ベトナムにおける冒認意匠出願への異議申立による対応
【詳細】
ベトナムにおける意匠保護に関する現行法の下では、意匠出願は方式審査と実体審査の2段階を経て審査される。意匠出願は、第三者への告知と当該意匠の登録可能性に関する第三者からの意見公募を目的として、意匠公報によって公開される。審査官が特定の意匠の保護適格性を判断する際には、主として既存のデータシステムの情報を根拠にしており、審査官は実際の市場における意匠の利用状況について最新情報を常に得ることはできないし、意匠の利用実態を十分に認識することもできない。それゆえ、意匠を正確に評価するための有用な情報を得る機会を設けることが、出願意匠の公開の主要な役割である。
冒認意匠出願に対する異議申立は、期限内に行われなければならない。これは、悪意を抑制し、企業ならびに社会の利益を保護するための重要な解決策である。本稿では、冒認意匠出願を阻止するために、NOIPに異議申立を提出する際の手続きについて説明する。
(1)異議申立
ベトナム知的財産法第112条 意匠出願の登録付与に対する第三者意見
意匠出願が意匠公報に公開された日から、特許査定通知発行の日まで、いかなる第三者も、当該出願に関する登録証の付与に関して、NOIPに意見を提示する権利を有する。当該意見は、書面様式で提示し、かつ、資料を添付しなければならず、または立証に使用する情報の出所を明示しなければならない。
上記規定に基づき、何人も異議申立書を提出する権利を有する。なお、第三者がベトナム国民の場合には直接NOIPに対し前記の異議申立を行うことができるが、第三者が外国人の場合には、ベトナム国内の認可された工業所有権代理人を通じて異議申立を行う必要がある。
(2)異議申立期限
意匠出願は方式要件を満たすと公開され、異議申立期間に入る。以下の図は、異議申立の提出に関わる期間を時系列に示したものである。
(3)異議申立理由
〇法的根拠
意匠出願に対する異議申立の法的根拠は、知的財産法第65条、第66条、第67条に規定された保護要件、すなわち新規性、創作性、産業上の利用可能性である。
知的財産法第65条 意匠の新規性
意匠は、意匠登録出願の出願日前、または優先権主張日前に、ベトナム国内または国外において、使用によりまたは書面での説明その他何らかの形態により、既に開示されている他の意匠と著しく異なるときは、新規であるとみなす。
知的財産法第66条 意匠の創作性
意匠は、意匠登録出願の出願日前、または優先日前に、ベトナム国内または国外において、使用によりまたは書面もしくは口頭での説明その他何らかの形態の手段により、既に公然と開示された意匠に基づいて、それが当該技術の熟練者により容易に創作できないものであるときは、創作性を有するとみなす。
知的財産法第67条 意匠の産業上の利用可能性
意匠は、それが工業的または手工業的方法による、意匠を具体化した外観を有する製品を大量生産するための型(model)となる場合は、産業上の利用可能性があるとみなす。
第三者は異議申立に際して、上記の一ないし複数の根拠に依拠することができる。実務的には、新規性の欠如を理由とする異議申立が最も多い。異議申立をする第三者は、その根拠を裏付ける証拠を収集する必要がある。
〇判断基準
異議申立対象の特定
通常、異議申立において、意匠の新規性の判断にあたっては、出願意匠と異議証拠としての意匠の2つの意匠の差異を評価するが、その際に意匠の実質的な特徴と実質的でない特徴を比較しなければならない。現時点では、これら特徴を識別するための具体的な基準は存在しないため、審査官は主として主観に基づき、かつ、科学技術省・省令第01/2007/TT-BKHCN号第33条7項(c)に定められた以下の一般原則に基づいて判断を下している。
「意匠の実質的な特徴とは、ある意匠を特定し、当該意匠と同じ種類の製品に使用されている他の意匠とを区別するために、視認され、識別される意匠の特徴部分である。意匠の特徴であるが、上記条件を満たしていないものは、実質的でない特徴とみなされる。」
異議申立にかかる証拠
