日本とタイにおける特許出願書類の比較
1.日本における特許出願の出願書類
(1) 出願書類
所定の様式により作成した以下の書面を提出する。
・願書
・明細書
・特許請求の範囲
・必要な図面
・要約書
(条文等根拠:特許法第36条)
・日本特許法 第36条(特許出願)
特許を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した願書を特許庁長官に提出しなければならない。 一 特許出願人の氏名又は名称および住所又は居所 二 発明者の氏名および住所又は居所 2 願書には、明細書、特許請求の範囲、必要な図面および要約書を添付しなければならない。 3 前項の明細書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。 一 発明の名称 二 図面の簡単な説明 三 発明の詳細な説明 4 前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。 一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。 二 その発明に関連する文献公知発明(第二十九条第一項第三号に掲げる発明をいう。以下この号において同じ。)のうち、特許を受けようとする者が特許出願の時に知っているものがあるときは、その文献公知発明が記載された刊行物の名称その他のその文献公知発明に関する情報の所在を記載したものであること。 5 第二項の特許請求の範囲には、請求項に区分して、各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。この場合において、一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載となることを妨げない。 6 第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。 一 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。 二 特許を受けようとする発明が明確であること。 三 請求項ごとの記載が簡潔であること。 四 その他経済産業省令で定めるところにより記載されていること。 7 第二項の要約書には、明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した発明の概要その他経済産業省令で定める事項を記載しなければならない。 |
(2) 手続言語
日本語
(3) 手続言語以外で記載された明細書での出願日確保の可否
英語、その他の外国語により作成した外国語書面を願書に添付して出願することができる。その特許出願の日(優先権主張を伴う出願においては最先の優先日)から1年4か月以内に外国語書面および外国語要約書面の日本語による翻訳文を、特許庁長官に提出しなければならない。
(条文等根拠:特許法第36条の2、特許法施行規則第25条の4)
・日本特許法 第36条の2
特許を受けようとする者は、前条第二項の明細書、特許請求の範囲、必要な図面及び要約書に代えて、同条第三項から第六項までの規定により明細書又は特許請求の範囲に記載すべきものとされる事項を経済産業省令で定める外国語で記載した書面及び必要な図面でこれに含まれる説明をその外国語で記載したもの(以下「外国語書面」という。)並びに同条第七項の規定により要約書に記載すべきものとされる事項をその外国語で記載した書面(以下「外国語要約書面」という。)を願書に添付することができる。 2 前項の規定により外国語書面および外国語要約書面を願書に添付した特許出願(以下「外国語書面出願」という。)の出願人は、その特許出願の日(第四十一条第一項の規定による優先権の主張を伴う特許出願にあっては、同項に規定する先の出願の日、第四十三条第一項、第四十三条の二第一項(第四十三条の三第三項において準用する場合を含む。)又は第四十三条の三第一項若しくは第二項の規定による優先権の主張を伴う特許出願にあっては、最初の出願若しくはパリ条約(千九百年十二月十四日にブラッセルで、千九百十一年六月二日にワシントンで、千九百二十五年十一月六日にヘーグで、千九百三十四年六月二日にロンドンで、千九百五十八年十月三十一日にリスボンで及び千九百六十七年七月十四日にストックホルムで改正された工業所有権の保護に関する千八百八十三年三月二十日のパリ条約をいう。