ブラジルにおけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈の実務
ブラジル産業財産法(法律9279/96号)は、その第42条において、特許はその権利所有者に対して、特許の対象である物、または特許された方法もしくはその方法により直接得られた物を第三者が無許可で生産し、使用し、販売の申し出をし、販売し、またはそれらの目的で輸入することを阻止する権利を特許が与えると規定している。
物のクレームの最も一般的な形式は、化合物をその化学的構造(一般式)によって定義したものである。化学的構造が判明していない場合、化合物はその物理的特性、物理化学的特性および/または生物学的特性によって定義することができる。ただし、使用されるパラメータは化合物を明瞭に定義するに十分なものでなければならず、かつ、それらパラメータが明確に規定されていなければならない。(バイオテクノロジーおよび薬学の分野における特許出願審査便覧(Guidelines for Examination of Patent Applications in the fields of Biotechnology and Pharmacy)2.21項)
しかしながら、状況によっては、新規の物をその構造もしくは特性によって定義することが不可能または実現不可能であり、物を定義する唯一の方法がその物を得るために用いる方法による、という場合がある。
このような場合、最終的に物それ自体を得ることを可能にする工程によって物を定義するようにクレームが作成される。いわゆる「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」である。
ブラジル特許審査基準(決議124/2013号)では、3.60および3.61の中で、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの許容性について簡潔に述べ、この種のクレームをどのように作成できるかについてコメントしている。
上記審査基準には、「製造方法の観点から定義された物のクレームは、その物が特許性の要件、すなわち新規性と進歩性の要件を満たしている場合に限り許容されうる」と詳述されている。
したがって、その物が新規の方法によって得られたというだけでは十分でないという点は強調しておくべきだろう。物それ自体が新規性および進歩性の要件を満たしていることが要求されるのである。
ブラジルにおいてプロダクト・バイ・プロセス・クレームが認められるのは非常に極端な場合だけである。つまり、他の手段によっては物を定義することが不可能であるような場合である(Castro, Barros, Sobral Vidigal Gomes Advogados, Product-by-process Claims : International Practice, 2014)。
ブラジル特許審査基準は、発明がプロダクト・バイ・プロセス・クレームによって保護されうる状況の例として次のような場合を挙げている。
例:ある物質が新規の焼結段階を経て製造される。その結果生じる生産物は、名目上は同一の組成を有する先行技術の物質と比較して強度が大きいという異なる特徴を備えている。しかし、出願人は当該物質それ自体を記述することができない。このような場合には、特定の方法によって得られる物としてその物を記述することができる。
この種のクレーム文言は、化学/医薬の分野でよく見られる。
2016年改正審査基準(決議169/2016号)の4.17項では、物を得るための方法によってその物を定義したクレームが許容されるのは、その物が新規性および進歩性の要件を満たしており、かつ、他の手段によってはそのものを定義し得ない場合のみであるという判断が示されている。この種のプロダクト・バイ・プロセス・クレームについて審査官は、製法の特徴によって物の特定の構造および/または組成が生じたのか否かを分析する。その製造方法の結果として先行技術とは異なる構造および/または組成が必然的に生じると当業者が結論した場合、そのクレームは新規と見なされることになろう。
ブラジルにおいてプロダクト・バイ・プロセス・クレームが許容されるためには、そのクレームの中で工程の特徴が十分に記述され、その工程がその結果生じる物に先行技術とは異なる構造および/または組成を持たせることが明確でなければならない。
最近のブラジル審査官の判断では、上述したようなプロダクト・バイ・プロセス・クレームに対する制限的アプローチが強化されてきている。
プロダクト・バイ・プロセス・クレームの特許権を権利行使する際には、裁判所において困難に遭遇する可能性がある。具体的には、プロダクト・バイ・プロセス・クレームは物それ自体を権利範囲とすると解釈され、被疑侵害製品がクレームに記載された物と構造的または化学的に同一であるか否かが争点となることがしばしばあるが、プロダクト・バイ・プロセス・クレームは構造や化学的性質によって物を定義しておらず、その製造方法によって定義している。
