タイにおける商品・役務の類否判断について(中編)
(前編から続く)
3. 商品の類似性または非類似性
3-1. 商品の類似・非類似の判断方法
審査官は、出願商標と同一区分および商品・役務が関連すると予備的に考えられる他の区分において、先行商標を調査する。前記「前編2-2.3)(C)商品・役務の関連性・非関連性の検討」で述べたとおり、DIPは、各区分においてクロスチェックの対象となる関連区分のリストをウェブサイトで提供している*1。下表は、商品の各区分に関連する商品区分をDIPのウェブサイトから抜粋したものである。例えば、区分1は区分5をクロスチェックする可能性が高いことを示している。出願前調査の指定区分以外の区分とのクロスチェックに活用されたい。なお、このリストで指定されている以外の区分についてもクロスチェックが行われる例もあることに留意されたい。
区分 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 |
関連区分 | 5 | 1 | 1, 5 | 1 | 1 | 8 | 8,11,12 |
区分 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 |
関連区分 | 6 | 11 | – | 7,9 | 7 | – | – |
区分 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 |
関連区分 | 9 | – | – | – | – | – | – |
区分 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 |
関連区分 | – | 22 | 25 | 9,24 | 24,25 | 24 | – |
区分 | 29 | 30 | 31 | 32 | 33 | 34 |
関連区分 | 30,32 | 29,32 | – | 29,30,33 | 32 | – |
*1 DIPのウェブサイトを閲覧する方法を後編【クロスチェックリストの閲覧方法】に示した。
審査官は、区分とは別に、新審査基準の「前編2-2.3)(C)商品・役務の関連性・非関連性の検討」に沿って、特定の商品間の関連性を検討する。具体的には、以下の点を評価する:
(i) 商品または役務が同一の需要者グループを対象としているかどうか。
(ii) 意図する需要者が専門家か知識ある者かどうか。
(iii) 商品または役務の目的が同じかどうか。
(iv) 商品または役務が同一の流通経路を通じて販売または提供されているかどうか。
(v) 商品または役務が高価格であるかどうか。
しかし、審決・判決例によれば、上記以外の観点も存在すると思われる。例えば、商品が生産段階で関連するかどうか、商品が完成品と部品の関係にあるかどうか等が挙げられる。
商品間の関連性の判断に関する審判部の審決例および裁判所の判決例は、以下のとおり。
(A) 商品が関連しているとみなされた例
① 商標審決番号479/2564(2021)
出願商標:
区分33:ぶどう酒
引用商標:
区分32:果実ジュース、野菜ジュース、果実風味水
理由:引用商標の指定商品は、出願人のぶどう酒製造に使用できることから、両商標の商品は同じ性質を有している。
注目点:商品は生産段階において関連する、と判断された。
② 商標審決番号746/2565(2022)
出願商標:
区分7:ゴルフコース用土圧縮ローラー、ゴルフコースなどで使用する芝生用土壌改良用機械
引用商標:
区分7:道路ローラー用シート、道路ローラー用シート懸架装置、道路ローラー用コンソールボックス、クレーンシート、クレーンシート用懸架装置等
理由:両商標の商品は、同一区分であるだけでなく、同じ性質のものであると判断する。具体的には、機械である出願商標の商品と機械の部品である引用商標の商品は、一緒に使用できるとした。さらに、対象となる需要者グループも同一である。
注目点:区分とは別に、商品の関連要素、すなわち、完成品と部品の関係、需要者の対象グループも考慮して判断された。
(B) 商品が関連していないとみなされた例
① 商標審決番号1136/2565(2022)
出願商標:ELIMINATOR
区分12:航空機
引用商標:ELIMINATOR
区分12:オートバイ、オートバイの泥除け、オートバイのフレーム等
理由:両商標の商品は、同一区分にもかかわらず、使用目的、対象とする需要者グループ、流通経路が異なる。出願商標の商品は航空機であるのに対し、引用商標の商品は陸上車両である。また、需要者は、使用目的に応じて、商品を購入する前にある程度の調査を行うと考えられる。したがって、両商標の商品は、同じ性質のものではない。
注目点:本審決は、審判部が商品に関する様々な要素を考慮していることを示している。具体的な使用目的を考慮し、その結果、異なるタイプである車両に関連性はないと判断している。さらに、車両の特別な特性を考慮し、需要者は通常、注意して購入すると判断している。以上の理由により、混同が生じる可能性は低いとされた。
② 商標審決番号964/2564(2021)
出願商標:
区分25:スポーツに関連する全ての被服
引用商標:
区分25:上着(下着およびスポーツ用衣料は除く。)
理由:同一区分ではあるが同一商品ではなく、また、引用商標は「スポーツ用衣料」を明確に除外している。したがって、両者の商品は、同じ性質のものではない。
注目点:審判部は、商品の特定の使用目的を検討する。本審決例では、具体的な使用目的が重複していないことから、両者の商品は関連性がないとされた。
③ 商標審決番号87/2564(2021)
出願商標:
区分7:卵ベースの食品を精製するために使用される機械、卵食品加工機械、卵食品の包装に使用される機械
引用商標:
区分7:ホイールローダー(訳注:ブルドーザーの足回りがタイヤで受器が比較的大きい運搬車両)、ロードホールダンプ機械(訳注:坑内採掘に使用され比較的大きいホイールローダーの1種)、コンクリート舗装機、採掘機など
理由:出願商標の商品は、卵から食品を加工するための特別なものであるのに対し、引用商標の商品は、様々な使用目的を意図した機械であり、広範な産業に関連するものであると説明している。これらの事実を踏まえると、両商標の商品は、同じ性質のものではない。さらに、これらの商品は、高価格であり、仕様も様々である。対象となる需要者は、知識が豊富で、混乱することなく、目的に従って商品を正しく選択できる人である。
注目点:審判部は商品の種類(本審決例は、どちらも機械)とその使用目的を考慮する。特定目的の商品は、一般目的の同じ商品とは関連が生じない。また、商品が高価格で仕様が多様である場合は、対象需要者は通常、かかる商品についての知識を有しており、混同の可能性はない。
④ 商標審決番号246/2563(2020)
出願商標:VELSAN
区分1:化粧産業用化学品
引用商標:VALSAN
区分1:無菌包装用途等に使用される過酸化水素溶液
理由:両商標の商品は同一区分であっても、商品の性質は、需要者が商品の出所や所有者について混同したり誤認したりしない程度に異なっている。
注目点:本審決においては、商品間の関連性/非関連性を判断するために何を考慮したかについて明示していない。しかし、「化粧品産業用」と「無菌包装用」という使用目的は異なると考えていると思われる。
⑤ 商標審決番号 41/2560(2017)
出願商標:SANDEX
区分7:機械用精密減速機、機械用割出駆動装置、ピックアンドプレース装置(訳注:機械部品の搬送装置の1種)、シート材を他の機械に順次供給する供給装置など
引用商標:SUNDEX
区分7:電気ドリル
理由:両商標の商品が同一区分であっても、両者の商品に関連性がない。出願商標の商品が工場で使用する機械であるのに対し、引用商標の商品は電気ドリルである。両者は使用目的も形状も明らかに異なる。さらに、出願商標の機械は、特定の販売代理店を通じて販売されるのに対し、引用商標のドリルは、通常の商店で販売される。このように、想定される需要者層と流通経路が異なる。最後に、出願商標の商品は高価格であるため、購入者は使用目的に応じて慎重に商品を選択する。その結果、商品の出所や所有者に関して社会的混乱は生じない。
注目点:審判部は、対象とする需要者の相違および流通経路の相違がもたらす使用目的を検討する。本審決では、商品の外観の相違も考慮し、さらに、商品を選択する際の注意の程度に影響する商品の価格も考慮した。
⑥ 商標審決番号43/2560(2017)
出願商標:NATOROSOL PERFORMAX
区分1:塗料製造用セルロースエーテル、ワニス製造用セルロースエーテル、ステイン製造用セルロースエーテルなど
引用商標:
区分1:工業用膠(にかわ)
理由:両商標の商品は、同一区分であっても、両者の商品は関連性がない。出願商標の商品が、塗料やコーティング剤の製造に使用されるのに対し、引用商標の商品は、工業用接着剤である。使用目的も産業グループも明らかに異なる。また、出願商標の商品は一般店ではなく、特定の販売店を通じて販売されているのに対し、引用商標の商品は一般的な接着剤や貼付器具の販売店で販売されるものである。また、工業用接着剤は高価格帯の商品であるため、需要者は用途に応じて慎重に購入を検討する必要がある。
注目点:審判部では、区分だけでなく、使用目的、業界、流通経路および商品価格も考慮する。
⑦ 商標審決番号4325/2561(2018)
出願商標:
区分9:ICカード(スマートカード);暗号化されたIDカード;スマートカード読取装置
引用商標:
区分9:ワイヤレスアダプター、コンピュータデータ・信号変換装置
審査官も審判部も、出願商標と引用商標とは、商品が同一区分であり同じ性質であるため、関連性があると判断したが、出願人はこの案件を中央知的財産権国際貿易裁判所に提訴した。同裁判所は、「当事者の両商品が第9類という同一の類に属するとしても、この類には広範な商品が分類されている。その上で、当事者の特定商品間の関連性を検討し、引用商標権者の商品が人と人との間の通信に使用されるモバイル機器であるのに対し、出願人の商品は電子カードとセキュリティ目的のカードリーダーまたはレコーダーとの間の非接触データ通信に使用されると認定する。このように、両当事者の具体的な商品は異なり、異なる消費者グループを対象としている。その結果、商品が同じ区分であるにもかかわらず、公衆が商品の出所や所有者について混乱したり誤解したりすることはないと考えられる。」との判決を下した。
本件は最高裁判所(終審裁判所)に上告され、最高裁判所は次のような判決を下した。「出願人の商品はセキュリティ目的で使用されるため、需要者は商品の品質を検査し、需要者の使用目的を満たすかどうかを判断しなければならない。つまり、需要者はセキュリティシステムに関する知識を持ち、両当事者の商標を区別できるはずである。さらに、両当事者の商品の使用方法は異なる。結論として、公衆が商品の出所や所有者について混乱したり誤解したりすることはないと思われる。」
注目点:審判部は、単に商品の区分と性質のみを考慮した。一方、中央知的財産権国際貿易裁判所および最高裁判所は、その他の関連要素、すなわち、対象需要者、使用目的および使用方法を検討した。
上記の判決例によれば、商品の類似性が判断される際には、様々な要素が考慮される。例えば、生産段階における商品の関連性、販売段階における商品の流通方法(取引経路)、使用目的が同一か重複するか、商品が同一需要者グループを対象としているか、商品が完成品と部品の関係で関連しているかなど、日本やタイでも同様の要素が考慮される。
3-2. ニース分類の活用
法第9条は、欧州連合理事会規則第33条(2)および(6)と同様に、指定商品・役務の分類および明確化に関する要件を規定している。商品および役務の分類に関する告示により、商品および役務はニース分類に沿った45の区分に分類される。一方、指定商品および指定役務が十分に明確化されているかどうかを判断するため、DIPは認容する商品・役務を以下の一覧に公開している。(「タイで商標登録出願された商品・役務一覧」https://tmsearch.ipthailand.go.th/)
3-3. 参照のための商品名一覧(類見出しのみの名称を含む)
前項に示した一覧は、単なる例であり、出願時に、この一覧から商品・役務の名称を選択することは必須ではない。これは、電子システムを通じて出願する場合にも、DIPに紙で提出する場合にも適用される。
ただし、「商標使用を緊急とする必要性についての商標審査結果の第一次通知に関する告示」および「緊急の場合における商標審査結果の第一次通知に関する告示」により導入された「早期審査」の対象となる出願については、その他の要件のうち、商品および役務は前記一覧から選択しなければならない。
