ月である。

特許出願日から45ヶ月が経過した後に特許が付与される場合、支払期限を迎えた年金(前年までに支払期限のある全ての費用を含む)は、特許付与の日から3ヶ月以内であればいつでも納付することができる。

以降の各年の年金は毎年納付することとなり、期間満了前3ヶ月以内に納付することができる。

 

【留意事項】

庁指令または通知に対する応答期間は、庁から発行される書面に記載されている。庁書面によっては、応答期間の延長が認められない場合もあり、そのような応答期間ついては、特に注意を払う必要がある。

ブラジルにおける特許を受けることができる発明とできない発明

【詳細】

 現行のブラジル産業財産法(法律第9279号/1996、以下「産業財産法」)は1997年5月14日に施行された。旧ブラジル産業財産法は軍事政権下で起草され、その結果として特許保護が極めて不十分なものであったが、現行の産業財産法の登場により大きな改善が見られた。具体的には、化学製品(化学製品の製法は旧産業財産法の下で既に特許性を認められていた)、食品および食品の製法、医薬品および医薬品の製法が特許を受けることができる発明となった。またバイオテクノロジー分野の発明も特許を受けることができる発明となった。

 

特許を受けることができない発明

 産業財産法第10条は、特許を受けることができない発明を以下のように定めている。

 

産業財産法第10条

次に掲げる事項は、発明又は実用新案とみなされない。

 (1)発見、科学理論および数学的方法

 (2)純粋に抽象的な概念

 (3)商業、会計、金融、教育、広告、くじおよび抽選の手段、計画、原理または方法

 (4)文学、建築、美術および学術の著作物、または審美的創作物

 (5)コンピュータプログラムそれ自体

 (6)情報の提供

 (7)遊戯の規則

 (8)人体または動物の治療に用いられる手術方法もしくは外科的技術および方法ならびに治療もしくは診断の方法

 (9)全ての自然の生物のゲノムまたは生殖質を含め、それらから分離されたものであるか否かに関わらず、自然の生物および生物材料の全体または一部ならびに自然の生物学的方法

 また同法第18条は、道徳、善良の風俗ならびに公共の安全、公共の秩序および公衆衛生に反する発明や、生物の全部ないし一部に関する発明の特許適格性がないことを規定している。

 

産業財産法第18条

次に掲げるものは,特許を受けることができない。

(1) 道徳,善良の風俗,並びに公共の安全,公の秩序及び公衆の衛生に反するもの

(2) 原子核変換から生じる全ての種類の物質,材料,混合物,元素又は製品,及びその物理化学的属性の変態,並びにそれらの取得又は変態のための方法

(3) 生物の全体又は一部分。ただし,第8 条に規定した特許を受けるための3 要件,すなわち,新規性,進歩性及び産業上の利用可能性の要件を満たし,かつ,単なる発見ではない遺伝子組み替え微生物を除く。

補項 本法の規定の適用上,遺伝子組み替え微生物とは,植物又は動物の全体又は一部を除いた有機体であって,その遺伝子構成への直接の人的介入により,通常自然の状態では到達し得ない特性を示しているものをいう。

 

 産業財産法第10条の(1)項から(9)項は、特許を受けることができる発明に含まれないものを示しているが、これらはほとんどの他国の法律と一致している。米国、日本、オーストラリアなどの一部の国は、特許性の要件に関してより柔軟なアプローチを採用する傾向があり、その結果これらの国々では、ブラジル産業財産法の下では特許性が否定される一定の主題に特許適格性を認めている。

 

1.生物の全部ないし一部

 産業財産法第10条および18条の規定の唯一の例外は、新規性、進歩性、産業上の利用可能性の要件を満たす遺伝子組み換え微生物である。産業財産法第18条の補項に示された定義によれば、遺伝子組み替え微生物とは、植物もしくは動物の全体または一部を除いた有機体であって、その遺伝子構成への直接の人的介入により、自然状態にある生物種が通常は実現し得ない特性を表現しているものをいう。つまり、ブラジルにおいては、遺伝子組み換え微生物は植物および動物の細胞を包含していてはならないことになる。そのため、第18条(3)項の規定に適合する限定条件を盛り込んだ特許請求項(クレーム)を作成することが推奨される。他方、微生物および動植物で特許を得るための方法は、当該方法が単一のステップのみからなるプロセスではなく、且つ、自然界に存在する生物学的プロセスでないことを条件として、特許性を認められることがある。

 自然発生する物質は第10条(9)項に基づき発明では無く発見とされている。同様の意味合いで、自然に存在する生体物質を単離(混合物質から要素単体を分離)するための自然の生物学的プロセスは特許適格とは見なされない。

 