実際問題として、特許権者は、クレームに記載された製造方法の一ないし複数の工程に由来する物の構造的もしくは化学的な特徴および/または特性を明らかにし、かつ当該特徴および/または特性が被疑侵害製品に存在しており、先行技術製品から区別されることを明らかにするよう要求されることになるだろう。
プロダクト・バイ・プロセス・クレームについて権利行使する際には、以上のような立証責任の履行が特許権者にとって困難であることが判明するかもしれない。しかし一方で、潜在的侵害者にとっても、侵害のおそれのある製品が特許において特定されているものとは別の方法で製造されている場合、その製品がプロダクト・バイ・プロセス・クレームの権利範囲に含まれるか否かを判断するのは同様に困難かもしれない。したがって、このようなクレームは、確かに有用な抑止効果を発揮する可能性がある。
それゆえ、ブラジル特許庁によるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの審査および認容という問題が(ブラジル特許法では許容されているにも関わらず)激しい議論の的になり得るだけでなく、このタイプのクレームの権利行使もまた裁判所において集中的に議論される可能性がある。
フィリピンにおけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈について
1.審査段階(特許取得時)
製品クレーム、具体的には、化学製品または医薬製品のクレームは、一般に、その組成や、化学式、化学構造または化学的な性質によって定義される。製造方法によって定義される製品のクレーム、いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームは、フィリピンにおいて以下の状況下で認められる。
(1)製造方法以外の特徴によって、製品を明瞭かつ適切に定義できない。
(2)製造方法によって定義される製品が、特許性に関する法定要件、すなわち、以下の要件を満たす。
(a)新規性
フィリピン知的財産法としても知られる共和国法第8293号の第23条は、新規性を以下の通り定義する。
フィリピン知的財産法第23条(新規性)
発明は、それが先行技術の一部を構成する場合は新規であるとはみなさない。
(b)進歩性
フィリピン知的財産法第26条は、進歩性を以下の通り定義する。
フィリピン知的財産法第26条(進歩性)
発明を請求する出願の出願日または優先日において当該発明が先行技術に照らして当業者にとって自明でない場合は、その発明は進歩性を有する。
フィリピンの特許実務下においては、プロダクト・バイ・プロセス・クレームはクレームに記載された製造方法に限定されず、製品自体の新規性および進歩性に基づいて審査される(物同一説)。フィリピンにおいて製法限定説は採用されておらず、製品を定義する製造方法の新規性および進歩性とは独立して審査が行われる。プロダクト・バイ・プロセス・クレームは、記載された製造方法の新規性および進歩性にかかわらず、製造される製品が当該技術分野において公知であれば拒絶される。
よって、すでに知られた製品を新規かつ進歩的な方法で製造しても特許性は認められない。特許可能となるためには、新規な方法または修正変更された方法で製造された製品が、既知の製品と同一または既知の製品から自明であってはならない。
これらのことは、以下の通り、実体審査手続便覧の第3章(27頁4.7aおよび28頁4.7b)に具体的に記載されている。
「4.7a.発明が製品、例えば、化合物に関する場合、クレームにおいて、様々な方法、すなわち化学式や、その製造方法(他の方法による明確な定義が不可能である場合)、または、例外的にはそのパラメータにより、発明を定義することができる(下線は本記事作成時に追加したものである)」
「4.7b.製造方法によって定義された製品のクレームは、製品自体が特許性に関する要件、特に、新規性および進歩性を有するという要件を満たす場合にのみ認められる。新規な方法で製造されたという事実のみでは新規な製品であるとはされない。製造方法によって製品を定義しているクレームは、製品自体のクレームとして解釈され、クレームは、好ましくは、「方法Yにより得られる製品X(Product X obtained by process Y)」ではなく、「方法Yにより得ることができる製品X(Product X obtainable by process Y)」またはこれに類する記載形式を取るべきである。」
プロダクト・バイ・プロセス・クレームの例を以下に示す。
例1:製品Xおよびその製造方法の両方が、新規性および進歩性を有する。製品Xは、その製造方法によってのみ特定可能である。
クレーム1 以下の工程A~Cを含む製品Xの製造方法:
A
B
C
クレーム2 クレーム1に記載の方法により得ることができる製品X。
(A product X obtainable by the process according to claim 1.)
