台湾における専利法に基づく優先権主張の手続(国際優先権および国内優先権)
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韓国における実用新案制度について
(1)実用新案の対象は、物品の形状、構造、組合せに関する技術的思想の創作である。電子回路は実用新案対象である物品に含まれるが、方法発明は特許では登録が認められるのに対し、実用新案では対象外となる(実用新案法第4条)(特許・実用新案審査基準第3部第1章4.3)。
(2)特許出願書には必要な場合にのみ、図面を添付するよう規定(特許法第42条第2項)されているが、実用新案出願書には図面の添付は必須である(実用新案法第8条第2項)(特許・実用新案審査基準第2部第2章5.図面)。
(3)審査請求期限は特許および実用新案ともに出願日から3年である(実用新案法第12条)(特許法59条)。
(4)特許は創作の高度性を要求しているが、実用新案は創作の高度性を要求しない。しかし、最近はその差を大きく置かない傾向がある。とはいえ、法的には差異があり、審査における進歩性の判断時、特許は「容易に発明ができるか否か」を判断する一方、実用新案は「極めて容易に考案することができるか否か」を判断する。よって、特許と比べると実用新案は登録を受け易い(実用新案法第2条、第4条)(特許法第2条、第29条)。例えば、飲料包装パック、車両用ハンドルカバー、人形の足部分、ハンガー、クリップ等が実用新案として登録されている。これらは、容易に発明ができるため特許としては登録を受けることが難しいが、極めて容易に発明することができるものではないと判断され、実用新案として登録を受けた例である。
以下、進歩性の判断に関する大法院判決を紹介する。
(ⅰ)特許法院2019.4.18宣告、2018허6771判決
実用新案制度は、革新の度合いにおいて特許の対象となる発明には及ばないものの、従来の技術に比べて改善された技術思想の創作を法的に保護することにより、いわゆる「小発明」を奨励するための制度である。したがって、制度の趣旨を考慮して考案の進歩性を判断するにあたり、特許と同等程度の物差しを適用してはならない。また、考案を創作することが通常の技術者に非常に容易であるとは言えない場合には、進歩性を否定してはならない。
(ii)大法院2019.7.25宣告、2018후12004判決
考案の進歩性が否定されるかを判断するためには、先行技術の範囲と内容、進歩性判断の対象となった考案と先行技術との差異および考案が属する技術分野における通常の知識を持った者(以下、「通常の技術者」とする。)の技術水準等に照らし、進歩性判断の対象となった考案が先行技術と差異があった場合であっても、そのような差異を克服することが、先行技術からの考案が極めて容易に導出することができるかを判断しなければならない。この場合、進歩性判断の対象となった考案の明細書に開示されている技術を知っていることを前提にして、事後的に通常の技術者が考案を極めて容易に考案することができるかを判断してはならない。
(iii)大法院2012.10.25宣告、2012후2067判決
実用新案法第4条第2項の「その考案が属する技術分野」とは、原則、当該登録考案が利用する産業分野を指す。当該登録考案が利用する産業分野が比較対象考案の産業分野と異なる場合、比較対象考案を当該登録考案の進歩性を否定する先行技術として引用することは難しいとしても、比較対象考案の技術的構成が特定の産業分野のみに適用可能な構成ではなく、当該登録考案の産業分野で通常の技術を有する者が登録考案の当面する技術的問題を解決するために格別に困難なく利用することができる構成であれば、これを当該登録考案の進歩性を否定する先行技術とすることができる。
(iv)大法院1995.12.12宣告、94후1787判決
実用新案における考案というのは自然法則を利用した技術的創作をいうが、これは特許発明とは違い、創作の高度性を要さないので、公知公用の技術を結合した考案であっても結合前に各技術がもっていた作用評価の単純な結合ではなく、結合前に比べてより増進された作用評価が認定され、当該技術分野で通常の知識を持った者が容易に実施することができないときには、これを進歩性がある考案であるとする。
(v)大法院2006.10.12宣告、2006후1490判決
その考案が属する技術分野で通常の知識を持った者が比較対象考案と周知慣用の技術によって、極めて容易に考案することができる構成であるというものは、その進歩性が認定されない。
(5) 審査によって実用新案登録決定された後、3年間の登録料を納めれば実用新案権が設定される。権利存続期間は出願日から10年であり、権利は設定登録日から発生する(実用新案法第22条)(特許法第88条)。
(6)審査官が実用新案登録決定後、明白な拒絶理由を発見した場合には職権で登録決定を取消し、再び審査することができる(実用新案法第15条、特許法第66条の3準用)。ただし、特許法第66条の3に記載されている以下の場合に該当する場合はこの限りではない。http://www.choipat.com/menu31.php?id=14
1.拒絶理由が第42条第3項第2号(その発明の背景となる技術を記載)、同条第8項(特許請求の範囲の記載方法)および第45条(特許出願の範囲)の規定による要件に関するものである場合
2.その特許決定により特許権が設定登録された場合
3.その特許出願が取り下げ、放棄された場合
(7)実用新案の設定登録日から登録公告日後6か月となる日まで、誰でも特許審判院長に実用新案登録取消申請をすることができる(実用新案法第30条の2)。
(8)実用新案権が設定されれば実用新案権登録公告されるし、これに異議があれば利害関係人は無効審判を請求することができる。(実用新案法第31条)
(9)実用新案出願が審査で拒絶査定された場合、再審査請求または拒絶決定不服審判を請求することができる。補正が必要な場合、補正書の提出と共に再審査請求ができる。再審査で拒絶査定になれば、拒絶決定不服審判請求をすることができるが、この時には補正はできない。(実用新案法第15条)
(10)再審査で拒絶決定後の補正が必要な場合は、拒絶決定謄本の送達を受けた日から30日(30日ずつ2回延長可能)以内に分割出願で対応することもできる(実用新案法第11条、特許法第52条準用)。
(11)特許出願が審査で拒絶査定になれば、拒絶決定不服審判請求期限以内に実用新案出願に変更することができる。(実用新案法第10条)
