中国で完成した発明に関する秘密保持審査制度
1.安全保障に係る発明の保全に関する制度の法的枠組み
安全保障に係る発明の保全に関する制度は、知財関連法(専利法、専利法実施細則(以下「実施細則」という。)および専利審査指南(以下「審査基準」という。))に規定されているほか、「国防専利条例」に規定されている(「専利」は、中国語の「专利」に該当し、特許、実用新案、意匠を含む概念である)。
中国国内で完成した発明を外国に出願する場合、先ずCNIPAによる秘密保持審査(中国語「保密审查」)を受けなければならない(専利法第19条)。意匠は秘密保持審査の対象とはならない。「中国で完成した発明」とは、発明・考案(中国語「技术方案」)の実質的部分が中国国内において完成されたものをいう(実施細則第8条)。
1-1.保全対象となる出願に係る発明のスクリーニング方法(明細書等に保全対象となる発明が開示されているかの判断基準(特定技術分野等)、判断手法)
秘密保持出願(国家の安全または重大な利益に関わり、秘密保持が必要な出願)は、国防利益に関わる出願と、国防利益以外の国家の安全または重大な利益に関わる出願を含む、意匠を除いた特許と実用新案のみが対象である(実施細則第7、8条、審査基準第五部分第五章3.1.2)。
国防利益に関わる出願は、国防専利として出願すべきである。国防専利とは、国防専用または国防に重大な価値のある発明を指し、主に軍用技術に関連する。
国防利益以外の国家の安全または重大な利益に関わる出願は、国防上の利益には触れないが、国家経済の安全または国家経済上の利益に重要な影響を与え、一定の期間内は公開すべきではない発明を指す。知財関連法には、特定技術分野などの説明は存在せず、国の必要に応じて定められる。例えば、金融体系のコンピュータシステムにハッキングすることを効果的に防止できる新式ファイアウォール技術、偽札の出現を効果的に防止できる新式紙幣印刷技術などが挙げられる(「中国専利法詳解」(尹新天著)、第39頁)。
秘密保持出願は、秘密保持審査請求書と明細書の提出により、出願人が自発的に提出することが可能であり(審査基準第五部分第五章3.1)(中国出願後に外国出願する場合の秘密保持審査の具体的手続は、下記2-1参照。)、また、CNIPAが自ら確定することも可能とされる(審査基準第五部分第五章3.2)。ただし、CNIPAを受理官庁として特許の国際出願(PCT出願)を提出する場合、同時に機密保持審査請求を提出したとみなされる(この場合の秘密保持審査の具体的手続は、下記2-2参照。)。
また、中国国内で完成した発明を、中国に出願せず外国に出願する場合、先ずCNIPAによる秘密保持審査を受けなければならない(この場合の秘密保持審査の具体的手続は、下記2-3参照。)。
前記のとおり、「中国国内で完成した発明」とは、発明・考案の実質的部分が中国国内において完成されたものをいうが(実施細則第8条第1項)、「発明の実質的部分が中国国内において完成されたこと」の判断手法について、第55586号無効審決には、以下のような見解が示されている(「2022年度の専利不服審判・無効審判十大事件」における4件目の無効事件)。
「まず、請求人は対象考案の実質的な内容が国内で完成されたことを証明する初歩的な立証責任を負い、その立証は高い蓋然性の要求に達する必要がある。その証明方法については、権利者の住所地および考案者の国籍の2点から総合的に判断できる。次に、権利者が上記の認定を覆す十分な反証を提供できない場合、不利な法的結果を負わなければならない。」
1-2.保全対象となるかの審査取扱手続(専門審査機関及び審査の内容等)
国防専利は、国防専利機構により審査される(国防専利条例第3条)。出願人が国防利益に係わると判断できる場合は、直接、国防専利機構に出願すべきであり、出願人自身が国防利益に係わらないと判断して、CNIPAに秘密保持出願または一般専利出願を提出した場合、CNIPAが受理した出願が国防利益に関わり、秘密保持が必要と認めた場合は、国防専利機関に移管する(実施細則第7条)。
国防専利以外の秘密保持出願については、CNIPAが国家安全または重大な利益に関連するかを審査し、必要に応じて、関連分野の技術専門家を招いて協力を受けることができる(実施細則第7条、審査基準第五部分第五章3.1.2)。
秘密保持審査は、CNIPAが行い、当該発明または実用新案が国家の安全または重大な利益に関連し、秘密保持を要する可能性があるかを判断する(実施細則第9条)。