類見出しについては、一般的に広すぎて受け入れられないと考えられている。この問題については、「3-4. 商品を指定する際の留意点」で詳述する。
3-4. 商品を指定する際の留意点
タイで商品・役務を指定する場合、出願人は以下の点に留意する必要がある。
DIPは、指定商品・役務の記載について、かなり厳格である。一般に、出願人は、意図する商品・役務を項目ごとに明確に指定する必要がある。例えば、区分 5の「医薬品用薬剤“pharmaceutical preparations”」という記載は広すぎると考えられる。例えば、アレルギー用錠剤、循環器疾患治療用製剤のように、具体的な医薬品の種類や治療目的を特定する必要がある。
また、通常、類見出しは広すぎるとみなされる。例えば、「被服、履物、帽子 “Clothing, footwear, headwear”」は区分25の類見出しであるが、認容されない。また、「すなわち」、「本区分に含まれるものすべて」、「前述のものすべて」のような広い範囲を示す表現も認められない。
タイ語で記載された商品・役務の名称と英訳の一覧がDIPウェブサイトに掲載されている。(前記、「タイで商標登録出願された商品・役務一覧」)。ただし、適切な保護を確保するため、タイ語の名称と英訳の整合性を確認することが推奨される。
なお、上記の一覧は、事前の通知なしに頻繁に更新される。審査官は、出願時ではなく、審査時に入手可能なリストに依拠する。したがって、出願時に許容された商品・役務記載が後に拒絶される可能性がある。
(後編に続く)
香港における指定商品・役務に関わる留意事項
1.出願分類
商標出願または商標登録により保護される指定商品・役務は、ニース分類としても知られる、ニース協定に基づく商品・役務の国際分類にしたがい分類される。
香港知的財産庁登録局(商標)は、指定商品・役務の分類に際して、ニース分類の最新版を使用している。本稿の執筆時点において、2023年1月1日から第12-2023版が使用されている。
指定商品・役務は、通常、ニース分類のアルファベット順リストにしたがって分類され、アルファベット順リストに記載されていない商品・役務が記載されている場合、その分類の判断は、ニース分類に定められた注釈(Explanatory Notes)と一般的注釈(General Remarks)にしたがって分類される。
香港知的財産庁登録局(商標)は、以下のような他国の商標庁により提供される商品・役務の分類に関する情報も参照する。
(a) EUIPO(欧州知的財産庁)http://euipo.europa.eu/ec2/
(b)IP Australia(オーストラリア知的財産庁)https://www.ipaustralia.gov.au/trade-marks/what-are-trade-marks/what-are-classes-of-goods-and-services/how-to-pick-classes-of-goods-and-services
(c)USPTO(米国特許商標庁)https://idm-tmng.uspto.gov/id-master-list-public.html
出願に際し、一区分における商品・役務の数に制限はない。一件の商標出願に含められる区分の数にも制限はない。ただし、オフィシャルフィーは、当該出願において申請されたニース分類の区分数に基づき課される。
2.指定商品・役務に関する審査
商標出願の指定商品・役務は、明瞭かつ簡潔な説明であって、国際分類に適合するものを含まなければならない(香港商標規則7(1)および(2))。かかる要件を充足していないと判断された場合は、不備通知が発行される(香港商標規則11(1)(a))。これに対し、2ヶ月以内(期限延長不可)に適切な商品・役務へ補正しなければならない(香港商標規則11(2))。
一部の商品・役務について適切に記載されている一方で、「本区分に属するその他すべての商品」や「その他すべての関連する役務」、「関連役務」といった広範または不明確な記述や、意図された商品・役務を判断することができないような曖昧な商品または役務の記述を含む出願についても不備通知が発行される(香港商標規則7(2))。
3.広範な用語および類見出し(クラスヘディング)
商標出願の指定商品・役務の特定の区分において、「全ての商品」、「全ての役務」のような広範な用語は明確ではないとみなされる(香港商標規則7)。また、「健康製品」、「顧問サービス」、「コンサルタントサービス」、「オンラインサービス」のような用語は、不明確な記述として受理されない。
なお、香港知的財産庁登録局(商標)は、ニース分類に記載された類見出しを使用して、商標出願をすることを認めている。
香港における判例法は、香港の現地裁判所の判決とともに、欧州連合司法裁判所(ECJ)を含む英国における判決を考慮する。「IP Translator」事件(英国弁理士会 vs 商標登録局(ECJ事件番号第C-307/10号))に関するECJの画期的判決にしたがい、当時の欧州共同体商標意匠庁(OHIM)が、共同体商標出願および登録についての商品・役務リストにおける類見出しの使用に関する長官通達第2/12号を発行したことが注目に値する。この通達は、商標出願または登録における類見出しの使用が、当該区分におけるすべての商品・役務に対する保護を与えるものではないため、出願人は、すべての商品・役務に対する保護を意図する場合は、その登録出願において、商品・役務を全て特定しなければならないことを明確にしている。
したがって、出願にかかる指定商品・役務の作成に際しては、広範な用語または類見出しを指定する場合、出願人にとって重要な具体的な商品・役務を出願時に含めることが重要である。なお、商標登録されている指定商品・役務の全部または一部が使用されていない場合には、第三者からの商標登録の取消請求により、3年間継続して不使用であることを理由として当該商品・役務の全部または一部についての登録を取り消す可能性がある(香港商標条例第52条(2)(a)および(6))。
4.多区分における類見出しまたは広範な商品または役務に関する出願
商標出願に、多区分における類見出しまたは多区分における広範な商品または役務が含まれる場合、香港知的財産庁登録局(商標)は、出願人の事業内容が、そうした全般的な商品または役務を対象としたものとは考えられないとの理由で、拒絶することができる。
このような場合、出願人は、申請された商品または役務に関連した商標の使用意図または現在の使用の正当性を示す証拠を提出することが要求される(香港商標規則7(4))。なお、出願されたすべての商品または役務についてではなく、その一部についてのみしか上記の正当性を示すことができない場合、当該商品または役務に限定しなければ、拒絶理由は解消しない。
5.商標が明らかに記述的であり、誤認を生じるおそれがある場合における指定商品の限定
商品または役務の特徴(例えば、性質、品質または地理的由来)を明らかに記述したり、消費者が誤認を生じたりするおそれの高い商標は、香港商標条例第11条(3)または(4)に基づき拒絶される。
最も一般的な例は、商品または役務について、名声を有する地名、または地理的由来を示すものとして使用されるシンボルを含んだ商標である。このような場合、消費者が誤認を生じるおそれがあるとする拒絶理由を回避するために、指定商品を限定しなければならない。例えば、第33類の「シャンパン(CHAMPAGNE)」という名称を含む商標は、指定商品を「シャンパン」のみに限定しなければならない。
6.登録商標である言葉
指定商品において、登録商標である言葉を使用してはならず、通常の商業用語に置き換えなければならない。例えば、「カラオケ(Karaoke)」は、「カラオケ装置付音声および映像装置(audio and video apparatus with sing along devices)」に、「ウォークマン(Walkman)」は「携帯用オーディオテーププレーヤーおよびレコーダー(handheld audio tape players/recorders)」に、「ジャグジー(Jacuzzi)」は「渦巻き風呂(whirlpool baths)」にそれぞれ置き換えなければならない。その他、登録商標とこれに対する代替用語案のさらなる例については、以下において確認することができる。
(https://www.ipd.gov.hk/filemanager/ipd/common/trade-marks/specifications_e.pdf)
7.小売および卸売サービス
第35類に分類される「小売サービス」は、小売される商品(例:「被服の小売)、または役務の提供方法(例:「グローバルコンピュータネットワークを介して提供される小売サービス」)を述べることにより、適切に定義しなければならない。「卸売サービス」についても同様である。
8.参考情報
香港知的財産庁登録局(商標)では「商標登録ワークマニュアル(TradeMarks Registry Work Manual)」において、商品・役務の分類(Classification)を含む登録実務に関してさらに詳細なガイドラインを示している。
韓国における指定商品・役務に関わる留意事項
韓国では、「標章の登録のための商品およびサービスの国際分類に関するニース協定」(以下、ニース分類)が1999年1月8日に発効し、ニース分類に準拠した「商品および役務の記述と類区分に関する告示」(以下、「商品告示」という。)が韓国語で示されている。現在、当該告示はニース分類の第12版を準拠している。
商標権の権利範囲は、指定された商品や役務の内容によって決まるため、指定商品および指定役務を具体的かつ明確に記載しなければならない。韓国特許庁では、「商品告示」に記載されている商品・役務の名称を採用することを推奨している。また、1出願で多区分を指定した出願が可能である。
指定商品および指定役務が明確か否かは、「商品告示」に記載された名称を基準として、「商品告示」に記載された名称以外の商品および役務の場合には、複数の区分に該当しないように明確に記載されること、およびその商品・役務が具体的に記載されていることが要求される。同じニース分類を採用している日本と韓国でも、各商品・役務でカバーされる権利範囲が異なることがあるため、注意が必要である。例えば、日本では、「被服」には帽子が含まれるが、韓国では、「被服(피복)」という商品名称自体が「商品告示」に記載されていない。韓国では、「衣類(의류)」には帽子(모자)、靴(신발)が含まれないので、日本における「被服」と同じ権利範囲を希望する場合には、韓国では、「衣類、帽子、靴」を指定して出願する必要がある。日本語の商品名に対応する韓国語の商品名の具体例については、日中韓類似群コード対応表(ニース国際分類[第12-2023版]対応)を参照し、活用されたい。
1.指定商品および指定役務記載時の留意点
指定商品および指定役務の記載には、名称ごとにコンマ(,)で仕切る必要がある。また、「他区分に属しない…」、「その他…」、「各種…」のような表現は認められない。「商品告示」に記載されている名称以外には、「…部品」、「…付属品」のような記載は認められない。そのため、具体的な部品名および付属品名を記載しなければならない。指定商品および指定役務の名称に、他人の登録商標が用いられた場合は、商品や役務の範囲が不明瞭、もしくは指定商品および指定役務の記載が不明瞭とみなされる。例えば、「iPhone用コンピュータプログラム」との商品名の記載は不明確とされ、「携帯電話用コンピュータプログラム」と記載しなければならない。
2.ニース分類上の類見出し(クラスヘディング)および包括名称
出願時に指定した商品・役務が、ニース分類上の類見出し(クラスヘディング)またはニース分類上の具体的な商品リスト(アルファベット順リスト)に記載された商品・役務を韓国語表記に翻訳した名称であっても、「商品告示」の名称と同一でない場合および分類される区分が「商品告示」とは相違し他の区分に該当する場合は認容されない。また、狭義の包括的名称および広義の包括的名称は、商品告示に明記されている名称のみが認められる。
3.指定商品および指定役務の補正可能範囲
出願人は、願書に記載された指定商品および指定役務を自発的に補正することができるが、補正を通して、指定商品および指定役務を削除または不明瞭とされた記載を具体的記載に補正することは可能でも、出願時の権利範囲を超える指定商品および指定役務を追加することは認められない。商品・役務の補正に関する要旨変更の判断基準は、願書に記載された指定商品および指定役務を基準とする。ただし、2016年改正審査基準施行後の出願からは、出願時の権利範囲内で指定商品および指定役務を追加する補正が認められることになり、これにより包括的名称はそのまま残しつつ、細分化された名称を追加することが可能になった。例えば、「衣類」を、「衣類、下着、ズボン」へ補正することが可能となった。