留意事項
(1)韓国での実用新案制度は日本と違い、審査を経た上で登録される。登録後の権利行使は特許と同一であるため、特許登録が難しい場合には実用新案で権利取得を試みることも必要である。
(2)実用新案権は特許権よりも容易に登録を受けられるが、権利が狭く解釈される傾向がある(大法院2006.5.25宣告、2005도4341判決等)。実用新案権は図面に記載された範囲に限定され、少し変更すれば侵害とは認められない場合が多々ある点に注意しなければならない。出願時から侵害が起こりそうな範囲を予めカバーするように、明細書を作成する必要がある。
(3)実用新案権は侵害を受けやすいため、随時、市場調査等の監視を徹底して行う必要がある。
参考
2019年11月18日に特許庁主催の「小発明・アイデア保護のための公開フォーラム」が開催された。本稿作成時点では、小発明またはアイデアは保護を受けられない。しかし、このような小発明等が市場需要に存在するため、初期段階ではあるがこれを保護するための制度が検討されている。
日本とシンガポールにおける特許審査請求期限の比較
1.日本における審査請求期限
日本においては、審査を受けるためには出願審査請求を行う必要がある。出願審査請求は出願の日から3年以内に行うことができ、この期限内に出願審査請求がされない場合は、正当な理由があるものを除き、その特許出願は取り下げられたものとみなされる。
出願が国内優先権の主張を伴う場合や、パリ条約による優先権の主張を伴う場合においても、請求期間の起算日は実際に特許出願がされた日である。
PCTルートの場合は、国内書面を提出し、手数料の納付を行った後(外国語特許出願である場合はさらに翻訳文を提出した後)でないと、出願審査請求をすることができない(特許法第184条の17)。
なお、審査請求は出願人だけでなく、第三者も行うことができる。(特許法第48条の3第1項)。
条文等根拠:特許法第48条の2、第48条の3第4項、特許法施行規則第31条の2第6項、第184条の17
日本特許法 第48条の2 特許出願の審査
特許出願の審査は、その特許出願についての出願審査の請求をまって行なう。
日本特許法 第48条の3 出願審査の請求
特許出願があったときは、何人も、その日から3年以内に、特許庁長官にその特許出願について出願審査の請求をすることができる。
2 第44条第1項の規定による特許出願の分割に係る新たな特許出願、第46条第1項もしくは第2項の規定による出願の変更に係る特許出願または第46条の2第1項の規定による実用新案登録に基づく特許出願については、前項の期間の経過後であっても、その特許出願の分割、出願の変更または実用新案登録に基づく特許出願の日から30日以内に限り、出願審査の請求をすることができる。
3 出願審査の請求は、取り下げることができない。
4 第1項または第2項の規定により出願審査の請求をすることができる期間内に出願審査の請求がなかったときは、この特許出願は、取り下げたものとみなす。
5 前項の規定により取り下げられたものとみなされた特許出願の出願人は、第1項に規定する期間内にその特許出願について出願審査の請求をすることができなかったことについて正当な理由があるときは、経済産業省令で定める期間内に限り、出願審査の請求をすることができる。
日本特許法施行規則 第31条の2第6項
6 特許法第48条の3第5項(同条第7項において準用する場合を含む。以下この条において同じ。)の経済産業省令で定める期間は、同条第5項に規定する正当な理由がなくなった日から2月とする。ただし、当該期間の末日が同条第1項に規定する期間(同条第7項において準用する場合にあっては、第2項に規定する期間)の経過後1年を超えるときは、同項に規定する期間の経過後1年とする。
日本特許法 第184条の17 出願審査の請求の時期の制限
国際特許出願の出願人は、日本語特許出願にあっては第184条の5第1項、外国語特許出願にあっては第184条の4第1項または第4項および第184条の5第1項の規定による手続をし、かつ、第195条第2項の規定により納付すべき手数料を納付した後、国際特許出願の出願人以外の者は、国内書面提出期間(第184条の4第1項ただし書の外国語特許出願にあっては、翻訳文提出特例期間)の経過後でなければ、国際特許出願についての出願審査の請求をすることができない。
2.シンガポールにおける審査請求期限
改正特許法が施行された2014年2月14日以降になされた、シンガポール出願、シンガポール国内移行および分割出願を前提として以下に説明する。
シンガポールにおいては、審査を受けるためには出願審査請求を行う必要がある。シンガポールでは調査および審査請求の内容およびタイミングにより、以下の(i)~(ⅳ)の4つの審査請求オプションがあり、それぞれについての審査請求期間を以下に示す(特許法第29条(1)(b)~(d)、(3)、特許規則38(1)、43(1)~(3))。
<シンガポールにおける審査請求オプションと審査請求期限>
(i)シンガポールで調査請求を行い、その後審査請求→優先日から36か月(特許法第29条(3)、特許規則43(1))(調査請求は優先日から13か月、特許法第29条(1)(a)、特許規則38(1))
ただし、審査請求期限前1月以内に登録官が出願人に調査報告を送付した場合には、同調査報告を伴った登録官の通知の日から1月を特許法第29条(3)に基づく審査請求期間とする(特許規則43(2))。
(ⅱ)シンガポールで調査と審査を同時に請求→優先日から36か月(特許法第29条(1)(b)、特許規則43(1))
(ⅲ)他国の調査結果に基づきシンガポールで審査→優先日から36か月(特許法第29条(1)(c)、特許規則43(1))
(ⅳ)対応国の審査結果に基づく補充審査*1→優先日から54か月(特許法第29条(1)(d)、特許規則43(3))
ここで、審査請求期間の起算日は、優先権主張を伴う場合には優先日、優先権主張を伴わない場合にはシンガポール出願日である(特許規則38(1)、43(1)および(3))。また、分割出願の場合には、優先権主張を伴う場合には優先日、優先権主張を伴わない場合にはその分割出願の出願日である(特許規則43(3)(b))。上記前提の下、日本の読者の便宜のため、ここでは「優先日」を起算日として記載した。優先権主張を伴わない場合には、「出願日」と読み替えてください。
