(韓国)パラメータで限定した構成を含む発明に関する明細書の記載要件、及び出願後に提出された実験データの適用に関して判示した事例
【詳細】
(1) この事件の第8項に係る発明(2007年5月3日付で補正)は、「チボロン(Tibolone)の結晶を水の存在下で24時間以上を熟成させて得られるものであり(構成1)、また、チボロン及び含量0.5%未満のOM38を含む高純度組成物であり(構成2)、上記の高純度組成物を45℃で1ヶ月間ストレステストを行った後、OM38含量の増加量が0.4%未満になる(構成3)高純度組成物」に係るものである。これは、組成物の成分の含量及び物性を数値で限定した数値限定発明であり、また、組成物の安定性をストレステストのパラメータにより限定して示したパラメータ発明に該当する。
原審の特許審判院は、この事件の出願発明の明細書において、第8項に係る発明の構成1ないし3の全てを満足する実施例が存在しないから、特許法第42条第4項第1号の要件を満たしていない、また、構成3に対応する明細書の本文の記載が存在しないから、特許法第42条第3項の要件を満たしていない、と審決した。
(2) 本件事案について、特許法院は、旧特許法第42条第3項に関して、「通常の技術者が、当該発明を明細書の記載に基づいて、出願時の技術水準に比べ特殊な知識を加えずに正確に理解し、かつ再現することができる程度まで記載するように求める」という法理を提示した。そして、本件明細書の記載について、「この事件の第8項に係る発明の構成のうち、構成1及び2に対しては、明細書の発明の詳細な説明に明確に記載されている」が、「構成3に対しては、【発明の構成】に何らの記載もなく、ただ、発明の詳細な説明の【発明の効果】に、実施例1として…、実施例2及び3として…という記載があるだけである」と認定した。
(3) 特許法院は、上記の法理と明細書の記載に照らして検討し、構成3の「ストレステスト」部分については、「発明の詳細な説明には、『45℃(1ヶ月間継続)で行なわれるストレステスト』又は『45℃(1週間継続)で行われるストレステスト』と記載されているだけで、温度と時間以外の条件、例えば、湿度、チボロンの量、酸の存在有無などについてはいかなる記載もなく、通常の技術者が、そのような記載がなくても出願当時の技術常識に基づいてストレス条件として明示されていない他の条件などを自ら設定し、ストレステストを実行することができるということを認める他の事情も見当たらない。したがって、この事件の第8項に係る発明は、その構成要素のうち『ストレステスト』の条件や方法に対し、発明の詳細な説明に、通常の技術者が容易に実施することができる程記載されていないから、旧特許法第42条第3項に違反する記載不備の事項があると判断される。」と判示した。
さらに、構成3の他の部分については、「構成3は、『構成1及び2を満足する高純度組成物に対し、45℃で1ヶ月間ストレステストを行うと、チボロン含量に対するOM38含量の増加量が0.4%未満になる』ことに係るものであるが、発明の詳細な説明には、構成3の達成可能性の有無や機能及び効果などについて何らの記載もないため、特別な事情のない限り、通常の技術者が構成3を、明細書の記載に基づいて、出願時の技術水準に比べ特殊な知識を加えずに正確に理解し、かつ再現することができるとは考え難い。したがって、この事件の出願発明の発明の詳細な説明は、この事件の第8項に係る発明の構成3に関する具体的な記載が存在しないから、旧特許法第42条第3項に違反する記載不備の事項があると判断される。」と判示した。
(4) 原告は、明細書の他の記載(構成1の熟成過程を経ていないチボロン錠剤の、25℃及び相対湿度60%における貯蔵安定性の評価結果:実施例5及び表2、並びに、構成1の熟成過程を経たチボロン錠剤の、25℃及び相対湿度60%における貯蔵安定性:実施例6及び表3)から、構成1の熟成過程を経た場合が熟成過程を経ていない場合より、OM38含量の増加率がより低いことを確認することができるので、「構成1の熟成過程を経た高純度組成物に対し、45℃で1ヶ月間ストレステストを行って生成されるOM38含量の増加量は、構成1の構成過程を経ずに生成された従来技術のチボロンに比べ、45℃で1ヶ月間ストレステストを行って生成されるOM38含量の増加量、すなわち、0.4%より少ない」ことが分かる、と主張した。
しかし、特許法院は、(a)実施例5に、構成1の熟成過程を経ていないチボロンを活性化合物として用い錠剤を製造したという明確な記載が存在せず、(b)実施例5の結果を、構成1の熟成過程を経ていないチボロンを活性化合物として用い錠剤を製造したとみなしても、実施例5の表2及び実施例6の表3は、水分の含量の表示有無で差異が生じ、(c)実施例5及び6は、45℃ではなく25℃で、組成物ではなく錠剤を対象とした実験であり、高温においてチボロンはOM38より一層変化され、錠剤には組成物の外にラクトースや芋澱粉などが含まれているため水分の含量が少ない可能性があり、これにより、貯蔵安定性において組成物と差異が生じることもある、という理由をもって、原告が主張する「構成1の熟成過程を経た高純度組成物に対し、45℃で1ヶ月間ストレステストを行って生成されるOM38含量の増加量は、構成1の構成過程を経ずに生成された従来技術のチボロンに比べ、45℃で1ヶ月間ストレステストを行って生成されるOM38含量の増加量、すなわち、0.4%より少ない」ということについて、明確にされているとは認められない、と判示した。
さらに、原告は、実施例1の初期のOM38含量が0.6%であるのに対し、実施例2及び3では、初期のOM38含量が各々0.1%以下(実施例2)及び0.2%(実施例3)となっていて、また、表3の結果から、初期のOM38含量が少ない場合OM38の貯蔵増加量が少ないことが分かるので、当業者が、実施例2及び3の組成物を45℃で1ヶ月間ストレステストを行う際に、OM38含量の増加量が、これより高い初期の含量を持つ実施例1の組成物のOM38含量の増加量(0.4%)よりは少ないということが分かると主張したが、特許法院は、上記(c)の理由をもって原告の主張を排斥した。
(5) また、原告は、構成1の熟成過程を経て製造した高純度組成物は構成2及び構成3を満足するということを記載した参考資料を提出し、これを考慮すれば、容易に実施できる程度に記載されているとみなせると主張した。
しかし、特許法院は、「出願日以後に提出された実験データにより、発明の目的や構成及び効果を主張、又、立証することができるのは、いわゆる選択発明において、該発明が先行発明に比べて質的に異なる効果を有することや、もし質的に差異が無くても量的に顕著な差異を有することについて、明細書に明確に記載されているため記載不備の事項はないが、その発明の効果が先行発明の効果に比べて顕著であるか否かが疑わしい場合などにおいて、例外として認められることである(大法院判決2003年4月25日付宣告2001후2740を参照)。この事件のように、明細書に一つの発明の構成のうち、一部の構成に関わる記載がないことで記載不備となった発明にまでも適用される事項ではないので、原告の上記の主張は、更に検討する必要もなく、受け入れられない。」と判示した。
(6) 結論として、旧特許法第42条第3項の要件を満たしていないとした原審審決の判断を支持し、原告の請求を棄却した。
参考(特許法院判決 2010年2月5日付宣告2008허12678【拒絶決定(特)】より抜粋 ):
1. 이 사건 출원발명이 구 특허법 제42조 제3항의 요건을 충족하지 못하는지 여부
가. 법리
구 특허법 제42조 제3항은 발명의 상세한 설명에는 통상의 기술자가 용이하게 실시할 수 있을 정도로 그 발명의 목적․구성 및 효과를 기재하여야 한다고 규정하고 있는바, 그 뜻은 특허출원된 발명의 내용을 제3자가 명세서만으로 쉽게 알 수 있도록 공개하여 특허권으로 보호받고자 하는 기술적 내용과 범위를 명확하게 하기 위한 것이므로 통상의 기술자가 당해 발명을 명세서 기재에 의하여 출원시의 기술수준으로 보아 특수한 지식을 부가하지 않고서도 정확하게 이해할 수 있고 동시에 재현할 수 있는 정도를 말하는 것이다(대법원 2005. 11.25. 선고 2004후3362 판결, 2006. 11. 24. 선고 2003후2089 판결 등 참조).