4.指定商品および指定役務の外国語併記が可能
指定商品および指定役務は、韓国語表記が原則であり、韓国語表記された指定商品および指定役務の名称を明確にしたり、具体的に説明したりする必要がある場合には、括弧書きで漢字または英語を併記することができる。この場合、審査官は、韓国語で表記された商品の名称を基準として権利範囲を解釈する。
5.指定商品および指定役務の追加出願が可能
出願中の商標または登録商標に指定商品および指定役務を追加して登録を受ける、「指定商品および指定役務追加登録出願」が可能であり、追加される商品および役務の範囲には制限がない。これにより、出願時に指定商品および指定役務に抜けがあり、登録後に指定商品および指定役務の範囲を拡大する必要性が生じた場合でも、新規出願することなしに既存の商標登録に追加して登録を受けることができる。指定商品追加登録出願が登録された場合、新しい登録証は発行されず、原出願または原登録に併合される。指定商品追加登録の存続期間は、原登録の存続期間と同一であるため、効率的に商標権を管理できるという利点がある。
6.出願手数料および登録料(2023.8.1施行)
分類の1区分ごとに、出願料52,000ウォン、登録料201,000、更新登録料300,000ウォンが発生する。
7.指定商品および指定役務数が20個を超える場合、加算金が発生(2023.8.1施行)
出願、登録、更新時に分類の1区分内の指定商品および指定役務の記載数10個を超える場合、超過する記載数ごとに2,000ウォンの加算金が追加される。補正によって指定商品および指定役務の記載数が増加して10個を超える場合も同様である。ただし、マドリッド出願の場合、加算金はない。
8.使用意思確認制度
指定商品および指定役務の中に出願人に使用の意思がないと疑われるものが含まれている場合や、法令等によって客観的に使用することができないと合理的に疑われる場合、審査官は、拒絶理由通知にて確認することができる。出願人が使用することができないと合理的に疑われる例としては、以下が挙げられる。
(1) 個人が、大規模な資本および施設などを必要とする商品名や役務名を記載した場合(例:デパート業、大型ディスカウントストア、銀行業など)
(2) 関連性のない非類似の商品名や役務名を多数記載した場合(関連性のない類似商品群を3個以上指定した場合等)
(3) 個人が資格等の必要となる役務に関し、関連性のない役務名2個以上を指定した場合(例:病院業、法務サービス業、建築設計業)
ブラジルにおける商品・役務の類否判断について
1.はじめに
日本では、先行商標と出願商標が非類似とされているケースで、ブラジルでは、同じ商標の出願について、同じ先行商標と類似と判断され、拒絶査定を受けることがある。この相違は、両国の指定商品・役務に関する審査実務の違いによって生じる場合がある。例えば、日本の商標審査では、「類似群」と呼ばれるグループ分けを採用しており、商品・役務が同じグループに属さない限り、原則として非類似とみなされる。しかし、ブラジルの商標審査ガイドライン(以下、「審査ガイドライン」という。)では、商品・役務を事前にグループ分けしていないため、判断が異なる可能性がある。そこで本稿では、審査ガイドラインに基づく商品・役務の類似・非類似の判断について紹介する。具体的には、審査ガイドラインに基づく商品・役務の類否判断の主となる市場親和性について概説し、具体的な併存登録例を紹介するとともに、日本の出願人に関心があると思われる類見出しと「小売」役務について述べ、日本の出願人がブラジルにおける商品・役務の類否を判断する際の一助としたい。
2.商標の審査方法について
ブラジルにおける審査方法は、以下の順番で行われる。
① 商標の合法性、識別性、真実性の分析
② 商標の登録可能性の分析
③ 実体審査前の異議申立の有無および異議申立に対する反駁を考慮した評価
④ 商標の性質と表示形式による必須書類の評価
ここで②の「商標の登録可能性の分析」について、ブラジル産業財産法第124条に、登録を受けることができない標識が列挙されているが、具体的には同条の(I)~(XXIII)項を順番に分析することになる。なお、商品・役務の相対的要件は、同条(XIX)項に規定されている。
また、④は、商標見本の性質及び形状を理解するための必須書類の評価に加え、団体標章の禁止事項および使用規則ならびに証明標章の管理規約などの必須書類の評価を意味する。
3.商品・役務の類似・非類似について
類否判断は、市場親和性の程度を評価することで行う。具体的には、商品・役務の以下の特徴が考慮される(審査ガイドライン5.11.2「市場親和性の検討」(Manual de Marcas » 05 Exame substantivo » 5.11.2 Exame da afinidade mercadológica))。
商品・役務の間の親和性の評価における特徴について、各項目の重みづけは、商品・役務が位置する市場セグメントの特徴に従って評価され、公衆を混乱または不当な関連付けに導く能力の大小によって決まる。
同一商品・役務間では当然であるが、異なる種類の商品・役務間であっても、それらが類似の特性を持っている場合、また、それらの間に密接な関係がある場合には、混同や不当な関連付けの危険性が生じるため、市場親和性の程度を評価するために、商品・役務についての以下の項目を観察する。
a) 性質
性質とは、商品・役務について知られている本質的な性質、その種類、ジャンルまたは特定のカテゴリーを指す。商品の場合、性質は通常、組成(成分、構成要素、原材料など)、動作原理(電動、機械的、電気的、生物学的、化学的など)、物理的状態(液体/固体/気体、柔軟性/剛性など)といった要素の組み合わせによって評価される。役務の場合は、通常、その役務が該当するカテゴリーで評価される(金融関連、医療関連、輸送関連など)。
b) 使用目的および使用形態
商品・役務に期待される効用および機能、ならびに使用、または、役務に関する契約の形態、その条件もしくはその状況を指す。
c) 補完性
一方の商品・役務が、他方の商品・役務の使用にとって不可欠または重要である場合、補完性があるとみなされる。
d) 競争性または互換性
互いに代替可能な商品・役務は、競争性または互換性があるとみなされる。一般的には、同じ目的を持ち、同じ対象者を対象とした商品・役務である。
e) 流通チャンネル
流通チャンネルや販売・供給拠点が同じである商品・役務は、マーケティング上の親和性が高く、消費者に同じ出所から生まれたものとして認識されるリスクが高まる。ただし、この項目は、マーケティングの親和性の特徴づけにとって決定的なものとは考えられない。スーパーマーケットやデパートのような中・大規模の商業施設は、それらの間に類似性や市場親和性はなく、多様な性質の商品を提供しているからである。
f) 対象消費者
同じ消費者(一般消費者または専門消費者)を対象とする商品・役務は、マーケティングの観点から類似していると考えられる。しかし、この項目は単独で、多くの全く異なる商品・役務が同じ一般消費者によって消費されたり、契約されたりするため、市場の親和性を特徴づける決定的な項目とはみなされない。
g) 注意の度合い
商品購入時や役務契約時での対象消費者の注意の度合いも、商標間の競合の可能性を評価する上で重要である。対象となる一般消費者がほとんど注意を払わない場合、混同のリスクは増大する。例えば、日常的に使用される場合、商品・役務の購入時において計画をたてることはほとんど必要ないが、高額、購入頻度の低い商品・役務、リスクの高い商品・役務を購入する場合、一般消費者は購入時にその商品・役務に関する追加情報を求めて慎重に吟味する傾向がある。また、専門的な消費者は、その市場に関する経験や知識が豊富であるため、より高い注意を払って購入する傾向がある。
h) 通常の起源
通常の起源とは、商品の製造、販売または役務の提供を担う出所を指す。ここで出所とは、実際の生産や供給の場所ではなく、商品・役務を一般的に担っている企業等の組織を指す。この項目は、特定の市場で活動する代理店が市場の拡大を図る慣行に加え、製造・供給方法や設備、関連する技術的知識などの要因に影響される。
4.同一商標について、指定商品・役務の類似および非類似の例
市場親和性について理解を深めるため、審査ガイドラインにおいて示された、同一商標について指定商品・役務が類似とされる4例と非類似とされる1例を示す。
商品・役務 | 該当する市場親和性 | ||
牛乳 | 類似 | チーズ | 性質、通常の起源、流通経路 |
スポーツウェア | 類似 | テニスラケット | 対象消費者、補完性、流通経路、 通常の起源 |
繊維産業機械 | 類似 | 産業機械の修理 | 対象消費者、通常の起源、補完性 |
タブレット | 類似 | 電子機器用 皮革カバー |
補完性、対象消費者、通常の起源 |
洗濯用洗剤 | 非 類似 |
牛乳 | 一般大衆を対象とし、同一の施設で販売されているが、性質、起源、使用目的が異なり、補完性、互換性がないことから、市場親和性はない。 |
5.Class Heading(類見出し)の取り扱いについて
ブラジルでは、ニース国際分類の類見出しは分類適格性について事前承認されていることから、記載された表示をそのまま商品・役務として指定して出願し、それを登録することができる(審査ガイドライン5.4.3)。この場合、類見出しを指定するということは、その分類に含まれるすべての商品・役務の保護を求めるということである。一方、産業財産法第128条では「・・・事業に関連する標章に限り登録出願をすることができ,その事情を実際の請求において宣言しなければならない。当該宣言を実施しなかったときは,法律上の処罰が科せられる。」と規定されている。類見出しを指定することで関連しない事業について宣言することがないように留意しなければならない。
6.小売役務について
先に示したブラジルの産業財産法第124条のとおり、先行商標と同一または類似の商標であって、商品・役務について同一または類似の出願商標が、混同を引き起こす可能性がある場合、当該出願商標の登録は禁じられている。したがって、「小売」役務の先行商標が存在すれば、その識別力によっては、商品商標に対して排他的になる可能性がある。
不使用に基づく商標取消は、全てまたは一部の商品・役務について請求することができるが、商品名を限定しない「小売」役務の場合は、小売されていない商品については不使用による取消理由が存在することになる。
シンガポールにおける商品・役務の類否判断について
1.はじめに
日本では、先行商標と出願商標は非類似とされているケースで、シンガポールでは、同じ商標の出願について、同じ先行商標と類似と判断され、拒絶査定を受けることがある。この相違は、両国の指定商品・役務に関する審査実務の違いによって生じる場合がある。例えば、日本の商標審査では、「類似群」と呼ばれるグループ分けを採用しており、商品・役務が同じグループに属さない限り、原則として非類似とみなされる。しかし、シンガポール商標審査ガイドライン(以下、「審査ガイドライン」という。)では、商品・役務を事前にグループ分けしていないため、判断が異なる可能性がある。そこで、本稿では、審査ガイドラインに基づく商品・役務の類似判断について紹介する。なお、著名商標との類似性、同一図形要素商標との類似性については、商品・役務の類似性を超えて保護される可能性があるため、考慮しないこととする。
2.商標の類似、非類似を判断する際のアプローチ
シンガポールにおける審査方法は、具体的には、以下のようなアプローチが一般的である。
① 出願商標が、識別力を有するか否かを判断する。
② ①で識別力があると判断された場合、出願商標が、同一/類似である先行商標を特定する。
③先行商標と本願商標の指定商品・役務が、同一/類似であるか否かを判断する。
適用される法律は、商標法第8条である。
異議申立に際しては、審査ガイドライン「相対的拒絶理由 5.1 ステップ・バイ・ステップ アプローチ」に、以下の判断手法で行われることが記載されている。
a. 出願商標が、先行商標の標識と同一/類似であるかを判断する。
b. 出願商標の指定商品・役務が、先行商標の指定商品・役務と同一/類似であるかを判断する。
c. a.およびb.の同一性/類似性から、公衆が混同するおそれがあるかを判断する。