また、延長費用の支払いにより(i)~(ⅳ)全てについて審査請求期限の延長が可能である(特許規則108(4)(a)、同(7))。
期間内に審査の請求がなかったときは、特許出願は放棄されたものとみなす(特許法第29条(12)、(13))。
また、実体審査請求を行うことができるのは、出願人のみである(特許法第29条(1)、(3))。
条文等根拠:特許法第29条(1)(a)~(d)、(3)、(12)、(13)、特許規則38(1)、43(1)~(3)、108(4)、(7)
シンガポール特許法 第29条 調査および審査
(1)特許出願(本項において「当該出願」という)に係る出願人は、所定の期間内に、以下の項のうちの1つに従うこと。
(a)調査報告書を求める所定の様式の請求書を提出する。
(b)調査および審査報告を求める所定の様式の請求書を提出する。
(c)出願人が下記に示す最終的な結果を依拠する場合、所定の様式で審査報告を求める所定の書類と請求書を提出する。
(i)対応出願、対応する国際出願または関連する国内段階出願における調査、若しくは
(ii)国際段階の当該出願の調査
(当該出願が第86条(3)に基づいてシンガポールで国内段階に移行した国際出願である場合)
(d)(11A)に従うことを条件として、所定の様式で補充審査報告を求める所定の文書と請求書を提出する。ただし
(i)出願人が以下の最終的な報告に依拠する場合、特許出願がすべての方式要件を満たしている場合は、登録官は、出願人に通知する。
(A)対応する出願、対応する国際出願または関連国内段階出願の実体の調査および審査、若しくは
(B)国際段階における当該出願の実体の調査および審査(当該出願が第86条(3)に基づいて国内段階に移行した国際特許出願(シンガポール)である場合)
(ii)当該出願における各クレームが、少なくとも対応する出願、対応する国際出願または関連する国内段階出願若しくは国際段階における当該出願におけるクレームの1つに関連する。
および
(iii)これらの結果により、当該出願における各クレームが新規性、進歩性(または非自明性)、産業上の利用可能性(または有用性)の要件を満足する。
(3)登録官は(2)(b)に基づき調査報告を受領したとき、審査報告を求める所定の様式の請求書を提出する。
(略)
(12)以下の場合、出願は放棄されたものとして扱われる。
(a)(13)に従うことを条件として、出願人が次の1つを行わなかった場合、
(i)(1)の(b)、(c)もしくは(d)における所定の期間内に従うこと。
(ii)(3)が適用される場合、その項に従うこと。
(b)(10)が適用される場合において、出願人が(10)(b)に規定する所定の期間内に、(1)(d)に基づく補充審査の請求を行わなかった場合、または
(c)(11)が適用される場合において、出願人が(1)(b)に基づく調査および審査報告の請求、または(11)(b)に規定する所定の期間内に(1)(c)に基づく審査報告の請求を行わなかった場合。
(13)(a)登録官から(2)(b)に基づき調査報告を受け取った後、出願人が(3)に従いその項に規定する期間内に審査報告を求める請求を行わなかった後、および
(b)改正特許法2017の第3(f)条の開始日前、若しくは開始後3か月以内に、(3)に規定する期間延長の請求を提出する期間が満了する時、
出願人が、その日から6月以内に(3)に基づく審査報告の請求を行わなかった場合、出願は、放棄されたものとして扱われる。
シンガポール特許規則38 調査報告請求書の提出に係る期間
(1)第2条(1)(a)に基づく請求提出の所定の期間は、次のとおりとする。
(a)当該出願に宣言された優先日が記載されていない場合は、出願日から13月、または
(b)当該出願に宣言された優先日が記載されている場合は、当該宣言された優先日から13月
シンガポール特許規則43 調査および審査報告の請求、審査報告の請求または補充審査報告の請求*1の提出期間
(1)(2)に従うことを条件として、第29条(1)(b)に基づく調査および審査報告の請求または第29条(1)(c)若しくは(3)に基づく審査報告の請求の提出についての所定の期間は、
(a)(b)に従うことを条件として、
(i)出願の宣言された優先日、若しくは
(ii)宣言された優先日が存在しない場合は当該出願の出願日、
から36月、または
(b)第20条(3)、第26条(11)または第47条(4)に基づいて新規出願が行われる場合は、当該新規出願が実際に出願された日から36月とする。
(2)(1)(a)または場合により(b)にいう所定の期間の満了前1月以後に、登録官により第29条(2)(b)に基づいて調査報告の写しが出願人に送付される場合は、第29条(3)に基づく審査報告の請求の提出についての所定の期間は、第29条(2)(b)に基づく調査報告の写しを送付する登録官書簡の日付から1月とする。
(3)第2条(1)(d)に基づく補充審査報告の請求の提出についての所定の期間は、次のとおりとする。
(a)(b)に従うことを条件として、
(i)当該出願の宣言された優先日、若しくは
(ii)宣言された優先日が存在しない場合は当該出願の出願日、
から54月、または
(b)第20条(3)、第26条(11)または第47条(4)に基づいて新規出願が行われた場合は、新規出願が実際に出願された日から54月
シンガポール特許規則108 期限の延長一般
(4)次の何れかの規則に定める期日または期間については、延長の求められる期日または期間の最初の満了後18月以内に特許様式45の提出があった場合は、延長の求められる期日または期間の最初の満了直後に始まる計18月を超えない期間で延長される。
(a)規則18(1)、規則19(11)、規則26(2)、規則28(f)、規則34(1A)、規則38、規則42(3)、規則43、規則47(1)、規則86(1)、(6)、(8)若しくは(8A)、または
(b)規則26(3)(規則26(4)(a)および(b)に定める書類の提出に関する場合に限る)
(7)(a)登録官から第29(2)条(b)に基づく調査報告を受け取った後、審査請求するための規則43(1)もしくは(2)(どちらか適用可能な方)に規定する期間内に、第29条(3)に基づく審査報告の請求を出願人が行わなかった後、および
(b)2017年10月30日より前もしくは3月以内に満了する期間延長の様式45の提出に対する(4)に規定する期間、
その日から6月、様式提出に関する(4)の期間は延長される。
