南アフリカにおける特許出願の補正の制限
【詳細】
1.関連条項
南アフリカ特許出願において、特許明細書の補正(amendment)および訂正(correction)は、特許の存続期間中いつでも自発的に行うことができる。南アフリカ特許法(以下、「特許法」)の第50条および第51条は、係属中の出願または付与後の特許に対して可能な補正および訂正(以下、広義の意味で「補正」として取り扱う)について規定している。
1-1.南アフリカ特許法第50条(1)項
特許法第50条(1)項(a)は、あらゆる出願書類における誤記は、出願係属中または特許付与後に訂正可能なことを規定している。裁判所の判断では、記載または複写する際に、故意ではなく不注意により生じた誤りは、誤記であるとしている。
特許法第50条(1)項(b)は、特許法に明確な規定のないあらゆる文書の補正について定めている。この条項では、例えば出願の提出時に省かれてしまった発明者の名前、南アフリカ出願時には入手できなかった二番目もしくはそれ以降の優先権基礎出願の詳細情報が含まれており、補正によって追加することができる。
1-2.南アフリカ特許法第51条
特許法第51条は、特許出願の係属中および特許付与後の双方における、特許明細書の補正、または誤記以外の誤りの訂正(広義の補正)について規定している。出願係属中、明細書およびクレームは、下記を条件として、補正することができる。
(a)新規事項を追加するものではないこと。
(b)補正後の各クレームが、補正前の明細書に含まれていた事項に適正に基づいていること。
特許が付与された後の明細書およびクレームは、上記(a)および(b)に加え、下記(c)が満たされることを条件として、補正することができる。
(c)補正後の各クレームが、補正前の明細書に含まれていたクレームの範囲内に完全に含まれていること。
また、付与された特許に対する補正の申請は公告され、その後二ヶ月間が異議申立期間となる。一方、出願係属中の補正申請については公告されることはない。
2.新規事項の追加
補正を通して新規事項を追加することはできないが、特許法第51条(8)項は、出願当初の明細書に記載された事項と適正に関連づけられる新規事項は、その出願係属中であれば、補足開示(出願時の明細書およびクレームを補足するために、発明の更なる説明を加えた書面)により提出することができると規定している。なお、特許の付与後は、補足開示を提出することはできない。補足開示にのみ記載される事項については、その新規性判断の基準日は当該補足開示の提出日として取り扱われる。すなわち、あるクレームの根拠となる記載が、補足開示にしかない場合、そのクレームの新規性は、補足開示の提出日を基準として判断されることとなる。
3.補正の手続
特許法第51条の要件として、補正、または誤記以外の誤りの訂正の申請は、その補正または訂正の「十分な理由」を明記しなければならない。最高裁判所の最近の判決によれば、第三者および登録官に、その補正または訂正の理由が明らかになるように、補正の申請において十分な情報を提示しなければならない。
特許明細書の補正の申請には、下記(1)~(3)がなければならない。
(1)特許代理人により署名され、補正の十分な理由が明記された所定の申請書式。
(2)明細書のうち補正を要求するページのコピーであって、必要な補正を赤で示したコピー。
(3)補正が組み込まれた、補正ページの清書または再入力された写し。
4.無効なクレームを含む特許の扱い
南アフリカ特許のいずれかのクレームに無効理由が含まれる場合、その無効理由を含むクレームを補正して無効理由が解消されるまでは、その特許権全体を無効かつ権利行使不可と取り扱われる。特許権者が補正を行う場合でも、特許法第51条(10)項に基づき、提出された補正が、特許法第51条の規定に反する明細書の補正にあたると特許庁長官が判断する場合、その補正を無効とすることができる。したがって、このような場合、特許権者は、補正が適法に受け入れられるまで無効とされる可能性のある特許を有することになる。明細書の補正がなされた場合、その補正の結果、新たに侵害と認められる行為が生じた際には、特許庁長官は自己の裁量で、補正が行われる前の当該行為に関して損害賠償の認定を拒否することができる。さらに、その裁量による判断を下すにあたり、明細書の作成過程とこれまで補正がなされなかったことに関して特許権者の対応が適切であったか否かを考慮ことができる。
5.自発補正のすすめ