a.の適用上、審査官は、標識が類似しているかどうかを確認する際、特に専門的および非専門的な識別力および支配的な構成要素に留意しつつ、標識が与える全体的な印象に基づいて、外観、称呼および観念の類似性を検討する。
Sariko Connoisseur v. Ferrero [2012] SGCA 56において、「登録商標は識別性があればあるほど、類似していると判断されないためには、商標に十分な変更が加えられたこと、または商標に差異があることを示す必要がある。」と控訴裁判所は判示した。
b.については、「3. 商品・役務の類似、非類似を判断する際のアプローチ」の項で詳しく述べる。
c.の適用上、混同の可能性を判断する際、審査官は、例えば、購入取引の長さ/複雑さ、高い教育水準を有する購入者または専門家によって購入されるなどの購入時に専門的な知識が必要か否かなど、商品・役務の購入において行使された注意の水準を考慮する。すなわち、高い注意水準が必要な場合、混同の可能性は、低い要因となる。
3.商品・役務の類似、非類似を判断する際のアプローチ
シンガポールでは、British Sugar PLC v. James Robertson & Sons Ltd., 1996 R.P.C. 281 の判決に基づき、ブリティッシュシュガー・ファクターと呼ばれる原則が確立した。すなわち、上記審査ガイドライン「相対的拒絶理由 5.3.3. 商品・役務の類似性」に示されているように、商品と役務とを特に区別せず、(a)~(f)の要件が規定されている。
(a) 商品・役務の用途;
(b) 商品・役務の需要者;
(c) 商品・役務の特性;
(d) 商品・役務が市場に到達するそれぞれの取引経路;
(e) セルフサービスの消費財商品の場合、それらがスーパーマーケットにおいて実際に陳列され、あるいは陳列され得る場所。(例えば、同じ棚であるか否か、など。);
(f) 商品・役務がどの程度競争的であるか。(例えば、市場調査会社が、当該商品・役務を同じ部門に分類するか否か。取引関係者が、当該商品を如何に分類するか。)
上記要件は、審査ガイドラインによれば全て適用されるとは限らず、各要素の重み付け(the weight which ought to be accorded to each factor)は、関連する全ての要素を評価した上で判断する、とされており、ケースバイケースで適用されると考えるべきである。
4.ニース分類の適用
シンガポール商標規則の規則19において、出願日に有効なニース分類を適用することが規定されている。
上記審査ガイドライン「相対的拒絶理由 5.3.3.1 商品または役務の区分は重要か?」で示されているように、商品・役務が分類される区分によって、その類似性が決定されるわけではない。すなわち、商品・役務がニース分類の同一区分に属するからといって、その商品・役務が自動的に類似になるということではない。例えば、第9類は広範な商品を対象としており、この区分に属する「消火器」と「コンピュータ」とは類似とみなされない。
さらに、異なる区分であっても、商品・役務は類似していると判断される場合がある。つまり、ニース分類の区分番号が異なるからといって、自動的にその商品・役務が非類似であるという結論には至らない。
商品・役務の類似性の判断は、願書中の指定商品・役務を具体的に比較しなければならない。
また、新興国等知財情報データバンクでは、「シンガポールにおける商標出願に際しての商品および役務の記述に関する留意事項」を公開しており、併せて参照されたい。
関連記事:「シンガポールにおける商標出願に際しての商品および役務の記述に関する留意事項」(2016.03.29)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/10417/
5.類見出し(Class Heading)について
ニース分類の類見出しは、特定の区分に含まれる商品および役務の一般的な表示で、類見出しで構成される指定商品・役務が、その区分に含まれるすべての商品・役務をクレームしていることと解してはならない(シンガポール商標審査ガイドライン「商品・役務の区分 5.3 ニース分類における類見出し」)。
類見出しについては、新興国データバンクの下記関連記事の「(2) クラスヘディング」の項も併せて参照されたい。
関連記事:「シンガポールにおける指定商品又は役務の願書への記載方法」(2014.07.22)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/6187/
6.商品名/役務名選択時の留意点
シンガポールでは、商品名・役務名の選定について、特に制限はない。すなわち、MGSM(Madrid Goods and Services Manager)リスト以外の商品名・役務名も可能である。
新興国データバンクの関連記事「シンガポールにおける指定商品又は役務の願書への記載方法」(前出)も併せて参照されたい。
ベトナムにおける商品・役務の類否判断について
1.はじめに
日本では先行商標と出願商標は非類似とされているケースであっても、ベトナムでは、同じ商標の出願について、同じ先行商標と類似と判断され、拒絶査定を受けることがある。この相違は、両国の指定商品・役務に関する審査実務の違いによって生じる場合がある。例えば、日本の審査基準では、「類似群」と呼ばれるグループ分けを採用しており、商品・役務が同じグループに属さない限り、原則として非類似とみなされる。しかし、ベトナムの審査基準では、商品・役務を事前にグループ分けしていないため、判断が異なる可能性がある。そこで、本稿では、ベトナムの審査基準に基づく商品・役務の類似・非類似の判断について紹介し、日本の審査基準との相違点を明らかにし、日本の実務家が、ベトナムの商品・役務の類否判断について、理解を深めることを目的とする。
具体的には、①商品・役務の類似・非類似を判断する基本原則、②商品間の類似・非類似、③役務間の類似・非類似、④商品・役務間の類似・非類似、の4点について比較・検討する。
なお、著名商標の類似性、同一図形要素商標の類似性については、商品・役務の類似性を超えて保護される可能性があることから論じていない。
2.商標の類似・非類似を判断する際の基本原則
現在、商標の類似・非類似の判断は、ベトナムの知的財産法、およびそれに対応する以下の規則に準拠する:
・知的財産に関する2005年11月29日法律第50/2005/QH11号(2009年、2019年、2022年に改正・補足)(以下、「知的財産法」という。)
https://drive.google.com/file/d/1JtFe0bhucgnMVObOtHSXOCR0NYp13gnM/view?usp=sharing
・通達第16/2016/TT-BKHCN号(2016年6月30日付)(2007年2月14日付通達第01/2007/BKHCN号、2010年、2011年、2013年、2016年に修正・補足)(以下、「通達」という。)
https://ipvietnam.gov.vn/documents/20195/702193/5.+Circular+16.2016.doc/10e75563-a4dd-4c3f-a285-cf239585cca1
ベトナム知的財産庁(以下、「IP Viet Nam」という。)における商標の審査手法は、本質的には、日本とほぼ同様であり、絶対的要件と相対的要件の両方に基づいて、出願商標の登録可能性を検討する。IP Viet Namにおける商標の実体審査の順序は、通常、以下の通りである:
a) 商標の識別力の評価:出願人の証拠や書類を受領した場合、まず、広範な使用や周知性による商標の識別性を検討する。
b) 引用商標の検索:国内外の商標データベース、およびその他の情報源から、引用商標を検索する。
c) 出願商標と引用商標との類似性の評価:原則として、出願商標と引用商標の類否判断は、標識(mark)と商品・役務との両面から行う。標識の類似は、公衆に与える影響を評価するために、標識の構造、内容、称呼、外観及び観念(意味)を比較することにより判断する。商品・役務の類似性は、その性質(要素、構造)、機能、使用目的、出所、販売・流通経路に基づいて判断する。
d) 出願商標の登録可能性:出願商標の登録可能性について、その保護範囲とともに結論を下す。
ベトナムには、日本のような指定商品・役務を「類似群」に分類する制度は公式には設けられていない。しかし、実務的には、IP Viet Namの審査官は、商品・役務の類似性を検討する際に、日本と同様な類似性評価を適用している。例えば、第5類の「医薬品」と第10類の「医療器具」は、医療用として同一の目的を有するため、互いに類似するものとみなされ、また、第42類の「建築物の設計・測量」は、第37類の「建築工事」とともに建築目的で提供されるため、類似するものとみなされる。
3.商品間の類似・非類似について
3-1.商品間の類否判断手法
通達の第39.9条において、商品の性質(要素、構造)、機能、使用目的、出所、販売・流通経路の観点から商品を比較する類似・非類似の判断方法が示されている。しかし、ベトナムでは、商品・役務の評価に関する詳細な審査ガイドラインは、現在、存在していない。
なお、通達では、同一とは、(i)性質、機能及び使用目的が同一である場合、または、(ii)性質がほぼ同一であり、機能及び使用目的が同一である場合、とされている。
事例1:「自転車」と「オートバイ」
いずれも第12類で同じ陸上車両であるため、同一の商品とみなされる。
また、類似とは、(i)類似の性質を有し、(ii)類似の機能及び使用目的を有し、(iii)同一の商業経路で販売される(同一の形態で流通している、または、同一の種類の店舗で共に販売もしくは競合している)場合とされている。
事例2:「第3類の歯磨き粉」と「第21類の歯ブラシ」
同じ店舗で一緒に販売されているため、類似の商品とみなされる。
以下は、標識は同一であっても、商品について非類似として、ベトナムで保護された事例である。
事例3:商品が類似として拒絶され、類似商品を削除して認容された審決例
出願した国際登録商標「VANQUISH」(第1045076号、第18類:バッグ等、ポーチ、ハンドバッグの枠、財布の枠、皮革の工業用包装容器、化粧箱(嵌め込み式でないもの)、傘、ステッキ、杖、杖およびステッキの金属部品、ステッキの柄、毛皮、)に対し、引用商標として国際登録商標「VANQUISH」(第901894号、第28類:ゴルフクラブ、ゴルフバッグ、ゴルフクラブ用ヘッドカバー)が引用され、第18類の商品が類似するとの拒絶査定を受けた。出願人は、第18類の下線部分残して、他を削除補正の上、審判請求した。
審判部は、「(補正後の)商品は、通常の小売店で販売され、一般消費者に販売されている。したがって、特徴的なスポーツであるゴルフに特別な関心を持つ特定の顧客をターゲットとして、ゴルフ業界に特化し、ゴルフスポーツの専門店で販売されている引用商標を付した商品と類似する可能性はない。」との審決を下した。
3-2.ニース分類の活用と参考商品・役務名リスト
現在、IP Viet Namでは、ニース分類の第12版が採用されており、下記リンクにおいて、参考商品・役務名のアルファベットリストが英語・ベトナム語で併記の上、公開されているので活用されたい。
https://ipvietnam.gov.vn/documents/20182/1425331/%28IPVIETNAM+PORTAL%29+NICE+CLASS+version+12-2023.pdf/fbcb4fc5-487e-468c-a291-63450e79254d
3-3.商品を指定する際の注意点
一般に、IP Viet Namは、類見出しの商品を受理しない(ニース分類のアルファベットリストにも記載されている場合を除く)。したがって、出願人は、IP Viet Namからの拒絶を避けるために、ニース分類のアルファベットリストに記載されている特定の商品を選択する必要がある。
4.役務間の類似・非類似について
4-1.役務間の類否判断手法
商品と同様に、役務の類似性も、役務の性質(要素、構造)、機能、使用目的、出所、販売・流通経路の観点から判断する。同一および類似に関する基準も商品と同様である。
以下は、標識は類似だが、関連する役務の相違により、登録が認められた例である。
4-2.小売役務
以前は、第35類の「小売役務」という用語は許容されていたが、現在では、漠然としすぎていると判断され、出願人は小売役務の対象となる商品を特定しなければ、拒絶される。