◆日本の基礎出願に基づく優先権を主張しシンガポールに出願した場合には、以下のようになる。
日本とシンガポールにおける特許審査請求期限の比較
日本 | シンガポール | |
提出期限 | 3年 | ・シンガポールで審査
(36か月) ・補充審査(54か月)*1 |
基準日 | 日本の出願日 | 優先権を伴う場合には、
シンガポール出願日では なく、日本の基礎出願日 |
審査請求できる者 | 出願人または第三者 | 出願人のみ |
*1: 2017年10月30日付けで改正された特許法により、2020年1月1日以降の出願から補充審査は利用できなくなる。(シンガポール特許法第29条(11A)、およびシンガポール特許規則43(4))。
韓国における複数意匠登録出願制度について
複数意匠登録制度について下記のとおり詳細を説明する。
(1)複数意匠登録出願できる物品は、意匠法(韓国語「디자인보호법(デザイン保護法)」)施行規則第38条で定める物品の区分(ロカルノ分類)で同一分類の物品でなければならない。複数意匠登録出願された意匠の物品が同一分類に属しない場合には拒絶理由通知がされ、分類が相異する物品に対しては出願の分割または出願取下げをしなければならない。
(2)複数意匠登録出願は100個以内の意匠を1意匠登録出願として出願することができる*1。この場合、図面は1意匠ごとに分離して表現しなければならない。即ち、出願書に意匠一連番号を付与し、その一連番号に沿って意匠図面および説明等を記載しなければならない。複数意匠登録出願された意匠が100個を超過した場合には、拒絶理由通知書を受けることになり、この際に100個を超過する意匠に対しては出願の分割または出願取下げをすることができる。
*1: 2014年7月1日に施行された改正意匠法により、1意匠登録出願として出願することができる意匠の数が20個以内から100個以内へ変更された。(意匠法(韓国語「デザイン保護法」)第41条)
(3)複数意匠登録出願された意匠のうち一部意匠にのみ拒絶理由がある場合、拒絶理由がある意匠の一連番号、意匠の対象になる物品およびその拒絶理由を明示し、拒絶理由(意見提出通知)を通知するようになっている(意匠法(韓国語「デザイン保護法」)第63条2項)。
(4)複数意匠登録出願の一部の意匠にのみ拒絶理由があり、その拒絶理由が解消されない場合、その一部の意匠に対してのみ拒絶決定をすることができるようになっている(意匠法第62条5項)。
(5)複数意匠登録出願された各意匠は、図面または写真のうちのいずれかで統一して表現しなければならない。ただし、複数の3Dモデリング図面を提出する場合には全ての意匠を3次元モデリングファイル形式で提出しなければならない。
(6)複数意匠登録出願された意匠が設定登録されれば、各意匠ごとに独立した意匠権が発生し、各意匠ごとに意匠一部審査登録*2の異議申立または無効審判請求の対象になる(意匠法第68条第1項後段、同法第121条第1項後段)。
*2: 1998年3月1日に無審査登録制度が導入され、2014年7月1日の改正により一部審査登録制度へ変更された。
(7)複数意匠登録出願に対する意匠登録査定を受けた者が登録料を納付する時には、意匠別に放棄することもできる(意匠法第105条1項)。
(8)複数意匠登録された意匠権は、各意匠ごとに分離して移転することができる(意匠法第96条第5項)。
(9)留意事項
複数意匠の登録出願は審査または一部審査物品に関係なく物品区分(ロカルノ分類)における同一物品類でなくてはならず、1出願には100個以内まで含めることが可能である。
韓国における意匠の一部審査登録制度
韓国における、意匠一部審査登録出願について下記のとおり詳細を説明する。
- 意匠一部審査登録出願の対象物品
意匠一部審査登録出願をすることができる意匠は物品類区分(ロカルノ分類)のうち、産業通商資源部令で定める下記の物品に限られる。
・第2類(衣類およびファッション雑貨用品)
・第5類(繊維製品、人造および天然シート織物類)
・第19類(文房具、事務用品、美術材料、教材)
- 出願手続および審査
(1)意匠一部審査登録出願の手続は意匠審査登録出願と同一であるが、意匠一部審査登録出願の対象物品は、意匠審査登録出願ではなく意匠一部審査登録出願で出願手続しなければならない。
(2)工業上利用することができないか、国内または国外で広く知られている形状・形・色彩またはこれらの結合により容易に創作することができる意匠は登録を受けることができない(意匠法第62条12項)。
(3)情報提供がある場合、審査官は客観的な拒絶理由が発見されれば、実体審査をできるように規定されている(意匠法第62条4項)。
(4)意匠一部審査登録出願をした場合、所定の方式審査後、拒絶理由がなければ登録になり、出願から登録までは平均3~4か月程度かかる(意匠審査登録出願の場合、出願から登録まで1年程度である)。
- 意匠一部審査登録出願の登録後の異議申立
(1)意匠一部審査登録出願で登録された意匠権の中には、実体的登録要件が欠如した意匠が存在する可能性があるため、意匠一部審査登録出願で登録された案件については異議申立制度が採用されている(意匠法第68条)。
(2)意匠一部審査登録出願で登録された意匠権については、設定登録日から意匠一部審査登録出願の登録が公告された日から3か月になる日までの間、誰でも異議申立が可能である。審査官3人の合議制により審議され、取消理由ありと判断されれば、登録された意匠権は取り消される(意匠法第68条第11項・第70条)。
- 留意事項
(1)旧法の意匠無審査登録制度では意匠無審査出願の対象品目を18分類において幅広く許容したが、2014年7月1日付施行の改正法(2014年1月21日公布)では名称を意匠一部審査に変更するとともに、この制度の対象品目を3分類(ロカルノ分類 第2類、第5類、第19類)まで大幅に縮小した。したがって、出願時には、意匠出願の対象物品が意匠一部審査登録出願の対象物品に該当するかを確認しなければならない。なお、誤って意匠一部審査登録出願の対象物品を含む意匠審査登録出願をした場合、方式審査で補正指示が出され、意匠一部審査登録出願へ補正することは可能である。
(2)意匠一部審査登録出願をして登録となれば、意匠権は発生するが、権利を行使する際には当該権利が本当に有効かどうかを権利者自身が判断しなければならない。明らかな無効事由があるにもかかわらず権利を行使した場合は、権利濫用と判断される可能性もあるので注意が必要である。