以下同じ。)第四条C(4)の規定により最初の出願とみなされた出願又は同条A(2)の規定により最初の出願と認められた出願の日、第四十一条第一項、第四十三条第一項、第四十三条の二第一項(第四十三条の三第三項において準用する場合を含む。)又は第四十三条の三第一項若しくは第二項の規定による二以上の優先権の主張を伴う特許出願にあっては、当該優先権の主張の基礎とした出願の日のうち最先の日。第六十四条第一項において同じ。)から一年四月以内に外国語書面および外国語要約書面の日本語による翻訳文を、特許庁長官に提出しなければならない。ただし、当該外国語書面出願が第四十四条第一項の規定による特許出願の分割に係る新たな特許出願、第四十六条第一項若しくは第二項の規定による出願の変更に係る特許出願又は第四十六条の二第一項の規定による実用新案登録に基づく特許出願である場合にあっては、本文の期間の経過後であっても、その特許出願の分割、出願の変更又は実用新案登録に基づく特許出願の日から二月以内に限り、外国語書面および外国語要約書面の日本語による翻訳文を提出することができる。 3 特許庁長官は、前項本文に規定する期間(同項ただし書の規定により外国語書面及び外国語要約書面の翻訳文を提出することができるときは、同項ただし書に規定する期間。以下この条において同じ。)内に同項に規定する外国語書面及び外国語要約書面の翻訳文の提出がなかつたときは、外国語書面出願の出願人に対し、その旨を通知しなければならない。 4 前項の規定による通知を受けた者は、経済産業省令で定める期間内に限り、第二項に規定する外国語書面及び外国語要約書面の翻訳文を特許庁長官に提出することができる。 5 前項に規定する期間内に外国語書面(図面を除く。)の第二項に規定する翻訳文の提出がなかったときは、その特許出願は、同項本文に規定する期間の経過の時に取り下げられたものとみなす。 6 前項の規定により取り下げられたものとみなされた特許出願の出願人は、経済産業省令で定める期間内に限り、経済産業省令で定めるところにより、第二項に規定する外国語書面及び外国語要約書面の翻訳文を特許庁長官に提出することができる。ただし、故意に、第四項に規定する期間内に前項に規定する翻訳文を提出しなかったと認められる場合は、この限りでない。 7 第四項又は前項の規定により提出された翻訳文は、第二項本文に規定する期間が満了する時に特許庁長官に提出されたものとみなす。 8 第二項に規定する外国語書面の翻訳文は前条第二項の規定により願書に添付して提出した明細書、特許請求の範囲及び図面と、第二項に規定する外国語要約書面の翻訳文は同条第二項の規定により願書に添付して提出した要約書とみなす。 |
・日本特許法施行規則 第25条の4 外国語書面出願の言語
特許法第三十六条の二第一項の経済産業省令で定める外国語は、英語その他の外国語とする。 |
(4) 優先権主張手続
優先権主張の基礎となる出願の出願国と出願日を記載した書類(優先権主張書)を所定の期間内に提出し、その基礎出願の謄本(優先権証明書)を最先の優先日から1年4か月以内に特許庁長官に提出しなければならない。優先権主張書の提出は、特許出願の願書に所定の事項を記載することで、省略することができる。
(*特許庁「出願の手続」第二章第十一節「優先権主張に関する手続」、https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/document/syutugan_tetuzuki/02_11-1.pdf)
ただし、日本国特許庁と一部の外国特許庁、機関との間では、優先権書類の電子的交換を実施しており、出願人が所定の手続を行うことで、パリ条約による優先権主張をした者が行う必要がある書面(紙)による優先権書類の提出を省略することが可能となっている。
(条文等根拠:特許法第43条)
・日本特許法 第43条(パリ条約による優先権主張の手続)