(日本語訳「1. この事件の出願発明が旧特許法第42条第3項の要件を満たしているかどうかについて
イ. 法理
旧特許法第42条第3項では、発明の詳細な説明には、通常の技術者が容易に実施することができる程、その発明の目的や構成及び効果を記載すべきであると定められている。これは、特許出願された発明について第3者が明細書だけを参考にしその内容を容易に把握することができるように発明を公開し、特許権による保護を求める技術的な内容と範囲を明確にするための規定であり、通常の技術者が、当該発明を明細書の記載に基づいて、出願時の技術水準に比べ特殊な知識を加えずに正確に理解し、かつ再現することができる程度まで記載するように求めるのである(大法院判決2005年11月25日付宣告2004후3362、大法院判決2006年11月24日付宣告2003후2089などを参照)。」)
【留意事項】
(1) 本件の第8項に係る出願発明の構成3は、審査段階において、新規性の拒絶理由を解消するための拒絶査定不服審判の請求段階で導入されたものである。当該補正は、要旨変更の理由で補正却下されたが、特許審判院では、要旨変更ではないという理由で補正却下の決定を取消す審決を行った。要旨変更ではないという判断は、構成3が、出願当時に提出された明細書又は図面に記載された事項の範囲内であるということに基づいており、そうすると、構成3は、出願当時に提出された明細書又は図面に、当業者が明確に把握できる程度に記載されていたとみなすことができる。構成3と直接対応される明細書の記載が存在しない本件事案において、上記のような構成3の追加は、明細書の記載不備として取り扱うよりも、出願当時に提出された明細書又は図面に記載された事項の範囲を逸脱するので要旨変更として判断した方が、より合理的であると考えられる。
(2) パラメータ限定発明において、パラメータの測定条件だけでは、 発明の目的を達成することができない事情がある場合、発明の目的を達成するための他の測定条件の記載がなければ、明細書の記載不備とみなされる恐れがあるので、発明の目的達成に係るパラメータの測定条件は、明細書上に詳細に記載する必要がある。
また、新規性や進歩性の拒絶理由に対応するため、請求項を補正する場合、請求項に新規追加された構成を含む発明がその実施例に記載されていなければならない。上記の実施例が記載されていない場合、進歩性の拒絶理由を解消することはできるが、明細書の記載不備が問題として指摘される可能性に留意しなければならない。
(3) 本件の特許法院判決は、「選択発明において、該発明が先行発明に比べて質的に異なる効果を有することや、もし質的に差異が無くても量的に顕著な差異を有することについて、明細書に明確に記載されている…が、その発明の効果が先行発明の効果と比べて顕著であるか否かが疑わしい場合」などの例外的な場合を除いて、出願当初の明細書に記載しなかった効果を出願後に提出された実験データを基にして立証することは受け入れられない旨を判示している。よって、パラメータ、若しくは数値で限定された構成を有する場合は、当該限定により発現される技術的な効果を出願当初の明細書に明確に記載する必要がある。
(韓国)医薬用途発明について、薬理データに関する明細書の記載要件及び発明の進歩性を判断した事例
【詳細】
(1) 発明の名称を「ホルモテロール、及びブデソニドの新規配合物」とする本件事件の出願発明は、喘息などの呼吸器疾患の治療のため気管支拡張剤をステロイド係の消炎剤と併用すること、及びこれらの二つの活性成分を含有する製薬組成物に関するものである。その請求項第8項は、「吸入投与用の配合製剤として、(ⅰ)ホルモテロール、又はその生理学的に許容できる塩、若しくはその塩の溶媒和物;又はホルモテロールの溶媒和物;及び(ⅱ)ブデソニドが、個別的又は一緒に、含まれる呼吸器疾患治療用の薬剤」(以下、「本件事件の第8項発明」という)を請求する。医薬用途発明であるといえる本件事件の第8項発明における発明の詳細な説明において、その薬理効果に関連し、「本発明は、ホルモテロール{及び(又は)その生理学的に許容できる塩及び(若しくは)溶媒和物}、並びにブデソニドを、吸入により、同時・順次又は個別的に、投与する新規併用治療の概念を基にする。このような併用は、効能を増加させ気管支拡張を持続させることだけでなく、作用を迅速に開始させる」と記載されているだけであった。
(2) これに対して、原審の特許法院は、薬理効果に関して、「本件事件の出願発明の明細書の記載だけでは、本件事件の出願発明の混合組成物が呼吸器疾患治療と関連して相加効果があるか、相乗効果があるかについて分かることができない。また、仮にそれが相乗効果を有するとの意味に解釈できるとしても、各組成物をいかなる量で使用すればいかなる程度の相乗的な薬理効果が得られるかを確認できる定量的記載であると見ることはできない。したがって、本件事件の出願発明の詳細な説明は、この技術分野における通常の知識を有する者が出願当時の技術水準から見て、特別な知識を付加せずにそのような薬理効果があることを明確に理解し、これを反復再現できるように記載されたと見做せないため、特許法第42条第3項に違反した」という趣旨の判示をした。
しかし、上記の原審判決の薬理効果に関連する判断について、本件の大法院判決は、その判断を異にする。その根本的な理由は、本件事件の出願発明をその優先日以前に薬理メカニズムが解明された場合であると解釈したためである。本件の大法院判決が提示した医薬用途発明の記載要件に関する、「特に薬理効果の記載が要求される医薬の用途発明においては、その出願前に明細書記載の薬理効果の薬理メカニズムが明確に解明された場合のような特別な事情のない限り、特定物質にそのような薬理効果があることを薬理データなどが示された試験例により記載するか、又はこれに代替できる程度まで具体的に記載してこそ、初めて発明が完成されたと見做せるとともに、明細書の記載要件を充足したと見做すことができる」との法理によると、その優先日前に医薬用途発明の薬理メカニズムが解明されたと見做す場合には、薬理試験データによる薬理効果の実証的記載が必須ではない。
本件の大法院判決は、本件事件の出願発明を「β2-効能剤であるホルモテロールと消炎剤であるブデソニドの混合物を気管支拡張作用と消炎作用という薬理活性に基づき、呼吸器疾患治療用に使用するための用途発明である」と見做した。そして、本件事件の出願発明の優先権主張日以前に頒布された刊行物1~3の記載を検討し、「刊行物1には、β2-効能剤の一つであるサルブタモールと消炎剤の一つであるBDPの複合製剤が公知されている。そのため、本件事件の出願発明の優先日以前に、本件事件の出願発明の属する技術分野において、β2-効能剤と消炎剤の複合療法が気管支拡張作用と消炎作用の薬理活性により、喘息などの呼吸器疾患治療の用途として使用されたことは既に知られていた。更に、刊行物1には本件事件の出願発明の第1活性成分であるホルモテロールがβ2-効能剤の例示として、本件事件の出願発明の第2活性成分であるブデソニドが消炎剤のステロイドの例示であり、各々記載されているので、本件事件の出願発明は、その優先日以前に薬理メカニズムが解明されたと見做すことが相当である。」と判断した。
したがって、原審判決がその明細書上に薬理効果に関する薬理試験データを要求したことに対して、本件の大法院判決は、「上記の法理に照らしてみると、本件事件の出願発明は、当該技術分野における通常の知識を有する者の反復再現性のために、客観的な薬理データ又はこれと代替できる程度までの具体的な記載を必要としない発明である」と認めた上で、「記録によると、本件事件の出願発明は、詳細な説明において、本件事件の出願発明の構成により達成される特有の効果、有効量、投与方法、及び製剤化に関する事項を記載しているので、本件事件の出願発明の詳細な説明は、明細書の記載要件に違反したといえない」として、薬理効果に関する記載に誤りがないと判断した。
(3) ただ、薬理メカニズムが公知された医薬発明の場合には、事実上その技術的概念が既に知られていることになり、新規性ないし進歩性の観点からは特許を受けることが非常に難しくなる。本件事案においても同様の結論がなされた。
この点につき、原審判決理由は、「本件事件の第8項発明は、刊行物1、2に記載された発明と発明の目的において共通点があり、構成の困難性がないことはもちろん、効果も顕著であるといえないので、当該技術分野における通常の知識を有する者が、上記の刊行物に記載された発明から本件事件第8項を容易に発明することができる」と判断した。
本件事件の第8項発明は、刊行物1などの先行文献に比べてその成分を具体的に選択し組み合わせた選択発明に該当すると見做せるところ、本件の大法院判決は、選択発明の効果に関する法理を提示し、選択発明の進歩性判断において効果の顕著性をもって本件事案を検討し、「記録と上述の法理によると・・・刊行物1、2において、ホルモテロールが含むβ2-効能剤とブデソニドが含まれた消炎剤を併用する複合製剤に関する技術内容が開示されている。本件事件の第8項発明は、その請求範囲においてホルモテロールとブデソニドの配合比を特定数値により限定もされていないので、本件事件の第8項発明は、その予想可能な全ての配合比において、上記の刊行物に記載された発明より顕著な効果がなければ特許を受けることができないにもかかわらず、 原告が提出した証拠だけによっては、刊行物1に記載された発明に比べて本件事件の第8項発明が、いかなる程度の顕著な効果があるかについて分かることができない。さらに、本件事件の第8項発明が、その明細書において本件事件の出願発明の好ましいホルモテロール:ブデソニドの配合比として記載したもの(1:4ないし1:70)以外の他の全ての配合比においても、顕著な効果の認定、または追認することができる資料もない」ので、その進歩性が認められないという趣旨の判断をし、「原審が上記のとおり認定、判断したことは正当である」とした。
その結果、特許を受けることができないという原審の結論も正当であるとして、上告を棄却した。
参考(大法院判決2003年10月10日付宣告2002후2846【拒絶査定(特)】より抜粋):
1. 상고이유 제1점에 대하여
가. 특허출원서에 첨부하는 명세서에 기재될 ‘발명의 상세한 설명’에는 그 발명이 속하는 기술분야에서 통상의 지식을 가진 자가 당해 발명을 명세서 기재에 의하여 출원시의 기술 수준으로 보아 특수한 지식을 부가하지 않고서도 정확하게 이해할 수 있고 동시에 재현할 수 있도록 그 목적·구성·작용 및 효과를 기재하여야 하고, 특히 약리효과의 기재가 요구되는 의약의 용도발명에 있어서는 그 출원 전에 명세서 기재의 약리효과를 나타내는 약리기전이 명확히 밝혀진 경우와 같은 특별한 사정이 있지 않은 이상 특정 물질에 그와 같은 약리효과가 있다는 것을 약리데이터 등이 나타난 시험예로 기재하거나 또는 이에 대신할 수 있을 정도로 구체적으로 기재하여야만 비로소 발명이 완성되었다고 볼 수 있는 동시에 명세서의 기재요건을 충족하였다고 볼 수 있다(대법원 2001. 11. 13. 선고 99후2396 판결, 2001. 11. 30. 선고 2001후65 판결 등 참조).