中国における意匠出願制度概要
意匠の出願手続フローチャート図
(1)出願手続
(i)出願
出願書類は、出願書、意匠の図面又は写真、意匠の簡単な説明書等(専利法第27条。専利法実施細則第27条・同第28条。以下単に「細則」とする)。
すべての書類は中国語で提出する必要があり、中国語でない場合は不受理となる(細則第3条・同第39条)。外国語出願制度はない。
パリ条約を利用した優先権主張は、第一国への出願から6か月以内にしなければならない(専利法第29条)。
なお、日本と異なり部分意匠制度や秘密意匠制度はない。
(ii)方式審査(中国語「初步审查(初歩審査)」)
願書や添付書類などが所定の方式に適合しているか否か、および、明らかに不登録事由に該当するか否かの審査が行われ、必要に応じ、指定期限内に意見の陳述または補正をするよう通知される(専利法第40条、細則第44条)。
新規性、先行する他人の権利と抵触するか否かの実体審査は行われず(登録後の無効請求により対応される)、出願公開制度、審査請求制度もない。
意匠出願が拒絶された場合には、出願人は拒絶査定の通知の日から3か月以内に審判部(中国語「专利复审委员会(専利復審委員会)」)に対して審判(中国語「复审(復審)」)を請求することが出来る(専利法第41条)。
(iii)登録・公告
審査の結果、出願を却下する理由が存在しない場合には権利付与決定の後、意匠権(中国語「外观设计专利权(外観設計専利権)」)が付与され、その旨が公告される。意匠権は公告日から有効となる(専利法第40条)。
意匠の登録手続を行う際には、登録料、公告印刷料及び特許付与年の年金を納付しなければならない(細則第97条)。
意匠権の存続期間は、出願日から10年(専利法第42条)。なお、出願日は初日に算入する(審査指南第五部分第九章2.1)。
(2)類似意匠(中国語「相似外观设计(相似外観設計)」)・組物意匠
原則として一出願一意匠であるが、同一製品における二つ以上の類似意匠、あるいは同一種類でかつセットで販売又は使用する製品の二つ以上の意匠は、一件の出願として提出することができる(専利法第31条、細則第35条)。なお、一件の意匠出願で最大10の類似意匠を出願できる(細則第35条)。
組物(中国語「成套产品」)の意匠の有効性については、場合に応じ、組物としての対比又は個々の構成物品としての対比により判断される(審査指南第四部分第五章5.2.1、同5.2.5.1)。
(3) GUI外観設計
国家知識産権局は2014年5月1日施行の「特許審査指南」において、通電後のGUI(グラフィカルユーザインターフェース)表示に該当する製品を意匠の保護範囲に取り入れた。
また、2019年4月4日の「審査指南改正草案」において、GUIに関する記載要件(GUI外観設計の製品名称や簡単な説明の記載要件、意匠の図面または写真の提出に関して)を明確にする案が提出されている。(審査指南改正草案第一部分第三章4.2~4.4)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/opinion/20190404_1.pdf
(4)自発補正
出願人は、出願日より2か月以内に、意匠出願を自発的に補正(中国語「修改」)することができる。書類の補正は、元の画像又は写真で表示した範囲を超えてはならない(専利法第33条、細則第51条)。
(5)評価報告書
意匠権の付与決定が公告された後に、意匠権者及び利害関係者は侵害訴訟における証拠となる意匠権の評価報告書(中国語「专利权评价报告(専利評価報告)」)の作成を中国特許庁に請求することができる(専利法第61条、細則第56条)。
利害関係者とは、裁判所に侵害訴訟を提起する権利を有する原告、例えば、意匠権、専用実施権者、及び意匠者から契約等により訴権を取得した通常実施権者をいう。
中国における実用新案制度の概要と活用
(1)中国における実用新案制度の概要
(i)実用新案(中国語「实用新型专利」)の定義
実用新案とは、製品の形状、構造またはそれらの組合せについて提案された実用に適した新しい発明/考案(中国語「技術方案」)をいい(専利法第2条第2項)、中国の実用新案は製品のみを保護対象とする。
ここでいう「製品」とは、産業的方法により製造されたもので、確定した形状、構造を有し、かつ一定の空間を占める実体をいう(審査指南第一部第二章6)。
(ii)実用新案登録を受けることができないもの
以下は実用新案の保護対象に属さず、実用新案登録を受けることができないものである(審査指南第一部第二章6.1、6.2)。
(a)あらゆる方法的発明。
(b)確定した形状がないもの。例えば、気体状態、液体状態、粉末状、粒状などの状態の
物質や材料。具体的には、例えば化合物、化学組成物、結晶体。
(c)製品の特徴が材料の改良にあるもの。例えば、製品の原材料の組成を記載した請求
項。
(d)製品の特徴がその製法の改良にあるもの。例えば、製造方法の工程を記載した請求
項。
ただし、実用新案の請求項の構成要素の一部に、例えば樹脂、ゴムなどのような既知の材料の名称を記載することは認められている。また、実用新案の請求項の構成要素の一部に、例えば溶接、リベット締めなどのような既知の方法の名称を記載することも認められている。
(iii)審査の順番(改訂案)
2019年4月4日の「専利審査指南改訂案」では審査の順番を明確にする案が提出されている。
(a)審査開始の順番
出願を提出した順番で方式審査が開始されなければならない。
(b)優先審査
国家利益または公共利益に重要な意義がある出願は出願人またはその主管部門が申請
し許可を受けた場合、優先審査が行われその後の審査過程において優先して処理され
る。ただし、特許と実用新案を同日出願した場合、特許出願の優先審査は行われない。
(c)遅延審査
出願と同時に遅延審査を申請しなければならない。遅延審査の期間は1から3年の範
囲で選択できる。ただし、必要な場合は専利局は自発的に審査を開始し、遅延申請は未提出とみなされる。
(iv)実用新案の方式審査(中国語「初步审查」)
実用新案出願は方式審査を経て拒絶すべき理由がない場合、権利付与されることになる(専利法第40条)。条文上、実用新案出願に対しては実体審査が行われず、方式審査を経て登録されるが、実務においては、欠陥のある実用新案権が多いとされる問題を少しでも改善しようと、強化方式審査が行われている(実施細則第44条第1項第2号)。具体的には、形式上の不備だけではなく実質的な不備がないか、例えば、