パリ条約第四条D(1)の規定により特許出願について優先権を主張しようとする者は、その旨並びに最初に出願をしもしくは同条C(4)の規定により最初の出願とみなされた出願をし又は同条A(2)の規定により最初に出願をしたものと認められたパリ条約の同盟国の国名および出願の年月日を記載した書面を経済産業省令で定める期間内に特許庁長官に提出しなければならない。 2 前項の規定による優先権の主張をした者は、最初に出願をし、もしくはパリ条約第四条C(4)の規定により最初の出願とみなされた出願をし、もしくは同条A(2)の規定により最初に出願をしたものと認められたパリ条約の同盟国の認証がある出願の年月日を記載した書面、その出願の際の書類で明細書、特許請求の範囲もしくは実用新案登録請求の範囲および図面に相当するものの謄本又はこれらと同様な内容を有する公報もしくは証明書であってその同盟国の政府が発行したものを次の各号に掲げる日のうち最先の日から一年四月以内に特許庁長官に提出しなければならない。 一 当該最初の出願もしくはパリ条約第四条C(4)の規定により当該最初の出願とみなされた出願又は同条A(2)の規定により当該最初の出願と認められた出願の日 二 その特許出願が第四十一条第一項の規定による優先権の主張を伴う場合における当該優先権の主張の基礎とした出願の日 三 その特許出願が前項、次条第一項(第四十三条の三第三項において準用する場合を含む。)又は第四十三条の三第一項もしくは第二項の規定による他の優先権の主張を伴う場合における当該優先権の主張の基礎とした出願の日 3 第一項の規定による優先権の主張をした者は、最初の出願もしくはパリ条約第四条C(4)の規定により最初の出願とみなされた出願又は同条A(2)の規定により最初の出願と認められた出願の番号を記載した書面を前項に規定する書類とともに特許庁長官に提出しなければならない。ただし、同項に規定する書類の提出前にその番号を知ることができないときは、当該書面に代えてその理由を記載した書面を提出し、かつ、その番号を知ったときは、遅滞なく、その番号を記載した書面を提出しなければならない。 4 第一項の規定による優先権の主張をした者が第二項に規定する期間内に同項に規定する書類を提出しないときは、当該優先権の主張は、その効力を失う。 5 第二項に規定する書類に記載されている事項を電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。)によりパリ条約の同盟国の政府又は工業所有権に関する国際機関との間で交換することができる場合として経済産業省令で定める場合において、第一項の規定による優先権の主張をした者が、第二項に規定する期間内に、出願の番号その他の当該事項を交換するために必要な事項として経済産業省令で定める事項を記載した書面を特許庁長官に提出したときは、前二項の規定の適用については、第二項に規定する書類を提出したものとみなす。 6 特許庁長官は、第二項に規定する期間内に同項に規定する書類又は前項に規定する書面の提出がなかったときは、第一項の規定による優先権の主張をした者に対し、その旨を通知しなければならない。 7 前項の規定による通知を受けた者は、経済産業省令で定める期間内に限り、第二項に規定する書類又は第五項に規定する書面を特許庁長官に提出することができる。 8 第六項の規定による通知を受けた者がその責めに帰することができない理由により前項に規定する期間内に第二項に規定する書類又は第五項に規定する書面を提出することができないときは、前項の規定にかかわらず、経済産業省令で定める期間内に、その書類又は書面を特許庁長官に提出することができる。 9 第七項又は前項の規定により第二項に規定する書類又は第五項に規定する書面の提出があったときは、第四項の規定は、適用しない。 |
<参考URL>
(特許庁:優先権書類の提出省略について(優先権書類データの特許庁間における電子的交換について))
https://www.jpo.go.jp/system/process/shutugan/yusen/das/index.html
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2.タイにおける特許出願の出願書類(パリルート)
(1) 出願書類
タイ特許法および省令にて規定された以下の書面を提出する。ただし、出願時に出願書類(願書または証拠書類)に不備がある場合は90日以内に補完提出が可能。
・願書
・発明の説明(明細書)
・特許請求の範囲
・要約
・必要な図面
・優先権書類
・委任状(公証人認証済みのもの)
・該当する場合は譲渡証
(条文等根拠:特許法第10条、第17条、特許法に基づく省令第22号(B.E.2542)第2条、特許法(B.E.2522)に基づく省令第21号(B.E.2542)第13条、発明特許及び小特許出願審査マニュアル2019(第1章第1部添付書類1、備考1))
・タイ特許法 第10条