2. 상고이유 제2점에 대하여
가. 선행 또는 공지의 발명에 구성요건이 상위개념으로 기재되어 있고 위 상위개념에 포함되는 하위개념만을 구성요건 중의 전부 또는 일부로 하는 이른바 선택 발명은, 첫째, 선행발명이 선택발명을 구성하는 하위개념을 구체적으로 개시하지 않고 있으면서, 둘째, 선택발명에 포함되는 하위개념들 모두가 선행발명이 갖는 효과와 질적으로 다른 효과가 있거나, 질적인 차이가 없더라도 양적으로 현저한 차이가 있는 경우에 한하여 특허를 받을 수 있고, 이때 선택발명의 상세한 설명에는 선행발명에 비하여 위와 같은 효과가 있음을 명확히 기재하면 충분하고, 그 효과의 현저함을 구체적으로 확인할 수 있는 비교실험자료까지 기재하여야 하는 것은 아니며, 만일 그 효과가 의심스러울 때에는 출원일 이후에 출원인이 구체적인 비교실험자료를 제출하는 등의 방법에 의하여 그 효과를 구체적으로 주장·입증하면 된다(대법원 2003. 4. 25. 선고 2001후2740 판결 참조).
(日本語訳「1. 上告理由第1点に関して
イ.特許出願書に添付する明細書に記載の「発明の詳細な説明」には、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が、当該発明を明細書の記載により、出願時の技術水準から見て特殊な知識を付加しなくても、正確な理解と再現ができるように、その目的·構成·作用及び効果を記載しなければならない。特に薬理効果の記載が要求される医薬の用途発明においては、その出願前に明細書記載の薬理効果の薬理メカニズムが明確に解明された場合のような特別な事情のない限り、特定物質にそのような薬理効果があることを薬理データなどが示された試験例により記載するか、又はこれに代替できる程度まで具体的に記載してこそ、初めて発明が完成されたと見做せるとともに、明細書の記載要件を充足した、と見做すことができる(大法院判決2001年11月13日付宣告99후2396、2001年11月30日付宣告2001후65など参照)。
2.上告理由第2点に関して
イ.先行又は公知の発明において構成要件が上位概念として記載されていて、前記上位概念に含まれる下位概念だけを構成要件の全部又は一部とする、いわゆる選択発明は、第一に、先行発明が選択発明を構成する下位概念を具体的に開示していておらず、第二に、選択発明に含まれる下位概念の全てが先行発明の有する効果と質的に異なる効果を奏しているか、質的な差がなくても量的に顕著な差がある場合に限って特許を受けることができ、この際、選択発明の詳細な説明には先行発明に比べて上記のような効果を奏していることを明確に記載すれば充分であり、その効果の顕著さを具体的に確認できる比較実験資料まで記載すべきということではなく、もしその効果が疑わしい場合には出願日以後に出願人が具体的な比較実験資料を提出するなどの方法によりその効果を具体的に主張·立証すれば足りる(大法院判決2003年4月25日付宣告2001후2740参照)。」)
【留意事項】
薬理効果の記載が要求される医薬の用途発明においては、原則的に対象の特定物質にそのような薬理効果があることを薬理データなどを示した試験例として記載するか、又はこれに代替できる程度まで具体的に記載して初めて発明が完成されたと見做せるとともに、明細書の記載要件を充足したと見做せるという法理が確立されている。上記の法理の例外的事項として、その出願前に、明細書に記載の薬理効果を示す薬理メカニズムが明確に解明された場合のような特別な事情が例示されている。実務において、薬理効果を示す薬理メカニズムが明確に解明されたと認められる場合には、その技術的概念が事実上公知されていて、新規性と進歩性の観点から特許を受けることは非常に難しくなる。
本件事案も併用投与療法に特徴がある医薬用途発明において、二つの機能(β2-効能剤と消炎剤)を有する成分の併用投与による気管支治療の薬理メカニズムが公知されていて、その具体的な成分がその優先日前の刊行物に開示されていたので、優先日前にこの発明の薬理メカニズムが解明された場合であると認められたが、その薬理メカニズムを解明した刊行物に記載された先行技術により進歩性が否定された。
事実上、薬理メカニズムが出願前に解明された通常の医薬用途発明は、それ自体の構成だけでは特許性を得ることが難しいといえる。医薬用途の範疇に属するが、その有効成分を結晶型や異性体などにすることによって新たな相乗効果が得られた場合や、製剤形態を変えて製剤化による付随的な効果を得る発明のような形態にすれば、新規性・進歩性が認められる可能性は高くなると考えられる。
(韓国)植物関連発明において明細書の記載要件に関する再現性を厳格に適用した事例
【詳細】
(1) 本件出願発明は、「果汁の糖度が13.4~14.5°であり、果形が円形であり、樹勢が直立性であり、果皮が鮮紅色(PANTONE色度指数12-0714に該当)であり、隔年結果性がなくて、平均化数が8~9個であり、花の大きさは中位であり、芽接ぎ又は椄木によって無性繁殖可能な新高由来の梨新品種に属する植物」に関するものである。
本件において大法院は、記載要件に関して、次のように判示している。
特許法第42条第2項は、「特許出願書には、『1.発明の名称、2.図面の簡単な説明、3.発明の詳細な説明、4.特許請求の範囲』を記載した明細書及び必要な図面を添付しなければならない。」と規定し、その第3項は、「第2項第3号の発明の詳細な説明にはその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できる程度までその発明の目的、構成、作用及び効果を記載しなければならない。」と規定しているところ、これはその出願に関する発明の属する技術分野における通常程度の技術的理解力を有する者、すなわち平均的技術者が当該発明を明細書記載に基づいて出願時の技術水準から特殊な知識を付加しなくてもその発明を正確に理解できると同時に再現できる程度の説明が必要である。
(2) 本件において大法院は、原審判決理由を検討し、「梨新品種に属する植物の出願発明を実施するためには、必ずこの事件の出願発明と同じ特徴を有する突然変異が起こった梨の木がなければならず、その後その梨の木の枝又は梨の木の芽を用いて芽接により育種することでその目的を達成することができるが、出願発明の明細書にはその始めとなった梨の木と同じ特徴を有する梨の木の枝を突然変異させる過程に関する記載がなく、また自然状態でそのような突然変異が生じる可能性が極めて稀であることは自明であるので、その次の過程である芽接による育種過程が容易に実施できるとしても、出願発明全体は、その技術分野における通常の知識を有する者が容易に再現できる程度まで記載されたと言えなく、結局出願発明はその明細書の記載不備により特許法第42条第3項によって特許を受けることができない」とした原審判決は正当であると判断し、上告を棄却した。
(3) なお、本件において大法院は、「出願発明の明細書にはその技術分野の平均的技術者が出願発明の結果物を再現できるようにその過程が記載されなければならず、植物発明であってもその結果物である植物又は植物素材を寄託することにより明細書の記載を補充又は代替することはできない」と判断しているが、この判断は、下記の【留意事項】に記載するように現時点の実務及び審査基準とは合わない。
参考(大法院判決 1997年7月25日付宣告96후2531【拒絶査定(特)】より抜粋):
1. 특허법 제42조 제2항은 “특허출원서에는 ‘1. 발명의 명칭, 2. 도면의 간단한 설명, 3. 발명의 상세한 설명, 4. 특허청구의 범위’를 기재한 명세서 및 필요한 도면을 첨부하여야 한다.”고 규정하고 있고, 그 제3항은 ” 제2항 제3호의 발명의 상세한 설명에는 그 발명이 속하는 기술분야에서 통상의 지식을 가진 자가 용이하게 실시할 수 있을 정도로 그 발명의 목적, 구성, 작용 및 효과를 기재하여야 한다.”고 규정하고 있는바, 이는 그 출원에 관한 발명이 속하는 기술분야에서 보통 정도의 기술적 이해력을 가진 자, 즉 평균적 기술자가 당해 발명을 명세서 기재에 기하여 출원시의 기술수준으로 보아 특수한 지식을 부가하지 않고서도 그 발명을 정확하게 이해할 수 있고 동시에 재현할 수 있는 정도의 설명이 필요하다 고 할 것이다(대법원 1996. 1. 26. 선고 94후1459 판결 참조).