南アフリカの特許出願制度には、特許庁による先行例調査、実体審査、付与前異議申立はない。したがって方式審査で要件が満たされると、その特許出願はその時点で南アフリカ特許庁に係属している明細書およびクレームの通り自動的に特許付与段階へ進むことになる。それゆえ南アフリカにおける特許出願人は、他の審査主義国において、対応する出願の手続中に知った先行技術を考慮して、南アフリカ出願の明細書またはクレームを補正する必要がある。
特許存続期間中のあらゆる時点で、第三者は新規性の欠如および自明性を含む様々な理由により、特許の取消を特許庁長官に請求することができる。これに関して、南アフリカ特許法は英国特許法およびヨーロッパ特許法と同様、公知(文献公知を含む)、公用の事実に基づく新規性の喪失の基準として、特に南アフリカ国内外を問わないとする絶対新規性要件を採用している。それゆえ出願人が他の審査主義国において、対応する出願をしており、引用された先行技術による新規性欠如の結果として当該外国出願のクレーム補正が必要になった場合には、かかる新規性欠如を避けるために南アフリカ出願のクレームも補正する必要がある。南アフリカにおける新規性要件を満たすには、発明は当該発明の優先日前の時点における技術水準の一部を構成するか否かで判断され、新規性を判断する目的上、このような技術水準としては、当該発明の優先日の時点で未公開の南アフリカ出願に開示される事項も含まれる。
したがって、ある出願が、特許性を備えた1つ以上のクレームを含む一方、他のクレームは無効になる可能性がある場合には、これらのクレームの削除や補正(可能な場合)、または分割出願を提出することが望ましい。分割出願は、親出願の特許査定より以前に提出しなければならない。南アフリカ出願では通常、方式要件が満たされている場合、出願からおよそ9~12か月ほどで特許査定がおりる。
6.まとめ
南アフリカ特許出願において、自発的補正は、係属中の特許出願または付与された特許に対して行うことができるが、特許の付与後に行われる補正には、より厳しい制限が課せられる。
南アフリカ特許において、一つの無効クレームはその特許全体を無効にし、補正によって無効理由が解消されるまで権利行使できない。
第三者は特許存続期間中のあらゆる時点で、特許の取消を特許庁長官に請求することができる。
南アフリカでは、先行技術調査、実体審査、ならびに付与前異議申立制度はない。したがって方式審査を通過すると、その特許出願は特許査定がおりる。
【留意事項】
南アフリカ特許は特許の存続期間中いつでも補正できるものの、付与後補正は付与前補正より厳しい制限が課せられるので、瑕疵により特許が無効とされないために、また、既に認識している関連先行技術を回避して特許性を担保するため、特許付与前に補正することが望ましい。
マダガスカルにおける知的財産保護の現状
【詳細】
マダガスカルにおける知的財産権の取扱いについては、主に以下の法律に規定されている。
(1)産業財産保護に関する1989年7月31日付の法律第89-019号 (Ordinance No.89-019 Establishing Arrangements for the Protection of Industrial Property in Madagascar、以下、「産業財産権法」という)。この法律は、特許、商標、意匠、商号の保護、および不正競争について規定するものである。
(2)文学的および芸術的財産権に関する1995年9月18日付の法律第94-036号(Law No. 94-036 on Literary and Artistic Property、以下、「著作権法」という)。この法律は著作権を規定するものである。
また、マダガスカルは、以下に挙げる知的財産権に関する国際条約に加盟している。
(a)特許協力条約(1978年1月24日)
(b)工業所有権の保護に関するパリ条約(1963年12月21日)
(c)世界知的所有権機関(WIPO)(1989年12月22日)
(d)標章の国際登録に関するマドリッド協定議定書(2008年4月28日)
(e)世界貿易機関(WTO)-知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)(1995年1月1日)
1.特許
マダガスカルへの外国からの出願についてはパリルートおよびPCTルートによるマダガスカルへの国内移行が可能である。過去に出願された特許出願(原出願)に係る改良発明の特許出願を認める追加特許制度を備えている。また、発明者証に関する規定も設けられている。
産業財産権法には、特許を受けることができない発明が規定されている。公序良俗に反する発明の他、ソフトウェア、医薬品、動物、化粧品、食品の発明は特許を受けることができない。
