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韓国におけるデザイン登録における機能性および視認性

1.機能性(Functionality)
 韓国デザイン保護法(2016.1.27. 法律第13840号によって改正されたもの)第34条第4号において、「物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなったデザイン」はデザイン登録を受けることができないと規定されている。デザインは、物品形態の美感を保護するためのもので、美感と関係がない「機能的な形状」は、特許法および実用新案法の保護対象とすることが妥当であるからである。
 韓国特許庁のデザイン審査基準第4部第9章1では、同法第34条第4号を適用するにあたり、(1)物品の技術的機能を確保するために必然的に定められた形状(必然的形状)からなったデザインは、模様・色彩またはこれらの結合の有無に関わらずこれを適用するべきであるが、(a)その機能を確保できる代替的な形状が存在するのか否か(すなわち、代替できる形状が多数存在すれば、機能性のみではないものと見ることができる)および(b)必然的な形状のほかに考慮すべき形状を含むのか否かを考慮して判断しなければならないと規定している。
 また、(2)物品の互換性などを確保するために標準化された規格で定められた形状(準必然的形状)からなったデザインも、上記で言及された必然的形状に準じて取り扱うと規定しているが、ただし、規格を定めた主目的が機能の発揮にない物品((例)規格封筒、USB規格ポートなど)に対しては適用していない。ここで、「標準化された規格」とは、産業標準化法に基づく韓国産業標準(KS)、国際標準化機構のISO規格など法律と公的な標準化機関によって確定された「公的な標準規格」と、公的な規格ではないが、その規格が当該物品分野において業界標準として認知されており、当該標準規格に基づく製品がその物品の市場を事実上支配しているもので規格としての名称、番号などに応じて標準になっている形状、尺度などの詳細を特定することができる「事実上の標準規格」を言う。
 したがって、本規定は、デザイン保護法の保護対象ではない技術的思想の創作に対する排他的独占権付与を防止し、物品の互換性を確保するためのデザインの実施を妨げて産業発展を阻害する恐れを防止しようとする規定であると言える。
 いわゆる「物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなったデザイン」が韓国特許庁に出願された場合、審査過程で韓国デザイン保護法第34条第4号に該当するという拒絶理由で意見提出通知書が発付される。
 「物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなったデザイン」であるか否かの判断は、出願されたデザインの全体形状がこれに該当する場合にのみ適用され、その判断時点は、登録可否の決定時を基準に判断する。
 いわゆる「物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなったデザイン」が、審査過程で看過されて過誤登録された場合、デザイン保護法第121条第1項2号により、利害関係人または審査官はそのデザイン登録に対してデザイン保護法第34条第4号に違反したことを理由とする無効審判を請求することができる。
 一方、当該デザインが一部審査の対象であれば、デザイン保護法第68条第1項2号により、誰でもデザイン一部審査登録公告日後3か月になる日までそのデザイン一部審査登録がデザイン保護法第34条第4号に違反したことを理由に、特許庁長にデザイン一部審査登録異議申立てをすることができる。
 一方、商標権の効力を制限する韓国商標法第90条第1項第5号とは異なり、物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなったデザイン権に対して、その効力を制限するデザイン保護法上の規定はない。したがって、物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなったデザイン権が有効に登録された以上、第三者の無断実施に対してデザイン権を行使することができる。
 物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなったデザインであるか否かに関する判断基準を扱った大法院の判例を紹介する。

(i).[登録デザインの概要]

 この事件の登録デザインの物品は、該当車種のフレームの寸法、形状、反り、厚さ、高さ、広さ、端部の形状などがそのまま複製されなければ接続が不可能であるので、ガラスの高さ、反り、厚さ、端部の形状は、すべて車体への接続という本質的機能を確保するために必然的に定められた形状であり、変更が可能な部分は、上記物品においてデザインとしての意味がない部分に局限されるので、この事件の登録デザインは、物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなったデザインで無効となるべきであると判断した。
 本判決は、「物品の機能を確保するために不可欠な形状」の範囲に対して、需要者がその物品を見るとき、特定形状を当然にある部分として認識し、その形状に対して特別な審美感を感じない程度まで含まれなければならないことを示している。本判決を通じて、大法院がデザインの機能性判断において「唯一機能基準(solely functional standard)」を適用していることを確認できる。

(ii).[登録デザインの概要]

 登録権者が第三者に対して、イ号図面の貨物トラック用積載箱支持具は、デザイン登録第237866号の権利範囲に属するという積極的権利範囲確認審判を請求し、被請求人は、その形状と模様が、ダンプトラックの積載箱と間隔を置いて回転軸を支持するための物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなっているので、その権利範囲が認められないと主張したが、大法院は「デザインの構成のうち物品の機能に関する部分であっても、その機能を確保できる選択可能な代替的な形状が存在する場合には、物品の機能を確保するために不可欠な形状であると言えない」と判示し、権利範囲が否定されないことを確認し、被請求人側の上告を棄却した。
 本判決は、物品の機能を確保するために不可欠な形状の判断基準を明示的に確認したという意義がある。

2.視認性(Visibility)
 韓国デザイン保護法(2016.1.27.法律第13840号によって改正されたもの)第2条第1号において、「デザイン」とは、物品(物品の部分および字体を含む)の形状・模様・色彩またはこれらを結合したものとして、視覚を通じて美感を起こさせるものと規定して、デザインの視認性に言及している。
 韓国特許庁のデザイン審査基準では、デザインの成立要件のうちデザインの視認性に関して「視覚を通じて」とは、肉眼で識別できることを原則とし、次に該当するものはデザイン登録の対象にならないと規定している(デザイン審査基準第4部第1章2(3))。
(1)視覚以外の感覚を主にして把握されること、
(2)粉状物または粒状物の一つの単位、
(3)外部から見ることができないところ(すなわち、分解したり破壊したりしなければ見ることができないところ)。ただし、蓋を開ける構造となっているものは、その内部もデザインの対象になる。
(4)拡大鏡などによって拡大しなければ物品の形状などが把握されないこと。