  1. 診断方法および治療方法

 産業財産法第10条(8)項は、人体または動物に対して使用される手術方法もしくは外科的技術ならびに治療もしくは診断の方法を特許を受けることができる発明としない旨を定めている。

 生体の治療方法は、特許を受けることができる発明には該当しない。特定の診断方法が健康状態を決定づけるものであり、しかも人体に直接適用される場合、そのような診断方法にも同じ原則が適用される。生体内で生じるステップと生体外で生じるステップとの両方を含んでいる治療方法において、生体内で生じるステップを当該治療方法から切り離すことができないという状況もありうる。その場合、そのような治療方法は第10条(8)項の適用除外に該当する。他方、患者の身体から情報を得る方法の場合、その情報だけでは適切な治療法を特定することができないものであり、且つ、何らかの治療や施術が患者の身体に適用されないものであるならば、当該方法は特許を受けることができる発明となり得る。

 同様に、X線写真、磁気共鳴画像、心電図(ECG/EKG)の作成方法もしくは処理方法が患者情報を得るために実施される場合、それらの方法は、特許を受けることができる発明である。

なお、医薬品の特許出願について義務づけられる国家衛生監督局(ANVISA)の審査については、ブラジル知的財産庁(Instituto nacional da propriedade industrial: INPI)とANVISAとの間で特許性の問題に関する見解の食い違いが見られる。ANVISAは「スイス型」のクレームを認めていない。しかもANVISAは、化合物の結晶の多形体(polymorphs)および好ましい多形体を選択することを特徴とする発明を特許適格な主題と見なしていない。ANVISAの実体特許審査への介入は政治的な措置の意味合いが濃く、政府も特許出願の対象である医薬品の安全性と効能を保証するためにANVISAの審査が必要だと判断している。

 

  1. コンピュータプログラムおよびコンピュータ利用発明

 産業財産法第10条(5)項は、コンピュータプログラムそれ自体に特許適格性がないことを規定している。これは、当該カテゴリーの発明はソフトウェア法(法律9609号/1988)によって保護されるという事実による。ソフトウェア発明およびコンピュータ利用発明が方法と製造物の特徴を組み合わせたものであって、コンピュータプログラムによって実行されるステップを備えている場合、その発明は、特許を受けることができる発明となる。

ソフトウェア発明およびコンピュータ利用発明において特許請求されるカテゴリーは、方法、システム、および装置に関連しているが、システムおよび装置クレームに関しては、機能的なクレーム文言(「ミーンズ・プラス・ファンクション形式」)を使用することが望ましい。機能的クレームに関しては、明細書に開示された実施例の内容に基づく特別な権利範囲の制限は存在しない。ブラジルにおいては、特許請求される主題が先行技術に抵触せず、しかもクレームに記載された要素が当業者にとって明瞭である場合、機能的な文言の使用が認められる。

 なお、INPIは2012年から、コンピュータプログラムにより実施される発明に関わる特許出願の審査手続について、国民の意見聴取を行っている。「審査便覧」の草案には出願の基準及び判断に関する手続が明記されており、この重要な技術分野における疑義を解消することを目指している。

インドネシアにおける特許出願の実体審査と特許庁からの指令書に対する応答期間

【詳細】

1. 方式審査に対する応答期間

インドネシアにおいて、特許出願されると、インドネシア特許庁(以下、特許庁という。)は方式的要件が満たされているか否かの方式審査を行う。方式的要件に不備がある場合、特許庁は出願人に対し(なお、代理人がある場合には代理人、以下、単に出願人とする)、当該不備を補完するよう通知する。出願人は、通知の日付から3ヶ月以内に当該不備を補完(出願時に準備できなかった補正を含む追加の書面を提出すること)しなければならない。この補完期限は、出願人の申請により2ヶ月延長することができる。また、追加の手数料を納付することを条件にさらに1ヶ月の延長も可能である。

 

2. 審査請求期間

特許出願の実体審査は実体審査請求を待って行われる。出願人はインドネシア特許法(特許に関する法律第14/2001号、以下、特許法という)第48条(1)に定める通り、手数料を納付し、特許庁に実体審査を請求しなければならない。実体審査請求のできる期限は、出願日から36ヶ月以内である(特許法第49条(1))。なお、出願公開後6ヶ月の異議申立期間(特許法第44条)の経過前に実体審査が請求された場合であっても、当該異議申立期間の経過後に実体審査が着手される(特許法第49条(4))。

 

3. 実体審査の応答期間

公開後6ヶ月の異議申立期間内には、何人も、特許出願に対する異議申立を提出することができる(特許法第45条)。異議申立が提出された場合、当該異議申立の内容は、実体審査において、審査官が内容検討を行い、審査報告書の参考資料または判断資料として使用される。