発明者は,特許を出願すると共に発明者として特許に名称を記載される権利を有する。 特許を出願する権利は,譲渡又は承継により移転することができる。 特許を出願する権利の譲渡は,書面で行わなければならず,また,譲渡人及び譲受人の署名を必要とする。 |
・タイ特許法 第17条
特許出願は,省令に定める規則及び手続に従わなければならない。 特許出願書類には,次の事項が含まれていなければならない。 (1) 発明の名称 (2) 発明の特徴及び目的に関する簡単な説明 (3) 当該発明が帰属するか又は最も密接に関連する技術分野において通常の知識を有する者が当該発明を実施及び使用することができるような完全,簡潔,明瞭かつ正確な言葉で記され,かつ発明者が自らの発明を実施する上で企図する最良の態様が示された,発明の詳細な説明 (4) 明確かつ正確な 1 又は複数のクレーム (5) 省令に定めるその他の事項 タイが特許に関する国際協定又は国際協力に加盟した場合,かかる国際協定又は国際協力の要件を満たす特許出願は,本法に基づく特許出願とみなされる。 |
・タイ特許法に基づく省令第22号(B.E.2542) 第2条
特許法第28条又は第65条の5(場合に応じ)の規定に基づいて長官に審査報告書を提出するため発明特許出願又は発明小特許出願を処理するにあたり,担当官は,次の事項についてかかる特許出願又は小特許出願の審査を行うものとする。 (1) 願書,発明の説明,クレーム,図面(もしあれば)及び要約が,特許法第17条又は第17条を準用する第65条の10(場合に応じ)に基づいて公布される省令に準拠していること (2) 当該発明が,特許法第9条又は第9条を準用する第65条の10(場合に応じ)に基づく特許性のない発明でないこと (3) 出願人が,特許法第10条,第11条,第14条又は第15条第1段落若しくは第2段落に基づいて特許を出願する権利,又は,第10条,第11条,第14条又は第15条第1段落若しくは第2段落を準用する第65条の10に基づいて小特許を出願する権利(場合に応じ)を有していること (4) 出願人が,特許法第16条又は第16条を準用する第65条の10(場合に応じ)に基づいて特許又は小特許の付与を受ける権利を有していること (5) 特許出願又は小特許出願の対象たる発明が,その出願日より前に特許法第65条の3に基づいて国内で特許出願又は小特許出願がなされた発明と同一のものでないこと (6) 小特許出願の対象たる発明が単一の発明概念を構成すべく連結していること |
・タイ特許法(B.E.2522)に基づく省令第21号(B.E.2542) 第13条
タイの居住者でない出願人,異議申立人,答弁人又は審判請求人は,その者の代理人としてタイ国内で行為する者として長官に登録された代理人を任命しなければならない。委任状は長官に提出するものとする。 前段落の委任状は,タイの外交代表者,商務参事官,通商局長官,商務官若しくはその国の領事,又は委任者の国の法律により署名認証権を与えられた官吏による証明を得なければならない。 |
・発明特許及び小特許出願審査マニュアル2019(第1章第1部添付書類1、備考1)
出願又は証拠書類が不正確・不完全な場合は、担当官が追加提出すべき書類又は証拠書類の項目の不備を記録する。その場合、出願人は特許又は小特許の出願日から90日以内に、補正及び追加書類の提出を行うこと。出願人が上記の期限までに追加書類を揃えて送らなかった場合は、出願人は出願を放棄したものと見なし、担当官は出願人に出願返却すると共に、願書の返却理由及び審判請求の権利について通知する。 |
(2) 手続言語
タイ語
(条文等根拠:特許法(B.E.2522)に基づく省令第21号(B.E.2542) 第12条)
・タイ特許法(B.E.2522)に基づく省令第21号(B.E.2542) 第12条
すべての願書及び出願時に提出される書類は,次に従うものとする。 (1) 正確,明確及び完全な情報を様式の定めるとおりに記載すること (2) 発明の説明,クレーム及び要約も含め,タイ語で印刷又はタイプすること 出願人が既に外国で特許又は小特許の出願を行っている場合,出願人は,発明の説明,クレーム及び要約を原出願における外国語で提出することを要求することができる。この場合出願人は,正確かつ原出願に対応したタイ語による発明の説明,クレーム及び要約を出願から90日以内に提出しなければならない。 出願人が所定の期間内にタイ語による出願書類を提出しない場合,出願人は,かかるタイ語の書類を提出する日をもって出願を行ったものとみなされる。 (3) 場合に応じ,出願人,異議申立人,答弁人若しくは審判請求人,又は第11条又は第12条の規定に基づき委任が行われた場合は登録代理人が署名すること |