「特定の商品の小売役務」を指定する出願商標は、商品にかかわらず、同一・類似の小売役務を指定する引用商標が存在すれば、原則、登録は認められない。ただし、引用商標の小売対象となる商品が、出願商標の「特定の商品」と誤認・混同するおそれがないと判断された場合、類似とはされない。
以下は、一般役務「小売役務」を指定した出願が拒絶理由通知を受けた事例である。
事例5:「小売役務」を含む国際登録商標に対し拒絶通報が出された例
出願された国際登録商標「BETTR」(第1663894号)は、第35類としてさまざまな商品の小売役務に加え、第30類、第41類、第43類を指定していたところ、(i)「小売役務」の用語が曖昧すぎること、および(ii)本願商標は、国際登録商標「BETTER, device」(第1566946号、第7類「電池製造機;電池ケーブル圧延機;電池コアプレス機;電池セル密封機;電池産業用機械」を引用して、類似である、として拒絶された。
出願人は、「小売役務」を「コーヒー、ココア、茶製品およびそれに付随するコーヒー・茶製品、すなわちコーヒーカップ、コーヒータンブラー、コーヒーフラスコ、コーヒー器具および付属品、紅茶器具および付属品、ホールビーンおよび挽いたコーヒー、茶葉、ティーポット、ステッカー、包装・調理された食品・飲料、石鹸および石鹸製品に関する小売役務」に補正し、引用商標の商品とは実質的に異なる旨を主張し、現在も依然として係属中(審査中)である。
この事例は、「特定の商品の小売役務」を指定した出願商標が、当該商品を指定する類似先行商標の引例によって拒絶される例が示されている。つまり、商品対商品、役務対役務の場合だけでなく、役務対商品の場合にも引用される可能性を示している。この場合、出願人は、商品商標と重ならないように「小売役務」の範囲を限定する必要がある。
4-3.役務を指定する際の注意点
IP Viet Namは、ニース分類のアルファベットリストに記載以外の役務を認めていない。したがって、出願人は、ニース分類のアルファベットリストに記載されている特定の役務を選択し、拒絶を回避する必要がある。
5.商品・役務間の類否について
以下の場合、商品と役務とが類似していると判断される:
(i) 両者がその性質において関連性を有する場合(自動車と自動車修理サービスなど両者が互いに関連性を有する場合)、
(ii) 両者がその機能において関連性を有する場合(化粧品と化粧品販売など両者がその機能を果たすために互いに依存する場合)、または
(iii) 両者がその実施方法において密接な関連性を有する(事例6のように、一方が他方の使用または利用の結果である)場合。
事例6:「第25類:被服」と「第40類:裁縫」
「被服」は、「裁縫」から生み出されるため、類似とみなされる。
【まとめ】
ベトナムでは、商品・役務の類否判断について、日本のような類似群制度は採用されておらず、商品間、役務間および商品・役務間のいずれについても、性質(要素、構造)、機能、使用目的、出所、販売・流通経路の観点から比較して類否を判断する方法が、採用されている。
また、役務については、ニース分類のアルファベットリストに記載されている特定の役務しか採用されていないことに留意する必要がある。
台湾における商品・役務の類否判断について(前編)
1.はじめに
台湾智慧財産局(日本の特許庁に相当、以下「知的財産局」という。)は、「誤認混同のおそれに関する審査基準(混淆誤認之虞審查基準)」を制定しており、そこで商品または役務の類否について解説している。ちなみに、知的財産局が、別途、「商品・役務分類及び相互検索参考資料(商品及服務分類暨相互檢索参考資料)」を作成、公開しており、商品・役務の類否判断に際し、重要な参考資料となっている。
本稿では、主にこの「誤認混同のおそれに関する審査基準」および「商品・役務分類及び相互検索参考資料」を参考にして主題を検討し、商品または役務の類否判断の基本的な考え方、商品間の類否、役務間の類否、商品・役務間の類否、の4点に分けて解説する。
2.基本的な考え方
(1) 台湾の審査手法について
知的財産局の商標審査実務では、商標が登録できるか否かを審査する際、日本と同様、まずは、①出願商標が識別力を有するか否かを判断し、次いで、②①で識別力を有すると判断した場合、出願商標の指定商品・役務と同一または類似する商品・役務において、同一または類似の先行商標が存在するか否かを調べ、かかる先行商標を発見した場合、最後に、③先行商標と出願商標とを比較対照し、同一または類似するか否かを判断する、という審査手法をとっている。
①の識別力の判断に関しては「商標識別性審査基準」に、③の商標の類否判断に関しては「誤認混同のおそれに関する審査基準」に従い、それぞれ判断が行われている。
ちなみに、商標の標識(mark)が同一または類似を構成し、またその指定商品・役務についても同一または類似関係を有すると判断された場合、次いで、誤認混同を引き起こすおそれがあるか否かについて判断されることになり、その結果、誤認混同のおそれがあると判断された場合、出願商標は拒絶されることになる。
「誤認混同のおそれに関する審査基準」2.には、基本的に、両商標の標識が同じで、さらに指定商品・役務も全く同じである場合、誤認混同のおそれがあると認められる、と規定されている。ただし、両商標の標識が同一でなく類似を構成し、その商品・役務が同一または類似関係を有する場合、さらに両標識の類似度合いおよび商品・役務の類似度合いを考慮し、「誤認混同のおそれ」があるか否かを判断しなければならない、と規定されている。
両商標の「標識が類似」および「指定商品・役務が類似」という2つの要素がそろった場合、誤認混同のおそれがないとはいえないが、必然的に誤認混同のおそれがあるといえるものではない。その他の重要な要素の存在により、誤認混同のおそれがないこともあり、例えば、2つの商標が市場において既に長期にわたり並存しており、かつ、いずれも商品・役務の関連消費者に熟知され、容易に区別できる場合、誤認混同のおそれはないと認定される。このように、「標識の類似」および「商品・役務の類似」という要素以外に、誤認混同のおそれの有無に影響しうる他の関連要素が存在するかしないかも考慮されるべきものである。
前述のように、商品・役務の類否判断の重要な参考資料として、「商品・役務分類及び相互検索参考資料」が作成されている。これは商品・役務が類似するか否かの実務上の判断において極めて重要な参考資料であり、同参考資料によって同じ類似群(類似群コード前4桁が同一)に属するものと、相互検索すべき類似群に属するものであれば、基本的に類似関係を有すると認められるが、商品・役務の類否については、個別案件において一般の社会通念および市場取引の状況を斟酌し、商品・役務の各種の関連要素を考慮しなければならない。
「誤認混同のおそれに関する審査基準」5.3.3および「商品・役務分類及び相互検索参考資料」によると、通常、類似商品・役務とは、同一もしくは似ている性質・効能・用途を備えていることが一般的である。よって、原則として、商品・役務の類似性を判断する際は、まず、商品・役務の性質・効能・用途から考慮すべきであり、そして、製造者・提供者、それから販売ルート・場所、および消費者層などの要素を考慮すればよい。
なお、日本国特許庁および日本台湾交流協会は、日本と台湾のそれぞれの商標審査で使用されている類似群コードの対応関係を示す一覧表(日台類似群コード対応表)を作成し、公表しているので参考にされたい。
3.商品間の類否について
(1) 商品間の類否判断における考え方
台湾における商品の類否判断について、前述のとおり、基本的に「商品・役務分類及び相互検索参考資料」に開示されている同じ類似群(類似群コード前4桁が同一)に属するものと、相互検索すべき類似群に属するものであるか否かをもって行われている。その具体的な判断原則としては、「誤認混同のおそれに関する審査基準」5.3.4、5.3.5において、「商品の性質・効能または用途に関する原則」および「完成品と部品、原料または半製品に関する原則」という2つが規定されている。
① 商品の性質・効能または用途に関する原則
商品の性質とは、商品の本質または特性を指す。例えば、「新鮮な果物」と「コーヒー」は、いずれも食用できる商品であるが、性質が異なる。一方、「炭酸水」と「ジュース」は、いずれも飲み物で、性質が同じである。
商品の効能または用途とは、主な使用予定の目的を指しており、使用可能な方法ではないので、一般の社会通念により判断されるべきである。例えば、「スリッパ」の効能・用途は足元を保護し、歩くことを補助することであって、ゴキブリを殺すことではない。よって、「スリッパ」と「ゴキブリ駆除器」は、性質が異なる商品である。同一の効能・用途を有する商品とは、例えば、「ボールペン」と「万年筆」のように、書くことが主な効能または用途であり、書くために使用されることによって消費者の需要を満足させるものである。
同審査基準では、更に「相互補完効能を有する商品」と「コーディネートして使用される商品」という2つの類型が取り上げられている。
A.「相互補完効能を有する商品」:
「万年筆」と「万年筆のインク」のように、消費者群が同一で、片方がないと、他方も影響を受け、一緒に使用する必要があり、互いに補い合うことにより、共同で消費者の特定の要求を満たすことができる商品をいう。相互補完関係が密接になればなるほど、類似程度も高くなる。
相互補完効能は、原則的に商品の使用のみに適用され、商品の製造過程には適用されない。また、完成品とその部品の間に類似関係があるとは限らない。(下記②を参照)
B.「コーディネートして使用される商品」:
2つの商品がコーディネートして使用されることは、概念上、相互補完関係を有することとは異なり、例えば、第9類の「眼鏡」と第14類の「宝石」は、スタイリングとコーディネートとして併せて使用される可能性があるが、両者の性質および主な用途は異なるので、類似商品とは認められない。「眼鏡」の主な目的は視力改善用で、「宝石」はアクセサリーとして付けられるもので、両者は販売ルートが異なるほか、競争性も相互補完関係も有さないと認められる。一方、第25類の「被服」と「靴」は、いずれも体を保護するために、通常コーディネートして使用される商品である。消費者が「被服」を買うときに、同じ売り場で「靴」が見つかることを期待でき、両者が同一業者により製造されることもよくあることから、類似関係があると認定される。
② 完成品と部品、原料または半製品に関する原則
商品自体とその製造材料には、必ずしも類似関係があるわけではない。当該材料が他人により製造・販売され、消費者は商品と材料が異なる出所であることを知っている場合、またはある材料が製造過程においてのみ使用され、一般人が買うことのできない場合、類似関係はないと認められる。
商品自体とその部品または半製品とが必要な依存関係を有する場合、例えば、部品または半製品がなければ、商品の経済上の使用目的を達成できない場合は、類似商品として認められる可能性が高くなる。例えば、「電気式歯ブラシ」と「電気式歯ブラシ用ヘッド」、「自動車」と「自動車用リム」がその例である。
一方、「皮革」と「皮革製被服;皮革製靴」のように、当該部品または半製品が製造過程において著しく変化し、完成品とは、その性質・用途、または消費者層・販売ルートも大きく異なる場合、前者(半製品)の購買者は製造産業であって、通常、消費者が直接買うことはなく、その販売ルートや消費者層も後者(完成品)とは異なるので、類似商品ではない。また、当該部品または半製品があらゆる商品に使われる場合、原則的に商品自体と類似しないと認められる。例えば、「酵母」と「パン」、「卵」と「ケーキ」も類似商品ではない。
また、上記のほか、両商品が同一の製造業者に由来するものである場合、類似関係を有すると認定される可能性は高い。例えば、第27類の「カーペット」と第24類の「タペストリー」、第9類の「電子出版物」と第16類の「本;雑誌」がその例である。
一方、両商品の販売ルートや売り場が同じであっても、類似関係があるとは限らない。例えば、第21類の「お皿;コップ」と第24類の「マットレスカバー;布団カバー」は、同じ売り場で販売されるにもかかわらず、商品の性質・効能または用途に差異が大きく、製造者も異なるので、類似しないと認められる。しかし、第7類の「家庭用ミキサー」と第11類の「電気コーヒー沸かし」は、同じ家電エリアで販売されるものなので、類似商品として認められる。
(2) 類見出し(Class Heading)の取り扱いについて
台湾では、類見出し(クラスヘッディング)の表記が認められているものもあれば、認められないものもある。「商品・役務分類及び相互検索参考資料」によると、類見出しの前に「#」記号を付けているものは、範囲が広すぎるため表記として認められないものであり、具体的な商品を指定しなければならない。