例1では、製造方法および製品の両方が認可されうる。
例2:製品Xは先行技術の一部を構成するが、その製造方法は新規性および進歩性を有する。
クレーム1 以下の工程A~Cを含む製品Xの製造方法:
A
B
C
クレーム2 クレーム1に記載の方法により得ることができる製品X。
例2において、製造方法クレームは認可されうる。一方、製品Xは、新規性欠如または進歩性欠如の何れかに基づき拒絶される場合がある。製造方法によって定義される製品Xの特許性は、「製造方法」自体ではなく、製造方法によってもたらされた構造や特性などの「製品自体の特徴」に基づき判断される。すなわち、プロダクト・バイ・プロセス・クレームはクレームに記載された製造方法に限定されない。
例3:製品Xおよびその製造方法の両方が、新規性および進歩性を有する。製品Xは、その製造方法によってのみ特定可能である。
クレーム1 以下の工程A~Cを含む製品Xの製造方法:
A
B
C
クレーム2 クレーム1に記載の方法により得られる場合の製品X。
(A product X when obtained by the process according to claim 1.)
例3のクレーム1は認可されうる。しかし、クレーム2は、「により得られる場合の(when obtained by)」という表現が不適切であるとして拒絶されることとなる。この不適切な表現は、「方法限定(process limitation)」とされ、フィリピン知的財産庁特許局の実体審査手続便覧において想定されていない。このような拒絶理由は、「により得られる場合の(when obtained by)」という不適切な表現を「により得ることができる(obtainable by)」と補正することにより解消される。
2. 権利行使段階(特許取得後)
権利行使段階において、被疑侵害製品とその製造方法の両方がプロダクト・バイ・プロセス・クレームの製品および製造方法と同じである場合、侵害が認定されることは確実である。
しかしながら、フィリピンには、異なる製造方法で製造された製品に対してプロダクト・バイ・プロセス・クレームの権利がいかに及ぶかを明確に定めた規則はない。フィリピンにおける特許権侵害訴訟の件数は大変少なく、現時点でプロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する訴訟が行われたとの情報はない。
インドにおけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈の実務
インド特許法に基づくプロダクト・バイ・プロセス・クレームの審査を取り巻く法律学は、2012年までは幾分不明瞭であった。同法は、こうしたクレームが認められ得るか、およびその可能性を判断するために評価されるべきパラメータに関して、まったく触れていなかった。したがって、こうしたクレームが特許可能であるか否かを断言することができなかった。こうしたクレームが認められ得るかは、完全に登録官(Controller)の裁量に委ねられており、これらクレームの審査アプローチは統一されていなかった。また、インド特許局の実務および手続の手引(Manual of Patent Office Practice and Procedure: MPPP)2011年版は、こうしたクレームの許容性および特許可能性を判断するために必要な検討事項について何らの指針も提供していなかった。
しかし、2012年、知的財産審判委員会(Intellectual Property Appellate Board: IPAB)は、2012年決定第200号において初めて、「プロダクト・バイ・プロセス」クレームの評価に際して考慮されるべき検討事項を明らかにした。同委員会により、プロダクト・バイ・プロセス・クレームは「ある物を製造するために使用される方法(特別な工程)の観点において当該物を定義する」クレームであると確認された。こうしたクレームの基礎となる理論的根拠は、「物を製造するクレーム方法に言及すること以外に、当該物を定義しまたは先行技術から区別することができない状況」であると定められた。
最も重要な事として、以下の内容が知的財産審判委員会において示された:
「プロダクト・バイ・プロセス・クレームはまた、新規かつ非自明な物を定義しなければならず、その特許性は方法のみの新規性および非自明性によることはできない。したがって、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの特許性は、物自体に基づくものであり、生産方法には依らない。換言すると、プロダクト・バイ・プロセス・クレームが、先行技術の物と同一または先行技術の物から自明である場合、当該先行技術の物が異なる方法により製造されたものであったとしても、当該クレームは特許を受けることができない。よって、プロダクト・バイ・プロセス・クレームは、新規かつ非自明な物を定義しなければならず、そうしたクレームの特許性は、方法のみの新規性および非自明性によることはできない。」
1. インドにおけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの審査にかかる現行基準
IPABの前記決定は、インド特許局におけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの審査に拘束力のある影響を有する。上記に従い、2014年10月にインド特許局が発行した「医薬品分野の特許出願の審査ガイドライン」において、ある方法により得られるまたは生産される物に関するクレームは、当該物自体にかかる先行開示により新規性が失われることが示された。
したがって、実体審査において、インド特許局は「物同一説」を採用する。すなわち、物がどのように製造されたかにかかわらず、物自体が新規性および進歩性の要件を満たすか否かを評価して審査を行うことが現在は明確となっている。換言すると、発明の「要旨」が物自体の技術的長所または方法の工程に存在するか否かが確認される。発明の新規性および進歩性を有する要旨が方法の工程に存在すると確認された場合、出願人は、当該クレームを方法クレームへ補正する必要がある。
2. プロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈のためのその他検討事項
インド特許法第2条(1)(ja)の規定に基づく進歩性の条件を満たすためには、物自体が、先行技術の物と比較した場合に強化された技術的効果を発揮することが重要である。これは、インド特許法第2条(1)(ja)において、「『進歩性』とは、現存の知識と比較して技術的進歩を含みもしくは経済的意義を有するかまたは両者を有する発明の特徴であって、当該発明を当該技術の熟練者にとって自明でなくするものを意味する」と定義されているためである。よって、IPABの2012年決定第200号により確立された判例においては、物自体がその特徴に起因する何らの進歩的な技術的効果を確立していないため、当該プロダクト・バイ・プロセス・クレームは特許適格ではないと判断された。このことは、具体的には、以下の通り判示された:
「当委員会が扱っている事件は、出願人自身が、実施例2において、封入された薬の放出特性が、封入されていない薬と同じであると認めているため、プロダクト・バイ・プロセス・クレームを特許適格とするものではない。」
3. プロダクト・バイ・プロセス・クレームの権利行使
これまでのところ、インドの裁判所において、特許権侵害を扱う事件が公判段階まで進んだ事例は極めて少ない。インドにおいて、プロダクト・バイ・プロセスクレームに基づく特許に関してクレーム範囲の解釈および侵害の司法的検討が行われたことは、知る限りにおいて無い。しかし、指針となる判例のギャップを埋めていくために、インドの裁判所が下した判決は、特許法の様々な側面を評価するにあたり米国および英国の裁判所により確立された基準を比較論的に分析し、依拠し、採用してきた。例えば、上記のIPABの決定において、同委員会は、Atlantic Thermoplastics Corp vs Faytex Corp, 23 USPQ 2nd 1481 (Fed.Cir.1992)事件における米国連邦巡回区控訴裁判所の判決に依拠し、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの特許性を評価するために採用されるべき基準に至った。
物同一説に基づき評価された場合、方法「Y」により生産された製品「X」に関するクレームは、異なる方法「Z」により生産された侵害製品「X」に対して権利行使可能であると考えられる。しかし、物同一説に基づくプロダクト・バイ・プロセス・クレームの審査基準とは対照的に、こうしたクレームに対して同様の独占権を与えるアプローチについて、インドの裁判所はどちらかと言えば保守的であろうと考える。