(3) 手続言語以外で記載された明細書での出願日確保の可否
明細書、特許請求の範囲および要約は、他国での出願言語にて提出した後にタイ語訳の補完提出が可能。補完提出期限は出願から90日以内。
(条文等根拠:上記、タイ特許法(B.E.2522)に基づく省令第21号(B.E.2542) 第12条)
(4) 優先権主張手続
優先権主張を出願と同時に行う必要がある。優先権証明書を優先日から16か月以内かつ出願公開前に提出する必要がある。
(条文等根拠:特許法第19条の2、特許法に基づく省令第21号(B.E.2542)第10条)
・タイ特許法第19条の2
第14条に基づき外国で発明特許出願を行った者は,外国での最初の出願日から12月以内に国内で出願を行ったときは,かかる最初の外国出願日を国内での出願日として主張することができる。 |
・タイ特許法に基づく省令第21号(B.E.2542)第10条
外国で特許又は小特許の出願がなされた発明につき,かかる外国での最初の出願日から12月以内に特許出願を行う場合において,出願人が特許法第19条の2に基づきかかる外国での最初の出願日をタイでの出願日とすることを希望する場合,出願人は,出願時又は出願公告前でかかる外国での最初の出願日から16月以内に,長官の定める様式による別の願書を提出しなければならない。この場合,出願人はさらに,出願日及び出願の詳細を示す外国で提出した特許又は小特許の出願書類の謄本で,出願を行った国の特許庁が認証したものを提出することを要する。 |
(5) 委任状および譲渡証について
(公証人認証済み委任状)
タイの居住者でない出願人は、タイ国内での代理人を任命しなければならず、委任状を出願とともに提出しなければならない。委任状は、公証人認証が必要となる。
(譲渡証)
発明者は、特許を出願すると共に発明者として特許に名称を記載される権利を有する。出願人が発明者本人でない場合(所属する法人等が出願人となる場合)、特許を出願する権利の譲渡が書面にて行われる必要がある。この譲渡証には、譲渡人および譲受人の署名を必要とする。
委任状、譲渡証も含め、出願書類(願書または証拠書類)に不備があった場合、出願日から90日以内に補完提出が可能であるが、期限に間に合わなかった場合は特許法第27条に従って出願を放棄したものとみなされる。
(条文等根拠:特許法第10条、特許法(B.E.2522)に基づく省令第21号(B.E.2542)第13条(いずれも上記)、特許法第27条)
・タイ特許法第27条
出願審査において,担当官は,出願人を召喚して質問に答えさせ又は書類その他を提出させることができる。 外国で特許出願を行った出願人は,省令に定める規則及び手続に従い,出願審査報告書を提出しなければならない。 提出すべき書類が外国語である場合,出願人は,その書類をタイ語の翻訳文と共に提出しなければならない。 出願人が前段落に基づく担当官の指示に従わないとき,又は90日以内に本条第2段落に従って審査報告書を提出しないときは,出願人は,その出願を放棄したものとみなす。長官は,必要に応じて適当と考える期間を延長することができるものとする。 |
日本とタイにおける特許出願書類の比較日本
日本 | タイ | |
手続言語 | 日本語 | タイ語 |
手続言語以外の明細書での出願日確保の可否 | 可 出願日(優先権主張を伴う場合は最先の優先日)から1年4か月以内に外国語書面および外国語要約書面の日本語による翻訳文を提出しなければならない。 |
可 出願日から90日以内に発明の説明(明細書)、特許請求の範囲および要約のタイ語による翻訳文を提出しなければならない。 |
優先権主張 手続 |
優先権主張を出願と同時に行う(又は優先権主張書を所定の期間内に提出する)。優先権証明書を最先の優先日から1年4か月以内に特許庁長官に提出する。 | 優先権主張を出願と同時に行う。優先権証明書を優先日から16か月以内かつ出願公開前に提出しなければならない。 |
ニュージーランドにおける現地法人の知財問題 -雇用契約上の留意点
【詳細】
知的財産の帰属と雇用契約