1-3.保全対象と判断された場合の措置
(1) 特許出願の非公開(公開禁止として保全指定する期間及びその延長と解除等)
国防専利の公開範囲は、国防専利機構によって決定される(国防専利条例第28条)。また、国防専利機構は、状況の変化により保護期間内に秘密保持を解除し、または権利の終了後に秘密保持期間を延長することを決定できる(国防専利条例第6条)。
国防専利以外の秘密保持出願の秘密保持の解除について、出願人の請求に応じて判断可能であり、CNIPAが2年ごとに秘密保持出願を再チェックすることにより判断可能である(審査基準第五部分第五章5.1、5.2)。
(2) 外国出願の禁止(外国出願禁止として保全指定する期間及びその延長と解除等)
外国出願禁止として保全指定する期間およびその延長と解除等については、明確な規定はないが、公開禁止が解除された後は、一般的な出願として管理する(審査基準第五部分第五章5.3)ので、公開禁止として保全指定する期間およびその延長と解除等と同じであると解される。
(3) その他の保全措置(実施及び実施許諾の制限)
国防専利の実施および実施許諾は、関係主管部門に制限される(国防専利条例第22条)。
国防専利の権利者が、国外の団体または個人に国防専利の実施を許諾する場合、必要な審査および承認を受けなければならない(国防専利条例第24条)。
知財関連法には、秘密保持出願に該当する発明の実施および実施許諾について、規定していない。つまり、国防専利以外の秘密保持出願について、実施および実施許諾の制限の保全措置がない。
(4) 保全対象とされた場合の補償(補償制度の有無、主体的要件、補償請求理由及び補償請求額)
国は国防専利の権利者に補償費を支払い、具体的な額は国防専利機構が確定する。職務発明に属する場合、国防専利の権利者は50%以上の補償費を発明者に支給しなければならない(国防専利条例第27条)。
知財関連法には、国防専利以外の秘密保持出願に該当する発明の保全対象とされた場合の補償について規定されておらず、国防専利以外の秘密保持出願について、保全対象とされた場合の補償制度はない。
1-4.保全措置に対する不服申立て(不服申立て手段の有無、主体的要件、申立ての内容・手続)
知財関連法および国防専利条例には、秘密保持出願に該当する発明の保全措置に対する不服申立手段の有無、主体的要件、申立ての内容・手続について規定されておらず、秘密保持出願について、保全措置に対する不服申立て手段はない。
2.外国出願する場合の秘密保持審査の手続
秘密保持審査の手続は、外国への出願方法によって異なる。
2-1.中国に出願してから外国へ出願する場合
・出願人は、中国に出願してから外国へ出願する場合、中国での出願と同時に、または、その後外国へ出願するまでに、CNIPAに秘密保持審査請求書を提出しなければならない。なお、外国へ出願する内容は、中国出願の内容と一致していなければならない(実施細則第8条第2項第2号、審査指南第五部分第五章6.2)。
・秘密保持審査請求書が提出されると、審査官は予備秘密保持審査(初步保密审查)を行う。書類に形式的不備がある場合には秘密保持審査請求は申し立てられていないものとみなす通知がなされ、請求人は改めて規定に合致した秘密保持審査請求を申し立てることができる。また、審査官は、明らかに秘密保持の必要がない場合には当該発明について外国で出願できる旨を、秘密保持を必要とする可能性がある場合にはその旨を請求人に通知するため、外国専利出願秘密保持審査意見通知書(外国申请专利保密审查意见通知书)を発行する。また、秘密保持審査を必要とする場合には、請求人に対し、外国専利出願一時保留通知書が審査官より送付される。請求日より4か月以内に外国専利出願秘密保持審査意見通知書を受け取っていない場合、秘密保持審査請求人は、当該発明について外国へ出願することができる(実施細則第9条、審査指南第五部分第五章6.1.2)。
・その後、審査官は、さらなる秘密保持審査の結論に基づき外国専利出願秘密保持審査決定(外国申请专利保密审查决定)を出し、当該発明の外国出願を承認するか否かを請求人に通知する。請求日より6か月以内に外国専利出願秘密保持審査決定を受け取っていない場合、秘密保持審査請求人は、当該発明について外国へ出願することができる(実施細則第9条、審査指南第五部分第五章6.1.2)。