後述する点を考慮すると、こうしたクレームについて認められる権利行使の範囲を確認するにあたり、裁判所は「製法限定説」に従う傾向が強いかもしれない。第一に、インドの裁判所は、クレームのすべての要素が侵害製品においてカバーされているか否かを確認することにより、クレーム解釈に際して、文言解釈の原則に大きく従ってきた。第二に、そしてより説得力のある理由として、「物同一説」に基づく権利行使が、実施可能な主題の範囲を超える保護範囲をクレームに与えるものと認識され得るということである。この見解は、Glivec事件の最高裁判決においても以下のとおり繰り返された(Novartis v Union of India & Ors)。
「……本国において、特許法は、あらゆる種類の物に関する物質特許を特許制度に導入した後も、依然として未熟であると言いたい。我々は、本国の法律が、特許に基づく保護範囲と開示との間に大きなギャップがあるような方向に発展していくことを明らかに望まない……。」
最後に、インド特許法第64条(2)(b)の規定は、クレームに記載の方法により外国で製造されたクレーム製品のインドへの輸入に基づく「先知識」または「先使用」を根拠とし、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する特許の無効を定めていることは指摘に値する。これら規定は、一見したところ、特許性判断基準と矛盾する。しかし、これらは、特許性、有効性および権利行使可能性を目的として、プロダクト・バイ・プロセス・クレームを評価するための特有の基準を採用する立法意図を正当化するものと理解することができる。
4. まとめ
インドにおけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの権利行使を取り巻く不確実性に照らして、絶対的な必要性がない限り、この形式でクレームを作成することを避けることが推奨される。こうした文言は、クレーム方法に言及することによる以外に物を定義できない、または先行技術から区別できない状況においてのみ使用するのが賢明である。プロダクト・バイ・プロセス・クレームに加えて、代替オプションとして、製法にかかる独立クレームも常に含めることが望ましい。しかし、高等裁判所による今後の判決が、インドにおけるこうしたクレームの権利行使を取り巻く法律学をさらに明確にすることが期待される。
ベトナムにおけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈の実務
1.プロダクト・バイ・プロセス・クレーム形式で記載可能な発明
2010年3月31日にベトナム国家知的財産庁により発行された、特許審査ガイドライン(以下、「ガイドライン」)に定められているように、極めて複雑な構造を有する生産物(英語「product」、以下同様)(ポリマーなど)または様々な化合物を含む生産物(抽出物、画分(英語「fraction」)など)といった、出願の時点でその構造が分からない生産物の場合には、当該生産物をその製造方法により特定することができる(例えば、製法Yにより得られた生産物X)。
ただし、その製法の技術的特徴が、当該クレームに記載の生産物と先行技術の他の生産物とを比較または区別する上で十分なものでなければならない(第5.7.2f項)。したがって、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに記載された生産物がその生産物自体の特性(構造、組成、各成分の量など)により定義可能であると、審査官が判断する場合、審査官はプロダクト・バイ・プロセス形式によるクレームの記載について拒絶理由を通知し、生産物自体の特性によりクレームを定義づけるよう出願人に要求する。
2.プロダクト・バイ・プロセス・クレームの実体審査における解釈
ベトナムにおけるこのクレーム形式の特許性評価では、当該クレームに記載された製法によって示唆される生産物の特異的な構造および/または成分を考慮に入れて、生産物自体のみが審査される(すなわち、物同一説)。
具体的には、ガイドラインの規定に従い、このクレーム形式の新規性を評価する際に、審査官は当該クレームに記載された製造方法の特徴によって特異的な構造および/または成分が生産物にもたらされるかどうかを検討しなければならない。その製法により必然的に先行技術の生産物とは異なる構造および/または成分の生産物が生み出されると、当業者が結論づけることができれば、当該プロダクト・バイ・プロセス・クレームは新規性の要件を満たしている。