 上記で例示された(4)に関連して、デザインに関する物品の取引において拡大鏡などによって物品の形状などを拡大して観察することが通常である場合には、視認性があるものと判断すると規定している。その例として下記のような場合を挙げている。

 (例)視認性があるものと判断する場合
 [デザインの説明]
 材質は金属材および合成樹脂材である。
 平面図で一辺の長さは0.4mmである。

[図1.1][図1.2]

「発光ダイオード」

 上記で言及したデザイン保護法第2条で定義したデザインの視認性要件を備えていないデザインが韓国特許庁に出願された場合、工業上利用することができるデザインではないとみなされ、デザイン保護法第33条第1項本文に違反するという拒絶理由で意見提出通知書が発付される。
 デザインの視認性要件を備えていないデザインが、審査過程で看過されて過誤登録された場合、デザイン保護法第121条第1項2号により、利害関係人または審査官はそのデザイン登録に対してデザイン保護法第33条第1項本文に違反したことを理由とする無効審判を請求することができる。
 一方、当該デザインが一部審査の対象であれば、デザイン保護法第68条第1項2号によって、誰でもデザイン一部審査登録公告日後3か月になる日までそのデザイン一部審査登録がデザイン保護法第33条第1項本文に違反したことを理由に、特許庁長にデザイン一部審査登録異議申立てをすることができる。

補足:
 デザイン保護法第2条には、「デザイン」とは、「視覚を通じて美感を引き起こすものを言う。」と、デザインの定義が示されている。また、デザイン保護法第33条第1項本文には、「工業上利用することができるデザイン」が登録要件であることが示されている。デザイン保護法の第2条を満たしていない(視認性要件を備えていない)場合、「工業上認められるデザイン」として認められないため、デザイン保護法第33条本文の違反と判断され、拒絶理由通知書が出される。
 また、デザイン保護法第2条1項第6号において、「デザイン一部審査登録」出願の定義(「デザイン一部審査登録」とは、デザイン登録出願がデザイン登録要件のうち一部のみを備えているのかを審査して登録することを言う。」)が示されており、視認性要件を満たしていないデザインはデザイン保護法第2条違反に該当し、また、上述のとおりデザイン保護法第33条第1項の違反と判断される。

 デザインの視認性要件を扱った大法院の判例を紹介する。
(i)[登録デザインの概要]

 当該物品「照明器具用枠」は、器具の中に満たされた空気が何らかの原因で少し抜け出た場合でも、器具の外皮の形状と模様を枠によってある程度維持するための物品として、原審決では「照明器具用枠」が外皮で覆われているので、外部から枠全体の姿を見ることはできないが、枠を組み立てた後外皮が覆われる前には枠全体の姿を見ることができ、器具を分解したり破壊しなくても、器具を修理するために外皮の一部をさらけ出したり、広告の内容を変更するために外皮を交換する場合には、その枠の形状を見ることができるので、視認性が認められると判断した。
 しかし、大法院で、この事件の登録デザインの物品(照明器具用枠)は相当に大型であるので、組立・設置された状態で取引、運搬されるものではなく、部品別に分解された状態で取引、運搬されることが一般的であるので、取引時や運搬時または設置時にも登録された形状と模様が外部に現れると認められず、広告の内容などを変更するために外皮を交換する場合を想定してみても、外皮を除去すると、一時的にデザインの形状と模様が現れるだろうが、直ちにデザイン物品である枠自体を分解し、新しい外皮を設置した後、その新しい外皮の中に入って枠を再組立することになるはずであることから、この事件の登録デザイン物品である枠は、それ自体の完成された形状と模様が取引者や一般の需要者に露出して審美感をかもし出せる場合はほとんどないはずあり、さらに、完成品である器具の外皮を除去ないし損なわない限り、その模様と形状を外部から容易に把握・識別することができないので、デザイン登録の対象にならないと原判決を覆した。
 一方、韓国で極微小な物品のデザインを正面から扱った判例はまだない。ただし、上述したように、韓国特許庁のデザイン審査基準では肉眼で識別できない極微小なデザインであっても、そのデザインに関する物品の取引において拡大鏡などによって物品の形状などを拡大して観察することが通常である場合には、視認性があると判断する。
 また、韓国特許庁のデザイン審査基準でデザインの類否を判断するにあたり、類否は、全体的に観察して総合的に判断すると規定しながら、「観察」は、肉眼で比較して観察することを原則とするが、デザインに関する物品の取引において物品の形状などを拡大して観察することが通常である場合には、拡大鏡、顕微鏡などを使用して観察することができるとして、極微小なデザインの類否判断に対する基準を提示している。

中国の意匠特許における機能性および視認性

1. 中国の意匠特許
 意匠特許は、発明特許や実用新案特許を含む現代的な特許制度の一環として1985年に初めて中国に導入された。また、国内優先権出願(最初の意匠出願から6月以内に出願)が可能である(専利法第29条)*1。中国における意匠特許保護は、専利法および同法施行規則に基づいて定められ、新規の意匠、形状、模様および色彩が意匠特許の対象として意図されている。意匠特許は、高い美的効果を有し、かつ産業利用に適したものでなければならない。
 専利法および同法施行規則によれば、意匠特許は実体審査を要求されず、形式的要件に関する審査が必要とされ、出願人情報、願書の完全性、図面の認容可能性などが審査の対象となる。中国における意匠特許の保護期間は出願日から15年である(専利法第42条)*1
*1:第四次改正専利法2021年6月1日施行予定

