フィリピンにおける特許、実用新案および意匠の無効手続を管轄する組織並びに統計データ
1. 無効手続に関する管轄権を有する裁判所
フィリピン知的財産法(改正されたフィリピン共和国法第8293号)に基づき、フィリピン知的財産権局(Intellectual Property Office)は、法務局(Bureau of Legal Affairs)を通じて準司法的権限を有する。法務局は、無効手続などの当事者系事件について管轄権を有する。また、法務局は、商事裁判所とともに、特許権侵害事件について(Regular Commercial Courts)、競合管轄権を有する。特許権侵害事件において、被告は、対象特許の取消を求める反訴請求を行うことができる。
法務局は、フィリピン知的財産法に従い、特許、実用新案および工業意匠の取消について審理し決定を下すという機能を有するため、無効手続に関する第一審裁判所と考えられる。長官室(Office of the Director General)は、法務局が下したすべての決定について専属的上訴管轄権を有する。上訴管轄権を有する長官室の決定に対しては、裁判所規則に従い、控訴裁判所に控訴することができる。
地域事実審裁判所(Regional Trial Courts)は、無効手続に関して、法務局とともに競合管轄権を有する。地域事実審裁判所の判例に対しては、控訴裁判所に控訴することができる。
控訴裁判所は、最高裁判所または他の裁判所の専属的管轄権が及ばない範囲において、地域事実審裁判所、準司法的当局(フィリピン知的財産権局など)、審判廷、委員会または機関のその他すべての判例、決定、決議、命令または裁定について専属的上訴管轄権を有する。
フィリピン最高裁判所は、フィリピンにおける最上位の裁判所である。控訴裁判所の判例に対しては、最高裁判所に上告することができる。
2. 法務局における無効手続
法務局に提起された無効手続の根拠のほとんどが、先行技術の一部を構成すること、または先行開示を理由とした、特許発明、実用新案または工業意匠の新規性または進歩性の欠如である。
フィリピン知的財産権局のオンライン事件ライブラリーによると、過去10年において、法務局により決定が下された事件は50件を超える。これら事件のうち少なくとも25件が工業意匠登録の無効手続に関するものであり、そのうちの6件は認容され、14件は棄却されている。一方、残る事件は、当事者が和解したものである。
実用新案登録の無効手続に関する事件は、少なくとも18件あり、そのうちの4件は法務局により認容され、残る事件は、無効を認める十分な根拠がない、または争点に現実的な意味がなく学術的なものであるとして棄却されているか、請願人が無効手続を取下げている。
過去10年において、法務局により決定が下された特許発明関連の事件は10件のみであり、そのうちの6件は認容され、4件は棄却されている。
なお、特許取消を求める反訴請求を伴う特許権侵害事件に関する統計データは存在しない。
3. 長官室に上訴された特許発明関連事件
2007年から2017年にかけて、長官室は27件の上訴事件について決定を下し、そのうちの6件については認容している。すなわち、これらの6件について、長官室は、法務局の決定に誤りがあると認定し、法務局の決定を破棄した。残る21件の上訴事件について、長官室は、法務局の認定を支持、または争点に現実的な意味がなく学術的なものとなったことを理由として棄却した。
これら27件の事件のうち、3件は工業意匠登録に関する事件であり、いずれも長官室により棄却された。実用新案関連の事件は10件で、そのうちの5件は認容され、5件は棄却された。特許発明については16件の上訴事件があるが、認容されたのは1件のみであった。なお、16件の特許発明関連の事件のうち、3件の上訴事件が、取下げられた出願の回復請求に関するものであった。
これらのうち、「対象特許出願が、親出願と同じ出願日を与えられるべき継続出願であるか否か」という争点に関する上訴事件についての長官室の注目すべき決定を以下に引用する。
「上訴人が、その対象特許出願が親出願と同じ出願日を与えられるべきであると主張することは適切でない。この規定は、新規性および進歩性を有し、かつ産業上利用可能な、特許を受けることができる発明についてのみ適用される。上訴人の発明は、先行技術の一部を構成するものであるため、もはや新規性を有さない。」(PFIZER Research and Development対Director of the Bureau of Patent、上訴第01-2011-0004号、特許出願番号第1-2002-00753号、2013年10月24日)
4. 最高裁判所により判例が下された特許発明関連事件
他の法域とは異なり、最高裁判所まで至った特許発明関連事件はごくわずかしかない。実際、過去10年において、最高裁判所により判例が下された事件は10件に満たない。その中に、無効手続に関するものは1件もない。特許に関する事件はあるが、争点となったのは、発行された差止命令の適否と特許出願回復請求の拒絶に関する検討についてであった。
フィリピン民法の第8条は、法律または憲法を適用または解釈する司法決定は、フィリピンの法制度の一部を形成するものとする旨を定めている。ここでいう司法決定とは、最高裁判所により発布されたものである。過去10年において、最高裁判所は、「侵害されたと主張される特許が既に失効している場合、特許権侵害に基づき差止救済を発行することはできない。特許権者の排他的権利は、特許の存続期間中のみ存在するものである。特許が失効すると、特許権者は、その特許によりカバーされる製品を製造、使用および販売する排他的権利をもはや有さない。」という原則を定めている(Phil Pharmawealth, Inc.対Pfizer, Inc.およびPfizer (Phil.) Inc.、G.R.第167715号、2010年11月17日)。