さらに、出願時の絶対的新規性(出願日以前に国内外で公衆の知るところとなった技術に該当しないことを新規性の要件とし、国内および外国で公知、公用となった場合に新規性がないとすること)が求められる。ただし、出願日または優先権主張日の6ヶ月前以内に、国際博覧会等への展示を通じて発明が公表された場合に、新規性喪失の例外適用を受けることができる旨の規定も設けられている。
マダガスカルでは、特許の存続期間は出願日から15年間である。この期間は、特許権者が申請することにより、さらに5年間延長することができる。追加特許は、原出願の登録特許(原特許)とともに失効する。特許年金については、出願日から2年目以降毎年支払うものとされている。
マダガスカルにおける2014年の特許出願件数は24件であり、そのうち4件がマダガスカル人(内国人)による出願、20件が外国人による出願である。
2.意匠
マダガスカルでは、線もしくは色彩からなる構成、または線もしくは色彩との組み合わせの有無に関わらず、立体的意匠の外観形状も、意匠登録の対象になり得る。構成または形状は、工業製品または手工芸品に特別の外観を与えるものでなければならない。
新規性については、明確かつ認識可能な形状であって、または独自な視覚的効果をもたらす、1つまたはそれ以上の装飾的特徴により、他の類似する意匠とは異なる意匠にのみ、意匠保護が与えられる。意匠は、先行意匠と比較して実質的に重要ではない特徴だけが相違しているという理由だけでは新規性要件は満たされない、または出願意匠とは異なる物品に適用されるというだけでも新規性要件は満たされない。意匠の新規な要素が、機能的・技術的効果を生み出すために必須な形状である場合、当該意匠は意匠保護を受けることができない。
出願日の6ヶ月前以内にマダガスカルにおいて販売または他の方法によって意匠を公開した場合、新規性は喪失されないものとする。また、意匠出願日または意匠の優先権主張日の6ヶ月前以内にマダガスカルまたはパリ条約同盟国における公認の博覧会で意匠を開示した場合も、創作者等がかかる博覧会に参加したことを証明する公認証明書の作成を条件として、新規性は喪失されない。
一意匠一出願が原則であり、意匠出願に対する実体審査が行われる。意匠登録は、出願日から5年間有効であり、所定の手数料を支払うことによりさらに2回にわたって5年間の更新が可能である(最長15年)。
マダガスカルにおける2014年の意匠出願件数は207件である。
3.商標
商標にはラベル、色彩、デザイン、図、スローガンが含まれると産業財産権法に規定されている。商標が登録されるためには、他社の商品またはサービスと識別されなければならず、使用により獲得される識別力も考慮される。
サービスマークおよび連合商標の登録に関する規定はあるが、防護標章および連続(シリーズ)商標に関する規定はない。国際商標登録もマダガスカルを指定することが出来る。存続期間は出願から10年間で、不使用取消の除斥期間は登録から3年である。
商標出願は、登録可能性と先願の両面から審査される。先願については、登録局は同一または類似一の先願商標がある場合にのみ拒絶する。出願が先願商標権を理由に拒絶された場合、その拒絶判断が最終判断であり、登録局に対して不服を申立てることができない。登録局の拒絶理由が不当と考えられる場合、商標出願人は、控訴裁判所に決定の不服について訴訟を提起することができる。
第三者が同一または類似の商標を既に登録している場合、商標登録を取り消すためには、取消訴訟を提起することができる。
なお、マダガスカルの商標制度において、商標出願に対する異議申立の規定がない。
商標権者が侵害訴訟を提起する権利は、登録が認められた商品またはサービスだけに留まらず、商標の希釈化に対しても認められる。産業財産権法は、許諾を受けていない商標の使用が「正当な事由を欠き」、「商標権者の利益を害するおそれがある」状況について定めている。
また、商号および不正競争についても規定しており、「工業、商業、手工芸、農業に関して誠実な慣行に反する如何なる行為」も違法と定めている。
2014年の国内商標出願は約1,100件であり、そのうち約800件はマダガスカル人、300件は外国人によるものであった。また、同年の国際商標登録の出願においてマダガスカルが指定された件数は約900件である。
4.著作権
著作権法により保護される著作権は文学的および芸術的作品だけに留まらず、たとえば音楽作品、映画フィルム、三次元創作物、ソフトウェア、データベース、フォークロア(伝統的文化表現)にも適用される。
著作件法は、著作権を譲渡した著作者に対しても著作人格権を与え、彼らが著作者の表示を求めること、そしてその作品の同一性を侵害された場合に異議を唱えることを認めている。
マダガスカルにおける著作権の存続期間は、通常、創作者の死亡日から起算して70年間である。