1-1. 機能性
1-1-1.専利法および同法施行規則における規定
 専利法および同法施行規則に基づき、中国における意匠特許の特許性判定基準は、その意匠が先行する意匠と同一もしくは類似のものであるか否かであり、特許される意匠は、既存の意匠もしくは既存の意匠の特徴の組合せと明瞭に異なっていなければならない。ただし、機能性が意匠特許の保護対象からどのように排除されるかについて、専利法および同法施行規則には明示する規定は存在しない。その結果、中国では現在、どの程度の機能性が存在すれば意匠特許保護の範囲から除外されるのかをめぐる論争が特許実務者の間で展開されており、その基準はまだ確立されていない。現状を言えば、中国の意匠特許制度は、専ら製品の機能性によって決定される意匠は保護の対象外とされるという点のみを強調しがちであるが、司法実務においては一定の弾力性が見受けられる。それゆえ、出願人が他のほとんどの法域で得られる保護範囲よりも広い範囲の意匠特許保護を獲得し、権利を行使しうるチャンスは十分にあると言えよう。
 具体的には、中国国家知識産権局が「専利審査指南」(以下「審査指南」と称する)の中でこの点に関する当局の基準を示している。「審査指南」の第IV部第5章6.1条(3)において、中国国家知識産権局は次のように規定している:「(3)製品の機能によってのみ限定された特定の形状は一般的に、全体の視覚効果に対して顕著な影響を与えない。例えば、カムの曲面形状が、必要となる特定の運動行程によってのみ限定されたもので、その相違は全体の視覚効果に対して通常は顕著な影響を与えない。また、自動車タイヤの円形形状は機能によってのみ限定されたものであるのに対して、タイヤ表面のパターンは、全体の視覚効果に対してより顕著な影響を与えることになる。」中国国家知識産権局の見方によれば「のみ限定された(唯一限定的)」という文言は非常に狭く解釈されるべきであり、機能性に関わる形状もしくは模様が択一的なものであってそれ以上の変更や修正が不可能であるという状況にのみ適用されるべき文言なのである。

1-1-2. 最高人民法院による解釈
 興味深いことに、この点に関して最高人民法院(日本の最高裁判所に相当する)は若干異なる見解をとっている。最高人民法院により2009年に頒布された「専利権侵害をめぐる紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈」(以下「解釈」と称する)の第11条には次のような記述がある:
「主に技術的な機能で決まるような設計特徴、および全体の視覚効果に影響を与えないような物品の材料や、内部構造などの特徴は考慮しない。」。
 この記述の中で最高人民法院が「主として(mainly)」技術的な機能で決まるような設計特徴を除外しているという点に注目されたい。最高人民法院によれば、ほとんどの製品は機能性と装飾性を兼ね備えているため、意匠は機能的な要件と装飾的な要請との妥協であり、両者の均衡であるのが普通である。したがって、意匠の機能性と装飾性は通常は相関的なものである。ゆえに、意匠の特徴が専ら特定の機能のみによって決定されるものでなくても、特定の機能を果たすための限られた数の意匠のいずれかに該当する場合、他の証拠を検討した上でそれを機能的な特徴と見なすことができる。その場合、そのような意匠は保護対象から除外されることになる。

1-2. 視認性
1-2-1.専利法および同法施行規則における規定
 特許性判断にあたって意匠の視認性をどの程度考慮すべきかについても、専利法および同法施行規則には明示規定が存在しない。「審査指南」の第I部第3章7.4条(5)によれば、「視覚によって認識できない製品もしくは裸眼によって視認できない製品、特別な機器に頼らなければ識別しえない形状、模様もしくは色彩(例えば、紫外線ライトで照射されなければ見えない模様を施された製品など)は特許保護の対象として適格でない」。それゆえ中国国家知識産権局は、目視可能でない形状や構造の保護を求める意匠特許を拒絶する傾向がある。中国の特許実務では、専ら製品の機能性によって決定される意匠か否かという機能性の判断に比較して、視覚によって認識できない意匠であるか否かという視認性の判断は、はるかに統一的である。

1-1-2. 最高人民法院による解釈
 上述したように、最高人民法院の「解釈」の第11条もまた「主に技術的な機能で決まるような設計特徴、および全体の視覚効果に影響を与えないような物品の材料や、内部構造などの特徴は考慮しない。」と明言している。したがって、最高人民法院はこの点では中国国家知識産権局と同様の立場をとり、裸眼では見えない形状、模様および色彩を保護対象とする意匠特許の執行を拒絶することになる。注目すべきは、エレベーターの内部や透明な製品の内部のように製品の内部が使用時に目視可能である場合である。それらの内部構造は使用時に目に見えるため、やはり意匠特許の保護範囲に該当することになる。

インドネシアにおける意匠の機能性および視認性

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ロシアにおける意匠の機能性および視認性

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トルコにおける意匠の機能性および視認性

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ブラジルにおける意匠の方式審査

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シンガポールにおける意匠登録の機能性および視認性

1.背景

 

 シンガポールにおいて、意匠法第2条(1)項は「意匠」という用語について、工業的方法により物品に応用される形状、形態、模様または装飾の特徴であると定義している。原則、物品の形状、形態、模様または装飾の特徴は、登録意匠の対象となり得る。しかし、この原則にはいくつかの例外が存在する。本書では、物品の機能によってのみ定まる意匠の登録を禁じる規定について考察する。また、視認不能な意匠の登録可能性についても考察する。

 

2.機能性

 