(3) 商品名を指定する際の留意事項について
「商標登録出願の方式審査基準(商標註冊申請案件程序審查基準)」2.1には、商品名を指定するときに、必ず具体的に指定しなければならず、「他の区分に属さない全ての商品」、「本区分に属する全ての商品」という範囲が広すぎる表記を指定することができない、と示されている。例えば、「台所用具」は、範囲が広すぎて不明確であるため、具体的に第8類の「台所用ナイフ」、第11類の「電気式ケトル」、または第21類の「コップ」を指定することが考えられる。
実務上、日本の商標実務者は、「電子応用機械器具及びその部品」、「測定装置」など日本で認められている商品を指定しがちであるが、台湾では、それらの範囲は広すぎて不明確であるとして、具体的に列挙するよう補正を求められる。
また、台湾の商標登録出願の政府手数料は、指定する商品が20個までの場合はNT$3,000となり、20個を超える場合は、1個ごとに政府手数料(割増料金)NT$200を納付する必要がある。よって、費用の面から、商品数は20個以内に抑えることも考えられる。
商品個数の計算基準として「商品と特定商品の小売・卸売の個数計算原則及び例示(商品及特定商品零售服務個數計算原則及例示)」が定められている。例えば、一つの商品に、形状/用途を説明する形容詞を付ける場合、形状/用途の数により個数が異なり、「粉状・粒状・ペースト状のプラスチック」の場合は計3個で、「写真複写機用及びプリンター用カートリッジ」の場合は計2個となる。
指定商品・役務の表現および所属区分は、実務変更により変わるほか、審査官により取り扱いも異なり、同一名称が過去に認められたことがあっても、後願で認められない場合もある。最新情報は、知的財産局の下記データベース、「商品・役務名分類照会(商品及服務名稱分類査詢)」を参照されたい。
(後編に続く)
中国における商品・役務の類否判断について
1.はじめに
新興国データバンクでは既に、「中国での商標出願における商品/役務名称の記載に関する留意点」(2022.03.07)(https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/22839/)を紹介している。
本記事では、日中両国の商品・役務の類否判断を審査基準で比較することにより、審査基準の考え方の相違を明らかにし、日本の実務者が中国の商品・役務の類否判断を理解するのに資するものとしたい。
具体的には、「商品または役務の類否判断の基本的な考え方」、「商品間の類否について」、「役務間の類否について」、「商品・役務間の類否について」の4点に分けて解説する。
2.商品または役務の類否判断の基本的な考え方
中国の商標出願の審査手法については、中国国内の直接出願(以下、「中国国内出願」という。)と、国際登録出願(以下、「マドプロ出願」という。)に分けて説明する。
2-1.中国国内出願の場合
中国において国内出願をすると、まず、方式審査が行われる。方式審査の中で、出願商標の指定商品・役務を認容するか否かが判断され、認容すると判断された場合、印紙代納付通知書が発行される。期限内に印紙代が納付された場合、受理通知書が発行される。一方、指定商品・役務が認容できないと判断された場合、補正通知書(補正命令)が発行される。補正命令の内容について、補正書や意見書を提出することができる。補正書や意見書によって不備が解消された場合、印紙代納付通知書が発行され、印紙代が納付された場合、受理通知書が発行される。補正書や意見書を提出しても不備が解消できなかった場合、不受理通知書(手続却下)が発行される。
ここで、出願人として注意すべき点は、中国では、指定商品・役務に関する補正の機会は方式審査中の1回限りである点である。出願時の指定商品・役務の削除または補正しか認められないという規定はないが、1回の提出機会で説明を尽くし、審査官の理解を得ることは容易ではない。よって、「类似商品和服务区分表——基于尼斯分类第十二版(2023文本)」(日本語:「ニース分類第12版(2023年版)に基づく類似商品・役務区分表」)(https://sbj.cnipa.gov.cn/sbj/sbsq/sphfwfl/200902/W020230831580552653183.pdf)に含まれず、また、中国当局に受け入れられる商品・役務以外の商品・役務、すなわち、規範名称ではない商品・役務の指定を日本の出願人が希望する場合、著者は出願前に以下の3つの提案を行う。
① 指定商品・役務を中国当局の認容可能性の高い商品・役務名で出願する。
出願人は、代理人と十分にコミュニケーションを取ることによって、希望する商品・役務に代理人の知見を加味し、当局にとって認容可能性の高い商品・役務名を指定して出願する。
② 規範名称ではない商品・役務を指定して出願する場合、「中華人民共和国商標法実施条例」第15条第1項に説明義務が定められていることから、当該指定商品・役務についての説明書を作成し、願書とともに提出する。
③ 同時に、規範名称ではない指定商品・役務の上位概念と思われる規範名称の商品・役務を指定することを勧める。規範名称ではない場合、前述のとおり、説明書を提出しても認容は容易ではない。そのため、結果として出願の手続却下となることを避けるため、規範名称ではない商品・役務を削除しても、上位概念の指定商品・役務が受理されるような出願を提案する。
受理通知書が発行された後、出願は実体審査に進む。実体審査では、指定商品・役務が認容される否かを再度判断することは通常ない。実体審査の判断内容は以下の通り。
まず、絶対的拒絶事由としての「中華人民共和国商標法(以下「法」という。)」第4条(使用意思欠如の出願)、第10条(商標登録を受けることができない商標)、第11条(商標登録の要件)、第12条(立体商標登録の要件)、第19条(代理機構の義務)について判断する。
指定商品・役務と関連する絶対的拒絶事由の中に、法第10条第1項第7号(品質誤認、内容誤認)の拒絶理由がある。例えば、「自然」「natural」「nano」などの単語を使用する場合、商品の特徴、品質について需要者が誤認するおそれがあるため、法第10条第1項第7号で拒絶される可能性が高いとされる。近年では、このような拒絶理由が増えているように感じられる。また、法第10条第1項第7号に該当する理由で拒絶された商標を継続して使用した場合、行政処分(「商標の一般的な違法性判断基準」第15条)の対象となるため、注意が必要である。当該条文の審査は日本より随分厳しいと思われ、出願前に代理人に確認して、かかる拒絶査定を受けるおそれのある出願を避け、万一、拒絶査定が出た場合、速やかに使用を中止できる対応が取れるようにする。
また、商標の標識(mark)が指定商品・役務名を表すなど、法第11条第1項に基づく識別力欠如を理由に拒絶査定が出るケースも存在する。識別力有無の判断は、日本より厳しい傾向があるので、事前に代理人に確認する必要がある。法第11条第1項に該当する場合、通常、使用に問題がなく、かつ、使用することによって識別力を獲得する可能性もある。その場合、改めて商標出願して権利化することになる。なお、出願人の中には識別力欠如と判断された場合、識別力を獲得するまで出願を繰り返す者も存在するが、推奨できない。なぜなら、出願の繰り返しは出願商標に識別力を獲得させることにはならないので、費用が掛かるだけで登録には至らないばかりか、拒絶査定または拒絶審決の数が増えることによって、識別力欠如の事実がより明らかな状況に陥り、識別力獲得の認定を妨げる可能性も生じると考えられるからである。また、出願人の中には、出願の繰り返しは第三者による出願の排除効果を期待できると考える者も存在するが、中国の商標出願の審査期間は拒絶査定まで3~4か月、拒絶査定不服審判を合わせても10~11か月という短い期間しかないので、後願の排除効果の費用対効果は極めて限られていることに留意する必要がある。
次に、相対的拒絶事由として第30条(他人の登録商標と類似)、第31条(他人の出願商標と類似)が存在する。いわゆる、商標の類似性判断である。商標の類似性判断については、指定商品・役務が類似するか否かを判断した上で、標識(mark)が類似するか否かを判断する。その中で、指定商品・役務の類似性判断は、類似群の概念で判断する。類似群については後述する。
2-2.マドプロ出願の場合
中国を指定国としてマドプロ出願し、保護認容を受ければ、中国国内で商標権を得ることができる。マドプロ出願の場合、中国当局は、中国国内出願の方式審査の一部である指定商品・役務の審査と実体審査を同時に行う。したがって、マドプロ出願では、指定商品・役務が中国において認められないとする暫定拒絶通報が出る。例えば、日本のパチンコ関連など一部の商品・役務は、中国においては公序良俗違反とされるので留意していただきたい。
なお、公序良俗に違反しないが新製品や新サービスを指定するため規範名称でない商品名・役務名を試みる場合、中国国内出願ではなく、登録可能性が比較的高いマドプロ出願を選択することを勧める。
もちろん、マドプロ出願でも規範名称ではない商品・役務であれば、指定商品・役務について暫定拒絶通報が出る場合があり、拒絶理由により下記2つの対応が考えられる。
① 公序良俗違反の商品・役務の場合:補正しても登録の見込みはないことから削除を勧める。
② その他の商品・役務に補正できる場合:例えば、小売・卸売役務の場合、第35類では、「他人のために売り込み」「他人のために買い入れ」という規範名称の役務が存在するので、当該役務に補正することで拒絶理由が解消される可能性がある。
マドプロ出願における中国当局の暫定拒絶通報を受けた場合、拒絶査定不服審判を提起するとともに、WIPO国際事務局に対して商品・役務補正を行う。
中国国内出願の拒絶査定と同じ法的効力を有することから、出願人が通報に不服があっても、補正書や、意見書を提出して対応することが出来ないため、拒絶査定不服審判を提起する。また、中国の場合、不服審判の中で、商品・役務の補正ができないので、WIPO国際事務局に対して商品・役務補正を行う。
マドプロ出願の場合、中国当局から保護通知書が発行されるが、中国当局に対して登録証明書の発行を要請する必要がある。なぜなら、マドプロ出願が中国で登録されても、中国当局から商標登録証は発行されないため、商標権を主張しようとする場合、中国当局が発行する商標登録証明書が必要になるからである。また、マドプロ出願が中国で権利化できた場合、保護通知書には指定商品・役務の記載がないことから、商標権の権利範囲を確認するためにも、商標登録証明書の発行手続を勧める。
2-3.類似群について
中国では、商品・役務を判断する際に、日本と同様に類似群制度が採用されている。
中国の類似商品・役務区分表は、以下を参照されたい。
・商标注册用商品和服务项目申报指南(商品・役務の商標登録事項の申告に関するガイドライン、https://sbj.cnipa.gov.cn/sbj/sbsq/sphfwfl/)
上記ガイドラインは中国語であるため、日本の出願人には、日中両国の特許庁が作成した類似群対応表を活用することも有用である。
・日中韓類似群コード対応表(https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/bunrui/kokusai/jpo_cnipa_kipo-ruiji2020.html)
日本語、英語および中国語において使用する商品・役務と一致するものを選んで中国に商標出願することが望まれる。なお、不明な場合には(日本語が堪能な中国の代理人であっても)、具体的な対象商品の写真、広告写真、類似群対応表を参考にした日本語および英語の指定商品・役務名の候補を示して中国代理人に相談することが望ましい。
なお、中国の類似商品・役務区分表の改定について明確な基準はないが、基本的にはニース分類に従って変更され、5年毎に大改正が、また、毎年小改正が行われている。
3.商品間の類否について
3-1.商品の類否判断における考え方
中国では、商品間の類否判断について、商標審査審理指南(2021)p.158(第五章 商標の同一または類似の審査および審理、2. 解釈)において、次のように規定されている。
「類似商品とは、機能、用途、生産部門、販売ルート、消費対象などがほぼ同一または密接に関連する商品をいう。」
(商标审查审理指南(商標審査審理指南、https://sbj.cnipa.gov.cn/sbj/tzgg/202111/t20211123_5673.html)
・同上、JETRO仮訳(https:/www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20220101_2.pdf))
