中国における第35類商標出願ガイドと小売または卸売役務について
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ベトナムにおける商品・役務の類否判断について
1.はじめに
日本では先行商標と出願商標は非類似とされているケースであっても、ベトナムでは、同じ商標の出願について、同じ先行商標と類似と判断され、拒絶査定を受けることがある。この相違は、両国の指定商品・役務に関する審査実務の違いによって生じる場合がある。例えば、日本の審査基準では、「類似群」と呼ばれるグループ分けを採用しており、商品・役務が同じグループに属さない限り、原則として非類似とみなされる。しかし、ベトナムの審査基準では、商品・役務を事前にグループ分けしていないため、判断が異なる可能性がある。そこで、本稿では、ベトナムの審査基準に基づく商品・役務の類似・非類似の判断について紹介し、日本の審査基準との相違点を明らかにし、日本の実務家が、ベトナムの商品・役務の類否判断について、理解を深めることを目的とする。
具体的には、①商品・役務の類似・非類似を判断する基本原則、②商品間の類似・非類似、③役務間の類似・非類似、④商品・役務間の類似・非類似、の4点について比較・検討する。
なお、著名商標の類似性、同一図形要素商標の類似性については、商品・役務の類似性を超えて保護される可能性があることから論じていない。
2.商標の類似・非類似を判断する際の基本原則
現在、商標の類似・非類似の判断は、ベトナムの知的財産法、およびそれに対応する以下の規則に準拠する:
・知的財産に関する2005年11月29日法律第50/2005/QH11号(2009年、2019年、2022年に改正・補足)(以下、「知的財産法」という。)
https://drive.google.com/file/d/1JtFe0bhucgnMVObOtHSXOCR0NYp13gnM/view?usp=sharing
・通達第16/2016/TT-BKHCN号(2016年6月30日付)(2007年2月14日付通達第01/2007/BKHCN号、2010年、2011年、2013年、2016年に修正・補足)(以下、「通達」という。)
https://ipvietnam.gov.vn/documents/20195/702193/5.+Circular+16.2016.doc/10e75563-a4dd-4c3f-a285-cf239585cca1
ベトナム知的財産庁(以下、「IP Viet Nam」という。)における商標の審査手法は、本質的には、日本とほぼ同様であり、絶対的要件と相対的要件の両方に基づいて、出願商標の登録可能性を検討する。IP Viet Namにおける商標の実体審査の順序は、通常、以下の通りである:
a) 商標の識別力の評価:出願人の証拠や書類を受領した場合、まず、広範な使用や周知性による商標の識別性を検討する。
b) 引用商標の検索:国内外の商標データベース、およびその他の情報源から、引用商標を検索する。
c) 出願商標と引用商標との類似性の評価:原則として、出願商標と引用商標の類否判断は、標識(mark)と商品・役務との両面から行う。標識の類似は、公衆に与える影響を評価するために、標識の構造、内容、称呼、外観及び観念(意味)を比較することにより判断する。商品・役務の類似性は、その性質(要素、構造)、機能、使用目的、出所、販売・流通経路に基づいて判断する。
d) 出願商標の登録可能性:出願商標の登録可能性について、その保護範囲とともに結論を下す。
ベトナムには、日本のような指定商品・役務を「類似群」に分類する制度は公式には設けられていない。しかし、実務的には、IP Viet Namの審査官は、商品・役務の類似性を検討する際に、日本と同様な類似性評価を適用している。例えば、第5類の「医薬品」と第10類の「医療器具」は、医療用として同一の目的を有するため、互いに類似するものとみなされ、また、第42類の「建築物の設計・測量」は、第37類の「建築工事」とともに建築目的で提供されるため、類似するものとみなされる。
3.商品間の類似・非類似について
3-1.商品間の類否判断手法
通達の第39.9条において、商品の性質(要素、構造)、機能、使用目的、出所、販売・流通経路の観点から商品を比較する類似・非類似の判断方法が示されている。しかし、ベトナムでは、商品・役務の評価に関する詳細な審査ガイドラインは、現在、存在していない。
なお、通達では、同一とは、(i)性質、機能及び使用目的が同一である場合、または、(ii)性質がほぼ同一であり、機能及び使用目的が同一である場合、とされている。
事例1:「自転車」と「オートバイ」
いずれも第12類で同じ陸上車両であるため、同一の商品とみなされる。
また、類似とは、(i)類似の性質を有し、(ii)類似の機能及び使用目的を有し、(iii)同一の商業経路で販売される(同一の形態で流通している、または、同一の種類の店舗で共に販売もしくは競合している)場合とされている。
事例2:「第3類の歯磨き粉」と「第21類の歯ブラシ」
同じ店舗で一緒に販売されているため、類似の商品とみなされる。
以下は、標識は同一であっても、商品について非類似として、ベトナムで保護された事例である。
事例3:商品が類似として拒絶され、類似商品を削除して認容された審決例