 意匠法に基づく「意匠」の定義は、物品が果たすべき機能によってのみ定まる物品の形状または形態の特徴を明示的に除外している。このような特徴は、意匠法の規定により登録できない。本書では、このような除外を「機能的意匠の除外」と呼ぶ。

 

 機能的意匠の除外の目的は、登録意匠制度を利用して技術的解決策に対する独占権を取得できないようにすることにある。技術的解決策は、意匠法ではなく、特許法によって保護されるべきである。

 

 シンガポールにおける意匠出願は、方式審査のみを受ける。方式審査において登録官は、出願書類を一見して登録可能な意匠ではない場合には、意匠出願を拒絶する権限を意匠法により与えられている。一方、実体審査は行われないことから、意匠が登録基準を満たしているかどうかについては判断されない。つまり、機能によって定まる特性を有する意匠を出願した場合であっても、出願人はかかる意匠の登録を正式に受けることができる。このような意匠登録に対しては、有効性について異議を唱えることができるため、権利行使の場面において問題が生じる可能性がある。

 

 シンガポールにおける機能的意匠の除外の範囲は、Hunter Manufacturing Pte Ltd and another v. Soundtex Switchgear & Engineering Pte Ltd and another appeal [1993] 3 SLR(R) 1108において説明されている。この事件は、シンガポールの公営集合住宅ビルの廊下の壁に取付けられる電気メーターボックスの登録意匠に関するものであった。この電気メーターボックスは、各家庭の小型遮断器(MCB)、メインスイッチおよび電力メーターを収容するものであった。当該登録意匠の侵害について原告により訴えられた被告は、当該意匠の有効性について異議を唱えた。この上訴院の判決から、下記の原則が生まれている。

 

(a)意匠の一部の特徴が機能により決定づけられているが、他の特徴はそうではない場合、機能的意匠の除外は適用されない。機能的意匠の除外を適用するには、意匠の全ての特徴が機能により決定づけられていなければならない。上訴院は判決を下す際に、この原則を採用した英国枢密院事件のInterlego AG v. Tyco Industries Inc [1998] RPC 343を引用した。

 

(b)意匠が「機能によってのみ定まっている」かどうかは、当該意匠を創作する創作者の目的によって決まる。創作者が物品の機能を確保するためだけに意匠を選択した場合には、当該意匠は「機能によってのみ定まっている」こととなる。したがって、創作者が機能的な目的のみを念頭に置き、美的な目的などの機能以外の目的を考えなかった場合には、機能的意匠の除外が適用される。この原則は、AMP Inc v. Utilux Pty Ltd [1972] RPC 103において英国貴族院が認定したものであった。

 

(c)同じ機能を果たす他の意匠が存在する場合であっても、意匠は「機能によってのみ定まる」可能性がある。シンガポール上訴院は判決を下す際に、AMP Inc v. Utilux Pty Ltdを再び引用した。当該事件において貴族院は、同じ機能を果たすことのできる他のいかなる形状も存在しない状況であれば、形状は機能によってのみ定まるという主張を退けた。貴族院は、仮にそのような状況が「機能によってのみ定まる」ことを意味するのであれば、一つの形状しか機能しない状況を想像することは難しいため、機能的意匠の除外の範囲はほぼ消滅するだろうと述べた。

 

(d)登録意匠が侵害されているかどうかは、二段階のテストにより判断される。まず、新規性の陳述、関連する先行意匠および機能的意匠の除外を考慮して、登録意匠の本質的または重要な特徴を特定する。次に、登録意匠と被疑侵害とを比較して、第一段階で当該意匠の要部として特定された全ての特徴が被疑侵害に視覚的に組み込まれているかどうかを判断する。登録意匠は、新規な特徴か新規ではない特徴かを問わず、全ての特徴を含めた全体として考察されなければならず、比較の際にも全体として考慮されなければならない。被疑侵害意匠が、全体として考察された登録意匠と実質的に異なっている場合、侵害は存在しない。ただし、比較を実施する際に、機能によってのみ定まる特徴、形状または形態は、除外されなければならない。

 

3.視認性

 

 現行の意匠法が制定される前、シンガポールの旧意匠法は、登録意匠が完成品において視覚に訴え、視覚によってのみ判断される特徴(以下「審美性」)を備えていなければならないと定めていた。これは登録意匠に関する旧英国法に基づく要件を反映していた。

 

 審美性はもはや意匠法に基づく要件ではない。ただし、審美性の要件がないとしても、登録意匠として保護を受けるには、意匠が視認可能であることを裁判所は引き続き要求すると思われる。先に引用したHunter Manufacturing Pte Ltd and another v. Soundtex Switchgear & Engineering Pte Ltd and another appealの上訴院判決の第30項は、次のように述べている。

 

 「明らかに、制定法上の定義に基づき完成品に応用される「意匠」の本質は、視覚的に認識される特徴、すなわち物品に具体的な外観を与える形状、形態、模様または装飾の特徴で構成される。物品に応用される視覚的特徴というこの概念は、登録意匠制度の基礎をなすものであり、登録意匠制度は、機能的意匠またはアイディアおよび発明とは対比される、美的価値の保護に関するものであり、これに限定される。」

 

 物品の内部構造の意匠または小さすぎて肉眼では見えない意匠など、視認不能な意匠について明示的に取り上げているシンガポールの事件は存在しない。しかし、意匠は視覚的に認識できるものでなければならないという考えを、シンガポールの裁判所が容易に放棄するとは思えない。

 

 物品の外部から直接見えない意匠に関しては、このような意匠が登録可能であると判示した古い英国の事件が存在する。

 

・Ferrero and CSpa’s Application [1978] RPC 473: チョコレート製イースターエッグの意匠は、当該意匠の一部が卵の内部の外観で構成されており、かかる内部の外観は卵を壊すまでは見えないにも拘わらず、登録可能と判示された。

