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台湾における特許無効手続に関する統計

1. 無効審判

 台湾特許法第71条第1項の規定により、何人も当該条項に挙げられた新規性欠如や進歩性欠如などのいずれかの理由に基づき、登録された特許権、実用新案権または意匠権に対する無効審判を台湾経済部智慧財産局(TIPO)に請求することができる。無効審判は、特許権者が侵害を申し立てた特許権を無効にするために、被疑侵害者が利用する一般的な防御手段である。台湾の法律に基づき、被疑侵害者は、民事裁判所が管轄する侵害訴訟において無効抗弁を主張する、または前記の主張に加え台湾経済部智慧財産局に無効審判を請求することができる。民事裁判所は特許有効性について独自に判断を下すことができるが、この有効性に関する判決は訴訟当事者の間でしか法的拘束力をもたない。被疑侵害者(即ち、侵害訴訟の被告)が当該特許を最終的に無効にしたいのであれば、無効審判により事件を台湾経済部智慧財産局に付託しなければならない。

 

 台湾特許法に従い、無効審判請求人は特許の特定のクレームについて無効を請求でき、その場合、台湾経済部智慧財産局は請求人により指定された各クレームについて審決を下さなければならない。審理手続は主として双方当事者の提出した書面および証拠に基づいて行われるが、いずれの当事者も口頭で意見を述べるために審査官との面談を申請できる。かかる面談は通常、両当事者間で行われるため、特許権者および無効審判請求人の双方がその場で審査官に対して説明し、審査官の疑問に答えることができる。審査官は面談後、双方の当事者による補足の書面の提出を認めるのが一般的である。無効審判に要する平均期間についての公式の統計データはないが、通常、台湾経済部智慧財産局が審決を下すのに約1‐2年を要する。

 

2. 無効審判の審決に対する救済

 台湾経済部智慧財産局が下した無効審判に係る審決を不服とする当事者(特許権者または無効審判請求人)は、行政上の救済手続を提起することができる。このような救済手続として、台湾経済部智慧財産局の政府監督機関である経済部(Ministry of Economic Affairs)により処理される行政不服申立に加え、知的財産裁判所(Intellectual Property Court)が第一審を処理し、最高裁判所(Supreme Administrative Court)が第二審を処理する行政訴訟が挙げられる。台湾の行政上の救済メカニズムは非常に独特であり、この救済手続の被申立人は政府機関であって、無効審判の対立当事者ではない。つまり、特許が台湾経済部智慧財産局により無効にされ、特許権者が経済部に行政不服申立を提出した場合、被申立人として記載されるのは無効審判請求人ではなく台湾経済部智慧財産局となる。同様に、特許権者が行政不服申立で負け、知的財産裁判所に行政訴訟を提起した場合、被告は台湾経済部智慧財産局であって、無効審判請求人ではない。上記の場合、対立当事者である無効審判請求人が、いつ当該救済手続に参加するかについては、行政不服申立と行政訴訟とで異なる。

 

 行政不服審査法に従い、経済部は通常、申立人(例えば、特許権者)と被申立人(台湾経済部智慧財産局)との間で手続を遂行する。必要とみなされる場合に限り、対立当事者(例えば、無効審判請求人)は「参加人」として当該手続に参加するよう要求される。経済部が台湾経済部智慧財産局の原審決を破棄すべきという結論を出す場合、経済部は対立当事者に対し、この不服申立手続の参加人として行動するよう求めなければならない。行政訴訟の場合、知的財産裁判所は原告の訴状を受領後常に、対立当事者に対し、参加人として行動するよう命じる。参加人は、被告の立場に拘束されることなく、自己の主張および証拠を独自に提出することができる。

 

 経済部はかかる不服申立事件において、5‐6か月以内に結論を出すのが一般的である。原則として、経済部は書面によってのみ事件を審理するが、一部の複雑な事件では口頭審理を開くこともでき、その場合は両当事者が自己の主張を述べ、経済部担当官の疑問に直接答える。

 

 先述したように、経済部の裁決を不服とする当事者(特許権者または無効審判請求人)は、知的財産裁判所に行政訴訟を提起することができる。知的財産裁判所は、両当事者が争点について議論するための口頭審理を開き、必要な精査を行った上で、終局判決を下す。知的財産裁判所が判決を下した後、その結果を不服とする当事者は最高裁判所に上訴することができる。最高裁判所は第一審判決の正当性のみを判断し、事実問題については精査しない。所要期間については、知的財産裁判所による行政訴訟の第一審手続に約8‐10か月、さらに最高裁判所による第二審に1‐1.5年を要する。

 

3. 統計データ

 無効審判の統計データに関して、台湾経済部智慧財産局は公式ウェブサイトにおいて、2005年から2017年までの年間統計報告、月間統計報告および四半期統計報告を公表している。例えば、2016年の年次報告には、無効審判に関する以下の情報が含まれている。

 

(1) 2007年から2016年までの無効審判請求の件数に関する統計データ(合計8,168件のうち、特許権1,691件、実用新案権5,956件、意匠権521件)。

 

(2) 2007年から2016年までの無効審判の審決の件数に関する統計データ(合計9,298件の審決のうち、維持審決4,554件、一部維持審決448件、および無効審決4,296件)。ただし、請求が取下げ、棄却または却下された事件は含まれていない。注意すべき点として、台湾経済部智慧財産局は2013年1月1日以降、無効審判においてクレームごとに処理するシステムを採用している。「維持審決」とは、無効を請求されたすべてのクレームが維持されることを意味し、「一部維持審決」とは、無効を請求されたクレームの一部が維持されるが、残りのクレームは否認または拒絶されることを意味し、「否認審決」とは、無効を請求されたすべてのクレームが否認または拒絶されることを意味する。

 

 台湾経済部智慧財産局は年間統計報告において、特許行政不服申立の件数、知的財産裁判所により処理された特許行政訴訟、居住者および非居住者による特許出願、居住者および非居住者による特許権の登録、国籍別の特許出願などに関する情報も公表している。このような統計データには、無効審判に限らず、特許出願を含む、台湾経済部智慧財産局により処理されたすべての事件が含まれている。ただし、台湾経済部智慧財産局からは、司法審理に付託された、または上級裁判所に上訴された無効審判手続の件数および比率のデータ、無効審判請求人および特許権者の国籍に関する統計データは公表されていない。

 

 経済部の訴願審議委員会により、中国語のみによる公式ウェブサイトにおいて、受理された事件の種類およびその裁決の比率に関する一部の統計データが公表されている。経済部の統計報告は、2007年から2016年までの無効審判の審決に係る行政不服申立(特許権者または無効審判請求人により提起された申立)の合計件数が3,167件であり、台湾経済部智慧財産局の原審決が棄却された平均比率が7.24%であることを示している。

 

 無効手続に関する行政訴訟の統計情報については、司法院(台湾の最高司法機関)により、特許権、商標権、著作権など大まかにグループ分けしたデータのみが提供されている。かかるデータから分かるのは、2008年から2017年8月までに知的財産裁判所に提起された特許行政訴訟の合計が1,172件であり、2007年から2016年までに最高裁判所に提起された特許行政訴訟の合計が835件ということだけである。かかる件数には、特許無効訴訟だけでなく、他の特許行政訴訟(特許出願、生物学的試料の寄託申請または特許優先権主張の申請)も含まれている。無効手続の特許行政訴訟に関する統計データは、一般に公開されていない。