ニュージーランドの労働法によれば、従業者が「職務上」(in the course of employment)創出した発明(「職務発明」)等の知的財産に対する権利は使用者に帰属する。実際は、発明が「職務上」なされたか否かが争われる可能性が高く、数少ないがこれが争点となった判例等も存在する。
代表的な判例は、Pearl Empress Abalone Ltd. v. Landgon[2000]2 ERNZ 53(CA)事件で、アワビ真珠生産会社の従業者による発明の所有権が争われた事件である。被告は「球状」アワビ真珠の生産に関する研究開発プロジェクトのメンバーとして原告法人(使用者)に雇用された。原告での雇用期間中、被告は勤務時間外の自分の時間を使って、原告の設備その他の資源を利用することなく、「半球状」アワビ真珠の新製法を独自に開発し、自らの名で特許出願をした。これを知った原告は、被告の特許出願に対する会社の所有権を主張して被告を提訴した。
裁判所では、半球状アワビ真珠の新製法が「職務上」開発されたのか否かが争点となった。原告と被告は書面の雇用契約を交わしていなかったのであるが、裁判所における審理を経て、被告の職務は「球状」真珠の生産に関する研究開発に限定されており、「半球状」真珠は含まれないことが認定された。よって、当該特許出願に対する被告の所有権が認められたのである。
従業者による発明は誰が所有するのか、という問題はその後、Pickering v. DetectionServices Ltd.事件([2012]NZERA Auckland 260)でも争われた。これは裁判所への提訴事例ではなく、元従業者が雇用されていた使用者(センサーメーカー)による不当解雇を主張して、労働関係局(Employment Relations Authority)へ申立をした事例である。申立によれば、元従業者が雇用期間中に開発した水漏れセンサーに関する発明の所有権を使用者に譲渡することを拒否しており、これが解雇理由のひとつになっていた。労働関係局は、両者間の雇用契約と職務記述書(job description)を精査したうえで、「申立人の職務は管理業務であることが明記されており、研究開発に関する記載は一切ない。したがって、申立人による水漏れセンサーの発明は職務上なされたものとはいえない」と認定した。そのうえで労働関係局は、申立人が水漏れセンサーに関する発明の所有権を使用者に譲渡しなかったことは、解雇の正当な理由にはならないと結論づけた。
これらの判例や決定事例からも明らかなように、雇用契約を締結する際には、従業者に求められる職務の内容と範囲について明確に記載したうえで、職務発明等は、それが職務遂行過程で創出され、かつ職務の範囲に属するものである場合、使用者に帰属することを明記した条項を設けることが望ましい。
特許発明
ニュージーランド特許法(2013年法律第68号、以下「特許法」)では、特許は、発明者から特許を受ける権利の譲渡を受けた者(使用者を含む)、または発明者が死去した場合、その遺産管理人に与えられる、と定められている(特許法第22条)。特許法には、職務発明の権利帰属について特別な規定がない。したがって、使用者は、職務発明に対し特許付与の前までに、従業者から譲渡証を得ておくべきである。
発明の報告の奨励
ニュージーランドでは、職務発明に対する報奨金について、法律で定めていない(特許法第28条~30条が、職務発明をめぐる従業者に使用者との紛争解決について規定しているのみ)。したがって、雇用契約において、従業者に与える報奨金について予め定めておくことを推奨する。
営業秘密
ニュージーランドでは、営業秘密やその他の秘密情報は基本的に当事者間の契約によって保護しなければならない。使用者と従業者という雇用関係がある場合には、労働法による保護も可能であるが、営業秘密の不正開示や漏洩を防ぐためには、秘密情報に接する従業者と使用者との間で秘密保持契約を締結し、契約当事者が情報の使用と開示に関して規定しておくことが望ましい。
雇用契約には守秘義務を明示的に規定すべきであるが、課される義務の範囲が過度に広い場合には、裁判所によって、従業者を過度に拘束する不当な制限とみなされることがあるので注意する必要がある。逆に高度な機密性をもつ開発プロジェクト関連の情報など、対象となる情報の性質によっては、雇用契約に加えて、別途秘密保持契約を結んだ方がよい場合もある。秘密保持契約では、秘密保持すべき情報を明確に定義し、情報の使用範囲を特定し、情報の無断複製を禁止する。さらに、契約時に定義された秘密情報の範囲が広がった場合には契約を修正し、秘密保持対象を追加するなどの厳格な対応が必要になる。