特許法第54条に基づき、特許出願に対する特許付与または拒絶の決定は、実体審査請求の日から36ヶ月以内になされなければならない。ただし、実体審査請求が公開期間満了前に行われた場合には、異議申立期間の経過から36ヶ月以内に上記決定がなされなければならない。小特許(実用新案)の場合は、出願日から24ヶ月以内になされなければならない。

 

4. 実体審査の内容

実体審査は、原則インドネシア特許庁の審査官により行われるが、特許法第50条(1)の規定により、特許庁が外部の専門家や他国の特許庁の審査官の支援を要請することもできる。

実体審査において、特許法第52条(1)に基づき、審査官は審査報告書を作成する。特許が請求されている発明が不明瞭、新規性なし、進歩性なし、またはその他の拒絶理由が含まれていると判断される場合、出願人に対して、拒絶理由に対する意見または補正を求める指令書を発行する。

指令書には、出願人の明細書に対する審査官からのコメントが記載される。第1回指令書に対しては、出願人は、通知から3ヶ月以内に応答書を提出しなければならない。第2回指令書が発行される場合は通知から2ヶ月以内に、第3回指令書が発行される場合は通知から1ヶ月以内に応答書を提出しなければならない。なお、実務上、最大3回まで指令書が発行される場合があるが、審査官が、出願人のさらなる応答を求めても特許出願は特許要件を満たさないと判断した場合、第1回目の指令書の後でも、審査官は拒絶査定を発行する場合がある。

なお、出願人が期限内に応答することができない場合、出願人は、審査官にその旨を説明し、期限延長を請求することができる。特許法は、期限延長については規定がなく、期限延長を認めるか否かは審査官の裁量に委ねられている。

指令書において、拒絶理由の記載は、問題となる請求項や記載部分の指摘とともに通知される。さらに、審査官から、拒絶理由を解消するための提案を行うことができる。

また、その特許出願の発明が既に他国において特許が付与されている場合には、後述のとおり、審査官から出願人に対して、係属中の出願を対応国で登録された特許に一致させるように提案することもできる。発明が単一性を満たさない場合、分割出願を行うよう提案することもできる。

出願人の応答で拒絶理由が解消されていないと審査官が認める場合、さらに、第2回目以降の指令書を発行することができる。審査官が、出願人のさらなる応答を求めても特許出願は特許要件を満たさないと判断した場合、審査官は拒絶査定を発行する。拒絶査定を不服とする場合、出願人は、拒絶査定の送付の日から3ヶ月以内に、当該拒絶査定に対して審判請求をすることができる。

一方、指令書に対する応答により、拒絶理由が解消されたと認められる場合、特許査定が送付され、その後の特許付与の段階へと移行する。

 

5.  指令書への応答の実務上の留意点

指令書への応答の実務上の留意点として、以下が挙げられる。

(1)審査官の提起するすべての拒絶理由に応答しなければならない。

(2)出願人は、クレームを補正すること、またクレームに記載された発明と引用文献と相違を主張することができる。

(3)明細書の補正が可能であるが、新規事項を追加することはできない。

(4)出願人は、審査官との面談(電話面談も含む)を行うことができる。

(5)応答期限内に指令書に応答しなかった場合、出願は取り下げたものとみなされる。

 

6. 優先権を主張する特許出願および国際特許出願(PCTルート)の実体審査

特許法第28条(2)では、優先権を主張する特許出願について、他国の審査において先行技術調査または実体審査が行われている場合、または特許査定が下されている場合、審査官は、他国の審査結果を参照することができる旨が定められている。外国特許庁の審査結果については、通常、欧州特許庁(European Patent Office)、米国特許商標庁(United States Patent and Trademark Office)、日本国特許庁(Japan Patent Office)およびオーストラリア特許庁(Austrian Patent Office)の結果を参照する。

PCTルートの場合、審査官は、通常は、国際調査報告、見解書または国際予備審査報告を、発明の特許性を判断するための主たる参考資料として参照する。ただし、これらは審査官を拘束するものではなく、特許査定の可否は、あくまで審査官の判断に委ねられている。審査官は、国際調査報告、見解書または国際予備審査報告の内容にかかわらず、インドネシア特許法に定められた不特許事由(特許法第7条)に関する規定を考慮して特許査定の可否を判断しなければならない。

 

7. 特許審査ハイウェイプログラム

インドネシア特許庁は、日本特許庁と、特許審査ハイウェイプログラム(PPH: Patent Prosecution Highway Program)を実施している。日本の出願人は、このPPHプログラムを適用し、インドネシアにおける特許出願において早期権利化を図ることができる場合がある。