(a)実用新案の定義に合致しているか
(b)クレームの記載要件を満たしているか
(c)明細書の公開要件を満たしているか
(d)補正制限に違反していないか
(e)先願がないか
(f)分割出願の要件を満たしているか
等も審査される。
つまり、実用新案の強化方式審査は、新規性、進歩性、実用性の実体審査が行われないという点を除けば特許出願と同様の審査が行われており、実務上、実用新案出願に対して補正指令が出されることは珍しくない。
(iv)特許/実用新案同日出願制度
中国には出願変更制度は存在しないが、出願人は同一の発明について特許と実用新案の両方を同日に出願することができる(専利法第9条、実施細則第41条第2項)。この同日出願制度を利用して特許と実用新案を同日に出願すれば、実用新案出願は実体審査がないため先に登録されることとなり、特許出願は、特許の登録要件を満たす場合に、出願人が実用新案権を放棄することにより、特許権を取得することができる。
(2)中国における実用新案権の活用
(i)中国実用新案権の権利行使のしやすさ
中国の専利法には、日本の実用新案法第29条の2のような「技術評価書を提示して警告をした後でなければ、侵害者等に対し、その権利を行使することができない」旨の規定は存在しない。また、日本の実用新案法第29条の3のような「警告や権利行使を行い、その後、実用新案登録が無効となった場合、技術評価書の提示やその他の相当な注意をしないで警告や権利行使により相手方に与えた損害を賠償する責めに任ずる」旨の規定もない。
つまり、中国の実用新案権は日本の実用新案権に比べて、権利行使しやすい権利であると言える。
(ii)実用新案権評価報告
中国では、侵害の紛争が実用新案権に係る場合、裁判所等は、権利者または利害関係者に対し、国家知識産権局が関連実用新案権について調査、分析と評価を行った上で作成した実用新案権評価報告の提出を要求することができる(専利法第61条第2項)。当該評価報告は、実用新案権の侵害紛争の審理において証拠とすることができる。
また、裁判所が受理した実用新案権に関する侵害紛争案件において、被告が答弁期間(中国に経常住所がある場合15日、中国に経常住所がない場合30日)内に当該実用新案権に対して無効審判を請求した場合、裁判所はその訴訟を中止しなければならない。ただし、実用新案権評価報告に、実用新案権の新規性、進歩性を喪失させる技術文献が含まれていない場合、裁判所は訴訟を中止しなくてもよい(最高裁判所による特許紛争案件審理の法律適用問題に関する若干規定第9条)。
上記の通り、実用新案権を行使して侵害訴訟が提起された場合、裁判所は実用新案権評価報告の提出を要求することができる。しかし、この評価報告は裁判所が裁判を中止するか否かを判断する際の根拠として利用されるものに過ぎず、提訴時に必須のものではない。
(iii)実用新案の無効審判
特許と同じく、実用新案も、登録公告された後、何人でも無効審判を請求することができ、無効理由および証拠の使用については、特許と基本的に同様である。ただし、進歩性の判断に関しては、特許と実用新案との定義が異なるため、以下の相違点が存在する(審査指南第四部分第六章4)。
特許の進歩性は、「既存の技術と比べて、その発明が突出した実質的特徴および顕著な進歩を有する」ことと規定さている一方、実用新案の進歩性は、「既存の技術と比べて、その実用新案が実質的特徴および進歩を有する」ことと規定されている(専利法第22条第3項)。従って、実用新案の進歩性基準は特許の進歩性基準よりも低いといえる。
両者の進歩性基準における相違は、既存の技術に「技術的示唆」が存在するかを判断する際に、以下の二つの方面で表されている。
(a)既存の技術の技術分野
特許の場合、発明の属する技術分野以外に、それに近いまたは関連する技術分野および当該発明が解決しようとする課題が当業者に対し技術的手段を模索せしめるその他の技術分野も考慮されるべきである。
一方、実用新案の場合、一般的には、当該実用新案が属する技術分野が優先的に考慮される。ただし、既存の技術に「明らかな示唆(例えば、明確な記載がある)」がある場合、当業者に対し技術的手段を模索せしめる、近いまたは関連する技術分野を考慮に入れてもよい。
(b)既存の技術の数
特許の場合、1件または複数の既存の技術の組合せで進歩性を評価することができる。一方、実用新案の場合、一般的には、1件または2件の既存の技術の組合せで進歩性を評価することができる。ただし、従来技術の「簡単な寄せ集め」からなる実用新案に対しては、状況に応じて、複数件の従来技術の組合せで進歩性を評価することもできる(審査指南第四部第六章4)。
(3)留意事項
・中国における実用新案権は、特許に比べて格別に権利行使しにくい権利であるという印象はない。また、実用新案権は方式審査のみで登録され、一度権利になると、それを無効にするためには時間と費用がかかる。さらに、実用新案権の進歩性基準は特許と比べて低く、実際に無効審判を請求する場合、2件以内の無効資料で無効とすることは容易ではない。
上記の状況に鑑み、模倣されやすい構造的特徴があり、ライフサイクルが短い(実用新案の保護期間は出願日から10年)考案については、積極的に実用新案の出願を検討することが望ましい。
・中国における事業展開にあたり、抵触する実用新案権が存在すると判明した場合、権利行使される可能性があることに備えて事前に無効資料を調査し、準備すべきである。抵触する権利が重要な製品に係わるものである場合、無効審判を請求する方向で検討すると良い。相手に無効審判を請求した事実を知られたくない場合には、匿名で(無効審判は何人でも請求することができるため(専利法45条)、実際に請求する企業名等を出さずとも、実在する個人の名前等で)無効審判を請求することも可能である。
中国における商標出願制度概要
商標の出願手続フローチャート図
商標(中国語「商标(商標)」)の出願手続は、上記フローチャートに示したように、主に(1)出願、(2)方式審査、(3)出願公告、(4)実体審査、(5)登録・公告の手順で進められる。
(1)出願
・一つの出願において、多数の区分について同一の商標を登録出願することができる。(商標法第22条)。また、マドリッド協定又はマドリッド議定書に基づく国際出願において、指定商品又は役務は、国内の基礎出願又は基礎登録の商品又は役務の範囲を超えてはならない。(商標法実施条例(以下「条例」という)第39条)。