 

・KK Suwa Seikosha’s Application [1982] RPC 166:デジタル腕時計の表示盤の模様は、腕時計のスイッチを入れなければ視認可能にならないにも拘わらず、登録可能と判示された。

 

 隠れた意匠の場合、物品の使用時に視認できれば登録可能であると理解される。このような「内部の」意匠は、販売時に視認可能な物品外部の意匠と同様に、物品を購入する需要者の意思決定に影響力を及ぼす可能性がある。しかしながら、シンガポールの裁判所がこのような事件をどう取扱うかは、予断を許さない。

タイの意匠特許における機能性および視認性

1.視認性

 

 タイ国特許法(法律第3号)B.E.2542(1999)により修正されたタイ国特許法B.E.2522(1979)の第3条によれば、「意匠」とは、「製品に特別の外観を与え、工業製品および手工芸品に対する型として役立つ線または色の形態または構成」をいう。

 

 この規定は、平面的もしくは立体的な形態により視覚を通じて美的な感覚を喚起しうるものでなければならず、かつ、製造物、商品もしくは工業製品および手工芸品の製造に使用することが可能でなければならないという意匠の定義を含んでいる。そのような例としては、テレビ受像器の形状、カーペットや日よけの色等が挙げられる。ある意匠が保護適格とされるためには、登録出願日の時点で一般に利用されている意匠とは区別される独特の外観を備えていなければならない。

 

1-1.外観の保護

 

 タイ国の法には、視認できない意匠を保護するような具体的な法規は存在しない。製品の意匠が裸眼では目視しえない場合、その意匠は意匠登録には不適格とされる。登録された意匠の範囲は、出願時の願書に収載されていた意匠に基づくとともに、願書に添付された図面に基づいて画定される。

 

 意匠の範囲および登録意匠に類似する意匠については、タイ国特許庁に判断を仰ぐことができる。特許庁の判断に不服がある者は、特許法第74条に基づき、「中央知的財産・国際取引裁判所(Central Intellectual Property and International Trade Court)」(通称:IP&IT裁判所)に上訴を提起し、なおも不服がある場合には「控訴裁判所(Court of Appeals)」に上訴することがきる。

 

1-2.最高裁判所の判決(最高裁判例16702/2555号)

 

 2012年、最高裁判所は(16702/2555号の事件において)、「コップ」と題された原告の意匠は、製品の意匠の形状と外観において、意匠出願0302000881号の意匠と実質的に区別しえないとの判断を示した。問題の意匠特許訴訟の棄却は、「コップ」という意匠の主題の類似性と、後続出願の意匠に対する先行技術となる先出願の意匠に基づくものである。

 

 意匠の新規性に関係する規定は、タイ国特許法第57条に以下のように記されている。

「以下の意匠は新規と見なされず、タイ国特許庁により拒絶されることとする。」(1)出願に先立ち、本邦において他人に広く知られ、または使用されていた意匠;

(2)出願に先立ち、本邦もしくは外国において開示または記述されていた意匠;

(3)出願に先立ち公開されていた意匠;

(4)(1)、(2)または(3)の意匠と外観が酷似しているために模倣とされる意匠;

 

 上述した訴訟の場合、「コップ」は円筒形をなしていて既存の意匠と同一である。カップの上端が幅広で十字(クロス)の模様が施され、底部に鋭い凹みがあって容量がより小さくなることが予想されるのに対し、先行意匠には上端に模様がなく、底部もやや引っ込んでいる程度であるという点のみが、後続意匠を特徴づけるものである。「コップ」は先行技術に改良を加えた意匠に過ぎず、その改良は既存の意匠に対する識別性を構成しないと最高裁は判示している。2つの意匠の差異は観察者の注意を惹く部分に関わるものではなく、観察者の注意を惹く部分については、両者は類似している。両方の意匠を漠然と観察した場合、両者は視覚を通じて同じ美的感覚を生じさせると認識するのが合理的である。したがって両者は類似していると考えられ、タイ国における意匠の登録について適格性を持たないと認定される。以上の結果として、最高裁は原告の訴を棄却した。

 

 また、意匠の新規性は既存の製品によって損なわれるだけでなく、登録された意匠によっても損なわれる。タイ国において意匠登録を取得しようとする者は、1個の製品の全体的な意匠だけでなく、保護される意匠の個別の特徴および構成要素について出願を行うことができる。

 

2.機能性

 

 タイ国においては、機能的な目的に起因する特徴を含んでいる意匠、いわゆる「機能的意匠」は、発明特許もしくは意匠登録として保護されうる。発明特許が、主題が使用され、機能する方法を保護するものであるのに対し、意匠特許は、主題を見せる方法を保護するものである。言い換えれば、意匠特許の眼目は視覚的な外観であって機能性ではない。

 

 一部の国では、「機能性」はいまだに意匠特許を妨げる障害となりうる。いくつかの国の法律は、機能的な意匠に保護を与えていない。その背後にある政策は、技術的な製品もしくは方法に対する特許権を保護するために知的財産制度が弱体化するリスクを避けようというものである。タイ国においては、特許法は機能的意匠の保護について明言していない。しかしながら、タイの裁判所は機能的な製品の意匠に対する登録を否定しようと務めてきた。

 

2-1.意匠保護に関するタイ国の法

 

 タイ国特許法第56条は意匠登録に関して、意匠が登録の要件を満たすためには新規で産業利用可能なものでなければならないと規定している。さらに同法の第58条は、公序良俗に反する意匠および勅令により定められた意匠を含む一定の意匠については登録適格性から排除している。興味深いことに機能的意匠はこの適格性の規定の中で言及されていないことを指摘しておく。制定法には保護を妨げる障害は存在しないにも関わらず、一部の裁判所の判決に示されているように、機能的な特徴を備えた意匠は保護を拒絶されることがありうる。