2. 원심심결 이유를 기록과 관련 법규에 비추어 살펴보면, 원심이, 배 신품종에 속하는 식물에 관한 이 사건 출원발명을 실시하기 위하여는 반드시 이 사건 출원발명에서와 같은 특징을 가진 돌연변이가 일어난 배나무가 있어야 하고 그 다음 그 배나무 가지 또는 배나무의 눈을 이용하여 아접에 의하여 육종함으로써 그 목적을 달성할 수 있는 것인바, 이 사건 출원발명의 명세서에는 그 출발이 된 배나무와 같은 특징을 가지고 있는 배나무 가지를 돌연변이시키는 과정에 대한 기재가 없고, 또 자연상태에서 그러한 돌연변이가 생길 가능성이 극히 희박하다는 점은 자명하므로, 그 다음의 과정인 아접에 의한 육종과정이 용이하게 실시할 수 있다고 하더라도 이 사건 출원발명 전체는 그 기술분야에서 통상의 지식을 가진 자가 용이하게 재현할 수 있을 정도로 기재되었다고 할 수 없어 결국 이 사건 출원발명은 그 명세서의 기재불비로 인하여 특허법 제42조 제3항에 의하여 특허받을 수 없다 고 한 조치는 정당하고, 거기에 상고이유로 지적하는 법리오해나 심리미진 등의 위법이 없다.
3. 출원발명의 명세서에는 그 기술분야의 평균적 기술자가 출원발명의 결과물을 재현할 수 있도록 그 과정이 기재되어 있어야 하는 것이고, 식물발명이라 하여 그 결과물인 식물 또는 식물소재를 기탁함으로써 명세서의 기재를 보충하거나 그것에 대체할 수도 없는 것이다. 상고이유의 주장은 이유 없다.
(日本語訳「1. 特許法第42条第2項は、「特許出願書には、『1.発明の名称、2.図面の簡単な説明、3.発明の詳細な説明、4.特許請求の範囲』を記載した明細書及び必要な図面を添付しなければならない。」と規定し、その第3項は、「第2項第3号の発明の詳細な説明にはその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できる程度までその発明の目的、構成、作用及び効果を記載しなければならない。」と規定しているところ、これは、その出願に関する発明の属する技術分野における通常程度の技術的理解力を有する者、すなわち平均的技術者が当該発明を明細書記載に基づいて出願時の技術水準から特殊な知識を付加しなくてもその発明を正確に理解できると同時に再現できるまでの説明が必要であるといえる(大法院判決1996年1月26日付宣告94후1459参照)。
2. 原審審決理由を記録及び関連法規に照らして検討すると、原審において、梨新品種に属する植物の出願発明を実施するためには、必ずこの事件の出願発明と同じ特徴を有する突然変異が起こった梨の木がなければならず、その後その梨の木の枝又は梨の木の芽を用いて芽接により育種することでその目的を達成することができるが、この事件の出願発明の明細書にはその始めとなった梨の木と同じ特徴を有する梨の木の枝を突然変異させる過程に関する記載がなく、また自然状態でそのような突然変異が生じる可能性が極めて稀であることは自明であるので、その次の過程である芽接による育種過程が容易に実施できるとしても、この事件の出願発明全体はその技術分野における通常の知識を有する者が容易に再現できる程度まで記載されたと言えなく、結局この事件の出願発明はその明細書の記載不備により特許法第42条第3項によって特許を受けることができない、とした措置は正当であり、更に上告理由として指摘する法理誤解や審理未尽などの違法はない。
3. 出願発明の明細書にはその技術分野の平均的技術者が出願発明の結果物を再現できるようにその過程が記載されなければならず、植物発明であってもその結果物である植物又は植物素材を寄託することにより明細書の記載を補充又は代替することはできない。上告理由の主張は理由がない。」)
【留意事項】
この判決は、植物発明に関して特許法第42条第2項で規定している当業者の容易実施に関する明細書の記載要件を明確にした点でその意味がある。植物発明において容易実施は、その発明を正確に理解することができることと同時に再現できる程度の説明を要求していて、再現の意味は当業者が同一の育種素材を用いて同一の育種過程を繰返しすると確実に同一の変種植物を再現させることができるという意味で、このような反復再現性を有するためには必ず、最初段階として本件出願発明と同じ特徴を有する突然変異が起こった変種植物を得ることができなければならず、その後の段階としてその変異を固定・選抜し後代まで伝達する過程の全てが可能でなければならないことを意味する。
本件事案においては、植物に関する本件出願発明を実施するためには、必ず本件出願発明と同じ特徴を有する突然変異が起こった梨の木がなければならないが、梨の木を突然変異させる過程の記載があったとしても、自然状態でその突然変異が生じる可能性が極めて稀であるため、その後の過程である芽接による育種過程が容易に実施できるとしても、本件出願発明全体は、その技術分野における通常の知識を有する者が容易に再現できる程度まで記載されたとは言えず、反復再現性を支えるためには突然変異が起こった梨の木の寄託が必須的であるが、本件事案において大法院は、植物の寄託による反復再現性を認めなかった。また、本件出願発明の出願時には、植物の寄託に関連する特許庁の審査基準がなく、植物発明の反復再現性に関する記載要件を満たす方案が不明確であった。
そして、特許庁は、2006年に種子寄託制度を反映した「植物関連発明の審査基準」を設けて施行することにより、詳細な説明で発明の反復再現ができるように記載することが困難な植物関連発明の場合にも、微生物寄託制度のように種子を寄託することで発明の再現性を備えることができるようにした。すなわち、2006年に導入された植物関連発明の審査基準では、植物関連発明において反復再現性の要件を補完できる一つの手段として対象発明の両親植物又は植物体の種子などを公認寄託機関に寄託する種子寄託制度関連規定及び種子寄託の要件を詳細に明示した。
(韓国)化学物質発明の明細書の記載要件及び結晶形発明の進歩性の判断基準に関して判示した事例
【詳細】
(1) 韓国特許実務においては、新規化合物発明の場合、出願当時の技術水準から見て通常の技術者が明細書の記載内容により化学物質の生成を充分に予測できる場合でない限り、当該化合物が確認できる程度までその確認資料を要求する。すなわち新規化合物及び構造不明の化合物について、原則的に元素分析値、融点、沸点、屈折率、紫外線又は赤外線スペクトラム、粘度、核磁気共鳴値、結晶形又は色相など容易に確認できる一つ以上の数値及びその他の事項が表記されていることを要求する。
当該事件の第10項発明は、タキソテール三水化物という新規化合物を請求し、原審特許審判院審決は、当該事件の特許発明の詳細な説明には当該事件の第1項ないし第9項発明に対応する遠心分離分配クロマトグラフィーを用いてタキソテール及び10-デアセチルバッカチンⅢを精製する方法だけを詳しく記載し、‘タキソテールの精製’というタイトルの実施例1及び2に精製過程を経て最終生成物としてタキソテールトリヒドレートを得たという記載があるだけで、その生成を確認できるデータ(確認資料)や物理、化学的性質に対する記載及び用途、効果に対する記載が全くなく、当該事件の第10項発明であるタキソテール三水化物は出願当時の技術水準から見て通常の技術者が明細書の記載内容により化学物質の生成を充分に予測できる場合に該当しないため、その明細書にXRDデータ、IRデータ、NMRデータなどの確認資料が記載されなければならない場合に該当するといえ、当該事件の出願発明の明細書にはタキソテール三水化物に関する確認資料がまったく記載されていないので化合物に関する明細書記載要件を満足するといえないと判断した。