・出願手続は中国語を使用しなければならない(条例第6条)。
・音声を商標として登録出願できる(商標法第8条、条例第13条)。
・優先権を主張する場合は、最初の出願から6か月以内に行い、その主張の日から3か月以内に商標登録出願の副本を提出する(商標法第25条)。なお、この期間は延長できない。
・出願公開制度はない。
・団体商標制度及び証明商標制度がある(商標法第3条)。
(2)方式審査(中国語「形式审查(形式審査)」)
・出願日は、商標局が出願書類を受領した日となる。出願手続に不備がないかの方式審査を開始し、出願書類の受理又は不受理の通知を出願人に行う。出願手続または出願書類の記載に不備があり、関連規定の要件を満たさない場合、商標局は書面により出願人にその旨を通知し理由を説明する(条例第18条)。
・出願手続または出願書類の記載が基本的に関連規定の要件を満たすが、補正(中国語「补正(補正)」)の必要がある場合には、商標局は出願人に通知し、30日以内に補正をさせる(条例第18条)。なお、この応答期間は延長できない。
(3)実体審査
・商標局は商標登録出願について審査し、登録要件を満たす出願には出願公告査定(中国語「初步审定(初歩審定」)を行い、かつ公告する(商標法第28条、条例第21条)。
・出願が登録要件を満たさない又は一部の指定商品について登録要件を満たさない場合には、これを拒絶又は部分的に拒絶し、その旨を出願人に通知し理由を説明する(商標法第29条、第34条、条例第21条)。部分拒絶の場合、不服審判を請求しない限り、登録要件を満たす部分のみが公告される。
・商標局の拒絶通知に不服があるときは、出願人はその通知の日から15日以内に商標審判部に不服審判請求を行うことができる(商標法第34条)。
(4)出願公告
・出願公告査定され公告された商標については、公告後3か月以内であれば、誰でも異議を申し立てることができる(商標法第33条)。この異議は商標局の裁定を受け、商標局の裁定に不服がある場合、当事者は裁定の通知の日から15日以内に国家知識産権局の商標審、判部(中国語「商标评审委员会(商標評審委員会」)に審判請求を行うことができる(商標法第35条)。
(5)登録公告
・出願公告後3か月以内に異議申立がないとき、又は異議が成立しないと裁定された場合は、登録(中国語「注册(注冊)」)が認められ、商標登録証を交付され公告が行われる(商標法第33条、第35条)。
・登録商標が、商標法第4条、第10条、第11条、第12条、第19条第4項の規定のいずれかに違反するとき、または欺瞞的手段若しくはその他不正手段により登録を受けたときは、その他の事業単位または個人は登録の無効を請求でき(商標法第44条)、商標法第13条第2項および第3項、第15条、第16条第1項、第30条、第31条、第32条の規定に違反するときは、商標権者(中国語「商标所有人」)又は利害関係人(中国語「利害关系人」)は登録日から5年以内に商標審判部にその登録の無効を請求できる。ただし、登録商標が馳名商標(日本における著名商標)であり、かつ悪意の出願人により登録された場合であれば、該登録商標の商標権者は無効の請求につき5年の期間制限を受けない(商標法第45条)。
・権利の存続期間は登録日より10年であり(商標法第39条)、登録日は初日に算入する。更新したい場合は、存続期間満了前12か月以内に更新手続をしなければならない。この期間に手続できなかった場合は、追加料金の支払いが必要となるが、6か月の更新手続の延長期間が認められる(商標法第40条)。
・商標が登録後3年以上不使用の場合、如何なる単位または個人も商標局に不使用取消請求ができる(商標法第49条)。
(6)留意点
2019年11月1日施行予定の改正商標法では「使用を目的としない悪意の商標登録出願」を拒絶すること(商標法第4条1項)、異議理由(商標法第33条)、無効理由(商標法第44条1項)とすることが明文化されており、加えて、悪意による商標登録行為を行政罰の対象とし、悪意による権利行使を裁判所による司法罰の対象とすることが規定されている(商標法第68条4項)。
韓国における再審査請求制度の活用および留意点
再審査請求制度について詳しく紹介する。
(a)拒絶査定書の送達日から30日以内(2か月の期間延長が1回可能)に、明細書または図面を補正した補正書に再審査請求の意思表示をしなければならない(特許法第67条の2/実用新案法第15条)。なお、この補正は形式的な補正を意味し、実質的内容を補正しなくても再審査請求の対象になる。
(b)再審査請求は取り下げることができない。また、再審査請求か拒絶査定不服審判はいずれか一方のみ申し立てることができる。よって、再審査請求後に拒絶査定不服審判をした場合、再審査請求のみが有効である。
(c)拒絶査定不服審判後には再審査請求をすることができない。ただし、再審査を請求することができる期間内であれば、拒絶査定不服審判を取り下げ、再審査請求をすることは可能である。
(d)拒絶査定不服審判請求と再審査請求が同時に請求された場合には、一旦、理由を付して補正書を出願人に差し戻す。その後、出願人が拒絶査定不服審判請求を取り下げれば、再審査請求が有効とされる。
(e)再審査請求された場合、拒絶査定は取り消されるが、それ以前に行われた審査手続は有効である。
(f)再審査で以前の拒絶理由が解消されれば特許査定となり、解消されなければ拒絶査定となる。
(g)再審査で以前の拒絶理由が解消されたが、他の拒絶理由が新たに発見されれば、拒絶理由通知書が発付される。
(h)再審査で提出された補正書により発生し、審査官に指摘されなかった拒絶理由がある場合は、最終拒絶理由通知書が発付される。
(i)再審査で再度拒絶査定されれば、拒絶査定書の送達日から30日以内(2か月の期間延長が1回可能)に拒絶査定不服審判を請求することができる。ただし、拒絶査定不服審判時には明細書等の補正はすることができない。
(j)2017年3月1日以降に特許査定された出願において、特許査定後、明らかな拒絶理由を発見した場合には、審査官は職権で特許査定を取消し再審査(職権再審査)することができる。なお、審査官は特許査定を取消す事実を出願人に通知しなければならない。
(k)留意事項
まず拒絶査定を受けたら、再審査対象かどうか確認をする。即ち、特許または実用新案の出願日(国際出願、分割出願のすべての出願日)が2009年7月1日以降であれば、再審査請求の対象である。再審査請求時の明細書等の補正は、補正できる最後の機会であり、再審査で再度拒絶査定を受ければ、拒絶査定不服審判請求時には補正をすることができない点を留意しなければならない。