2-2.CNIPAを受理官庁として国際出願(PCT出願)を提出する場合
・CNIPAを受理官庁として国際出願(PCT出願)を提出する場合、出願と同時に外国への出願の秘密保持審査請求書を提出したとみなされる(実施細則第8条第3項)。
・国際出願が秘密保持を必要としない場合、CNIPAは通常の国際段階の手続きに従い処理を行う。国際出願が秘密保持を必要とする場合、CNIPAは出願日から3か月以内に国家安全のために出願書類とサーチレポートを世界知的所有権機関(WIPO)に転送しないとの通知書を発行し、出願人とWIPOに本出願を国際出願として処理しないことを通知して国際段階の手続きを終了する。出願人は上記の通知を受け取った場合、当該出願の内容について外国に出願してはならない(審査指南第五部分第五章6.3)。
2-3 中国に出願せず、直接外国へ出願または外国機構を受理官庁として国際出願する場合
・外国へ出願する前に、CNIPAに中国語で作成された秘密保持審査請求書と発明・考案の説明文書を提出しなければならない。なお、審査官の参考に供するために相応する外国語の文書を同時に提出することができる(実施細則第8条第2項第1号、審査指南第五部分第五章6.1.1)。実務上、出願予定の特許または実用新案の内容について、明細書と同様に詳しく記載した説明書が提出される。
・上記2-1.の場合と同様に、請求日より4か月以内に外国専利出願秘密保持審査意見通知書を受け取っていない場合、または、請求日より6か月以内に外国専利出願秘密保持審査決定を受け取っていない場合には、秘密保持審査請求人は、当該発明について外国へ出願することができる(実施細則9条、審査指南第五部分第五章6.1.2)。
上記2-1.~2-3.のいずれによる秘密保持審査請求についても、官庁手数料は発生しない。
また、秘密保持審査請求手続を代理人に依頼する場合には、特許等出願手続と同様に、委任状が必要となる。
3.まとめ及び留意点
(1) 秘密保持審査は、国家の安全また重大な利益に関わる発明を外国に流出しないようにするために導入された制度であるため、秘密保持審査を受けて外国への出願が許可されない割合は非常に低く、一般的な技術に関わる発明に関しては、通常、外国への出願が許可される。したがって、中国で発明がなされた場合、秘密保持審査を受ける手続を進めると同時に、外国への出願の準備に早めに着手することが望ましい。
(2) 秘密保持審査は、発明者の国籍を問わず、発明の実質的部分が中国国内において完成されたか否かによって、その要否が決定される。つまり、中国人発明者であっても外国人発明者であっても、中国国内において完成した発明を外国へ出願する場合は、秘密保持審査を受けなければならない。発明の実質的部分が中国国内において完成されたか否かについては、実務において権利者の住所地および発明者の国籍から総合的に判断することが一般的であるが、反証の証拠次第である。
(3) 日本企業の中国現地子会社の場合、中国国内でなされた発明の内容を確認するために秘密保持審査の請求前に発明に関する説明文書が、既に日本本社に送られていることがあるが、実務上、日本国特許庁への出願日が、中国での秘密保持審査決定書(外国出願を承認する旨の通知)の期日よりも後であれば、当該日本出願を基礎出願として中国に出願する場合、権利化には影響しないと考えられる。
(4) 中国では、国防専利以外の秘密保持出願については、保全対象と判断された場合の実施および実施許諾の制限、補償制度、不服申立手段がないことにご留意いただきたい。
韓国における特許無効審判に関する統計データ
1.特許無効審判の請求件数
統計年譜によると、2010年から2019年までに請求された特許無効審判の請求件数は、次の表のとおりである。2015年には特許無効審判の請求件数が2,194件で、前年度に比べて大きく増加したが、これは、米韓自由貿易協定(FTA)により導入された「医薬品許可特許連携制度*」の施行により、オリジナル医薬品特許に対する、ジェネリック医薬品(複製医薬品)製薬会社の無効審判請求が一時的に急増したためである。
*「医薬品許可特許連携制度」とは、オリジナル医薬品特許権の存続期間満了前に、当該医薬品の安全性や有効性に関する資料を根拠としてジェネリック医薬品許可を申請する場合、オリジナル医薬品の特許権者などに当該申請事実および関連事項を通知するようにし、特許権者などはそのジェネリック医薬品に対する許可手続の中止を要請することができるようにする制度をいう。この制度によると、ジェネリック医薬品製薬会社はまず販売品目の許可を受けるために、オリジナル医薬品特許に対して無効審判または権利範囲確認審判を請求しなければならない。