(2) それに対し、本件の特許法院判決は、「化学物質に関する発明は、他の分野の発明と異なり、直接的に実験と確認、分析を介さずには発明の実態を把握することが難しく、化学分野の化学理論及び常識では当然誘導されると思われる化学反応が、実際には予想外の反応に進む場合が多いので、化学物質の存在が確認されるためには単に化学構造が明細書に記載されていることでは足りず、出願当時の明細書においてその技術分野で通常の知識を有した者が容易に再現と実施できる程度まで具体的な製造方法が記載されなければならない。又、化学物質の製造工程が特に複雑であるか有力な副反応を随伴するなどの理由で、特許出願当時技術水準から見て製造方法に関する記載だけでは通常の技術者にその化学物質が製造されたか否かが疑わしい場合は、核磁気共鳴(NMR)データ、融点、沸点などの確認資料が記載されるべきであり」と述べて、特許実務を支持する立場の一般論を判示する一方で、「そうでない場合は、これらの確認資料が必須的に記載されるものではないといえる」とも判示した。
その上で、本件事案については、当該事件の特許発明の明細書にその製造方法が明確に提示されているし、その具体的な実施例1、2にはその精製条件をより詳しく記載していて、さらに当該事件の第10項発明の三水化物生成の過程は新たな証拠により判断したところ、「過程全般がこの技術分野の通常の技術者にとって化学的に反応自体が不可能でその生成が疑わしい場合であるとはいえず、当該事件の第10項発明は、製造工程が特に複雑であるか有力な副反応を随伴するなど出願当時の技術水準から見て製造方法に関する記載だけでは通常の技術者にその化学物質が製造されたか否かが疑わしくて確認資料の記載が必須的であるとする事情がない」ので、「確認資料の記載がないという理由で当該事件の第10項発明が記載不備であるとはいえない」と判示し、原審審決の判断に誤りがあるとした。
(3) ただ、それに続いて、本件の特許法院判決は、当該事件第10項発明のタキソテール三水化物発明が比較対象発明1あるいは比較対象発明2により結晶性化合物としての進歩性が否定されると判断した。
すなわち、本件特許法院判決は、「当該事件の第10項発明の優先権主張日である1993年当時、既に同一化合物が様々な結晶形態を有することができ、その結晶形態によって、溶解度、安定性などの薬剤学的特性が異なり得ることが、医薬化合物の技術分野で広く知られていて、医薬化合物の製剤設計のため、その結晶多形の存在を検討するのは通常行われていたことであるといえる。したがって、通常の技術者は、比較対象発明1にその無水物が公知されていて、比較対象発明2にメタノールと水との溶媒化物が公知されたタキソテールに対して、これらの方法を組み合わせて試してみることにより水化物形態の化合物を得て、これをカールフィッシャー法、熱重量分析法、XRD(X線回折分析法)又はNMR(核磁気共鳴法)など公知手段で分析し、三水化物であることを確認し、当該事件の第10項発明の構成を容易に導出することができるといえる」として、その構成の困難性を認めることなく、また、「当該事件の第10項発明は、CPCという精製手段を使用する過程で三水化物を得るものであるが、この方法は、結晶形と関連した証拠資料の内容及び証人ソン·ヨンテクの証言などに基づいて察するに、水化物や結晶形を製造するために通常的に使用する方法であるとは見えないため、当該事件の第10項発明は、三水化物を得る手段においては特徴的な部分があることが認められる。しかし、当該事件の第10項発明は、製造方法の発明ではなく、物の発明であるから、製造方法上特徴があることだけでは物の発明の進歩性を認めるには十分ではなく、……当該事件の第10項発明のタキソテール三水化物は、水化物製造で通常的に使用される方法によっては製造が不可能であったが、CPCという特殊な方法を採択することにより初めて製造が可能となったという特殊な事情があると見ることはできず、上記のような方法上の特徴により構成の困難性があるとはいえない」と判断した。
さらに、「当該事件の第10項発明の明細書には、タキソテールの製造過程中に生じる不純物を精製しようとしてCPCを行ったら、純度99.1%ないし99.7%のタキソテール三水化物が80.5%ないし87.7%の収率で得られたという内容だけが記載されている。これは、従来の製造方法の問題点として指摘されていた主要不純物の含量が減少し、最終物質の純度が高くなり、同時に希望する目的物質の収率を高めたことを示す資料であって、製造方法の変化による効果であるにすぎないから、最終物質の三水化物が比較対象発明の化合物に比べて有する特有の効果であるといえない。したがって、当該事件の第10項発明の明細書には、当該事件の第10項発明が比較対象発明の化合物に比べて質的又は量的に顕著な効果があるかに関する記載がなく、その効果を認められないので、進歩性が否定される。… 仮に後に提出した資料の参酌ができたとしても、甲第17号証は、具体的な実験条件が記載されていないことなど、その内容が不十分で信頼し難く、甲第23号証及び甲第35号証に記載された効果は、通常の技術者が予測できる範囲内と考えられる。」と判断した。
(4) 結局、「当該事件の第10項発明は、明細書の記載要件を充足しているが、進歩性を有しない発明であるので、その特許が無効とされるべきである。当該事件の審決は、明細書記載要件を充足しなかったと判断した誤りがあるが、結論においては適法であり」として、原告の請求を棄却した。
参考(特許法院判決2011年10月12日付宣告2010허4168【登録無効(特)】より抜粋):
3. 명세서 기재요건 충족 여부
가. 판단기준
화학물질에 관한 발명은 다른 분야의 발명과는 달리 직접적인 실험과 확인, 분석을 통하지 않고서는 발명의 실체를 파악하기 어렵고, 화학분야의 화학이론 및 상식으로는 당연히 유도될 것으로 보이는 화학반응이 실제로는 예상외의 반응으로 진행되는 경우가 많은 것이므로, 화학물질의 존재가 확인되기 위해서는 단순히 화학구조가 명세서에 기재되어 있는 것으로는 부족하고 출원 당시의 명세서에 그 기술분야에서 통상의 지식을 가진 자가 용이하게 재현하여 실시할 수 있을 정도로 구체적인 제조방법이 기재되어 있어야 하며, 화학물질의 제조공정이 특히 복잡하다거나 유력한 부반응을 수반하는 등의 이유로 특허 출원 당시의 기술수준으로 보아 제조방법에 관한 기재만으로는 통상의 기술자에게 그 화학물질이 제조되었는지 여부가 의심스러운 경우에는 핵자기공명(NMR) 데이터, 융점, 비점 등의 확인자료가 기재되어야 할 것이고, 그렇지 아니한 경우에는 이들 확인자료가 필수적으로 기재되어야 하는 것은 아니라 할 것이다(특허법원 2002. 9. 12. 선고 2001허5213 판결, 특허법원 2009. 7. 17. 선고 2008허4585 판결 참조).