再審査請求は取り下げすることができない。また、拒絶査定不服審判後には再審査請求をすることはできない。よって、どちらを選択するのかを十分に検討しなければならないが、既に説明したように、再審査を経て再度拒絶査定が出た場合も拒絶査定不服審判(この審判手続に補正の機会は伴わない)を請求できるので、再審査請求を選択する方が特許査定を受ける可能性は高まるといえる。なお、再審査を経て出された再度の拒絶査定に対する拒絶査定不服審判の請求期間中に(拒絶査定書の送達日から30日以内(2か月延長可能))、補正をしたい発明について分割出願手続を行えば、その分割出願に係る発明についてさらに補正の機会を得ることができる。
日本とベトナムにおける特許審査請求期限の比較
1.日本における審査請求期限
日本においては、審査を受けるためには出願審査請求を行う必要がある。出願審査請求は出願の日から3年以内に行うことができ、この期限内に出願審査請求がされない場合は、その特許出願は取り下げられたものとみなされる。
出願が国内優先権の主張を伴う場合や、パリ条約による優先権の主張を伴う場合においても、請求期間の起算日は実際に特許出願がされた日である。
PCTルートの場合は、国内書面を提出し、手数料の納付を行った後(外国語特許出願である場合はさらに翻訳文を提出した後)でないと、出願審査請求をすることができない(特許法第184条の17)。
なお、審査請求は出願人だけでなく、第三者も行うことができる。(特許法第48条の3第1項)。
条文等根拠:特許法第48条の2、第48条の3第4項、第184条の17
日本特許法 第48条の2 特許出願の審査
特許出願の審査は、その特許出願についての出願審査の請求をまって行なう。
日本特許法 第48条の3 出願審査の請求
特許出願があったときは、何人も、その日から三年以内に、特許庁長官にその特許出願について出願審査の請求をすることができる。
2 第四十四条第一項の規定による特許出願の分割に係る新たな特許出願、第四十六条第一項若しくは第二項の規定による出願の変更に係る特許出願又は第四十六条の二第一項の規定による実用新案登録に基づく特許出願については、前項の期間の経過後であっても、その特許出願の分割、出願の変更又は実用新案登録に基づく特許出願の日から三十日以内に限り、出願審査の請求をすることができる。
3 出願審査の請求は、取り下げることができない。
4 第一項の規定により出願審査の請求をすることができる期間内に出願審査の請求がなかったときは、この特許出願は、取り下げたものとみなす。
5 前項の規定により取り下げられたものとみなされた特許出願の出願人は、第一項に規定する期間内にその特許出願について出願審査の請求をすることができなかったことについて正当な理由があるときは、経済産業省令で定める期間内に限り、出願審査の請求をすることができる。
6 前項の規定によりされた出願審査の請求は、第一項に規定する期間が満了する時に特許庁長官にされたものとみなす。
7 前三項の規定は、第二項に規定する期間内に出願審査の請求がなかった場合に準用する。
8 第五項(前項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定により特許出願について出願審査の請求をした場合において、その特許出願について特許権の設定の登録があったときは、その特許出願が第四項(前項において準用する場合を含む。)の規定により取り下げられたものとみなされた旨が掲載された特許公報の発行後その特許出願について第五項の規定による出願審査の請求があった旨が掲載された特許公報の発行前に善意に日本国内において当該発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許権について通常実施権を有する。
日本特許法 第184条の17 出願審査の請求の時期の制限
国際特許出願の出願人は、日本語特許出願にあっては第百八十四条の五第一項、外国語特許出願にあっては第百八十四条の四第一項又は第四項及び第百八十四条の五第一項の規定による手続をし、かつ、第百九十五条第二項の規定により納付すべき手数料を納付した後、国際特許出願の出願人以外の者は、国内書面提出期間(第百八十四条の四第一項ただし書の外国語特許出願にあっては、翻訳文提出特例期間)の経過後でなければ、国際特許出願についての出願審査の請求をすることができない。
2.ベトナムにおける審査請求
ベトナムにおいては、実体審査を受けるためには実体審査請求を行う必要がある。実体審査請求は、出願日または該当する場合は優先日から42か月以内に行うことができる。実体審査請求がされない場合は、その特許出願は取り下げられたものとみなされる。
なお、ベトナムにおいては何人も実体審査請求を行うことができる。
条文等根拠:知的財産法第113条第1項および第3項、産業財産権に関する省令第01/2007/TT-BKHCN号第25条1.a (ii)
ベトナム知的財産法 第113条 発明登録出願の実体審査請求 第1項
(1)出願日または該当する場合は優先日から42か月以内に、出願人または如何なる第三者も、国家工業所有権庁に対して、実体審査手数料を納付することを条件として、当該出願の実体審査を請求することができる。
ベトナム知的財産法 第113条 発明登録出願の実体審査請求
第3項
本条1項および2項に規定する期限内に実体審査が請求されなかった場合は、当該特許出願は、当該期限の満了時に取り下げられたものとみなす。
ベトナム産業財産権に関する省令第01/2007/TT-BKHCN号 第25条1.a (ii)
実体審査請求は、特許出願については優先日から42か月、実用新案出願については36か月以内に提出しなければならない。実体審査期限は、不可抗力事象(自然災害、戦争等)や客観的障害(病気、出張など)が存在する場合*1には延長することができるが、6か月を超えてはならない。
*1: 2018年1月15日施行の産業財産権に関する省令第16/2016/TT-BKHCN号により変更された。
◆日本の基礎出願について優先権を主張しベトナムに出願した場合には、以下のようになる。
日本とベトナムにおける特許審査請求期限の比較
日本 | ベトナム | |
提出期限 | 3年 | 42か月 |
基準日 | 日本の出願日 | 日本の基礎出願日(優先日) |