 

2-2.最高裁判所の判決(最高裁判例16702/2555号)

 

 この訴訟の原告となったタイ企業は、足全体と脚の下の部分を包むブーツを開発した。このブーツの上の方の部分には留め金具がついていた。留め金具はチューブ状の形状をなしており、この金具を紐で結んでベルトを取り付けるようになっていた。それにより、ブーツはベルトでしっかりと装着され、着用中ずっと所定の位置を保つようになっていた。このブーツの意匠の新規な特徴について、2000年に意匠保護が求められた。タイ国知的財産局(DIP)は、当該意匠は新規性に欠けており実質的に先行技術に類似しているとの理由で、上記意匠に関する意匠特許出願を拒絶した。原告はDIPの決定を不服として、中央知的財産・国際取引裁判所(IP&IT裁判所)に上訴し、さらに最高裁への上告を行った。

 

 「意匠」とは、「製品に特別の外観を与え、工業製品および手工芸品に対する型として役立つ線または色の形態または構成」を意味すると規定した特許法第3条における「特別の外観」の解釈を示すことにより、最高裁は、意匠登録による保護される主題は視覚的外観、すなわち意匠の装飾的側面であるとの判断を示した。意匠登録は、主題の「機能性」を保護しないという点で発明特許から区別される。ブーツの調節具、すなわち留め金具は機能的なものであり、意匠特許法が要求する装飾には該当しないため、最高裁は、当該発明の主題が新規性に欠けており、かつ当該意匠はその機能性によって意匠特許に不適格なものとなっているという理由で原告の申立を棄却したIP&IT裁判所の判決を支持した。

 

2-3.評価

 

 上述した法原則および判例は、タイ国内での意匠保護を求める企業に別個の法制度の理解を促すものとなろう。意匠登録は、識別性のある視覚効果を備えた意匠を保護するものであって、機能的な特徴を備えた意匠を保護するものではない。競業者が意匠の機能的な側面を模倣するのを阻止するために、意匠登録を利用することはできない。タイの現在の意匠保護制度がタイ産業界におけるイノベーションを推進する上で妥当なものであるか否かという疑問はある。工業意匠のより広範な側面について、もっと適切な保護を導入することもできよう。新たな制度は、単純な視覚的特徴にとどまらず、機能的にイノベーティブな意匠のあらゆる形態を保護するようなものにすべきである。

香港の意匠特許における機能性および視認性

 現行の香港登録意匠規則(第522章)(以下、「意匠規則」)の第2条に基づき、登録意匠は、あらゆる工業的方法により物品に応用される形状、形態、模様または装飾の特徴であって、完成品において視覚に訴え、視覚により判断されるものを保護する。意匠規則の第5条に従い、登録意匠として登録可能な新規の意匠は、あらゆる物品または組物に関して登録することができる。

 

 意匠規則の第2条は、構造の方法または原理、および下記のいずれかに該当する物品の形状または形態の特徴を明示的に排除している。

・当該物品が果たさなければならない機能によってのみ決定づけられるもの。

・創作者の意図により当該物品が不可欠な部分を構成する、別の物品の外観に依存するもの。

 

 現行の意匠規則は、廃止された英国登録意匠法(1949年)と概ね似通っている。したがって、機能性および視覚に訴える審美性に関して、古い英国の基準が依然として香港において適用されている。

 

機能性

 

 上記に述べた第2条に従い、意匠は物品の機能性や作用については保護しない。ただし、物品が機能する方法に対する保護は、特許規則に基づいて取得することができる。

 

 創作者が機能的要件のみを考慮して物品をデザインした場合、たとえ生み出された完成品が見た目に快いものであったり、当該物品の所期の使用目的への適合性に関してエンジニアの心を引きつける外観を有していたりしたとしても、その意匠の特徴は、当該物品が果たさなければならない機能によってのみ決定づけられているとみなされるだろう。

 

 それにもかかわらず、英国の枢密院は、LEGOブロックの意匠が少なくとも部分的に心を引きつける審美性を備えて進化してきたことを承認した。LEGOブロックは玩具であり、玩具の機能は視覚に訴えることであるという理由で、LEGOブロックの外観は他のブロックとの連結機能によってのみ決定づけられていないと認定されたのである。

 

視認性

 

 意匠規則の第2条に示された意匠の定義では、意匠は当該物品を購入する需要者に影響を及ぼす視認可能な要素を有していなければならないことが示唆されている。したがって、物品の通常の使用時に使用者が見ることのできない、もしくは小さすぎて人間の目には見えない内部構造といった物品の美的要素、または需要者が物品を購入する際の意思決定においてほとんど考慮されない物品の美的要素は、現行の意匠規則に定義された意匠の範囲には含まれないだろう。

 

 一方、意匠の美的特徴は、販売時点において視認可能である必要はないが、当該物品の通常の使用時、または意図された方法による使用時には、視認可能でなければならない。K K Suwa Seikosha’s Design Application事件において、購入時点には視認できなかった時計内部の液体表示の意匠は、登録可能と判示された。Ferrero S.p.A’s Application事件において、彩色されたチョコレートのリングからなるイースターエッグ内部の意匠は、イースターエッグが消費される時点まで美的特徴を見ることはできないものの、登録可能と判示された。

 

法規と実務

 