また、「ニース分類第12版(2023年版)に基づく類似商品・役務区分表」の第1ページ「編集者の説明」には、次の記載がある。
「類似商品とは、機能、用途、使用原材料、販売ルート、消費者対象などの面において商品に一定の共通性を有し、同一または類似標識(mark)を使用する場合、消費者が特定の関連性を有すると容易に理解し、同一企業が生産する商品と誤認するものを指す。」
・类似商品和服务区分表——基于尼斯分类第十二版(2023文本)(前出)编者说明(ニース分類第12版(2023年版)に基づく類似商品・役務区分表 編集者の説明)
3-2.商品名の分類方法
指定商品を各区分に分類する方法として、次の3つの分類方法が挙げられる。
① 類似商品・役務区分表に記載されている商品名称(通常、規範名称という)であれば、区分表に従って分類される。
なお、商品名として、ニース分類における類見出し(Class heading)、注釈(Explanatory Note)を記載してはならない。
② TM5(商標5大特許庁:日中欧米韓)で中国当局が受け入れると声明した商品については、声明時に公表された区分に分類される。これは随時、追加される。中国で認容される商品名は、大きく3つに分類される。
①および②は、以下の中国商標網で検索できる(使用方法は下記関連記事参照)。ただし、検索用語は中国語のみである。
(国家知识产权局商标局中国商标网(中国国家知識産権局中国商標網、http://wcjs.sbj.cnipa.gov.cn/gs))
③ 上記以外の商品名の場合、区分のテーマ、類見出し、注釈に依拠し、規範名称に照らしながら指定する。これらに依拠しても商品名を特定できない場合、下記1~6の原則によって指定する。
1 完成品の場合、機能または用途によって分類。
2 多機能の完成品の場合、主な機能または用途によって分類。
3 原料、未加工品または半製品の場合、原材料によって分類。
4 前項の場合、複数の原材料が存在する場合、主な原材料によって分類。
5 部品の場合、用途によって分類。
6 専用容器の場合、載せる商品と同一分類。
・商标注册用商品和服务项目申报指南(商品・役務の商標登録事項の申告に関するガイドライン、https://sbj.cnipa.gov.cn/sbj/sbsq/sphfwfl/)の二、商品和服务项目分类申报原则(商品・役務の分類および申告の原則)(一)商品分类原则(商品分類原則)1~6参照
関連記事「中国における商標の調べ方—中国商標網ウェブサイト」(2020.06.25)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/application/18789/
4.役務間の類否について
4-1.役務の類否判断における考え方
中国では、役務間の類否判断について、商標審査審理指南(2021)(前出)p.159(第五章 商標の同一又は類似の審査及び審理、2. 解釈)において、次のように規定されている。
「類似役務とは、役務の目的、内容、方法、対象などの面において、同一または緊密な関連性を有する役務をいう。」
また、「ニース分類第12版(2023年版)に基づく類似商品・役務区分表」第.1ページ「編集者の説明」(前出)には、次の記載がある。
「類似役務とは、役務の目的、内容、方法、対象などの面において一定の共通性を有し、同一または類似標識(mark)を使用する場合、消費者が特定の関連性を有すると容易に理解し、同一企業が提供する役務と誤認するものを指す。」
4-2.役務の分類方法
指定役務を各区分に分類する方法として、次の3つの分類方法が挙げられる。
① 類似商品・役務区分表に記載されている役務名称(通常、規範名称という)であれば、区分表に従って分類される。
なお、役務名として、ニース分類における区分のテーマ、類見出し(Class heading)、注釈(Explanatory Note)を記載してはならない。
② TM5(商標5大特許庁:日中欧米韓)で中国当局が受け入れると声明した役務については、声明時に公表された区分に分類される。これは随時、追加される。
①および②は、中国商標網(前出)で検索できる。ただし、検索用語は、中国語のみ。
③ 上記以外の役務は、区分のテーマ、類見出し、注釈に依拠し、規範名称に照らしながら分類する。これらに依拠しても役務を分類できない場合、下記1および2の原則(「商标注册用商品和服务项目申报指南」(前出)参照)によって指定する。
1 役務の属する業界並びに役務の目的、内容、方法および対象等を組み合わせて総合的に判断する。
2 レンタルサービス、コンサルティングサービスおよびフランチャイズサービスは、以下の原則に従って分類する。
(1) レンタルサービスは、原則として、リース対象物によって実現される役務と同一の区分に分類される。
例:「レンタル電話」は通信サービスを提供するため、区分38。
リースサービスはレンタルサービスと同様に分類する。ただし、ファイナンスリースは金融サービスであり、区分36に分類される。
(2) アドバイス、情報提供、相談等を行うコンサルティングサービスは、原則、提供される役務と同一の区分に分類される。電話、コンピュータネットワークなどの電子的手段によるアドバイス、情報、または相談の提供であっても、分類には影響しない。
例:「交通情報」は運輸サービスと同じ区分39、「金融コンサルティング」は金融サービスと同じ区分36に分類される。
(3) フランチャイズサービスは、原則、提供する役務と同一の区分に分類される。
例:「商業管理のフランチャイズ」は、提供する経営管理サービスと同じ区分35に分類される。
(商标注册用商品和服务项目申报指南(前出)の二、商品和服务项目分类申报原则(二)服务分类原则1、2参照)
4-3.小売・卸売役務について
「○○小売または卸売役務の提供」が認容されないとの明文規定はないが、医薬品以外の分野において、小売・卸売役務は存在しないと判断されている。
(「北京市高级人民法院商标授权确权行政案件审理指南(中、英文版)(北京市高級人民法院の商標権利化、権利確認の行政案件の審理指南)」(2019.04.24、https://bjgy.bjcourt.gov.cn/article/detail/2019/04/id/3850624.shtml))
上記指南には、小売・卸売との役務は明確ではないものの、商標権者がデパート、スーパーマーケットなど、場所を提供することによって商業的な取引があり、商品販売に提言、企画、宣伝、コンサルティングなどのサービスを提供する場合、「他人のための売り込み」という役務は、商標の使用と判断できる、と示されている。つまり、北京の裁判所は、医薬品以外の分野において、小売・卸売役務は存在しないと判断している。
一方、旧商標局は、スーパーマーケットの役務は「他人のための売り込み」役務に含まれないという判断を示した。(「スーパーマーケットの役務と『販売促進(他人のため)』役務とが類似役務に属するか否かの問題に関する返答」(商標監字[2012]第43号、URLなし)
なお、第35類においては、3503類似群「他人のための売り込み」「他人のための買い入れ」という役務を指定することが可能である。
以上の状況から、現状では「小売または卸売役務の提供」および「○○小売または卸売役務の提供」は認められないが、万全を期したい場合には、現在でも認められる(「商品名」+「他人のための売り込み」)および(「商品名」+「他人のための買い入れ」)を指定することを勧める。
また、「他人のための売り込み」と「他人のための買い入れ」は非類似とされているので、売買いずれもカバーしたい場合は、いずれの役務名でも権利取得する必要がある。
5.商品・役務間の類否について
5-1.商品-役務間の類否判断における考え方
前記の商標審査審理指南(2021)P159(第五章 商標の同一または類似の審査および審理、2. 解釈)において、商品-役務間については特段の記載はないが、前記の商品および役務のそれぞれの記載に準じれば、商品と役務の間に比較的大きな関連性を具備すれば類似と考えられる。
とはいえ、類似商品・役務区分表には、商品と役務とでクロスサーチを行うような記載がないことから、商品-役務間で類似とされる審査は、通常、行われていない、と考えられる。
インドネシアにおける商品・役務の類否判断について
1.はじめに
日本では先行商標と出願商標が非類似とされているケースで、インドネシアでは、同じ商標の出願について、同じ先行商標と類似と判断され、拒絶査定を受けることがある。この相違は、両国の指定商品・役務に関する審査ガイドラインの違いによって生じる場合がある。例えば、日本は「類似群」と呼ばれるグループ分けを採用しており、商品・役務が同じグループに属さない限り、原則として非類似とみなされる。しかし、インドネシアの審査ガイドラインでは、商品・役務をあらかじめグループ化していないため、判断が異なる可能性がある。
本稿では、インドネシアの審査ガイドラインに基づく商品・役務の類否判断について紹介し、日本の審査ガイドラインとの相違点を明らかにすることを目的とする。具体的には、①商品・役務の類似・非類似を判断する基本原則、②商品間の類似・非類似、③役務間の類似・非類似、④商品・役務間の類似・非類似、の4点について比較・検討する。
なお、本稿では、商品・役務の類似性について、商品・役務の類似性を超えて保護される可能性がある著名商標の類似性、同一図形要素商標の類似性については論じていない。
2.商品・役務の類似・非類似を判断する基本原則
インドネシアにおける審査手順は、日本の審査手順と同様であると考えられ、具体的には、通常以下のようなアプローチが行われる。
① 出願商標が識別力を有するか否かを判断する。
② ①で識別力があると判断された場合、出願商標の指定商品または指定役務と同一または類似する商品または役務を指定した先行商標を特定する。
③出願商標と上記先行商標の標識(マーク)が同一または類似であるか否かを判断する。
(i)出願商標の指定商品と同一または類似の商品、(ii)出願商標の指定役務と同一または類似の役務、 または、(iii)出願商標の指定役務と類似の商品もしくは出願商標の指定商品と類似の役務を指定し、かつ、同一または類似の標識(マーク)を有する先行商標が存在する場合、出願商標は登録できない。商品・役務の類似性の判断基準は、「商標登録に関するインドネシア共和国法務人権大臣規則2016年第67号(以下、「大臣規則」という。)」に規定されている。
3.商品間の類似・非類似について
(1) 商品間の類否判断の考え方
インドネシアにおける商品間の類似性を判断するための基準は日本と同様と考えられ、大臣規則第17条第2項において、以下のように規定されている:
a. 商品の性質
b. 商品の使用目的および使用方法
c. 商品の補完性
d. 商品の競合性
e. 商品の流通経路
f. 関連する消費者
g. 商品の由来(原産地、製造者または提供者)
(2) ニース分類の活用
大臣規則第14条第4項において、ニース分類を採用することが規定されており、ガイドライン等は公開されていないが、実務上、同じくニース分類を採用している欧州連合知的財産庁(EUIPO)と同様のアプローチで審査されると考えればよい。
例えば、同じ区分に分類される商品であっても、類似しない例を示す。
(左側が先行商標、右側が後出願商標、以下同じ)
また、異なる区分に分類される商品が類似とみなされる例を示す。
関連情報:欧州連合商標審査ガイドライン
Part B Examination 1 Introduction:
https://guidelines.euipo.europa.eu/2058843/2046764/trade-mark-guidelines/1-introduction
4.2.2 Influence of classification on the scope of protection:
https://guidelines.euipo.europa.eu/2058843/2042025/trade-mark-guidelines/4-2-2-influence-of-classification-on-the-scope-of-protection
(3) 商品名選択時の留意点
インドネシアでは、電子出願システムの採用に伴い、商品または役務はシステム上に表示される選択肢から選択する必要があり、それ以外の商品名または役務名を選択することはできない。出願人は、希望する商品または役務に最も適した商品名または役務名をシステム上の選択肢から選ぶことが求められる。