対照的に、当該クレームに記載された製法により製造された生産物が、先行技術の生産物と同じ構造および/または成分を有する場合には、当該プロダクト・バイ・プロセス・クレームに記載された生産物は、たとえ異なる製法により製造されるとしても、新規性を欠いているとみなされる。ただし、当該クレームに記載された製法が、異なる構造および/または成分を有する生産物を生み出すこと、または異なる機能を有し、それにより構造および/または成分に変化をもたらすことが可能な生産物を生み出すことを、出願人が立証できる場合を除く(第22.2.2.5(3)項)。
具体例
ガイドライン(第22.2.2.5(3)項)では、製法Xにより製造されるガラスに関する発明であって、先行技術に同じガラスを製造する製法Yが既に開示されているという具体的な事例が取り上げられている。この事例が示しているのは、これら2つの製法で製造されたガラスが同じ構造、形状および/または材料を有する場合には、当該発明は新規ではないということである。
対照的に、製法Xが先行技術にはまだ開示されていない特定の温度での温置段階(英語「incubation step」)を含んでおり、この温置温度のおかげで、製法Xにより製造された当該クレームのガラスが、製法Yにより製造されたガラスと比べて増大した亀裂抵抗および破損抵抗を有する場合には、当該発明は新規性を有する。なぜなら亀裂抵抗および破損抵抗の増大は、先行技術のガラスと比べて当該クレームのガラスが異なる製造方法のおかげで異なる内部構造および微細構造を有することを示唆しているためである。
3.プロダクト・バイ・プロセス・クレームの侵害判断における解釈
ベトナムにおいてプロダクト・バイ・プロセス・クレームに対する侵害の可能性を評価する場合、当該クレームに記載された製法は限定事項として考慮されると考えられる(すなわち、製法限定説)。
3-1.背景
プロダクト・バイ・プロセス・クレームの侵害分析については、このクレーム形式の技術的範囲または権利行使に関する明示的な規定は、ベトナム知的財産法や関連法規には存在しない。また、ベトナムにおいてこの問題に関する判例法はこれまで存在しなかったため、審決も存在しない。それゆえ、訴訟が生じた場合、この特殊なクレーム形式に関する侵害評価は、産業財産分野における行政違反行為の処罰に関する2013年8月29日付けの政令No. 99/2013/ND-CPの複数の条項について詳述し、指針を示す、科学技術省の2015年6月26日付けの最新の通達No.11/2015/TT-BKHCNに基づいて行われると考えられる。
3-2.通達No. 11/2015/TT-BKHCNに基づく解釈
この通達の規定によれば、当該クレームに記載された全ての本質的な技術的特徴が同一または均等の状態で被疑侵害品に存在する場合、その被疑侵害品は当該クレームにより保護される生産物と「同一」または「均等」とみなされる。その一方で、被疑侵害品が当該クレームに記載された少なくとも1つの本質的な技術的特徴を含んでいない場合、その被疑侵害品は「同一ではない」または「均等ではない」とみなされる。
つまり、双方の技術的特徴は、(a)当該クレームに記載された他の特徴と同じ性質、同じ目的、同じ目的達成方法を有し、同じ関係にある場合には「同一」とみなされ、さらに(b)類似性または互換性のある性質、実質上同一の目的、および実質上同一の目的達成方法を有する場合は「均等」とみなされる(規則11)。
それゆえ、製造方法の特徴により定義されているプロダクト・バイ・プロセス・クレームの場合、被疑侵害品は、当該プロダクト・バイ・プロセス・クレームに記載された製法と比較して同一性、類似性または互換性のある性質、同一または実質上同一の目的、および同一または実質上同一の目的達成方法を有する製法により製造される場合に限り、プロダクト・バイ・プロセス形式の特許クレームを侵害していると解釈することが可能である。
シンガポールにおけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈の実務
1. 審査段階(登録前)
シンガポールにおいて、プロダクト・バイ・プロセス・クレームは、生産物の構造が知られておらず、かつ、当該生産物が、組成、構造、性質または特徴により適切に定義することができない発明についてのみ認められる。これは、その特徴または組成の観点において定義することができない生物学的生産物またはポリマーに適用される(シンガポール知的財産庁(英語:「IPOS」)審査ガイドライン(以下、「ガイドライン」)のパラグラフ2.73)。
しかし、一般に、特許出願におけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームは、製法により限定された生産物ではなく、生産物自体に関するクレームとして解釈される。