出願した国際登録商標「VANQUISH」(第1045076号、第18類:バッグ等、ポーチ、ハンドバッグの枠、財布の枠、皮革の工業用包装容器、化粧箱(嵌め込み式でないもの)、傘、ステッキ、杖、杖およびステッキの金属部品、ステッキの柄、毛皮、)に対し、引用商標として国際登録商標「VANQUISH」(第901894号、第28類:ゴルフクラブ、ゴルフバッグ、ゴルフクラブ用ヘッドカバー)が引用され、第18類の商品が類似するとの拒絶査定を受けた。出願人は、第18類の下線部分残して、他を削除補正の上、審判請求した。
審判部は、「(補正後の)商品は、通常の小売店で販売され、一般消費者に販売されている。したがって、特徴的なスポーツであるゴルフに特別な関心を持つ特定の顧客をターゲットとして、ゴルフ業界に特化し、ゴルフスポーツの専門店で販売されている引用商標を付した商品と類似する可能性はない。」との審決を下した。
3-2.ニース分類の活用と参考商品・役務名リスト
現在、IP Viet Namでは、ニース分類の第12版が採用されており、下記リンクにおいて、参考商品・役務名のアルファベットリストが英語・ベトナム語で併記の上、公開されているので活用されたい。
https://ipvietnam.gov.vn/documents/20182/1425331/%28IPVIETNAM+PORTAL%29+NICE+CLASS+version+12-2023.pdf/fbcb4fc5-487e-468c-a291-63450e79254d
3-3.商品を指定する際の注意点
一般に、IP Viet Namは、類見出しの商品を受理しない(ニース分類のアルファベットリストにも記載されている場合を除く)。したがって、出願人は、IP Viet Namからの拒絶を避けるために、ニース分類のアルファベットリストに記載されている特定の商品を選択する必要がある。
4.役務間の類似・非類似について
4-1.役務間の類否判断手法
商品と同様に、役務の類似性も、役務の性質(要素、構造)、機能、使用目的、出所、販売・流通経路の観点から判断する。同一および類似に関する基準も商品と同様である。
以下は、標識は類似だが、関連する役務の相違により、登録が認められた例である。
4-2.小売役務
以前は、第35類の「小売役務」という用語は許容されていたが、現在では、漠然としすぎていると判断され、出願人は小売役務の対象となる商品を特定しなければ、拒絶される。
「特定の商品の小売役務」を指定する出願商標は、商品にかかわらず、同一・類似の小売役務を指定する引用商標が存在すれば、原則、登録は認められない。ただし、引用商標の小売対象となる商品が、出願商標の「特定の商品」と誤認・混同するおそれがないと判断された場合、類似とはされない。
以下は、一般役務「小売役務」を指定した出願が拒絶理由通知を受けた事例である。
事例5:「小売役務」を含む国際登録商標に対し拒絶通報が出された例
出願された国際登録商標「BETTR」(第1663894号)は、第35類としてさまざまな商品の小売役務に加え、第30類、第41類、第43類を指定していたところ、(i)「小売役務」の用語が曖昧すぎること、および(ii)本願商標は、国際登録商標「BETTER, device」(第1566946号、第7類「電池製造機;電池ケーブル圧延機;電池コアプレス機;電池セル密封機;電池産業用機械」を引用して、類似である、として拒絶された。
出願人は、「小売役務」を「コーヒー、ココア、茶製品およびそれに付随するコーヒー・茶製品、すなわちコーヒーカップ、コーヒータンブラー、コーヒーフラスコ、コーヒー器具および付属品、紅茶器具および付属品、ホールビーンおよび挽いたコーヒー、茶葉、ティーポット、ステッカー、包装・調理された食品・飲料、石鹸および石鹸製品に関する小売役務」に補正し、引用商標の商品とは実質的に異なる旨を主張し、現在も依然として係属中(審査中)である。
この事例は、「特定の商品の小売役務」を指定した出願商標が、当該商品を指定する類似先行商標の引例によって拒絶される例が示されている。つまり、商品対商品、役務対役務の場合だけでなく、役務対商品の場合にも引用される可能性を示している。この場合、出願人は、商品商標と重ならないように「小売役務」の範囲を限定する必要がある。
4-3.役務を指定する際の注意点
IP Viet Namは、ニース分類のアルファベットリストに記載以外の役務を認めていない。したがって、出願人は、ニース分類のアルファベットリストに記載されている特定の役務を選択し、拒絶を回避する必要がある。
5.商品・役務間の類否について
以下の場合、商品と役務とが類似していると判断される:
(i) 両者がその性質において関連性を有する場合(自動車と自動車修理サービスなど両者が互いに関連性を有する場合)、
(ii) 両者がその機能において関連性を有する場合(化粧品と化粧品販売など両者がその機能を果たすために互いに依存する場合)、または
(iii) 両者がその実施方法において密接な関連性を有する(事例6のように、一方が他方の使用または利用の結果である)場合。
事例6:「第25類:被服」と「第40類:裁縫」
「被服」は、「裁縫」から生み出されるため、類似とみなされる。
【まとめ】
ベトナムでは、商品・役務の類否判断について、日本のような類似群制度は採用されておらず、商品間、役務間および商品・役務間のいずれについても、性質(要素、構造)、機能、使用目的、出所、販売・流通経路の観点から比較して類否を判断する方法が、採用されている。
また、役務については、ニース分類のアルファベットリストに記載されている特定の役務しか採用されていないことに留意する必要がある。