 現行の法規および実務に基づき、意匠出願の実体審査は行われない。意匠登録所は、出願された意匠の特徴が新規かどうか、かかる特徴が機能的なものにすぎないかどうか、またはかかる特徴が視認可能かどうかについて判断するために、先行意匠を調査することはない。意匠登録出願が方式要件を満たしている限り、登録が認められることになる。意匠規則の第45条は、登録の時点で新規ではなかった、または他の理由で登録可能ではなかった登録意匠の取消について規定している。

 

 香港高等法院はElster Metering Ltd v. Billions Ltd事件において、意匠規則第2条の意匠の定義が満たされていないこと、さらに当該意匠における新規性の欠如を理由に、二つの意匠の登録を取り消した。そのうちの一つの意匠は、水量計の内部測定室の構成部品に関するものであった。高等法院は、この構成部品の意匠は当該部品が果たす機能によってのみ決定づけられていること、さらに当該部品は外から見ることができず、当該水量計を購入するかどうかの意思決定に影響を及ぼすほどの視覚的魅力がないという理由で、当該意匠の登録を取り消した。この意匠は、原告の水量計の対応する構成部品とほぼ同じに見えたため、新規性の欠如も判示された。

 

結論

 

 登録意匠出願の実体審査が行われないため、香港意匠登録簿には、新規性または審美性に関する基準を満たしていない登録意匠が含まれている可能性がある。それゆえ、ある製品を発売する際に、その製品に競合する登録意匠が登録簿に登録されている場合には、取消訴訟の提起を視野に入れて、競合する登録意匠の実体的争点に関する脆弱性を精査することは有益である。

韓国におけるデザイン登録における機能性および視認性

1. 機能性(Functionality)

 

韓国デザイン保護法(2016.1.27. 法律第13840号によって改正されたもの)第34条第4号において、「物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなったデザイン」はデザイン登録を受けることができないと規定されている。デザインは、物品形態の美感を保護するためのもので、美感と関係がない「機能的な形状」は、特許法および実用新案法の保護対象とすることが妥当であるからである。

 

韓国特許庁のデザイン審査基準では、同法第34条第4号を適用するにあたり、(1)物品の技術的機能を確保するために必然的に定められた形状(必然的形状)からなったデザインは、模様・色彩またはこれらの結合の有無に関わらずこれを適用するべきであるが、(a)その機能を確保できる代替的な形状が存在するのか否か(即ち、代替できる形状が多数存在すれば、機能性のみではないものと見ることができる)および(b)必然的な形状のほかに考慮すべき形状を含むのか否かを考慮して判断しなければならないと規定している。

 

また、(2)物品の互換性などを確保するために標準化された規格で定められた形状(準必然的形状)からなったデザインも、上記で言及された必然的形状に準じて取り扱うと規定しているが、但し、規格を定めた主目的が機能の発揮にない物品((例)規格封筒、USB規格ポートなど)に対しては適用していない。ここで、「標準化された規格」とは、産業標準化法に基づく韓国産業標準(KS)、国際標準化機構のISO規格など法律と公的な標準化機関によって確定された「公的な標準規格」と、公的な規格ではないが、その規格が当該物品分野において業界標準として認知されており、当該標準規格に基づく製品がその物品の市場を事実上支配しているもので規格としての名称、番号などに応じて標準になっている形状、尺度などの詳細を特定することができる「事実上の標準規格」を言う。

 

したがって、本規定は、デザイン保護法の保護対象ではない技術的思想の創作に対する排他的独占権付与を防止し、物品の互換性を確保するためのデザインの実施を妨げて産業発展を阻害する恐れを防止しようとする規定であると言える。

 

いわゆる「物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなったデザイン」が韓国特許庁に出願された場合、審査過程で韓国デザイン保護法第34条第4号に該当するという拒絶理由で意見提出通知書が発付される。

 

「物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなったデザイン」であるか否かの判断は、出願されたデザインの全体形状がこれに該当する場合にのみ適用され、その判断時点は、登録可否の決定時を基準に判断する。

 

いわゆる「物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなったデザイン」が、審査過程で看過されて過誤登録された場合、デザイン保護法第121条第1項2号により、利害関係人または審査官はそのデザイン登録に対してデザイン保護法第34条第4号に違反したことを理由とする無効審判を請求することができる。

 

一方、当該デザインが一部審査の対象であれば、デザイン保護法第68条第1項2号により、誰でもデザイン一部審査登録公告日後3ヶ月になる日までそのデザイン一部審査登録がデザイン保護法第34条第4号に違反したことを理由に、特許庁長にデザイン一部審査登録異議申立てをすることができる。

 

一方、商標権の効力を制限する韓国商標法第90条第1項第5号とは異なり、物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなったデザイン権に対して、その効力を制限するデザイン保護法上の規定はない。したがって、物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなったデザイン権が有効に登録された以上、第三者の無断実施に対してデザイン権を行使することができる。

 

物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなったデザインであるか否かに関する判断基準を扱った大法院の判例を紹介する。

 

(i).[登録デザインの概要]

170627_4_28KR08-画像1

この事件の登録デザインの物品は、該当車種のフレームの寸法、形状、反り、厚さ、高さ、広さ、端部の形状などがそのまま複製されなければ接続が不可能であるので、ガラスの高さ、反り、厚さ、端部の形状は、すべて車体への接続という本質的機能を確保するために必然的に定められた形状であり、変更が可能な部分は、上記物品においてデザインとしての意味がない部分に局限されるので、この事件の登録デザインは、物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなったデザインで無効となるべきであると判断した。

 

本判決は、「物品の機能を確保するために不可欠な形状」の範囲に対して、需要者がその物品を見るとき、特定形状を当然にある部分として認識し、その形状に対して特別な審美感を感じない程度まで含まれなければならないことを示している。本判決を通じて、大法院がデザインの機能性判断において「唯一機能基準(solely functional standard)」を適用していることを確認できる。