以下に、ガイドラインのパラグラフ2.74を記載する:
ガイドライン パラグラフ2.74:製法により得られる生産物に関するクレーム
「製法Yにより得られるまたは調整される生産品X」は、
「得られた(英語「obtained」)」、「得ることができる(英語「obtainable」)」、「直接得られた(英語「directly obtained」)」、またはその他同様の文言が使用されているか否かにかかわらず、生産物自体に関するクレームとして解釈するべきである(Kirin-Amgen Inc v. Hoechst Marion Roussel Ltd [2005] RPC :これは、欧州特許庁の法律、すなわち、審決T 150/82 International Flavors and Fragrances Inc. [1984] 7 OJEPO 309を支持する)。
この点において、プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおける生産物自体の構成(製法の特徴によってもたらされた組成、構造、性質または特徴)が先行技術に開示されているとみなされる場合、当該クレームは新規性が欠如するものと判断される。
さらに、プロダクト・バイ・プロセス・クレームは生産物自体と区別できないため、特許または特許出願が生産物クレームを有し、その分割出願が同一生産物に関するプロダクト・バイ・プロセス・クレームを有する場合には、両出願の間に重複した主題があることとなる。したがって、調査および審査の過程において二重特許に基づく拒絶が提起される。
2. 権利行使段階(登録後)
上記ガイドラインのパラグラフ2.74から、特許におけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームは、製法により限定された生産物ではなく、生産物自体に関するクレームとして解釈される。したがって、製法の新規性により、生産物に新規性を付与することはできない。
したがって、
(a)プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおける生産物の新規性が欠如する場合、当該クレームは無効である;しかし、
(b)生産物が特許性の要件を満たし、かつ、その組成、構造またはその他の検証可能なパラメータを参照して適切に定義することができない場合、そのようなプロダクト・バイ・プロセス・クレームは有効となると推定される。
プロダクト・バイ・プロセス・クレームは、生産物クレームとして解釈されるため、有効なプロダクト・バイ・プロセス・クレームの権利行使は、生産物クレームの権利行使と同じ一般原則に従う。
First Currency Choice v. Main-line Corporate Holdings Pte Ltd (2008) 1 SLR 335から、これら一般原則は、まず、登録された独占権の範囲を判断するためのクレーム全体の目的論的解釈に関わり、その後、被疑侵害品がクレームのすべての必須の特徴を含むか否かの判断が行われる。
さらに、既知の生産物は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームにより保護されないが、製法自体が特許可能であると推定される場合には、製法クレームとして保護が可能であり、当該方法から直接得られた生産物は自動的に保護されることとなる。
タイにおけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈の実務
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香港におけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈の実務
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マレーシアにおける商標出願の拒絶理由通知に対する応答
【詳細】
1976年商標法(「商標法」)および1997年商標規則(「商標規則」)に基づく要件に従い、商標出願がなされ、方式審査が完了すると、マレーシア知的財産局(Intellectual Property Corporation of Malaysia: MyIPO)の商標調査・審査部(Trademarks Search and Examination Section)の審査官が当該商標出願の実体審査を開始する。実体審査には、次のものが含まれるが、それらに限定されるものではない。