第三者は、異議申立の法的根拠を立証するために、あらゆる証拠を提供する必要がある。証拠としては、意匠を含む画像、情報源となる資料および当該資料の発行年月日等が含まれる。情報源としては、あらゆる国での登録意匠公報、公開公報並びにそれらに類する様々なものが考えられる。インターネットから得られたデータもまた意匠の開示に関する証拠と見なされる。多くの場合、出願人自身が自らのウェブサイトもしくはインターネット販売サイト等に意匠を開示している。インターネットアーカイブ(http://www.archive.org)等の検索ツールも、意匠の開示日を特定するために利用できる。
なお、意匠創作者の許可なく、意匠が開示された場合であっても、知的財産法第65条第4項の規定により、その意匠の新規性が欠如しているとはみなされない(新規性喪失の例外)、という点に留意しなければならない。
知的財産法第65条(4)
(4)意匠は、次の状況において公開されたときは、新規性を欠くとはみなさない。ただし、意匠登録出願が公開又は展示の日から6 月以内に行われることを条件とする。
(a)第86 条に規定する登録を受ける権利を有する者の許可なしに他人により公開された。
(b)第86 条に規定する登録を受ける権利を有する者により学術的発表の形態で公開された。
(c)第86 条に規定する登録を受ける権利を有する者によりベトナム国内博覧会又は公式若しくは公認の国際博覧会において展示された。
(4)異議申立書の要件
方式要件
・異議申立はベトナム語の書面にて作成されなければならない。電話、審査官との直接面談など非公式な情報交換は、正式な異議申立として記録されない。
・第三者が知的財産代理人を通じて異議申立を提出しようとする場合、委任状が必須とされる。
・NOIPがいつでも簡便に異議申立人と連絡をとれるようにするため、異議申立書には、氏名、電話番号、eメールもしくはそれに類する個人の連絡先(携帯電話番号等)が正確に記載されていなければならない。
・前記の第三者は所定の料金を支払わなければならない。
(5) 異議申立書作成における推奨事項
・前述した法的根拠および判断基準が首尾一貫して明瞭に記載されるべきである。
・異議申立の説得力を高めるため、評価ならびに推論を示すべきである。
・第三者は、提供された情報および提出された文書の正統性を保証し、それについて責任を負う必要がある。
(6)異議申立手続の流れ
なお異議申立て手続きの流れは、以下科学技術省・省令第第01/2007/TT-BKHCN号第6条に規定されている。
科学技術省・省令第第01/2007/TT-BKHCN号 第6条
保護証書付与決定以前の第三者の意見の処理
6.1 いかなる組織又は個人も、産業財産権登録申請書が産業財産官報に掲載された時から、保護証書を付与する決定を下すまでに、登録権、優先権、保護要件及び知的財産法の第112条に規定する産業財産権登録申請書関連のその他の諸問題についての意見を国家知的財産庁に文書で送付することができる。第三者意見書は、産業財産権登録申請書の処理過程における情報源とみなされる。
6.2 国家知的財産庁は、第三者の意見を文書で受けた時から1ヶ月以内に、出願人にその意見を通知し、かつ通知日から最大1ヶ月の期限を設定して、文書で応答するよう通知する。国家知的財産庁は、出願人の応答意見を受けた後に、必要に応じて第三者に対応意見を通知し、かつ通知日から1ヶ月の最大の期限を設定し、第三者に、文書で、その対応意見に応答するよう求める。国家知的財産庁は、各関係者により提供された証拠、論拠及び申請書の資料に基づき、出願人及び第三者の意見を処理する。
6.3 国家知的財産庁は、第三者の意見に根拠がないと判断する場合、出願人に対してはその意見を通知する必要はないが、第三者に対しては拒絶の理由を明確にして意見書の拒絶を通知する。
6.4 国家知的財産庁は、第三者の意見が登録権に関連し、第三者の意見に根拠があるか否かを判定できない場合、裁判所に提訴できるよう第三者に通知する。国家知的財産庁が通知書を発出した時から1ヶ月以内に、第三者が裁判所に提訴したことについて、国家知的財産庁に通知しない場合、国家知的財産庁は、第三者が意見を撤回したものと判断する。国家知的財産庁が上記の期限内に第三者から通知書を受けた場合、国家知的財産庁が申請書の処理を中止し、裁判所の紛争解決結果を待機する。裁判所の解決結果の受領後、申請書の処理がその結果に基づいて行われる。