一方、日本の「特許行政年次報告書2017年版」および「特許行政年次報告書2020年版」によると、日本で2010年から2019年までに請求された特許無効審判の請求件数は、次の表のとおりであり、日本における特許無効審判の請求件数は年間200件程度であり、2016年以降は100件台である。
韓国における特許無効審判請求の件数
日本における特許無効審判請求の件数
2.特許無効審判に関する審決結果
統計年譜によると、2010年から2019年までに処理された特許無効審判の審決結果は、次の表のとおりである。請求成立(一部成立を含む)の件数と請求不成立(棄却および却下)の件数を合わせた件数のうち、請求成立の件数が占める比率を「請求成立率」として計算した結果、2016年において、前年度に比べて特許無効審判の請求成立率が大幅に落ち、2017年、2018年も低かったが、2019年は再び増加傾向にある。
一方、日本の「特許行政年次報告書2017年版」および「特許行政年次報告書2020年版」によると、日本での特許無効審判の請求成立率は2010年度以降、徐々に落ちている傾向が見られる。
韓国における特許無効審判の審決結果
日本における特許無効審判の審決結果
3.当事者系審判における請求人および被請求人の国籍
統計年譜では、特許無効審判に限定した請求人および被請求人の国籍に関する情報はないが、権利範囲確認審判**を含めた当事者系審判全体に関する国籍別統計を整理すると、次の表のとおりである。下記表によると、2014年から2017年までは被請求人が外国人(個人および法人)で、請求人が韓国人(個人および法人)の当事者系審判の請求件数が急増していたが、その後減少してきていることが確認される。
**「権利範囲確認審判」とは、確認対象発明が特許発明の保護範囲に属するか否かを確認するために請求する審判であって、特許権者などが被疑侵害者を相手取って被疑侵害者の実施発明が特許発明の権利範囲に属するという趣旨の審決を求める積極的権利範囲確認審判と、被疑侵害者が特許権者などを相手取って被疑侵害者の実施発明が特許発明の権利範囲に属さないという趣旨の審決を求める消極的権利範囲確認審判に区分される。韓国の権利範囲確認審判は、日本の判定制度に相当する制度であるが、日本の判定制度が年間100件未満(2016年の場合、97件)しか請求されていない一方、韓国の権利範囲確認審判は年間400件以上(2016年の場合、632件)請求されている。
4.当事者系審判の審決への審決取消訴訟
特許無効審判に対する審決取消訴訟に限定した情報はないが、権利範囲確認審判を含めた当事者系審判全体に関する特許審判院の審決件数、特許法院への提訴件数、および審決件数のうち提訴件数が占める比率で示した提訴率は次のとおりである。
当事者系審判全体における審決件数、提訴件数および提訴率の推移
韓国における特許無効審判に関する統計データ
- 特許無効審判の請求件数
統計年譜によると、2007年から2016年までに請求された特許無効審判の請求件数は、次の表の通りである。2015年には特許無効審判の請求件数が2,194件で、前年度に比べて大きく増加したが、これは、米韓自由貿易協定(FTA)により導入された「医薬品許可特許連携制度*」の施行により、オリジナル医薬品特許に対する、ジェネリック医薬品(複製医薬品)製薬会社の無効審判請求が一時的に急増したためである。
*「医薬品許可特許連携制度」とは、オリジナル医薬品特許権の存続期間満了前に、当該医薬品の安全性や有効性に関する資料を根拠としてジェネリック医薬品許可を申請する場合、オリジナル医薬品の特許権者などに当該申請事実および関連事項を通知するようにし、特許権者などはそのジェネリック医薬品に対する許可手続の中止を要請することができるようにする制度をいう。この制度によると、ジェネリック医薬品製薬会社はまず販売品目の許可を受けるために、オリジナル医薬品特許に対して無効審判または権利範囲確認審判を請求しなければならない。
一方、日本の「特許行政年次報告書2017年版」によると、日本で2007年から2016年までに請求された特許無効審判の請求件数は、次の表の通りであり、日本における特許無効審判の請求件数は年間200件程度である。