ブラジルにおけるパリルート出願とPCTルート出願の手続きの相違点
【詳細】
1.パリルート出願
パリ条約加盟国として、ブラジルは特許出願に関する優先権の原則を採用している。最初の出願の中で全体として開示されている主題については優先権を主張することができ、基礎となる最初の出願とブラジル出願とのクレームの同一性は求められない。つまり、クレームする主題が基礎出願の明細書や図面にサポートされていれば、ブラジル出願のクレームは基礎出願のクレームと必ずしも同じである必要はない。さらに、基礎出願の主題に含まれていない新たな主題をブラジル出願に加えることも可能である。その場合、基礎出願に開示されていた主題にのみ優先権が適用される。パリ条約は、種別の異なる出願に基づく優先権の主張を可能としている。ブラジルでは発明特許と実用新案の2つの制度があり、第1国でなされた発明特許出願をブラジルにおける実用新案出願の基礎とすることも可能であり、その逆も可能である。
1-1.パリルート出願の手続き
パリルート出願としてブラジルで特許出願を行うために必要な書類は、出願時点では、原語で書かれた明細書と、ポルトガル語で作成されたクレームを提出すればよい。その他、出願人ならびに発明者に関する情報(氏名、住所、職業、国籍)と、優先権主張の基礎となる出願(以下、基礎出願)のクレームを提出する必要がある。
その後、明細書のポルトガル語訳文ならびに優先権証明書を提出する必要がある。基礎出願の出願人とは異なる個人もしくは企業がブラジル出願を行う場合、基礎出願に関してブラジルにて出願を行う権利の譲渡に合意して当事者双方が署名した譲渡証書を提出しなければならない。
出願人がブラジルに居住していない場合、ブラジル産業財産法(1996年5月14日施行 法令9279号、以下、ブラジルIP法)の第217条の規定により、行政手続のためにブラジル国内の代理人を指名する必要があり、ブラジル知財庁(国家産業財産庁INPI)に対する手続の代理人としての権限を指定の弁護士に与える旨の委任状を出願人が署名して提出しなければならない。委任状についての公証人による認証や領事認証は不要である。
これらの書類の提出期限としては、明細書の翻訳文はブラジル出願日から60日以内に提出することが望ましい。提出されない場合、ブラジル知財庁が発行する補完指令により翻訳文の提出が求められる。その場合、補完指令が公告されてから30日以内に翻訳文を提出しなければならない。期限までに提出しなかった場合、出願はなかったものとみなされる。
優先権証明書および譲渡証書(必要な場合)は、ブラジルでの出願日から180日以内に提出しなければならない。期限までに提出しなかった場合、優先権は失われる。
委任状はブラジルでの出願日から60日以内に提出されなければならない。期限までに提出しなかった場合、出願は却下とされる(ブラジルIP法第216条(2))。
パリルート出願としてブラジルで特許出願がなされると、まず、方式審査が行われる。出願書類に対する方式的要件がすべて満たされることが確認されれば、方式審査は終了する。実体審査は、実体審査の請求を待って行われる。実体審査の請求はブラジル出願日から3年以内に実施しなければならない。
2.PCTルート出願
ブラジルは1978年4月9日付で特許協力条約(PCT)に加盟し、今日ではブラジル国内での特許出願の大半がPCTルートで行われている。
ブラジルの国内段階への移行期限は、最先の基礎出願の出願日または国際出願日(優先権の主張がない場合)から30か月であり、この期限の延長は認められない。国内段階への移行の際には、特許出願として移行することも、実用新案出願として移行することも、出願人が選択できる。PCT出願についての優先権主張の基礎となる出願は、特許であっても実用新案であっても可能である。なお、パリルート出願とは異なり、ブラジル国内段階への移行手続書面には、国際出願当初の開示の範囲を超える新規事項を追加してはならない。
2-1.PCTルート出願の手続き