6.5 国家知的財産庁は、必要に応じて、かつ両当事者の請求があれば、第三者と出願人との直接対話を組織し、異議のある問題を明確化する。
6.6 出願人が第三者の異議に応答する期間は、国家知的財産庁が関連の手続を行う期間に計上しないものとする。
ベトナムにおける商標異議申立(第三者意見)
【詳細】
ベトナムでは知的財産法第112条に基づき、商標出願が公開された日から登録査定の日までならいつでも、いかなる第三者も当該商標出願に対して異議を申し立てることができる。
第112条 保護証書付与に関する第三者意見
出願が公報に掲載された日から権利付与に関する決定の日(登録査定日)までは、いかなる第三者も、当該出願に関してベトナム知的財産庁(National Office of Intellectual Property of Vietnam : NOIP)に意見を提示する権利を有する。当該意見は、書面にて提示し、かつ、資料を添付しなければならず、または使用する証拠の出所を明示しなければならない。
○商標出願に対して異議申立できる者
国内外の個人および組織を含む「いかなる第三者」も、NOIPに異議を申し立てることができる。
○異議申立理由
異議申立は以下の事由のいずれかに基づき行われるものとする。
(a)出願人が登録を受ける権利を有しておらず、かかる権利を譲渡されてもいない
(b)出願された商標が保護要件を満たしていない
(c)出願人が悪意で出願した
○異議申立の対象となる商標出願
NOIPで係属中のすべての商標出願が異議申立の対象となる。係属中の出願とは、登録査定がまだ下されていない出願のことをいう。
○ 異議申立期限
異議申立は、商標出願が公報に掲載された日から、登録査定の日までの間いつでも行うことができる。
○ 異議申立事由を裏付ける証拠
異議申立事由を裏付ける証拠書類の一切をNOIPに提出することができる。
○異議申立手続の流れ
第三者による意見書は、商標出願の審査において情報源(参考情報)として見なされる。
NOIPは、第三者から異議申立を受領した日から1ヶ月以内に出願人に当該意見を通知し、出願人に対して1ヶ月以内の応答期間を与える。NOIPは、出願人から回答書を受領した後、必要と考える場合は、出願人からの回答を第三者に通知し、かかる第三者に対して、意見書(第2回意見書)を提出するための1ヶ月以内の応答期間を与える。NOIPは、両当事者が提出した証拠と主張、ならびに出願書類に含まれるデータに基づき、第三者と出願人の意見を精査する。
NOIPが第三者からの異議申立について根拠がないと判断する場合、かかる意見を出願人に通知する必要はない。ただし、当該第三者には異議申立の検討を拒絶すること、およびその理由を明確に通知しなければならない。
第三者からの意見が、登録を受ける権利に関する場合であって、当該意見に根拠があるか否かをNOIPが確認することができない場合、NOIPは、当該第三者に対して、裁判所に訴訟を提起して当該問題を解決するよう通知する。かかる通知から1ヶ月以内に、当該第三者が訴訟を提起した旨をNOIPに通知しない場合、当該第三者の意見は取り下げられたものと見なされる。当該第三者から訴訟を提起した旨の通知を受けた場合、NOIPは、裁判所による判決が下されるまで、当該出願にかかる手続きを一時停止する。裁判所が判決を下した後、当該判決に沿って当該出願に係る手続きが進められる。
NOIPが必要と判断し、両当事者からも要請があった場合には、第三者と出願人の両者による直接協議の場をNOIP立ち会いのもと開催し、その結果をもってNOIPが判断を下す。出願人が第三者の意見に回答するための期間は、NOIPが関連手続きを取るための所定期間には含まれない。
【留意事項】
商標登録証の発行後も、第三者は、先行する権利が存在する、登録所有者には登録出願の権限がなかった、もしくは登録は悪意で行われた等の理由に基づきNOIPに商標登録無効を申し立てることができる(無効審判)。