韓国における特許無効審判請求の件数
日本における特許無効審判請求の件数
- 特許無効審判に関する審決結果
統計年譜によると、2007年から2016年までに処理された特許無効審判の審決結果は、次の表の通りである。請求成立(一部成立を含む)の件数と請求不成立(棄却および却下)の件数を合わせた件数のうち、請求成立の件数が占める比率を「請求成立率」として計算した結果、2016年において、前年度に比べて特許無効審判の請求成立率が大幅に落ちたことが確認される。2017年以降もこのような請求成立率の減少傾向が続くか注目される。
一方、日本の「特許行政年次報告書2017年版」によると、日本での特許無効審判の請求成立率は2008年度までは高い水準であったが、2009年度から大幅に落ちた後、現在まで低い値が維持されている。
韓国における特許無効審判の審決結果
日本における特許無効審判の審決結果
- 特許無効審判における請求人および被請求人の国籍
統計年譜では、特許無効審判に限定した請求人および被請求人の国籍に関する情報はないが、権利範囲確認審判**を含めた当事者系審判全体に関する国籍別統計を整理すると、次の表の通りである。下記表によると、2014年から被請求人が外国人(個人および法人)で、請求人が韓国人(個人および法人)の当事者系審判の請求件数が急増していることが確認される。
**「権利範囲確認審判」とは、確認対象発明が特許発明の保護範囲に属するか否かを確認するために請求する審判であって、特許権者などが被疑侵害者を相手取って被疑侵害者の実施発明が特許発明の権利範囲に属するという趣旨の審決を求める積極的権利範囲確認審判と、被疑侵害者が特許権者などを相手取って被疑侵害者の実施発明が特許発明の権利範囲に属さないという趣旨の審決を求める消極的権利範囲確認審判に区分される。韓国の権利範囲確認審判は、日本の判定制度に相当する制度であるが、日本の判定制度が年間100件未満(2016年の場合、97件)しか請求されていない一方、韓国の権利範囲確認審判は年間400件以上(2016年の場合、632件)請求されている。
- 特許無効審判の審決への審決取消訴訟
特許無効審判に対する審決取消訴訟に限定した情報はないが、権利範囲確認審判を含めた当事者系審判全体に関する特許審判院の審決件数、特許法院への提訴件数、および審決件数のうち提訴件数が占める比率で示した提訴率は次の通りである。
当事者系審判全体における審決件数、提訴件数および提訴率の推移
中国における特許無効手続に関する統計データ
1. 背景情報
中国専利法およびその実施細則に従い、国務院専利行政部門により特許権付与が公告された日から、当該特許権の付与が専利法または実施細則の関連規定に反すると考えるあらゆる事業体または個人は、専利復審委員会(Patent Reexamination Board: PBR、日本における審判部に相当)に当該特許権の無効審判を請求できる。
特許権の完全無効または一部無効を請求するあらゆる者は、審判請求書および必要な添付書類2部を専利復審委員会に提出しなければならない。特許権の無効または維持を宣告する専利復審委員会の審決を不服とする当事者は、当該通知の受領後3か月以内に北京知識産権法院に訴訟を提起できる。
2. 過去5年間における中国の特許無効審判の件数
2012年‐2016年に審決が下された特許無効審判の件数
3. 専利復審委員会が受領した特許無効審判請求の件数
2011年以降、専利復審委員会が受領した特許無効審判請求の年間件数は、2015年には2749件から3724件に増加しており、平均年間増加率は9.1%である。
4. 特許無効審判の平均所要期間
中国中央人民政府のウェブサイトに記載のデータによれば、2015年における特許無効審判の平均所要期間は約5.8か月で、2016年における特許無効審判の平均所要期間は約5.1か月であった。
5. 2016年4月22日から2017年8月7日までの特許無効審判の統計分析
下記のすべてのデータは、専利復審委員会により発表されたものである。
5-1. 特許無効審判請求における特許権者と請求人の関係
特許無効審判の合計件数 v. 発明特許の無効審判請求
特許無効審判請求の合計(左)と発明特許の無効審判請求(右)
実用新案の無効審判請求(左)と意匠特許の無効審判請求(右)