システム上に表示される商品・役務のリストは、マドリッド商品・役務リスト(Madrid Goods & Services Manager、MGS)に準拠している。
なお、日本からの出願には類見出しのみからなる商品名が散見される。システム上に表示されている類見出しの商品名は出願可能であるが、表示されていない類見出しの商品名は指定できないとされている。
下記、関連記事も参照されたい。
関連記事:「インドネシアにおける指定商品または役務に関わる留意事項」(2021.6.24)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/20279/
4.役務間の類似・非類似について
(1) 役務間の類否判断の考え方
役務間の類似性を判断するための基準も日本と同様と考えられ、大臣規則第17条第2項において、以下のように規定されている:
a. 役務の性質
b. 役務の使用目的および使用方法
c. 役務の補完性
d. 役務の競合性
e. 役務の流通経路
f. 関連する消費者
g. 役務の由来(原産地、製造者または提供者)
(2) ニース分類の活用
大臣規則第14条第4項において、ニース分類を採用することが規定されており、ガイドライン等は公開されていないが、実務上、同じくニース分類を採用している欧州連合知的財産庁(EUIPO)と同様のアプローチで審査されると考えればよい。
例えば、同じ区分に分類される役務であっても、類似しないとされる場合がある。
一方、異なる区分に分類される役務であっても、その役務に関連性があれば、類似とみなされる場合がある。
(3) 役務「小売(Retail Services:小売の業務における顧客への便益の提供)」について
「小売」を役務とする商標、すなわち、デパートやスーパーマーケットのように提供される品目を特定しない「小売」サービス全般を指定する商標の出願、は認められている。
なお、MGSでは、retail and wholesale services(小売および卸売の業務における顧客への便益の提供);retail or wholesale services(小売または卸売の業務における顧客への便益の提供);retail or wholesale store services(小売または卸売の店舗業務における顧客への便益の提供)を選択できるので、これらを指定することで現地代理人と日本の出願人の理解を一致させることが可能となり、好ましい。
「小売」を役務とする商標の標識(マーク)と同一または類似の先行商標が商品商標として存在する場合、これを引用して拒絶される可能性がある。
また、販売商品を特定しない小売を指定する先行商標が存在しても、特定商品の小売を指定する後願商標が登録された例を以下に示す。
さらに、販売商品を特定しない「小売」を指定する先行商標が、同じ「小売」を指定する役務商標(下表上段)や多くの商品を例示した「小売」の役務商標(下表下段)を排除した例を示す。
なお、「小売」を役務とする登録商標は、市場における混同が証明できる場合に限り、同一または類似の商品商標に対しても排他権を有する。また、当該登録商標が特定の商品に使用されていないことを理由として不使用取消請求しても、他の商品で「小売」の役務商標を使用している限り、取消の対象とはならない。
(4) 役務名選択時の留意点
商品名と同様に、MGSに挙げられている役務名は、電子出願システム上に表示される選択肢から役務名を選択することが求められ、その役務名を変更することはできない。希望する役務を含む最も類似した役務名を選択する必要がある。最も広範な役務名から、より具体的な役務名まで選択することが望まれる。
5.商品・役務間の類否について
(1) 商品・役務間の類否判断の考え方
商品・役務間の類似性を判断するための基準も日本と同様と考えられ、大臣規則第17条第2項において、以下のように規定されている:
a. 商品と役務の性質
b. 商品と役務の使用目的および使用方法
c. 商品と役務の補完性
d. 商品と役務の競合性
e. 商品と役務の流通経路
f. 関連する消費者
g. 商品と役務の由来(原産地、製造者または提供者)
異なる区分の商品や役務であっても、事業や消費者が関連するなど、上記の基準に基づいて、類似しているとみなされる可能性がある。以下に例を挙げる。
(2) 商品・役務間を考慮した指定商品・役務の選択時の留意点
商標出願時に、出願人は指定する商品および役務の区分について、保護を希望する範囲を関連する商品および役務に拡大することを検討すべきである。商標審査官は、標識(マーク)が非常に類似しているか、よく知られているか、または先行商標からの異議申立があり、注意している場合を除き、例えば、商品・役務間の場合には、必ずしも区分を跨いだクロスサーチ(日本の備考審査)を行うとは限らないことに留意しなければならない。
ブラジルにおける商標出願の指定商品または役務についての取扱い
〔詳細〕
1.商標出願における商品および役務の記載要領
ブラジルにおいては多区分出願が認められず、区分毎に独立した出願を行わなければならない(*)。各出願には、INPIにより現在採用されているニース分類(第11版)に従った商品または役務の指定を記載しなければならない(INPIウェブサイト「商品およびサービスの分類」)。
一方、2019年10月2日にマドリッドプロトコルがブラジルにおいて発効した。マドリッドプロトコル経由で出願する場合は、複数区分(マルチクラス)の指定が可能である(INPIウェブサイト「マドリッドプロトコル」)。
(*) 2020年3月9日のINPI条例 第257号は、e-INPI商標出願システムにおける多区分制度(マルチクラスシステム)による商標出願の利用可能性を規定しているが、2023年1月時点では運用には至っていない。
https://www.gov.br/inpi/pt-br/servicos/marcas/arquivos/legislacao/copy_of_RES_2572020.pdf
INPIへの商標出願は、現在INPIウェブサイトで利用可能なe-INPI商標出願システムによってインターネットを介してのみ可能となっている(商標マニュアル「3.登録出願又は商標申請を行う方法」)。電子商標出願書式への記入に際して、出願人は、(a)INPIにより公表されたリスト(ニース分類の商品および役務リストと一致する)から商品または役務を選択する、または、(b)出願人が固有に作成した商品または役務の記載を提出する、という2つのオプションがある(商標マニュアル「3.5.2 電子フォームへの記入」)。オプション(a)の場合には、INPIによる商品または役務の審査が不要となることから約15%手数料が低く抑えられる(INPIウェブサイト「商標手数料(Code389、394)」)、当該リストがINPIにより事前承認されていることから商品または役務の記載についてオフィスアクションの発生を回避できるという利点がある。
INPIは、商品または役務の広範な記載を認めていない。類見出し(クラスヘディング)や広範な記載が出願に含まれている場合、拒絶理由が通知される可能性が高く、この対応のために意見書を送り再度審査を受けるために手続の遅延が生じるおそれがある。また、この手続のために新たな費用も生じる。
商品または役務の適切な分類について疑義が生じた場合、所定の手数料(5つの商品または役務まで170レアル)を納付することにより(INPIウェブサイト「商標料金表(Code357)」)、商品および役務分類委員会(Goods and Services Classification Commission : CCPS)に照会することが可能である。照会内容を検討後、CCPSは、ブラジル産業財産権公報(RPI)においてその回答を公示する(商標マニュアル「10.1.1 商品および役務分類委員会への照会」)。
出願がパリ条約の優先権を含む場合、商品または役務の記載は、海外の優先権基礎出願と同一または基礎出願の商品または役務記載に含まれる限定的記載でなければならないことにも注意を要する。
なお、2000年以前に認可または更新された登録については、商品および役務の広範な記載を認める古い国内分類のままとなっている。
2.審査における商品および役務の取扱い
INPIの審査官は、ニース分類を基準として、出願に示された商品または役務が、出願された区分にしたがっているか否かを確認する(商標マニュアル「5.4 商品及びサービス明細の分析」)。
出願後、新たな商品または役務を追加する補正は認められない。しかし、商品または役務を減縮する補正は認められる(商標マニュアル「9.2 商品及びサービスの分類及び明細に関する変更」)。
INPIの審査官は、審査の過程においてその職権により、出願された区分へ適合させるために指定商品または役務の記載にマイナーな変更を行うことができる(商標マニュアル「5.4.1 明細の変更」)。通常、これらの変更は何らかの表現を含めること(例えば「医療用」や「医療用を除く」など)、または、出願された区分に属さない一部商品または役務を除外することである。
INPIの審査官が、出願区分と指定商品または指定役務との間の不一致を確認した場合(例えば、指定商品が2以上の区分を包含するなどの場合)、拒絶理由通知を発行し、出願人に対して不一致を明らかにし、不適切な商品または役務を除外するよう求める(商標マニュアル「5.4.2 請求されている分類に適合しない明細」)。除外された商品または役務を保護するには、新規出願を行わなければならない。分割出願による対応は認められていない。
INPIの審査官は、職権により、ニース分類に適合させるために用語を十分に明確かつ正確になるまで変更することができるが(商標マニュアル「5.4.1 明細の変更」)、商品または役務に関してあいまいな記載がある場合に、拒絶理由通知を発行することもある(商標マニュアル「5.19.1 方式指令 a)商品またはサービスの不適切な明細」)。この場合、出願人は、拒絶理由通知に応じ、希望する商品または役務を明確に示さなければならない。
また、商品または役務がブラジルの法律に基づき違法と考えられる場合、活動の合法性を明確にするように、または請求している分類に一致し、違法性条件を満たさない項目/説明に差し替えるようにとの拒絶理由通知が出願人になされる(商標マニュアル「5.4.6 違法と考えられる商品またはサービスに相当する用語を含む明細」)。
さらに、ブラジルの商標出願では、出願時に事業内容を宣誓するが、INPIの審査官は、審査の過程において、指定商品または指定役務が、出願人が出願時に宣言した事業内容に沿うものであるか否かについても審査する(ブラジル産業財産法第128条(1)、商標マニュアル「5.5 出願人の合法性の分析」)。指定商品または役務と事業内容とが一致しない場合も拒絶理由通知が発行され、出願人に対して、自身の事業内容に関する証拠を提出するよう要求されることがある。
拒絶理由通知が発行された理由にかかわらず、期限内に応答がない、または期限内に指令内容に応じない場合、当該出願は失効したものとみなされ、拒絶査定が発行される(商標マニュアル「5.実体審査」)。
3.指定商品または指定役務が費用に与える影響
商品または役務の数により、出願手数料が変わることはない(INPIウェブサイト「商標料金表」)。つまり、例えば指定商品が1つの出願と指定商品が15個の出願はそれらが同一の区分内であれば、同じ出願手数料を納付することになる。
電子出願では、INPIにより公表されたリスト(ニース分類の商品および役務リストと一致する)を使うか、または、出願人が固有に作成した商品または役務の表記を使うか、自由である(商標マニュアル「3.5.2 電子フォームへの記入」)。費用を比較すると、前者は355レアルであるが、後者は415レアルなので、公表リストを使用する方が15%程度安価となる(INPIウェブサイト「商標料金表(Code389、394)」)。
CCPS(商品および役務分類委員会)に対する商品または役務記載に関する相談は有料であり、その相談に対する手数料は、照会する商品または役務の数に応じて異なる(INPIウェブサイト「商標料金表(Code357)」)。
〔留意事項〕
商品の補正に起因する手数料や代理人費用の新たな発生、拒絶理由対応などオフィスアクションによる余分な時間の経過を回避するため、希望する商品または役務を正確に記載することが推奨される。INPIにより公表されたリスト(ニース分類の商品および役務リストと一致する)に従うことが望ましい。これにより、オフィスアクションの回数が増えることを避け、手数料を必要最小限に抑えることができる。
なお、ブラジルでは、商標登録出願、商標登録更新のいずれにおいても、商標の使用証拠の提出は要求されない。