(日本語訳「3.明細書記載要件の充足有無
イ.判断基準
化学物質に関する発明は、他の分野の発明と異なり、直接的に実験と確認、分析を介さずには発明の実態を把握することが難しく、化学分野の化学理論及び常識では当然誘導されると思われる化学反応が、実際には予想外の反応に進む場合が多いので、化学物質の存在が確認されるためには単に化学構造が明細書に記載されていることでは足りず、出願当時の明細書においてその技術分野で通常の知識を有した者が容易に再現と実施できる程度まで具体的な製造方法が記載されなければならない。又、化学物質の製造工程が特に複雑であるか有力な副反応を随伴するなどの理由で、特許出願当時技術水準から見て製造方法に関する記載だけでは通常の技術者にその化学物質が製造されたか否かが疑わしい場合は、核磁気共鳴(NMR)データ、融点、沸点などの確認資料が記載されるべきであり、そうでない場合は、これらの確認資料が必須的に記載されるものではないといえる(特許法院判決 2002年9月12日付宣告2001허5213、特許法院判決 2009年7月17日付宣告2008허4585参照)。」)
【留意事項】
化学物質発明(結晶形発明、塩発明、異性体発明などを含む)において、その生成を確認できる確認資料の記載が必須的であるという特許庁の一般的基準は、特許法院設立以後、その化合物の生成が極めて疑わしい場合に限って確認資料の記載が必要であると緩和されたが、実務的には今まで厳しく運用されているので明細書の作成時に注意を要する。
本件事案において、特許審判院の審決は、当該事件の特許の三水化物が初めて提示された化合物であり、従来このような三水化物を製造することが難しいという認定により、このような場合その三水化物の生成が極めて疑わしいことになるので、確認資料の記載が必要であると見て、厳しい特許審査実務の立場を支持した(進歩性に対する判断は留保された)。
しかし、特許法院の段階で新たな証拠が現れ、これにより当該事件の三水化物の生成が極めて疑わしい場合であると見えないため、確認資料の記載が必須的ではないという判断を導いたが、このような立証及び主張は、却って通常の技術者が医薬化合物の製剤設計のため結晶多形の存在を検討するのが通常行われていることであるという一般的な技術常識を提供することとなり、これによって当該事件の三水化物の結晶を得ることが進歩性の面ではその特許性が否定され得ることを示唆する。
結晶形発明に対する特許性判断基準は非常に厳しく運用されているのが実務であり、その効果の認定範囲も明細書に記載されているか又は当然推論されることに限定されなければならないという立場で非常に限定的である。本件事案は、当該特許発明の明細書には単に純度が高くなったことによる効果だけが提示されていて、結晶形化合物自体の効果に関しては全く記載されていなかった。このような場合は、追加の効果の主張ができないし、立証する実験データが提出されたとしてもその効果を追認されることは難しい。
したがって、結晶形発明として特許を受けようとする場合には、当該結晶形化合物が既存のものに比べて構造的にどのような差があるのかを明細書において確認資料の記載を通じて明確に示すべきであり、その効果の記載においても通常予測される効果(吸湿性の改善、溶解度の改善など)だけでなく、異質的効果(たとえば生体利用率が優秀、薬効の持続性が優秀)を多く記載して、その効果を多面的かつ十分に示すことが望ましい。
(韓国)医薬用途発明における薬理効果の記載の程度及び補正の許容範囲について判示した事例
【詳細】
(1) この事件の出願発明は、親出願から分割された出願であり、最初に、親出願では、新規化学物質に係る第1発明及び上記の新規化学物質の医薬用途に係る第2発明が請求されていた。化学物質発明の場合、その化学物質に対する有用性を記載するだけで発明が成立するのに対し、医薬用途発明の場合は、その用途を裏付ける薬理効果の記載において、どの程度詳細に記載されているべきかについて争われている。化学物質に係る請求された上記の第1発明は、この事件の出願発明が分割された後に特許許与され、医薬用途発明に係るこの事件の分割出願において薬理効果の記載の程度について争われている。
(2) この事件の出願発明では、最初に下記式に示された新規化合物を創案し、この化合物がCRF(副腎皮質刺激ホルモン放出因子)に対する拮抗作用を持っているという事実を見つけ、このような薬理活性でストレス性疾患、胃腸管障害及び腸障害、炎症性障害、精神性・神経性及び中枢神経系障害、姙娠の異常、癌、ヒト免疫不全ウイルス感染症など、CRFによって誘導・媒介・促進される疾病を治療及び予防することができるという医薬的な用途が示されている。
従来技術によると、CRF 拮抗薬は、ストレスによるうつ病、不安症及び頭痛のようなストレス関連疾患、腸症侯群、過敏性結腸の症状、痙攣性結腸、炎症性疾患、免疫抑制、ヒト免疫不全ウイルス感染症、アルツハイマー疾患、胃膓疾患、神経性食欲不振症、ストレス性出血、薬物及びアルコールの禁断症状、薬物中毒、姙娠の異常を含む幅広い疾患の治療に効果的なものとして知られている。この事件における争点は、上記の化学式の新規化合物がCRF 拮抗薬としての作用を持つという事実が明細書に明確に記載されているか否かの可否にある。
ところで、この事件の出願発明の明細書では、背景技術として、(i)この事件の出願発明の化合物と同一系統の物質である置換ピロールピリミジン化合物が中枢神経系疾患又は炎症、鎮痛剤、鎮静剤、抗痙攣剤及び抗炎症作用を持つとの点が挙げられ、(ⅱ)この事件の出願発明の化合物の有用性、すなわち、セロトニン作用物質などで治療できる疾患の種類のみが並べられ、(ⅲ)この事件の出願発明の化合物の薬理効果を測定する方法が間接的に記載され、(ⅳ)この事件の出願発明の化合物に対する製剤化方法、投与方法及び有効投与量に対して記載されただけであり、通常の技術者において、その医薬が実際にそのような用途として作用効果があるのかについて、或いは薬理効果に係わる具体的及び客観的な事項について記載されていない。このような場合、特許庁の医薬審査実務では、当該出願発明が薬理効果に対する実証的な記載が欠けていて、出願発明を実施するための具体的な条件などが提示されておらず、当該技術の分野における通常の知識を有する者が当該出願発明を正確に理解し、過度な試験努力や試行錯誤なしに容易に繰り返して再現することができる程度に記載されていないと見做し、医薬用途発明として未完成であるか或いは明細書の記載不備として拒絶している。本事件では、このような明細書上の欠陥を直すために、出願人は、この事件の明細書を補正することで128個の具体的な化合物に対するIC50値を追加した。
(3) 上記の事案に対して、原審の特許法院は、薬理データの記載のない明細書に具体的な薬理データを追加する補正は要旨変更に当たると判断した。
原審の判断について、本件の大法院判決は、「一般的に機械装置などに係る発明においては、特許出願の明細書に実施例が記載されていなくても、当業者が発明の構成に基づきその作用や効果を明確に理解して容易に再現することができる場合が多いが、これと違って、実験の科学と通称される化学発明の場合には、当該発明の内容や技術水準により、ある程度の差は有り得るが、予測可能性ないし実現可能性が顕著に不足しているため、実験データの提示されている実験例が記載されていなければ、当業者がその発明の効果を明確に理解し容易に再現することができるとは考え難いので、完成された発明として認められない場合が多く、特に、薬理効果の記載が必要とされる医薬用途発明においては、その出願の前に、明細書に記載の薬理効果を示す薬理機転が明らかにされていた場合のように特別な事情がない限り、特定物質にそのような薬理効果があることについて、薬理データなどで示された試験例として記載するか、これに代替できる程度まで具体的に記載してこそ、初めて発明が完成されたと共に明細書の記載要件を満たしたと認められ、このように試験例の記載が必要とされるにもかかわらず、最初の明細書に欠けていたその記載を後の補正により補完することは、明細書の記載事項の範囲を逸脱しているから、明細書の要旨変更に該当する」と判示し、原審の判断を正当であるとして、上告を棄却した。
参考(大法院判決 2001年11月30日付宣告2001후65【補正却下(特)】より抜粋):
원심판결 이유에 의하면 원심은、 의약의 용도발명에 관한 이 사건 출원발명은 특허청구범위에 기재된 화합물의 약리효과를 나타내는 약리기전이 명확히 밝혀졌다고 볼 증거가 없고、 최초 출원명세서에는 그 화합물의 유용성이나 약리효과를 간접적으로 측정하는 방법 및 전체 화합물의 개괄적인 IC50 값의 범위 등이 기술되어 있을 뿐 개별적 화합물에 대한 약리효과를 확인하는 구체적 실험결과가 기재되어 있지 아니하였는데、 이 사건 명세서의 보정에 의하여 이 사건 출원발명의 제조실시예에 나타난 개별적 화합물에 대한 IC50 값을 추가하였고、 이와 같이 이 사건 출원발명의 약리효과를 확인할 수 있는 정량적(定量的)인 수치로 표시된 구체적 실험결과는 최초 명세서에 기재된 사항의 범위를 벗어나 의약에 관한 용도를 객관적으로 뒷받침하는 기술적 사항을 추가한 것으로 결과적으로 미완성발명을 완성한 것이므로 발명의 동일성을 인정할 수 없는 정도의 실질적인 변화를 가져왔다 할 것이어서、 이 사건 보정은 명세서의 요지를 변경한 것에 해당하여 구 특허법 제51조 제1항의 규정에 의하여 각하되어야 할 것이라는 취지로 판단하였다.