(i)指定商品・役務の記述に関する審査(必要な場合)
(ii)抵触する先願・先登録の有無を確認する調査
(iii)商標の本来的な識別力に関する審査(英語辞書、電話帳、地図帳および科学技術用語辞典などの参照文書で参照する場合もある)
(iv)商標の欺瞞性その他法定の不登録事由に関する審査、たとえば周知商標、地理的名称、または王室もしくは皇室の紋章、軍の階級章、頂飾、紋(章)、記章または国旗等を示す標章、標語または文言などの一定の禁止事項により構成されるかどうかの審査
(v)登録に制限または条件を課す必要性についての検討、たとえば、標章の一定の文言または図形に対する権利不要求、余白に関する条件、使用態様に関する条件などの確認
上記の根拠に基づき出願の実体審査を終えると、審査官は当該出願を拒絶するか否か、審査官の提示する条件、補正、変更または限定に同意すれば登録を認める旨を通知することができる。
審査官には、商標法に基づく裁量が与えられており、その職権により商標を拒絶することができるが、出願人に意見を述べる機会を与えることなく自己の職権を出願人に不利な形で行使しないよう求められている(マレーシア商標法第76条)。
○拒絶理由通知に対する対応
(1)審査官が商標出願を拒絶するか、何らかの条件、補正、変更または限定(「一定条件」)に同意すれば登録を認める用意がある場合、審査官は出願人に対し書面でその拒絶理由を通知し、出願人は拒絶理由通知書の日付から2ヶ月以内で、回答書を提出する機会を与えられる。出願人が所定の期間内または審査官が認めた延長期間内に応答しない場合、当該出願を放棄したものとみなす。
(2)回答書には、審査官から通知された拒絶理由を解消するための提案、条件、補正、変更または限定などを含めることができる。さらに、当該標章が十分な本来的識別力を有していない場合や、抵触する引用商標との善意の同時使用がなされていた場合には、使用により識別力を有するに至っていることを証明するための法定宣誓書による使用証拠など、審査官から通知された拒絶理由を解消するための証拠または文書を回答書に含めることができる。
(3)審査官は、出願人の回答書を考慮した後、当該出願の登録を認めるか、拒絶理由が解消されていないと決定することができる。
(4)審査官は、拒絶理由が解消されていないと決定する場合、出願人に対し拒絶査定書を送達し、出願人は当該拒絶査定の通知の日付から2ヶ月以内に所定の料金を添えて面接を申請することができる。面接の申請を行わない場合、出願人は出願を放棄したものとみなされる。出願人が面接の申請を行った場合、審査官は、出願人が面接のために審査官と面接すべき日時を定めた通知を送達する。出願人は面接において、回答書に記載したものと同様の主張または追加の主張、提案または証拠の提出を行うことができる。
(5)面接後に審査官が下す決定は、書面で出願人に送達される。出願人は、この決定に不服がある場合、審査官に対し決定の日付から2ヶ月以内に、決定の根拠および決定に用いた資料を書面で示すよう求めなければならない。不服申立においては、この規則に基づく書面が出願人に交付された日を審査官による決定の日付とみなす。
(6)出願人は、審査官の上記通知に対する応答期間として、商標法または商標規則に規定される応答期限の延長について申請することができる。
(7)審査官の決定に不服がある場合には、マレーシア高等裁判所に不服申立を提起することができる。裁判所は、必要な場合は出願人と審査官の審理を行い、出願の登録を認めるべきか否か、さらに場合に応じてどのような条件、補正または限定を付して認可すべきかを決定する。審査官が決定を下すために用いた資料に基づき審理が行われ、裁判所が許可した場合を除き、審査官は新たな拒絶理由を追加することは認められない。裁判所が認めた新たな拒絶理由が追加された場合、出願人は所定の方法により出願を取り下げることができる。その際には、出願に関する費用は一切かからない。
(8)裁判所が不服申立を認めた場合には、商標法の規定に従い審査官は出願を登録しなければならず、その期限も判決日から3ヶ月以内または裁判所が認めるまでと定めてられている(マレーシア商標法第29条の(2))。
【留意事項】
審査官は、出願の登録を認めたことが誤りであったと認める場合には、その職権により、登録前のいかなる段階においても当該出願に対する登録査定を取り消すことができる。このような場合、出願人には、新たな拒絶理由に対してヒアリングおよび不服申立の機会が与えられる。