 

(ii).[登録デザインの概要]

170627_4_28KR08-画像2

登録権者が第三者に対して、イ号図面の貨物トラック用積載箱支持具は、デザイン登録第237866号の権利範囲に属するという積極的権利範囲確認審判を請求し、被請求人は、その形状と模様が、ダンプトラックの積載箱と間隔を置いて回転軸を支持するための物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなっているので、その権利範囲が認められないと主張したが、大法院は「デザインの構成のうち物品の機能に関する部分であっても、その機能を確保できる選択可能な代替的な形状が存在する場合には、物品の機能を確保するために不可欠な形状であると言えない」と判示し、権利範囲が否定されないことを確認し、被請求人側の上告を棄却した。

 

本判決は、物品の機能を確保するために不可欠な形状の判断基準を明示的に確認したという意義がある。

 

2. 視認性(Visibility)

 

韓国デザイン保護法(2016.1.27. 法律第13840号によって改正されたもの)第2条第1号において、「デザイン」とは、物品(物品の部分および字体を含む)の形状・模様・色彩またはこれらを結合したものとして、視覚を通じて美感を起こさせるものと規定して、デザインの視認性に言及している。

 

韓国特許庁のデザイン審査基準では、デザインの成立要件のうちデザインの視認性に関して「視覚を通じて」とは、肉眼で識別できることを原則とし、次に該当するものはデザイン登録の対象にならないと規定している。

 

(1)視覚以外の感覚を主にして把握されること、

(2)粉状物または粒状物の一つの単位、

(3)外部から見ることができないところ(即ち、分解したり破壊したりしなければ見ることができないところ)。但し、蓋を開ける構造となっているものは、その内部もデザインの対象になる。

(4)拡大鏡などによって拡大しなければ物品の形状などが把握されないこと。

 

上記で例示された(4)に関連して、デザインに関する物品の取引において拡大鏡などによって物品の形状などを拡大して観察することが通常である場合には、視認性があるものと判断すると規定している。その例として下記のような場合を挙げている。

 

(例)視認性があるものと判断する場合

 

[デザインの説明]

材質は金属材および合成樹脂材である。

平面図で一辺の長さは0.4mmである。

 28KR08-3  28KR08-4
 [図1.1]  [図1.2]

 「発光ダイオード」

   上記で言及したデザイン保護法第2条で定義したデザインの視認性要件を備えていないデザインが韓国特許庁に出願された場合、工業上利用することができるデザインではないとみなされ、デザイン保護法第33条第1項本文に該当するという拒絶理由で意見提出通知書が発付される。

 

デザインの視認性要件を備えていないデザインが、審査過程で看過されて過誤登録された場合、デザイン保護法第121条第1項2号により、利害関係人または審査官はそのデザイン登録に対してデザイン保護法第33条第1項本文に違反したことを理由とする無効審判を請求することができる。

 

一方、当該デザインが一部審査の対象であれば、デザイン保護法第68条第1項2号によって、誰でもデザイン一部審査登録公告日後3ヶ月になる日までそのデザイン一部審査登録がデザイン保護法第33条第1項本文に違反したことを理由に、特許庁長にデザイン一部審査登録異議申立てをすることができる。

 

デザインの視認性要件を扱った大法院の判例を紹介する。

 

(i).[登録デザインの概要]

170627_4_28KR08-画像3

当該物品「照明器具用枠」は、器具の中に満たされた空気が何らかの原因で少し抜け出た場合でも、器具の外皮の形状と模様を枠によってある程度維持するための物品として、原審決では「照明器具用枠」が外皮で覆われているので、外部から枠全体の姿を見ることはできないが、枠を組み立てた後外皮が覆われる前には枠全体の姿を見ることができ、器具を分解したり破壊しなくても、器具を修理するために外皮の一部をさらけ出したり、広告の内容を変更するために外皮を交換する場合には、その枠の形状を見ることができるので、視認性が認められると判断した。

 

しかし、大法院で、この事件の登録デザインの物品(照明器具用枠)は相当に大型であるので、組立・設置された状態で取引、運搬されるものではなく、部品別に分解された状態で取引、運搬されることが一般的であるので、取引時や運搬時または設置時にも登録された形状と模様が外部に現れると認められず、広告の内容などを変更するために外皮を交換する場合を想定してみても、外皮を除去すると、一時的にデザインの形状と模様が現れるだろうが、直ちにデザイン物品である枠自体を分解し、新しい外皮を設置した後、その新しい外皮の中に入って枠を再組立することになるはずであることから、この事件の登録デザイン物品である枠は、それ自体の完成された形状と模様が取引者や一般の需要者に露出して審美感をかもし出せる場合はほとんどないはずあり、さらに、完成品である器具の外皮を除去ないし損なわない限り、その模様と形状を外部から容易に把握・識別することができないので、デザイン登録の対象にならないと原判決を覆した。

 

一方、韓国で極微小な物品のデザインを正面から扱った判例はまだない。但し、上述したように、韓国特許庁のデザイン審査基準で肉眼で識別できない極微小なデザインであっても、そのデザインに関する物品の取引において拡大鏡などによって物品の形状などを拡大して観察することが通常である場合には、視認性があると判断する。

 

また、韓国特許庁のデザイン審査基準でデザインの類否を判断するにあたり、類否は、全体的に観察して総合的に判断すると規定しながら、「観察」は、肉眼で比較して観察することを原則とするが、デザインに関する物品の取引において物品の形状などを拡大して観察することが通常である場合には、拡大鏡、顕微鏡などを使用して観察することができるとして、極微小なデザインの類否判断に対する基準を提示している。