ブラジル国内段階に移行するために必要な書類としては、国内段階移行時点では、原語で書かれた国際出願明細書と、ポルトガル語による発明の目的を表明する書面を提出すればよい(発明の目的は発明の名称という形で表明してもよい)。その他、出願人ならびに発明者に関する情報(氏名、住所、職業、国籍)と、基礎出願のクレームを提出する必要がある。ブラジル国内段階移行日から60日以内に、明細書のポルトガル語訳文ならびに優先権証明書を提出する必要がある。基礎出願の出願人とは異なる個人もしくは企業がブラジルで出願する場合、基礎出願に関してブラジルにて出願を行う権利の譲渡に合意して当事者双方が署名した譲渡証書を提出しなければならない。
出願人がブラジルに居住していない場合、ブラジルIP法第217条の規定により、行政手続のためにブラジル国内の代理人を指名する必要があり、ブラジル知財庁(国家産業財産庁)に対する手続の代理人としての権限を指定の弁護士に与える旨の委任状を出願人が署名して提出することが求められる。公証人による認証や領事認証は不要である。
優先権証明書および譲渡証書(必要な場合)は、ブラジル国内段階移行日から60日以内に提出しなければならない。提出しなかった場合、優先権が失われる。
委任状はブラジル国内段階移行日から60日以内に提出しなければならない。提出しなかった場合、出願は却下とされる。
PCTルート出願としてブラジルで特許出願がなされると、まず、方式審査が行われる。出願書類に対する方式的要件がすべて満たされることが確認されれば、方式審査は終了する。実体審査の請求は国際出願日から3年以内に実施しなければならない。
【留意事項】
ブラジルにおいて、パリルート出願およびPCTルート出願の国内段階移行のいずれにおいても、原語で書かれた明細書で手続き可能であるが、所定期間内にポルトガル語の翻訳文を提出することが求められる。
PCTルート出願の国内段階移行では、国際出願当初の開示の範囲を超える新規事項を追加してはならない。
ベトナムにおけるパリ条約ルートおよびPCTルートの特許出願の差異
【詳細】
(1)パリ条約ルート
ベトナムは1949年3月8日にパリ条約に加盟しており、特許または実用新案登録出願についての12ヶ月の優先権は、知的財産法の実施を定めた政令第122/2010/ND-CP号により改正された政令第103/2006/ND-CP号第10.1条(c)にも具体的に規定されている。
ベトナムにおいて、パリ条約に基づく優先権を主張して特許出願を行う場合、出願人は、優先権を証明するために、優先権証明書を提出しなければならない。さらに、発明者から出願人への優先権の譲渡証も必要である。譲渡証については公証人による認証は必要ないが、各頁に略式署名がなされていなければならない。優先権証明書の原本または認証謄本および優先権譲渡証のベトナム国家知的財産庁への提出に関しては、出願日から1ヶ月の猶予期間がある。
(2)PCTルート
ベトナムはPCT加盟国であり(1993年3月10日発効)、ベトナム知的財産法により、PCT出願のベトナム国内への移行手続を行うのに、31ヶ月の期間が与えられている。PCT出願のベトナム国内移行手続においては、優先権書類または譲渡証のいずれも提出する必要がない。
(3)ベトナムにおけるパリ条約ルートとPCTルート
ベトナムはパリ条約の加盟国であり、PCTの加盟国でもあるため、パリ条約ルートおよびPCTルートでの出願が可能である。
パリ条約に基づき提出された出願について、ベトナム国家知的財産庁は通常、最初の出願がなされた出願人の自国特許庁が発行した実体審査の結果を参照し、保護を認めるか否かを検討し、決定する。当該発明につき他の主要な特許庁、すなわち米国、日本、または欧州特許庁にも国内出願が提出されている場合、発明の保護を認めるか拒絶するかに関する当該特許庁の見解も考慮される。
PCT出願の場合、ベトナム特許庁の検討および決定は、国際調査および国際予備審査の結果に加え、当該PCT出願の国内移行手続が行われた米国、EU、日本等の主要特許庁の見解も考慮される。特に、日本国特許庁は2014年7月1日からPCT国際出願の国際調査、国際予備審査の管轄国をベトナムに拡大している。これにより、ベトナムに出願されたPCT国際出願について、日本特許庁での審査結果が提供されることが可能となり、審査の確実性も増すものと期待される。
審査請求期限については、パリ条約ルートの場合、出願日または優先権を主張する場合は優先日から42ヶ月以内に審査請求する必要がある。一方、PCT国内移行出願の場合には、国際出願日または優先日から42ヶ月以内に審査請求する必要があり、審査請求の起算日がそれぞれ異なる。PCT国内移行出願の場合は、移行してから審査請求期限までの期間が短いため、出願と同時に審査請求をすることが推奨される。