上記統計データによれば、発明特許の無効審判請求では、企業の請求人が企業の特許権者に対して無効審判を請求するケースが最も多いのに対し、研究機関により出願された特許に対する無効審判請求は最も少なかった。同様の状況が実用新案特許にも当てはまる。一方、意匠特許の場合、個人の意匠特許権者が最も多く無効審判を請求されていた。
5-2. 特許無効審判請求件数に関する上位12の産業分野
各産業分野において無効化された発明特許、実用新案、意匠特許の件数
上記表を参照すると、無効化された発明特許の数が最も多い分野は、化学および材料分野であり、次に設備および機器製造分野の特許も多く無効化されている。実用新案では、一般設備製造および特定設備製造分野での無効化件数が最も多い。無効化された意匠特許が最も多いのは、電子機器、工学機器製造分野である。
6. 医薬品分野における特許無効の統計データ
Chinese Journal of New Drugs*に掲載された記事「医薬品分野における復審および無効審判事件の統計分析」に、以下のデータが提示されている。
6-1. 1990年‐2010年に医薬品分野において専利復審委員会によりなされた特許無効審判における審決
医薬品分野における147件の特許無効審判審決の統計分析(1990-2010)
6-2. 医薬品分野における発明特許の無効理由
主な無効理由は、中国専利法第22条違反、第25条違反、第26条違反および第33条違反である。特に中国専利法第26条4項に基づき「クレームは明細書により裏づけられていない」という無効理由が、専利復審委員会の審決で最も多く引用されている。次に多いのが、中国専利法第22条に基づき「当該特許には新規性、進歩性または実用性が欠けている」という理由であり、その次が中国専利法第33条に基づき「特許明細書に対して行われた補正は出願当初の開示の範囲を超えている」という理由であった。なお、中国専利法第25条では、特許を受けることができない発明が例示されており、それらに該当する場合は無効理由となる。
7. 司法審理に付託された特許無効審判審決の分析
専利復審委員会により審決が下された後、その結果を不服とする審判請求人または特許権者は、北京知識産権法院に上訴できる。過去5年間において、専利復審委員会により処理されたすべての事件に対する、専利復審委員会が被告として当裁判所に出頭した事件の比率を以下に示す。
司法審理に付託された特許無効審判審決の比率(2012年‐2016年)
中国における専利無効宣告請求(特許無効審判)に関する制度
「『日中韓における特許無効審判についての制度及び統計分析に関する調査研究』報告書」(平成28年11月、日本国際知的財産保護協会)第II部1.2、1.4
(目次)
第II部 調査研究結果
1.2 中国における専利無効宣告請求(特許無効審判)に関する制度 P.15
1.2.1 審判部の構成 P.15
1.2.2 専利無効宣告請求制度の概要 P.16
1.2.3 専利無効宣告手続における専利書類の補正(訂正)について P.20
1.2.4 口頭審理について P.22
1.2.5 中国における証拠の提出について P.24
1.2.6 専利無効宣告請求から裁判までの流れ P.27
1.4 日中韓の対比(対比表) P.45
1.4.1 日中韓における特許無効審判の一般的な制度の対比 P.45
1.4.2 日中韓における特許無効審判の無効理由の対比 P.48
1.4.3 口頭審理に関する制度の対比 P.50
1.4.4 特許無効審判中の訂正の対比 P.52
韓国における特許無効審判に関する制度
「『日中韓における特許無効審判についての制度及び統計分析に関する調査研究』報告書」(平成28年11月、日本国際知的財産保護協会)第II部1.3、1.4
(目次)
第II部 調査研究結果
1.3 韓国における特許無効審判に関する制度 P.29
1.3.1 審判部の構成 P.29
1.3.2 特許無効審判制度の概要 P.30
1.3.3 訂正の請求について P.36
1.3.4 口頭審理について P.39
1.3.5 特許無効審判から裁判までの流れ P.42
1.4 日中韓の対比(対比表) P.45
1.4.1 日中韓における特許無効審判の一般的な制度の対比 P.45
1.4.2 日中韓における特許無効審判の無効理由の対比 P.48
1.4.3 口頭審理に関する制度の対比 P.50
1.4.4 特許無効審判中の訂正の対比 P.52