일반적으로 기계장치 등에 관한 발명에 있어서는 특허출원의 명세서에 실시예가 기재되지 않더라도 당업자가 발명의 구성으로부터 그 작용과 효과를 명확하게 이해하고 용이하게 재현할 수 있는 경우가 많으나、 이와는 달리 이른바 실험의 과학이라고 하는 화학발명의 경우에는 당해 발명의 내용과 기술수준에 따라 차이가 있을 수는 있지만 예측가능성 내지 실현가능성이 현저히 부족하여 실험데이터가 제시된 실험예가 기재되지 않으면 당업자가 그 발명의 효과를 명확하게 이해하고 용이하게 재현할 수 있다고 보기 어려워 완성된 발명으로 보기 어려운 경우가 많고、 특히 약리효과의 기재가 요구되는 의약의 용도발명에 있어서는 그 출원 전에 명세서 기재의 약리효과를 나타내는 약리기전이 명확히 밝혀진 경우와 같은 특별한 사정이 있지 않은 이상 특정 물질에 그와 같은 약리효과가 있다는 것을 약리데이터 등이 나타난 시험예로 기재하거나 또는 이에 대신할 수 있을 정도로 구체적으로 기재하여야만 비로소 발명이 완성되었다고 볼 수 있는 동시에 명세서의 기재요건을 충족하였다고 볼 수 있을 것이며、 이와 같이 시험예의 기재가 필요함에도 불구하고 최초 명세서에 그 기재가 없던 것을 추후 보정에 의하여 보완하는 것은 명세서에 기재된 사항의 범위를 벗어난 것으로서 명세서의 요지를 변경한 것이라 할 것이다.
(日本語訳「原審判決の理由によれば、原審では、医薬用途発明に係るこの事件の出願発明では、特許請求の範囲に記載の化合物の薬理効果を示す薬理機転が明らかにされていたと認められる証拠がなく、最初の出願明細書には、その化合物の有用性や薬理効果を間接的に測定する方法及び全体の化合物の概括的なIC50値の範囲などが記されているだけであり、個別の化合物に対する薬理効果を確認する具体的な実験結果は記載されていなかったが、この事件の明細書の補正によりこの事件の出願発明の製造実施例に示された個別の化合物に対するIC50値を追加し、このように、この事件の出願発明の薬理効果が確認できる定量的な数値で示された具体的な実験結果は、最初の明細書の記載事項の範囲を逸脱し、医薬に関わる用途を客観的に裏付ける技術的な事項を追加したものとして、結果的に未完成発明を完成させたことになるため、発明の同一性が認められない程度の実質的な変化をもたらしたと判断され、この事件の補正は明細書の要旨を変更したことに該当するから、旧特許法第51条第1項の規定によって却下されるべきであるとの趣旨の判断がなされた。
一般的に機械装置などに係る発明においては、特許出願の明細書に実施例が記載されていなくても、当業者が発明の構成に基づきその作用や効果を明確に理解し容易に再現することができる場合が多いが、これと違って、実験の科学と通称される化学発明の場合には、当該発明の内容や技術水準により、ある程度の差は有り得るが、予測可能性ないし実現可能性が顕著に不足しているため、実験データの提示されている実験例が記載されていなければ、当業者がその発明の効果を明確に理解して容易に再現することができるとは考え難いので、完成された発明として認められない場合が多く、特に、薬理効果の記載が必要とされる医薬用途発明においては、その出願の前に、明細書に記載の薬理効果を示す薬理機転が明らかにされていた場合のように特別な事情がない限り、特定物質にそのような薬理効果があることについて、薬理データなどで示された試験例として記載するか、これに 代替できる程度まで具体的に記載してこそ、初めて発明が完成されたと共に明細書の記載要件を満たしたと認められ、このように試験例の記載が必要とされるにもかかわらず、最初の明細書に欠けていたその記載を後の補正により補完することは、明細書の記載事項の範囲を逸脱しているから、明細書の要旨変更に該当するのである。」)
【留意事項】
この大法院判決は、医薬用途発明において薬理効果に関する実験例が記載されていない場合、未完成発明や明細書の記載不備として認められ、後の補正によりこれを補完することは明細書の要旨変更に該当すると判断されたものであり、薬理効果に対して厳格な記載要件が要求されていなかった既存の大法院判決1996年7月30日付宣告95후1326、1996年10月11日付宣告96후559とは異なって、既存の特許庁における審査実務を支持した判決という点で、医薬分野の特許実務において非常に重要な意味を持つ判決である。
現在の医薬用途発明の特許実務は、全て本件大法院判決の基準により厳格に運用されている。上記の判決で言及された「その出願の前に、明細書に記載の薬理効果を示す薬理機転が明らかにされていた場合」の意味について多少論争はあるが、当該薬物の持つ医薬としての使用概念が全部糾明されている場合であると解釈するのが多数説であり、このような場合には、通常、新規性や進歩性が認められないため、医薬用途発明として特許を受けることはできず、これを改良した製剤発明、塩発明、結晶形発明などのような形態の発明として特許を受けることができると見做されている。
本件事案は単一化合物の医薬用途発明の場合に該当し、このような場合以外にも、複合療法による医薬発明、二つの成分の併用投与による相乗効果を技術的意義として主張する医薬発明においても、単一化合物の用途発明のように厳格な薬理効果の実験的記載が要求されるため、上記のような形態の医薬発明においても薬理効果の記載に注意を要する。
(韓国)実施例記載の必要性、数値限定発明の明細書記載要件、詳細な説明により裏づけられるか否かの判断基準を判示した事例
(1) 当該事件の第1項発明は、「エタノールアミン、過酸化水素、水酸化ナトリウム及びホウ砂を446-1944:406-1710:885-2928:562-2543重量部で含む燃料添加剤」で、燃料添加剤を構成する各成分の組成比を数値により限定して表現した発明に該当する。原審の特許法院判決は、当該事件の特許発明の明細書に、(ⅰ)当該事件の第1項発明の燃料添加剤を構成する各成分の組成比の数値限定の理由や効果に関する記載がなく、(ⅱ)エタノールアミンの種類を特定した具体的な実施例の記載がないという理由などを挙げ、当該事件の第1項発明及びこれを引用する従属項である当該事件の第2項、第3項、第5項、第6項、第8項、第11項発明に関連して旧特許法第42条第3項に違反した記載不備があると判断した。
韓国特許実務において、化学関連発明の場合、その実現可能性と予測可能性が著しく低い技術分野に属するため、その発明の反復再現のため実施例の記載が必要的記載要件として扱われた。また、数値限定発明の場合、その数値限定の理由と効果に関して発明の詳細な説明に記載がなければ明細書記載不備と見做され、組成物発明の場合は、特許請求の範囲にその組成成分の組成比が記載されることを要求する実務も行われていた。本件事案は、上記のような特許実務がそのまま争点として争われたものであるが、特許庁の特許実務を追認した原審の特許法院判決と異なり、本件の大法院判決では、発明の性格や内容などによりその記載事項の適法要件を問わなければならないという原則下で、本件事案は実施例の記載、数値限定の理由及び効果、従属項の組成成分比などの記載がなくても構わない事例であると判断された。
(2) 実施例の記載について、本件の大法院判決は、旧特許法第42条第3項に関して、「当該発明の性格や技術内容などによっては、明細書に実施例の記載がなくても、通常の技術者がその発明を正確に理解し再現することが容易な場合もあるので、旧特許法第42条第3項で定めた明細書記載要件を充足するため、常に実施例が記載されなければならないことではない」という一般的な法理下で、「当該事件の第1項発明の燃料添加剤を構成する各成分中の一つである『エタノールアミン』は、その用語の意味とともに当該事件の特許発明の明細書に『エタノールアミン(TEAなど)によりホウ砂の凝固及び沈殿とグリセリンの凝固減少を予防した』と記載されている点などを参酌すれば、モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)及びトリエタノールアミン(TEA)の全てを含むものと解釈される。しかし、当該事件の特許発明の明細書の上記の記載、…などの記載、及び記録で示された当該事件の特許発明出願当時の技術常識をまとめてみると、これらの3種類のエタノールアミンは、全てアミン系の安定剤の一種であって、…同じ役割をするものであり、但しアンモニア(NH₃)の水素を置換したヒドロキシエチルラジカル(-CH₂CH₂OH)の数が1、2、及び3個の差があるだけであることが分かる。したがって、当該事件の特許発明の明細書にこれらのエタノールアミンの全部又は一部を組成成分とする燃料添加剤の具体的な実施例の記載がなくても、通常の技術者は、これらのエタノールアミンの上記のような役割及びヒドロキシエチルラジカルの数の差を考慮して、過度な実験や特殊な知識を付加しなくても、当該事件の第1項発明を正確に理解し再現できるといえる」と判示した。
(3) 数値限定発明における限定の理由及び効果の記載に関しては、「そのような数値限定が単に発明の適当な実施範囲や形態などを提示するためのもので、それ自体に特別な技術的特徴がなく通常の技術者が適切に選択して実施できる程度の単純な数値限定にすぎなければ、そのような数値限定に関する理由や効果の記載がなくても、通常の技術者としては、過度な実験や特殊な知識の付加なしでその意味を正確に理解してこれを再現することができるので、この場合には、明細書に数値限定の理由や効果の記載がなくても、旧特許法第42条第3項に違反するといえない」という一般的な法理下で、「当該事件の特許発明の明細書によると、当該事件の第1項発明は、…エタノールアミン、過酸化水素、水酸化ナトリウム及びホウ砂の4つの物質を燃料添加剤の組成成分として混合することに技術的特徴がある発明である。その組成比に対する数値限定は、そのような限定がなければ発明が成立しないということではなく、単に当該事件の第1項発明を実施するのに適当な組成比の範囲を提示したものであって、それ自体に特別な技術的特徴はなく、通常の技術者が適切に選択し実施できる程度の単な数値限定にすぎないと見られる。したがって、上記のとおり、当該事件の特許発明の明細書において、組成比の数値限定に関する具体的な理由や効果の記載がなくても、それとは関係なく通常の技術者であれば、過度な実験や特殊な知識を付加しないで、上記の数値限定の意味を正確に理解してこれを再現することができるといえる」と判示した。
(4) 一方、第1項の組成物を引用している従属項の発明は、第1項の成分以外に追加成分を付加する形態の従属項であり、第1項で成分比が提示されていることと異なり追加成分の成分比が提示されていなかった。
本件の大法院判決は、「旧特許法第42条第4項第1号は、特許請求の範囲において保護を受けようとする事項を記載した項(請求項)が発明の詳細な説明により裏づけられることを規定したその趣旨は、特許出願書に添付された明細書の発明の詳細な説明に記載されなかった事項が請求項に記載されることにより、出願人が公開しなかった発明に対して特許権が付与される不当な結果を防ぐためのものであり、請求項が発明の詳細な説明により裏づけられるか否かは、特許出願当時の技術水準を基準として通常の技術者の立場から特許請求の範囲に記載された事項に対応する事項が発明の詳細な説明に記載されているか否かにより判断しなければならない(大法院判決 2006年5月11日付宣告2004후1120、大法院判決 2006年10月13日付宣告2004후776など参照)」という一般的な法理下で、「当該事件の第3項、第5項、第11項発明は、各々当該事件の第1項発明を引用する従属項であり、当該事件第3項発明は、『炭酸カリウム又は炭酸カルシウムを更に含む燃料添加剤」の構成を、当該事件の第5項発明は、『グリセリン、燐酸又はオレイン酸を更に含む燃料添加剤』の構成を、当該事件の第11項発明は、『炭酸カリウムを混合し低温燃焼を誘導することによりNOxを制御する燃料添加剤』の構成を、各々付加したものである。…これらの構成は、全て発明の詳細な説明により裏づけられるといえるので、これに旧特許法第42条第4項第1項を違反した記載不備があるとはいえない」と判示した。
(5) 結局、記載不備であると判断した原審に誤りがあるとして、原審判決を破棄し、原審法院に差し戻した。
参考(大法院判決2011年10月13日付宣告2010후2582【登録無効(特)】より抜粋):
1. 구 특허법(2007. 1. 3. 법률 제8197호로 개정되기 전의 것, 이하 같다) 제42조 제3항에 관한 상고이유에 대하여
가. 구 특허법 제42조 제3항은 발명의 상세한 설명에는 그 발명이 속하는 기술분야에서 통상의 지식을 가진 자(이하 ‘통상의 기술자’라고 한다)가 용이하게 실시할 수 있을 정도로 그 발명의 목적•구성 및 효과를 기재하여야 한다고 규정하고 있는바, 이는 특허출원된 발명의 내용을 제3자가 명세서만으로 쉽게 알 수 있도록 공개하여 특허권으로 보호받고자 하는 기술적 내용과 범위를 명확하게 하기 위한 것이므로, 위 조항에서 요구하는 명세서 기재의 정도는 통상의 기술자가 출원 시의 기술수준으로 보아 과도한 실험이나 특수한 지식을 부가하지 않고서도 명세서의 기재에 의하여 당해 발명을 정확하게 이해할 수 있고 동시에 재현할 수 있는 정도를 말한다(대법원 2005. 11. 25. 선고 2004후3362 판결, 대법원 2006. 11. 24. 선고 2003후2072 판결 등 참조). 그리고 당해 발명의 성격이나 기술내용 등에 따라서는 명세서에 실시례가 기재되어 있지 않다고 하더라도 통상의 기술자가 그 발명을 정확하게 이해하고 재현하는 것이 용이한 경우도 있으므로 구 특허법 제42조 제3항이 정한 명세서 기재요건을 충족하기 위해서 항상 실시례가 기재되어야만 하는 것은 아니다. 또한 구성요소의 범위를 수치로써 한정하여 표현한 발명에 있어서, 그러한 수치한정이 단순히 발명의 적당한 실시 범위나 형태 등을 제시하기 위한 것으로서 그 자체에 별다른 기술적 특징이 없어 통상의 기술자가 적절히 선택하여 실시할 수 있는 정도의 단순한 수치한정에 불과하다면, 그러한 수치한정에 대한 이유나 효과의 기재가 없어도 통상의 기술자로서는 과도한 실험이나 특수한 지식의 부가 없이 그 의미를 정확하게 이해하고 이를 재현할 수 있을 것이므로, 이런 경우에는 명세서에 수치한정의 이유나 효과가 기재되어 있지 않더라도 구 특허법 제42조 제3항에 위배된다고 할 수 없다.
(日本語訳「1.旧特許法(2007年1月3日付法律第8197号に改正される前のもの、以下同じ)第42条第3項に関する上告理由に関して
イ.旧特許法第42条第3項は、発明の詳細な説明にはその発明の属する技術分野で通常の知識を有した者(以下「通常の技術者」という)が容易に実施できる程度までその発明の目的·構成及び効果を記載しなければならないと規定し、これは、特許出願された発明の内容を第三者が明細書だけで容易に分かるように公開し、特許権として保護を受けようとする技術的内容と範囲を明確するためであり、上記条項で要求する明細書記載の程度は、通常の技術者が出願時の技術水準から見て過度な実験や特殊な知識を付加しなくても明細書の記載により当該発明を正確に理解できるとともに再現できる程度をいう(大法院判決 2005年11月25日付宣告2004후3362、大法院判決 2006年11月24日付宣告2003후2072など参照)。また、当該発明の性格や技術内容などによっては、明細書に実施例の記載がなくても、通常の技術者がその発明を正確に理解し再現するのが容易である場合もあるので、旧特許法第42条第3項で定めた明細書記載要件を充足するため、常に実施例を記載しなければならないことではない。また、構成要素の範囲を数値により限定して表現した発明において、そのような数値限定が単に発明の適当な実施範囲や形態などを提示するためのもので、それ自体に特別な技術的特徴がなく通常の技術者が適切に選択して実施できる程度の単純な数値限定にすぎなければ、そのような数値限定に関する理由や効果の記載がなくても、通常の技術者としては、過度な実験や特殊な知識の付加なしでその意味を正確に理解してこれを再現することができるので、この場合には、明細書に数値限定の理由や効果の記載がなくても、旧特許法第42条第3項に違反するといえない。」)
【留意事項】
既存の特許実務において化学関連分野では厳しく実施例の記載を要求している。本件の大法院判決は、発明の内容や正確に応じて実施例がなくても通常の技術者が容易に理解でき繰返して再現することができれば、実施例の記載がなくても発明の詳細な説明が記載不備であるといえない、という一般論を化学分野に適用したことにその意味がある。本件の当該発明は、反応が随伴される化学的製造方法や未知の属性の発見を本質とする用途発明ではなく、組成成分の組合せとこれらの成分の向上された効果により発明が具現される組成物発明という特殊性とこれらの成分が全て当該分野で広く知られている成分であることと、これらの機能と作用が明細書本文で明確に開示されていたという事情が考慮された事案であるので、本件事例を化学分野全体に適用するのは困難である。
さらに、本件の大法院判決は、数値限定発明に関しても、その数値限定だけにより特許性を主張する発明ではなくその数値限定が補助的構成であってその限定に特別な技術的意義がない場合には、少なくとも明細書の記載不備として取り扱ってはいけないという指針を提供している。この大法院判決の判示によると、もし数値限定により特許性を主張する場合には、その数値限定の理由及び効果などを明細書に明確に記載してこそ特許性主張の根拠となり、明細書の記載不備も避けられるので、この点に留意しなければならない。
また、上記大法院判決は、組成物発明に関しても、請求項に組成比の記載がないという理由だけでその権利範囲が発明の詳細な説明に比べて範囲が広いと指摘してはいけないという指針を提供している点にその意義がある。